溶接もドローンも「やってみたい」へ

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島根県立江津工業高等学校

「怖い」「難しい」を「やりたい」に変える。バーチャル溶接機とドローンで引き出す、ものづくりへの主体性:島根県立江津工業高等学校

  • 取材・編集・撮影:株式会社シード・プランニング
  • 素材提供:島根県立江津工業高等学校

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島根県立江津工業高等学校では、バーチャル溶接機を用いたシミュレーション学習により、生徒が実際の溶接作業に取り組む前に基本的な感覚と自信を身につけられる環境を整備しています。加えて、DXハイスクール事業を活用して導入したプログラミング対応ドローン「CoDrone EDU」では、生徒一人ひとりが端末を使用してプログラムを組み、試行錯誤しながら飛行制御に挑戦。3D CAD「SolidWorks」や3Dプリンタも活用し、「手を動かす」学びを軸に、生徒の主体性と専門技術への興味を引き出す授業を展開しています。

お話を伺った先生

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花岡和彦(はなおか かずひこ)

教頭。物理教育と教育DXを強みとする教頭。ドローン測量やプログラミングにも精通し、技術を生かした学びづくりと学校運営をリードしている。

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中田 凌平(なかだ りょうへい)先生

機械・ロボット科教諭として勤務し、情報科主任を兼務。校内DX推進を担当し、生徒・教員向けの研修の企画・運営を実施。授業においてもDX関連の内容を積極的に取り入れている。

事例概要

実践している学校・学科

島根県立江津工業高等学校・機械・ロボット科/建築・電気科

利用しているデジタル教材・デジタル環境

バーチャル溶接機(VRゴーグル付き・1台)、CoDrone EDU(プログラミング対応小型ドローン)、DJI Mavic 3M(大型ドローン)、SolidWorks(3D CAD)、3Dプリンタ、生徒用端末(Chromebook・1人1台)、Google for Education(Classroom/Meet/Drive)、Canva、ChatGPT、各教室プロジェクター

どのような学びが可能になったか

バーチャル溶接機によるシミュレーション学習で、溶接への抵抗感を軽減し、スコアによる目標設定を通じて実技へのスムーズな移行と技能の早期習得を実現。

ドローンのプログラミングを通じて、ブロックプログラミングからテキストコーディングへの段階的な移行を体験し、試行錯誤を重ねながらプログラミング的思考を育成。

・地域企業との連携による実践的な学びや、小学校への出前授業など、地域に開かれた教育活動を展開。

支援や事前準備のポイント、工夫

バーチャル溶接機では80点以上のスコア達成を目安に実技へ移行する段階的な指導設計を実施。

ドローン導入にあたり、一人一台端末(Chromebook)で操作可能なドローンの選定。
・SolidWorksと3Dプリンタは、導入時に企業から講習を受けた機械・ロボット科の教員が校内研修を行い、より実践的な体制を整えた。

導入・活用の成果・今後の予定

バーチャル溶接機でのトレーニングを経て、溶接大会に挑戦し県大会入賞につなげた生徒も出るなど、主体性と技能の向上が見られた。

ドローンの編隊飛行プロジェクトを生徒主体で計画中。グループでの協働的な課題解決を重視した展開を予定。

・AIを活用した新たな価値創造を授業に取り入れることを検討中。

最初のハードルを下げる――バーチャル溶接機・ドローン導入の背景

本校は、機械・ロボット科と建築・電気科の2学科を擁する工業高校です。もともとものづくりに興味を持って入学してくる生徒が多いのですが、溶接のように火花や強い光を伴う実習に取り組むとき、多くの生徒が最初は心理的なハードルを感じています。溶接は危険が伴う作業であり、特にアーク溶接では強烈な光と火花が発生します。「怖い」という先入観が生まれてしまうと、心理的な緊張で手元が硬くなり、アーク長や角度の微調整といった繊細な操作が難しくなるため、上達そのものが遅れてしまう場合もあります。生徒の恐怖心をどう和らげ、実技への第一歩を踏み出させるかは、工業高校の実技指導において以前からの課題でした。その解決の糸口となったのが、VRゴーグルを装着して仮想空間上で溶接を体験できるバーチャル溶接機です。

機械・ロボット科2年生が溶接実習の導入で活用するバーチャル溶接機。 

機械・ロボット科2年生が溶接実習の導入で活用するバーチャル溶接機。
機械・ロボット科2年生が溶接実習の導入で活用するバーチャル溶接機。

同時に、プログラミング教育の拡充も課題として意識されていました。本校では機械・ロボット科の2年生が「情報Ⅱ」を履修していますが、産業界全体でデジタル技術の活用が加速するなか、建築や電気の分野でもプログラミングの基礎的な素養が求められるようになっています。建築・電気科の生徒にとっても、こうした技術は将来の現場で不可欠なものになりつつあり、建築・電気科にも同様の学びを広げていく必要があると考えていました。ロボット教材では機械・ロボット科に偏りがちですが、ドローンであれば建築・電気科の生徒にとっても馴染みがあります。
 
そこで、授業実装のしやすさと実務での活用可能性の両面から機種を選びました。具体的には、本校の生徒が持つ端末でそのまま動かせる小型機と、測量などにも対応できる大型機です。DXハイスクール事業の予算を活用し、ブラウザ上でプログラムを組んで飛行を制御できる小型ドローン「CoDrone EDU」と、大型ドローンのDJI「Mavic 3M」を導入しました。

「ゲーム感覚」から始まる溶接――バーチャル溶接機が変えた実技指導

本校では2年生の溶接実習の最初の授業でバーチャル溶接機を使っています。生徒はVRゴーグルを装着し、実際の溶接トーチを模した専用デバイスを手に持って仮想空間上で溶接作業を体験します。VR空間内では溶接棒が実際と同様に徐々に短くなっていき、手に持つ専用デバイスも画面と連動して短くなっていくため、腕の角度や材料との距離を自分で調整しながら作業を進めていく感覚をリアルに身につけることができます。一連の動作が終わると点数が表示される仕組みになっており、まるでゲームのようにスコアを更新しようと、「もう1回やりたい」と自ら繰り返し挑戦するようになります。
 
バーチャル溶接機は、5~6人の実習グループで交代しながら使用します。機器の上部にはモニターがあり、操作している生徒の視界や点数がリアルタイムで映し出されます。順番を待つ生徒は他の生徒の動きを観察しながら、「もっと腕の角度をこうしたほうがいい」とアドバイスし合ったり、「負けないぞ」と対抗意識を燃やしたりする姿が自然に生まれます。バーチャル溶接機の実習では、80点以上のスコアを一つの目安とし、その基準に達した生徒から、実際の溶接機を使った実習に移行していきます。
 
材料コストの面でもメリットがあります。実際の溶接では溶接棒や材料を消費しますが、バーチャル溶接機であれば何度失敗してもコストがかかりません。失敗が許される環境で繰り返し練習できることは、生徒にとっても学校にとっても負担の軽減につながっています。

バーチャル溶接機のヘッドセットと溶接トーチを模した専用デバイス。 

バーチャル空間での溶接の様子はモニターにも表示されるため、教員や周囲の生徒が動きを確認しながら助言しやすい。
バーチャル溶接機のヘッドセットと、溶接トーチを模した専用デバイス。バーチャル空間での溶接の様子はモニターにも表示されるため、教員や周囲の生徒が動きを確認しながら助言しやすい。

プログラムで飛ばす楽しさ――ドローンが広げる学びの可能性

情報Ⅱの授業では、DXハイスクール事業を契機に、小型ドローン「CoDrone EDU」を用いたプログラミング学習を展開しています。導入にあたり重視したのは、県立高校で一律配備されているChromebookの環境で無理なく扱えることでした。環境に合わない機器を選ぶと追加端末や整備が必要になり、授業への実装が遅れます。その点、ブラウザ上でプログラムを組める「CoDrone EDU」であれば運用のハードルを抑えながら、授業の中に学びを組み込みやすくなります。
 
授業ではまず、「進む」「回転する」といった指示が日本語で書かれたブロックを画面上で並べ替えることで命令を組み立てるブロックプログラミングから始めます。ドローンの基本的な動きを組み立てながら、処理の順序や条件分岐といったアルゴリズムの考え方を学んだうえで、英語の文字列でコードを記述するテキストベースのプログラミングに移行します。
この授業で苦労したのは、ブロックプログラミングからテキストプログラミングへの移行場面でした。現在、小・中学校ではプログラミング教育が必修化されており、多くの生徒がScratchなどのブロックプログラミングに触れた経験を持って入学してきます。しかし、英語の文字列で記述するテキストコードに変わった途端、「やりたくない」という拒否感を示す生徒も出てきます。ブロックプログラミングは日本語で書かれているため全体の流れが直感的にわかりますが、テキストプログラミングは基本的に日本語で記述されていないため、プログラミングの知識に加えて英語等の理解も求められます。そこに苦手意識を感じる生徒が少なくありません。
 
この壁を越えるために、まずブロックプログラミングで一連の動きを十分に理解させたうえで、50センチ前進する(drone.move_forward(50))」といった数単語で構成される簡単なテキストコードから段階的に学ぶ授業設計にしています。ブロックで組み立てた動きが、テキストではどう表現されるのかを一つずつ対応させながら進めることで、生徒の抵抗感を和らげています。また、テキストを少しアレンジすると、ドローンに違う動きをさせることもできます。「テキストで書くとこういう違ったことができる、いろんなことが可能になる」と、テキストに移行するメリットを具体的に見せながら丁寧に進めています。
 
テキストプログラミングに慣れてきた生徒は、ドローンを特定のゴールまで飛ばす課題に取り組みます。「50パーセントの力で3秒進むと行き過ぎた。2秒だとちょっと手前。では2.5秒ならどうか」と、生徒は飛行データをもとに条件を微調整しながら試行錯誤を繰り返します。ゴールへの最短ルートを見つけるために、まっすぐ行って曲がるのか、斜めに進むのか、別のルートを取るのか。正解は一つではなく、それぞれが自分なりの方法を探っていく過程で、プログラミング的思考が自然と身についていきます。
小型ドローン「CoDrone EDU」。情報Ⅱに関しては現在、機械・ロボット科2年生の9名が履修しており、生徒一人につき1台のドローンを使える環境を整えている。今後は、建築・電気科でも同様の授業が行えないか検討している。
小型ドローン「CoDrone EDU」。情報Ⅱに関しては現在、機械・ロボット科2年生の9名が履
修しており、生徒一人につき1台のドローンを使える環境を整えている。今後は、建築・電気科でも同様の授業が行えないか検討している。

ICT導入で実感した生徒の成長と学びの深化

バーチャル溶接機を取り入れたことで、溶接は「怖いもの」という捉え方から、点数を手がかりに改善していく練習へと見え方が変わり、反復が自発的に回り始めました。腕の動かし方や距離感の基礎をシミュレーションで掴んだ状態で実技に入れるため、火花や熱を前にして身構えてしまう生徒でも実技に入りやすく、移行も滑らかになります。結果として、実技でもスムーズに作業に入れる生徒が増え、成功体験が技能向上につながっていく手応えがあります。実際に、溶接大会に挑戦し、県大会入賞につなげた生徒も出てきています。
 
ドローンの授業でも、授業中に生徒同士がプログラムを教え合ったり、意見を交わしたりする場面が明らかに増えました。知識として覚えるより、目の前のドローンを飛ばしたい気持ちが先に立つことで、「自分からやってみる」姿勢が出てきます。グループで相談し、互いのアプローチを比べ、最適な方法を模索する。こうした過程が、主体的に学ぶ姿勢を育てていると実感しています。
 
溶接とドローンに共通しているのは、最初のハードルを下げ、「もう1回やりたい」「もっと動かしたい」という内側の動機を引き出せたときに、反復と対話が自然に生まれる点です。ICTは作業の置き換えではなく、試行錯誤を回し、協働を増やすための土台になっています。

溶接実習の様子。溶接中は冬でも額に汗がにじむほどの熱気がある。生徒からは、バーチャル溶接で事前に感覚をつかめたことで「実技でも落ち着いて取り組めた」という声が聞かれた。
溶接実習の様子。溶接中は冬でも額に汗がにじむほどの熱気がある。生徒からは、バーチャル溶接で事前に感覚をつかめたことで「実技でも落ち着いて取り組めた」という声が聞かれた。

生徒が溶接で組み上げた金属製の作品。ビード(溶接で盛り上がった金属の筋)の幅や焼け色から、熱の入れ方と手の安定が見て取れる。
生徒が溶接で組み上げた金属製の作品。ビード(溶接で盛り上がった金属の筋)の幅や焼け色から、熱の入れ方と手の安定が見て取れる。

工事現場から小学校まで――地域・外部との連携

本校では大型ドローンも保有しており、地域の建設企業と連携した実践的な学びを展開しています。企業の方々も本校がドローンを所有していることを知っており、非常に協力的な関係のなかで連携が実現しました。実際の工事現場に出向き、上空からドローンで撮影を行い、取得したデータをもとに3D画像を作成するほか、現場の担当者から「今は工事中だけれど完成するとこうなる」という説明も受けることができ、生徒は撮影からデータ処理、建設の現場体験までを一気に体験することができます。この連携は、授業で扱う技術が、現場でどのように使われているのかを実感できる機会になっています。
 
地域への還元にも取り組んでいます。「CoDrone EDU」を用いて、小学校6年生を対象にプログラミングの出前授業を実施しました。小学校の「理科」のカリキュラムにある情報・プログラミングの単元に合わせ、高校生が「教える側」として参加します。自分たちが学んだことを年下の子どもたちに伝える経験は、知識の定着だけでなく、説明する力を育てる機会にもなっています。
 
2年生が取り組む協働探究学習においても、企業の担当者と生徒、教員が同じGoogle Classroomに参加し、月1回の対面協議に加えて、オンライン上で課題や検討内容をすり合わせることができるようになりました。ICTによって、学校と企業の日常的なやり取りが回るようになりました。

 工事現場での連携活動に使用する大型ドローン「DJI Mavic 3M」。上空から撮影したデータをもとに3D画像を作成し、現場理解に生かしている。
工事現場での連携活動に使用する大型ドローン「DJI Mavic 3M」。上空から撮影したデータをもとに3D画像を作成し、現場理解に生かしている。

生徒と一緒に学ぶ――教員としての視点と試行錯誤

正直に言えば、教員自身もドローンのすべてを知っているわけではありません。編隊飛行のプログラムを組めるかと聞かれれば、今はまだできません。ただ、「先生もできないから、みんなで一緒にやろう」と伝えると、生徒は「先生よりできるようになりたい」「じゃあ頑張ろう」という気持ちになってくれます。教員がすべてを知っている必要はなく、生徒と同じ目線で一緒に学んでいく姿勢が、結果的に生徒のやる気を引き出すことにつながっていると感じています。
 
1人1台端末の活用には、授業運営上の工夫も求められます。Chromebookを開いて黒板を見ていても、画面の裏では授業と関係のないことをしている可能性もあります。本校ではそれを監視で抑えるのではなく、調べ学習の課題を途切れなく出し続けることで、生徒の注意が学習に向かい続ける授業設計を意識しています。9名のクラスを3人ずつに分ける際は得意・不得意が偏らないように編成し、「ちょっとこれ調べてみて」と促したときに自然な教え合いが起きる形を整えています。対面での発言が苦手な生徒にはGoogle Classroomのチャット機能が助けになり、文字でなら考えを表明できる生徒もいます。参加の入口を複数用意することで、学びが止まりにくい授業をつくっています。

編隊飛行と設計・製造へ――今後の展望と次の挑戦

今後の授業では、ドローンの編隊飛行に取り組む計画を進めています。3人ずつのグループに分かれ、複数のドローンをまとまって動かすプログラムを組むという内容です。本校ではこの取組を生徒主導で進める形を想定しています。何を調べ、どのように動かし、何ができて何ができないか。判断の中心を生徒に置き、生徒同士が協働して一つのものをつくり上げていく過程そのものを大切にできるよう、授業として組み立てていきます。

昨年度DXハイスクール予算で導入した3D CAD「SolidWorks」と3Dプリンタも、授業での活用をさらに深めていく予定です。導入にあたっては企業から講習を受け、機械・ロボット科の教員が校内研修を行うことで、授業で扱える体制を整えました。生徒がSolidWorksで設計したデータを3Dプリンタで出力し、画面上のモデルが実際の形になる。設計から製造までの一連のプロセスを体験できる環境は整いました。今後は、これらの機器を活用した授業も積極的に展開していきます。 

生徒がSolidWorks で設計を行い3Dプリンタで出力し、組み立てを行った風力で動くからくりロボット。

ホワイトボードはこのからくりロボットの設計図で、足の長さを綿密に計算して製作したことがよくわかる。
生徒がSolidWorks で設計を行い3Dプリンタで出力し、組み立てを行った風力で動くからくりロボット。ホワイトボードはこのからくりロボットの設計図で、足の長さを綿密に計算して製作したことがよくわかる。

一方で、時代に合わせて学びの姿勢も更新していく必要があります。生成AIという調べる手段が増えた今だからこそ、情報をうのみにせず根拠を確かめながら学びを進める情報リテラシーを、授業の中で育てていきます。DXハイスクールとしての取組を通して、学校の学びをより社会で役立つ知識につなげるために、今後も試行錯誤を重ねながら、授業として形にしていきます。

物じゃないなりたい自分をつくるんだ!(看板)

※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。
※本記事の情報は取材時点(2025年12月)のものです。

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