福祉が「特別」から「身近」へと変わり、自分事として考える生徒が育つ

福祉

公立

鹿児島県

鹿児島県立加世田常潤高等学校

福祉の「見えない支援」をテクノロジーで可視化する。 地域と学ぶ科学的介護の実践:鹿児島県立加世田常潤高等学校

  • 取材・編集・撮影:株式会社シード・プランニング
  • 素材提供:鹿児島県立加世田常潤高等学校

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鹿児島県立加世田常潤高等学校では、排泄予測装置DFreeや眠りSCAN、認知症VR、電動車椅子WHILL、スマートグラス、モーショントレーニングシステムTANO、介護用洗身用具witleBODY、高性能スマートウォッチMITSUFUJI03、AIペットロボットMoflin(モフリン)などのDX機器を活用し、「見えない支援」を可視化する学びを展開しています。生徒はデータや疑似体験を通して、利用者の状態や気持ちを具体的に理解し、科学的根拠に基づく支援の重要性を実感しています。地域高齢者向けイベントや実習施設での実践では生徒自身が説明役を担い、福祉を生活の延長として捉える視点を育んでいます。

お話を伺った先生

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瀬口 知子(せぐち ともこ)先生

校長。専門は福祉科教育、介護福祉士養成教育。高等学校福祉科における専門教育・職業教育の充実に長年携わり、介護過程を基盤とした教育実践を推進してきた。現行および前回の高等学校学習指導要領(専門教科「福祉」)の専門的作業等協力者。2019年、日本教育工学会において、高校福祉科教育における問題発見・解決能力の育成に関する研究を発表。現在は、介護福祉士養成校の現状と課題を踏まえ、探究的な学びと福祉DXを視野に入れた福祉科教育の在り方について発信している。

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石田 健優(いしだ けんゆう)先生 生活福祉科

教職歴16年。2025年度より同校に着任し、学科主任および2年生の担任を務める。DXハイスクール指定校として、福祉DXを「支援を置き換えるものではなく、支援の延長線上にある新しい選択肢」と捉えながら、授業実践や地域連携に取り組んでいる。また、学校が地域福祉のハブとなれるよう、生徒と共に地域福祉を支える学びを進めている。

事例概要

実践している学校・学科

鹿児島県立加世田常潤高等学校 生活福祉科

利用しているデジタル教材・デジタル環境

排泄予測装置DFree、眠りSCAN、認知症VR、電動車椅子WHILL、生徒用端末(Chromebook)、Google for Education、50インチ大型モニター、スマートグラス、モーショントレーニングシステムTANO、介護用洗身用具switleBODY、高性能スマートウォッチMITSUFUJI03、AIペットロボットMoflin(モフリン)

どのような学びが可能になったか

・経験や感覚に頼りがちだった介護を、データや可視化を通して科学的に理解できるようになった。
・利用者視点に立った支援を、自分の言葉で説明する力が育まれた。

支援や事前準備のポイント、工夫

・DX機器を導入すること自体を目的にせず、「どの学びを深めたいか」を起点に授業を設計。
・学校内にとどまらず、地域イベントや実習施設と連携し、実践の場を広げた。

導入・活用の成果・今後の予定

・生徒が福祉を特別なものではなく、日常生活に根ざした分野として捉えられるようになった。
・今後はコミュニケーションロボットや防災分野のDX活用にも挑戦し、学科横断的な展開を目指す。

福祉の「見えない支援」をテクノロジーで学ぶ

福祉の学びは、人の気持ちや状態を想像し、相手に寄り添う姿勢が重視される一方で、その多くが目に見えにくく、経験や感覚に頼りがちです。本校では、こうした福祉教育の特性に向き合いながら、「見えない支援」をテクノロジーによって可視化する授業実践を模索しています。

DXハイスクール予算を活用し、排泄予測装置DFree、眠りSCAN、認知症VR、電動車椅子WHILL、モーショントレーニングシステムTANO、介護用洗身用具switleBODY、高性能スマートウォッチMITSUFUJI03、AIペットロボットMoflin(モフリン)などのDX機器を授業や交流学習で活用しています。これらの機器は、単に最新技術を体験するためのものではなく、利用者の状態や生活の質を、データ分析や疑似体験を通して、「なぜこの支援が必要なのか」「どのタイミングで、どのような関わりが適切なのか」を考えるための教材としてとても有効です。

例えば、排泄予測装置や睡眠計測機器では、これまで言葉だけで説明していた利用者の状態を、数値やグラフとして確認したり、モーショントレーニングシステムTANOでは、運動量や姿勢を定期的に測定することで、その方の傾向値を可視化したりすることができます。生徒は、データを見ながら「この時間帯に声をかけると負担が少ないのではないか」「生活リズムをどう整えると安心につながるか」「姿勢改善や運動促進を促すための工夫」といった支援の根拠を考えるようになります。経験則だけでなく、科学的な視点をもとに支援を考える姿勢は、これからの福祉現場で求められる力そのものであり、学校での学びが生徒の将来に大きく役立つと考えています。

電動車椅子WHILLの操作を紹介する生活福祉科の生徒。鹿児島県立加世田常潤高等学校では、こうした先端機器を地域のイベント等で活用している。利用した方々からは「試乗の機会があってよかった」「家族のために購入方法を知りたい」といった声が寄せられた。単に機器の紹介に留まらず、介護保険の適用に関する情報提供も行うなど、鹿児島県立加世田常潤高等学校が地域への情報発信の拠点にもなっている。
電動車椅子WHILLの操作を紹介する生活福祉科の生徒。鹿児島県立加世田常潤高等学校では、こうした先端機器を地域のイベント等で活用している。利用した方々からは「試乗の機会があってよかった」「家族のために購入方法を知りたい」といった声が寄せられた。単に機器の紹介に留まらず、介護保険の適用に関する情報提供も行うなど、鹿児島県立加世田常潤高等学校が地域への情報発信の拠点にもなっている。

根拠に基づいた授業実践のために眠りSCANを活用。睡眠や呼吸などのバイタルデータを可視化することで、ケアのタイミングを実践的に学ぶことができるようになった。
根拠に基づいた授業実践のために眠りSCANを活用。睡眠や呼吸などのバイタルデータを可視化することで、ケアのタイミングを実践的に学ぶことができるようになった。

自分の身体をコントローラーにして、楽しく運動やリハビリテーションが行えるモーショントレーニングシステムTANOを使って、利用者とコミュニケーションを取る生徒たち。
自分の身体をコントローラーにして、楽しく運動やリハビリテーションが行えるモーショントレーニングシステムTANOを使って、利用者とコミュニケーションを取る生徒たち。

疑似体験が変える利用者理解

認知症VRは、利用者の視点だけでなく、ご家族などの支援者の視点も疑似体験できる教材です。従来の福祉教育では、「認知症の方はこのように見えている」「このような不安を感じている」と言葉で説明することが中心でした。しかしVRを通して体験することで、生徒は説明を受ける側から、当事者の視点に立つ側へと立場を移します。

生徒からは、「文字が歪んで見えるだけでなく、周囲の音や光が不安につながることが分かった」「なぜ急な声かけが負担になるのか、体感的に理解できた」「当事者の方の心の声を聴くことができた」といった声が聞かれます。こうした体験は、教科書や動画だけでは得られない学びです。体験をもとにした振り返りでは、「どんな声かけが安心につながるのか」「環境をどう整えればよいのか」といった具体的な支援の工夫へと議論が発展していきます。

また、電動車椅子WHILLの体験では、移動支援に対する生徒の見方が大きく変わりました。段差や砂利道を自力で進める操作性や、横に並んで会話しながら移動できる点は、「支援される側」「支援する側」という固定的な関係を問い直すきっかけになります。生徒は、利用者の自立を妨げない支援とは何か、生活の中で自然に選択できる支援の在り方という、実際の福祉現場に近い考え方を、高校生のうちから学ぶことができるようになりました。

地域とつながる実践の場

取組の大きな特徴の一つが、地域と連携した実践の場を重視している点です。地域高齢者向けイベントや交流会では、生徒自身がDX機器の説明役を担い、来場者に体験を提供します。教員が説明するのではなく、生徒が主体となって機器の使い方や学びのポイントを伝えることで、理解は一層深まります。

地域の方から「高校生がこんなに実践的なことを学んでいるとは思わなかった」「福祉のイメージが変わった」と声をかけられる経験は、生徒にとって大きな成功体験です。自分たちが学んでいる内容や実践が、目の前の地域の人に伝わり、驚きや共感として返ってくることで、生徒は福祉を「教科書の中の知識」や「将来の職業準備」としてではなく、今の生活と地続きのものとして捉えるようになります。高齢者や地域住民との対話を通して、福祉が特別な場面だけで必要とされるものではなく、日常生活の中で誰もが関わり得る分野であることを実感することが、福祉への見方を大きく変えるきっかけとなっています。学んだことが誰かの役に立つ実感を得ることで、生徒はより学習への意欲を高めています。

また、今後は、市役所や施設等へDX機器を貸し出したり、現場実習時に活用したりできるよう調整を進めているところです。単に貸し出すだけでなく、実際に利用した方の感想や現場で得られたデータを提供してもらうことで双方向の連携体制を築くことを目指しています。

さらに、学んだ内容と現場の支援を結びつけるため、DX機器を介して得られたデータや体験をもとに、現場職員と意見交換を行う機会を設けていきます。こうした取組を通して、「学校の学び」と「現場の実践」が一方向にならない循環型の学習体系を整えたいと考えています。

地域の福祉関係者との交流会の様子。地域福祉を担う人材の育成を目的とした教育活動の一環として、生徒と関係機関が相互理解を深め、今後の連携のきっかけづくりのために開催された。この会を機に継続的な交流学習へと発展している。

現在は、交流会で構築されたネットワークを生かし、DX機器の地域・福祉現場での具体的な利用検討にまで至っている。
地域の福祉関係者との交流会の様子。地域福祉を担う人材の育成を目的とした教育活動の一環として、生徒と関係機関が相互理解を深め、今後の連携のきっかけづくりのために開催された。この会を機に継続的な交流学習へと発展している。現在は、交流会で構築されたネットワークを生かし、DX機器の地域・福祉現場での具体的な利用検討にまで至っている。

鹿児島市内で介護DXを推進している特別養護老人ホーム「うすきの里」を訪問した生徒たち。職員との意見交換も実施することで福祉の最前線を体感し、学校の授業だけではわからない現場の課題や取組を学ぶ貴重な機会となった。
鹿児島市内で介護DXを推進している特別養護老人ホーム「うすきの里」を訪問した生徒たち。職員との意見交換も実施することで福祉の最前線を体感し、学校の授業だけではわからない現場の課題や取組を学ぶ貴重な機会となった。

DX機器が主体性とコミュニケーション能力を育むきっかけに

ICTやDX機器を活用した学びでは、最初からすべてを生徒に任せるのではなく、段階的に主体性を育むことを意識しています。そのためにまずは、教員が目的や使い方を示し、生徒が安心して体験できる環境を整えます。その後、回数を重ねる中で、生徒同士が教え合い、役割分担をしながら活動を進める場面が増えていきます。

イベントの準備や運営では、「どうすればより伝わりやすいか」「もっと楽しんでもらうためには何ができるか」といった話し合いが自然に生まれます。DX機器が共通の話題となり、学年を超えた協働やコミュニケーションが促進されている点も、大きな成果です。

2025年12月11日に中学生を招待して行われた「南薩地区専門高校フェスタ」では、生活福祉科の生徒が壇上に上がり、学科の紹介等の発表を行った。
2025年12月11日に中学生を招待して行われた「南薩地区専門高校フェスタ」では、生活福祉科の生徒が壇上に上がり、学科の紹介等の発表を行った。

「南薩地区専門高校フェスタ」に参加した中学生に向けて、VRゴーグルや電動車椅子、点字ブロック等を活用したさまざまな体験イベントを実施。機器の説明から中学生とのコミュニケーションまで、生活福祉科の生徒が主体となって対応していた。

「南薩地区専門高校フェスタ」に参加した中学生に向けて、VRゴーグルや電動車椅子、点字ブロック等を活用したさまざまな体験イベントを実施。機器の説明から中学生とのコミュニケーションまで、生活福祉科の生徒が主体となって対応していた。

「南薩地区専門高校フェスタ」に参加した中学生に向けて、VRゴーグルや電動車椅子、点字ブロック等を活用したさまざまな体験イベントを実施。機器の説明から中学生とのコミュニケーションまで、生活福祉科の生徒が主体となって対応していた。
「南薩地区専門高校フェスタ」に参加した中学生に向けて、VRゴーグルや電動車椅子、点字ブロック等を活用したさまざまな体験イベントを実施。機器の説明から中学生とのコミュニケーションまで、生活福祉科の生徒が主体となって対応していた。

テクノロジーは目的ではなく手段

「福祉×テクノロジー」という言葉が注目される一方で、本校ではDXを目的化しないことを大切にしています。テクノロジーはあくまで学びの選択肢の一つであり、教育の質を高めるための手段です。どの機器を、どの場面で使うのかを丁寧に考え、「これがあることで何が分かるようになるのか」「生徒にどのような視点を持たせたいのか」を授業ごとに整理することが大切です。

DX機器を導入する際に「新しいから使う」「あるから使う」という発想に陥らないよう、特に意識してきました。まずは従来の授業内容を見直し、その中で生徒がつまずきやすい点や、言葉だけでは伝わりにくい部分を洗い出します。そのうえで、DX機器が入ることで理解が深まる場面に限定して活用することで、学びの焦点がぼやけないよう工夫する必要があります。

また、すべての学びをテクノロジーに委ねるのではなく、人と人との関わりを中心に据えることも重視しています。DX機器は、生徒と利用者、あるいは生徒同士、地域との対話を生み出す「きっかけ」として位置づけています。実際に体験し、感じたことを言葉にし、相手に伝えるプロセスこそが、福祉を学ぶ上で欠かせない力になると考えています。

今後は、コミュニケーションロボットや防災分野のDXなど、福祉を軸にしながら他教科とも連携した学びへと発展させていく予定です。福祉を特別な分野として切り離すのではなく、誰もが関わる生活の一部として捉え直す……。そのためのきっかけとして、テクノロジーを柔軟に活用していきたいです。

管理者(校長)の視点~学校全体で進める「福祉×テクノロジー」

少子高齢化や介護人材不足が進む中、福祉現場ではICTやDXを活用した支援が不可欠になっています。こうした社会背景を踏まえ、本校では福祉の専門性に加えて、テクノロジーを活用して課題を発見し、解決していく力を育てることが重要だと考えています。そのため、「福祉×テクノロジー」を学校全体の教育の柱として位置付け、学科や授業の枠を超えた取組を進めています。

DXハイスクール事業の導入は、こうした方針を具体的に推進する大きな契機となりました。授業の中では、DX機器を活用した実践が広がり、生徒が主体的に学ぶ姿が多く見られるようになっています。同時に、教職員のICT活用に対する意識も高まり、授業改善や指導方法の見直しが学校全体で進みました。個々の実践にとどまらず、組織として教育の質を高めていこうとする動きが生まれています。

また、地域の医療・福祉機関や企業との協働も、本校の学びを支える重要な要素です。地域と連携することで、生徒は学んでいる内容が実社会と直結していることを実感し、学習の意義をより強く意識するようになります。学校にとっても、地域課題を共有しながら人材育成を行うことで、地域に根差した教育を推進する基盤が整ってきました。

今後は、福祉DXを活用した探究的な学習をさらに充実させ、学校での学びと現場での実践を往還する学習を一層深めていき、生徒一人ひとりが、将来の福祉の在り方を自ら考え、創造していける力を育むことを目標にしています。福祉を特別な分野として切り離すのではなく、誰もが関わる生活の一部として捉え直すことも、本校が大切にしている視点です。コミュニケーションロボットや防災分野のDXといった新たな取組も、福祉を起点に他教科とつなぐことで、生徒が社会全体を自分事として考える学びへと広げていくためのものです。利用者の立場に立って考える力や、課題を自ら発見し解決策を探る力、変化する社会に柔軟に対応する主体性と協働性を備えた福祉人材の育成を、テクノロジーを柔軟に活用しながら学校全体で目指していきます。

LOVOT(ラボット)と触れ合う生徒の様子。2024年度は「PALRO(パルロ)」、2025年度は「NICOBO(ニコボ)」も活用し、福祉DXの学びとして、それぞれのロボットの役割や強みの違いを比較しながら、人に寄り添う支援の在り方について学んでいる。また、3月には「Moflin(モフリン)」が導入される予定である。
LOVOT(ラボット)と触れ合う生徒の様子。2024年度は「PALRO(パルロ)」、2025年度は「NICOBO(ニコボ)」も活用し、福祉DXの学びとして、それぞれのロボットの役割や強みの違いを比較しながら、人に寄り添う支援の在り方について学んでいる。また、3月には「Moflin(モフリン)」が導入される予定である。

※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。
※本記事の情報は取材時点(2025年12月)のものです。

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