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DMCA技術的手段の規定に関する判例


 米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)は、同法による著作権の保護強化と、利用者の利便性等を含めた他の権利とのバランスについて、様々な議論を喚起している。以下に、適正な市場環境の確保の観点から、DMCAの技術的手段の規定の在り方が争われた訴訟について紹介する。

Lex Mark Case
(経緯)

   レーザープリンタは、カートリッジのトナーがなくなった場合、プリンタ製造会社から新たなカートリッジを購入して使用することとなる。しかし、トナー・カートリッジ市場には、他社製プリンタの仕様にあったカートリッジを製造・販売する業者も存在する。
 プリンタの製造会社であるレックスマーク社は、他社製のカートリッジを自社製プリンタで使用できなくするため、プリンタとカートリッジの双方にチップを埋め込んで販売した。スタティックコントロール社は、第三者のカートリッジ会社に販売することを目的として、レックスマーク社のプリンタでも使用可能となるチップを開発し、製造していた。チップには、レックスマークの製造しているチップの複製物を含んでいた。
 レックスマーク社はスタティックコントロール社を、カートリッジにインストールされたプログラムの複製権侵害、およびプリンタ本体にインストールされたプログラムへのアクセスコントロール回避行為に係るDMCA違反として、ケンタッキー州の地方裁判所に訴えた。地方裁は、スタティックコントロール社に差止め命令を下した(2003年3月)。判決を不服としたスタティックコントロール社は、連邦控訴裁に控訴し、2004年10月、地方裁の判決を覆してスタティックコントロール社の責任を否定した。

(争点)
   控訴裁においては、以下の事項が争点として取り上げられた。
 
 (1) トナー・カートリッジにインストールされたコンピュータ・プログラムの著作物性
 (2) トナー・カートリッジのプログラム複製行為に関してのフェアユースの可能性
 (3) プリンタ本体にインストールされたコンピュータ・プログラムへのアクセスコントロールの取り扱い(DMCA違反の可能性)

(結論)
   (1)について、様々な外部の要件により、必然的に同じようなプログラムとなってしまう場合に、当該プログラムを著作物として考慮するかどうかを審議した。地方裁においては、カートリッジのチップに内在するプログラムの著作物性を認めた。しかし控訴裁においては、そのプログラムの単純な構造を指摘し、互換性や産業規格、効率性といった要素により類似のプログラムとならざるを得ない必然性を有するとした。そうした状況においては、カートリッジのプログラムは著作権法の保護の対象となる「表現」とはなりえないと判断した。

 (2)について、控訴裁判決においてカートリッジのプログラムの著作物性を否定したにもかかわらず、そのフェアユースを論じている。地方裁は、スタティックコントロール社のフェアユースを否定した。しかし控訴裁においては、プログラムの複製行為をフェアユースと判断した。控訴裁判決によると、フェアユースたりえるかどうかは、被告が対象となる著作物を利用することによって利益を得ているかどうかを考慮すべきであり、本件はプログラム自体の複製や販売といった行為によって、利益を得ているわけではないと結論付けた。すなわち、スタティックコントロール社の複製行為を考慮する際には、カートリッジのプログラムの市場への影響を検討すべきであって、トナー・カートリッジ市場への影響を検討してフェアユースを論じた地方裁の判断は、適当ではないとした。

 (3)について、上記(1)によってカートリッジのプログラムの著作物性は否定されたが、プリンタにインストールされているプログラムは比較的複雑なため、その著作物性については異論を挟んでいない。
 控訴審においては、レックスマーク社の使用しているアクセスコントロールは、DMCAの規定しているアクセスコントロールとは趣旨が異なると結論付けた。レックスマーク社のプログラム自体には、何らアクセスコントロールが施されておらず、そのため簡単に解読し、また複製することができる。つまり、地方裁がアクセスコントロールとして考慮したものは、単に仕様の異なる装置の機能をブロックするものであり、対象となっているプリンタのプログラムに簡単にアクセスできる場合は、DMCA上のアクセスコントロールとは判断されないとした。DMCAの趣旨がそもそも、著作物への海賊行為を規制するところにあることを考慮すると、何ら保護が施されていない複製可能なコンテンツである消費財について、その使用を制限するための技術的手段は、決してDMCAのアクセスコントロールではないとして、スタティックコントロール社のDMCA違反を否定した。

Skylink Case
(経緯)

   遠隔操作で開閉を行うガレージを販売しているチェンバレン社は、リモコンと開閉扉のプログラムにアクセスコントロールを施していた。しかしスカイリンク社は、チェンバレン社の扉を開閉することができるリモコンを開発し、販売した。チェンバレン社は、スカイリンク社が販売しているリモコンは、扉の開閉プログラムへのアクセスコントロールを回避可能とするとし、米国著作権法第1201条(a)(2)違反として、イリノイ州の地方裁判所においてスカイリンク社を訴えた。地裁は原告の要求を退け、スカイリンク社は著作権法上の責任は無いとの判決を下した(2003年11月)。地裁の判決に不服を申し立てたチェンバレン社は、連邦控訴裁判所に控訴したが、控訴裁は地方裁の判決を認め、控訴を棄却した(2004年8月)。

 
   第1201条(a)(2) 何人も、以下のいずれかに該当するいかなる技術、製品、サービス、装置、部品またはそれらの一部分を製造し、輸入し、公衆に提供し、供給しまたはその他の取引を行ってはならない。
 
(A)   主として、本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避することを目的として設計されまたは製造されるもの。
(B)   本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避する以外には、商業的に限られた目的または用法しか有しないもの。
(C)   本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避するために使用することを知っている者またはこれに協力するものによって販売されるもの。

(争点)
   スカイリンク社がDMCA上の責任を有するためには、原告であるチェンバレン社は、以下の点を証明する必要がある。
 
 (1) チェンバレン社がプログラムの有効な著作物の権利者であること
(2) プログラムが技術的手段によって保護されていること
(3) 第三者のアクセスが可能となってしまったこと
(4) そのアクセスが許諾なく行われていること
(5) 可能となったアクセス行為が、著作権法により保護されている権利の侵害、あるいは侵害の助長となっていること
(6) 第1201条(a)(2)に規定される(A)〜(C)のいずれかに該当すること

(結論)
   上記焦点の(1)(2)及び(3)について、裁判所は条件を満たすと判断した。しかし、(4)及び(5)に疑義を示した。
 (4)については、開閉扉の使用者は、チェンバレン社の製品を購入した時点で既に、製品に含まれるプログラムにアクセスする許諾を得ていると考えられるため、条件を満たさない。また(5)については、スカイリンク社が可能としたアクセスが、著作権の保護に何らかの影響を与えるかどうかについて考察した上で、本件は(5)に該当しないとしている。つまり本件において、使用者がアクセス回避行為をすることが著作権法第1201条(a)(1)違反を構成しない限りは、スカイリンク社に第1201条(a)(2)に基づく責任を負わせることは合理的でないと判断した。
 以上から、以下の結論(概略)を導き出している。

 「DMCAは、権利者保有者に新たな権利を創出しているわけではない。また、著作権法が付与してきた権利を剥奪するものでもない。回避行為に係る規定(第1201条(a)(1))、装置の取引に係る規定(第1201条(a)(2))とも、賠償責任の新たな事由を創出したに過ぎない。よって原告は、問題となっている回避装置が、権利侵害を可能としているか、あるいは著作権法上禁止されている行為を可能としていることを合理的に証明しなければならない。本件においては、開閉プログラムの無許諾の使用とスカイリンク社のリモコン販売の関係について、チェンバレン社がきちんと証明できなかったとした地方裁の判断は正しかったと言える。」




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