ここでは、サービスにおいて科学技術が果たすべき役割を踏まえ、サービスについて検討する上で必要となるサービスの持つ多様性等について整理し、サービス科学・工学の推進に必要な施策について述べる。
サービス科学・工学の推進に当たっては、まず、サービスそのものが多様な特徴を有していることはもとより、サービス科学・工学が新たな取り組みであることから、それぞれのサービスの場面において、関係者のサービスに関する概念や、達成すべき目標についての認識に差異が生じる可能性があると考えられる。
このため、サービス科学・工学を推進するに当たっては、あらかじめサービスに関する以下のような事柄について認識しておく必要がある。
生産と消費が同時に起こる
蓄えることができない
見えない、触れられない
サービスの内容や満足感の質等が提供者と当事者との関係等に依存する。
サービスと満足感が生産・消費プロセスの間にも変わることがある 等
効率性及び効能性の観点で計測、可能な範囲で倫理性、洗練性でも評価
有効性の観点で計測 等
サービス科学・工学の実践に係る全体像を俯瞰し、次の方法により取り組む。
さらに、
ことも重要。
サービス科学・工学は、第3章第1項で述べたように、社会における課題に関する研究を推進し、社会に適用可能な成果を経済的・社会的価値として創出していくものである。
したがって、サービス科学・工学の推進に当たっては、社会の様々な課題について、サービスの視点から明確な目標設定を行った上で幅広く研究開発活動を実施する、また、具体的な取り組みを重ねながら、サービス科学・工学の全体像を明らかにしていく、さらに、成果を蓄積し、これらをもとにサービスイノベーションに資する共通基盤技術(注3)を創出するところまでを念頭に置いて施策を講じていくことが望まれる。
なお、個別企業によるサービスの向上に資することのみを目的とする研究開発は、国が推進すべき施策になじまないということに留意する必要がある。すなわち、具体的な課題を達成するのみならず、広く経済・社会における価値を創出することや、共通基盤技術を創出することで、経済・社会に貢献するよう推進していくことが重要である。
また、多様な分野の研究者等の参画の下、学際的な研究体制を整えることに留意する必要がある。
以下に、サービス科学・工学の推進に関して取り組みが求められる事項について述べる。
サービスは、未だ定まった概念や原理・原則、あるいは学術的な知の体系が未熟な分野である。そのため、まず、本章第1項で述べたようなサービスの性質や実践の方法などを踏まえつつ、基礎的な調査・研究を進める必要がある。この中では、サービスの視点で達成すべき社会における課題、課題に関する研究に必要な技術や方法論などの要素技術、研究を遂行する上で必要な人材等について抽出を行い、さらに、サービス科学・工学の推進に関する全体像を俯瞰し、整理する取り組みが求められる。
新しい取り組みであるサービス科学・工学の推進に当たっては、サービスが提供者と利用者の関係において成立するものであることを踏まえ、研究者のみならずサービスに係る多様な関係者が共通認識の下に協働していくことが重要である。
このため、ワークショップやシンポジウム等を通じ、多様な分野の研究者、企業、公共機関、NPOなどの社会の様々な関係者が、サービスの観点から社会における課題を明確化するとともに、サービス科学・工学としてどのような取り組みが可能であるかということ等について幅広く議論を行う。これらの取り組み等を通じ、サービス科学・工学についての共通認識を醸成するとともに、関係者が協働して活動するための人的ネットワークを社会に形成することが求められる。
サービス科学・工学は、従来の自然科学における方法とは異なった方法論も必要とするものであることから、必然的に新しい研究領域・研究手法の開拓を伴うものである。また、サービスを対象とする性格上、研究者、産業界等多様な関係者による密接な協働を不可欠とするなど、新しい取り組みに満ちたものである。さらに、高い社会的価値や科学的価値が期待されるものの、必ずしも経済的価値を伴わない取り組みもあり得ることから、国が先導して進めていくべきものである。
そこで、研究機関(大学等)、サービス提供者(企業、公共機関、NPO等)及びサービス利用者間の協働の下、社会における課題に対して、その達成に向けて必要な手法やモデルの開発等を行い、経済的・社会的価値の高いサービスを創出するための研究システムを構築していくことが求められる。
学際領域であるサービス科学・工学については、研究者同士が分野を越えて連携するとともに、研究者と産業界等関係者が協働し、情報や技術を共有しつつ研究を進めることが重要である。また、社会における課題を適切に抽出し、成果を社会に還元していくことがサービス科学・工学の推進において求められるものであることから、研究者同士の分野横断的なネットワーク機能を有し、かつ関係者に開かれた研究拠点が形成されることが望ましい。
したがって、個人レベルの研究ネットワークのみならず、中核となる機関をハブとしてネットワークを構築するようなNOE(Network of Excellence)(注4)型のものを形成することが適切と考えられる。
NOEを構成する各研究機関が拠点を形成しつつ、それぞれが相互に連携することにより、共通して基盤となる技術の研究を進めること等が可能となり、内在する問題の掘り起こしと解決、要素技術の発展・統合、成果の画期的応用といった、学際分野の相互作用を高める研究拠点網の形成が期待できる。
サービス科学・工学は新たな取り組みであり、現実問題としてこれを推進していくことができる人材は少ない。特に、サービスの方法論に熟知し、複数の分野の研究を理解できる研究人材は我が国には少ないのが現状である。
このため、研究の現場においてこのような人材育成を並行して行う必要があり、若手研究者のワークショップ等への積極的な参加や研究への積極的な登用、大学・大学院教育においてサービス科学・工学に関する講義を取り入れること等が求められる。
また、経験豊富な研究者がそれまで培ってきた知識や技術を生かし、サービス科学・工学に挑戦することにより、分野横断的な研究における分野間の架け橋となることが期待される。したがって、これまで既存の分野を研究してきた研究者等のサービス科学・工学に対する関心を高め、サービス科学・工学を実践するインセンティブを与え、また、そのような研究者が参画しやすい環境を整えることも重要である。
サービス科学・工学を推進する上で、以下のような人材が必要と考えられる。
サービス科学・工学において、サービスの現場のデータは研究材料として不可欠なものであり、それが容易にかつ大量に得られるほど研究の効率性が高まる。
また、こうした研究材料と併せて研究成果が共有データとして公開されることによって、それを利用する研究者やサービス提供者が増え、相乗的に研究が進展することが期待される。
したがって、サービス提供者が持つサービス科学・工学の推進に必要なデータが体系化され、研究者等がそのデータを容易に利用でき、さらに、研究成果がサービス提供者に還元されるためのデータベースのあり方をはじめ、データの利用と流通を促す仕組みを構築していくことが求められる。
なお、各種データの取り扱いに当たっては、個人情報保護の観点からの配慮が必要であることに留意する必要がある。