はじめに
DVD化、インターネットを活用した配信等により、放送番組を二次利用する場合、当該放送番組に係る著作権者(モダンオーサー及びクラシカルオーサー)の複製権等及び実演家の録音権・録画権等(注1)が働く。
このことについては、文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会における関係者のヒアリングにおいても、「多数権利者のうち一部の許諾が得られない場合については、一定条件のもとに利用が可能となる仕組みについて検討が必要」、「映画の著作物については、多数の権利者が関係するため、一部の許諾が得られない場合については、共有著作権と同様に正当な理由がない限り同意を拒否できないようにすべきではないか」、「複数の権利者がひとつの財に対して権利を有している場合、アンチ・コモンズの悲劇として市場での解決は困難なことが立証されている。より簡便な裁定制度や同意の推定規定をおくべき」等といった意見が述べられている。
また、映画の著作物のうち、実演家から録音・録画の許諾を得たものと、実演家から放送の許諾を得て放送のために録音・録画したものとでは、その映画の著作物の二次利用に関する実演家との許諾契約の要否が全く異なる。このため、放送の許諾しか得ていない放送番組の二次利用について、その円滑化を求める声が特に強い(注2)。
放送番組の二次利用に関しては、平成16年6月、文化庁の検討会により「過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書」がまとめられ、その中で放送番組の二次利用が進まない背景が分析されている。これによれば、二次利用が促進されない理由として、二次利用可能な番組が保存されていない、ビジネス上の判断によって番組提供者が供給しない等、著作権契約以外の事由によって供給されない場合がほとんどであり、著作権契約の問題が占める割合はそれほど多くないと指摘されている。
一方、今後制作される番組についての利用円滑化を図る観点から、関係者により「放送番組における出演契約ガイドライン」が作成され(注3)、コンテンツのマルチユースを念頭に置いた書面による契約を結ぶような環境づくりも進められている。
本ワーキングチームでは、このような経緯を踏まえるとともに、前述の文化庁検討会の報告書の時点ではインターネット配信事業等がまだ萌芽的事業であったもののその後の技術革新も進展していること、著作権や著作隣接権が私権である以上、様々な理由から許諾を得られず放送番組の二次利用ができないという場合も皆無ではないと考えられること等を考慮し、多数権利者が関わる実演の利用円滑化方策について、その可能性を検討することとした。
- (注1) ただし、実演家の録音権・録画権については実演家の録音・録画の許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演については、これを録音物以外に録音する場合には権利が働かない(第91条第2項)。
- (注2) 社団法人日本経済団体連合会・映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会「映像コンテンツ大国の実現に向けて」(2008年2月25日)においても、「放送番組には多くの権利者が関わっているが、一部の人の反対があるとコンテンツの流通は難しい」、「著作権法上、共有著作権については正当な理由がない限り反対できないといった規定があるが、放送番組に適用できないか」といった指摘がある。
- (注3) 平成19年2月、社団法人日本経済団体連合会・映像コンテンツ大国を実現するための検討委員会に設置された「放送番組における映像実演の検討ワーキング・グループ」による。
4.まとめと展望
本ワーキングチームでは、放送番組の二次利用に係る実演家の権利を円滑に処理できるようにする方策について検討を行ったが、利用の阻害要因について、本ワーキングチームが調べた限りでは、利用の許諾が得られないことは少なく、その態様によって許諾が得られなかった場合でも、その理由については必ずしも不当な理由といえるものではないという状況であった。そして、利用を阻害しているのは、むしろ、ビジネスモデルの問題や権利者不明の問題であるということであった。
これを踏まえて、共有状態にある実演や多数権利者が関わる実演の利用円滑化のための具体的な方策についても、さまざまな角度から検討を行った。もっとも、実演の利用形態は非常に多様であるため、明確に効果があると考えられる対応策を見出すことは困難であった。
しかしながら、コンテンツ流通の新たなメディアに対する期待が低いわけではなく、権利者においては権利の集中管理の促進、流通事業者においては関係者に適正な利益の再配分ができるビジネスモデルの構築など、それぞれの立場におけるコンテンツ流通の活性化のための取組によって、一定の効果が期待できる方策が生まれる可能性はあると思われる。また、インターネットを活用した番組配信は現時点においてはビジネスにならないとの意見もあるが、他方で音楽配信ビジネスの成功例もあるので、不正な流通を防止する仕組みづくりとともに開放的な市場でのコンテンツ取引の展開等にも関係者が積極的に取り組むことが望ましいと考えられる。
そのため、これらの取組やその他の状況の変化を踏まえ、必要に応じて実演の利用円滑化方策に関して改めて検討することも有意義なことと思われる。