事例概要
神奈川県の西部に位置する松田町立松田小学校は、全国的に事例の少ない準耐火構造による木造3階建ての公立学校として令和4年2月に開校された。
平成27年の建築基準法の改正により、一定の延焼防止措置を講じた1時間準耐火構造とすれば、木造3階建ての学校(木3学)を建てられるようになったことから、ほかの小学校でもつくりやすい木造3階建てモデルを目指し、可能な限り一般流通材の製材と住宅用接合金物を使うことで、特殊な工場加工や施工方法を必要としない計画がされている。
約50年前に将来の校舎建替えに備え、松田山(学校林)に植栽された、スギやヒノキが今回の建設時に伐採時期を迎えていることから、学校林から伐採されたヒノキ材を100%使い切ることをコンセプトに、教室のフローリング材、下駄箱側板のフリー板、昇降口劇面のデザインウォール及び中庭のウッドチップとして使用されている。
また、全児童が利用する昇降口には、CLT(直交集成材)を使用した庇がV字型に架けられている。

事例ポイント1 木造3階建て校舎(木3学)における防耐火性能の確保
壁等(RCコア棟)
延床面積が3,000㎡を超える校舎は耐火構造とする必要があるが、耐火性能の高い「壁等」で3,000㎡以内毎に区画することにより、準耐火構造(木造3階建ては1時間準耐火構造)で大規模な木造校舎を建設することができる。
このため、松田小学校では、南北を貫くかたちで配置された鉄筋コンクリート造の「RCコア棟」をはさんで、両側に木造校舎を配置する計画とすることで、木造3階建ての校舎を実現している。
また、壁等に設ける室内の防火扉には、延焼性能に加え遮熱性能が求められるため、防火扉を24mmのケイ酸カルシウム板張り(両面)とするとともに、ラッチ等の会報防止機構を設けている。


燃えしろ設計
普通教室やメディアセンターでは、燃えしろ設計を採用することによる、柱・梁等を「現し」で使用している。
西条かいのメディアセンターは、上階延焼防止の対策が必要ないことから、スギ板の目透かし張り木現しを採用し、木立てを彷彿させる木質空間を実現している。

事例ポイント2 床遮音(床スラブの振動抑制)
床遮音性能の確保
木造の建築物は、吊り天井を採用すると、上階の騒音(振動)が下階に伝播する「床衝撃音」の問題が多くみられる。
このため、松田小学校では床衝撃音対策として、角型LGSを桁方向にかけ渡し、吊り天井としない工法を採用した。角型LGSの部材を合理化するために防振材を介した吊り材を中央1点に設ける天井下地の工法としている。
これたの対策により、竣工時の普通教室での測定結果では、重量床衝撃音(タイヤ衝撃源)は、Lr-65、軽量衝撃音はLr-55~65の性能となり、日本建築学会の学校における遮音東急で2級相当の遮音性能が確保されている。
さたに、喧騒感を緩和し、静かで落ち着いた空間とするため、天井に岩綿吸音板を採用し吸音性能を高めている。


事例ポイント3 児童と共につくる学校
木質ワークショップ
町の先輩たちが育てた学校林の木材を余すことなく使いきるため、全児童が参加する木育ワークショップを開催し、昇降口のデザインウォールが完成している。
デザインウォールには、幹の丸みを残した、長さの違う木ブロックを「木立ち」や「さざ波」の揺らぎを表現するようランダムに張り付けることにより、木材の豊かな表現を生み出している。


未来へのメッセージ(梁への寄せ書き)
木造校舎に使う梁部材に、児童が未来へのメッセージを寄せ書きするイベントが実施されている。
メッセージは、木材の耐火被覆で見えなくなるが、児童たちの想いは”タイムカプセル”のように新校舎の中に残り続ける。

現場見学
木造校舎の建設中(建方の機関)に、全校児童や地域住民を対象とした現場見学会を実施し、「森の循環の必要性」や「防耐火に配慮した木造学校の特徴」などについての説明が行われ、新しい学校への愛着を育む取組が行われている。


事例ポイント4 新しい学びの場への対応
多様な学びに対応する教室
普通教室は、共用廊下に面した建具を全面開放できるとともに、通常は開口部を設けない教室と教室の間の間仕切壁にも遮音性を考慮し建具が設けられている。
全面開放できる共用廊下のみならず、教室間を自由に行き来できることで、進度別学習や教えあいの場が設定でき、学級単位・学年単位の学びを超えた多様な学びに対応できる。





学びの階段
最上階のメディアセンターに通じる階段は、単に、上下階をつなぐ動線ではなく、全学年の出会いの場であり学びの場やプレゼンテーションの場として活用することができる「学びの階段」としている。
壁面には、松田町の自然を身近に感じ、新たな興味・関心を喚起するよう松田山に住む動物を中心に実物大の動物が描かれている。
また、階段手摺のシナ合板には、松田町に馴染み深い河津桜の模様がレーザーカッターで開けられている。




事例ポイント5 大空間における木質空間の実現
体育館
体育館の屋根架構の大梁は、屋根の頂部に向かって梁せいが小さくなる台形の大断面集成材をV字で一対とすることで、母屋を省略しるる水平構面を構成している。
また、壁面には、神奈川県産材の木材を、有孔合板に加工して使用している。
なお、避難所として活用するため、非常用発電設備と非常用コンセントが設置されている。



学校概要
- 学校名
- 松田小学校(神奈川県松田町)
- 全体工期
- 令和2年10月~令和4年1月
- 学校規模
- 16(4)学級、393人 ※令和6年5月時点
- 敷地面積
- 10,924㎡
- 延べ面積
- 4,700㎡(校舎)、1,587㎡(屋内運動場)
- 構造
- 木造、一部RC造(校舎)、RC造、一部木造(屋内運動場)
- 設計
- (株)計画・環境建築、(株)類設計室
- 受賞歴
- 令和6年度木材利用推進コンクール「文部科学大臣賞」