平成17年6月30日
科学技術・学術審議会学術分科会・研究振興局学術機関課
国公私立大学及び大学共同利用機関(以下「大学等」という。)における教育研究活動は、当該大学の目標・理念や経営戦略に則り、自主性・自律性のもとに取り組むことが重要である。独創的・先端的な学術研究を推進していくためには、研究環境の整備・充実が必要不可欠であり、とりわけ研究設備に関しては、研究の発展基盤を築くものとして、計画的整備を進めていく必要があるが、近年、国の厳しい予算状況などを背景に研究環境基盤としての研究設備の整備の在り方が問われている状況にある。
特に国立大学及び大学共同利用機関(以下「国立大学等」という。)は平成16年4月から法人化されたことにより、各法人の教育研究活動については、それぞれの目標・理念や経営戦略に則り、中期目標・中期計画に沿って、自主性・自律性のもと意欲的で特色ある取組みが期待されている。
国としては、大学等の自主的・自律的な運営を前提としつつ、特に配慮が必要となる諸課題に対応した取組みについて必要な支援を行うこととしているが、大学等における多様な研究設備の維持・更新を行い、更なる充実を図るためには見直すべき部分も決して少なくない。
また、大学等においては、研究設備が従来から基盤的経費や競争的資金など様々な財源で整備されてきているが、その一方で大学全体としての計画的対応を行う体制が整備されていない状況も指摘されている。
このような国や大学等の状況が今後とも改善されない場合、研究の発展基盤を築く研究設備の導入や維持管理が適切に行われず、ひいては学術の発展に支障を来たす恐れもある。
このため、大学等の現状を踏まえ、研究設備の整備方策等を検討することを目的として、平成17年1月11日、科学技術・学術審議会学術分科会学術研究推進部会の下に「学術研究設備作業部会」が設置され(同年2月の「研究環境基盤部会」の独立・新設に伴い、その下に組織替え)、国立大学等の研究設備の整備の在り方について専門的な検討を行い、本年3月に「中間まとめ」を行ったものである。
その後、本作業部会は、国立大学等のみならず、公立大学・私立大学を含めた、大学等における研究設備の整備の在り方について検討を行い、今回、「国公私立大学及び大学共同利用機関における学術研究設備について-今後の新たな整備の在り方-」を取りまとめたものである。
国公私を通じた大学等における研究設備の整備の在り方については、科学技術・学術審議会の前身である学術審議会において、平成4年7月の答申「21世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について」及び平成11年6月の答申「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について-「知的存在感のある国」を目指して-」で、基本的方向と必要な方策等が示されている。
平成4年の答申では、学術研究の発展において実験設備の重要性が著しく増大し、理論的研究面でも研究設備の利用が不可欠となっており、その結果、研究設備の有無やその性能・精度により、研究の成否や研究水準が左右される場合が多いと指摘し、必要な方策として、1.基盤的な研究設備の計画的な整備の推進、2.先導的な研究設備の重点的な整備・充実、3.研究設備の共同利用の積極的推進、4.研究設備のレンタル等による導入の促進と維持管理の改善について提言している。
また、平成11年の答申では、研究設備の整備が十分でなく全体的に老朽化・旧式化し、必須の研究設備も不足する傾向にある状況を踏まえ、平成4年の答申の内容を改めて指摘している。
研究設備に係る予算等については、国公私立大学における国の予算制度が異なるため、正確な比較を行うことは困難な面があるが、その状況は概ね以下のとおりである。
国立大学等について、平成4年度以降の研究設備に係る予算の推移(別紙1-1参照)をみると、当初予算は平成4年度の191億円から平成8年度には333億円に達した。この間、平成5年度に692億円、平成7年度に555億円の大型の補正予算が措置されている。
しかし、平成9年度から当初予算は減少に転じ、平成12年度には32億円まで減少した。ただし、平成10年度より平成14年度まで毎年度100億円から300億円規模の補正予算が措置されており、したがって、この5年間は当初予算を上回る額が補正予算で措置されていた。
直近の平成17年度当初予算では、運営費交付金(特別教育研究経費)・施設整備費補助金の設備関係経費として144億円が計上されている。これらは、設備費として明確な予算根拠のあるものを計上しており、基盤的経費や競争的資金などにより捻出された設備費は含まれていない。また、平成15年度以降は補正予算の措置は行われていないため、全体的には研究設備に係る予算は大幅に減少している。
私立大学について、平成4年度以降の私学助成のうち教育研究装置・設備に係る国庫補助の当初予算の推移(別紙1-2参照)をみると、平成4年度の109億円から平成13年度には162億円に達したが、その後減少し、平成17年度予算では112億円となっている。なお、当初予算とは別に、平成7年度86億円、平成10年度182億円、平成11年度74億円などの補正予算が措置されている。
公立大学について、平成4年度以降の公立大学等設備整備費等補助金のうち教育研究設備に係る予算の推移(別紙1-3参照)をみると、平成4年度の5.4億円から平成11年度には10.3億円に達したが、その後減少し、平成15年度予算では5.9億円となっている。なお、政府の財政構造改革、地方分権の推進の一環として、地方向け国庫補助金等の削減が求められており、同補助金は平成15年度をもって廃止され、一般財源化されている。
研究設備の現状を理解するために、以下のように区分し、それぞれの特徴と具体例、対応する主な組織を整理するとともに、その区分ごとに問題・要望等を整理した。(別紙2、3参照)
大学等が、学術ニーズ、国際協力、地域・社会貢献、国家戦略など多様な要請に応えていくためには、研究設備の存在は重要であり、その役割を以下のような観点で整理した上で、アンケート調査を行った。
(a)国際的な共同研究拠点となる大型研究設備【国際対応型、専用型】
(b)独創的・先端的研究のための大型研究設備【国際対応型、専用型、汎用型】
(c)共同利用、研究基盤・支援のための研究設備【専用型、汎用型、基盤型】
(d)地域・社会貢献、国家戦略に資する研究設備【専用型、汎用型】
国立大学等については、89国立大学法人及び4大学共同利用機関法人の全93法人に対して1億円程度のもの以上で共同利用に供している研究設備について、さらに、9国立大学法人(大規模、一般・医学部あり、一般・医学部なし、各3法人)に対して1千万円以上の全ての研究設備について、アンケート調査を行った。そのデータを基に以下の観点から研究設備について状況を整理した。(別紙4-1参照)
ア.購入金額
大学では、1千万円以上1億円未満が全体の90パーセントを超えており、1億円以上の設備は10パーセントにも満たないが、それぞれ金額を合計するとほぼ同額程度の額となる。
また、1億円以上の研究設備の約70パーセントが共同利用に供しており、購入金額が大きくなるにつれて共同利用率は高く、10億円以上になると全て共同利用であった。
イ.共同利用
1億円程度のもの以上で共同利用に供している設備の56パーセントが2億円未満で、10億円以上は7パーセントである。これを大学共同利用機関だけでみると、2億円未満が30パーセント、10億円以上は24パーセントとなる。
また、共同利用のうち約40パーセントが全国共同利用であり、大学だけでみても、約30パーセントが全国共同利用である。全国共同利用の割合は、額の大きさに比例して高くなっている。
ウ.経過年数
経過年数を見てみると、10年以上経過しているものが33パーセントで、5年以上10年未満が40パーセント、5年未満が27パーセントとなっており、全国共同利用、学内共同利用のどちらも同様の割合傾向であった。
エ.分野別
分野別に件数で見てみると、大規模大学では理工系71パーセント、医薬系17パーセント、生物系7パーセント、人文社会系2パーセント、その他(情報基盤関係等)3パーセントとなっているのに対し、それ以外の医学部を有する大学では理工系51パーセント、医薬系33パーセント、生物系13パーセント、人文社会系1パーセント、その他(情報基盤関係等)2パーセントであり、また、医学部を有しない大学では理工系38パーセント、生物系21パーセント、人文社会系6パーセント、その他(情報基盤関係等)35パーセントであり、研究設備の導入分野にはかなり違いがあった。
私立大学については、全502学校法人に対して、1千万以上の全ての研究設備について、アンケート調査を行った。うち、225法人(大学数255大学)から回答があり、そのデータを基に全体、医歯薬系学部あり、医歯薬系学部なしに分け、以下の観点から研究設備について状況を整理した。(別紙4-2参照)
ア.購入金額
全体として、1千万円以上1億円未満が全体の96パーセントであり、1億円以上の設備は殆ど有していない状況。医歯薬系学部を有する大学、医歯薬系学部を有しない大学でみても、同様の状況であった。
イ.経過年数
全体として、平成5年度以前に整備された設備が30パーセント、平成6年度~平成10年度では28パーセントであり、全体の58パーセントが平成10年度以前に整備された設備であった。医歯薬系学部を有する大学では、この割合は61パーセントであり、また、医歯薬学系部を有しない大学では57パーセントとなっている。
ウ.分野別
全体として、理工系51パーセント、医歯薬系20パーセント、生物系18パーセント、人文社会系3パーセント、その他8パーセントである。医歯薬系学部を有する大学では医歯薬系42パーセント、理工系30パーセント、生物系21パーセント、人文社会系2パーセント、その他5パーセントとなっているのに対し、医歯薬系学部を有しない大学では理工系70パーセント、生物系15パーセント、医歯薬系1パーセント、人文社会系4パーセント、その他10パーセントであり、研究設備の導入分野にはかなりの違いがあった。
エ.財源別
整備された設備の55パーセントが私学助成を活用しての整備であった。
特に1億円以上3億円未満は78パーセント、3億円以上は67パーセントと、高額になるほど、その割合が高くなる傾向があった。
公立大学については、全公立大学(73大学)に対して、アンケート調査を行った。全大学から回答があり、そのデータを基に全体、規模別(大規模、一般・医学部あり、一般・医学部なし、各3大学)に分け、以下の観点から研究設備について状況を整理した。(別紙参照4-3)
ア.購入金額
全体として、1千万円以上1億円未満が99パーセントであり、1億円以上の設備は殆ど有していない状況である。大規模、それ以外の医学部を有する大学、医学部を有しない大学においても同様の割合傾向であった。
イ.経過年数
全体として、平成5年度以前に整備された設備が30パーセント、平成6年度~平成10年度では35パーセントであり、全体の65パーセントが平成10年度以前に整備された設備であった。大規模大学、それ以外の医学部を有する大学においてもほぼ同様の傾向割合であるが、医学部を有しない大学では、この割合は77パーセントとなっている。
ウ.分野別
全体として、理工系40パーセント、医療系30パーセント、生物系14パーセント、人文社会系2パーセント、その他14パーセントである。大規模大学では理工系84パーセント、医療系7パーセント、生物系1パーセント、その他8パーセントとなっているのに対し、それ以外の医学部を有する大学では医療系83パーセント、理工系9パーセント、生物系4パーセント、人文社会系及びその他各2パーセントであり、また、医学部を有しない大学では理工系53パーセント、生物系22パーセント、人文社会系3パーセント、その他22パーセントであり、研究設備の導入分野にはかなり違いがあった。
上記2の2の研究設備の状況の分析及びアンケート調査から次のような状況が明らかになった。
国立大学等は、我が国の研究動向を視野に入れた取組みとして、これまで当該分野の研究の推進を担う国家的な大規模プロジェクトや、当該分野の研究者コミュニティの意向を踏まえた国公私立大学を通じた共同利用体制の推進等により、独創的・先端的な基礎研究を推進し、我が国の学術研究の発展に貢献してきた。
平成16年4月の法人化後も引き続き、このような国立大学等の役割を果たす観点から、次のような事柄が課題となっている。
私立大学においては、個々の大学の特性を踏まえつつ、国立大学等と同様、我が国の学術研究の発展を担ってきた。
このような私立大学の役割を引き続き果たす観点から、次のような事柄が課題となっている。
また、公立大学について、設置者である地方公共団体等の厳しい財政状況の下で、設備の整備・更新等が困難となっていること等が課題として挙げられている。
学術研究設備の整備をめぐっては、検討すべき課題が多岐にわたるが、研究環境の基盤としての重要性に鑑み、本年3月の「中間まとめ」及びその後の本作業部会における審議を踏まえ、平成18年度概算要求等を視野に入れつつ、以下のような事項に関して、早急に関係施策の改善を図る必要があると考える。
国立大学等については、この取りまとめを「研究環境基盤部会」へ報告し、同部会が策定する「平成18年度における特別教育研究経費(学術研究関係)の調整方針」に反映されることとなっている。
そのため、国立大学等については、これまでの審議において、極めて要望が強く、早急な対応が求められている以下の1~3について、平成18年度概算要求において対応すべき事項として具体的に取り上げるものとする。
国立大学等の法人化を踏まえれば、平成18年度概算要求における研究設備の整備については、法人の研究の特色や研究の方向性を活かしたものとすることが肝要であり、このため、大学等の計画的な設備整備に対する考え方(設備マスタープラン)に基づく予算要求を前提とし、国としてより効果的な支援を行う取扱いとすることが重要である。
このことを踏まえれば、国立大学等においては、学内における研究設備の整備状況の正確な把握を行い、全学的な学内共同利用の設備の整備や既存設備の改廃による有効活用、さらには大学間連携による効率的な研究設備の活用など、法人として自主的・自律的に設備整備を図り、中・長期的な視野で研究設備の問題に取り組むことが期待される。
また、大学共同利用機関法人、国立大学法人の全国共同利用の附置研究所・研究施設及びそれと同等の機能を有している研究所等においては、当該研究分野の研究者コミュニティの意向の反映や、共同利用・共同研究の場の提供等により、我が国独自の学術研究システムである共同利用体制が推進されており、学術研究の推
進において極めて重要な役割を果たしている。
そして、これら共同利用体制を担う機関における学術研究設備は、国公私立大学を通じた共同利用機能を有する研究環境の基盤として、共同利用体制の充実に不可欠なものである。そのため、今後も、学術研究の推進の観点から、これら共同利用機能を有する学術研究設備への支援を充実し、国立大学等における共同利用体制を継続的かつ効果的に機能させる必要がある。
さらに、大学共同利用機関法人等で実施する大規模プロジェクトのための大型研究設備は、国際的研究拠点として世界最先端の研究を可能とする研究環境を提供する極めて重要な役割を果たしている。これらについては従来から、主として施設整備費により整備されてきたところであり、既存のプロジェクトの推進状況を勘案しつつ、学術審議会等の評価を踏まえ、補正予算などの活用により、着実に推進されてきた。今後も引き続き、当該分野の動向や国の予算状況を勘案しながら、学術分科会等による透明性・公正性のある評価のもと、大規模プロジェクトの推進がなされるよう取組みを強化することが必要である。
私立大学は、それぞれ独自の建学の精神に基づき、特色ある教育研究活動を展開している。
今後とも多様で高度な研究を推進し、研究水準の一層の向上を図る上で、小規模な大学を含め、研究環境とりわけ研究設備の充実が図られることが重要であるが、国における私立大学への支援として、当面、以下のようなことが考えられる。
公立大学は、地域における学術研究拠点として、大きな役割を果たしてきており、今後とも、社会の要請を踏まえた研究を推進し、地域社会や国際社会に貢献していくためには、研究環境とりわけ、研究設備の充実が重要であり、設置者である地方公共団体等の判断に基づく財政措置の充実が図られることが望まれる。その際、研究設備に関する基盤的経費と政策課題等に対応し重点的に整備すべき設備に関する経費の適切な組合せについての検討が必要である。
国公私立大学を通じて、我が国の学術研究基盤の充実を図るために、以下のような点についても一層積極的に推進することが重要である。
研究振興局学術機関課