「オープンスクール」と「エコスクール」で、豊かな教育環境を実現する

黒松内小学校(北海道 寿都郡黒松内町)

「安心安全で、豊かな教育環境をつくる学校改修」をテーマに、地域の特性を踏まえ、地域環境と調和した学校づくりで、地域と連携して環境教育を進められるようエコ改修を行った。

また、教育・学習方法の多様化や豊かな教育環境形成の視点から、学校が一つの大きな家のように感じながら強い結びつきの中で自分の居場所を発見できる「オープンスクール」づくりをテーマとした。

長寿命化 柔軟な学習空間 対話型設計 耐震化 省エネ 特別支援学級 バリアフリー化 小学校

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改修概要

黒松内小学校は、1981年(昭和56年)の竣工から30年以上が経過し、新耐震基準以前の建物であることから、老朽化と耐震性の両面で改善の必要があった。環境省の「学校エコ改修と環境教育事業」モデル校の黒松内中学校エコ改修(平成18・19年度実施)の取組みを継承し、黒松内小学校の特性を生かしながら、安心・安全な学校づくりとともに、多様な学習空間の創出と豊かな教育環境の形成を図り、環境に配慮した施設へと改修した。

長寿命化のための取組みとしては、
・必要な耐震補強と老朽化改修による環境性能の向上
・多様な学習空間の創出と豊かな教育環境の形成を図り、環境に配慮した学校へ改修

を全体の考え方とし、建物の耐久性を高めながら、建物の機能性の向上、大幅に空間構成の変更を行うことで、オープンで豊かな環境をつくる「オープンスクール」と、温かく快適な環境を整える「エコスクール」の両立を実現した。

改築する場合との比較の上、改修により現在の学校規模を保持しつつ事業費縮減を図ることができることなどを総合的に判断し、改修を選択した。校舎内部は平面計画や内装が全て変わるなど、改築した場合と同様の使い心地となっている。

改修ポイント1

大幅な空間構成の変更による、明るくオープンで豊かな環境づくり

天井は低く、教室と廊下の壁も固定壁で仕切られており、光が入らず暗い雰囲気である。
改修前の中廊下型教室配置
教室の間仕切りや廊下は木質化されており、廊下の天井は高く高窓が設置されている。
普通教室前と教室前のワークスペースの様子
2階の明るさを1階に運び、空気の流れを作る吹き抜け。周りにはベンチ付き落下防止柵が設定されている。

改修前、校舎は寒く暗く、快適な空間とは言いにくい状態だったところ、耐震補強を考慮した上で間仕切りは最小限に減らし、上下階の結びつきを高める吹き抜けや天空からの光を取り入れる高窓を設けることで、内部空間が開放的に連続する豊かな環境の「オープンスクール」を実現。校舎の内部には、木を利用した温もりを感じる内装やオリジナル家具を設け、子どもたちのアクティビティを誘発できる仕掛けとした。

また、既存の中廊下も普通教室と一体的に活用できるワークスペースとし、可動式の壁や整理棚を配置することで、オープンで柔軟な学習空間を作り出し、今後の学級数の増減にも対応可能な構成となっている。

改修ポイント2

エコ改修による、温かく快適な環境づくり

北国の気候風土の中で、オープンスクールを実現するためには、学校のどこでも、いつでも、快適な学習・生活環境であることが前提。
改修前は、外壁の断熱性能が低いことや、中廊下であるため教室内との温度差が大きく暗いなど、劣悪な室内環境を改善する必要があった。
本改修工事では、<積極的に自然エネルギーを活用するエコロジカルコンセプト>を導入し、外断熱を基本に、熱環境の分布や開口部の在り方,光の取り入れ方や風の流れ方等を丁寧に検討し、小さな技術と工夫を重ね合わせることで効果的な省エネルギーを実現した。

エコ改修の概要
ガラス張りの機械室。表示モニターに地中熱ヒートポンプによるエネルギー量と太陽光発電による発電量が表示されている
写真の詳細は本文中に記載
昇降口ホールの様子
ヒートポンプを効率的に活用し、冬季の過乾燥を防ぐ低温水床暖房システム

学校自体を環境教育の教材として利用できるよう、エネルギー量や発電量の表示モニターや機械室をガラス張りにするなど、「見える化」している。

暖房設備では、従来学校改修では実施されてこなかった床暖房を実現。低温水の床暖房システムとすることで、地中熱ヒートポンプの効率的な運転を実現するとともに適度な温湿度環境を実現している。昇降口ホールの中央吹き抜けには、床暖房システムを紹介する展示として、床下が円形のガラスになっており、赤い温水パイプの一部が見えるようになっている。

改修ポイント3

共に学び、共に育つための特別支援学級の教室配置の計画

天井は低く、全体的に暗い雰囲気である。
改修前の中昇降口
床や壁は木質化されており、吹き抜けも設置されたことから明るい雰囲気である。正面にはエレベーターが設置された。
改修後の昇降口

改修前には分散していた特別支援学級を3つの小教室と共用のワークスペースからなるワンルームの構成とし、保健室やバリアフリートイレを隣接して配置することで、落ち着いた教育環境を実現。

併せて、地域の防災拠点としてユニバーサルデザインに配慮し、スロープやエレベーターの設置により校舎内の移動や交流を容易にした。

改修プロセス

地域住民と一体になって、エコ改修のマスタープランを策定

改修事業の検討にあたり、小学校教職員、PTA、父兄代表、町長部局、教育委員会からなる「黒小エコ改修マスタープラン検討委員会」を立ち上げ、具体的な計画を検討したほか、パブリックコメントにより町民意見を反映し、エコ改修の基本的な考え方や改修コンセプト,整備イメージを整理したマスタープランを策定。
工事期間中は、児童や保護者、教職員、学校関係者等の学校改修への関心を高めることや記憶づくりを狙いとして、工事見学会を実施。

ワークショップでの検討の様子。図面の上に教室の広さを示すブロックを置いて配置を検討している。

学校概要

※令和3年4月当時

学校名
黒松内小学校
所在地
北海道寿都郡黒松内町
全体工期
平成22年7月~平成25年2月
学校規模
9(3)学級、120人 ※学級数のカッコ内は特別支援学級数を表す。
敷地面積
20,562㎡
保有面積
校舎 2,788㎡ / 屋体 749㎡
構造
校舎 RC造2階建 / 屋体 S造2階建
竣工年
1981(昭和56)年

主な改修内容

【建物の耐久性を高める改修】

  • 構造体の耐震補強
  • 高耐久性外装(ガルバリウム鋼板)の採用
  • 空調・給排水・電気の配管、配線、キュービクルの更新
  • 設備機器、配線を機械室に集約

【暖かく快適な環境を生み出すエコ改修】

  • 外壁・屋上外断熱、基礎断熱による熱損失低減
  • 複層ガラス(Low-E)+樹脂製断熱サッシの採用
  • 自然通風、夜間換気の利用
  • 地中熱ヒートポンプを活用した床暖房システム
  • LED照明の採用、照度センサー、人感センサーの設置
  • 太陽光発電パネルの設置(屋内運動場壁面)

【現代の社会的要請に応じた改修】

  • スロープ、エレベーターの設置によるバリアフリー化
  • 校舎内に明るさを導く高窓、上下階の結びつきを高める吹抜の設置
  • 図書室、パソコン室等からなるメディアセンターや多目的ホールを中心に据え、学校全体の教室配置を見直し
  • 木を活かしたぬくもりを感じる内装、家具・備蓄倉庫の整備(屋内運動場)

■工事費 改築の約8割(仮設校舎利用)
※耐震対策費を除くと改築の約6割
■廃棄物量 改築の約5割

平面図

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