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「学び続ける高校プラットフォーム」座談会(全3回連載)
~第2回:「学び続ける」教員集団をいかにつくるか?~

議論も中盤に差し掛かり、一段と白熱

 「学び続ける高校」「みらいの職員室」「プラットフォーム」といったキーワードから、現在、そして未来の高校のあり方について語り尽くす座談会。第2回の記事では、「学び続ける」教員集団をいかにつくるか?という仕組みづくりの話から、そこから派生して展開されたアクティブ・ラーニングへの向き合い方に関する話など、多岐に渡る議論を紹介します。

<前回までの記事>

第1回:
高校教職員の「学び」と「繋がり」の現在地

目次

学び「続ける」仕組みづくり

――高保先生から、教職員集団の「学び」を、個々の資質やキャラクターに依存させず、いかに仕組みとして継続させるか、という問題提起を頂きました(第1回記事参照)。このプラットフォームの名称も「学び続ける」とあるとおり、持続性という観点を非常に重要と捉えています。先ほどは「学び」に焦点を当てましたが、次に「続ける」方に焦点を当てた時、学校でどのようなことが必要となるのでしょうか。

香山: 滝井先生のお話で、取り組みの実効性、つまり結果を出すことが、周囲の理解を得て取り組みを継続するために重要という点がありました。その通りだと思うのですが、一方で、「主体的・対話的で深い学び」を推進しようとする中でも、偏差値や進学実績など従来的な指標の結果のみを求められてしまうことも多い。

滝井: アクティブ・ラーニングという手法と偏差値や進学実績という結果。私はあまりそこに矛盾は感じませんね。明らかに、従来的な指標上の「結果」であったとしても、結果を出せる指導法としてはアクティブ・ラーニングに軍配が上がる。正直なところ、「勝負あり」といった感覚なんですが。実際にアクティブ・ラーニングを実践していれば、この「勝負あり」の感覚って普通にある気がします。

香山: 優れた教員であれば、そこは乗り越えられると思います。例えば難関校の二次試験対応を行うことができるような教員は、難なくアクティブ・ラーニングを実践することができるでしょう。しかし、そうではない教員もいる。

髙保: ドリル学習でも、一定程度成績は上がってしまう。一方で、楽しい、アクティブな授業をしていても、それで生徒の偏差値が上がらないと、残念ながら切り捨てられてしまう。この風土は、これは正直なところ、まだまだ学校にはあると思います。進学実績の良い先生が、同時に面白い授業をしていると、一気に広がっていく感じはするのですけどね。
 あとは、自分に自信がないために、アクティブ・ラーニングに踏み切れない教員も多いように感じます。こうした自信を持てない教員は、例えば私が授業見学に行っても、授業を見せたがらないですね。

岡本: 私も、自信が持てないうちの一人でした。でも、自信を持てない先生でも一生懸命頑張っている。教員個人それぞれのもつ強み、弱みを教職員集団が受け入れられると良いですよね。お互いを認め合う関係性を、教員同士で作り上げていくことが重要だと思います。
 私は、学力とは「足し算」と「掛け算」の組み合わせだと思います。学力は、一定のポイントまでは足し算で積み上げていかないといけないものだけれども、あるポイントを超えると、知識と知識の掛け算で飛躍的に伸びていく。ひとりひとりの生徒の、そのポイントを見極めてくのは教員ひとりでは難しい。だからこそ、いろいろな教員が連携して、授業づくりに取り組む必要があると思います。

香山: はじめの「足し算」に耐えきることができる生徒もいるが、「まずは面白い問いを与えてほしい」という生徒もいます。例えば才能はあるのに、「普通」の教え方によってその才が埋もれてしまっている生徒もいるでしょう。多様な生徒がいる中で、1つのアプローチしかできない教員は、今後取り残されていくのかもしれません。もっと、従来の枠にとらわれずに、いろんな提案をしていけるような教職員集団になっていく必要がありますし、こうした教員の「困りごと」に応えるプラットフォームができてほしいですね。

多様な教員の成長を支える「プラットフォーム」への期待

香山: ここまで、アクティブ・ラーニングの話に少し焦点が置かれていましたが、こういった教員の能力の話は、アクティブ・ラーニングだけではないように思います。教員の作問力、教材開発力が落ちてきています。
  確かに滝井先生の言うように自ら能力を向上していける先生もいますが、そうでなく苦しんでいる先生もいる。私は、教員の能力を一層高めていくような取り組みが必要だと思います。そのためには、1学校だけはなく、プラットフォーム的な機能が求められるように思います。

髙保: このプラットフォームが、自分の学校だけではなかなか踏み出せない、そのような先生方が一歩を踏み出すきっかけ、ヒントになるとよいですよね。

滝井: 仙台第三高校の「SSH-授業づくり研究センター」では、アクティブ・ラーニングを推進しながらも、多様な先生方の居場所がなくならないように、ということは非常に重視していました。教員の中には、他人に言われて自身のスタイルを変えたくないという人や、ポリシーを持って自分のやり方を貫き通したいという人もいます。特に後者のような教員の存在は、研究センターとして推進したいことを反省的に問い直すためにも重要です。

香山: 居場所という視点でいえば、教員にとっての居場所は「生徒からの支持」ですよね。生徒が支持しない教員のスタイルをそのままにしておくのは、校長としてはまずい。和気閑谷高校では、校内の学力評価委員会に、現役生徒にも参加してもらっています。授業に対する生徒の反応を非常に重視しているためです。

教員が「学び続ける」ための多様な主体との連携

――香山先生から、授業づくりに関する生徒の主体的参画についてお話を頂きました。和気閑谷高校の学力評価委員会の例のように、「学び続ける高校」づくりのためには、教員集団だけではなく、生徒や、大学、地域など、様々な主体との連携といった視点も重要であるように感じます。

香山: 大学の先生にチームに入ってもらうことは、高度な研究、探究の実現のために非常に期待しています。

髙保: 吉田高校では、理数科の「課題研究」は大学の先生に授業をお願いしており、非常に手厚いサポートが得られています。すべてのコースでこのような対応を取ることは難しいのですが、現在は、ある大学の大学院生に、時々「総合的な探究の時間」に来てもらい、探究のヒントをもらえないか、と調整しているところです。こうした仕組みづくりも、できるだけ補助金には頼らず、「これ(補助金など)があるからできた」という前例を作らずに、できれば自然な形で持続させていきたいと考えています。

滝井: SSH(スーパーサイエンスハイスクール)などの国の支援策も、いつまでも活用できるわけではないので、国の支援が終わった後に、どのように持続させていくかは重要ですね。

岡本: 今後、AIの活用などによる学びの個別最適化が進むと、教員に求められる資質・能力が大きく変化してくるので、その準備をしていかなければならないと思います。そのための環境、仕組み、情報などを、様々な主体と一緒に考えていく必要があると思います。

――多様な生徒一人ひとりに個別最適な学びをコーディネートしていく役割が教員に求められるようになる中で、まずは教員集団自体も多様である必要がある。そして、それぞれの強み、弱みを自律的に補う、まさにチームとなること、そしてチームで「持続可能性」を維持することの重要性を再認識しました。(次回に続く)