都道府県名 千葉県
学校名 千葉県立船橋法典高等学校
学校所在地 船橋市藤原4‐1‐1
研究期間 平成20~21年度
発達障害を含め特別な支援を必要とする生徒への「きめ細かで丁寧な指導・支援」を行うことが、全ての生徒への学力向上など、有効な指導・支援につながるという視点から、その具体的な指導方法について実践的な検討及び有効な教材の開発を行う。また、成長と共に「生きにくさ」を感じてきた生徒に対する個別支援のためのシステムの構築に向けた研究を進める。
本校がこれまで培い、スローガンとしてきた「厳しく、優しく、美しく」を踏まえ、校内支援委員会や研究・モデル事業推進委員会を中心とした組織的な研究を進める。
(1)発達障害の可能性のある生徒が、社会の中で生活する際に感じる「生きにくさ」を、発達障害の視点から個別にとらえ、よりよい改善方法へ結びつけるためのシステムと支援プログラムを構築する。
(2)発達障害のある特別な支援を必要とする個人を含む集団が、適切に機能するような「きめ細かで丁寧な指導」の在り方を、集団と個の視点から捉え直し、その体制整備を図る。
(3)発達障害等の可能性のある生徒が、その持てる力を高め、よりよく学習し、生活しやすい校内環境の整備を進める。
具体的には、次の4点を研究の重点項目とする。
本校の実践している「きめ細かで丁寧な指導・支援」の延長上に、高等学校における特別支援教育の在り方があるとして研究を進めた。学校生活全般において、1.学習指導、2.特別活動・部活動、3.生徒指導・教育相談及び4.進路指導の4つの領域から、生徒一人一人を大切にする指導・支援の方法を構築した。その結果、発達障害を含む特別な支援を必要とする生徒への取組が、全ての生徒に対して有効であることが確認できた。そこで、本校における特別支援教育を、「ユニバーサルデザインによる特別支援教育」と位置づけた。
本校の研究の取組では、発達障害の有無にかかわらず、すべての生徒に対して支援を行うことを目的にしているので、以下の(1)~(3)の発達障害のある生徒に対するという項目は、全生徒に対してと考えて報告する。
本校は、今年で県指定の「自己啓発指導重点校」として4年目を迎える。かつては、授業に参加できない(多動性・衝動性の高い)生徒やルールを守ることができない生徒も在籍していたが、現在では、中学校の頃に不登校の経験やいじめの被害にあったことがある生徒など、生徒の実態が多様化してきた。また、学習に対する意欲が低く、発達障害が疑われる生徒も存在するというのが現状である。教育相談室でスクールカウンセラーによるカウンセリングを受けている者ばかりではなく、部活動や生徒会活動を積極的に行っている者の中にも、その傾向がみられる。
(ア)職員から見た生徒の実態(平成20年7月実施)
生徒の実態を把握するために、授業やホームルームの時間の様子などを中心に、学年職員や各教科担任による実態調査を実施した。調査内容は、1.学習面で困り感のある(ある教科が極端に苦手・ノートがとれない)生徒2.社会性や対人関係で困り感のある(感情をコントロールできない・周囲とコミュニケーションがとれない)生徒3.自分の行動に困り感のある(不注意が多い・じっとしていることができない)生徒の3項目について、クラスに何人くらい「困り感」を持った生徒が存在するのかをアンケート方式で調査した。その結果、1.2.3.のそれぞれの項目だけでなく、重複した項目で「困り感」を持つ生徒が多く存在することが明らになった。
(イ)KiSS‐18を用いたソーシャルスキルの実態調査(平成20年9月・21年4月実施)
KiSS‐18(Kikuchi’s Scale of Social Skills: 18 items)は、菊池章夫氏により作成された簡便なソーシャルスキルの自己評価尺度である。質問項目が18と少なく、短時間で記入できるので学級で取り組むのに適している。本校の生徒の実態に合わせて、質問項目の表現を一部修正し、自己評価と必要度についての質問紙を使用した(KiSS‐18法典Version)。1学年の生徒を対象にKiSS‐18法典Versionを実施した。自己評価が低い項目(1:いつもそうでない、2:たいていそうでない、の回答率の合計が20%以上)と、必要度が特に高い項目(4:必要かもしれない、5:とても必要だの回答率の合計が60%以上)から分析して、本校の実態にあったソーシャルスキル教育を実践するためのスキルの抽出を行った。また、自己評価と必要度の相関関係を調べた結果、各スキルで自己評価が高い生徒が、その必要度も高く感じている傾向にあることがわかったこのことは、自己評価の低い生徒は、その必要性に気づいていないと考えられる。そこで、社会性を高めるスキルのトレーニングを、全生徒に行うことが有効であると考えた。平成21年度入学生に対しても同様の調査を実施したが、全体的に似た傾向にあることが確認できた。そこで、平成21年度のソーシャルスキル教育の実施にあたっては、平成20年度に取り組んだスキルを継続して実施することにした。
(ウ)TK式テストバッテリーM2による生徒の実態(平成21年4月実施)
平成21年度は1・2学年の生徒を対象に、TK式テストバッテリーM2(田中教育研究所編)を実施して生徒の実態把握を行った。検査の結果、1学年も2学年も全体的に似た傾向があることが分かった。本校で実施している「きめ細かで丁寧な指導・支援」に加えて、どんな支援が必要か、校内支援委員会や学年会で検討していく情報を得ることができた。次に各情報について本校の傾向をまとめてみた。
このような傾向から、学習面や生活面において、学校全体やクラス、生徒一人一人に向けたサポートが必要であることが確認できた。
(エ)スクールカウンセラーから見た生徒の実態(平成20・21年の報告)
本校の相談室は毎日開室しており、養護教諭(常時)とスクールカウンセラー(週1回金曜日)の2人体制となっている。相談という形で予約を入れて来談する者は少なく、「なんとなく話をしに…」と相談室に来て、スクールカウンセラーや相談室担当養護教諭と会話をする生徒が多くいる。特に相談するというわけでもなく、相談室に頻回来室する生徒は家庭や集団適応に何かしらの不安を抱えていることがある。相談内容は、人間関係(友人・恋愛)に関する相談が最も多く、次に不登校(学校に来たくない)に関することが多い。友人関係に関しては、深刻ないじめやトラブルよりもむしろ、対人スキル不足によるものや、自尊心の低さなどにより、意見の食い違いやミスコミュニケーションに耐えきれない傾向が強いと感じられる。また、中学時代の時点でいじめや不登校を経験し、その傷や原因を持ち越したまま入学している者もおり、その場合、同じパターンを繰り返した時点で「やっぱりダメだ」とあきらめてしまう傾向が窺える。
本校の生徒は全体的に発達上の「やり残し」や「つまずき」は多いが、少なくとも深刻な人格障害・愛着障害、情緒の障害など、基底的な人格の欠損や深刻なトラウマの影響を示唆する生徒はほとんどみられない。特定の教師に頻繁に話しに来たり好意を言語化したりするなど、愛着を表現することができる者がほとんどである。
カウンセリングや教員のインタビューから得られたことを総合すると、全体の1割程度は何らかの原因により学習の習熟が困難である可能性が疑われているが、いわゆる「障害」の診断を受けている生徒はごく少数である。「ノートは一生懸命とっているが全く覚えられない」「授業は聞いているが確認のため質問すると理解していない」などの生徒の中には、空間的・抽象的な概念の把握が苦手、教科書の中から注意を払うべき部分を選択できない、文章の中から指定の言葉を見つけられないなどの「苦手さ」により授業について行けなくなっていることがしばしば発見される。授業中騒いだり居眠りをしたりしている生徒にもその可能性はある。また、友人とのトラブルを頻繁に起こす生徒の中にも、性格の問題というよりも周囲の人間関係や自分への感情を読みきれない、自分の言動が周囲にどんな影響を及ぼしているか客観的に判断できないなどの問題が隠れている場合もある。ただし生得的な「苦手さ」が疑われる場合でも、高校年齢に達してからの発達の診断には診断自体の難しさ、本人の自尊心・進路への影響、その後のサポートの計画など諸々の問題がある。結果的に高校集団からドロップアウトした時点でその者への社会的な教育・サポートの機会は終了するケースが多く、現実的には本校の生徒に関しては、学校でのサポートが「最後の砦」といえる。
(オ)Q‐U(高校生用)調査による本校の生徒の実態(平成19年度全学年で実施)
学校生活に対する満足感や充実感、対人関係や学業面などの学校生活における諸領域に対する意欲についての特徴を把握するために、平成19年度に全学年を対象に、標準化されている心理尺度「Q‐U(高校生用)」(河村、1999a)(以下QU)を実施した。また、平成21年度には現3年生(平成19年度1年生)を対象にQU調査を実施して、本校の取組の成果を検証した。
調査を実施した結果から、本校の特徴について次のように考えることができる。まず、学校生活意欲尺度の下位因子である「教師との関係」の平均得点が、その他の因子平均得点と比べて低い傾向であることがうかがわれた。このことは、生徒が教師に対して疎遠に感じている、教師と良好な関係が形成できていないと感じているなどの傾向があるといえる。次に満足度の調査から、半数以上の生徒が「非承認群」と「学校生活不満足群」に属していたことが明らかになった。このことは、日々の学校生活に対して積極的な意味を見出すことが少なく、不登校や中途退学に至る可能性が高い傾向があるといえる。さらに、日々の学校生活における対人関係や活動に対して意欲的に取り組み、現在の学校生活に満足している「学校生活満足群」に属している生徒は学校全体で23%であった。
本研究では、本校がこれまで実践してきた「きめ細かで丁寧な指導」の延長が、発達障害を含む、すべての生徒に対して有効な支援・指導方法であると考える。つまり、本校の実践している学校生活全体を通した特別支援教育は、発達障害の有無にかかわらずすべての生徒にとって魅力ある快適な学校作りをすることである。そこで、本校の学校生活全体を1.学習指導2.特別活動・部活動3.生徒指導・教育相談4.進路指導の4つの領域として捉え、特別支援教育の体制を整えた。また、自己理解を高めることが生徒一人一人に対するキャリア教育につながると考え、そのために、自己肯定感の向上を目的にした、ソーシャルスキルトレーニングをクラス全体に実施する形式の「ソーシャルスキル教育」(以下SSE)を実践するという新しい試みを実施した。
(ア)学習指導について
「きめ細かで丁寧な指導・支援」を実施し、基礎基本を中心とした「わかりやすい授業」の実践に努める。
(イ)特別活動について
特別活動や部活動においても、「きめ細かで丁寧な指導・支援」を実施する。学校生活全般を通して、生徒一人一人に活躍の場面を作り、それに対して責任をもって取り組めるようにサポートする。
(ウ)生徒指導・教育相談について
学年室体制をとって生徒の生活をサポートする。
(エ)進路指導について
進路指導部を中心に学年職員を含めみんなで個別に指導・支援する。
自己啓発指導重点校の指定を受けて4年間が過ぎようとしている。学校改革を進める中で様々な取組をし、生徒一人一人を大切にしていくという姿勢から「きめ細かで丁寧な指導・支援」を実践してきた。その結果、退学者や転学者の減少、年間出席率の向上など、生徒の学校生活も変化してきた。欠席者について今年度と昨年度を比較すると、4月から12月までの8ヶ月間における延べ欠席者数は全体で11.5%減少、延べ遅刻者数は18.3%の減少となった。中学校のときに長期欠席(3年間で30日以上)の生徒も、年間で皆勤をとるなど、本校に入学したことによって変化を示している。また、頭髪や服装面での改善指導の対象者や特別指導の件数もかなり減少している。進路決定率においては、昨今の厳しい雇用情勢の中で、前年度を上回る進路決定率(82.6→88.6)となった。これは、本校の生徒一人一人を大切にする学校として成果であると考えられる。このような状況と学校全体の雰囲気をみると、教員と生徒の関係もよく、落ち着いた学校、魅力ある学校へと変化してきている。
学校生活全体を通した特別支援教育ということで、1.学習指導2.特別活動・部活動3.生徒指導・教育相談4.進路指導の4つの領域から教育活動を見直して、本校の特別支援教育のスタイルをデザインしてきた。その結果、本校が研究課題としている「発達障害を含め特別な支援を必要とする生徒への『きめ細かで丁寧な指導・支援』を行うことが、すべての生徒への学力向上など、有効な指導・支援につながる」という視点が「高等学校における特別支援教育」に結びつくことが確認できた。
本校では、「特別支援教育」のデザインを「ユニバーサルデザインによる特別支援教育」として捉えることとする。このことは、本校の特別支援教育体制としてこれからも継続していくのであるが、「すべての生徒」というフィルターをどのように狭めていくかが課題となる。つまり、「すべての生徒」の中でさらに、個別の支援が必要な生徒に対して何をするかという課題が残った。そのためには、校内支援体制の強化が必要となり、「ユニバーサルデザイン」の幅を広げると同時に、さらに個別に対応するという視点を高めていきたいと考えている。
学習面に困難さを感じている生徒が多いため、各教科担任中心に工夫した授業実践を行ってきた。また、生徒が各教科の基準に到達するために、テストや評価における配慮についても、様々な工夫を検討した。
平成20年度は、各教科担任が授業における工夫や、指導・支援方法を各教科でまとめると同時に、校内研修会を通して学んだ障害に対する工夫や支援方法を取り入れて、クラス全体にできる指導・支援方法をまとめた。平成21年度は、クラス全体にできる指導・支援に加えてさらに、クラスの中で個別の支援が必要な生徒に対して目を向けた指導・支援方法について検討した。
(ア)クラス全体への支援(平成20年度研究)
授業における工夫として、一斉授業の中で教科担任が工夫していることをまとめたので、その一例を紹介する。
1.板書計画の工夫
2.教材やプリントの工夫
3.指導方法の工夫
4.その他の工夫
(イ)個別支援(平成21年度研究)
ユニバーサルデザインの視点ですべての生徒に対して授業の工夫をしているが、さらに個別の指導・支援が必要な生徒もいる。そこで平成21年度は、クラス全体の中で、さらに個別の支援が必要な生徒に対して目を向けた。新たに教科担任が活用する「学習支援カード」を導入し、生徒の状況(困り感)を把握して、具体的な指導・支援方法をまとめたので、その一例を紹介する。
きめ細かい丁寧な指導の成果があり、発達障害の疑いのある生徒を含めすべての生徒に対して、学習に取り組みやすい環境が整ってきた。また、自分がどのように努力すれば良いのかの目標設定がしやすくなり、あきらめずに努力する生徒が増えてきている。実際に「中学のときに分からなかったことが理解できた」「高校に来てから点数がとれるようになった」という生徒の声も聞かれる。一方、少人数授業やTTを活用して、個別に支援する時間を増やしているが、個別の支援が必要な生徒が多く、実際には全員に支援が行きとどかないのが現状である。また、継続した指導を心掛けているが、欠席が多いために、前回とのつながりがみえず、「授業がわからない」という悪循環に陥るケースも多い。少人数授業やTTの授業、または一斉授業の中で、いかにして、個別に支援する時間を確保するかが、今後の課題となる。
本校では進路指導においても、すべての生徒に対して「きめ細かで丁寧な指導・支援」を実施している。平成21年度の進路希望状況をみると、未定の生徒を含めると、就職希望者が半数以上である。また、進学希望者については、ほとんどの生徒が指定校推薦またはAO入試を利用して受験するので、作文や面接、自己アピールなどによる選抜方法となる。そこで、進路の実現を図るために、書くことが苦手な生徒や話すのが苦手な生徒、自分をアピールすることが苦手な生徒など、生徒一人一人に合った指導・支援方法が必要となってくる。自己理解を深め自己肯定感を高めるキャリア教育を進め、生徒一人一人にあった進路指導につなげたいと考えている。
1学年から計画的に進路学習(体験学習や講演会など)を重ね、キャリア教育に取り組んでいる。3学年では、進路指導部と学年職員で個別に生徒に対応することで、「きめ細かで丁寧な指導・支援」の実現を果たしてきた。その中で、話をするのが苦手な生徒や書くことが苦手な生徒に対して丁寧に対応し、力をつけることができたと考えている。しかし、就職や進学させることだけがねらいではないので、就職後または進学後に困らないためのスキルを身につけるにはどうするかなど課題が残っている。
今後はさらに、生徒一人一人のスキルを向上させるための指導・支援方法を研究していく必要があると同時に、就職先または進学先との連携も必要となってくると考える。
保護者及び生徒向けの講演会として2回実施した。どちらもテーマを「心」として、命の大切さや相手の感情についての内容とした。発達障害についての直接的な話ではなく、自己理解を深め自己肯定感の向上をねらい、自分と違う他者を認めることにつなげた。また、社会性のスキルの向上をねらい、1学年の各クラス全員(20名)に対して、SSEを実施した。テーマは「上手な断り方」「話の聴き方1.・2.」とし、担任がSSEを実施し、年間3回行った。
講演会を通して、発達障害に限らず他者への理解を深めた。また、ソーシャルスキルを身につけることで、「生きにくさ」を感じている生徒を含め、すべての生徒に対してスキルが身に付くようにフォローした。今後は、1学年で継続して実施していくと同時に1学年で取り組んだSSEを発展させて2学年・3学年と継続していくための方法を検討したい。
(ア)教職員向け研修会の実施
第1回5月22日(金曜日)
「個別の指導計画と教育支援計画について」
第2回6月12日(金曜日)
「生徒の実態把握と校内支援委員会の進め方」
講師:鳥居深雪氏(植草学園大学准教授)
第3回6月26日(金曜日)
「生徒の実態把握について」
第4回7月3日(金曜日)
「高等学校における教育相談と特別支援教育について」
講師:藤原和政氏(上級教育カウンセラー)
第5回7月10日(金曜日)
「第2学期の特別支援教育校内支援委員会の活動について」
第6回9月11日(金曜日)
「個別の指導計画と事例研究」
講師:鳥居深雪氏(植草学園大学准教授)
第7回10月16日(金曜日)
「QUの調査について」
講師:藤原和政氏(上級教育カウンセラー)
第8回11月13日(金曜日)
「研究のまとめと報告書の作成について」
講師:鳥居深雪氏(植草学園大学准教授)
第9回12月9日(水曜日)
「精神科医からみた思春期の子どもが抱える問題と対応策」
講師:永井俊哉氏(ながいメンタルクリニック院長)
(イ)保護者及び生徒向け講演会の実施(平成21年度実施20年度は2回実施)
第1回7月15日(水曜日)
「こころの教育‐命の大切さ」
講師:松田洋子氏(松田助産院院長)
第2回12月17日(木曜日)
「心の表現‐相手の感情をキャッチする」
講師:松本巌氏(県総合教育センター指導主事)
小・中学校ですでに実践している「特別支援教育」が、高等学校においても導入された。「特別支援教育」という言葉が先行し、義務教育でない高等学校・普通科で何をするのか、何ができるのかが不安であったが、研修を重ねる中で、本校が実践してきた「きめ細かで丁寧な指導」の延長にあることが理解できた。また、発達障害に対する理解が深まり、従来の指導方法に加えて、さらにどのような指導・支援が必要になるのか、各教科で検討し授業の見直しが始まった。職員の中から、「今までやってきた方法は有効だったね」「あの生徒が理解できるためには何ができるかな」など、今まで以上に生徒一人一人に目を向けた会話が増えるようになった。
今後は、より具体的な支援策の検討と個別の支援計画をどのように進めていくかが課題である。また、特別支援教育として実践した成果として、取り組んだ結果がどうなったかを検証する方法を模索することが課題となる。
普通教室棟の各階に学年室を配置し、常に学年職員が2名常駐(時間割に当番を割り当てる)する体制を整え生徒をサポートしている。本校では、遅刻してきた生徒や授業中に教室を退室した生徒は、教室に入室する前に学年室を経由しなければならないことになっている。該当する生徒は学年室で、遅刻の場合は遅刻カード、再入室の場合は入室許可証を記入することになっており、学年職員が対応にあたる。遅刻の回数や入室許可証の枚数によっては、特別指導の対象になるのだが、ペナルティーを与えることが目的ではなく、カードを通しての生徒一人一人と話をして生徒理解を深めることがねらいである。また、生徒に対して理由を聞くだけでなく、挨拶の仕方や服装の指導、健康観察などを含め、生徒とコミュニケーションをとるなかで、人間関係の形成や生徒の様子の変化に気づき、生徒をサポートするシステムになっている。このように学年室でのサポート体制が整っているので、生徒の相談などには入室しやすい環境となっており、臨時の相談室にもなり、生徒が頻繁に出入りできる環境を整備している。保健室に行くにも学年室を経由(学年職員が養護教諭に事前連絡する)することになっており、生徒の様子を学年職員が把握できるようになっている。体調が悪いだけでなく、不安や悩みを持っている生徒が、学年職員に相談することで気分が落ち着き、すっきりして保健室に行かずに教室に帰っていくという場面も多く見られる。このように本校の学年室は、生徒との人間関係作りや生徒理解、相談から指導まで、生徒一人一人にあったフォローをできる場所として機能している。
本校には、当たり前のことやルールが守れない生徒もいる。生徒指導部では 様々なルールを設けて対処しているが、その一つの手段としてカードを利用している。先の学年室体制のところで、遅刻者に対する「遅刻カード」や教室への再入室にする際の「入室許可証」について説明したが、他にも、「問題行動カード」などがある。授業規律や教員との対話などで違反した生徒に対し問題行動カードの利用もあるが、他のカード同様、あくまで指導の中での発行である。なぜ、カードの発行に至ったかの経緯を説明し、理解させ素直に聞かせる手段でもある。最近は、指導することによって「切れる」生徒も少なくなったが、以前は指導中に癇癪を起こし、退室してしまう生徒もいた。よく話しをして何が悪かったのか、どうしてそうなったのかを整理整頓することが必要だが、そのためには教員との信頼関係が必要となる。普段の学校生活の中で、いかに生徒一人一人を理解して接しているかどうかが重要となる。そのような中で、生徒との信頼関係が築かれ、指導が生きるのではないだろうか。他には、「改善指導カード」があり、服装・頭髪指導の際に利用しているが、他のカード同様の目的で利用している。
このように、本校では様々なカードを利用して指導にあたるが、職員間の共通の認識が必要となる。そこで、遅刻指導や授業規律を守らせる指導、学年室常駐についても年度始めに生徒指導の手引きを職員に配布し共通理解のもとで指導にあたっている。
各学級とも教室環境の整備にも力を入れている。高校の教室の掲示物は中学校と比べると閑散としていることが多いが、本校では掲示物が充実している。学年ごとに学年目標を設定して、学校目標や校歌と並べて学年目標をクラスの正面に掲示する。1学年では、学級目標も同様に掲示している。背面黒板には、2週間分の行事予定を掲示して、長期的な日程が分かるように工夫し、連絡事項を書き込めるコーナーを作るなどして、学年・学級での独自の工夫が見られる。こうすることで、口頭だけでなく視覚から情報を得ることができるので、生徒も常に確認がしやすい環境となっている。他にも工夫が見られ、例えば、日程の変更に関する連絡などは、口頭でだけでは理解しにくい部分をフォローするために、黒板に板書して分かりやすくするなどの工夫している。また、毎月の皆勤者の掲示や年間計画、行事に向けての掲示コーナーなど様々な工夫をしている。
本校では、学級組織のほかに班活動を実施している。一人一役の分担を受け持つことで、自分の分担に対する責任を持たせたり、仲間と協力して助け合ったりすることなどをねらいとしている。特に新しいクラスでの最初の旅行行事では、班活動を通して、相手のことを理解したり、お互いの人間関係を形成したりすることにも役立っている。また、清掃に関しても全員清掃を実施しており、班ごとに活動している。教室には清掃分担表や掃除の手順などが掲示され、ここにも工夫がなされている。
生徒指導体制が整ってきたのは、職員の共通理解と学年室の機能の充実による部分が大きい。職員が生徒一人一人を理解して、個人に合った指導・支援をしていることが、本校の特徴である。そのために、本校では週に1回(月曜日の放課後)学年会を実施している。学年会の中心は生徒の情報交換で、遅刻・欠席が多い生徒の把握、悩みや不安を抱えている生徒の把握などをして、学年単位でのフォロー体制(指導・支援方法)を検討している。また、各学年の校内支援委員は学年会での生徒の実態把握の結果を校内支援委員会で報告し、校内委員会としても生徒の実態把握ができるようにしている。
No | 所属・職名 | 備考 |
---|---|---|
1 | 教頭 | |
2 | 事務長 | |
3 | 教務主任 | |
4 | 総務部長 | |
5 | 第1学年主任 | |
6 | 第2学年主任 | |
7 | 第3学年主任 | |
8 | 生徒指導主事 | |
9 | 進路指導主事 | |
10 | 生徒会保健部長 | |
11 | 教育相談委員長 | |
12 | スクールカウンセラー | |
13 | 特別支援教育コーディネーター |
第1回「今年度のSNEモデル校としての実践の方針について」
第2回「SNEモデル校としての事例研究の視点と課題について」
第3回「SNEモデル事業のまとめと来年度からの特別支援教育について」
1年目の研究を深化させるために、各学期1回の開催とした。また、個別の支援が必要な生徒に対するケース会議を行う場合は、随時委員会を開催できるように準備した。従来の教育相談委員会を、特別支援教育校内支援委員会として改組して、週に1回時間割の中に位置づけて開催している。研究委員会と連携を図り、研究の推進や生徒の実態把握、支援方法などの検討を行っている。特別支援教育校内支援委員のメンバー構成は、以下の通りである。
生徒指導部2名、各学年1名、養護教諭、スクールカウンセラー、特別支援教育コーディネーター計8名
特別支援教育コーディネーターを2名指名し、1名は3学年職員(担任と兼任)、もう1名は生徒指導主事が兼任した。週1回の校内支援委員会で生徒の実態を把握し、学年会を通して生徒に対する指導・支援方法を検討した。個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成に向けては、校内研修会で検討し、本校の実態にあったフォーマットの作成に向けて研究した。
校内の組織が整備され、特別支援教育の必要性を認識するとともに、本校での特別支援教育を推進することができた。本校の従来からの教育実践に加え、新たに個別の支援に向けての準備が今後の課題となる。
No | 所属・職名 | 備考 |
---|---|---|
1 | 千葉県教育庁教育振興部特別支援教育課指導主事 | |
2 | 千葉県総合教育センター特別支援教育部研究指導主事 | |
3 | 千葉県子どもと親のサポートセンター主任指導主事 | |
4 | 植草学園大学准教授 | |
5 | 臨床心理士 |
夏季休業中などを利用して、研究の方向性や支援方法について、話し合うことができた。また、関係機関との連携に向けて、本校との橋渡し役として機能した。
研究を推進していく中で、方向性を協議し、関係機関との連携の在り方や生徒の実態に応じた取組を進めることができた。今後は、生徒のより具体的な実態把握や個別の支援が必要な生徒へのきめ細かな対応を進めていきたい。
近隣の特別支援学校との将来的な連携・協力を視野に入れつつ、本校生徒会は、平成20年2月に、千葉県立船橋特別支援学校高等部との交流会を実施した。当日は本校生徒会役員ら10名が同校を訪問し、体育館でのレクリエーション(ボッチャ競技)とSHRへの参加で、約1時間の交流を行った。同校の大部分の生徒は車椅子による学校生活を送っているが、本校生徒が自発的に車椅子を押し、あるいは歩行可能な生徒の手を引くなど、自然にとけ込むことができ、好評であった。訪問した本校生徒の中には、平素級友との人間関係を築くことが苦手な生徒もいたが、その生徒も積極的に交流することができ、お互いにとって有意義な時間を過ごすことができた。
平成21年度は、昨年度の試みをふまえ、継続的な交流活動計画を立てた。7月に船橋特特別支援学校の担当教諭と協議して、2学期末の12月18日に、新旧生徒会役員が船橋特別支援学校を訪問して、前回と同様の交流会を実施することや、3学期末に吹奏楽部が、同校を訪問して交流活動を行った。
実際に連携した活動はなかったが、ジョブカフェちばやちば地域若者サポートステーション、ハローワークと必要に応じた連絡のやりとりはできた。今後は、連携に向けた取組を考えていきたい。
地域の教育施設や人材の活用に関しては不十分な点が残ったが、「開かれた学校作り委員会」や「PTAの広報活動」などで、本校の特別支援教育の取組を紹介して理解を得られた。今後は地域の教育施設や人材を、どのような連携で活用ができるかを地域とともに検討していきたい。
関係機関との連携に関しては、不十分な点が残り、今後の課題となった。
特になし
本来ならば、発達障害の有無にかかわらずすべての生徒に対してという考え方、つまり、本校の実践のような「ユニバーサルデザインによる特別支援教育」というのが理想だと考える。しかし、実際には、個別に適切な対応をするべき必要性がある生徒もいるので、高等学校の年齢期ではなく、早期の段階から必要な支援を受けて、個別の教育支援計画を利用したフォローが大切であると考える。そのためには、未だ世間に「発達障害」という概念がきちんと伝わり広がっていないので、何とかしたい。その上で、国や地域を中心とした支援の在り方が見えてくると、高等学校においても十分なケアができると思う。
特記事項なし
本校は学校改革を推進していく中で、生徒一人一人を大切にしていくという姿勢から「きめ細かで丁寧な指導・支援」を実践してきた。SNEモデル事業については、本校が実践してきた「きめ細かで丁寧な指導・支援」の延長線上に「特別支援教育」があるという視点から研究を進めてきた。そこで、3年目を向かえる来年度は、把握した実態に応じた、指導・支援方法の模索となる。この2年間のSNEモデル事業の取組から、校内の支援体制が整った。1年目は、モデル事業をどのように推進していくかが話題の中心だった校内支援委員会も、2年目を向かえて生徒の実態把握が中心となった。
本校の「高等学校における発達障害支援」における「特別支援教育」がデザインされた。3年目を向かえる来年度からは、この体制を深化させる年になると考える。高等学校における「特別支援教育」というのは、今スタートしたばかりであり、これからの取組に期待がされる。また、広く社会においても、「特別支援教育」という概念がまだ理解・浸透されていない現状からも、本校のようにモデル事業を実施した学校への期待は大きいと思う。2年間の成果をここで終わらせることなく、さらなる進展を求めて今後も取り組んでいきたい。
課程 | 学科 | 第1学年 | 第2学年 | 第3学年 | 第4学年 | 合計 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | 学級数 | 生徒数 | ||
全日制 の課程 |
普通科 | 4 | 165 | 4 | 144 | 4 | 125 | 12 | 434 | ||
計 | 4 | 165 | 4 | 144 | 4 | 125 | 12 | 434 |
校長 | 教頭 | 教諭 | 養護教諭 | 非常勤講師 | 実習助手 | ALT | 事務職員 | SC | その他 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 36 | 1 | 4 | 1 | 0 | 3 | 1 | 5 | 53 |
初等中等教育局特別支援教育課
-- 登録:平成22年07月 --