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大学教育部会(第5回)議事録・配付資料

1. 日時
  平成18年6月6日(火曜日)16時〜18時

2. 場所
  三田共用会議所 第4特別会議室(4階)

3. 議題
 
(1) 留学生交流の現状と課題について
【意見発表】 二宮 皓氏(広島大学副学長)
横田雅弘氏(一橋大学留学生センター教授)
【自由討議】  
(2) その他

4. 配付資料
 
資料1   第3期中央教育審議会大学分科会大学教育部会(第4回)議事要旨(案)
資料2 大学教育部会での検討課題に関する主な意見等
資料3 教育基本法案の概要(PDF:67KB)(※国会提出法律関係についてへリンク)
資料4 OECD高等教育政策レビューの概要
(※制度部会(第18回(第3期第3回))議事録・配付資料へリンク)
資料5 経済財政諮問会議「グローバル戦略」 グローバル戦略のポイント(PDFファイル)(※内閣府経済財政諮問会議ホームページへリンク)  グローバル戦略(抄)
資料6 再チャレンジ推進会議「再チャレンジ可能な仕組みの構築」(中間取りまとめ)
資料7 我が国の大学の競争力強化と国際展開について
(※制度部会(第18回(第3期第3回))議事録・配付資料へリンク)
資料8 大学の質保証に係る国際的な情報ネットワークの構築について
(※制度部会(第18回(第3期第3回))議事録・配付資料へリンク)
資料9 「優秀で意欲のある留学生の確保方策等について」(広島大学副学長 二宮 皓氏)
資料10 「アジア諸国の留学生政策と日本の大学」(一橋大学留学生センター教授 横田雅弘氏)(PDF:532KB)
資料11 大学分科会関係の今後の日程について(案)

(参考資料)
参考資料1   最近の高等教育に関する新聞記事
参考資料2 大学における教育内容等の改革状況について

(机上資料)
  大学教育部会関係基礎資料集
高等教育関係基礎資料集
大学設置審査要覧(平成17年改訂)

5. 出席者
 
(委員) 木村孟(部会長),江上節子(副部会長),相澤益男(分科会長)の各委員
(臨時委員) 天野郁夫,菰田義憲,永井順國,中込三郎,菱沼典子の各臨時委員
(専門委員) 北原保雄,土井真一の各専門委員
(文部科学省) 徳永高等教育局担当審議官,磯田高等教育局担当審議官,小松国立大学法人支援課長,片山私学行政課長,村田学生支援課長,加藤国際企画室長,池田留学生交流室長 他

6. 議事
  (□:意見発表者,○:委員,●:事務局)

 
(1) 事務局から「教育基本法案の概要」,「OECD高等教育政策レビューの概要」,「経済財政諮問会議『グローバル戦略』」,「再チャレンジ推進会議『再チャレンジ可能な仕組みの構築』(中間とりまとめ)」,「我が国の大学の競争力強化と国際展開」,「大学の質保証に係る国際的な情報ネットワークの構築」について説明があった。その後,委員より「OECD高等教育政策レビュー」について発言があった。発言の内容は以下のとおりである。

 
委員  日本の高等教育に対する公財政支出の対GDP比が低い原因について,OECDは関心を持っていた。また,国立大学の法人化後の状況についても議論があった。

委員  日本の大学改革について,OECD側の印象は「改革は進んでいるが,何のために改革しているのかが見えない」というものであった。特に,国立大学の法人化の目的やねらいが十分理解できていないようであった。このように,日本の大学改革の状況についての情報発信が必ずしも十分ではないように感じた。また,英語による情報発信が少ないため,直近十数年間の国内の変化が十分理解されていないようであった。

委員  日本全体を見回すと,国立大学の改革が進行しているという印象は受ける。しかし,世界の高等教育を巡る急速な状況変化に日本が追いついておらず,そのため,改革のスピードを上げるべきではないかという印象を調査団は持っているようだ。それ以外にも,日本の大学教育が国際標準に比べて遅れており,そのため,学生が知的好奇心を抱きにくくなっているのではないか,また,高等教育に対する公財政支出が低いのではないかについて,懸念していた。
 一方,高等専門学校については,優れた教育を行う特徴的な存在と捉えているようだった。

(2) 「留学生交流の現状と課題」について,有識者から意見発表があり,その後,質疑応答が行われた。意見発表と質疑応答の内容は以下のとおりである。

  【二宮晧氏(広島大学副学長)の意見発表】
   優秀で意欲ある留学生の確保方策等について述べたい。まずは「誰のための『優秀な留学生』か」ということである。これまでの日本の考え方は,国家の発展に有為な人材を求めるいわゆる「ODA型人材論」であった。そのため,国費留学生に関しては,大使館推薦等様々なチャンネルが開発され,「優秀な留学生」はそれぞれのスキームにおける人材発掘機能に依存しており,帰国して国の発展に貢献することを前提としていた。一方,私費留学生の位置付けについては,私費留学が個人投資である反面,高等教育サービスの消費者という側面もあり,また,私費留学生の質については大学の審査に依存していたため,国家による統制は難しかった。
 一方,「世界の知的財産の創出」に有為な人材という考え方もある。中央教育審議会答申「新たな留学生政策の展開について」でも,知的国際貢献ということで,研究力指向の国際貢献について述べられている。この特色は,修了後自国に帰国するという前提が崩れる点である。また,優れた人材を発掘・育成するには,大学の人材養成機能がより重要であり,とりわけ大学院教育の実質化・国際標準化・先端化が一層重要になってくる。
 では,日本の国際競争力強化に有為な人材とは何か。国費・私費を問わず,大学院レベルの人材発掘と育成が重要であるが,日本に貢献する有為な人材として,本国に帰国しないで日本に残る人材を確保することが必要である。そのためにも,1日本の企業等への優秀な技術者や高度専門職業人を供給すること,2日本の大学等の研究力に有為な人材を確保すること,3日本人学生が少ない分野を担う「優秀な留学生」を確保すること,4日本人学生よりも「優秀な留学生」を確保することが必要となってくる。そのためにも,大学に任せるばかりではなく,国としての新たな施策が必要である。例えば,1官民あげた「優秀な人材」の発掘のため,科学研究費補助金等の研究資金を海外からの招聘のための奨学金等に使用可能とするような工夫,2育成すべき人材の重点化政策,3国際学会等での活躍支援・研究費支援・日本の研究機関等への就職支援等の人材育成プログラムの積極的な開発が必要ではないか。
 次に,研究に焦点を当てて「優秀な留学生」とはどういった者かを考えてみたい。平成13〜15年度に行った「優秀な留学生の受け入れ方策に関する意見調査」によると,教員が留学生に対して求める能力・資質・態度は「意欲」「知的能力」「創造力」「真摯な勉強態度」「積極性」が上位5項目であった。一方,留学生による自己診断結果では,これらの資質を備えていると回答した留学生は少なく,我々が考えているほどの人材は国費,私費を問わず集まっていない。このような資質を持つ人材を集めることが日本の大学は研究能力を高めることにつながると考える。では,どのようなチャンネルが「優秀な留学生」発掘・確保に有効なのか。分野により若干の違いはあるが,「国費か私費か」,「大使館推薦か大学推薦か」,「協定校からの留学生かどうか」,「来日時の年齢」は,優秀であるかどうかに大きな影響を及ぼしていない。このことからも,多くの大学が大学間交流協定を結んでいるにもかかわらず,それが優秀な留学生を確保するための実効性あるチャンネルとはなっていない。それでは,「優秀な留学生」は何処にいるのか。それが分かれば,その国で重点的に優秀な学生を探せばよいことになる。前述の調査で,教員に対してこれまで指導した中で最も優秀な留学生の出身国を質問したところ,特定はできなかった。一方,全国の大学院留学生の国別出身の割合と優秀な留学生が占めている国別の割合から「優秀な学生」の顕在化率を測ったところ,ドイツが最も高かった。
 以上を踏まえ,日本への留学の魅力を高めるためにはどうすればよいか。そのための戦略として,1世界の高等教育市場や留学生市場に対応する多様な魅力ある大学教育プログラムを提供し,世界の留学生市場の10〜15パーセントのシェアを確保すること,2世界の誰もがいつでもアクセスできるよう日本の高等教育市場のバリアフリー化,ユニバーサル化を図ること,3日本の大学について,積極的に質保証とディプロマ・サプルメント(資格・学位等の内容を説明・証明する書類)型中身の情報公開や宣伝を行い,知名度を向上させること,4日本の大学教育の国際標準化・高度化・高品質化を図り,「ジャパニーズ・ドリーム」の実現や就職の支援を充実することで日本に留学することの実益を高めること,5グローバル・モビリティの中心である短期学生交流プログラムを大幅に拡大・充実し,日本への海外留学を活発化すること,6世界の大学とのジョイント・プログラムを開拓・拡大すること,7大学教育に要する費用を全額負担させるというFull-fee Payingの考え方に立って「対価」を明確にし,適正な費用負担を求めること,例えば大学において,国際戦略の観点から留学生からの授業料収入を自由に使用できるようにすること,8民間財団等の奨学金の国際公募と直接応募の途を開き,多様性を確保し,日本への留学をブランド化すること,9日本留学についての安心・安全を確保すること等が考えられる。
 また,国費留学生制度をブランド化するため,1高い競争率を維持するため,厳しく公正な選抜を行うこと,2従来の修士・博士連続型も残しながら,そのコストパフォーマンスを吟味し,修士課程と博士課程の研究留学生を別々のスキームで公募すること,3ジョイント・プログラムによる日本への短期留学を推進すること,4ジョイント・ダブル学位のための奨学金やそうしたプログラムの開発維持費を補助するような大学国際化支援事業を行うこと,5国費留学生の申請における年齢制限を撤廃し,成人学生市場への積極的な対応を図ること,6国費留学生の出願方法をインターネットによる直接応募,募集回数増,第三国滞在中にも応募可能にする等により弾力化すること,7「優秀な留学生」を求めるための国別・分野別重点化戦略を同時に展開すること,8科学研究費補助金申請資格の付与等,優秀な博士課程国費留学生に対して破格な待遇を付与すること等の施策が必要ではないか。また,国費留学生制度の愛称があればさらに良いのではないか。

  【二宮晧氏の意見に対する質疑応答】
 
委員  優秀な学生が国費留学生であるか私費留学生であるかについてはあまり影響を及ぼさないとのことだが,調査時点の国費留学生の比率が10パーセント未満であることを考えると,国費留学生の方が優秀な留学生の出現率は高いのではないか。優秀な留学生が数の上でどのくらいの人数いるのかが,重要な要素ではないか。

意見発表者  調査対象の大学における国費留学生数は把握していないため正確には分からないが,国立大学の大学院が調査対象の中心であることを考えると,選ばれる国費留学生数がもっと多いのではないかと思ったが,そうはならなかった。

委員  この調査は大学教授が選んだ「最も優秀な」留学生の属性について調査したものであり,その際,絶対数はあまり関係がないのではないか。よって,調査結果のとおり国費留学生と私費留学生の間ではあまり差がないのではないか。

委員  18歳人口の減少により,大学において,今後,留学生をどのように確保していくかは大きな問題である。「優秀な留学生」の考え方については,日本の留学生が外国に留学した場合は現地語で学習するように,来日する留学生も日本語でコミュニケーションがとれ,日本の文化や風習について理解できる者が優秀な留学生と言えるのではないか。

意見発表者  学士課程の留学生をどのように引きつけ,どのような教育を提供するかは,大学のアドミッション・ポリシーによるのではないか。日本語能力の有無についても,大学が求める人材像に照らして各大学が判断すべきことと考える。

委員  ただ今の発表は,国費留学生は,国が最も戦略的に考えなければならないにもかかわらず,現実にはそのように機能していないため,様々な問題を含んでいるという指摘と理解して良いか。また,国費留学生は殆どが研究留学生であるが,一方,日本の留学生の大部分は,学部段階の私費留学生である。留学生の質の問題を考える際に,例えば,受け入れる留学生の学力を測るシステムが脆弱である点,学部等で多様な入学者選抜を行っているため,学力に相当ばらつきがある点等,私費留学生は国費留学生以上に問題を抱えているのではないか。数を確保することが先行し,学力を不問に付している部分もあるのではないか。また,貴大学として,留学生問題に対してどのような方針を持っているのか。

意見発表者  国費留学生制度は多額の国費を投じており,戦略的であって然るべきである。一方,国際競争力を高めるために私費留学生の受入れを制御するのは難しい。国費留学生の戦略性を重視した対応をとれば,優秀な留学生を毎年少なくとも1,000名は確保できるのではないか。
 我々の大学では,「大学国際戦略本部強化事業」に採択されており,大学の国際戦略として,どれだけの留学生に対して質を落とさずに教育できるかというキャパシティー計算を行っている。計算上は1,600名まで受入れが可能であるが,学士課程では入学定員の5パーセントまでを目安にしている。それ以上になると,責任を持った受入れが困難になり,日本人に対しても負の効果が出てくる可能性もあるためである。また,私費留学生については日本留学試験を受験し,そこで学力と日本語能力を測定しているため,そこで一定の質を備えた学生を学士課程でも確保できるのではないか。

委員  日本の大学の積極的な情報公開の必要性については,同感である。日本学生支援機構も様々な国で日本留学フェアを開催しているが,現状では参加校が少ない。もう少しオールジャパンとして取り組む必要があると考えているが,この点についてはどう考えているか。
 また,留学生の出身国に偏りがある。中国,韓国で日本の留学生の大半を占めている状況である。様々な国から留学生が日本に来るように国として政策的にコントロールするべきなのか,それとも現在のようにコントロールする必要はないと考えるのか。

意見発表者  日本留学フェアについては,重要だと考えている。日本留学フェアのような,留学生を日本に引きつける催し物は,もっと世界中で行われるべきと考える。しかし,情報提供の場にとどまるだけではなく,例えばその場で出願できるようにするなど,日本の大学は学生のリクルートの観点から,日本留学フェアをより戦略的に捉えるべきではないか。
 現在,留学生を数多く派遣しているのは,サハラ諸国や中近東アラブ諸国であると言われ,これらの国々の学生をどのように引きつけるかが課題となっている。特にアラブ諸国では英語が通じるため,英語を使用することで,日本の大学もアラブ諸国の市場価値のある人材育成に協力できるのではないか。一方,ヨーロッパは域内交流が殆どであり,アメリカの学生は世界で最も動かないと言われている。

委員  留学生の数が偏っていることについて,日本はアジアに貢献しているため,アジアからの留学生数が多いという現状を認めるべきか,それとも現在留学生の受入れ数が少ない国からより受け入れるような政策を展開すべきか,どちらが良いと考えるか。

意見発表者  国費留学生については,研究に焦点を絞っており,戦略的にリクルートをすることが望ましいと考える。一方,私費留学生については,市場に任せるべきであり,どれだけ日本の高等教育市場を魅力的にできるかによるのではないか。例えば,就職支援も含めて世界中からオンラインで日本の大学に出願できるようにする等により,アクセサビリティーを高めることが必要ではないか。結果として,特定の国からの留学生が多くなっても構わないのではないか。

委員  国費留学生に関しては膨大な国費を投じており,戦略的にすべきであるが,現状ではそうなっていない。国費留学生に関しては,選抜方針や方法が明確になっていない部分があると考えられるが,その点についてはどうか。

事務局  国費留学生のうち約5割が大使館推薦枠である。残りの約4割がいわゆる大学推薦枠で,残りの約1割が国内採用となっている。大使館推薦については,外交的・戦略的な要素があり,特にアジアに偏重しているというわけではない。推薦枠については,在外公館が置かれた国々に配分しているが,選抜方法は在外公館によって若干差があるようである。今後,外務省とも大使館推薦の充実について相談したいと考えている。また,本年度から大使館推薦について日本での予備教育の際に学生の質についてチェックする仕組みを導入した。予備教育の段階で質が高くないと判断された場合は帰国してもらうことも考えている。今後は,ペナルティー的な要素も含めて,在外公館の推薦状況については注意を払ってまいりたい。

委員  地域的偏在については,3〜4年に一度しか受け入れていないような国もある。推薦枠の配分方法を見直すことで解消できるのではないか。選抜方法についても,実態を把握し改善する必要があるのではないか。

  【横田雅弘氏(一橋大学留学生センター教授)の意見発表】
   留学生アドバイザー,カウンセラーとして立場から意見発表したい。
 以前,アジア諸国の留学生政策について7カ国29機関にインタビュー調査を行った。その結果から,オーストラリアの留学生政策を「産業モデル」,シンガポールの留学生政策を「高度人材獲得モデル」,香港の留学生政策を「一般人材育成モデル」と名付けた。そこで,留学生受入れの経済的視点と大学の役割を考えてみると,大学教育を1つの商品としてとらえ,留学生にこれを提供することに重点を置いているのがオーストラリアである。一方,大学を人材育成装置と捉え,そこで将来自国の国家発展の担い手を送り出すことに重点を置いているのがシンガポールであると言える。
 日本での全国大学調査については,平成17年度に全4年制大学726校に対して実施し,362校から回答を得た。アンケートの質問の一つに,各大学の国際化に関する対応について,40項目の実施状況と重要度について調査したものがある。アンケートの結果から日本の大学の国際化の現状について以下考察する。
  1国際化施策の実施度については,国立大学では殆どが10項目以上実施している一方,私立大では約半分である。また,公立大学では,殆どが10項目未満の実施になっている。2国際化のビジョンについては,公私立では約15パーセントの大学のみがビジョンを持っていると回答している。国立大学でも40パーセントにとどまっている。少なくとも大学のビジョンを考える際に,「国際化」をどのように考えるかについて,明確な視点を持つ必要があるのではないか。特に,国際交流は展開が早く,基本的なビジョンが明確になっていないと現場はやりにくいのではないか。3国際交流専門職員の養成,4外国人職員の採用,5外国人専門のカウンセラーの採用については,殆ど実施されておらず,国際交流には専門家が必要だという認識が薄いという結果になっている。6就職支援については,留学生数が300人を超える大学ではその60パーセントが支援しているが,一般には国立,私立とも4分の3が支援していない。7地域・企業奨学金の獲得については,国立で25パーセント,私立で20パーセントであった。8外国人支援のための地域連携プログラムについては,国立で約40パーセントが実施しているが,私立は10パーセント程度であり,公立はさらに低い状況である。大学が国際的であることと,地域に密着した大学であることの2つの視点は非常に重要であるにもかかわらず,このような数値になっているのは残念である。また,公立大学の実施状況が低く,地場産業が留学生を通して世界に開かれる可能性等を活かしていないと考えられる。
 留学生の卒業後の進路状況については,学部,修士課程とも約30パーセントが国内で就職し,同じく約35パーセントが国内で進学している。日本人学部卒あるいは修士修了の進学率と比べると非常に高い。しかし,絶対数は必ずしも多くない。
 外国人高度人材の獲得と育成のために考えられることとしては,1大学院修了レベルの超高度人材の確保,2産学連携による大規模な奨学金制度の導入,3産官学地域連携による就職支援や本格的インターンシップの導入,4地場産業との連携,5中小企業が持つ技術力の利用が挙げられる。1については,日本が世界への知的貢献を標榜するのであれば,国費留学生制度の中に,派遣国のニーズに対して国費で学生を招き,帰国後も継続的に支援する制度を導入してはどうか。明確に世界への貢献を示すということが戦略的ではないか。一方,日本も世界に人材を求めるべきであり,そのために就職支援のみにとどまらず,例えば,オーストラリアやシンガポールが行っている永住権認定ポイント制度について検討するものも一助ではないか。2については,現在も,経団連関連の奨学金があるが不十分である。産業界と連携し,奨学金制度を設立することで,日本企業が留学生に対して関心が高いことを世界にアピールすることができるのではないか。3については,シンガポールのSIM(Singapore Institute of Management)や立命館アジア太平洋大学の取組が参考になるのではないか。4については,公立大学や地方国立大学が地元企業との関係を強化し,地場産業による奨学金制度を設けることは,地域と留学生を結びつける上で大きな意義があると考える。公立大学や地方国立大学は先述した調査では,国際化は未だ進んでいないが,ある意味で可能性はある。5については,日本の技術力は留学生にとって大変魅力的なものであり,その受け皿として高専での留学生受入れを拡大することは可能ではないか。
 卒業生は,いわば大学にとっての「製品」であるが,卒業後の留学生の所在さえ把握できていない事例が多い。今後,産業界はより広い市場から人材を調達しなければならないが,現在の日本企業は語学力があり,慣習を理解しているいわゆる「日本的」な人材を求めている。大学は「日本的」な人材だけではなく,留学生等のより多様な人材を社会に送り出す戦略を立てる必要がある。同様に企業も「日本的」人材に固執しない人材活用ができるよう,自己変革が求められている。留学生は単に大学だけを目指して日本に来るのではないと考える。大学卒業後,日本の中で活躍できる場が確保されているということは,留学生にとって日本への留学をさらに魅力的なものに変えるだろう。そのためにも産学官が連携し,留学生受入れを拡大することが必要である。

  【横田雅弘氏の意見に対する質疑応答】
 
委員  留学生が増えることによって,日本人学生の教育にどのような影響が期待できるのか。日本人学生の国際化に留学生の存在がどのように影響するのか。

意見発表者  留学生が増えれば交流が進むとは考えていない。交流を活発化させるためには,様々な仕掛けが必要である。その意味では,カリキュラムにはまだ工夫の余地があるのではないか。また,大学を地域に開放することで,地域企業や住民あるいは教職員が一体となったプログラムも開発できるのではないか。その際,キーパーソンとなるのが留学生だと考える。

委員  留学生たちは何を求めて来日するのか。日本の留学生の3分の2は中国人であるが,中国人学生はなぜ日本にやってくるのか。そして,卒業後の中国人学生の状況はどうなっているのか。一般論の中に埋没してしまい,その点がわかりにくくなっている。
 一般には,開発途上国の場合,自国の高等教育システムが十分に機会を供給できないため,周辺国に留学生として送り出すことが多い。今後,中国で高等教育システムが整備されれば,今ほど学生が来なくなるかもしれない。
 日本の留学生政策は中国との関係を抜きには考えられないのだが,そのための戦略的な調査は行われているのか。また,今後そのような調査を行う予定はあるのか。

意見発表者  日本の留学生問題は,対中国人学生の問題であり,彼らが何を考えているかという視点は重要である。しかし,日本が何を考えているかということも重要であり,両者を同時に考えなければならない。
 中国人留学生が何を考えているかについての研究は重要である。中国人留学生に対して「日本での永住を考えているか」と調査した結果,永住を考えている者は10パーセントにも満たない結果であった。しかし,個人的なキャリアプランとして日本でステップアップしたいと考えている中国人学生は少なからず存在する。
 自国の教育機会や施設が整ったため,留学生が減少するという事例は,マレーシアで実際に起こっている。今後は,これまでの途上国から先進国へという流れではなく,相互にどのようなメリットがあるかを考えていかなければならないのではないか。各国の戦略を正確に捉え,その中から,どのような戦略をとるかが重要になってくるのではないか。そのためにも,研究者同士がネットワークを組んで研究する必要があると考える。

委員  「留学生10万人計画」の策定から20年以上が経過するが,これは数の面のみが重視され,戦略的ではなかった。この20年の間に留学生市場には大きな変化が生じているが,国はあまり戦略的な視点を持っていないように見受けられる。その点からも,日本の留学生政策を見直す必要があるのではないか。

委員  昨年あたりから中国・韓国からの留学生が減り始めている。中国は,高等教育政策に力を入れており,今後も留学生数が減る恐れがある。日本として戦略的な留学生政策を考えなければならないだろう。

委員  日本のメーカーでは,連結売上で海外部門の売上が過半数を超えている企業が目立っている。今後,日本企業が必要とする人材は,日本人のみならず,海外の人材で日本企業あるいは日本の考え方を理解してくれる者ということになるだろう。企業は,個別に現地法人でそのような人材を採用しているが,民間財団等の奨学金の国際公募等,産業界の動きとリンクした施策について研究することは,留学生政策だけではなく競争力ある人材を育成する観点からも重要ではないか。また,留学生を増やすことは日本国内で学ぶ大学生の多様化につながると考える。日米ともに産業界の人事政策では「多様性(diversity)」が重要なテーマであり,その意味でも産学官が連携し,留学生の受入れを拡大することは必要だと考える。
 次に「教育が求める能力・資質・態度と留学生の能力等に関する自己診断」で「創造性」について教員と学生のギャップが大きいが,これが意味するところは何か。また,留学生が「日本が好き」という項目を比較的上位に挙げているように,日本に留学することが単純な専門性だけではない統合的な意味があるのではないか。留学生の受入れを拡大するには,如何に日本を好きになってもらうかというようなトータルな戦略が必要ではないか。

意見発表者  「創造性」についてのギャップが著しいのは,教員自身が極めて創造的であり,自らが創造性についての持論を持っているため,学生にも創造性を期待する一方,学生側は必ずしもその分野で一流の研究者になろうという者ばかりではなく,多様な目的を有しているためではないか。
 また,日本にとって親日派を抱えることは良いことであり,彼らが日本に多くのメリットをもたらしてくれていると考える。

意見発表者  高等教育機関と産業界が結びつき,全体の大きなビジョンを構築することは重要である。例えば,大手企業で既に留学生を多く雇っているところでも,うまく活用しているところは少ない。留学生を活用するノウハウが企業の中で蓄積されておらず,それをまとめることが今後の課題ではないか。さらに,企業や日本で働いている元留学生を対象として調査を行うことで,事例を集めたり,意見交換等ができる組織やシステムを構築していくことも必要ではないか。

委員  日本の留学生は日本留学フェア等の取組により,現在約12万人になっているが,一方で学生の海外流出も著しい。イギリスでは,ブリティッシュ・カウンシルが中心となって,特定の大学を選んでリクルートし,日本人学生を英国の研究中心大学に受け入れている。日本でもこのような国家レベルでの政策が必要ではないか。
 留学生が日本人学生に与える影響について心配していることがある。最近の日本人学生はあまり留学生の面倒をみない。そのため,留学生同士で行動せざるを得なくなっている。日本の社会全体に関わる問題だと考えるが,今の日本人学生は留学生と同化しようとしているのか。

意見発表者  どちらもどちらで,留学生同士で集まるのは,日本人の特性のみが原因ではないと考える。国の施策として,意図的に留学生に関わらせる留学生チューター制度もあり,そうした制度を活用しながら,日本人学生が留学生から学ぶ仕組みを作っていかなければならない。

意見発表者  留学生と日本人学生の友人関係がどのように阻害されているかについて研究をしたことがある。日本人学生は団体の中で友人をつくるケースが多いが,留学生はどちらかというと,一対一で友人を作ろうとする。日本人学生は,一対一でのやりとりに漠然とした不安や遠慮を感じ,それが原因で友人関係が阻害されているとの結論に達した。よって,接触が活発になるような仕組みを作ることは重要だと考える。体験的な授業や実践的なフィールドワークあるいはボランティアワークを通じて学生間の交流が活発になるのではないか。


7. 次回の日程
  次回は,平成18年7月18日(火曜日)14時〜16時に開催することとなった。

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)

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