文部科学省本文へ

大臣の部屋 お知らせ 組織関連情報 政策関連情報 公表資料 申請・手続き等 基本・共通 教育 科学技術・学術 スポーツ 文化

第1章 検討の背景と目的

 近年、世界経済のサービス化は着実に進展し、名目GDPに占めるサービス産業の割合の推移を世界全体で見ると、1970年代以降、ほぼ一貫して増加傾向にあり、世界経済の中でサービス産業の重要性が高まってきている(注1)。
 また、「情報量の爆発」という言葉で象徴されるように、ICT(注2)の発展とともに、世の中を行き交う情報量の増大と活用形態の多様化が起きており、知が重要視される「情報と知識の時代」を迎える中で、大量の情報を個人のニーズに対応した方法や形で提供する新しいサービスが生み出されるようになってきた。
 このように、産業界のみならず、社会におけるサービスというものの重要性が高まってきている。
 さらに、製造業の様相も、“少品種・大量生産”による生産の効率化から、ICTを活用した“多品種・少量生産”に変化し、きめ細かい対応による顧客満足度向上や新たな需要喚起を指向するようになってきている。
 このように、世の中においては、受け手の満足という価値を軸にしたビジネス展開が進展しており、顧客に焦点を合わせることが極めて重要な要素として認識されつつある。そこで、従来のサービスに変わる新しいサービスを創出する、あるいは、既存サービスの生産性を向上させること等を通じて、顧客満足を高めることに大きな期待が寄せられるようになってきている。
 サービスにおけるイノベーションを目指していくに当たっては、受け手の満足という捉え難い対象について、それを定量化することが重要となる。これまでのアンケート等を通じた調査とその分析による手法に加え、自動的に情報を取り込む技術や、大量データから変化や傾向を自動的に検出する方法等の開発も進みつつある。また、一旦作り上げたサービスのモデルであっても、日々変化する社会や個人のニーズに合わせて深化・発展することが求められ、その一助として日常生活における多種・大量のデータから人間の行動や嗜好の変化等を可視化する方法論の確立も必要となると考えられ、これらに対して科学技術の果たす役割が拓けてきている。
 海外に目を転じると、まず、サービスの品質を科学的に捉えようとする動きが1980年代に制定されたISO9001品質マネジメント規格(注3)の制定に見られる。また、最近では、2004年の米国競争力評議会による「イノベート・アメリカ」、いわゆる「パルミサーノ・レポート」(注4)がサービスサイエンスの振興の重要性を取り上げたことにより、米国産業界や行政に大きな衝撃を与えた。この流れを受け、2007年8月に成立した米国競争力法(注5)においてサービスサイエンスの振興が規定されるに至った。
 その後、米国におけるこれらの取り組みを端緒として、欧州をはじめ諸外国においても、サービス分野の研究開発やイノベーションを指向する動きが起こっている。この動きには大きく二つあり、一つはサービスサイエンスを支援する研究資金の措置であり、もう一つはサービス分野におけるイノベーションの専門研究機関の設立であるが、各国ともサービスサイエンスのあるべき方向を模索しながら各種の施策に取り組んでいるのが実態であると考えられる(注6)。
 我が国においても、サービスに対して科学技術を活用してイノベーションを起こしていくという取り組みはまだ始まったばかりと言ってよい。
 しかし、我が国は“おもてなしの精神”で表現される、ホスピタリティに特長を有する伝統があり、また、高い科学技術力を有している。今こそ、サービスと科学技術の関係者の幅広い関与の下に、サービスに科学的・工学的手法を導入し、社会における価値の創出に大きく貢献できれば、日本発のサービスイノベーションの姿を提案することも可能である。
 先頃、我が国では「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(平成20年法律第63号)」(注7)が成立し、サービスに関する調査研究等への取り組みが規定され、国として新たな一歩を踏み出す時を迎えている。
 このような背景の下、サービスに科学的・工学的手法を導入することにより、社会における様々な課題や問題に対処するための方策を見いだすことを目的として検討を行うものである。

前のページへ

次のページへ