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「学び続ける高校プラットフォーム」座談会(全3回連載)
~第3回:「みらいの職員室」を想像する~

議論も終盤。「みらいの職員室」の姿や、教員に向けたメッセージを書く筆にも力がこもる

「学び続ける高校」「みらいの職員室」「プラットフォーム」といったキーワードから、現在、そして未来の高校のあり方について語り尽くす座談会。本ホームページの愛称でもある「みらいの職員室」という言葉から、どのような学校、そして教員集団のあり方をイメージされるのか、先生方に問いかけてみました。また、高校関係者のプラットフォームのあり方、そして将来的なプラットフォームへの参加者に対する応援メッセージもいただきました。最終回となる第3回の記事では、その様子を紹介します。

目次

「みらいの職員室」というフレーズから何を想像する?

――これまで、社会や技術の大きな変化の中で、高校、または教員集団に求められる役割や資質、そして様々な主体との連携のあり方もまた変わってきていることについてお話をいただきました。これまでの議論を踏まえつつも、ここからは、少し違った角度から先生方に問いかけたいと思います。今回、この記事が掲載されるポータルサイトは、「みらいの職員室」という愛称がつけられています。ここから着想を膨らませたとき、例えば10年後の高校の職員室の姿は、どのようになっているか、またはなっているべきでしょうか。ぜひ、先生方のイマジネーションをご共有いただければと思います。

滝井:これは、予想じゃなくて、希望でもいいですか?

――もちろんです!予想と希望が違えばそれでもかまいません。(笑)

岡本: …10年前と今の職員室って、変わってますか…?

一同: 変わってないな!(一同笑)

「みらいの職員室」をどのようにイメージする…?

「みらいの職員室」における教員のありかた

滝井: では、私から。上の「創造空間」が「希望」です。成績づけなどはAI副担任がやってくれるなど効率化され、時間に余裕がある状態。その中で、教員は、授業づくりや、生徒を動機づける環境づくりなど、創造的な仕事だけに集中できています。仲間同士で、本質的な学びについて話し合える日々を望みますね。ただ、現実は(10年後では)「道なかば」だと思いますね。

香山: 私は、「SDGsや社会課題を探究する学習者を支援する、トータルカリキュラムマネージャー」と表現しました。具体例として、オランダのボイヤン・スラットという若者のことが思い浮かびます。彼は、16歳の時にギリシャの海に潜ったことがきっかけで海のごみ問題に気づき、それを何とかしたいと考えました。そして、海流を活かして、そこにゴミが集まるようなブイをつくるというアイデアに到達したのち、この問題と解決のアイデアを広く社会に訴えかけ、実証実験を行うための資金と人材を獲得していきます。実験当時、彼は高卒の状態でしたが、彼の周囲には、彼のアイデアを実現しようと、第一線の研究者や企業の人材が集まってきました。

 こうした、高校生の気づきは非常に重要だと思います。そういう高校生の気づきを解決にまで繋げるためには、どういうカリキュラムで、どういった学びをしていけばよいのか。そうした見取り図がたくさん入った引き出しが職員室にあって、子どもたちは、どの引き出しを開けて学ぼうか考えることができる。そしてその見取り図をみると、高校のカリキュラムだけでなく、その後の学びの方向性も示されている。もちろん、どのような生徒でも、学びたい子、探究したい子がその職員室にやってくる。そのような職員室があってもよいと思いますね。

滝井: 「教える=Teach」という仕事の比重は下がり、一方で、探究的な学びのプログラム、マネジメントがメインの仕事になっていくんでしょうね。

岡本: 隠岐島前高校の主幹教諭による働き方改革プロジェクトも、「これからの学校の先生って、プロジェクト・マネージャーだよね」という共通理解から出発しました。プロジェクトを始めてみると、うまくいかないことの方が断然多い。でも、プロジェクト・マネージャーたる教員として、とにかくPDCAサイクルを回すことを意識して歩みを進めていきました。どんな小さなことでもスプレッドシートに記入して、小さな振り返りを行い、プロジェクトを推進する力を付けていこうともがきました。この実践を通じて、小さなPDCAサイクルを回すことは、小さな成功体験を積むことでもあり、それが教員の自己肯定感の向上にも繋がっていくのではないか、と感じました。 (岡本先生の、隠岐島前高校での具体的な挑戦については、こちらの記事を参照:https://mirashoku.mext.go.jp/activities/post_001.html

「みらいの職員室」におけるチームのあり方

岡本: あとは、10年後といわず、今でも必要だと思うことは学校の外部、とされる人が入ったチームを形成することではないかと思います。良くも悪くも、高校では校長が変わると今までの取組が継続しなくなることが多い。せっかくのいい取組であっても、続かないことも経験しました。こうした継続性の担保に関して、学校の外、例えば地域の人々が継続的に高校に関わる仕組み、例えばコミュニティ・スクール等はとても効果的だと思います。地域と一緒に学校をつくっていくことが、持続的な学校づくりに繋がっていくのではないかと思っています。

滝井: 皆さんにお聞きしたいのですが、小学校、中学校などでも地域との連携が進められている中で、地域側に、高校からのニーズを受け入れるだけの余力ってあると思われますか?

髙保: 私が現在、視野に入れている「地域」とは、地域のおじいちゃん、おばあちゃんですね。こうした方々が持つ知識や経験を、生徒と繋げたい。既に地域の研究施設や大学等は、現状でもかなりご協力をいただいているように思っています。(ご負担をおかけしているように思っています。)

香山: コミュニティ・スクールは絶対に必要だと思います。和気閑谷高校でも導入したいと考えていますが、その時に考えているのは、和気町だけでなく、隣接する2市も入れた、2市1町の首長と、商工会長を入れたコミュニティ・スクールを作りたいということです。日本全体の人口減少を考えたとき、50年後には、和気閑谷高校のみならず、和気町自体も存続しているかわからない。2市1町の単位でも小さいかもしれない、とさえ思います。高校存続どころか、地域存続も待ったなしの状況です。コミュニティ・スクール化することで、地域存続のために高校ができることは何か、という問いについて、生徒も一緒に探究することができる場を作りたいと考えています。高校として、こうした大きなテーマに道筋をつけていくことを使命として考えています。

髙保: 「繋がり」という観点から続けると、職員室の席を固定せず、教員間の繋がりも一層豊かにしたいですね。教科単位で話があるときは、同じ教科の教員同士で座る。学年に関する話がある時は、学年集団で座る。

 こうした、教職員間の横、縦、そして地域などとの連携も含めて、「つながりのある職員室」を作っていきたいですね。そしてこの校内外の繋がりの中で、生徒をどう育てたいのか、そしてそのために、教員はどう資質を伸ばし、モデルにならないといけないのか。こうしたことを話し合って、動いていける職員室のある学校には行ってみたいと思いますね。校長先生はそれをにこやかに見守るのが理想です。

プラットフォームに求めること

――皆様の考える「みらいの職員室」のあり方に大きな刺激をいただきました。その実現のための一歩、として「みらいの職員室」という本プラットフォームに求められる機能や役割について、お伺いできますか?

髙保: オンライン会議室があるとよいですね。本校は幸いにも、ここ2年で40数校に視察に来ていただいているんですが、おそらく、「視察に行くまででもないけれど話してみたい」というニーズはさらにあるように思います。プラットフォーム上に〇〇先生のページなどがあり、オンラインで、顔を見ながら数人単位で対話ができると面白いと思いますね。

香山: そういったものができるとよいですね。

髙保: 意外と、校長同士って話さないですしね。(笑)

岡本: 私も、顔が見える関係性の中で対話できる機会があるとよいと思います。例えば「メンター制度」などを作って、一緒に悩みを共有できる関係性づくりを促進するのも一案かと思います。 あと、意外にも教員が苦手なのが「振り返り」だと思います。授業やプロジェクトの振り返りの機会を共同で行うような場を、オンライン上で作ってもいいかと思います。

香山: プラットフォームに、教員の予定や話したいテーマを登録したら、AIが自動で似たようなニーズを持つ教員同士を繋いでくれる、そんな仕組みがあるとありがたいですね。探究のテーマに困っている生徒を抱える教員と、そのテーマに適任の大学教員を繋ぐなども考えられます。人と人とをマッチングすることって、とても大きなコストがかかります。こうしたマッチングの領域をAIがやってくれたら、本当に助かりますね。全国で、似たような探究のテーマに取り組んでいる人同士が、教材の共有も含めてできるとなおよいですね。

滝井: 仙台第三高校では、先ほども申し上げた通り協働の授業づくりを行っていましたが、担当が1人しかいない教科については、他校の先生と繋げることで協働性を作り上げました。直接会わなくても、オンライン上のコミュニケーションでも、十分に協働は進めることができますし、実際に、他校の先生と一緒に教材を作った例もありました。全国でそうしたことができるのは便利ですよね。

香山: プラットフォームには、企業の方にも入ってもらいたいですね。現状の制度的には難しいのかもしれませんが、自身が企業で取り組んでいることを高校で教えてみたいという人は多いのではないかと思います。

岡本: 埼玉県では、「WIN-WINプロジェクト」という施策の中で、企業と高校を繋げる取組を推進しています。そこでは、企業にとっても、学校で教えることは、企業の人材育成という観点からも有益という声を頂いています。このプラットフォームも、色々な人が参画することで、越境的なプラットフォームになっていくとよいと考えます。

滝井: 最後に、別の方向からも、もう一つ。教員という職業は、すごく良い。私は自身の職業選択を後悔したことはありません。それでも、日々の仕事に追われることで疲弊もしてしまう。そんなときに、同じように頑張っている仲間がいるということが分かるだけでも元気が取り戻せると思うんです。みんながそこに行くと元気になる場、動機づけされる場、そんなプラットフォームを作ってもらいたいなと思いますね。生徒もそうですけど、教員も動機づけがすべてですからね。

「先生っていい仕事」シンプルな言葉ゆえに心に響く

最後に:全国の先生方へのメッセージ

 編集部:教員、そしてその集団としてのチームや職員室のあり方。過去・現在・未来にわたり、縦横無尽に展開される白熱した議論の中で、時間はあっという間に過ぎていってしまいました。
  「学び続ける高校プラットフォーム~みらいの職員室~」では、今後とも、よりよい高校づくりに向けて自発的、持続的、自律的に取り組む高校関係者の皆さまと、こうした白熱する場を作っていきたいと考えています。
 そこで最後に、全国各地で奮闘している方々に向けたメッセージを、本日ご参加の先生方よりいただきました。全国の挑戦事例や、プラットフォームのあり方については今後とも継続的に発信してまいりたいと考えています。引き続き、本ポータルサイトの更新を楽しみにお待ちいただければ幸いです。

ご協力いただいた先生方、ありがとうございました!