我が国において「サービス」という言葉は、商品に付加的なもの(商品の値引き等を含む無料の奉仕、貢献等)、あるいは、サービス業における“商品”に相当するもの等として捉えられてきた一面がある。このような捉え方においては、心のこもった対面的なサービスを是とするホスピタリティの側面が重視されてきた一方で、経済的な価値を創出するサービスや、公共的・社会的な価値としてサービスが果たしうる役割・機能等が十分に理解されてきたとは言えないであろう。
他方、欧米では、サービスは経済活動と密接な関係を有するものとして理解されており、サービス業も製造業と同様に効率化の対象として捉えられている。つまり、新たなサービスの創出や、あるいは既存のサービスの生産性向上を科学的・工学的に行おうとする積極的な試みが開始されているほか、多数の大学において、高付加価値サービスを組織的に提供する仕組みを研究対象とするサービスマネジメントといった学科が設置されるなど、その捉え方に我が国とは大きな違いがある。
そこで、本検討会においては、サービスに関してその本質を広く捉えつつ検討を行うことが重要であると考え、そのために、「サービスとは、人と人、人とモノが関わる場面において、受け手にとって価値があるものを生み出すための機能やそれを体現する行為や過程(プロセス)、さらにそれによってもたらされる効果」と捉えることとする。
このような考え方の下、サービスが達成すべき目標を、サービス業における“商品”の開発といった狭い範囲に限定することなく、既存サービスを高度化・効率化等(プロセスイノベーション)すること、あるいは新規サービスを創出(プロダクトイノベーション)することとする。これらの目標を達成することによって、個人を含む社会に新たな価値をもたらし、サービスの利用者一人一人の満足度を高めることはもとより、社会の生産性を高めることを同時に実現しうると考える。さらに、社会における課題の達成や問題の解決(以下、「課題」には「課題」と「問題」を含み、「課題達成」には「課題達成」と「問題解決」を含む。)を図ることができると考える。
つまり、製品設計・製造、物流等における経済活動に係るプロセスの効率化といったものから、少子化・高齢化社会への適応、生活の質(QOL)の向上等に関わる課題をサービスの視点から捉え直し、今後の社会のあるべき姿に対応したサービスイノベーション(注1)を生み出していくこと等が、我が国においてサービスで目指すべきものとして位置づけられるのである。
第3章以降において、社会における課題をサービスイノベーションの視点で捉え、社会における課題達成を通じた価値の創出を図っていくための方策について述べる。
例えば、情報へのアクセス方法に革命を起こしたWeb上の検索サービスなどが該当する。なお、この検索サービスは、サービスの利用者がサービスの高度化に深く関わっており、こうした共創関係が21世紀型サービスに求められるものと考えられる。