特別支援教育について

和歌山東高等学校(公立)

都道府県名 和歌山県
学校名 和歌山県立和歌山東高等学校
学校所在地 和歌山市森小手穂136番地
研究期間 平成21~22年度

1 概要

1 研究課題

 発達障害により特別な教育的支援を必要としている生徒に対して、個別支援を行うと共に、授業方法等においても「わかる授業」を工夫し取り組むことは、発達障害のある生徒だけでなく、全ての生徒の学力向上につながっていくという認識のもと、教務部並びに教育課程委員会が連携をしながら、カリキュラムの充実及び教材の精選や授業方法・授業形態の工夫などの授業研究を実施する。また、「学び直し」の教育課程においても、各教科と連携し、発達障害のある生徒の支援として研究実践を行う。さらに高等学校における特別支援教育のセンター校として、県内各高等学校での現職教育等の研修講師や巡回指導の実施、及び高等学校コーディネーター会議を開催し、本校の取組を発信するとともに、県内における高等学校全体の体制整備を推進する。

2 研究の概要

1.高等学校における特別支援教育のセンター的役割

 高等学校における特別支援教育のセンター校として、担当教員や管理職、スクールカウンセラーを中心に県内各高等学校での現職教育等の研修講師や依頼校への巡回指導を実施する。

2.各高等学校コーディネーター会議の開催による高等学校全体の体制整備の推進

 当該校担当(特別支援教育コーディネーター)を中心に、各高等学校コーディネーター会議を開催し、高等学校全体の体制整備を推進する。

3.カリキュラムの充実及び教材の精選、授業方法・形態の工夫等の授業研究

 支援が必要な生徒に対し、「わかる授業」を工夫し取り組むことは、発達障害のある生徒だけでなく、全ての生徒の学力向上につながっていくという認識のもと、教務部や教育課程委員会と連携しながら、カリキュラムの充実及び教材の精選や授業方法・授業形態の工夫などの授業研究を実施する。また、「学び直し」の教育課程においても、各教科と連携し、発達障害のある生徒の支援として研究実践を行う。

4.「Q-Uアンケート」の活用と「エンパワーメント」のLHRの実施による学級集団づくり

 「Q-Uアンケート」の活用や「エンパワーメント」のLHRの実施により、自己肯定感を高めるとともに、一人一人の力が発揮できる生き生きとした学級集団づくりをめざすことによって、発達障害のある生徒に対しても学級集団としてサポートできる体制を作っていく。

5.専門機関との連携による就労支援体制の構築

 専門機関と連携し、学校として専門家チームを編成し、保護者・生徒への就労支援体制を構築する。

3 研究成果の概要

 これまでの取組における一人一人のニーズにあった個別支援のノウハウが、全体支援、特に特別支援教育の基盤となる上記3.授業づくりや4.学級集団づくりに活かされることによって、発達障害のある生徒にとっても学校全体が安心・安全な居場所となりつつある。特に3.においては、授業担当者会議での発達障害のある生徒に対する授業方法の工夫等に係る話し合いや、基礎学力の充実を図る取組が「わかる授業」「学び直し」の取組に反映され、発達障害のある生徒だけでなく、全ての生徒の学力向上さらに学習意欲及び進路意識の向上にもつながっている。またこのことが「Q-Uアンケート」の結果にも反映されている。(2詳細報告の(6)その他の支援に関する工夫で後述)
 また高等学校における特別支援教育のセンター校として、県内各高等学校での現職教育等の研修講師、本校での高等学校コーディネーター会議の開催等によって、高等学校全体の支援体制の整備推進に努めた。さらに本校で特別支援教育研修会を開催(3回)し、本校の研究課題を共に学び、その後の協議において各校の取組を交流し、課題の共有を図り、さらに「高等学校における特別支援教育の在り方」を共に考える機会とした。

2 詳細報告

1 研究の内容

(1)発達障害のある生徒に対する指導方針

ア 生徒の実態(把握方法も含めて)

(ア)4月の学年の引き継ぎ会議を開き、支援を必要とする生徒の把握や昨年度の支援の状況を報告する。新入生については、中学校からの申し送り事項を紹介する。その後スクールカウンセラーによる、「発達障害」についての学習会及び事例検討会を開く。

(イ)特別支援教育コーディネーターが、新年度の早い段階で中学校を訪問し、新入生に関する情報や支援方法の引き継ぎを受け、それを学年会で共有し、早期の支援に活かした。

(ウ)これまでの教師の日常観察や面接法による生徒理解だけでなく、客観的で多面的な資料となる「楽しい学校生活を送るためのQ-Uアンケート」を実施し、生徒理解に係る学年会などで活用した。

イ 指導方針
 診断の有無にかかわらず、支援を必要としている生徒に対しては、担任、学年会、保健・人権・特別支援教育部が連携を取りながら、教育相談委員会(校内支援委員会)や授業担当者会議で、情報交換及び具体的な支援の方法について検討する。また、個別の指導計画を作成し、職員会議で全職員の共通理解を図り、指導体制を考える。さらに、カウンセリングを通して生徒・保護者の支援に努め、必要に応じて医療機関や専門機関との連携も図って行く。

ウ 成果と課題

(ア)担任・教科担当及びクラブ顧問などがそれぞれの立場で行動観察を行い、問題点を把握することによって、早期の支援につながっている。また行動観察等で得た情報については、時機を逸することなく常に情報交換が行われ、保健・人権・特別支援教育部や教育相談委員会で集約されている。また学習における課題については、授業担当者会議において、生徒の状況などを情報交換し、支援方法について話し合っている。

(イ)保護者とのカウンセリングや担任が保護者と連絡を密に取ることにより、生徒の状況を逐次把握し、担任・学年会・教育相談室・保護者が連携しながら、それぞれ役割分担をし、支援することができた。また必要に応じて、医療機関や他の専門機関とも連携し、その結果「発達障害」の診断に至り、そのことが本人の進学後の支援につながった。

(ウ)上記(ア)(イ)の様な情報交換や連携に加えて、「気づきシート」を今年度作成したが、従来からの口頭による情報交換が優先され、実効ある活用には至っていない。さらに工夫する必要がある。

(2) 発達障害のある生徒に対する授業やテストにおける評価方法等の工夫

ア 授業の際の配慮事項等

(ア)障害の有無にかかわらず、英語・数学・国語・簿記の授業において、習熟度別授業や少人数授業を実施し、基礎学力の定着・向上に努めている。

(イ)1年生の英語・国語・数学の授業において、生徒の到達状況やつまずきの状況を把握し、小学校や中学校段階にさかのぼり、「学び直し」に取り組むことにより、LDや低学力の生徒だけでなく、未学習や学習不足など課題のある生徒の支援にもつながっている。

(ウ)学習上に課題がある生徒に対しては、授業担当者会議を開き、担任、授業担当者、クラブ顧問、特別支援教育コーディネーターなどが、授業中やクラス、クラブでの様子及び本人の困っている状況などを情報交換し、支援の工夫について話し合っている。
 具体的には、座席の配慮、板書の工夫、プリント教材の活用やノートやプリント等の提出物の確認方法など、生徒の特性に応じた支援方法について話し合っている。またグループワーク、体育の実技(特に球技)や調理実習などにおいてはT・T等の形で支援する場合もある。

(エ)県単独事業によって配置されている「学力アップ非常勤講師」を活用し、定期考査前の放課後や夏休み、冬休みなどに「自主勉強会」を開催した。障害の有無にかかわらず広く全校生徒に呼びかけ、生徒の自主的な「学び合いの場」を設けた。また担任、教科担当やクラブ顧問等も加わり、参加生徒の学習支援を行った。またこの「自主勉強会」がクラス単位や学年単位の勉強会へと広がり、学習意欲の向上にもつながっている。

イ テストにおける配慮事項等
 支援が必要な生徒には、教職員の共通理解のもと、別室(教育相談室)対応を実施し、生徒の心理的な負担を軽減している。また1年生のテスト監督の複数配置や各階に2名ずつ廊下監督を配置することで、落ち着いた考査環境となる配慮をしている。その結果、生徒の考査に対する態度が良好になり、今年度2学期より、従来から配置していたテスト監督の複数配置を廃止できるまでに至った。

ウ 評価における配慮事項等
 障害の有無にかかわらず、教科会議等において常に議論をしている内容であり、具体的には、テストの成績だけではなく、出席状況及び提出物、授業態度等学習の過程を含めて総合的に捉え評価を行っている。また「シラバス集」や「選択科目ガイドブック」を作成し、生徒に授業内容や評価方法などを事前に説明している。

エ 成果と課題

(ア)「習熟度別授業」や「少人数授業」等の授業形態の工夫や授業方法等の改善により「わかる授業」づくりに取り組むことは、発達障害のある生徒だけでなく、全ての生徒の学力向上につながっていくという認識のもとに、特別支援学校や小学校での授業参観や意見交換によって得られた情報を、教育課程委員会などで共有した。また生徒の授業に対するアンケートを基に、教科会議などで意見交換をする機会や授業公開の機会を多く持つことによって、授業研究を進めている。

(イ)発達障害や授業の取組に課題がある生徒に対して、早い段階で対応し、授業の欠課やそれに伴う問題行動の未然防止に努めるため、教務部・教育課程委員会でカリキュラムの工夫や授業方法の工夫を検討するとともに、平成20年度に導入した「教養基礎(朝の読書)」と「授業カード」等の利用により、生徒の授業に対する取組が改善され、落ち着いた授業環境が生まれた。また遅刻をする生徒が少なくなり出席不足に起因する中途退学生徒が激減している。また、3コース制の導入により、3年間の学習及び進路選択に目的意識を持って臨むことができるようになった。

(ウ)平成20・21年度基礎学力の定着を図るために取り組んだ総合的な学習の時間の成果を活かし、今年度国語・英語・数学に「学び直し」の時間を導入し、生徒のつまずきの発見及び未学習・学習不足も含め、教育課程に位置づけることでより系統的に生徒の「学び直し」を支援している。さらにそのことが生徒の成績及び学習意欲の向上にもつながった。

(3)発達障害のある生徒に対する就労支援

ア 支援の方策と内容

(ア)診断がある場合
 障害者職業センターにおける職業評価をもとに、ハローワーク・発達障害者支援センターと連携を取りながら、本人の就労に関する支援会議を開催する。ただし、本人・保護者の意向によりあくまでも学校あっせんによる就労を追求する場合もある。また主治医の意見書等を参考にしながら、福祉的就労が望ましい生徒については、障害者地域共同作業所にて就労体験をし、作業所訪問・日誌の交換等を通して、本人の状況を把握し、専門機関・スクールカウンセラー・教育相談担当・保護者も交えて今後の進路に向けての話し合う機会を数多く持ってきた。また卒業後も職場訪問やカウンセリングを継続することによって、就労の定着を図っている。

(イ)診断がない場合
 進路指導部・担任が連携を取りながら、他の生徒と同様に就労を支援しているが、必要や状況に応じて、保護者や本人に専門機関への受診を促す場合もある。ただしその場合は、スクールカウンセラーや教育相談担当と連携しながら慎重に進めていかなければならない。

イ 成果と課題
 就労前や自立に向けて必要な力を身につけていくための支援の方法については、進路指導部が放課後に「スキルアップ講座」(学年別全校生徒対象)を定期的に開講している。また発達障害のある生徒に対しては、教育相談室でコミュニケーション能力を高めたり、ソーシャルスキルトレーニングを昼休み等に機会を捉えて実施し、十分な効果が認められた。

(4)全ての生徒に対する理解推進等の指導の在り方

ア 指導の工夫と取組

(ア)障害のある生徒だけでなく、彼らを取り巻く学級集団の力を共に高めていく取組として、「自己受容」「他者理解」「仲間づくり」をテーマとした「エンパワーメント」のLHRを学期に一回実施した。

(イ)頭髪・服装等の身だしなみ指導や遅刻防止および授業規律の問題に、学校全体として取り組み、学習環境の整備を図った。

イ 成果と課題

(ア)担任、教科担当や教育相談担当の日頃からの一貫した支援、時によっては危機介入としての専門的な対応によって、年ごとに一般生徒の「発達障害」に対する理解が深まってきた。

(イ)上記(イ)の取組によって、生徒の問題行動が減少し、安心・安全な学校生活を送れることにより、障害のある生徒が心理的に不安定になる状況が少なくなった。

(5)教職員や保護者の研修等

ア 研修会開催の回数・時期・研修内容等

4/19 第1回現職教育 「発達障害の生徒の理解と支援」(事例研究も含む)
講師:本校スクールカウンセラー
特別支援教育コーディネーターから昨年度の支援の状況を説明し、今年度への引き継ぎをするとともに、発達障害全般の学習をする。
5/20 担任説明会を開催 (5/26のQ-Uアンケートの実施における事前説明)
5/26 第1回Q-Uアンケート実施(全クラス)
6/7 7/5の講師先生による授業参観(第2限~第4限)
7/5 第2回現職教育「授業中における具体的な支援」(ワークショップも含む)
講師:和歌山県発達障害者支援センター「ポラリス」センター長
支援を必要とする生徒に対する授業中の具体的な支援の方法を研修し、教員がそれぞれグループに分かれて、授業に参加できない生徒の原因を探り、その原因に応じた授業中の工夫についてお互いのアイデアを出し合った。また「軽度精神遅滞」と診断を受けている生徒の具体的な支援方法について事例検討を行った。
7/14 学年会「Q-Uアンケートの分析」と事例検討会
学年ごとにQ-Uアンケートの分析と事例検討会を行い、集計結果の効果的な活用方法や、今後の学級経営にどの様に活かしていくかについて協議する。
11/20 第3回現職教育「思春期の子どもを持つ親の生き方」
講師:本校スクールカウンセラー
職員・保護者合同研修会の形態で実施。思春期の子どもの発達課題を中心とした講演の中で、生きていくことの辛さを抱えた生徒の様子にも触れる。
11/24 第2回Q-Uアンケート実施(1学年、3学年2クラス)
12/6 第4回現職教育(「特別支援教育講演会」として開催)
「高等学校における特別支援教育の推進」
講師:特別支援教育ネット代表
当講演会は現職教育のみならず、特別支援教育への啓発の観点から保護者・PTA役員、学校評議員にも呼びかけ出席を得た。また小・中・高の連携を深め、系統的な支援及び早期支援につなげる観点において、和歌山市内の小学校・中学校の教員を、そして特別支援教育の高校における学校独自の課題及び共通の課題について共に学ぶ機会を持つ意味で県内の高等学校教員及び特別支援学校教員も参加対象とし、発達障害の生徒に関する理解を深め、特別支援教育の推進・充実に努めた。さらに特別支援教育担当教員だけではなく、生徒指導担当の教員にも参加を呼びかけ、講演後「生徒指導」・「特別支援教育」の2分科会を設けた。
2/2 第5回現職教育(「モデル事業」最終報告会として開催)
「モデル事業」最終報告
講演「発達障害と生活リズム~小児科医の提言~」
講師:国立病院機構南和歌山医療センター小児科医
3/12 事例検討会
1年学年会において、2回のQ-Uアンケートのデータの比較をもとに事例検討を行う。これまでの教師やクラスの生徒同士の関わりによって、個々の生徒や学級集団がどう変化・成長したかについて、生徒の具体的な状況を報告し、多面的・総合的に対象生徒の理解が進んだ。

イ 成果と課題

(ア)教職員の発達障害や特別支援教育への理解が深まると共に、職員全体が特別支援教育の視点に立って、生徒を多面的に把握できるようになった。またそのことが支援の必要な生徒への早期の対応・支援につながっている。

(イ)保護者との合同研修会やあらゆる機会を通じて、保護者と教職員が共に学び、話し合うことによって、保護者の生徒理解が深まった。また毎月発行している「教育相談室便り」を通して、特別支援教育や教育相談室の状況の理解・啓発に努めた。
 さらに保護者の子育てへの関心、合同研修会などへのより多くの参加を促す工夫が大切である。

(6)その他の支援に関する工夫

 Q-Uアンケートのデータにみる生徒の成長プロセス

ア Q-Uアンケートとは
 「楽しい学校生活を送るためのアンケート」であり、生徒の学級生活での満足感と意欲、学級集団の状態を、質問紙によって測定するものであり、次の2つの心理テストから構成されている。

  1. 学級満足度尺度(いごこちのよいクラスにするためのアンケート項目)
  2. 学級生活意欲尺度(やる気のあるクラスをつくるためのアンケート項目)

イ ねらい
 従来の面接や行動観察による生徒理解を補う客観的で多面的な資料となり、2回目を実施することによって、学級集団の変化や生徒一人一人の対応の仕方について把握するための資料となる。

ウ 実施方法・手続き
 新学期がまだ始まったばかりの5月に全学年を対象に第1回目のアンケートを実施し、集計は担任の手作業で行うことにする。このことによって担任の気づきが生まれることを期待したためである。その後学年単位で事例検討会を実施、結果の効果的な活用方法と個々の生徒の状況について事例検討をする。
 第2回目のアンケートは1年生のみを対象に11月に実施。学校行事もほぼ終わり、定期テストにはまだ期間がある生徒が比較的落ち着いていると思われる時期に実施する。

エ 生徒Dにおける結果と考察
 発達障害の診断はない。→中学校からの申し送りはない。
 小、中学校時代はトラブルが絶えなかった。→入学後まもなく教室でトラブルになり、パニックを起こしたことがきっかけで、支援が始まる。

<支援のポイント>
☆ルールづくり及び行動のパターン化トラブル及びパニック→
その場を離れて特定の場所へ→
クールダウン→言語化による振り返り。時には謝罪の場を設定する。

☆パニックの回避方法を根気強く教える。 暴言を吐く(×)
 「我慢、我慢」など前向きな言葉を唱える(○)

Dの3年間の変化
Dの3年間の変化

<変容>
 継続的なカウンセリングにより、本人の自己理解が進んだ。
 文化祭などの行事に参加し、共同作業をすることによって、本人の学級への帰属意識が高まった。また教育相談室だけでなく、クラスにも居場所ができた。さらに本人を取り巻く学校の環境が落ち着くと同時に、パニックになることも激減した。
 このような成長プロセスが上記のQ-Uアンケートの結果にも表れた。

2 研究の方法

(1)特別支援教育総合推進事業運営協議会の設置

○保健・人権・特別支援教育部に設置する。
ア 構成

NO 所属・職名 備考
1 部長(教育相談委員長)・ 教諭 特別支援教育コーディネーター
2 教諭     
3 講師   
4 教諭 保健主事
5 養護教諭  
6 養護教諭             
7 スクールカウンセラー    臨床心理士
8 学力アップ非常勤講師 県単独事業による配置

イ 運営協議会開催回数・検討内容
 生徒の実態把握や情報交換及び具体的な支援の検討については、ほぼ毎日実施している。研修会の計画・啓発等については月に1回定期的に開催した。

検討内容

  • 生徒の実態把握や状況把握、情報交換
  • 具体的な支援について方針を検討
  • 教職員の研修会の計画・内容検討
  • 保護者・生徒への啓発の方法
  • Q-Uアンケートの分析及び運営協議会での事例研究

○さらに、教育相談委員会(校内支援委員会)を開催、該当担任も会議に参加し、個別の支援計画を立てる。
ア 構成

NO 所属・職名 備考
1 教育相談委員長(保健・人権・特別支援教育部長)教諭 特別支援教育コーディネーター
2 教務部長・教諭  
3 生活指導部長・教諭  
4 養護教諭 保健・人権・特別支援教育部
5 教頭 特別支援教育コーディネーター
6 教頭  
7 1学年主任・教諭  
8 2学年主任・教諭  
9 3学年主任・教諭  

※検討内容によって、進路指導部長、クラブ顧問などがメンバーとして入る場合もある。また、学習面において支援が必要と思われる場合は、授業担当者会議を開き、授業中の情報交換や支援の工夫について話し合っている。

イ 教育相談委員会開催回数・検討内容

第1回

中学校より不登校の生徒の支援方法を検討・個別の指導計画の作成

第2回

不登校傾向の生徒の支援方法を検討・個別の指導計画の作成
在校生については気になる生徒の情報交換を、新入生については中学校からの申し送り事例を紹介し、支援方法の検討をする。

第3回

アスペルガー障害の生徒の個別の指導計画の見直し

第4回

教育相談室登校の生徒の支援について
支援方法及び内規の見直しを検討

第5回

気になる生徒の情報交換
教育相談室登校の内規の見直しを検討

第6回

教育相談室登校の生徒の個別の指導計画の見直し
教育相談室登校の内規の見直しを検討
「発達検査」を受診する生徒の公欠扱いについて

第7回

暴力被害生徒の支援の方法を検討
教育相談室の利用状況と今後の利用について

第8回

教育相談室の利用について

第9回

軽度精神遅滞と診断されている生徒の授業中の情報交換及び授業における支援方法の検討
WISC-3の読み取り方の研修(授業担当者会議)

第10回

「特別支援教育総合推進事業」の成果とまとめ

第11回

教育相談室登校の生徒の個別の指導計画の見直し(今後の進路)
心理的に不安定な生徒の状況報告と個別の指導計画の見直し

第12回

1年間の支援の検証及び取組の総括

ウ 特別支援教育コーディネーターの指名や個別の教育支援計画の策定等具体的な方策

(ア)特別支援教育コーディネーターは、保健・人権・特別支援教育部長または教育相談委員長が兼務する。さらに平成21年度より特別支援教育コーディネーターを二人体制(うち一人は教頭)とした。なお、教育相談委員会(校内支援委員会)の構成メンバーの中に、必ず保健・人権・特別支援教育部員が入っている。
 (上記2研究の方法(1)ア 構成欄参照)

(イ)個別の指導計画については、教育相談委員会(校内支援委員会)または授業担当者 会議にて作成するとともに、その後、スクールカウンセラー、保護者、専門機関(医療機関、発達障害者支援センター、障害者地域共同作業所など)と連携を取り、助言・指導を得た。また、その指導計画については、職員会議で報告し、教職員の共通理解を得ている。

エ 成果と課題

(ア)運営協議会、教育相談委員会や授業担当者会議の開催など、あらゆる機会を通して、生徒の情報交換や支援の方法を検討することによって、担任・学年集団・他の校務分掌との連携がより密になり、教職員の共通理解が深まった。個別の支援が必要な生徒に対して、教職員の共通理解のもと組織的に活動することができている。

(イ)特別支援教育コーディネーターを二人体制(うち一人は教頭)とすることによって、特別支援教育の要となる管理職との連携がよりスムーズに行われた。

(2)専門家の活用

ア 構成

NO 所属・職名 備考
1   本校スクールカウンセラー 臨床心理士
2    発達障害者支援センター「ポラリス」センター長  

イ 専門家の活用状況

(ア)平成15年度にスクールカウンセラーが配置されて以来、担任・生徒・保護者のカウンセリングをさまざまな形態で実施している。1年間の来談件数は400件にも及び、そのほとんどが発達障害に起因すると思われる内容である。最近は生徒の来談が増加傾向にある。

(イ)医療機関との連携が必要な生徒については、保護者の了承を得て、主治医であるメンタルクリニックの精神科医と協議し、支援方法について助言を得ている。また卒業後の相談機関として、発達障害者支援センターにつなぐことによって、卒業後の不安を軽減している。

(ウ)上記専門家を講師とした現職教育を数回実施した。

ウ 成果と課題

(ア)本校にスクールカウンセラーが配置された平成15年度より、常時スクールカウンセラーと連携を取りながら生徒の支援をすすめており、そのことによって医療機関や発達障害者支援センター、子ども・女性・障害者相談センターや障害者職業センターなど他の公的機関との連携がよりスムーズに行われている。

(イ)継続したカウンセリングによって本人のストレスが軽減され、心理的にも安定し、自己理解が得られるようになった。さらに保護者にも子育て支援の観点でカウンセリングを実施することにより、学校・保護者が同じ視点に立ち、双方の役割分担のもと生徒を支援することができるようになった。

(3)関係機関との連携

ア 他の高等学校や技能教育施設、特別支援学校との連携

(ア)他の高等学校との連携
 特別支援教育の現状と課題について、他校の担当者と情報交換会議を開いたり、他校の現職教育等において本校の取組状況を報告することによって発信している。報告内容としては「発達障害の理解と支援」「特別支援教育における校内支援体制の構築」などのテーマから「コーディネーションの実際」「支援が必要な生徒への対応」といった、より具体的なテーマに変化しつつある傾向が見られる。

  • 「高等学校における特別支援教育推進委員会」の開催
     県教育委員会特別支援教育室と連携し、標記委員会を本校で開催した。県立高等学校10校の特別支援教育コーディネーター11名が参加し、各校での特別支援教育の実施状況(校内委員会の構成及び活動状況・特別支援教育実施のための課題・特色ある効果的な取組等)について情報交換するとともに、1.発達障害のある生徒等への効果的な取組2.特別支援教育に関する高等学校教員研修の在り方について協議を行った。協議では2グループに分かれての協議形態をとることで、討議が活発に行われた。
    ○情報交換の中から
    1. 高等学校教員の気づきは各校での研修もあり、高まってきている。
    2. 中学校からの引き継ぎにおいては、学校間で担当の顔が見える関係づくりが必要である。
    3. 「学び直し」の教育課程に対する教員の意識は異なっており、生徒の実態に合わせた取組については十分な協議が必要である。小学校、中学校のどういった段階でつまずいているのかを把握するためには、各教科の学びについて知っておく必要がある。(高等学校教員は知らないことが多い。)
    4. 特別支援学校との連携で、就労支援や福祉機関との連携が推進された。
    5. 保護者の発達障害に対する理解は進んでいない。発達障害のことを学校側に伝えていないことや、周りの生徒には伝えないでほしいと要望のあることが多く、支援策として担任だけでなく校内委員会等のチームとして支援を行っていくことが大切である。
    6. LDの体験による研修会は、教員が具体的な活動を通して他の教員と意見交換をすることができ、生徒理解のための共通理解を図るために効果的である。
  • 現職教育実施校への発信
    南紀高校(8月)
    和歌山工業高校定時制(10月)
    日高高校(11月)
    和歌山工業高校(12月)
  • 情報交換会議での発信
    新翔高校(6月)
    鳥取県立日野高校(1月)
    有田中央高校(2月)
    岩手県立紫波総合高校(2月)
    高梁市立宇治高校(3月)
    北海道江別高校(3月)
  • 他府県での研修会での発信 広島県(8月)

(イ)特別支援学校との連携
 特別支援学校主催の研修会や公開講座への参加や本校での「特別支援教育研修会」の分科会における、情報交換や協議を通して、連携を図っている。

イ 発達障害者支援センターやハローワーク等関係機関との連携

(ア)発達障害者支援センターの職員による授業参観やワークショップを取り入れた現職教育を行い、支援を必要とする生徒に対する授業中の具体的な支援の方法を研修し、「わかる授業づくり」に活かせた。

(イ)必要に応じて、発達障害者支援センターや障害者職業センター、ハローワークにて、生徒・保護者と共に就労相談を受け、職業評価に基づき本人の就労について、時には専門機関も交えた支援会議を開催した。

ウ 地域の教育施設や人材等の活用

(ア)以前から行っている和歌山市内の中学校との「教育懇談会」を、今年度は「特別支援教育講演会」の形態で開催し、共に学ぶ機会を持った。

(イ)地域の小学校での授業参観や意見交換によって得られた情報を、教育課程委員会などで共有し、「わかる授業」づくりを目指した。

(ウ)地域の人材の活用
 6/16 講演「生きている喜び」(1年生対象)柳岡克子氏
 自己受容・自尊感情の向上と他者理解の姿勢を育む。

エ 成果と課題
 他校の現職教育や各種研究会(研修会)へ出向き、本校の取り組みについて報告したり、地域の小学校・中学校、特別支援学校での授業参観や本校で開催した「特別支援教育講演会」などを通して、校種を越えたつながりや連帯感が生まれたように思う。
 さらに中・高の引き継ぎをより円滑にし、早期かつ適切な支援につなげていくために、「連携支援シート」の活用や中学校への訪問を通してより一層の連携を図っていきたい。
 また「高等学校における特別支援教育推進委員会」を開催し、本校の取組を発信するとともに、互いに学び合いながら高校の特別支援教育の啓発や発展に貢献できればと思っている。

(4)関連事業等との連携

ア 「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」における地域別研修や特別支援教育啓発セミナーへの参加

イ (県)特別支援教育実践資料集の編集委員としての参画

3 今後の我が国における発達障害のある生徒の支援の在り方についての提案等

(1)特別支援教育は、特別支援学校・学級だけではなく通常の学級に在籍する発達障害等特別なニーズを要する生徒の支援の方策が大きな課題となる。そのためには、職員全体が発達障害を正しく理解し、生徒一人一人のニーズに合わせた個別支援が、支援の前提となることは本報告書において前述したとおりである。しかしその一方で、特別支援教育は、特別支援学校・学級のいわゆる専門家に任せるだけで良しとする「特別」なものであるという認識がいまだあることもまた事実である。そういった認識を捨て、校内研修や事例検討会の機会を多く持ち、職員全体のテーマとし、管理職のリーダーシップのもと、組織的に取り組んでいかなければならない。

(2)一人一人のニーズに合わせた個別支援だけに終わることなく、障害の有無に関わらずお互いに学び合い育ち合う、集団の力が発揮できる「学級集団づくり」と生徒が意欲的に参加できる「誰にもわかる授業づくり」が今後の特別支援教育の基盤となると思う。しかしその成果を上げるためにはあらゆる方向から研究するとともに、より一層効果的なものにするためには、適正規模の学級編制をはじめ教育条件の整備が望まれる。

4 その他特記事項(エピソードを含む)

(1)教育相談室登校による支援から

 対人関係において課題があり、集団での生活が苦手であるB君は、入学式直後から不登校傾向があり、登校しても校舎の内外をさまよっている毎日が続いていた。そこで本人・保護者のカウンセリングを実施し、5月からの教育相談室登校を提案した。中学校でも同じような状況が3年間続き、高校においてむしろ毎日教育相談室に登校していること自体が信じられない状況であるという。先ず教育相談室では彼の当面の目標を、「枠」づくりとした。毎日登校し、一定の時間、学校にいるという「時間的な枠」、そしてさらに教育相談室という決まった場所で過ごすという「空間的な枠」に入ることを最優先に考えたからである。彼は1ヶ月もたたない内に「枠」に入れるようになった。ただ彼は教育相談室では自分の興味のあることしかしない。勉強はまったくしようとしない。小学校3年の頃よりほとんど授業を受けなかったと言う。
 次の目標は「行動の枠」である。興味を学習に向けるべく、さまざまなアプローチをした。その結果、漢字検定取得が彼の当面の目標となっている。
 現在本人も保護者も「教室に入る」という最終目標に向かって、もう一度1年生をやり直すことを決意している。そのためには、勉強をすることが自分にとっての課題だと本人は言う。その課題を克服するには自分には意欲が足りないと言う。その意欲は1.ほめられること2.ちやほやされることから生まれてくるものだと先日彼が言った。自分には今までその経験がまったくと言っていいほどなかったと言う。ただ彼はこのような話を、日常会話ができない「変わった子」というレッテルを貼るのではなく、哲学的な話として真剣に相手をしてくれる教師が少なからずいる本校に愛着を持ったことは間違いないようだ。このような会話は彼の心のもやもやを晴らしてくれるエネルギーになっていると言う。今彼は毎日相談室に登校し、いろんな教師との関わりの中で、自分を見つめ、高校生としての自分の理想像に近づくための努力をし始めている。
具体的な事例より

(2)授業中の気づきから始まった支援から

 C君は診断を受けている生徒ではないが、彼の授業中の状況やテスト結果などが、単に彼の努力不足に起因するだけのものではなく、学習上の支援が必要なことに気づき、職員全体で共通理解する必要があることから、授業担当や担任との情報交換を経て、C君の授業担当者会議を開催。1.教科全般にわたり基礎的な学力が定着していないこと2.ノートや課題の提出が十分ではないこと等が話し合われ、「自主勉強会」への参加を促すこと、さらに授業のあと担当者が声かけをし、ノートなどの提出をサポートすることなどの具体的な支援方法を協議した。
 担任・授業担当・クラブ顧問・学力アップ非常勤講師・特別支援教育コーディネーターなどのチーム支援及び継続したカウンセリングの結果、学習意欲が高まるとともに、進路に対しても前向きに取り組み、学校あっせんによる就労に至った。

5 総括

(1)職員全体が、生徒を多面的に把握・理解し、生徒一人一人のニーズに合わせて支援していくという特別支援教育の観点に基づき、学校全体として特別支援教育だけでなく、1.生徒指導における取組(頭髪・服装等の身だしなみ指導、校門指導や校内巡視)2.学習環境の整備(授業規律や朝の読書など)3.学力向上に向けた取組を実施してきた成果が、発達障害のある生徒だけではなく、他の生徒の日常の様子に変化や成長が見られた。さらに本校の課題であった問題行動や中途退学生徒が減少し、学校全体にその成果が顕著に認められた。

(2)生徒のさまざまな活動の場面における個別支援のノウハウが、支援を要する生徒だけでなく、授業づくりや学級集団づくりを中心とした全体支援へと広がりつつある。そして今度は全体支援の成果が、落ち着いた学級環境や学校生活を生み出すことによって、支援を要する生徒が心理的に不安定になる状況が少なくなるなど、個別支援に反映されるというように2つの支援のアプローチが相乗効果を生むようになってきた。特に授業担当者会議や教育課程委員会などでの話し合い、小学校への授業参観や基礎学力の定着をはかる「総合的な学習の時間」の教材づくりや担当者の話し合いが、生徒のつまずきの発見や学習形態の工夫さらに「わかる授業」の取組にもつながっている。その結果生徒の学習意欲が向上し、成績にも反映されている。

(3)前述のような成果を得ることができたが、ADHDや不登校傾向の生徒に対する支援とその効果において十分でない点や、より高い到達目標にまで生徒を成長させる点等、取り組むべき課題がまだあり、これまでの成果に満足することなくさらに特別支援教育を推進する必要がある。

6 モデル校の概要

1 学級数と生徒数(平成22年5月現在)

課程 学科 第1学年 第2学年 第3学年 合計
学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数 学級数 生徒数
全日制 普通科 6 250 6 227 6 203 18 680
6 250 6 227 6 203 18 680
250 6 227 6 203 18 680

2 教職員数(平成22年5月現在)

校長 教頭 教諭 養護教諭 非常勤講師 実習助手 ALT スクール
カウンセラー
事務職員 司書 その他
1 2 46 2 11 1 1 1 6 1 3 75

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成24年10月 --