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著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第2回)議事録・配付資料

1.日時

平成20年4月28日(月曜日)10時〜12時

2.場所

旧文部省庁舎 6階 講堂

3.出席者

(委員)

上野、大村、梶原、金、佐々木(隆)、里中、椎名、渋谷、瀬尾、津田、常世田、都倉、中山、野村、生野、三田の各委員

(文化庁)

高塩文化庁次長、吉田長官官房審議官、山下著作権課長 ほか関係者

4.議事次第

  • (1)開会
  • (2)利用円滑化方策について
    • 1アーカイブワーキングチームからの報告
    • 2共有ワーキングチームからの報告
    • 3権利者不明の場合の利用円滑化方策について
  • (3)閉会

5.配付資料

資料1
  図書館等におけるアーカイブ事業の円滑化方策について(アーカイブWT報告書)
資料2
  多数権利者が関わる実演の利用円滑化方策について(共有WT報告書)
資料3
  映像コンテンツ大国の実現に向けて(梶原委員発表資料)
(※(第1回)議事録・配付資料へリンク)
資料4
  権利者不明の場合における各種対応策の関係のイメージ(PDF:95KB)
資料5
  権利者不明の場合の裁定制度と権利制限型の制度等との比較
参考資料
 利用円滑化方策に関する検討資料(第1回配付資料)
参考資料1−1
  著作隣接権に関する裁定制度について(2回目)
(※(第1回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料1−2
  裁定制度以外での対応策として出された提案について
(※(第1回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料1−3
  諸外国における保護期間延長の際の利用円滑化方策に関する議論について
(※(第1回)議事録・配付資料へリンク)
参考資料2
  第1回小委員会において出された主な意見
参考資料3
  第1回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会議事録
(※(第1回)議事録・配付資料へリンク)

6.議事内容

(1)開会

【野村主査】

 それでは、定刻がまいりましたので、ただいまから過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の第2回を開催いたします。
 本日は、ご多忙の中ご出席いただきまして、誠にありがとうございます。
 本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照しますと、特段非公開にする必要はないと思われますので、既に傍聴者の方には入場していただいております。特にご異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村主査】

 それでは、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 お手元の議事次第の下のほうに配付一覧が記載してございます。本日、資料5点、参考資料として参考資料1から参考3までを配付しております。参考資料1は、前回の小委員会で配られたものと同じものでございますが、1−1から1−3までございますので、ご注意をいただければと思います。
 過不足等ございましたら、ご連絡いただければと思います。

(2)利用円滑化について

【野村主査】

 それでは、初めに本日の議事の段取りについて確認しておきたいと思います。議事次第によりますと、本日の議題は、12いずれもワーキングチームからの報告ですけれども、この2件と、3の権利者不明の場合の利用円滑化方策についての3点でございます。
 まず、ワーキングチームからの報告につきましては、共有ワーキングチーム、アーカイブワーキングチームの座長より、それぞれ10分程度で検討状況についてご報告をいただき、その報告について議論を行いたいと思います。3の権利者不明の場合の円滑化方策については、当初、今回の小委員会で総括する予定としておりましたが、前回、野原委員などからご指摘がありまして、民間での対応策の検討状況との関係も整理しつつ検討すべきであるということでしたので、日本経団連での議論の様子を梶原委員からご報告いただいて、議論を行いたいと思います。

2共有ワーキングチームからの報告

【野村主査】

 それでは、渋谷委員がまだお見えではございませんので、12の順序を入れ替えさせていただきまして、最初に共有ワーキングチームからの報告ということで、検討状況について上野座長よりご報告をお願いいたします。
 10分程度でお願いします。

【上野委員】

 共有ワーキングチームから検討状況の報告をさせていただきます。
 共有ワーキングチームは、昨年11月26日の本小委員会におきまして、その設置が決定されまして、5名の委員により本年1月21日を第1回として、4月18日の第5回まで、計5回の会合を開催してまいりました。
 具体的な課題といたしましては、昨年10月31日に開催された小委員会におきまして議論された利用円滑化等の具体策に関する問題であります。
 まず、背景事情と問題の所在を明らかにしておきたいと思います。「利用円滑化」と言われておりますけれども、そこで具体的に念頭に置かれておりますのは、過去の放送番組の二次利用と、これに関わる実演家の権利との関係がほとんどと言って差し支えないと思います。そして、ここで「二次利用」と申しておりますのは、DVD化やネット配信が念頭に置かれております。と申しますのも、放送番組を二次利用する場合には、まずは実演家が有する録音・録画権が働くことになるわけであります。そのため、利用円滑化という観点からいたしますと、実演家の著作隣接権を円滑に処理できるようにする必要があるわけであります。そのため、本委員会が既に行いましたヒアリングにおきましても、共有に関する規定、あるいは、裁定制度の見直し等、何らかの形で利用円滑化に資するための措置を講じるべきとの意見が述べられてきたわけでございます。
 確かに、周知のとおり我が国の著作権法によりますと、一般的には、劇場用映画の二次利用と放送番組の二次利用とではその状況が異なるわけであります。すなわち、劇場用映画のように、許諾を得て映画の著作物について録音又は録画された実演につきましては、いわゆるワンチャンス主義の適用により、二次利用につきましても録音・録画権等の適用除外とされているため、著作権法上は、実演家から改めて許諾を得ることなく、これを二次利用することが可能なわけであります。これに対しまして、放送について許諾を得て、放送番組に固定された実演につきましては、これを事後的に二次利用する際には、実演家の録音・録画権が改めてかかわってくることになります。
 以上のような事情から、日本経団連の検討委員会におけるなど、放送番組の二次利用を円滑化するよう求める声が強いようでございます。
 ただ、放送番組の二次利用につきましては、既に平成16年6月に公表された文化庁検討会の報告書によりますと、二次利用が促進されない理由として、著作権契約以外の事由によって供給されない場合がほとんどであり、著作権契約の問題が占める割合はそれほど多くないとまとめられているとのことでございます。また、今後制作される放送番組に関しましては、将来において番組が制作される際に、マルチユースを念頭に置いて契約をすればいいわけでありまして、そのための環境整備が進められているようでございます。
 そこで、本ワーキングチームといたしましては、そうした様々な指摘を踏まえた上で、過去の放送番組を二次利用するために、権利処理を円滑に行うことができるようにするための方策の可能性について検討を行った次第でございます。論点は2つございます。
 第1に「共同実演」についてであります。これは、いわゆる「共同実演」の概念を明確化し、実演家の権利の共有に関する規定を通じて、過去の放送番組の二次利用の円滑化に資することができるのではないかという問題提起に答えたものでございます。実際のところ、「知財計画2007」、知的財産戦略本部の2007年5月31日の決定におきましても、「著作権法上の実演家の著作隣接権の共有に関する解釈を明確にし、利用に関しほとんどの権利者の合意が得られるコンテンツの流通を促進するための方策について検討を行う」と述べられております。
 確かに、我が国著作権法におきましては、著作権及び著作隣接権が共有される場合について、その権利の行使について一定の規定が設けられております。すなわち、著作権法65条におきましては、著作権が共有されている場合、原則として共有著作権者全員の合意によらなければ、著作権を行使できないとする一方で、各共有者は、正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができないと規定しているわけでございます。従いまして、正当な理由なく、合意の成立を妨げている共有者がいる場合、この者に対して他の共有者は同意を求めることができると解されているわけでございます。この65条の規定は、著作隣接権にも103条をもって準用されております。
 そして、諸説ございますけれども、起草者と申しますか、加戸守行著の『著作権法逐条講義』よりますと、「共同実演」なるものが認められているということを前提に、記述されている部分を多く見ることができます。そうしますと、「共同実演」にあたると判断された場合は、共有著作権に関する65条が準用されることになりますので、共有著作隣接権者は正当な理由なくして、著作隣接権を行使しようとする合意の成立を妨げることができなくなるということになるわけでして、これは確かにその通りでございます。
 ただし、著作隣接権が共有状態になるというのは、共有実演でなくても、例えば共同相続によってもなり得るわけでございます。
 また、共同著作物の著作者人格権の行使に関する64条というのがございますけれども、こちらのほうは実演家人格権に準用するという規定が定められておりません。
 こうしたことからしますと、現行著作権法上「共同実演」というものが認められているかどうかというのは、一応オープンなままになっているものと言えます。そこで「共同実演」が成立するということ自体や、その要件を立法等により明確にすれば、各共有者は正当な理由がない限り反対できないということになりますので、ひいては放送番組の二次利用の円滑化に資することになるのではないかと、このように考えられたとすれば、それは問題提起としてもっともなことと思われるわけでございます。
 以上のような問題提起を受けまして、以下のような検討を行いました。
 まず、先ほどの起草者が述べておりますように、「共同実演」を「共同著作物」の要件に準じて定義いたしますと、その要件は3つということになります。すなわち、複数人が実演と言える行為を行っていること。2人以上の実演が共同して行われていること。各実演家の寄与を分離して個別的に利用することができないことであります。確かに、合唱団による演奏のように、この3要件を満たすような実演もあり得ようと思います。しかし、とりわけ放送番組を念頭に置く限りは、この3つの要件を満たすような実演は必ずしも多くないように思われます。
 例えば、2番目の共同性の要件につきましては、放送番組の場合、たとえ最終的には1つの番組として完成するといたしましても、そこに固定された実演がもともと別々に固定されたものであるなどの場合、共同性を有しないものと考えられるからであります。また、第3要件の分離利用不可能性につきましても、放送番組の場合におきましては、特定の実演のみを分離し、その部分だけでも利用可能なものが多いようでありまして、これは分離利用不可能性の要件を満たさないため、「共同実演」にならないということになります。
 したがいまして、「共同実演」と言い得るのは、合唱団とかオーケストラによる演奏を少数のマイクで録音したものなど、かなり限定的なものだと考えられるわけでございます。その意味では、たとえ「共同実演」というものを立法等により明確化したといたしましても、これを「共同著作物」の定義に準じて定める以上、これに該当するものは現実にはかなり限定的になるのではないかということであります。そうしますと、「共同実演」なる概念の明確化によって、多くの放送番組の二次利用を円滑化することに資するかと言いますと、これは必ずしも期待できないのではないかというわけでございます。
 むしろ、もし放送番組全体を1つの「共同実演」と捉えることになるならば、仮にそのような放送番組の一部を部分使用しようという場合には、当該部分に映っている実演家のみならず、その部分に映ってはいないけれども、当該番組に出演したすべての実演家の許諾を原則として得なければならないということになる可能性があります。これは現状の実務よりも処理を煩雑にしかねないと考えられるところであります。
 以上のような検討を経まして、「共同実演」の定義を明確化することにもちろん意義がないわけではありませんが、それによって直ちに実演の利用円滑化に資するとは必ずしも言えないのではないかという結論に達した次第でございます。
 以上が第1点目の論点でございます。
 第2に、多数権利者が関わる実演の利用を円滑にするための方策についてでございます。先ほど「共同実演」について見ましたけれども、そもそも放送番組に固定された実演に多数の権利者が関わるというのは、「共同実演」に限った話ではありません。相続、譲渡等によって著作隣接権が共有状態になる場合ですとか、あるいは、共有状態でなくても、1つの放送番組において複数の実演が利用されているという場合も多いわけでございます。このように1つの放送番組に多数の権利者が関わってくるという場合、その一部の権利者から許諾を得られないと、結果としてこれを利用することができないから、その利用円滑化が阻害されてしまうというご意見があるようであります。
 こうした問題提起を受けまして、以下のような検討を行いました。確かに、過去において権利者の許諾が得られなかった実例もあるようではありますけれども、実際には、放送番組の二次利用について許諾が得られないということは少ないようでございます。本ワーキングチームの検討過程において取り上げられた実例の中には、例えば「イメージ戦略等の観点からプロダクションの計画に沿った露出をしたいから」という理由、あるいは、「実演の出来が悪いから」という理由が見られたようであります。もっとも諸事情を考慮いたしますと、これらは二次利用を許諾しない理由として直ちに不当だと言い切ることはなかなか難しいのではないかと考えられます。
 そうは申しましても、例えば主役を含めたほぼすべての実演家が二次利用を許諾している中で、端役としてほんの少し出演したに過ぎないような実演家が、例えば「実演の出来が悪かったから」というだけの理由で二次利用を許諾しないような場合、これは拒否理由として認められるべきではないのではないかとの考え方もあり得るようでありまして、既に関係者においてもこの点に関して一定の合意事項ができているようであります。ただし、実務においてそのような理由による拒否で二次利用が進まないケースが現実にあるかというと、やはりほとんど聞かれないとのことでございます。
 いずれにしましても、二次利用を許諾しない理由については、その妥当性を一律に判断することが容易でないようであります。また、実務におきましては、実演の二次利用が拒否されるというケースよりも、むしろ権利者不明の場合のほうがより問題のようでございます。つまり、実演家の引退等の理由によりまして、連絡先が不明となり、許諾を得ることができないという事例のほうが多いということなのでございます。
 以上のような状況に鑑みまして、一定の条件の下に、何らかの形で実演を円滑に利用できるような仕組みを構築できないかということにつきまして、以下のような立法論が提示され、それぞれについて検討を行いました。
 第1に実演の利用に関して「協議不調」の場合についての裁定制度を設けるという措置、第2に共有物の管理に関する民法252条の規定に準じて過半数で決する規定を設けるという措置、第3に、ごく一部の実演家が二次利用を拒否しているという場合に、一定の要件の下、同意推定など、反対できないようにする規定を設けるという措置、第4に、アメリカの裁判例を参考に、一部の権利者から許諾を得れば、放送番組を適法に利用できるような規定を設ける措置、第5に、ドイツ著作権法における結合著作物に関する規定を参考にして、共同の利用のために相互に結合した実演については、その利用に関する同意を信義誠実に反して拒み得ないとするような規定を設ける措置などが考えられた次第であります。もっとも様々な措置について検討を行いましたけれども、いずれについてもなお検討の余地が残されている次第でございます。
 また、実務上の解決策として重要な方策として、著作権等管理事業者への権利管理委託を促すことが考えられ、関係者による環境整備が期待されるところでございます。
 さらに、英米で最近検討されているオーファンワークスのような規定ですとか、あるいは、後ほどの議題にもなっておりますけれども、権利者不明の場合についての裁定制度を設けるといったような方策を検討することも意義があるとされた次第でございます。
 あと「その他」といたしまして、コンテンツの単位に関わる点についても若干議論されました。と言いますのは、特に放送番組を部分利用する場合におきまして、どの範囲の実演家の許諾を得る必要があるかという問題は、明らかにされたほうが望ましいと考えられるからであります。これはそもそも「1つの実演」というものは何かという、実演の「単位」に関わる難しい問題であります。同様の問題は著作物の「単位」についても難問となっておりますけれども、いずれにしてもこれは解決されるべき問題と考えられます。
 ちなみに、実務におきましては、放送番組のあるシーンのみを利用するという場合は、そのシーンに登場している実演家の許諾を得ればよいということになっているようでありまして、このような処理が問題視されたことは従来ないようであります。従いまして、今後は差し当たりそれぞれの実演の実態に応じて判断することになろうかと思われます。
 以上、本ワーキングチームにおきましては、放送番組の二次利用に係る実演家の権利を円滑に処理できるようにする方策について検討を行った次第であります。もっとも本ワーキングチームによる調査の限りにおきましては、現実に利用許諾が得られないというケースは少ないようでありまして、現実に二次利用が進まないとすれば、それはむしろビジネスモデルが成立し得ないこととか、あるいは、権利者不明であるために許諾が得られないケースではないかということでございました。
 これを踏まえて実演の利用円滑化のための具体的な方策につきましても、様々な角度から検討を行いました。その結果、必ずしも明確に効果があると考えられる対応策を見いだし得たわけではございませんけれども、管理の集中管理の促進、あるいは、ビジネスモデルの構築など、関係者の様々な取組によりまして、一定の効果が期待できる方策が生まれる可能性はあると思われます。また、そうした動向や状況を踏まえまして、将来においても必要に応じて実演の利用円滑化方策に関して、改めて検討することも有意義ではないかと考えた次第でございます。
 以上でございます。

【野村主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまのご報告につきまして、ご質問あるいはご意見ございましたら、ご自由にご発言をお願いしたいと思います。
 どなたからでも。いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 ご発言がなければ、共有ワーキングについては、この報告につきまして、次回の小委員会で利用円滑化方策を総括するときに一緒にまとめるということでよろしいでしょうか。
 どうもありがとうございます。

1 アーカイブワーキングチームからの報告

【野村主査】

 それでは、1のアーカイブワーキングからの報告に移りたいと思います。主査をされている座長の渋谷委員がまだお見えではございませんので、事務局からご説明をお願いいたします。

【大和著作権課長補佐】

 事務局から代わってご報告を申し上げます。
 アーカイブワーキングチームにつきましては、平成19年11月26日開催の本小委員会で設置が決められまして、以後4回にわたり、資料1の巻末にチーム員の名簿を掲載しておりますが、渋谷座長ほか6名の方々を中心に議論をしていただきました。資料1の項目に沿ってご説明をしたいと思います。
 まず、「はじめに」のところでございますが、過去の著作物の保護と利用に関する小委員会においてアーカイブについて議論が行われまして、その中で文化の健全な発展のためには、文化的所産としての著作物等を幅広く収集・保存しておくことが重要であること、あるいは、国民ができるだけ幅広く著作物等へのアクセスができるような環境整備が必要であるという観点からの共通認識はあったようでございますが、具体的なアーカイブ像が必ずしも明確ではございませんでした。
 そういったことから、このワーキングチームにおきまして、円滑化方策の足がかりといたしまして、図書館に焦点を当てて具体の制度について検討したところでございます。なお、この検討にあたりましては、図書館等の役割である貴重な資料の体系的な保存、あるいは、国民の情報アクセスの保障、こういった公益的な観点がある一方、権利者保護の観点、さらには出版等の民間のコンテンツ流通ビジネスへの影響の配慮といったことが必要であるということから、両者のバランスをとることに配意したものでございます。
 まず、1番目の項目といたしまして、国会図書館において所蔵資料をデジタル化することについて議論を行いました。資料1の1項目の前半では、国会図書館の資料の保存状況を紹介しておりますけれども、国会図書館で今年の3月にまとめられた調査研究によりますと、本文の紙が酸性紙で紙の強度が低下している資料につきましては、酸性を中和するような処理が困難だと。紙が丈夫な場合には脱酸性化処理が可能なわけですけれども、古い書物で物理的強度が低下している場合には、そういった処理も不向きであるため、マイクロ化といった形での媒体変換が必要となるわけでございます。その割合を見てみますと、10年ごとに400点のサンプル調査をしてみたところ、1950年代では約5割、1960年代では約2割、70年代でも0.5割のものについては、大量脱酸性化処理ができない、マイクロ化への媒体変換をせざるを得ないという状況にあるようでございます。
 こういったことから、既にマイクロ化につきましては、国会図書館においても進められているわけでございますけれども、マイクロ資料自体に傷がつきやすくなる、あるいは、それ自体の保管スペースが必要になっているという状況もあるようでございます。ちなみに、マイクロフィルムの所蔵数は既に52万巻、それから、はがき大のものをマイクロフィッシュと言いますけれども、これが780万枚という量に上っているそうでございます。
 こういった保存のための複製につきまして、現行法では、著作権法31条第2号で「保存のため必要がある場合」は、権利者の許諾なく行うことが認められております。この趣旨につきましては、昭和51年の著作権審議会の報告書によれば、2ページの冒頭にゴシックで引用しておりますが、稀覯本とか損傷しやすい資料について認められるという観点からいわば厳格に解されていたわけでございます。こういった点につきまして、本ワーキングでは技術の発達などの社会の変化に応じて許容される範囲が拡大しているのかどうかという観点から検討を行いました。
 図書館資料をデジタル方式によって複製することについては、傷みが激しいものについては、先ほど紹介しましたように、現行の31条の規定に基づいて複製できる部分はあろうかと思いますけれども、将来のために保存するとか、まだ傷みが生じていないようなもの、すなわち納本後直ちにデジタル化することが認められるかどうかは、必ずしも明らかではないわけでございます。この点につきまして、将来の国民の利用に供するために資料を保存するという国会図書館の役割を考えた場合には、傷みが激しくなる前に、良好な状態でデジタル化され保存されることが期待されるわけでございまして、こういった観点から、これまで厳格に解されていた31条2号の規定について、国会図書館においては納本された資料について、直ちにデジタル方式により複製できることを明確にすることが適当であるという結論を得たところでございます。
 国会図書館においてデジタル化された資料をどのように利用するかにつきましては、2番目の項目以降でございます。国会図書館でデジタル化された資料は、少なくとも書籍等の原資料であれば行うことができるような利用については、同様の利用が可能になるような仕組みが望ましいと考えられるわけでございます。
 ただ、デジタル技術の発達によって、あらゆる者が著作物の複製や加工を行うことが可能となりますので、その利用の在り方によっては、著作権者等の利益が脅かされる可能性がある、あるいは、現状のコンテンツビジネスを阻害するようなことにもなりかねないといったことから、そのような点にも配慮が必要であると、こういった点に留意しながら、(1)、(2)の点について検討いたしました。(1)がデジタル化された資料を国会図書館の中で利用することでございまして、(2)は、国会図書館でデジタル化された資料を、国会図書館の外で、外の利用者に提供するというものでございます。
 まず、国会図書館内の利用につきまして、デジタル化された資料を閲覧することについて検討いたしました。そもそも資料を閲覧するという行為につきましては、著作権法上の権利が及びません。また、CDやDVDを館内視聴させることが現在国会図書館その他の図書館で行われていますが、これらについては非営利・無料の演奏、上映として権利が制限されております。国会図書館においてデジタル化されたものを端末機器の画面に映し出して閲覧させるという行為も上映と同様に考えられますので、非営利・無料の要件を満たしていれば権利者の許諾なく行うことができるわけでございます。
 また、現在、国会図書館は東京の本館と関西館、国際子ども図書館という分館がございまして、この間でデータを送信して、相手の館で来館者に端末機器で視聴させるというような行為が考えられるわけですが、これは公衆に対して直接受信させることを目的として送信しているものではございませんので、公衆送信には当たらないことから、上記の上映と同様に考えられるわけでございます。したがって、非営利・無料の要件を満たしていれば、権利者の許諾なく行えるという現行の扱いが適用されるかと思います。
 なお、デジタル化された場合には、技術的には館内の複数の端末を用いて同時に複数の図書館利用者に閲覧させることもできるわけでございます。書籍ですと、1冊しかない場合は1人しか閲覧はできないわけですが、デジタル化された、データベースのような形になっているものであれば、設備さえあれば複数の者が同時に閲覧することも可能なわけでございます。デジタル化された資料は原資料の代替物であるというふうに考えますと、同時に同一のデジタル化された資料にアクセスできる人数は、国会図書館が所蔵する原資料の部数に限定するなどの措置が適当ではないかというふうに考えられたものでございます。
 さらに、国会図書館内でデジタル化された資料を利用者に対してコピーサービスする場合でございますが、現行法ではデジタル化された資料からのコピーサービスについても、31条1号の要件を満たす限り、権利者の許諾なく行えることになっております。なお、現在は国会図書館における複写サービスにつきましては、紙への印刷によって提供しているわけでございます。この点、複製の方式について現行法の規定では何らの制約もしていないわけでございますけれども、デジタル媒体に移し替えて複製物を提供するということについては、たとえ一部分であったとしても、多様な目的での利用も可能になるという懸念が、著作権者や出版社から示されているところでございまして、コピーサービスの媒体については、今後関係者による協議によって解決することが適当であるというふうに整理をいたしました。
 次に(2)、デジタル化された資料を国会図書館以外に提供するケースでございます。そのうち、他の図書館で閲覧できるようにするということでございますが、国会図書館以外の図書館で、国会図書館のデジタル化資料を閲覧するための方法といたしましては、例えばDVDなどの記録メディアにデータをコピーして郵送等で他の図書館に送る方法、あるいは、メールなどを使ってデータを送信する方法、あるいは、インターネット環境を活用して、アクセスに応じて送信する。これらのいずれかの方法によることが考えられるわけでございます。1番目の、コピーして送るという場合は複製権が、また、メールを使ったりインターネットを使ったりする場合には複製権や公衆送信権が働くことになりまして、現行法上も権利者の許諾なく行うことはできないわけでございます。
 一方、既に図書館間では、相互貸借という方法が行われていまして、ある図書館で所蔵していない資料について、他の図書館から一時的に借り受けて利用者の要望にこたえるという方法がとられております。国会図書館でデジタル化した資料につきまして、他の図書館で利用できなくする、つまり、送信については許諾が必要であるということから許諾なく行うことができなくなるとすれば、相互貸借と同様の効果が果たせなくなるということになるわけでございます。
 そもそも原資料が傷むことを防ぐためにデジタル化を行い、それに基づいて館内で閲覧したりコピーしたりすることができるのであれば、他の図書館に提供する場合もデジタル化を用いてもいいのではないかという考え方もあるわけでございます。
 ただし、デジタル化された資料であるために、利用方法が無限に広げる可能性もあるから、技術的保護手段、あるいは、送信する場合のシステムの整備といったことが必要でございます。また、権利制限についても、条約との観点からして慎重な議論が必要でございます。
 こういった観点を踏まえ、国会図書館でデジタル化された資料を他の図書館で閲覧できるようにするような方法、送信したりコピーを送ったりする方法につきましては、関係者の間で協議を行い、ルールを形成していくことが必要であるというふうに結論づけられたところでございます。
 次に、国会図書館以外の利用の2つ目、地方の公共図書館などの利用者に対するコピーサービスでございます。現行法の中での運用では、図書館利用者に対するコピーサービスについては、当該図書館の図書館資料を用いて行うということになっておりますので、国会図書館から他の図書館、地方の公共図書館が借り受けた資料について、地方の利用者がコピーサービスを希望する場合には、当該図書館利用者、地方の住民が国会図書館に別途申し込むという仕組みになっております。こういったコピーサービスを行っておりますが、今後、デジタル化された資料を活用してコピーサービスする場合、効果的な提供手段としてどのようなものが考えられるかにつきまして、関係者の間で協議を行うことが適当であるというふうに考え方を整理いたしました。
 ここまでご説明しましたのは、国会図書館でデジタル化すること、それから、デジタル化された資料を館内あるいは館外で利用することでございますが、地方の図書館でデジタル化することについてどう考えるというのが3番目でございます。国会図書館以外の図書館であっても、先ほど紹介しました31条2号の要件に該当するのであれば、その所蔵する資料を複製することができます。例えば、損傷、紛失の防止のためにマイクロ化をすることができるのであれば、同様の目的の範囲でデジタル化することも不可能でないと考えられるところでございます。
 また、記録のための技術・媒体の急速な変化に伴う旧式化により、SPレコードとか5インチのフロッピーディスクとか、ベータビデオのように、媒体の内容を再生するために必要な機器が入手困難となっているものを、新しいメディアに移し替えて閲覧できるようにするということも考えられるわけですが、そのためにデジタル化することについても、現行の31条2号の解釈として不可能ではないと考えられます。少なくとも損傷、滅失の防止と同様に、再生手段が入手困難であるような場合にも、許諾なく行える場合はあると考えられるところでございます。
 このように、国会図書館以外の図書館においても、蔵書をデジタル化する場面は考えられますけれども、デジタル化された資料を館外に提出したり提示したりすることについては、国会図書館でデジタル化された資料の館外提供と同様に、今後関係者の協議によって考え方を整理していくことが適当であるというふうにまとめたものでございます。すなわち国会図書館以外の図書館に適用されるのは現行の31条2号の範囲でございますので、再生機器がまだ存在する、あるいは、傷んでもいないというようなものについてまでデジタル化することは、公共図書館においてはまだ無断でできるとすべきではないと考えているところでございます。
 こういったことから、図書館におけるアーカイブの円滑化措置として、まずは国会図書館において納本された直後にデジタル化することができるような措置を講じることが必要であるということを打ち出すとともに、それ以外の利用方法については関係者が協議することによって、考え方を整理していく。そして、法的な措置が必要な場合には、可能な部分から立法等の措置を講じていくことが適当であるというふうにまとめられたものでございます。
 以上でございます。

【野村主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまのご報告につきまして、ご質問、ご意見ございましたら、お願いします。
 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 図書館というのは、国民の文化にとっても極めて重要であるというのは、古代のエジプト時代からずっと変わっておりません。特に日本の場合は、欧米に比べて図書館は遅れていますので、この充実を図ることは大事ではないかと思います。充実を図ると、法文上は権利者に不利なように見えるかもしれないけれども、本当に不利かどうか。私個人で言えば、図書館でコピーしてもらって保存してもらえれば大喜び、お願いしてもやってほしいと思いますけれども、そういう人が多いのではないかと思います。複製ではありませんけれども、ベストセラーを何十冊かそろえて貸し出すとか、こういうものは権利者に対して影響が大きいかもしれませんが、アーカイブに関してはもっと大胆な提言を打ち出してもいいのではないかと思っております。

【野村主査】

 ほかにご意見いかがでしょうか。瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 今のは、これはかなり色々討論をしてきたのですけれども、一番問題となるのは、例えば国会図書館については比較的限定ですので、あまり異論もなかったのですが、いわゆる「図書館等」と言われている地方公共図書館とか、そういう「図書館等」に含まれるところについては、3,000部程度の出版数のものが、地方図書館に買ってもらえることを前提に成り立っているような出版物も結構あると。その場合に、それが売れなくなってしまうと、そういう非常に少部数のものが出版できなくなってしまうというふうなお話がありました。ですので、国会図書館と公共図書館という部分に線を引いて議論した部分があります。
 ただ、その「図書館等」についての議論というのは、今、中山委員からもあったとおり、重要なことだと思いますので、図書館の有り様とか、「図書館等」といったときにどこまでどう含んでいくのかとか、そういうふうな議論をして、きちんと一般の公共図書館についての流通の実態と実際の効用みたいなものについては、改めて別のところで議論するべきじゃないかなということを感じました。
 以上、意見でございます。

【野村主査】

 ほかにご意見いかがでしょうか。中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 地方の図書館が充実していないのは事実でして、ユビキタスの時代に地方にいる人間と東京にいる人間とでは、文化に接する差があるというのは好ましくないわけです。したがって、私は、図書館はこの点についてはもっと充実すべきだと思いますけれども、利用に関しては、公貸権等々の議論をすればよく、基本的にはアーカイブに関してはもっと許してもいいのではないかと私は思っております。

【野村主査】

 他にいかがでしょうか。三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 今、中山さんが言われたことはまさにその通りだと思います。図書館はもっと便利にすべきだというのは当然のことであります。しかしながら、このアーカイブというのは、アーカイブ自体は全く問題がないですけれども、国会図書館でアーカイブされたものが地方の図書館に送信されるということになりますと、これは非常に便利です。知財戦略本部などが出している「未来予想図」、こんなに便利になりますよというような予想図の中にも、国会図書館と地方図書館をラインで結べば便利だというようなことが言われております。
 これは大変便利だということは確かですけれども、現在の時点でこれを法制化してどんどんやってくださいということになりますと、現在の地方図書館というのは経済的にも疲弊しております。一方で、図書館の民営化ということも盛んに行われつつある現状でありますので、放っておきますと、地方図書館が推理小説のような貸し出しの多いものについては複数の本を揃え、発行部数の少ない良質の本を買わなくなるおそれが十分にあります。現状ですと、こういう本を読みたいという人が来て、その本がないと図書館の信頼に関わるわけでありますけれども、そういう少部数の本も、国会図書館とラインで繋がっていれば、館外貸出はできませんけれども、館内で読むことはできるわけですね。
 だから、便利になったということで、少ない地方図書館の予算を複本のほうに回されてしまうと、推理小説を書いている人も迷惑しますし、一方で3,000部あるいはそれ以下の少部数の出版というものが成立しなくなります。現在の日本の出版文化というものは、そういう少部数の出版が支えているわけで、もしこの便利なシステムを実現してしまいますと、日本の出版文化そのものが崩壊するおそれが十分にあるだろうと思います。そこでは、例えば公貸権等によって、少部数の出版社や著作者を保護するようなシステムができましたらば、その便利なシステムも実用化できるだろうと思いますけれども、現行では国会図書館のアーカイブということに限定して法律を改正すべきであろうと。それ以外の使用目的については十分な議論が必要であるということであります。
 それから、コピーに関しましても、従来のコピー機による本のページを開いてガチャッとコピーをとるというようなものと違って、アーカイブのためのデジタル化というのは電子写真でもありますけれども、本のページを開ききるような形でデジタル化します。すると、本の版面そのものがコピーされるという状態、つまりコピーを得ますと、それを版下にして本がまたできるというような、精度の高いものになるおそれがあります。それから、コピーサービスというものも、今、我々は複写機で紙にコピーするということを考えているわけですけれども、コピーサービスという言葉自体の定義も曖昧でありまして、SDカードを持っていって、それにコピーできるのかというようなことも考えなければならないわけですね。
 それから、現行の慣例ですと、一冊の本の一部分はコピーしていいということになっていますけれども、この一部分を「半分未満」というように解釈している図書館が大変多いので、極端な話、2人の人間が交代で本の前半と後半をコピーしますと、それで一冊分コピーがとれてしまうということになります。そういうものが、例えばコンピュータのウィニーのようなピア・トゥ・ピアのところで流出するということも起こり得る可能性があるわけですね。そういう意味では、従来のコピー機でとるコピーと、デジタルアーカイブされたもののコピーというものは、少し差があるということも把握していただきたいということで、これについては時間をかけて慎重に考えていくことが必要だろうと思います。
 ただ、酸性紙が劣化するというのは事実でありますし、デジタル写真を撮る場合は、出来たての本を撮ったほうがいいわけです。何年も置いときますと、それだけでも劣化が進みます。ですから、国会図書館においてアーカイブするということは、法律を改正して自由にできるようにするということは必要でありますけれども、それをどう利用するかということは、館内閲覧以外のものについては慎重に検討する必要があるだろうと思います。
 以上です。

【野村主査】

 では、まず常世田委員。

【常世田委員】

 三田さんのご心配も確かだとは思うのですけれども、現状がどうかということをお話させていただきたいと思います。まず第1は、公共図書館が国会図書館の資料を利用する場合ですが、これは完全に品切れになっているものが中心であります。しかも、刊行されてから10年20年たっているものが現状では中心になっているということがあります。ですから、市場では入手できないということです。
 それから、今回非常に重要なポイントになっているのは、国民の日本の文化的財産というものを保存しようということがポイントになっておりますので、デジタル化された資料による供給ができなくなりますと、今までどおり現物で日本の各地に相互貸借、国会図書館から地方の図書館へ貸すという状況が続いてしまいますので、今回のポイントになっている資料の保存ができなくなるという矛盾が起きてしまうだろうと思っております。
 それから、発行部数と各図書館の予算の関係をみますと、ここについては三田さんと私どもは意見の一致をみているわけで、各図書館の予算をもっと増やして、本当に市民の役に立つ広範な資料を購入しなければいけないということについては、意見の一致をみていますけれども、実際はそうではありませんので、市民に対する情報提供を一つの図書館で対応することは事実上困難であります。そこで、図書館法で努力義務として「図書館同士で本の貸出に努めなさい」という表現になっています。それで市民の情報要求に答えなさいということになっているわけでありますので、これについては少なくとも国会図書館から地方の図書館への資料の提供ということが現状レベルで保障されなければならないだろうと思っております。
 さらに、度々お話をしていますけれども、社会政策的な側面があろうと思います。先進国では図書館同士の本の流通というのは日本の何倍も行われております。この中身がいわゆる娯楽・教養だけではなくて、ビジネスの支援をしたり、あるいは、医療の情報を提供して病気にかかる率を下げて、自治体の医療にかかるコストを削減したり、あるいは、アメリカのように訴訟社会であれば弁護士を雇えない人たちが個人で訴訟をしたり、それに対応するときの法律の情報提供をしたり、非常に実務的な仕事や生活を支えるための情報の提供を支えているということがあります。
 ですから、情報の流通によって国を強くしていく、社会を豊かにしていく、一人一人が自己実現していくというようなことが、諸国では可能になっているときに、日本ではそれが遅れてしまうということについてはどう考えるのかという側面での検討も必要ではないかなと思っております。

【野村主査】

 それでは、里中委員、どうぞ。

【里中委員】

 質問があるのですが、後ろについています諸外国の図書館に関することについては、今日は説明はないわけですね。

【大和著作権課長補佐】

 それでは、補足的に説明をさせていただきます。資料1の6ページ以降に諸外国の図書館に関する著作権法の規定がございます。
 まず、ドイツは、2007年に改正されたようでございますが、第52b条、53a条ということで、特に53a条は、電子的形態による複製や送達、送信だと思いますけれども、これについての規定がございます。53aの(1)の真中あたり、「電子的形態による複製と送達は、それが非商業的な目的を追求することのために正当とされる限り、専ら文字記号のファイルとして、かつ、授業の解説のため又は学術的研究の目的のために、許される。」とされておりまして、無断で複製、送信しても構わないという意味かと思います。
 ただ、その他の目的だと思いますけれども、「その他の電子的形態による複製と送達は、更に、公衆の構成員が自らの選択に係る場所と時間において、その編集構成物と著作物の小部分へアクセスすることが、契約の合意による相当な条件の下で可能でないことが自明な場合に限り、許される。」とされており、ここは出版社等からのライセンスによって電子的情報を入手することが困難という、つまり、市販のというか、民間ベースのコンテンツ流通がない場合に限って、図書館が複製、送信して構わないという趣旨かと思われます。
 2項につきましては、「この複製と送達に関しては、著作者に対して、相当なる補償金が支払われるものとする。」とされており、権利制限の対価として補償金制度が講じられているものと思われます。
 米国の規定では、どちらかというと媒体変換に関して許諾なく行えるということが規定されております。
 それから、カナダの規定は、どちらかというと現在の我が国の保存のための複製と似通った規定でございます。
 その下の韓国は、若干先進的と言いますか、他国とちょっと異なりまして、図書館等においては、デジタル化して複製することができるわけですが、コピーサービスとか、絶版等の代替本についてはデジタル化して複製することができないということが1項に書いてありまして、2項では、デジタル化された資料を提供する場合には、アクセスできる人数は蔵書の数を超えてはならないというようなことが書いてあります。
 次のページにまいりまして、3項では、他の図書館に向けて送信することができるわけですけれども、発行されてから5年以内はしてはならないと。5年以降経過したものについて他の図書館で閲覧が可能なように送信してもよいとする規定でございます。
 4項では、今申し上げたように、デジタル資料の利用があるわけですが、デジタル媒体での図書が流通している場合には、それらのものをあえてまた図書館でデジタル化することまではできないということが規定されております。
 5項では、ドイツと同様に、他の図書館等に向けて複製したり伝送したりする場合には、補償金制度が組み入れられております。
 最後、中国でございますが、中国は限定された場合にデジタル化して複製しても構わないとされており、破損もしくは破損寸前のもの、あるいは、入手できないもの、あるいは、困難なもの、あるいは、市場において購入することができないものなど、限定されたものについては、デジタルによって複製することができるというような規定が設けられております。
 以上でございます。

【野村主査】

 里中委員、どうぞ。

【里中委員】

 ありがとうございます。
 先ほどお聞きしたのは、ここの部分がなければお尋ねしようかと思ったのですけれども、ここまでのワーキングチームのまとめられたことは大変丁寧にまとめられているのですが、印象としまして、デジタル化ということが普通の人でもすぐできる環境にありながら、それに対する対応が先送りになっているような気がするのです。だから、色々なところで見られる、とりあえず今アーカイブをデジタル化するということで、その送信とか保存に関しては他国の、特に韓国ですね、このあたりはよく調べて参考にしていただきたいと感じました。
 つまり、出版物も今、最初から紙媒体ではなくて、デジタルで最初に発信されるという形式も徐々に見られてきています、日本でも。ですから、紙媒体だけのことを考えて、そのアーカイブのデジタル化ということよりも、あっと言う間に元々がデジタルという出版物も増えてくると思うのです。そういうことに対して将来的に、10年たって、後からいろいろ考えるよりも、先に世の中はデジタル化が進んでいるということを前提で、保存とか提供とか送信は普通に行われることだという前提をもっと入れていただきたいという感じがしました。
 あと、色々なところで「先進国に見習って」という言葉が出てきたのですが、先ほどの三田委員の危惧に同調するものではありますけれども、「先進国に見習って」というのであれば、ドイツとか韓国のように、「著作権者に相当なる報酬が支払われる」、「請求権は集中管理団体によってのみ行使」とか、こういうふうに明記してあるわけですね。このあたりをもう少し前向きに考えていただきたいということと、韓国の「発行日から5年を経過していない場合はこの限りではない。」という、販売用の図書に関しての保護みたいなものもやっぱりどこかに組み込んでいただきたい。
 だから、具体的な言葉で、ただいま流通している本も5年たてばデジタル化して、それで送信して差し支えないとみなす環境が韓国にあるわけですよね。でも、日本の場合は重版がかかっているものに関しては、それが途切れて2年以内とか、2年たったものとか、そういう数字で具体的に出ると、三田委員の危惧が少し薄れるのではないかなと思いました。

【野村主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、佐々木委員、どうぞ。

【佐々木(隆)委員】

 三田先生と里中先生からかなり具体的な権利者から見た問題点が出たとおりでございますが、今回、国立国会図書館のアーカイブのデジタル化を促進すべきだというところでは一致しているわけで、今後もデジタル化することによって利用が高度化すると。その高度化する部分についてまだ予見できないことも含めていろいろな問題があるということで、関係者の協議によって今後それを解決していくことが今回ここで明確になったわけです。
 その中でも特に申し上げたいのは、ここ数年、出版界ではデジタル化とネット配信事業の促進という意味で、デジタル化が急速に進んでおります。書籍や雑誌といったものが、新刊の段階から(印刷の段階からデジタル化しております)、流通過程でもネット配信が急速に進んでおり、携帯電話や電子ペーパーなどのあらゆるデバイスでそれが読めるような形に進んでいくという方向性がもう既に出ておりますので、こういった中で図書館と出版界がどういうふうに連携をとっていくのかと、そういう部分も今後重要な協議のポイントではないかというふうに思います。

【野村主査】

 どうもありがとうございました。
 ほかに。特によろしいでしょうか。瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 今回の議論の中で、今色々なお話や意見が出たのですけれども、今回、出版ビジネスと図書館さんとの関係がテーマになっておりました。権利者側ということよりも、現場の出版ビジネスと図書館の流通の問題はかなりの時間をかけて話し合われたということです。
 これは私の意見ですけれども、豊かな社会の実現というふうになったときに、例えばインフラとか色々なものとあると思うのですが、今後、日本の中で文化ということが豊かな社会のインフラになると、この辺は皆さん「そうだな」とすぐ思われると思うのですが、実際に文化というものに対してどれだけ予算がつけられているか。先ほどの図書館さんのお話でも予算がつかないと。ということは、予算なく文化を進めろということになるので、結局、「権利者さん、我慢してね」とか「現場の人たち我慢してね」と、誰かに我慢してもらって文化が成り立つ構造、そういうことによって作るサイクルというのは損なわれているような気がします。
 もちろん医療や年金などいろいろ大事なものはありますけれども、同じようにこれからの日本が豊かになるということに文化はかなり重要で、物がなく、食べる物がないのが普通であった時代には、その前にまず食べ物だろうし、社会的な保障制度だろうしということもありましたが、それと並行して精神的なインフラをきちんとしていくということが重要なのではないかと、個人的には思っています。それが予算として現れていないから、常に文化の話になると誰かが我慢する。誰かが我慢してもらわないと文化が進まない、みんなは文化がほしい。そんな部分、根本的な問題がここの話の中に隠れているのではないかということを感じます。
 常世田委員から「図書館は地方の中できちんと文化発信をしていく」と、大いに結構だと思います。大いに結構だけれども、だから誰か我慢してねというのは話がまた違ってくるのではないかと。ですので、ここは小委員会ですが、その上の文化審議会にしても、文化の有り様というのが、例えば貿易、知財の流通は貿易の一つとして文化もしくは知的財産、コンテンツが語られているけれども、そうではなくて、豊かな社会のインフラとしての必要なもの、流通すべきものではなくて、みんなに遍く染み通るようなものとして捉えられていけば、また違った政策レベルの話も出てくるのではないか、そういうふうなことをどこかで提言していく。文化審議会ですから、文化の有り様ということに関してという提言があってもいいのかなと。みんな思うところは一緒なのに、現場に行くとお金の話になって対立してしまうというのは、議論として非常に残念な気がするというのが、正直言って実感です。

【野村主査】

 どうもありがとうございます。
 最後に、常世田委員。

【常世田委員】

 瀬尾さんがおっしゃることはそのとおりで、私もそれに賛成です。それから、だれかが我慢するということは避けなければならないと私も思います。ですから、そこについては、補償金なり何なりという制度をつくる必要もあろうと思いますし、当事者間の意見調整も必要だと思います。
 しかし、今問題になっている、例えば国会図書館から地方の図書館が借りる本の中身ということについて言えば、実は再販される見込みがないような本がほとんどです。そういう表現が妥当かどうか分かりませんけれども、いわゆる無名の方、一生に1冊か2冊書くような本、そういうものがほとんどです。図書館の貸出のほとんどは、極端なロングテールでして、数年に1回しか借りられないような、しかも非常にマイナーの本、そういうものが物凄い数貸し出されて、貸出の実績となっております。
 ベストセラーの複本の問題については、三田さんと一緒に調査をして、大都市でも平均で1つの図書館当たりせいぜい4冊ぐらいしか買ってないという調査結果も出ております。これはちゃんとした図書館員が配置されればそんなにおかしなことになるわけがない。ちゃんと専門書を配置するという問題もひとつ重要な問題としてありますが、現状としては、繰り返しになりますが、いわゆる再販、重版が可能な本は非常に少ないということだけをお話させていただきたいと思います。

【野村主査】

 いろいろご意見をいただきましたので、ワーキングチームの報告につきましては、その意見を踏まえて調整する必要があれば、修正あるいは調整をしていただいた上で、次回の小委員会で利用円滑化方策を総括する際に一緒にまとめたいと思います。よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。

3 権利者不明の場合の利用円滑化方策について

【野村主査】

 それでは、3番目の問題ですが、前回に引き続きまして、「権利者不明の場合の利用円滑化方策」について議論をしたいと思います。前回の小委員会では、「日本経団連の映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会での議論との関係を整理しつつ、検討すべきである」というご意見をいただきましたので、そちらの検討委員会にも参加されていた梶原委員より、議論の様子をご報告いただき、その後、民間での取組と本小委員会での議論との関係などについて議論をしたいと思います。
 それでは、よろしくお願いします。

【梶原委員】

 では、資料3に基づいて、日本経団連での議論をご説明したいと思います。
 この映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会というのは、日本経団連を事務局として2年前に設置されまして、昨年の2月、いわゆる実演の契約のガイドラインを報告書の柱として報告書が出ましたけれども、その中で幾つか課題として出されたものの一つに、権利者不明の場合の第三者機関について検討しましょうということがございました。具体的に申し上げると、9ページになるかと思いますけれども、この報告に沿ってご説明をしたいと思います。
 この研究会では、主に3つの点について論点を整理するとともに、検討を行ったわけですけれども、その3つというのは、権利者が不明の場合の対応をどうするのか、第三者機関の在り方ということで、権利者が不明の場合、クレーム等がきた場合、第三者機関をつくったらいいのではないかといったような議論がありまして、その第三者機関の在り方について。それから、先ほどの共有ワーキングチームの話とも重複いたしますけれども、一部の人が反対した場合の対応の3点について議論をし、ある一部分については合意事項としてこの2月に公表したものであります。
 まず、1つ目の権利者が不明の場合につきましては、現状の課題としては、既にこちらでもお話されていますので、若干重複しますけれども、著作権の場合には、著作権法上の裁定制度がありますが、裁定までの時間とか手数料の問題などで、事実上利用が難しいといったことがございます。隣接権については、法律上の裁定制度がないため、例えば実演家が不明の場合には放送番組の二次利用ができない。さらに、ニュース番組とかドキュメンタリー番組などをネット上で二次利用する際、これらに登場する一般人の方々で行方が分からない方がいらっしゃるといったことで、二次利用ができないケースがある。こういった現状の課題がございました。
 これらの課題に対して、この研究会は、基本的には実演家の権利者団体、放送事業者、番組制作者という座組でしたので、実演家と肖像権・プライバシーに関わる一般人の不明を中心に、研究会では議論を行いました。
 実演家が不明の場合につきましては、合意事項として書いてございますが、現行の裁定制度でも不明者の調査をしましょうということがあるわけですけれども、実演家の場合、不明者の調査はどうあるべきか、という点について議論をいたしました。基本的には、昨今、個人情報保護法が施行されて以降、利用者側では住所等を調べることが難しくなっているという指摘がありますけれども、そのような中で、所属していた劇団とかプロダクションに照会しても分からなければ、それ以上探すのは難しいといった意見もあり、権利者団体が調査するのであれば、著作権の場合の裁定制度と同様に、それなりの重みがあるのではないかといったような指摘がありました。
 さらに、告知については、現行の裁定制度では、ホームページによる告知期間は2カ月ですけれども、必ずしも掲載期間が長ければ不明者が判明するというものではないのではないかといったことも、権利者側からございました。それよりも、告知制度そのものの告知の方がもっと大切ではないかといったような指摘もございました。
 そういったことを踏まえて、(2)の実演家が不明の場合の合意事項としまして、実演家の権利者団体であるCPRAさんが、不明者の調査を行って、クレーム対応にも積極的に取り組むことになりました。その結果、放送局はほとんどリスク等もないということが考えられることから、放送番組の二次利用を進めるということで合意をしたということであります。これに基づいての運用はまだ進んでいません。本来この4月から始める予定でしたが、若干遅れていますが、今のところほぼこの方向で動く予定でございます。
 ただ、CPRAさんとのお話の中では、3年間は実演家の団体の方で不明の権利者を探す、あるいは、クレーム等にも対応していただくということになっていますが、3年経ったら放送局側に不明者の使用料は返還されるということになります。いずれにしてもこれは、民民の取組でございますので、法的な裏付けがあるものではございません。
 今後の検討課題としては、本小委員会において裁定制度の検討が行われているわけですが、コンテンツの流通ということがひとつ大きな課題になっているということもあって、こちらの議論を待っていられないということもあり、こういった枠組み、合意で進めているわけですが、最終的に不明者の使用料をどうするか。3年後、放送事業者に返ってくるわけですが、もう少しリスクを減らす方法はないのかといったことで、不明者の使用料を預託する第三者機関みたいなものをつくったらどうかといった意見もあり、その方向で議論を深めていきましょうということになっております。
 (3)の肖像権とかプライバシーに関わる事項については、この小委員会の事項ではないので省略いたします。
 2.の第三者機関の在り方につきましては、今申し上げたことと重複いたしますけれども、実演家が不明の場合についての第三者機関の在り方について議論をし、検討しましょうということになっているわけです。ただ、クレームが来るということはあまり考えられないので、既存の団体を活用して何かできないかといったような意見が多かったかと思います。
 3つ目に、一部の人が反対した場合の対応でございます。現状の課題についても、大体ご存じだと思いますけれども、放送番組には多くの権利者が関わっていますが、一部の人の反対があるとコンテンツの流通が難しいといったこと、さらに、共有ワーキングの課題でありました著作権法上、共有著作権については正当な理由がない限り反対できないといった規定があるが、放送番組には適用できないかといったような課題がございました。
 具体的な議論としては、権利者側からは、メインの出演者については、イメージ戦略とか、経済的価値の維持のために、二次利用を制限できるということは必要だといった意見がございましたが、端役の方については話し合いで解決できるのではないかといった意見も出されました。一方で、ネットへの放送番組の流通を促進するためには、正当な理由によらず二次利用を拒否された場合には、民民の中で仲裁を行う第三者機関みたいなものが必要だといったような意見もございましたけれども、それに対して法律的な裏付けのない第三者機関をつくっても、先ほどの権利者不明の場合以上にリスクが高くなかなか難しいのではないかといったような議論がございました。
 それらの議論の結果、合意した事項としては、実演家については、主役級や準主役級の出演者は別として、それ以外の出演者がネット提供に反対した場合には、可能な限り権利者団体等が説得にあたることとするといった合意事項で、この研究会においてはまとまった次第でございます。
 以上、権利者不明の場合の第三者機関研究会で行われていた議論及び合意事項についてご説明を申し上げました。

【野村主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、事務局、お願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 続きまして、資料4と5に基づきまして説明をさせていただきます。
 権利者不明の場合の対応策につきましては、前回、参考資料1−1から1−3までで、諸外国でどのような対策がとられているかなどを紹介しまして、ご議論いただこうと思ったのですが、今どこまで民間の努力で対応できているのか、現行の制度がどこまでできているのかなどがわからないと議論しにくいというご指摘もございましたので、どのような対策が他にあるのか、どこが対応できていないのかをイメージしやすいように、資料4をご用意いたしました。
 資料4の最初は、基本的なことの確認ですけれども、コンテンツの二次利用に当たっては、改めて利用許諾が必要となるのが原則でございまして、その際に権利者の所在情報が十分でないことが問題になり得るということでございます。この場合、権利者と言いましても、コンテンツの制作に参加していた人の場合と、単に写り込んでしまった場合と、大きく分けて2種類ございます。2としまして、著作権以外の人格的な利益が問題になる場合もあるという前提でございます。
 基本となる対応策としまして、今行われているものはAからDに書いたようなものでございます。まずAは、コンテンツの制作時にあらかじめ、二次利用まで含めた契約をしておくということ。Bは、コンテンツ制作者が、権利者が行方不明にならないように所在情報を確認しておくということ。Cは、集中管理団体が権利を集中管理している場合には、後から契約しようと思っても苦労することはあまりない。それから、Dは、コンテンツ制作者とは別に権利者の情報を一括して集積しておくデータベースを整備・充実する、このような方策が考えられるわけでございます。
 それぞれ最近動きがございまして、Aの当初から二次利用を前提とした契約につきましては、日本経団連を中心にガイドラインが策定されております。Cにつきましては、実演家団体、レコード関係の団体におきまして、ネットでの二次利用について「一任型」の集中管理が始まったなどの動きがございます。それから、権利者情報の管理につきましても、それぞれの団体において取組が進められているということでございます。
 これら4つの方策も使える場合と使えない場合がございまして、右の端に小さい字で書いてございますが、単に写り込みで入ってしまったような場合は、あらかじめ契約を行っておくことは困難ですし、その際に権利情報を管理するなどのA、Bの対策は難しいわけでございます。肖像権の場合は、集中管理というものはなかなか対応が難しいということがございます。
 それから、AとBの対策につきましては、すべてが二次利用を前提として契約が結べるわけではないという点とか、権利者情報を管理していても、その後、俳優業を廃業したということで所在不明になってしまう場合もあるというようなご報告が先ほどございました。そういった問題に加えまして、過去にこういった取組を行っていない場合には、引き続き問題が残ってしまうということがございます。CとDの対策につきましても、これらの集中管理、あるいは、データベースに登録していない者の場合には、引き続き問題がある可能性がございます。
 次のページにまいりまして、こういった対策にかかわらず権利者が所在不明になってしまった場合の対応策として、4つ掲げさせていただきました。1つ目は、文化庁長官の裁定制度でございます。その次からは、制度的なものではございませんけれども、先ほど梶原委員からご報告があったような、実演家に関してはCPRAでということですが、不明な場合に一定の能力、実績を有する団体が捜索の努力をするということ。それから、利用料をプールしておくような第三者機関を設けておく、そういったことがあり得るのではないかということでございます。最後は、Hの保険等によって対応するという試みも考えられているようでございます。
 Eは制度的なものでございまして、裁定を得れば利用許諾と同じ効果があるわけですけれども、FからHにつきましては、先ほど梶原委員から「ほとんど」リスクはないというご発言がありましたように、一部リスクが残る、法的な裏付けがないということでございまして、形の上で権利侵害を問われる可能性が残ってしまうわけでございます。
 そういうことで、確実に後々の差止請求を防いでおきたいとか、適法性を確保したいという場合には、今は文化庁長官の裁定制度なり何なりの制度的な対応が、民間の取組・努力を補完し得る唯一の手段になっているという状況でございます。ただし、これにつきましても、手続きあるいは費用の面で簡素化の要望があるということでございますし、著作隣接権については、そもそもこのような制度がないといった問題点があるということでございます。
 民間でのご努力、取組と現在検討している制度的な対応との関係は、こういうようなイメージでとらえられるのではないかと思っております。
 このことを前提にしまして、どこまで制度的な対応が必要なのかについて、前回の参考資料1−1から1−3までを参考としつつ再度ご議論いただきたいわけでございますけれども、前回の資料を補足するという意味で、どういう制度であればどういうメリットがありデメリットがあるのかということを、資料5に簡単に整理させていただきました。また、併せて、参考資料1−2の最後の表をごらんいただきたいと思います。こちらは、前回の小委員会の最後で、諸外国で提案されている制度、既に設けられている制度、それから、日本経団連で検討されている取組について、それぞれの特徴を整理して表にしたものでございます。これを見ながら、資料5でメリット、デメリットについてご説明いたします。
 仮に何らかの制度的な対応を設ける際に、どういう要素を盛り込むべきかということで、大きく3つ、特徴的な要素を取り上げてはどうかと思っております。1は事前救済型、裁定制度のように、そもそも侵害ではないというようにする制度を設けるのか。それとも事後に調整するのか、権利者の権利追求ができる、権利侵害ではあるけれども、その際に一定の免責を行う。そういった2つの手法がありますけれども、どのような形でいくべきなのかと。2としましては、行政機関が関与する仕組みを残すのか残さないのか。3としては、使用料相当額の支払いが事前の場合と事後の場合とがございますけれども、どちらにするか。それぞれの要素に分けていただいて、どのような仕組みがいいのかをお考えいただければと思っております。
 それぞれの要素のメリット、デメリットにつきましては、事後調整型、事後に解決するというタイプでは訴訟リスクは解消されないという点でございます。
 それから、行政が関与するかしないかという点につきましては、行政が関与すれば手続きに要する時間とか費用がかかるということ。関与しない場合にはその逆でございます。
 なお、日本の裁定制度と、前回ご説明しましたイギリスで提案されている権利制限型の対応とでは、事前救済型と行政関与型という点では共通ですけれども、行政の関与の仕方に多少違いがございます。日本の場合は行政の事前関与でございます。あらかじめ文化庁長官が裁定を行うという形ですが、このような形であれば要件を満たすということが保証されておりまして、訴訟リスクはゼロでございます。一方、イギリスのように事後で関与する、事後でというのは使用料相当額の判定に関与するというだけのものでございますけれども、こういった場合には、このような制度の恩恵を受けることができるかという要件を満たしているかどうかは、利用者自らが立証しなければいけないというリスクが残ります。
 なお、権利者を捜索する努力に関しては、どのような要素を取り入れるとしても共通で必要ということでございます。
 最後の点は支払いが先か後かということですが、事後に支払えばいいという形では、権利者にとっては回収不能となるリスクがある、それから、利用者にとってはいつ請求されるかわからないという、立場が不安定のままの状況が残るという点がございます。一方で、事前支払い型の場合については、受け取りにこない可能性が高いものを支払うための手続を行う必要があるというようなデメリットがございます。
 なお、資料に書き忘れたのですが、著作隣接権で、事前救済の行政事前関与型の、いわゆる裁定制度をとろうとした場合には、条約との関係についてまだ多少疑義があるという点もご考慮いただかなければいけないかと思っております。
 このような点を踏まえて、どのような制度がよろしいのかということでご意見を賜れればと思います。よろしくお願いいたします。

【野村主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまのご報告を踏まえて、利用円滑化方策について、民間との関係や、前回に引き続いてとるべき方策について議論をしたいと思いますので、ご質問、ご意見がございましたら、ご発言をお願いしたいと思います。
 なお、前回の「権利者不明の場合の利用円滑化方策」について議論した際の資料は、先ほど事務局の説明のように参考資料として配付されておりますので、適宜ご参照いただければよろしいかと思います。
 瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 梶原委員に質問ですが、先ほどの日本経団連の中で第三者機関の設置ということがありましたけれども、法的に裏付けがないということでしたが、第三者機関が一度は預かりで許諾を出してしまうということになるわけですよね。権利がないけれども、そこのところに許諾を出してしまうので、法的に許諾を出せる裏付けがないということですか。

【梶原委員】

 いや、基本的には権利者団体の方が最初に権利処理を行うということですね。3年間は権利者団体が何らかの責任を持ちますよと。

【瀬尾委員】

 ということは、不明な場合には権利者団体が許諾を出すけれども、預かっていないわけですよね。

【梶原委員】

 いや、使用料は権利者団体にお支払いします。

【瀬尾委員】

 いや、権利のほう。

【梶原委員】

 権利のほうはそうです。

【瀬尾委員】

 許諾を出せる根拠がないところが、法的な裏付けがないという意味ですよね。

【梶原委員】

 そうです。

【瀬尾委員】

 わかりました。

【野村主査】

 それでは、ご発言、いかがでしょう。三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 現行、著作物等について裁定制度というものがあります。これは申し込むのに大変高いお金がかかるということで、非常にハードルが高くなっております。ですから、ほとんど利用されていないというのが現状だろうと思います。しかし、年に何回かは利用されているわけで、お金を払っているわけです。供託という形でお金を出しております。しかし、後で権利者が判明して、その供託金からお金が支払われたという例も大変少ないと聞いております。
 結局、過去の著作物から何らかの利益を得たいと思っている人はしかるべき権利者団体に登録してお金を得ているわけです。ですから、行方不明になった人というのは、ほとんどそういう営利を目的としていない人であります。しかし、そういう人も著作物が復刻されたりアーカイブされたりするということは、ご遺族にとっても名誉なことであろうと。ですから、後から金を寄越せと言ってくる人はそれほどいないと想定されると思います。
 現行では供託金は国が取ってしまうのですね。だから、あまり例がないとはいえ国が儲かっているわけです。こういう供託金を実際の運営に利用して、簡単に言うと、利用する側は権利者団体のデータベースをよく見ると、そこに載っていないものについては裁定制度にお願いをして非常に安い料金、例えば復刻本を出すというような、ほとんど利益のないようなものについては料金のかからないような形で。
 ただ、正当な著作物使用料ですね、本だったら1割とか、そういうものを供託金として出すと。そのお金で尋ね人欄のようなものを設置して対応すると同時に、供託金を寄越せと言ってくる人は1割も超えないだろうと思われるので、余ったお金は頻繁に新聞広告を出すとかテレビスポットを流すとか、テレビ局にお願いしてただで流してもらってもいいですけれども、そういう形で告知をするということを続けていけば、権利者にとっても過去の著作物を再利用されるということは、必ずしも自分の損害ではないわけですね。ただでもいいから使ってくれと言いたい人のほうがはるかに多いと考えられます。
 過去の著作物というのは、我々日本国民の共有の財産であります。ですから、正当な利用料を払ってそれを供託しておくということで、それを有効に使えば。これは国がやっていただいてもいいし、第三者機関がやると。例えば文化庁の管理の下に置かれた第三者機関がやるということでもいいですけれども、それの運営費ぐらいは供託金で出るのではないかと思われますので、そういうシステムをなるべく具体的に考えていくということが、短期間にこの問題を解決する最良の方法ではないかと思います。

【野村主査】

 それでは、金委員。

【金委員】

 事務局に対する質問ですが、各国の権利者不明の場合の制度比較がありますよね。その中で、日本の場合は制度の概要として文化庁長官の事前の裁定が必要になると。それに対して、イギリスとアメリカの場合はオーファンワークスの利用と書いてありますが、その手続きの差はどういった差があるのですか。

【黒沼著作権調査官】

 イギリスとアメリカにつきましては、まだ検討中ということで、実施に移されている制度ではございませんけれども、手続きという点では、利用のときにイギリスでは最大限の捜索の努力、アメリカも真摯で合理的な努力をすると、自らそういうことをするというだけでございまして、その他の何らかの手続きは恐らく必要はないかと思います。

【金委員】

 これは権利者捜索の程度において、日本の場合は相当な努力が図られたと、それを文化庁長官が認めたときに裁定を出すわけですよね。それに対して、今の説明だと、イギリスとアメリカの場合は最大限の努力、合理的な調査というのは事前にだれかに認可される、または許可されるわけではなくて、事後的に問題が発生した際にそれを証明することができる自信があれば、そういった努力を行った場合は使っていいということになるのですか。

【黒沼著作権調査官】

 恐らく自分で立証するということを前提に、これだけの努力をしたと、立証ができるのだということで、自らリスクをとってやられると思います。合理的な努力をこれだけのことをしたということを認証してくれる機関があるとは聞いておりません。

【金委員】

 わかりました。

【野村主査】

 それでは、椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】

 先ほどの事務局のご報告の中で、条約との関連に関しては課題が残るという整理で終わったと思うのですが、そこら辺をもうちょっと踏み込んで。事務局なりの方向性というか解釈があろうかと思うので、その点を聞かせていただけますか、条約との関係です。

【黒沼著作権調査官】

 今のところ、外交当局とも相談しつつ、外国政府で実際に隣接権の裁定制度的なものを導入しているイギリス、カナダに問い合わせをして、回答待ちという状況であります。ただ、それが返ってこない状況で、日本国内の材料だけで言いますと、これは確実に条約に適合するだろうといえる材料はまだ見つかっていないという状況でございます。

【椎名委員】

 これまで出てきた議論を整理して考えたいと思いますが、まず日本経団連でも話されているように、権利者不明と大雑把に言われる際に、一般人の写り込みの場合は、プライバシー等に関する問題でもありますので、裁定制度等で解決できる問題ではないということで、ここは切り分ける必要があると思っています。
 次に、ここら辺の資料を拝見しましても、権利者不明の場合の裁定制度ということで整理がされておりますので、その方向での議論でよいと思うのですが、権利者が不同意の場合の裁定制度と混同して議論されることは間違っていると思っておりまして、ここはあくまでも権利者が不明な場合の裁定制度の在り方についての議論だというふうに整理すべきだと思います。これまでのお話でも、1割程度の所在不明者が発生してしまうということで、そのニーズはあるのであろうと仮に考えた場合、前回も申し上げたのですが、放送番組の利用の円滑化等々のミッションの中で、権利情報の集約が非常に重要であるということが言われている。そこの部分が鈍ってしまうような制度を作ってはならないと思っているのですね。
 実際、諸外国でどういうふうに取り組んでいるかと言いますと、アメリカの場合でありますと映画に関しては、団体協約によって、コンテンツホルダーと権利者団体による権利者データの共同管理ということが行われています。日本でも一部、アニメ等で出演登録用紙というものが運用されていて、出演者に関する情報が共同管理されているという実態があるようですが、放送番組出演の際に権利者団体が出演確認書という形を導入してはどうかと求めたり、あるいは、レコーディングの際に演奏家団体がレコーディング記録の収集・管理について申し入れたりというふうなことがあるようですが、基本的にはまだコンテンツホルダーサイドから十分な協力は得られていないという状況のようです。この裁定制度を考えた場合に、このような権利者情報を共同管理していくような仕組みとか、一歩踏み出した取組が必要なのではないかと思います。
 以上でございます。

【野村主査】

 それでは、中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 資料4も日本経団連の検討もそうですけれども、主として民事を考えていると思うのですが、著作権侵害は最近極めて大きな犯罪になっておりまして、しかも権利者不明の場合に利用しようとする人は当然故意ですから、現実に訴える人は少ないと思いますが、あり得ないわけではない。刑事のほうの検討はどうなっているのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 これらの対応策は、特に刑事ということ、民事ということにかかわらず、全体として検討されているものでございますが、刑事につきましても、文化庁長官の裁定制度以外は当然リスクが残ってしまうということだと思います。

【野村主査】

 瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 隣接権の話と著作権の話はちょっと違うと思うのですけれども、私は裁定制度をどんどん緩やかにしていくという考えには反対です。裁定というのは特別な、どうしようもない場合の伝家の宝刀的な最後のものではないかなと思いますので、現状は程度としてこれぐらいがいいのかなと思うのです。
 あと、著作者不明の場合と、先ほどのようにちょっと移ってしまった個人情報の問題、それから本人が嫌がった場合と、色々な場合がされていますけれども、私が先ほどから伺っている話の中では、「わからない」、「不明」という場合が一番大きい問題なのかなと感じております。それに対して、例えば第三者機関ということがありましたけれども、どこかがまとめて何らかのリスクを背負わないと無理だろうと。その場合に認可の団体を、例えばこの審議会で認可するでも、どこでもいいですけれども、比較的多い人間できちんと議論をして認可するような認可団体、監督省庁も決めて、そこがとりあえず許諾を出すと。
 その運用その他についてもきちんとしたルールと、周りの監視をした上で、集中管理していくような形にする以外に、この不明というのはどうやってもイタチごっこになって、最後に法的なリスクが残ってしまうと。かといって、このために全体を緩めてしまうと危険であるということから、色々な分野において、例えばCPRAさんがそういうふうなことがあるとしたら、CPRAさんを芯にしてその運用方式もきちんと管理された状態になり、その代わり不明な人の認可の許諾を出せるというふうな形にしていかないと難しいのではないかなと思います。

【野村主査】

 それでは、金委員、どうぞ。

【金委員】

 今日の話だと、まずこの問題の対象でありますが、不明な著作物全てではなくて、不明プラス共同著作物のところに著作者不明の問題が深刻かなという印象を受けます。それが第1点です。
 第2点目に、現行の裁定制度という体制は、権利者にとっても利用者にとっても利益になっていないような気がします。つまり、必要以上の障壁になっているような気がして、市場のまたは民間の一般の権利者と利用者、特に利用者の判断ですね、自律的な判断の可能性を十分に生かしてないのではないかと思います。そういう意味では、イギリスとアメリカで提案されている、自己責任に基づいて利用して、問題が発生したときに自分の責任または義務をある程度証明した段階に対して、政策的な補償または権利行使をある程度制限するということは非常に合理的ではないかという印象を受けます。
 3つ目に、日本経団連もそうですし、現行の日本の裁定制度もそうですが、事前に何かのお金をなぜ払うのかというところが私は理解できないのです。その点について何かご意見があれば伺いたいと思います。

【野村主査】

 今の金委員の意見を踏まえて、他に何かご意見ございましたら。三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 権利者が不明であろうとなかろうと、何か利用した場合に、本を出版すれば使用料は要るわけですね。それから、そうじゃなくて、例えば大学のホームページに過去の古い既往を掲載するとか、『早稲田文学』とか『三田文学』というようなもの、これも明治、大正の頃のものを掲載するというような場合は、お金を払わないで掲載するというものであります。権利者が分かっている場合にはホームページに出して、「よろしくお願いします」と許諾をとることはできるわけですけれども、不明の人の場合は許諾をとることはできないし、いつお亡くなりになったかも分からないので、保護期間が切れているかどうかもわからない。分からないから使えないというのが現状であります。
 こういうものは、本を出して有料で売っているものについては、使用料に相応する供託金を払うべきであるし、無料でやっているものについては何らかの名誉棄損とか、そういうリスクが生じるケースがあるので、クレーム処理費のような形でわずかな金額を出すというような、使用目的によって必要なお金は払うべきだろうと思うのです。不明の人だから勝手に使って、お金も払わないというような出版や利用が起こらないように、要するに所在の分かっている人に払うのと同じだけの費用はどこにプールしておくと、そういうシステムが必要であろうと。
 一律に最低料いくらというふうに決めるのではなくて、無料の利用でも、これを復刻版で出すとか、ホームページにアーカイブすることによって、エンドユーザーにとっては大変有効な利用もあるわけです。ですから、その点もしっかりと皆で議論をして、システムを作っていっていただきたいと思います。

【金委員】

 今のお話は、不明なものに対して勝手に利用するのではなくて、例えばアメリカとイギリスで提案されているものは自己責任に基づいて利用するわけですね。事後的に訴えられる可能性もアメリカのケースなどはあるわけで、それを市場の利用する側が判断すると。おっしゃったように文脈によって違うと。その文脈は誰が判断するかといったときに、利用する側が自分のリスクと自分の期待する収益を計算できると思うのです。そういう形でリスクを負って使っていると。それに対して問題が発生したときに、こうした最大限の努力とか合理的な調査があった場合に対して、政策的にこれを、例えば権利行使をある程度制限するということは、非常に合理的だと思います。

【野村主査】

 常世田委員、どうぞ。

【常世田委員】

 ここで今問題になっているのは、主に利益を発生するような事業についての許諾の問題だろうと思いますが、先ほど三田委員がおっしゃったように、利益を目的としない利用というものがあるわけです。障害を持った方たちが普通の墨字の本では読めない場合には、録音テープなりに媒体を変換しなければコンテンツを利用することはできないわけです。ところが、現状が無許諾で、権利制限の対象となっているのは、点字図書館等での媒体変換だけでありまして、主に視覚障害者のために録音テープを作る、あるいは、内部障害等の色々な障害の方のために媒体変換をする場合には、例えば公共図書館でやる場合には、いちいち許諾をとっているという状況があります。
 これについては、法制問題小委員会で権利制限の方向で動いておりますし、三田さんが中心になって、文芸家の方たちについては独自にボランティアで組織を立ち上げていただいて、無許諾で媒体変換ができるようなことをやっていただいて、非常に助かっております。これの拡大を是非していきたいと思っているのですが、最後にどうしても残るのは、権利制限で法的な整備ができたとしても、日本は限定列挙主義というのでしょうか、きちんと法律で規定されている範囲にしか権利制限は及びませんので、障害の種類と度合は千差万別でありますので、必ず権利制限の対象にならないところが残ってしまう。
 それから、許諾をお願いしても嫌だという方も残るわけであります。障害を持っている方の場合には、単に複写をするのではなくて、媒体を変換しない限りは、例えば本は読めないわけであります。健常者の場合には、権利者が出版しているわけですから、健常者の場合にはいちいち許可を得ないで読めるわけですが、障害を持っている方は知る権利を奪われている、憲法の上での基本的人権を奪われているというふうに考えられるわけで、権利制限や当事者の方たちが独自に作った制度から漏れてしまうところについては、裁定制度の事項として検討をする必要があるのではないかと思っております。

【野村主査】

 それでは、瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 先ほど、とりあえず自己リスクで利用して、後で解決するような形というイギリス、アメリカ型というお話がありましたけれども、どれだけ努力したかを証明する力というのは意外と経済力と比例するのではないかなと思います。結局こういうふうなものの権利制限が経済力を背景に有利な状況を作る。もしくは、今の常世田さんのお話ですと、少し違いますけれども、経済的にそれほど大きくないところでは証明能力が低くなる、そこで使えることについての格差が起きる。
 これに関して、「よし」としてチャレンジしていくという社会もあり得るかもしれませんけれども、今までの日本の流れの中では、そういう形ではなくて、経済力が大きくても小さくても使えるものは使えるし、使えないものは使えないという形といった、フェアネスをキープしていくという方向性のほうが好ましいのではないかなと私は感じております。

(3)閉会

【野村主査】

 それでは、よろしいでしょうか。予定の時間がまいりましたので、本日の議論はこのぐらいにしたいと思います。
 当初の予定では、今回で利用円滑化方策の議論を終えるということを目途にしておりましたけれども、本日の議論を踏まえて、次回には利用円滑化方策の総括をしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 その他、事務局から事務連絡がありましたら、お願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 本日はありがとうございました。
 本日いただいたご意見を踏まえまして具体の案を整理させていただきたいと思います。
 次回の小委員会の日程でございますけれども、5月16日(金曜日)、10時から12時、本日と同じ場所で開催を予定しております。出欠につきましては、既にご連絡いただいておりますけれども、変更等がありましたら、後ほど事務局までご連絡いただければと思います。
 ありがとうございました。

【野村主査】

 それでは、これで第2回の過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を終わらせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

(文化庁著作権課)