脱炭素社会と環境教育に貢献する学校施設の『ZEB』化

瑞浪北中学校(岐阜県瑞浪市)

地形を活かし、ゼロエネルギー化を達成した。合わせて、生徒の主体的な学びを促す環境教育の推進にも取り組んでいる。

ZEB 省エネ 自然エネルギー エコスクール 対話型設計 中学校

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事例概要

瑞浪北中学校は、岐阜県瑞浪市内公立中学校3校の統合再編によって、平成31年4月に開校した中学校である。中学校新築にあたり、高断熱化や自然光の有効利用、自然換気などによる省エネと、再生可能エネルギー設備による創エネを組み合わせて、ゼロエネルギー化を目指した学校施設を計画。文部科学省の「スーパーエコスクール実証事業」の認証採択を受け、年間のエネルギー消費量を実質上ゼロとするゼロエネルギー化とともに、次世代の学校施設の在り方、環境教育の在り方について情報発信することを目指して取り組まれた。
 
 
1年目となる2019年9月~2020年8月の計測期間において、以下の内容を実施し、全国の小中学校施設として初めてとなる、建物のエネルギー消費量が実質ゼロであるZEB(Net Zero Energy Building)を達成した。
①様々な省エネ手法の効果により▲50%
②太陽光発電の発電量を学内消費▲72%
③余剰電力を電力会社へ売電し、地域の省エネに寄与。この効果も加味することで▲101%
消費量のグラフ。詳細は本文中。1年目(2019年9月~2020年8月)の1次エネルギー消費量
 

事例ポイント1

最適な校舎配置による換気・冷房エネルギーの削減、ゼロエネルギー化


高効率機器(高効率空調、LED照明等)、外皮断熱技術を導入するだけでなく、瑞浪の地形・風土を活かす最適な形状で校舎を配置し、光、風、熱、創エネルギーをうまく組み合わせて活用している。建築設計にあたり、エネルギーの消費量や建設地の気候などを調査し、設計に反映させた。
南向きの山の斜面に沿って高さを低く抑えた分棟配置の校舎は周辺環境に溶け込み、森からの風を換気に積極的に活かす設計になっている。


周囲の地形を考慮しながら校舎の配置パターンによる風の流れの違いをシミュレーションした結果を踏まえ、最適な形状で校舎を配置している。採り込まれた風はクールヒートトレンチ(地下溝)を通り、夏季には冷えた空気を、冬季には暖かい空気を各教室まで送り込む仕組みになっている。
 


 



校舎の中央に配置された階段ホールは南北に長く連続させる断面形状に設計し、最上部で排気する仕組みをつくることで、暖かい空気を上昇させる重力換気を行い、校舎内の自然換気を促している。これは、陶磁器産業を中心に発展してきた瑞浪市の文化遺産である登り窯がモチーフにされている。

 


事例ポイント2

パッシブ化により、自然エネルギーを活かした省エネと快適な環境の両立
 

普通教室の様子
 

ZEBを実現するには、エネルギー効率を上げながら、自然エネルギーを有効活用するパッシブデザインを取り入れることがポイントとなる。

一般に、小中高校では照明のエネルギー消費量が最も多く、ZEB化の実現には照明計画が重要となる。そこで、普通教室はすべて最上階に配置することで、多くの自然光を教室に採り込む設計にした。また中間階の特別教室は室内に自然光を多く採り込むライトシェルフを設置。自然光、LED照明、照明制御の組み合わせにより照明エネルギーを削減した。

 

普通教室の後ろの「クールウォームロッカー」の様子
 

 

また、学校ならではの画期的なアイテムとしてつくられたのが「クールウォームロッカー」というアイテム。普通教室の後ろの壁にロッカーと自然換気、空調設備を一体化して設置している。ロッカーの上部には涼風温風吹出スリットがあり、スリットからはクールヒートトレンチを通った涼風と太陽集熱による温風が吹き出される仕組みとなる。教室に溶けこむ自然なデザインで、高いエネルギー効率を発揮している。



事例ポイント3

生徒が自発的に行動できる環境教育システムの導入

黒板横にあるエコモニター

 

各教室には「エコモニター」が設置され、温度・湿度、二酸化炭素濃度等を表示し、生徒がモニターを見ながら照明や空調の調節ができる。
自動化できるところをあえて手動制御にし、環境教育の一環で、生徒自身が快適で省エネな環境をつくるためのアクションを起こすことができるようにしている。またほかの教室と比較した「省エネランキング」も表示されるため、生徒の省エネに対するモチベーション向上にもつながっている。
 

 

素材の異なる断熱材を体感できる工夫
 

環境・省エネ意識を無理なく浸透させることを意図した、五感で感じる環境教育システム「環境学習プラットフォーム」が設計に反映されていることも特徴である。素材の異なる断熱材に触れることで温度を体感する「触れる化」、中庭植栽のそよぎを感じる「聴こえる化」等、視覚だけでなく、五感全てに訴えかけるコンテンツが生徒の身近な場所に設置されており、環境・省エネ意識が自然と育まれる工夫がされている。

事例プロセス

教員と設計者が共に環境学習についてのワークショップを実施

ゼロエネルギー化に向けては、学識経験者、地域・保護者の代表、学校関係者、市職員等で構成されるゼロエネルギー化検討委員会を設置し、全4回の会議を開催した。

新校舎での教育環境の提案に向けては、市内公立小中学校の環境教育の取組み状況調査を実施し、児童を対象とした環境教育ワークショップや、学校薬剤師、養護教諭を対象とし施設運用を検討するワークショップを行った。

設計段階から、教員と設計者が共に環境学習についてのワークショップを行ったほか、開校後は設計者が「学校の使い方」について出前授業を定期的に行うなど、ZEBの継続に取り組んでいる。

学校概要

校舎を上空から撮影した写真

※整備当時

学校名
瑞浪市立瑞浪北中学校
所在地
岐阜県瑞浪市
学校規模
12(2)学級、341人 ※学級数のカッコ内は特別支援学級数を表す。
建物面積
8,090㎡
完成年
平成31年1月

主な導入設備

【負荷の抑制】

  1. 断熱の強化:屋根・外壁の断熱強化、low-e複層ガラス
  2. 日射の遮蔽:ライトシェルフ、low-e複層ガラス

【自然エネルギー利用】

  1. 自然換気・ナイトパージ:中間期における環企、夜間の躯体蓄熱
  2. 自然採光:昼光センサーによる照明制御
  3. 地中熱利用:クール・ヒートトレンチ、井水・湧水の熱源水利用

【機器の高効率化】

  1. 高効率機器の導入:高効率用ビルマルチ、Hf・LED照明、全熱交換器、トップランナー変圧器等

【再生可能エネルギー】

  1. 太陽光発電:屋根面に100kW相当のパネルを設置
  2. 風力発電:小型風力発電機​

【エネルギーマネジメント】

  1. 適切な運用管理:”つかう”・”つくる”の見える化


平面図

 

 

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