余裕教室を有効活用した教室の再配置

南砺市立井波中学校(富山県南砺市)

長寿命化改修において、生徒の主体的・協働的な学びが行えるよう、生徒数の減少により生じた余裕教室を「学年ルーム」や「教科専用室」として、普通教室と一体的に使用できる位置に整備。

既存躯体の劣化状況を把握し、適切な処置を実施。耐久性向上のため、進行したコンクリートの劣化への対応と外壁仕上げの剥落防止対策として外壁板を新設した。

長寿命化 柔軟な学習空間 余裕教室の活用 省エネ 中学校

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改修概要

井波中学校は、昭和48年(1973年)の竣工から約40年が経過し、多目的に使用できる教室がなく、多様な学習形態への対応が難しい点や、バリアフリー対応が不十分である点など、時代の変化による機能や性能が不足していた。また、老朽化の進行で設備配管の不具合が頻発しており、外壁等の断熱化がされておらず温熱環境が悪いなど、快適な教育環境とは言えない状態だったため、長寿命化改修を中心に施設の質の改善が求められた。
井波中学校改修は南砺市で初の長寿命化改修事例となり、改修後30年以上建物を使用することを踏まえて事業が進められた。

長寿命化改修の特長としては「生徒の主体的・協働的な学びづくり」が図れるよう、生徒数の減少により生じた余裕教室を「学年ルーム」や「教科専用室」として整備。学年ルームは可動式間仕切りを設置して、少人数指導など多目的に柔軟な活用ができるように計画した。

温熱環境の改善として、屋上および外壁を断熱化するとともに、複層ガラスを採用することで断熱性を向上させた。これにより、省エネルギー化が図られ、室内環境も改善された。また、エレベーター・スロープの設置、各階に多目的トイレを設置することで、バリアフリー化を図り、誰もが安全で円滑に使用できる施設に改善した。

また、教育環境の向上を図るため、井波中学校らしい空間づくりとして、地域住民の協力により「井波彫刻総合会館」の分館・出張ギャラリーを正面玄関に設けたり、県産の杉材を使用することで木のぬくもりを感じる教室や廊下とするなど、地域の特色を生かした改修が行われた。

改修ポイント1

余裕教室の再配置

可動間仕切りを使用した教室での少人数学習の様子の写真
可動間仕切りを活用し、少人数指導を実施している。

生徒の主体的・協働的な学びづくりが図られるよう、生徒数の減少により生じた余裕教室を、「学年ルーム」や「教科専用室(英語・社会)」として、​​普通教室と一体的に使用できる位置に整備した。学年ルームには、作品掲示等に活用できる可動間仕切りでスペースを区切り、少人数指導など多目的な使用ができる。また、ICTを活用した授業にも対応できるよう、黒板にはプロジェクターで投影できる仕様に整備している。

中庭の再整備に伴い、これに面する美術室を半屋外のコミュニケーションスペースとしても整備した。

平面図。詳細は以下。

改修ポイント2

地域の特長を生かし、木のぬくもりを感じる空間に改修

各教室前のサインの様子

教室内や体育館の壁や床の内装材、家具材には地域産材の杉をふんだんに活用し、木のぬくもりを感じる空間に改修。
「木彫刻の井波」として知られる井波らしさを校舎に取り入れるため、正面玄関に井波彫刻を飾るギャラリースペースを設け、各教室前のサインは透かし彫の彫刻があしらわれている。
地域材の活用や地場の職人の技術の活用により、地域経済の活性化や文化の継承、地場産業の振興につながることが期待できる。

改修プロセス

既存躯体の劣化状況の把握と耐久性向上のための取り組み

具体的な施設整備の計画は、教育委員会および実施設計を受注した設計事務所が協力して立案した。計画の検討に当たって、学校関係者からの整備内容に関するアンケート及び打合せを実施し、学校側のニーズを教育委員会がまとめた。

校舎を改築するか、長寿命化するかの判断として、設計業務内に構造躯体の実態調査を行い、事前に劣化状況を把握した。コンクリート構造躯体の劣化状況では、一部で中性化が進行していたが、コンクリートの圧縮強度が設計基準強度を十分上回っており、長寿命化を実施できると判断した。
建物内部の中性化が進んでいたことから、内部に適した施工性の良い、表面含侵工法を採用した。
これにより、表面に吸水防止層や劣化防止層ができるため、現状以上の中性化の進行と水分の浸入を防ぎ、耐久性の向上(防水性の向上)を図ることができる。
外壁については、外壁モルタルの補修や、一部にはパネル被覆改修工法により安全性や耐久性の向上を図った。

パネル被覆改修工法で既存外壁を別の仕上げ材で覆う。

劣化したタイル張り外壁部分には庇等はなく、生徒が通る場所であったことから、タイルの剥落、落下事故を防ぐため、表面を乾式部材で覆うこととした。
これにより、劣化したタイルの剥落による事故を防ぎ、安全性の向上を図ることができる。また、風雨・温度変化等から既存躯体を保護することにより、既存躯体の劣化の進行を抑制することができる。

学校概要

※平成28年5月当時

学校名
南砺市立井波中学校
所在地
富山県 南砺市
全体工期
平成27年4月~平成29年3月
学校規模
6(2)学級、209人 ※学級数のカッコ内は特別支援学級数を表す。
敷地面積
32,485m²
保有面積
8,108m²(校舎5,676m²+屋内運動場2,432m²)

主な改修内容

【ライフラインの更新】

  • 受水槽の更新及び上下水配管の更新
  • 高圧受変電設備及び電気幹線ケーブルの更新 等

【耐久性に優れた材料の使用】

  • 外壁塗装には防水系複層塗材を採用
  • 屋上防水は改質アスファルト露出断熱防水を採用
  • 小庇は塗膜防水を採用 等

【維持管理や設備更新の容易性の確保】

  • 各階にパイプスペースの設置
  • 点検口の設置 等

【多様な学習内容】

  • 学習形態による活動が可能となる環境の提供
  • 多目的に活用できる学年ルームとして整備
  • 中庭の再整備に伴い、これに面する美術室を半屋外のコミュニケーションスペースとして整備 等

【省エネルギー化その他長寿命化】

  • 内壁の断熱化
  • 複層ガラスの採用
  • 高効率照明(LED)の採用
  • 屋上は断熱防水仕様に改修
  • 中間期の自然換気を促進のため、開口部に風を取り込むルーバーを設置 等

【その他】

  • バリアフリー化
  • 各階に多目的トイレの設置
  • 和式トイレを洋式トイレにし、トイレ床を湿式から乾式に改修
  • 地域産材を活用した内装木質化
  • 給食調理場の一部増築 等

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