情報技術を社会とつなぐ。主体的な学びと地域連携を育む実践

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島根県立情報科学高等学校

Ruby×生成AI活用×地域連携。「社会を創る側」に立つ学びが、情報科学高校の基盤になる:島根県立情報科学高等学校

  • 取材・編集・撮影:株式会社シード・プランニング
  • 素材提供:島根県立情報科学高等学校

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島根県立情報科学高等学校では、島根発祥のプログラミング言語Rubyを全校的な学びの基盤に据え、生成AIや先端機器を取り入れた情報教育を行っています。学年ごとに段階的に専門性を高めながら、システム開発や地域と連携した実践を通して、生徒が自ら課題を捉え、考え続ける学びを重視しています。ICTを活用することで、生徒同士が協働し、学びを社会に向けて発信する機会が広がっています。
 

お話を伺った先生

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郷原 勝(ごうばら まさる)先生

校長。2022年度より同校に着任し、学校設定教科「地域探究」や商業科目「課題研究」により探究学習を推進した。2024年度には、「文部科学省DXハイスクール」「日本教育工学協会JAET学校情報化優良校」の採択を受けた。

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直良 康弘(なおら やすひろ)先生

商業科教諭。2020年より同校に着任し、本校のICT推進に携わる。現在は、商業科主任として「総合的な探究の時間」や「文部科学省DXハイスクール」を担当している。

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渡部 謙(わたなべ けん)先生

商業科教諭。2024年より同校に着任し、ICT推進リーダーとして本校の情報教育の発展に尽力し、特に、生成AIを用いた授業づくりや業務改善に意欲的に取り組んでいる。

授業資料

事例概要

実践している学校・学科

島根県立情報科学高等学校 情報システム科、マルチメディア科、情報処理科
 

利用しているデジタル教材・デジタル環境

プログラミング言語(Ruby、mruby/c)、生成AI、センサー・ロボット制御機器(レゴロボット、ドローン)、3Dスキャナー、3Dプリンタ、Chromebook、Webアプリ、デジタルデザインツール(Canva 等)、Google for Education、スタディサプリ、高性能デスクトップパソコン、4k対応デジタルビデオカメラ、スクリーン、プロジェクター、マイコンボード(RBoard)

どのような学びが可能になったか

生成AIを活用し、自分の考えと生成AIの提案を比較しながら試行錯誤する学びが可能になった。

ICTを活用した情報共有により、生徒同士が互いの考えや進捗を参考にしながら学ぶ場面が増え、協働的な学びが学年・学科を越えて広がっている。

・企画立案から試作、改善までの過程を経験することで、自分のアイデアを形にする力や、考え続ける姿勢、課題に向き合う力が育まれている。

地域連携や社会とつながる実践的な学びを通して、「社会の受け手」から「社会を創る側」へと生徒の意識が変化した。
 

支援や事前準備のポイント、工夫

・教員向けに生成AIを活用した教材作成研修を複数回実施。

mruby/c導入に向け、学科内で目標や指導内容を共有し、段階的な指導体制を整備。
・外部のIT人材やICT支援員と連携し、相談しやすい環境を構築。

導入・活用の成果・今後の予定

・生徒が自ら課題を設定し、試行錯誤しながら解決策を形にする姿が日常的に見られるようになった。
ICTにより、航海実習でしか得られない実体験を、学校全体で共有することができた。

情報ITフェアを通して、学びを社会に向けて発信する経験が生徒の意識変化につながっている。

・今後は生成AIとシステム開発の学びを発展させ、地域とより深く関わる学習機会を充実させていく予定である。
 

Rubyを軸にした段階的な学びの設計

島根県立情報科学高校は、島根発祥のプログラミング言語Rubyを全校生徒が学ぶ、情報教育に特化した専門高校です。
本校が重視しているのは、情報技術を単に操作できる技能として身に付けさせることではありません。社会をデジタルで捉え、課題を考え、仕組みとして設計していく力。その土台を高校段階から育てることにあります。

1年次には、すべての生徒がプログラミングの基礎を学びます。専門分野に分かれる前に、全員が同じプログラム言語、同じ考え方に触れること。その経験が、生徒同士の共通理解を生み、学年や学科を越えた学び合いの基盤になっています。

2年次からは、マルチメディア科、情報システム科、情報処理科に分かれ、それぞれの専門性を深めていきます。マルチメディア科では映像やWebなどのデジタル表現を、情報処理科ではデータ活用や情報活用の基礎を、情報システム科ではプログラミングやシステム開発を中心に学びます。学科ごとに扱う内容は異なりますが、どの学科でも「Rubyで考える」という姿勢を一貫して重視しています。
3年次には、これまでに身に付けた知識や技術を生かし、より実践的な課題へ。与えられた問いに答える段階から、自ら問いを立てる段階へと、学びの質が変わっていく様子が見られます。

同校が掲げるグランドデザイン。(提供:島根県立情報科学高等学校)

同校が掲げるグランドデザイン。

生成AIを「考えるための相手」として位置づける授業づくり

プログラミングを学ぶ授業において、生成AIの活用を開始しました。

生成AIの活用は、話題性や利便性を目的に始まったものではありません。生成AIの授業への導入にあたっては、「生徒が簡単に答えを得てしまうのではないか」「考える過程が省かれてしまわないか」といった懸念もありました。だからこそ、使い方の設計に時間をかけてきました。

授業では、生徒が生成AIを活用しながらシステム開発に取り組みます。ただし、生成AIが書いたコードをそのまま使うといった活用をしているのではありません。

生徒は、Rubyで書いた自分のプログラムを実行し、エラーが出た際には生成AIが提示したコードと見比べながら、どこに違いがあるのかを確認しています。なぜ動かないのか、どこに問題があるのかを考える。その積み重ねが、理解を深めています。
こうした使い方は、生徒任せに始まったものではありません。授業の導入段階では、生成AIの特性や注意点、倫理面について事前に指導を行い、あくまで「思考を補助する存在」として活用する姿勢を共有しています。また、生成AIに何を尋ね、どのような答えが返ってきたのかを生徒自身に説明させ、その理解を確かめる問いかけを重ねることで、考える過程を大切にする学びへとつなげています。

何度も書き直し、試し、失敗する。
その過程で、生徒は「分かったつもりだった部分」に気づいていきます。生成AIは、答えを教える存在ではなく、思考を映し出す鏡のような役割を果たしていると言えるのではないでしょうか。

Rubyを用いたプログラム開発の様子。エラーの原因を探る際には、生成AIも活用しながら試行錯誤を重ねている。
Rubyを用いたプログラム開発の様子。エラーの原因を探る際には、生成AIも活用しながら試行錯誤を重ねている。

マルチメディア実習室に設置された高性能パソコン。 情報ITフェアではパソコンで画像生成AIを活用しオリジナルカード作りを実施した。参加者のパソコン・ソフトウェア操作は生徒がサポート。
マルチメディア実習室に設置された高性能パソコン。 情報ITフェアではパソコンで画像生成AIを活用しオリジナルカード作りを実施した。参加者のパソコン・ソフトウェア操作は生徒がサポート。

試行錯誤を通して深まる理解と学習姿勢の変化

生成AIを取り入れた学びは、生徒の学習姿勢にも変化をもたらしています。
以前は、エラーが出るとすぐに教員に助けを求める場面も多く見られました。現在では、まず自分で考え、生成AIの提案や過去のコード、資料を参照しながら解決策を探る姿が増えています。
 
「最初は難しく感じていたけれど、続けるうちに自分でも進められるようになった」「失敗しても、もう一度やり直せばいいと思えるようになった」。そんな声が聞かれるようになりました。
試行錯誤を前提とした学びが、理解を深めるだけでなく、学ぶことへの向き合い方そのものを変えているのでしょう。
 
授業の進め方にも変化が生まれています。教員が一方的に説明する時間を減らし、生徒が考える時間をどう確保するかを重視する。その姿勢が、教室全体に浸透しつつあります。

  情報ITフェアの会場では産学連携活動として「ご当地ロボコン」に取り組んだ経緯も紹介。Rubyの活用やトライ&エラーが許容される環境についても触れている。
情報ITフェアの会場では産学連携活動として「ご当地ロボコン」に取り組んだ経緯も紹介。Rubyの活用やトライ&エラーが許容される環境についても触れている。

ICTによって広がる学年・学科を越えた協働

本校では、全校的に1人1台端末の環境を整え、日常の授業や課題研究、情報ITフェアのような行事準備においてWebアプリを活用しています。こうした環境のもとで進められる学びは、生徒同士の関係にも影響を与えています。自席にいながら他者の考えを確認し、必要に応じて意見を交わす。学びが個人の中に閉じることなく、学校全体へと広がっている様子がうかがえます。
 
本校で毎年開催している「情報ITフェア」の準備では、その効果がより明確になります。過去の企画書や振り返り資料をデジタルで共有し、それをもとに改善点を検討する。上級生の経験が下級生の学びにつながり、自然な形で引き継がれていく。
ICTは、作業を効率化するための道具ではありません。考え方や経験を蓄積し、次へとつなぐための基盤。その役割を、確かに果たしています。

学校全体を活用した情報ITフェア。メインステージの体育館以外でも様々なコンテンツを提供。
学校全体を活用した情報ITフェア。メインステージの体育館以外でも様々なコンテンツを提供。

地域と向き合う情報ITフェアでの実践

情報ITフェアは、本校の学びを地域に向けて発信する重要な機会で、生徒たちが授業で学んだ知識やスキルを活かした体験講座などを企画・運営します。

企画段階では、昨年度の企画書や振り返りをデジタル上で引き継ぎ、そこから、今年度の企画案を組み立てています。去年の企画では、地域の方をはじめとした来場者に何が伝わり、何が伝わらなかったのか。その検証から、準備が始まります。

企画書や広報文章の作成には、本記事の前半で紹介した生成AIも活用しています。表現を整え、言葉を磨き、地域の方や小中学生に伝わりやすい内容へと改善する。その過程自体が、大きな学びになっていると言えます。

チラシ制作ではCanvaなどのツールを用い、配色やレイアウト、文字の大きさまで生徒自身がデザインを検討します。

当日は、来場者一人ひとりと向き合いながら説明を行います。相手の反応を見て言葉を言い換え、説明の順序を変える。教室では得られない気づきが、そこにあります。

情報ITフェアの実行委員長を務めた生徒。実行委員長が中心となり生徒主体で運営される。チラシも生徒が作成。
情報ITフェアの実行委員長を務めた生徒。実行委員長が中心となり生徒主体で運営される。チラシも生徒が作成。

成功と課題の両面から学ぶ持続的な取組

情報ITフェアは、本校が掲げる「地域との協働を通じたデジタルイノベーション創出人材の育成」という教育の方向性を具体化する取組の一つです。生徒にとっては、地域の声を受け止めながら自らの学びを見直し、次の改善につなげるための実践の場でもあります。そのため、フェアの内容や運営方法については、来場者の反応や生徒自身の振り返りを丁寧に拾い上げ、「なぜそう感じたのか」「次に何を変えるべきか」を教員と共に言語化しながら、検討と見直しを重ねてきました。

開催を重ねる中で、生徒たちは成功だけでなく、次につなげるための課題にも向き合っています。体験講座を中心とした構成は来場者から好評を得ている一方で、「どうすれば、より多くの人に足を運んでもらえるか」「学びの成果を、より社会に開いた形で届けるにはどうすればよいのか」といった視点が、生徒自身の中に生まれてきました。これは、商品やサービスの価値をどのように設計し、相手に届けるかを考える商業の学習そのものでもあります。

今年度のフェアでは、地域と連携したコラボ講座や、小中学生向けのプログラミング講座など、生徒が日頃の授業や課題研究で培った企画力や社会に向けての情報発信力を生かした取組を展開しました。企画書の作成や内容の検討、広報に用いる文章表現の工夫など、授業の中で取り組んできた学習が、フェアの準備と直結しています。生徒たちは、講座内容の検討にとどまらず、対象となる来場者層を意識した伝え方やブースの構成・見せ方までを含めて準備を進めてきました。

こうした実践を通して、「どのような企画であれば人が集まるのか」「ブースの配置や導線は適切か」といった、企画力や店舗設計力に関する課題も具体的に見えてきています。来場者にとって分かりやすい体験になっていたか、伝えたい価値が届いていたか――その視点で振り返り、次に何を変えるべきかを生徒自身が言語化していく。
限られた時間や空間の中で「どうすれば伝わるか」を考え抜くこと自体が、学びの核になっています。

成功体験と課題の両方を学びに変え、企画から発信、運営、改善までを一連のプロセスとして実践的に学んでいく。その粘り強さこそが、情報と商業を結び付けた本校ならではの学びとして、この取組を支えています。

地域の社会課題を題材に、親子で対話しながら考える体験型の取組。身近なテーマを通して、地域と学びをつなぐ機会として実施された。

地域の社会課題を題材に、親子で対話しながら考える体験型の取組。身近なテーマを通して、地域と学びをつなぐ機会として実施された。

ICTを「思考基盤」とした次の学びへの展望

先端機器を活用した教育と、専門家や地域との協働は、生徒の意識や行動にも確かな変化をもたらしています。自ら課題を設定し、試行錯誤を重ねながら解決策を形にしていく姿は、まさに「学ぶ」から「創る」への転換と言えるでしょう。

その成果は、生徒の進路にも表れています。経済産業省が実施する国家資格である「情報処理技術者試験(基本情報技術者)」や「ITパスポート試験」の合格者を輩出しているほか、国立大学をはじめとした上級学校のデジタル系学部への進学、さらにはシステムエンジニアなどデジタル系職種への就職などに結び付いています。

本校が掲げるグランドデザインの中核にあるのは、「地域との協働を通じたデジタルイノベーション創出人材の育成」です。地域協働は付加的な活動ではなく、教育活動そのものの核心として位置づけられています。

教科を問わず多くの教員が生徒をファシリテートし、1・2年次で学ぶ学校設定教科「地域探究」では生徒が地域課題に目を向け、問いを立てる力を育んでいます。その学びは、3年次の「課題研究」へとつながり、課題解決に向けたプログラム実装やシステム開発へと発展します。こうして生まれた成果を、情報ITフェアで地域に向けて発信することで、学習活動同士が有機的につながっています。

情報ITフェアは、生徒が地域社会と直接つながり、自らの成果を社会に還元する場であると同時に、地域と学校が未来を共に描く共創のフィールドでもあります。地域企業や大学、行政と連携して進めるプロジェクトは、実社会の視点を取り入れながらプログラミング技術を高める機会となっています。産業や地域の現場と関わる経験を通して、生徒は「学んだ技術がどのように社会で生かされるのか」を具体的にイメージできるようになっています。「自分たちの学びが地域を変える」という実感を、生徒一人ひとりに与えています。本校では、ICTを単なる便利な道具ではなく、未来を創るための思考基盤として捉えています。

Rubyを起点とした学びは、今後mruby/cを活用したハードウェア制御へと広がり、ソフトとハードを横断した学びへと発展していく予定です。

さらに、生成AIとシステム開発を組み合わせ、地域の課題をデジタルで解決するPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)にも取り組みます。生徒が社会の受け手にとどまらず、社会を設計し、創る側として学び続けられるよう、教育の更新を重ねています。

※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。
※本記事の情報は取材時点(2025年11月)のものです。

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