事例概要
2022年9月、山形駅の徒歩圏の中心市街地に「やまがたクリエイティブシティセンターQ1(キューイチ)」がオープンした。1927年に開校し、2001年に国の登録有形文化財に登録された山形市立第一小学校旧校舎を活用し、創造都市やまがたの共創プラットフォームとして整備。市民・企業・行政が連携し、創造性を産業・人材・地域の活力へとつなげる拠点となっている。
「Q1」という名称は、「旧一小(きゅういっしょう)」に由来するとともに、“Question=問い”のはじまりを意味する。創造都市やまがたのクリエイティブ拠点として、常に問い続け、挑戦し続ける場でありたいという想いが込められている。
山形で活躍するクリエイティブな人材と、伝統工芸や農家などの地域に根ざした企業や産業を掛け合わせ、第一小学校旧校舎を舞台に、「創造都市やまがた」ならではのコンテンツを発信し続けながら、公共性と収益性の両立を実現している。
山形市立第一小学校旧校舎の概要と変遷
1927年~2004年第一小学校としての活用
1927年、旧第一小学校は山形県初の鉄筋コンクリート造の学校建築物(地下1階~3階)として建てられた近代建築である。建設の年には「全国産業博覧会」の会場として使用され、中心的役割を担った。2001年には国の有形文化財に、2009年には「近代化産業遺産」になっている。約80年にわたり山形市中心街の小学校としての機能を果たした後、2004年に新校舎の完成に伴い、閉校。その後も保存・活用に向けた検討が続けられた。
2010年~2021年「山形まなび館」としての再出発
2007年にまとめられた「山形市立第一小学校旧校舎保存活用に関する提言」に基づき、全館の耐震補強工事及び、1階と地下1階の用途変更工事を実施。2010年に、観光・交流・学びの拠点施設「山形まなび館」としてリニューアルオープンした。ただし、使用できたのは1階と地下1階のみで、2階・3階は、壁や天井がすべて剥がされたまま閉ざされ、市民の出入りが禁止されていた。
2022年~創造都市やまがたの拠点施設として「Q1」をオープン
2017年、山形市がユネスコ創造都市ネットワークの映画部門に加盟認定されたことを機に、市は旧校舎を「創造都市やまがた」の中核拠点とする「Q1プロジェクト推進事業」を始動した。2020年には市と東北芸術工科大学(以下、芸工大)が連携協定を結び、公民連携によりクリエイティブ産業の創出と地域活性化を目指して整備が進められた。
2022年9月、全面リノベーションを経て「やまがたクリエイティブシティセンターQ1」がオープン。施設内には、行政の運営する文化財展示室や展示スペースとともに、株式会社Q1(以下、(株)Q1)が運営するショップやオフィス、ギャラリー、アーティストスタジオなどが集まり、市民、クリエイター、企業が交わる「創造の場」として多様な活動が展開されている。
事例ポイント1
歴史ある旧校舎の特徴を生かし、躯体の魅力を際立たせる引き算の設計
1927年(昭和2年)にしゅん工した旧第一小学校は、山形県で初めて建てられた鉄筋コンクリート造校舎であり、国の登録有形文化財および近代化産業遺産になっている。国の登録有形文化財ではあるものの、「現状変更」を文化庁に届け出る必要があるのは外部から見える範囲から一定の範囲を超える場合に限られる。今回の改修では、外観変更がその範囲を超えなかったことから、文化財としての制約を受けずに設計・工事を行うことができた。

また、天井のコンクリートを塞がずに高さと素材感を生かす方針とし、空調設備は壁際に設置している。ガラス面を多く設けた開放的な構成とすることで、建物内の活動が外から見えるように計画され、テナント間の交流や建物全体の活性化につながっている。
事例ポイント2
クリエイティブと産業をつなぐ「創造都市やまがた」の実現を目指す
●リーシングの方針
施設の運営は、市と(株)Q1が賃貸借契約と業務委託契約を締結し、行政と民間が連携して運営している。リーシングにおいては、単なるテナント募集ではなく、地域産業とクリエイティブを結びつける観点から、開業当初は運営者が直接声をかけて入居者を選定した。入居は「新規事業」または「事業拡大」に優先し、既存店舗の移転による空き家増加を防ぐ方針を取るなど、地域経済への波及効果を重視している。現在は入居率100%の状態で、空き待ちが出るほどの状態になっている。
●館内構成と運用
館内は、1階は「暮らし」をテーマに飲食やギャラリー等、2階はレンタルスペースやシアタールーム等で「Play」をテーマとし、3階は「Work&Design」をテーマに働く・ものづくりの場としている。開館の数年前から構想を固め、それに合わせてテナント誘致を行い、入居を進めた。ゾーニングはおおまかにテーマを設けている程度で、実際の運用は柔軟に行われており、2階にカフェが入居するなど用途の幅を持たせている。入居者には、アーティストやデザイナー、金工・作家など、地域のものづくりに携わる事業者も多く、創作・発信・交流の機能を備えた複合的な構成となっている。
●地域に開かれたイベント運営
定期的に開催される「マルシェイベント Q市」では、運営者が中心となって企画を行う。テナントにも出店や企画で協力を依頼することがあり、双方にメリットが生まれる形で実施している。古着、ワイン、コーヒーなど特定のテーマを設け、そこにプラスのテーマを乗せ、他では得られない体験を提供することで、施設全体の魅力向上と地域との関係づくりを図っている。
●教育的機能の展開
教育的な機能として、(株)Q1が主催する「PlayQ(プレイキュー)」プログラムを実施している。「こどもの創造的学びの活動を通して〈創造都市やまがた〉を実現する」をコンセプトに、クリエイティブ・テクノロジー・ビジネス・エコロジーの4領域を横断できる人材育成を目指す取り組みである。特定の教育機関との連携は持たず、(株)Q1のメンバーである芸工大関係者やアーティストが中心となり、独自のプログラムを企画・運営している。子どもたちの創造性を伸ばすことを目的に、遊びや体験を通した多様な学びの機会を提供しており、家庭や地域にもその取り組みが広く共感を呼び、参加者が集まっている。
事例ポイント3
行政と民間が責任を区分し、連携する公民連携のかたち
●条例制定による制度的な位置づけ
施設の運営は、山形市が(株)Q1と契約を締結し、行政と民間が明確に役割を分担して運営している。指定管理制度ではなく、「賃貸借」と「業務委託」を組み合わせた独自の契約形態を採用している点が特徴である。
また、運営に当たっては「山形クリエイティブシティセンターQ1条例」を制定し、本施設を創造都市の推進拠点として位置づけている。条例には、公民連携による運営を基本とする方針が明記されており、議会の議決を経て行政としての意思を明確に示している。これにより、行政単独ではなく、民間との協働によって創造的なまちづくりを進めていく体制が制度的にも担保されている。
●指定管理ではない、独自の運営スキームを構築
一般的に公設民営の施設では「指定管理者制度」が用いられるが、Q1ではそれを採用せず、「賃貸借」と「業務委託」を組み合わせた独自の運営スキームを構築している。指定管理制度では、行政と民間の権限や責任が中途半端になりやすいという課題があるが、Q1ではその点を踏まえ、行政と民間の責任範囲を明確に設計している。
具体的には、地上1~3階のテナントスペースおよびレンタルスペースは、(株)Q1が市から床を賃借し、テナントに転貸または利用者に貸し出す「賃貸借」方式を採用。一方、地上1階の一部(文化財展示室・紅花文庫等)および地下1階(プロジェクトスペース)等の市運営施設部分、ならびに共用部については、(株)Q1が管理運営業務を「委託」されている。
●財政負担と利益還元の仕組み
(株)Q1は、市に対して毎年4月に賃料を年間一括で支払い、年度末に事業収益から施設経費を差し引いた利益のうち69%を市に納付する。この割合は貸与面積(市69%、(株)Q131%)に基づく面積按分によるものである。共用部の経費も同様に(株)Q1が31%を負担し、テナント分はテナントから回収している。
令和6年度の実績では、市への利益還元が約900万円程度に達しており、結果として市の年間実質負担は約3,200万円前後。前身施設「山形まなび館」と同程度の公費負担で、運用面積を倍増させながら維持管理を実現している。
このように、条例制定による制度的な裏付けと、指定管理に依らない独自スキームの採用により、ガバナンスと柔軟性を両立させた公民連携モデルが構築されている。
検討プロセス
●市と大学の連携から始まった構想
Q1の事業は、行政(山形市)・大学(芸工大)・民間((株)Q1)の三者が協働し、構想から設計、運営まで一体的に進められた点に特徴がある。
芸工大は、2010年代半ばより中心市街地の再生に向けたエリアリノベーションに取り組んできた。2016年、七日町通り周辺の「シネマ通り」エリアでは、築50年のビルを改修した複合施設「とんがりビル」が完成。学生やクリエイターが関わるリノベーション事業を通じて、地域内に新しい交流と活動の循環を生み出し、周辺では空き店舗の再生や新たな店舗の出店など、さまざまな動きが同時多発的に起こり、エリア全体が変化していく流れが生まれた。
こうした動きを受け、2016年11月には、山形市と芸工大が市内中心市街地のリノベーション事業を推進する包括連携協定を締結した。以降、両者の連携の下で、市内の歴史的建築物や空き家の活用を含むまちづくりの検討が進められた。その一環として、山形市立第一小学校旧校舎の活用についても、市長と芸工大の教員らの間で継続的に議論が行われていた。
翌2017年、山形市がユネスコ創造都市ネットワーク(映画分野)に加盟したことが重なり、旧校舎を創造都市の拠点として再生する構想が具体化する。市と芸工大の協議を重ねるなかで、行政施設としての公共性と、地域産業・クリエイティブ分野を育む拠点としての両立を目指す方向性が整理され、「Q1プロジェクト推進事業」として本格的に始動した。
このプロセスを経て、芸工大の教員や研究員らが中心となり、(株)Q1が設立された。(株)Q1の代表取締役は、芸工大デザイン工学部教授であり、建築設計事務所「株式会社オープン・エー」を主宰する馬場正尊氏が務める。建築設計はオープン・エーが担当し、施設運営は(株)Q1が担う体制とすることで、設計と運営を一体的に推進する仕組みが構築された。
●創造都市やまがたの理念形成
開館に先立ち策定された「創造都市やまがた ミッション・ステートメント」では、山形大学の学長、芸工大の理事長、山形銀行の専務、山形新聞社の社長など、地域を代表する教育・経済・メディアの各分野の関係者を巻き込み、意見交換や検討を重ねながら理念を定めた。また、このステートメントは、山形市が「創造都市としてどのように在るべきか」を示すものであり、創造都市の中核拠点であるQ1をどのような施設として運営していくかという思想にも直結している。
●「活用実験」「施設整備」「本格始動」の3フェーズによる実装
検討プロセスは、「活用実験」「施設整備」「本格始動」の3フェーズに分けて段階的に進められた。2019年度からの活用実験では、テナント運営のトライアルや、有識者・市民を交えた「クリエイティブ会議」を開催し、「やまがたの創造性とは何か」「その拠点はどうあるべきか」という問いを立て、対話を重ねるなかで、ミッション・ステートメントの策定へとつながっていった。
2021年度の施設整備フェーズでは、全館の改修工事や事業化に向けた最終調整を実施した。こうした「創造都市の拠点の姿」を描き出すプロセス自体を、Q1というクリエイティブ運動の一部として位置づけながら、2022年9月に施設が本格始動した。
●民間としての主体性と行政との信頼関係
(株)Q1は完全な民間企業として運営されており、給与・採用・企画などのマネジメントもすべて自社で実施している。行政は(株)Q1が施設で行う創造的な活動やテナント選定などが、条例の定めに反しない限りは、民間判断を尊重する方針を貫いている。
日常の運営では、共用部のトラブルや費用負担の線引きなど、行政・民間・テナントの3者が関わる判断が必要な場面も多いが、都度協議を重ねている。明確な責任区分と柔軟な協議体制の両立、そして、創造都市やまがたの推進という共通目標に基づく信頼関係が、スムーズな公民連携を支える基盤となっている。
行政側は、施設の運営方針や企画内容に過度に関与することなく、民間の創造性を尊重する姿勢を取っており、特にクリエイティブ分野の企画やイベントについては運営会社の自主性を重んじている。運営会社である(株)Q1は、「創造都市やまがた」の実現に向けて、新しいアイデアを継続的に提案し、施設全体を通じて創造的な活動を発信している。
施設概要
- 施設名
- やまがたクリエイティブシティセンターQ1
- 所在地
- 山形県山形市本町1丁目5-19
- 敷地面積
- 4,827.10㎡
- 建築面積
- 1,370.91㎡
- 延床面積
- 4,962.97㎡
- 構造
- 鉄筋コンクリート造、地下1階、地上3階
- 改修年
- 令和4年3月
- 改修設計者
- OpenA