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第4章 サービス科学・工学の推進に向けて取り組むべき事項

 ここでは、サービスにおいて科学技術が果たすべき役割を踏まえ、サービスについて検討する上で必要となるサービスの持つ多様性等について整理し、サービス科学・工学の推進に必要な施策について述べる。

1.サービスの持つ多様性等についての認識

 サービス科学・工学の推進に当たっては、まず、サービスそのものが多様な特徴を有していることはもとより、サービス科学・工学が新たな取り組みであることから、それぞれのサービスの場面において、関係者のサービスに関する概念や、達成すべき目標についての認識に差異が生じる可能性があると考えられる。

 このため、サービス科学・工学を推進するに当たっては、あらかじめサービスに関する以下のような事柄について認識しておく必要がある。

(1)サービスの種類

  • 誰に対しても同じサービスを提供する「ユニバーサリティ」と個別にサービスを設計する「ホスピタリティ」
  • 国内外を問わず広く展開する「グローバリティ」と地域に根ざす「ローカリティ」
  • 国際的に展開する「インターナショナルサービス」と国内を相手にする「ナショナルサービス」
  • 最上級のサービスを設計する「プレミアムサービス」と一般化した「コモディティサービス」 等

(2)サービスの性質

○同時性

生産と消費が同時に起こる

○消滅性(非蓄積性)

蓄えることができない

○無形性

見えない、触れられない

○状況依存性

サービスの内容や満足感の質等が提供者と当事者との関係等に依存する。

○変動性

サービスと満足感が生産・消費プロセスの間にも変わることがある 等

(3)サービスイノベーションの種類と社会における役割

○サービスのプロセスイノベーション

  • サービス利用者の満足度を高める(サービスの高度化)
  • サービス提供者のサービス提供コストを引き下げる(サービスの効率化)
  • サービスを今まで対象としていなかった事柄に適用したり、新たな領域に行き渡らせる(サービスの広範囲化)

○サービスのプロダクトイノベーション

  • 画期的な新しいサービスを創出する(新規サービスの創出)

(4)サービスの価値(注1)の基準(評価の基準)

○サービス提供者側が享受する利得

効率性及び効能性の観点で計測、可能な範囲で倫理性、洗練性でも評価

○サービス利用者側が抱く満足

有効性の観点で計測 等

  • (注1) サービスの評価は、個別利用者にとって価値があるか否かによって決定されるため、サービスの結果(アウトプット)が利用者に価値として評価されない場合においては、必ずしもその結果と成果(アウトカム)が対応しない、あるいは個別と全体の評価が異なる等、評価自体が困難であることにも留意が必要である。そのため、満足度の指標(特に満足度の定量化及び定性的記述の方法)は重要な研究対象となる。

(5)サービス科学・工学実践の方法

 サービス科学・工学の実践に係る全体像を俯瞰し、次の方法により取り組む。

  • 社会において取り組むべき具体的な課題を明確に特定した上で、それらを達成するために必要な手法や方法論、あるいは数学モデル等のモデルや定性的なサービスのモデル等を、要素技術(注2)の抽出、発展、創出、さらには摺り合わせ・組合せ等によって最適統合化を進め、開発する
  • 幅広いサービスに関して共通して必要となると考えられる要素技術の抽出、発展、創出さらには共通化を行う
  • 上記両者を統合的に進める方法もあり、そのために必要なサービスに関する俯瞰的整理を行うことも重要である

 さらに、

  • サービス科学・工学について幅広く研究活動を実施し、具体的な取り組みを重ねることにより、サービス科学・工学の全体像を明らかする

ことも重要。

  • (注2) 要素技術としては、数学及び数学関連分野の諸理論を始めとして、心理学、社会学等の人文・社会科学に関するもの、情報技術等の各種技術、サービスの構成要素の機能化・標準化手法等の方法論等を広く対象とすることが適切であると考えられる。

2.サービス科学・工学の推進に必要な施策

 サービス科学・工学は、第3章第1項で述べたように、社会における課題に関する研究を推進し、社会に適用可能な成果を経済的・社会的価値として創出していくものである。
 したがって、サービス科学・工学の推進に当たっては、社会の様々な課題について、サービスの視点から明確な目標設定を行った上で幅広く研究開発活動を実施する、また、具体的な取り組みを重ねながら、サービス科学・工学の全体像を明らかにしていく、さらに、成果を蓄積し、これらをもとにサービスイノベーションに資する共通基盤技術(注3)を創出するところまでを念頭に置いて施策を講じていくことが望まれる。
 なお、個別企業によるサービスの向上に資することのみを目的とする研究開発は、国が推進すべき施策になじまないということに留意する必要がある。すなわち、具体的な課題を達成するのみならず、広く経済・社会における価値を創出することや、共通基盤技術を創出することで、経済・社会に貢献するよう推進していくことが重要である。
 また、多様な分野の研究者等の参画の下、学際的な研究体制を整えることに留意する必要がある。

 以下に、サービス科学・工学の推進に関して取り組みが求められる事項について述べる。

  • (注3) 共通基盤技術とは、数学及び数学関連分野や情報工学を基礎としたものである。例えば秩父セメントの工場に泊り込んでデータ解析を続け作り上げた、元統計数理研究所長赤池弘次氏による赤池情報量(AICAkaike's Information Criterion)、あるモデルの良し悪しの指標を与える)のようなものが想定される。

2−1 サービス科学・工学についての俯瞰的整理

 サービスは、未だ定まった概念や原理・原則、あるいは学術的な知の体系が未熟な分野である。そのため、まず、本章第1項で述べたようなサービスの性質や実践の方法などを踏まえつつ、基礎的な調査・研究を進める必要がある。この中では、サービスの視点で達成すべき社会における課題、課題に関する研究に必要な技術や方法論などの要素技術、研究を遂行する上で必要な人材等について抽出を行い、さらに、サービス科学・工学の推進に関する全体像を俯瞰し、整理する取り組みが求められる。

2−2 共通認識の醸成等と人的ネットワークの形成

 新しい取り組みであるサービス科学・工学の推進に当たっては、サービスが提供者と利用者の関係において成立するものであることを踏まえ、研究者のみならずサービスに係る多様な関係者が共通認識の下に協働していくことが重要である。
 このため、ワークショップやシンポジウム等を通じ、多様な分野の研究者、企業、公共機関、NPOなどの社会の様々な関係者が、サービスの観点から社会における課題を明確化するとともに、サービス科学・工学としてどのような取り組みが可能であるかということ等について幅広く議論を行う。これらの取り組み等を通じ、サービス科学・工学についての共通認識を醸成するとともに、関係者が協働して活動するための人的ネットワークを社会に形成することが求められる。

2−3 研究システムの構築

 サービス科学・工学は、従来の自然科学における方法とは異なった方法論も必要とするものであることから、必然的に新しい研究領域・研究手法の開拓を伴うものである。また、サービスを対象とする性格上、研究者、産業界等多様な関係者による密接な協働を不可欠とするなど、新しい取り組みに満ちたものである。さらに、高い社会的価値や科学的価値が期待されるものの、必ずしも経済的価値を伴わない取り組みもあり得ることから、国が先導して進めていくべきものである。
 そこで、研究機関(大学等)、サービス提供者(企業、公共機関、NPO等)及びサービス利用者間の協働の下、社会における課題に対して、その達成に向けて必要な手法やモデルの開発等を行い、経済的・社会的価値の高いサービスを創出するための研究システムを構築していくことが求められる。

2−4 研究拠点網の形成

 学際領域であるサービス科学・工学については、研究者同士が分野を越えて連携するとともに、研究者と産業界等関係者が協働し、情報や技術を共有しつつ研究を進めることが重要である。また、社会における課題を適切に抽出し、成果を社会に還元していくことがサービス科学・工学の推進において求められるものであることから、研究者同士の分野横断的なネットワーク機能を有し、かつ関係者に開かれた研究拠点が形成されることが望ましい。
 したがって、個人レベルの研究ネットワークのみならず、中核となる機関をハブとしてネットワークを構築するようなNOENetwork of Excellence)(注4)型のものを形成することが適切と考えられる。
  NOEを構成する各研究機関が拠点を形成しつつ、それぞれが相互に連携することにより、共通して基盤となる技術の研究を進めること等が可能となり、内在する問題の掘り起こしと解決、要素技術の発展・統合、成果の画期的応用といった、学際分野の相互作用を高める研究拠点網の形成が期待できる。

  • (注4) EU研究・技術開発枠組み計画(FP6)で打ち出された施策の一つで、各国に分散する研究資源や知識をネットワーク化して取り組み、より大きな成果をあげようというもの。構想中核拠点を中心とし、特定分野の研究に関連する優れた研究機関がネットワークを形成する。

2−5 人材育成

 サービス科学・工学は新たな取り組みであり、現実問題としてこれを推進していくことができる人材は少ない。特に、サービスの方法論に熟知し、複数の分野の研究を理解できる研究人材は我が国には少ないのが現状である。
 このため、研究の現場においてこのような人材育成を並行して行う必要があり、若手研究者のワークショップ等への積極的な参加や研究への積極的な登用、大学・大学院教育においてサービス科学・工学に関する講義を取り入れること等が求められる。
 また、経験豊富な研究者がそれまで培ってきた知識や技術を生かし、サービス科学・工学に挑戦することにより、分野横断的な研究における分野間の架け橋となることが期待される。したがって、これまで既存の分野を研究してきた研究者等のサービス科学・工学に対する関心を高め、サービス科学・工学を実践するインセンティブを与え、また、そのような研究者が参画しやすい環境を整えることも重要である。

 サービス科学・工学を推進する上で、以下のような人材が必要と考えられる。

(1)サービス科学・工学研究者

  • 自然科学と社会科学等、幅広い専門知識と十分な思考力・説明力を有し、柔軟な思考ができる、いわゆるT型、Π型人材
  • 社会における課題について、社会における様々な関係者と協働して研究を行うことができる人材
  • サービス科学・工学の基礎となる数学の発展やICTを活用したセンシング・無拘束行動観測技術、数学諸理論に基づく科学的データの解析方法の開発、数学モデル構築法と大規模シミュレーション等、基礎的な研究を行う人材
  • 自動的に得られた大量の観察データから、生活状態の変化や異常に気づく技術、将来を予測する技術開発等を行う人材
  • サービス科学・工学の推進に必要な各種データについて、研究機関やサービス提供者等が利用できるための知識情報の共有化・特化のための技術開発等(データ処理技術、データベース構築、データ配信等)を行う人材
  • サービス利用者の嗜好や心的な変化過程といった、直接測定できない潜在変数や多数の要因間の因果関係のモデル化などを行い、満足度などのサービスの評価に関する定量評価法について研究する人材
  • 上記のような数学を含む数理科学的手法の利点と可能性を理解しつつ、あるいは活用しつつ、社会的・経営的な観点からマーケティング等を含むサービスイノベーションを研究する人材
  • サービスの提供や実践に関することや、サービスに関連する学術分野等について幅広い基礎的・俯瞰的な調査・研究を進める人材 等

(2)コーディネーター等

  • 企業等のサービス提供者、サービス利用者等の関係者のニーズを把握し、研究者との協働を支援する人材
  • 具体的な問題を研究する研究者と方法論研究者の協働を支援する人材
  • サービス科学・工学の研究の成果として開発された手法やモデルをサービスの現場に実装することを支援する人材 等

2−6 データの利用と流通を促す仕組みの構築

 サービス科学・工学において、サービスの現場のデータは研究材料として不可欠なものであり、それが容易にかつ大量に得られるほど研究の効率性が高まる。
 また、こうした研究材料と併せて研究成果が共有データとして公開されることによって、それを利用する研究者やサービス提供者が増え、相乗的に研究が進展することが期待される。
 したがって、サービス提供者が持つサービス科学・工学の推進に必要なデータが体系化され、研究者等がそのデータを容易に利用でき、さらに、研究成果がサービス提供者に還元されるためのデータベースのあり方をはじめ、データの利用と流通を促す仕組みを構築していくことが求められる。
 なお、各種データの取り扱いに当たっては、個人情報保護の観点からの配慮が必要であることに留意する必要がある。

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