増山委員 非常に複雑な問題でございます。この問題を考えるときに、条約テキストにあった用語の定義と現時点わが国提案の権利付与の範囲をもう一度確認することが非常に重要だと思います。我が国提案は、基本的にはWPPTとのバランスを考慮し、放送のネットワーク送信については、放送事業者に「送信可能化権」しか付与しない、つまり、生または固定された放送のアップロードのみをカバーします。ネットワーク送信の部分については、決して権利付与を提案しておりません。従って、わが国提案にあった「公衆への伝達(communication to the public)」という用語は、WPPTのそれと同様の意味をもっており、即ち、放送及びネットワーク送信以外のあらゆる媒体による送信、例えば、同時又は異時の有線放送やテレビ放送の公衆への伝達等をカバーすることになります。このアプローチは、WCT第8条でいう「公衆への伝達権(Right of Communication to the Public)」と明らかに異なります。WCT第8条は、送信可能化を含み、有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達をカバーしますので、当然ネットワーク送信についても権利が及びます。
一方、放送条約テキストでは、「放送の同時再放送、同時有線再放送及び同時ネットワーク再送信」は、第2条(d)でいう「再送信(retransmission)」という概念でくぐられており、また、条約テキスト説明の第11.02文によると、「放送固定物を用いる放送、有線放送及びネットワーク送信」、即ち、放送の異時再放送、異時有線再放送及び異時ネットワーク再送信は、第11条「固定物を用いる送信に関する権利(Right of Transmission following Fixation)」の対象とされています。この他、第12条の「放送固定物の送信可能化権(Right of Making Available of Fixed Broadcasts)」やローマ条約第13条でいうテレビ放送の「公衆への伝達権(Right of Communication to the Public)」(第7条)に関する提案も用意されております。条約テキストを見る限り、「(放送の同時)再送信権」や「固定物を用いる送信に関する権利」それに「放送固定物の送信可能化権」または「公衆への伝達」と、条文の規定ぶりこそ別々となっているが、権利付与の内容はWCT並の非常に幅広いものが提案されているように思います。
配布「資料5」の7ページと8ページに表がございますが、この整理の仕方は我が国の提案に沿った形で整理されているかと思うのですが、厳密にいえば8ページのこの表の一番下に、わが国提案には無かったが、EU等が提案する「固定された放送の異時のネットワーク送信」という部分があります。EU案やアメリカ案それに条約テキストを素直に読みますと、実はこの部分は、第11条「固定物を用いる送信に関する権利(Right of Transmission following Fixation)」によってカバーしようとしていることが分かります。そういう意味では、用語の定義あたりをきちんと整理しないまま議論をすると、内容がかなり錯綜して、ますます混乱になってしまうのではないかと思います。