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著作権分科会国際小委員会(第2回)

日時   平成16年12月17日(金曜日)
10時30分〜13時
場所   三田共用会議所 C,D,E会議室

議事次第

 開会
 議事
(1)   第40回WIPO一般総会の結果の報告
(2)   第12回WIPO著作権等常設委員会の結果の報告
(3)   放送条約の論点の議論(支分権、技術的保護手段等)
(4)   その他
 閉会


配布資料一覧

資料1   国際小委員会審議予定(案)
資料2   第40回WIPO一般総会の結果概要について
資料3   第12回WIPO著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)の結果概要について
資料4   放送条約テキストに関する論点
資料5   放送条約テキストに関する参考資料
資料6   放送条約テキスト
参考資料1   著作権分科会国際小委員会(第1回)議事録
(※著作権分科会国際小委員会(第1回)議事録へリンク)

午前10時30分開会
道垣内主査 それでは、定刻となりましたので、ただいまから文化審議会著作権分科会国際小委員会の今年度の第2回目を開催いたします。
 議事の内容を一層公開していくという今期の著作権分科会の方針に基づきまして、本日もその方向で、既に傍聴の方には入場していただいているところでございますけれども、本日の議事も公開するということでよろしゅうございますでしょうか。

(「異議なし」の声あり)


道垣内主査 それでは、公開ということにいたしまして、傍聴の方にはそのままいていただいて結構でございます。
 では、まず議事に入りますが、その最初の、そして配布資料の確認をお願いできますでしょうか。

事務局 それでは、お手元の資料の確認をお願いします。
 資料1が国際小委員会審議予定(案)です。資料2が第40回WIPO一般総会の結果概要について、資料3が第12回SCCR会合の結果について、資料4が放送条約テキストに関する論点について、資料5が条約テキストに関する参考資料について、資料6が条約テキストでございます。参考資料1が前回の議事録でございます。不足等ありましたら、事務局の方までお願いいたします。

道垣内主査 よろしゅうございますか。
 それでは、議事の中には入っておりませんが、しかし議事と同じような扱いだと思いますので、まずはお諮りいたしますが、審議の予定につきましてご説明いただいた上でご意見あればお伺いするというふうにしたいと思います。では、よろしくお願いします。資料1ですね。

事務局 資料1をごらんください。
 前回、今後の審議事項について議論いただきましたが、それに沿いまして、今回、今後の審議予定(案)を作成いたしました。前回、放送条約及びアジアとの関係について議論をしていただきましたが、今回その放送条約のうちの具体的にその支分権、法的措置の在り方について議論いただきたいと考えております。次回1月の19日については放送条約の中の、放送の保護の在り方及びその将来の課題としてウェブキャスティングの保護の在り方などについて議論いただきたいと考えております。その後、現在WIPOのIGC会議で議論されておりますフォークロアの保護の在り方について第4回目で議論いただきたいと考えております。現在、WIPOの事務局で、保護の趣旨、対象、手法の在り方についてさまざまなオプションが示されておりますので、これに対する対応の在り方について議論いただきたいと考えております。
 第5回、第6回がデジタル化への対応の在り方です。これにつきましては国際的な動向を踏まえて、今後の国際的な会議の場で、どのように対応していくかについて議論いただきたいと考えております。現在考えておりますのは、ファイル交換への対応の在り方でありますとか、産業界で自主的に行われておりますDRM(デジタルライツマネジメント)への対応の在り方です。そのファイル交換につきましては、だれをどのようにとらえていくのか、直接侵害、間接侵害のとらえ方、あるいはアップロード、ダウンロードといったどの段階でとらえていくのか、また私的複製の在り方についても議論していきたいと考えております。
 次に、DRMにつきましては、産業界の自主的な取組を紹介した上で、PKIなどの認証、暗号化、セキュリティ、課金といったDRMシステム全体を見渡しながら、これと著作権制度との関わりなどについて議論していただきたいと考えております。
 これらの議論を踏まえまして、第7回国際小委員会とりまとめを考えております。必要があれば追加もありうると考えております。
 以上です。

道垣内主査 いかがでございましょうか。年度を越えてWIPOでの議論の先取りを一部しつつ、この場で議論しておきたいということでございますが、よろしゅうございますでしょうか。
 それでは、そのような予定に従って今後進めていきたいと思います。
 3月以降につきましては日程調整をまたいずれするということで。

事務局 はい。

道垣内主査 よろしくお願いいたします。
 それでは、議題の1及び2ですが、きょうは議題の3が全体の中心だと思いますけれども、その時間を少し多めに残すようにしたいと思いますが、まずは1と2につきまして、これも事務局から資料に基づいてご報告いただけますでしょうか。

事務局 資料2、資料3をごらんください。まず9月に行われました一般総会の結果について報告いたします。
 去る9月27日から10月5日まで、WIPOにおいて一般総会が開催されました。その場では、1の一番最後の段落にあります1から5までの事項が議論されました。具体的には、2カ年予算の見直し、幾つかの条約の外交会議の開催、IGCの検討、エンフォースメントの検討などが議論されました。これ以外に著作権の関係といたしまして、放送条約の外交会議の開催とAV条約の保護について議論がなされております。
 まず、放送機関の保護についての検討でありますが、2.の(1)に書いてありますとおり、去る6月に行われました第11回のSCCR会合におきまして、1として、本件を一般総会で外交会議の開催について議論を行う。2として、第12回SCCR会合を11月に行う。3として、これらの結果を踏まえまして地域会合を進めていくことが推薦されました。
 1枚めくっていただきまして、この結果を踏まえて一般総会で議論がなされましたが、結果としましては、9月の一般総会で本件についての外交会議を決断するという結論には至らずに、最終的には来年の一般総会、あるいはそれにかわる特別総会において、本件の外交会議の開催を検討するということになりました。そのため、SCCR会合での議論をさらに加速化すべきということが決定されました。
 議事の概要でありますが、本件について一般討議では、まず冒頭、インド、エジプトなどから、「本件については関係者間、権利者間のバランスを十分考える必要がある。条約テキストの内容についてもいまだまだ十分な審議がなされていないものもあるので、さらにSCCR会合での議論を進めるべきである」という発言がなされました。また、日本あるいはメキシコなどから、「本件についての重要性を鑑みて、また権利者間のバランスも考えれば、本件についての法を検討をさらに進めていくべきである。次のステップであります外交会議で論点をしっかり議論する必要がある」という発言を行いました。
 またEUなどからは、基本的には前向きなんですが、「内容についてはさらなる精査が求められる」という発言がなされています。ブラジルなどは「ウェブキャスティングなどを初めとして未解決事項が残っているので、さらにそこは慎重に進めていくべきだ」という発言がなされまして、その後議長がこれらの議論を踏まえて、「本件についてのモメンタムを失うことなく検討を進めるためにあらゆる可能性を探っていきたい、来年の総会まで延ばすのではなく、例えば適切なタイミングで特別総会を開くことによって、本件を加速化することができないか」と言ったところ、インドから、「予算の制約などがあるので特別総会の開催については反対する」という意見がありました。最終的には、来年の一般総会でもって本件をもう一度議論をする、可能な場合には特別総会も検討するというのが今の状況でございます。
 1枚めくっていただきまして、AV条約についてですが、これについては各国から、本件の重要性を鑑みて引き続き検討すべきだという主張がなされ、最終的には議長が、「権利の移転に関する12条の問題はありますが、これについては引き続き関係国間で協議を進めていきたい」ととりまとめ、来年もう一度一般総会で議論することになっております。
 このほか、幾つかの事項が検討されております。1つは、一般予算でありまして、WIPOの予算は2カ年予算になっていまして、2004年、2005年の予算が昨年決められております。その予算に従って今運営がされておりますが、2カ年予算、およそ大体500億円ぐらいの予算に対して、収入が非常に激減していることから、国際特許申請料の値上げが事務局からなされました。これに対して、特許予算の大部分を占めます日本、アメリカから反対がなされまして、最終的には特許料申請の値上げは否決されております。
 日本、アメリカの主張というのは、まず特許料を上げる前に国際特許会計の透明性の確保や、その算定方法の確立を目指すべきだというものです。これに対して途上国は、途上国に対する支援の削減につながらないことを目的に異議を唱えています。
 また、今回、ブラジル、アルゼンチンから開発アジェンダについて提案がありました。その内容は、知的財産が途上国にとってどういうメリットがあるのか議論していく、その場合には途上国に対するキャパシティ・ビルディングなど支援だけではなく、今後途上国の開発を促進するために知的財産をいかに制度構築するのか、必要な場合は制度緩和も含めて制度の見直しを行うべきというものです。これは、来年の3月以降、特別な委員会において議論されることになっております。また、これも国際小委員会で適宜報告をさせていただきたいと考えております。
 1ページめくっていただきまして、遺伝資源、伝統的知識、フォークロア、IGCについて引き続き議論が行われております。
 エンフォースメントにつきましては、毎年1回会議が開催されており、今年は各国の司法制度について検討がなされております。来年は教育、啓発、啓蒙活動について検討する予定になっております。
 以上が一般総会の結果概要でございます。残念ながら放送条約については、外交会議の開催が決定されなかったわけですが、その理由としては、1つは途上国の反対があったということ、1つは、先進国の中でもフランス、カナダなどの国が本件の外交会議の開催についてそれほど積極的な発言がなされなかったことが挙げられます。これは、今ユネスコで文化多様性条約が検討されておりまして、これは自国の文化の多様性を尊重して助成措置であるとか規制措置を設けることを目的としています。それはフランスとカナダのイニシアチブのもとで行われておりまして、このためフランス、カナダは本件について少し足踏みしている状況ではないかというふうに考えております。
 次に、資料3をごらんください。
 一般総会の結論であります「SCCR会議での議論を加速化すべき」という提言を受けまして、11月に会議が行われております。内容としては3つございまして、1つは本件条約の今後のとりくみについて一般的な所信表明が各国からなされたというのと、1つは具体的な条約テキストの内容について、幾つかの項目について議論が進展したというのと、もう1つは今後の進め方について議論がなされたというものです。
 まず1枚めくっていただいて、一般討議でありますが、初日、大勢は肯定的な発言でした。ただ、一部の国から否定的な発言もなされまして、ここに書いてあるとおりでございます。肯定的な発言としては、著作隣接権を見直すべきである。放送条約についても著作権を見直して今回の条約テキストに基づいて議論が進展することを期待するといった発言が挙げられます。否定的な発言としては、ブラジルなどから、今回の放送条約によってむしろ情報のアクセスが困難になる懸念がある、関係者間での利益のバランスが崩れるというような発言もなされています。
 次に、具体的な条約テキストの事項についての検討ですが、事務局から10の項目について提案がなされまして、それについて議論が行われています。そのうちの実質的な議論が行われました8つの項目について報告をしたいと考えております。
 1ページめくっていただきまして、(1)でございますが、これは次の論点とも関係がありますので簡単に触れさせていただきますが、技術的手段という条文がございます。これについては、従来のWCT、WPPTと同様の規定以外に、本条約テキストで暗号解除に関する法的な措置の条項が盛り込まれております。これについて今後条約上位置づけていくべきかどうかというような議論がなされました。最終的には位置づけていくべきだという少数の国の意見もありましたので、現時点では条約テキストに残すことになりました。次に、ブラジルの提案は、そもそも技術的手段というのを放送条約の中から削除すべきであるというものです。その内容は放送事業者が技術的手段を用いることによって、パブリックドメインの情報を取り込んだ場合に、それに対する一般の方々のアクセスが阻害されるというものです。この提案に対しては幾つかの国から、著作隣接権の保護の観点から、技術的手段というのは必要であるという発言がなされまして、これは条約テキストに残すこととなっております。
 (3)の権利制限の在り方についてです。これはスリー・ステップ・テストに基づいて各国運用が可能ですが、今回、アメリカとエジプトの提案の中で、スリー・ステップ・テストのほかにWIPOに通報すれば権利制限ができるという条項があります。この条項を残すか削除するかについて議論が行われたところ、アメリカは削除してもいいと同意しましたが、エジプトは依然として本件の本条の維持を主張し、今の段階では条約テキストに残すことになっております。
 あと(4)で、締約国の資格として、ほかの条約ではWIPOの加盟国であれば自由に締結できるところ、本条約の締結については、アメリカがWCT、WPPTの締約を条件とすべきと主張しています。この理由は、WCTを締約せず本条約を締約した場合、放送の中身には著作権が及ばないが、放送機関に著作隣接権が及ぶことは問題である。したがって、本条約を締結する場合にはWCT、WPPTを締約することを条件とするというものです。これに対して大部分の国は、本条約の締結は各国の判断に委ねるべきだということで、アメリカの提案に反対しています。
 次に(5)ですが、放送の固定後の利用に関する権利について、通常は許諾権として規定されておりますが、アメリカはそれを禁止権とすべきと主張しております。そのねらいは、海賊版対策の観点から固定の際に許諾を受けていない放送の固定物の二次利用については禁止することです。これに対して幾つかの国が反対しておりまして、現段階では両案とも併記することになっております。これも後ほど論点整理のところで議論させていただきたいと考えています。
 次に、保護期間ですが、放送後50年間の保護期間の提案がなされていますが、一方でシンガポールが、保護期間として20年間を提案しています。これについて議論が行われたところ、インド、シリア、チリ、モロッコなどからは、シンガポールの提案を支持しています。ローマとあわせて20年間とし、さらに必要な場合には各国が独自の判断で長くすればいいというのがこれらの国の主張、理由です。一方、大部分の国は50年間を支持しております。
 (7)は公衆への伝達権です。公衆への伝達権については条約によって対象範囲が異なるので、注意が必要です。本条約では、一般的なカフェだとかレストランなどのところでテレビが放映されている場合に権利が働くというものです。現在では入場料を払ってテレビを見るような実態がないことから、本件についての権利を削除すべきではないかと一部の国から提案がなされましたが、議論がなされた結果、引き続き本条項を残すということになっております。
 次に、ウェブキャスティングの取り扱いです。ウェブキャスティングについては、初日から議論がなされておりまして、大きな課題になっています。現状は、アメリカ、ヨーロッパそれぞれの提案を行っていて、アメリカは独立したウェブキャスティング事業者を今回の保護対象として位置づけるべきであるという主張を行っています。これに対して、EUは、放送機関が放送と同時にネット上でウェブキャスティングを行う場合に新たな保護の対象として位置づけるべきだという提案を行っています。この2つの選択肢に対して、各国からいろんな意見がなされています。
 EUの提案については、事務局の方で、放送の同時ウェブキャスティング、英語でサイマル・キャスティング・オーガニゼーションというふうに位置づけております。アメリカ、ヨーロッパの提案理由は、技術の進展に伴って本条約についても見直しを行っていくべきである。したがって、そのウェブキャスティングについても本条約の対象として取り上げるべきだというものです。これに対してロシアは妥協案として、アメリカやヨーロッパの案も併記した上で、各国が自由に選ぶことができる案にしたらどうかという提案を行っております。日本はこれに対して、ウェブキャスティングはあくまで次期の検討課題とすべきである。ただし、本件について重要性が低いと考えているわけではなくて、引き続きWIPOに別途検討の場を設けた上で検討すべきであるという主張を行っております。ブラジルは、有線放送自身についても今回の保護の対象から外すべきだという提案を行っています。また、その他の大部分の国は、ウェブキャスティングを本条約から切り離して議論すべきだと主張しています。
 これらの議論を踏まえまして、今後の進め方について、議長から提案がなされております。6ページ目の四角で囲った部分をごらんください。
 まず、用意すべき文書として、次の条約テキストの修正(案)を用意する。ウェブキャスティングについては法的拘束力のない代替措置についての作業文書を用意する。次に会議の開催について、地域会議を開催する。その結果を踏まえて第13回SCCR会議を開催するというのが事務局の提案です。
 この提案にたいして、アメリカとヨーロッパから、ウェブキャスティングの取り扱いについて疑義が示されました。
 また、地域会議の位置づけについて、ブラジル、インドなどは、将来の外交会議につながる正式な準備会議にとらえられかねないことから、情報会合であるとか非公式会合に変更したいと主張し、ほかの国がそれに賛同しています。その後もブラジル、インドなどから、本議長提案に対してさまざまな意見が出されまして、最後にはインドから、SCCRの会合の議長が再任されていることはWIPOのルールに反し問題であると主張がなされました。何としてでも外交会議につながるような提言を阻止しようというのが、インド、ブラジルの意図だと思うんですが、最終的には議長がすべてを引き取った形で、本件については全会一致の決定ではなく、議長が本会合の見解を議事録に記載したものとして位置づけていきたいとして、これに賛成かどうかを各国に問い合わせたところ、大部分の国が賛成した結果で終わっております。
 これ以外に、権利制限の在り方について、今回チリから、デジタル環境下における教育図書館、障害に関する権利制限の在り方について議論をしていきたいという提案がなされています。途上国の今後のその運用の仕方について議論をするということは意味があると思いますので、引き続き次回以降で議論をすることになっております。
 以上が、SCCR及び一般総会の結果でございます。

道垣内主査 どうもありがとうございました。
 途上国とEUの内部調整の難航等があり、なかなか大変な状況であることがわかりましたけれども、これは最近最も新しい状況ということで、放送条約の条文の内容につきましてはこの後、具体的に議論していただきますので、全体の流れ、今後の見通し等について、この段階でご質問があれば委員の方から伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。
 ちょっと私の方から申し上げますと、先ほど、放送条約の項目をご紹介になって、この順番ですけれども、条文の番号でも、論理的な順番でもなさそうなんですが、何かこのような順番にされた理由があるのでしょうか。今後の議論もこれに沿った順番のように思われますけれども。

事務局 事務局から提言のあったものは10項目ありまして、そのうちの幾つかを提案された順にこちらでご紹介させていただきました。事務局の提案の仕方も、重要度に応じたもので条文の番号とはなっていません。

道垣内主査 ああそうですか。わかりました。締約国の資格なんていう話は、最初か最後のいずれかに位置づけられるべきで、真ん中辺にあるのは何か変な感じがしますけれども、わかりました。
 いかがでしょうか。放送条約以外の条約についてはなかなか動きそうにはなく、一番見込みがありそうなのは放送条約なのでしょうが、これもそう簡単ではない感じは今の最後のやり取りから相当うかがわれるところですけれども。
 よろしゅうございますか。中身の議論の方がいいということであればそうさせていただきますが。
 それでは、議題の3に入らせていただきたいと思います。
 これは、さきにご紹介にあったように、今後の見通しはなかなか予断を許さないところでございますけれども、現在提示されている条約テキストについて、国際小委員会の観点から論点を整理し、見通しをつけていくということにさせていただきたいと思います。これにつきましては、最初の議事予定のところでもお話がありましたように、2回に分けて検討したいと考えておりまして、今回は、具体的な支分権とそれから技術的手段についての措置について議論をお願いしたいと思います。次回は、それ以外の点で、特に保護の対象、それから保護の考え方、その中にはウェブキャスティングの保護の在り方についても含むということで、そういった点につきましては次回の議論ということで、今回は今申し上げました支分権、それから技術的手段についての審議に集中したいと思います。
 それでは、この論点につきまして、より詳しく事務局からご説明をいただけますでしょうか。

事務局 お手元の資料4、5、6をごらんください。
 現在、国際的に議論となっている幾つかの条項について議論いただきたいと思っています。本テキストにつきましては4月に議長から提案がなされて、前回SCCRの前に再度修正されたもので、それを和訳したものであります。今回その資料4ということで幾つかの支分権と技術的法手段、権利管理情報について意見をいただきたいと思っております。まず資料5の方を説明しながら、その後で論点について紹介したいと考えております。資料5の方をごらんください。
 まず、その技術的手段の在り方ですが、WCT、WPPTにおける議論を調べてみますと、具体的な書きぶりは(2)にあるとおり、抽象的な書きぶりになっております。本規定の内容は、「許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為」について「抑制するための効果的な手段」であって、「その手段の回避を防ぐための適切な法的措置を講じる」というもので、各国が独自の判断でもって措置を講じています。我が国の場合は、本規定に基づいて刑事罰や私的複製にて規定されております。
 こういった抽象的な書きぶりになった理由については、いろいろ外交会議の資料を調べてみますと、具体的に書いてしまうと、その対象になるもの、ならないものが明らかになってしまうため、アメリカ関連企業などを中心とするグループが反発して、最終的には各国の判断に委ねるという形で抽象的な書きぶりになったようです。その議論の中では、コピープロテクションなどのような著作権で保護されているものに効果的な技術的手段は対象ではあるが、例えば支分権が与えられていないアクセスコントロールについては技術的手段の対象外という整理がなされております。
 今回その技術的手段の内容として、従来WCTにあります規定以外に暗号解除に関する各国の提案がなされています。参考までに、これまで条約提案が行われています10カ国について整理したのがこの表です。大部分の国は技術的手段については導入を認めるべきとし、暗号解除につきましては、一部の国が具体的な条文(案)を提案しております。これらのうちの、最も詳しく詳細に書いてあるのがアルゼンチン提案でありまして、これが今条約テキストの方に載せられています。
 次に、各国の現行法の状況についてですが、条約上、アクセスコントロールについては条約の要請ではないと理解しています。一方で、各国独自の判断でアクセスコントロールに関する法的措置がなされております。アメリカにつきましては、98年にDMCAによって導入されておりまして、3つの要素から成り立っています。1つは、従来と同様の複製権などを保護するためのコピーコントロールなどに対して技術的手段を回避するような装置などを禁止する、2つ目はアクセスコントロールについては同様な機器規制を行う、3つ目はアクセスコントロールの回避を行う直接の行為を禁止するというものです。ただ、3つ目については、幾つか適用除外にしていまして、リバースエンジニアリング、暗号化研究、セキュリティ検査については横断的に適用除外になっております。
 次に、EUの動向ですが、EUではWCT、WPPTの加盟を促進するために2001年にEUディレクティブが出されています。その内容の中に、技術的手段に関する措置が規定されておりまして、第6条の2に機器規制を行うことが規定されています。この内容としては、WCT、WPPTの内容以外にアクセスコントロールが含まれます。したがいまして、ヨーロッパにつきましても、アクセスコントロールに関する機器の規制がなされております。これに対してアメリカは、アクセスコントロールを直接規制するものも含まれます。
 これに対して、著作権法では、著作権の回避を行う装置の販売などに対して刑事罰を適用しています。また、不競法でも同様に97年に改正が行われていますが、この中でアクセス及びコピー管理機能を技術的手段と位置づけて、それに対する差し止め請求や損害賠償請求が認められています。ただし、これについては刑事罰の対象ではありません。
 最近の動向でありますが、アメリカのDMCAについて幾つかの判例がありますので、それについて紹介をさせていただきます。最近、DMCAのアクセスコントロールに関する2つの連邦控訴審の判例を紹介をさせていただきます。
 まず1つ目はLex Mark Caseです。原告がレックスマークというプリンターの会社で、被告がスタティックコントロールというチップをつくる会社です。もともとレックスマークというのはプリンターをつくっている会社なんですが、プリンターとカートリッジの相互運用性を確保するためにプリンターにチップを埋め込んで、その専用のカートリッジでないとそのプリンターに使えないという販売を行っております。これに対してスタティックコントロール社がそれに互換性のあるチップを盛り込んだチップを販売したところ、これがDMCAのアクセスコントロール違反であるということをレックスマーク社が訴えたものです。
 結果については、地方裁ではDMCA違反を認めたんですが、連邦控訴審ではDMCA違反を認めておりません。論点は3つあり、1つ目が著作物性、2つ目がフェアユース、3つ目がアクセスコントロール侵害です。ここで問題となるのは地方裁では、著作物性、フェアユース、非該当性、アクセスコントロールの侵害とも認めておりまして、侵害を認めています。これに対して控訴審では、著作物性はない、フェアユースである、アクセスコントロール侵害ではないとして損害賠償を認めていません。
 その具体的な控訴審の言いぶりとしては、「レックスマーク社が問題視しているアクセスコントロールは、DMCAの規定しているアクセスコントロールとは趣旨が異なる」と結論づけたというものであります。
 次がSkylink Caseです。これは原告がチェンバレンというガレージ会社で、被告がスカイリンクというリモコンをつくる会社です。ガレージをつくる会社は、自分でリモコンで操作することができるわけなんですが、スカイリンク社が、このチェンバレンのガレージに使えるようなリモコンを販売したことから、チェンバレン社がDMCA違反として訴えたものです。これは地方裁、控訴審ともDMCA違反を認めていません。原告の請求を棄却しています。具体的な要件としては、(1)から(6)がありますが、ここで一番問題となるのはアクセスについての違法性です。
 これについて地方裁、控訴審ともアクセスコントロールを回避する趣旨のものではないという注釈がなされています。DMCAは権利者保有者に新たな権利を創出しているわけではないことから、原告の請求を棄却しております。
 以上より、条文上は、何でもアクセスコントロールに関わるものは該当してしまうものですから、こういった訴訟が起こるわけなんですが、アクセスコントロールを規制することによる弊害というのもあるのではないかというふうに考えております。
 次に、本条約をアクセスコントロールについて導入した場合に、放送事業にどのような影響があるのかについて説明します。
 これは上原委員からご提示いただいたものですが、放送条約における技術的手段に関する措置として、現行のWPPT並みと今回の暗号解除の措置を入れた場合にそれぞれどういった事例が該当するのかについてまとめたものです。
 WPPT並みについては、現在Bキャスを使ったデジタル放送が該当します。これについてはコピーワンスという、コピーを1回だけ行う機能が盛り込まれていて、それを侵害した場合には、現行のWPPTの規定でもとらえられます。一方、暗号解除に対する措置の場合、アクセス制御を解除する行為に対して法的措置が及びますので、具体的には現在行われている有料課金システムの放送についてアクセスコントロールが行われれば、対象になるのではないかというふうに考えております。
 以上の説明の後、論点について説明したいと思います。
 1.の技術的手段に関して、まず(1)が暗号解除に関する措置、(2)がブラジルの提案になっています。(1)としては、暗号解除に関する技術的手段としては、WCT、WPPTのもとではアクセスについてまでは対象になりませんが、一部の国から導入が提案されております。本件について放送の暗号解除を技術的手段の対象とすることは、著作隣接権の趣旨、権利の濫用の観点から妥当なものかどうか。具体的にアルゼンチンの提案についてどのように修正すべきなのか。我が国は、不競法なども含めてどのように対応すべきなのかというのが第1点目の論点でございます。
 第2点目、ブラジルの提案ですが、ブラジルは今回、放送条約に技術的手段を設けることによって放送事業者がパブリックドメインの情報を使って放送行為を行ったときに、それに対して技術的手段を講じたときに、公共の情報に対するアクセスも制限されることからそもそも技術的手段の導入に反対しています。本条約においてブラジルが指摘する懸念は問題ないのか、ブラジルの提案に対してどのように対処すべきなのかというのが第2点目の課題です。
 次に、もう一度資料5に戻っていただいて5ページ目をごらんください。
 技術的手段と加えまして、権利管理情報がWCT、WPPTでも盛り込まれておりまして、放送条約でも同様な規定が盛り込まれています。本件についてはまだデジタル放送が始まったばかりですので、具体的にネット上の権利処理や違法行為に対する立証のための本権利管理情報の活用の実態はまだないわけなんですが、今後デジタル放送が進展しますと、こういったものも活用されるのではないかというふうに考えております。
 7ページをめくっていただきますと、当時WCT、WPPTをつくった際に権利管理情報として幾つかの方式を考えておりまして、具体的にはヘッダー方式であるとか電子透かしなどの方式が該当すると考えられています。具体的にはヘッダー方式というのは、情報の一部に権利管理情報を盛り込んだ上で伝達するというものですし、電子透かしについては情報全体に対して権利管理情報を埋め込むという方式です。
 放送における位置づけについては今言ったとおりであります。
 次に、利用可能化権の付与と再送信権の付与について説明します。資料5の7ページをごらんください。
 まず1.として各国の提案内容を整理しています。具体的には、再放送のケース、異時再放送のケース、有線放送のケース、異時再有線放送のケース、ネットワーク上へのアップロードのケースです。また、アップロードのケースも生放送をそのままアップロードする場合と、固定を介したアップロードの仕方と2つあるかと思います。それぞれのケースにどのような権利を当てはめるか各国で提案が分かれておりますので、説明します。
 まず、条約テキストでは、再放送、有線放送、生放送のアップロードについては、リトランスミッション(再送信)が規定されています。
 具体的な規定については、「再送信」とは、「放送機関による他の放送機関のあらゆる手段での公衆への同時送信」と規定されており、再送信は「同時」に限られます。これに対して、異時の送信については、第11条で、「固定物による送信権」と規定されます。放送機関はその放送の固定物を使った放送の送信を許諾する排他的権利を享有するとあり、これが同時ではなく異時の場合を規定しています。したがって、今の条約テキストの考え方は、同時については再送信権、異時については固定物を伴った送信権ということで整理をしています。
 これに対して、日本は具体的には再送信権の提案ではなくて再放送権と、利用可能化権の提案を行っております。これらですべてカバーできるというふうに考えております。具体的には同時の再放送、異時の再放送については「異時再放送権」、有線放送については同時、異時ともWPPTと同様に「公衆への伝達権」で手当しています。生放送及び固定された放送のアップロードについては、固定・非固定の利用可能化権でもって手当てしています。
 これに対して、アメリカとヨーロッパの提案は、広く再送信権を認めていくというものです。したがって、再放送権、異時の再放送権などについては、ちょっと文言は変わっていますが、「再送信権」かあるいは「送信権」で手当する。固定物を伴ったアップロードについては「固定物の利用可能化権」で手当しますが、生放送、ストリーミングのアップロードについては、「利用可能化権」ではなく「再送信権」で手当することを提案しています。
 具体的な侵害事例については、ヨーロッパでは国をまたいだ違法行為が行われていて、放送番組を傍受して有線放送で流すケースがあります。また、アメリカの放送が、カナダで傍受されて有線放送やウェブキャスティングで放送されたケースがあります。日本では、傍受された放送がアジア諸国で有線放送されるケースがあります。
 次に、具体的な課題について説明します。
 これは、利用可能化権と再送信権とあわせて議論いただきたいと思っていますが、まず利用可能化権の内容について、現在は放送のアップロードについては生放送の場合と固定物を伴ったものと両方可能性があります。日本はいずれも固定の利用可能化権あるいは非固定の利用可能化権で手当できるのではないかというふうに考えております。
 一方で、再送信権の付与につきましては、今回ローマ条約にある再放送権を時間的に同時だけではなくて異時についても拡大するとともに、行為についても、放送だけではなく再送信に範囲を拡大しています。これらが妥当かどうかを議論いただきたいと考えています。その場合には、他の隣接権とのバランスや具体的なケースへの対応について考慮する必要があると思います。再送信権というのは、先ほど第2条で見ていただいたとおり、放送事業者による送信行為でありますので、例えば第3者がネットワーク上に生放送をアップロードする場合というのは、再送信権ではとらえられないと考えられます。こういった懸念、侵害事例があるのか、問題ないのかについて議論いただきたいと考えております。
 次に、禁止権でありますが、お手元の資料の5の8ページをごらんください。
 支分権については、日本は従来の放送条約と同じように排他的な許諾権を提案しています。EUは排他的許諾又は禁止権を提案しています。アメリカは固定権については排他的な許諾権とし、もし固定の段階で許諾されない場合には、それ以降の二次利用については禁止権とする提案をしています。条約テキストでは両案が併記されています。
 他の条約では、ほとんど排他的な許諾権ですが、1つだけローマ条約の第14条、放送機関についての権利については、排他的な許諾又は禁止する権利が規定されています。
 アメリカの提案の背景は、放送条約の目的を放送の海賊版対策ととらえて、固定の段階で許諾が得られない場合には二次利用を阻止するというものです。法的な効果を考えてみると、禁止する権利というのは禁止しない権利も考えられますので、その場合には、例えば禁止しない権利を行使した場合には通常利用することが可能になると思いますし、その際に許諾料などの条件を付せば、今の許諾権と同様な効果が得られるのではないかとも考えられます。アメリカの禁止権の提案について我々が承知しておかなければならないような法的効果があれば、それらについてもご指摘いただきたいと考えております。

道垣内主査 どうもありがとうございました。
 複数の論点がございまして、1つ1つご報告いただいて議論という方法ですと、最後の方の論点まで時間が足らなくなるかもしれないので、とりあえず全部ご報告いただいてと思ってまとめてご報告いただきました。お疲れさまでございました。資料の4には、5つの点が挙がっておりますが、資料5では4つにまとめていらっしゃるんですが、3と4、資料の4の3と4はまとめて議論ということでございますね。資料6が条文のテキストとそれから提案が、符号がついた提案になっているものでございます。
 議論の方は、まず第1点の技術的手段に関する措置、16条、これも2つ論点がございますが、これはどちらが先でも結構でございますが、まず16条について何かご意見、ご発言があれば。上原委員。

上原委員 すみません。大変詳細に事務局の方からご説明いただいて、若干ご説明の部分について、条約の中で、WIPOの中でどういう議論が行われているかというところで、ご議論いただくための前段階といたしまして、細かいところだけ申し上げておきますと、資料5の2ページのところに表が書いてありまして、各国の提案というのが出ているかと思います。ここのところで、各国提案比較の中で技術的保護手段と大きな括弧の中に暗号解除条項というふうに入っておりまして、ここをちょっと読んでいただくと、実は暗号解除条項にまるのついているスイス、アルゼンチン、ウルグアイ、ホンジュラス、ケニアにつきましては、すべて技術的保護手段とは別に条約提案の中で暗号解除権というのを立てております。この暗号解除権で基本的には暗号解除の保護を行おうというのが原則になっておりまして、スイス、アルゼンチンは暗号解除権のほかに技術情報手段の中でもさらに暗号解除情報というのを特段に設けて、二重に対応しようという構成を条約提案の中ではされておりますので、そのようにお読みいただきたいと思います。
 そういうことですので、各国から出ている提案といたしましては、むしろ暗号解除権というのを別途与える、つまりWPPT、WCT並みでいきますと、その条約で特段に保護されている権利についてのみ技術的手段の保護が働きますので、そこのところで念を与えてしばるという発想でございます。WIPOの議論の中では、放送の暗号解除、つまり実際に有料放送がいろいろなところで行われておりまして、これはデジタル時代を迎える前から行われている実態があるところから、それは勝手に破られるのは守ってやったらいいんじゃないかということであるんですが、そのためにわざわざ新しい権利を起こすのはいかがなものかということで、技術的保護手段の中に、特段に放送の場合には暗号解除は技術保護手段を軸として保護するんだよというふうに書いてやったらいいんじゃないのかというふうな議論がほぼ大勢を占めたので、条約テキストの中でこういうような書きっぷりになっていったという流れがあるということをちょっとご理解いただきたいと思います。
 それをご理解いただいた上で、一応私の個人的な意見ということで申し上げさせていただきますと、あくまで本条約におきます暗号解除の問題というのはアクセス権全般、あるいはアクセスコントロール全般の問題として少なくともSCCRで議論されているものではございませんで、あくまで有料放送が世界的に当たり前に行われていて、それがスクランブルされている。それを外されちゃったら困るという実態のところから来ているところでございまして、そこを放送に関しては、実態を見た上で、その部分に限り特段にそこのところを何らかの保護をしてやろうという議論が行われているところでございますので、WIPO全体として直接的にこの議論がアクセス権の問題であるというところにつながっているということでは必ずしもないということをご理解いただいた上で、私ども放送事業者の立場といたしましては、前回、山地委員の方からもお話ございましたように、アクセス権全般の問題といたしましては非常に根深い問題がございますので、法制小委員会等で根本的なご議論をしていただくということにしていただきまして、国際小委員会の場といたしましては、放送の現状に鑑み、世界の大勢の中でもそこまでは考えてやろうじゃないかということで、適切な法的保護手段というようなことで、この保護手段につきましても、著作権法に必ずしも限らないという書きっぷりをするということでこれをまとめようという方向にございますので、その趣旨をご理解いただいて、その部分について当小委員会でもご理解をいただければというふうに思っているところでございます。

道垣内主査 ありがとうございました。
 ということはあれですか、原案の16条のままでよいと、そういうことになるのでしょうか。

上原委員 失礼いたしました。一応私、ざっくりした方向性ということで申し上げておりますので、条約テキストのアルゼンチン提案の部分につきましては、正直ワーディングがいいとは思っておりませんので、この問題につきましては、現在SCCR12が非常に混乱した状態に終わって、SCCR13が開かれないと外交会議への道が見えない状況というところでございますので、SCCR13の状況を見はからった上で、ワーディング等についてはさらに詰めるという作業をしていただいた方が現実的ではないかと考えております。例えばSCCR13で、ここでワーディングの問題を強く話し合った結果、SCCR13でワーディングの問題を日本として強く主張すべきだということになりますと、その段階で次へ進むということがとまってしまうということが懸念されるものですから、大きな方向性でのご理解をいただいた上で、ワーディングについては次の視野の中でご検討いただければありがたいというふうに考えております。

道垣内主査 ほかのご意見いかがでしょうか。はい、どうぞ。

奥邨委員 今のご発言に関してなんですけれども、そうしますと当初アルゼンチンを含めて、暗号解除権を独立の排他権として規定することを求めていて、そのプラスアルファとして技術的保護手段ということであれば、この条文(アルゼンチン提案の条文)は素直に読める条文なんですね。一方で、条文にこだわるわけじゃないんですけれども、アクセス権を認めないとすると、やはり今までの条約の体系の中で、「この条約の権利の行使に関連して」の技術的保護手段の保護という位置づけとはやはり変わってくる。アクセス権のないところに、その中に、暗号化に関する技術的保護手段の保護の問題が入ってくるとなると、やはり今までのWPPT等よりは横だしなり上積みになるということは明らかなのではないのかなと思うわけです。アクセス権にはかかわらないというお話があったわけですけれども、やはり従来の条約の枠組みは、権利があってそれを保護するためのものということでずっと来ていたわけですから、権利がない中で暗号化だけを保護するということになりますと、そこが従来の枠組みとは異なってくるわけです。ですから、アクセス権のことを全く忘れてしまって議論をしていいのかなというところ、私の方はちょっとまだ不勉強なものでよくわからないなというのが1つあります。
 それから、2点目なのですけれども、放送の現状ということをおっしゃったわけですが、アルゼンチン提案の条文でいきますと、ブロードキャストが対象じゃなくてプログラムキャリングシグナルが暗号化されているという言い方になっております。ここ、なぜいきなり信号の話になるのかというのが私ちょっとよくわからないんですね。今までずっと放送ということで来ていた、放送番組ということで来ていたはずが、ブロードキャスティングシグナルということに変わっているということが少しよくわからないのです。技術的な点で考えればプログラムキャリングシグナルをエンクリプションすることと、理屈の上ではシグナルはエンクリプションせずにコンテントをエンクリプトして平文のシグナルで送るということがあり得るわけですね。この場合に差をつける意味というのが少しよくわからないなと。
 さらに言いますと、シグナルということを前面に押し出すのなら、同じメディアという意味では、例えばCDの板であるとかDVDの板であるとか、メモリーカードというものも同じように暗号化されて商売がされている中で、それは保護しなくていいのかというのがやはり並行的に起こってくると思うのです。ですから、やはりここの議論をするときは、放送の現状、保護の必要性と言うことは前提としつつなのですけれども、全体的なものへの影響ということも含めて検討しないと、今回の条約で横だしになる部分、上積みになる部分の影響ということがいろいろと出てくるのではないかというのを個人的な感想として思っております。

道垣内主査 ちょっと言葉使いの点なのですが、アクセス権とおっしゃるのは、ブラジルとかが言っているパブリックドメインへアクセスする権利ではなくて、アクセスを制御する権利という意味ですよね。

奥邨委員 そうです。

道垣内主査 そこを通常、アクセス権と言っているんですか。

奥邨委員 コントロール権ですね。

道垣内主査 権というかどうかはまた問題なんでしょうが。

上原委員 すいません、今、主査からお話ありましたけれども、1点整理させていただきたいと思いますのは、現在問題になっていますのはアクセス権という権利そのものの問題も元々のところにあるわけですが、アクセスコントロールを要するに技術的手段の中に認めるのか認めないのかという議論がWCT、WPPTであって、その段階では権利の根があるものということで切ったためにアクセスコントロールは結局は入れないということになったわけです。しかしながら、そのアクセスコントロールが入らないのは不自然だということで、実はアメリカやヨーロッパは、アクセスコントロールというものははっきりと書き込まれていないけれども、WCT、WPPTに基づいてこの資料にありますように、国内法改正なりあるいはEUディレクティブにつなげていったという流れが当然ございます。
 しかしながら、国際的にはアクセスコントロールはWCT、WPPTに含まれていないのかということにつきましては、今回のSCCRの放送条約の議論の中で各国が確認的に話し合いをしたところでございます。したがいまして、アクセス権の問題を打ち立てるのか、アクセスコントロールを特段にこのケースにおいて認めるというふうに世界が考えるのかという、2つの方向性がありまして、現在SCCRの中で行われている議論は、アクセスコントロールに関しては、特段に放送は実態に鑑みて今の段階で新しい条約をつくる以上は認めてもいいんじゃないかという方向が多くなっているということでございまして、アルゼンチン提案そのもののワーディングが必ずしも世界のむしろ大勢を占めているということではないと思います。これは議長が条約テキストをつくるときに途上国からの意見を取り入れていったということで書いているということでございます。
 それからもう1つ、シグナルの問題でございますが、これにつきましては、このSCCRの議論の中で、本条約の基本的なねらいは放送信号の海賊行為を取り締まるということであって、放送のコンテンツの方ではなくてシグナルの方であるということで議論が進んでおりますので、各国の条約提案の中の書きぶりもシグナルというものが前に出てきているという実態があるという流れがございます。いいか、悪いかということではなくて、そういう流れでございますということですので、そこで現在SCCRの場で議論になっておりますのは、放送の海賊をさせないためには、放送シグナルをとられるのをやめようと。それをコンテンツと混同すると逆に著作権との区別がなくなるんじゃないかという議論がSCCRではされているところでございます。

道垣内主査 今のは、番組搬送信号の暗号解除というところの説明ですね。

上原委員 そうです。

道垣内主査 これは元の権利を設定して、その上で保護を与えるという発想と、そこは置いておいて、その保護を与えるといいますか、その2通り考え方があるのでしょうが、私は全体像がよく見えていないのでわからないんですけれども、その点はいかがなんでしょうか。バランスとしてはどうあるべきなのですか。ほかの条約あるいは国内法との関係等あると思いますが。例えば、ウルグアイの提案というのは、メインは資料5の2ページにありますけれども、暗号解除に関して、暗号解除の許諾禁止権というのを書いていますよね、こういうものの話ですか。すみません、ちょっと。

上原委員 実は、スイス提案の14条で書いてありますのは、暗号解除、技術的手段の保護にかかるということでございまして、スイス提案は別途、何条でしたか別の条でやはり暗号解除権というのを設けておりまして、ウルグアイ提案とほぼ同じようなものを出しております。書きっぷりは違いますが、スイス、アルゼンチン、ウルグアイ、ホンジュラス、ケニア、ともにすべてこういう暗号解除権的なものを一応立てておるということではあります。
 ただ、議場の議論では、今主査がおっしゃったように、新たな権利を立てるというところまではちょっと議論を進めるのは、深めるのは難しかろうということで、ちょっと特例的に保護を技術的手段の保護の中に足してやるということでどうかというのが議場の流れになっているので、条約テキストではこういう書き方、そこの部分だけをパクってきた形になっているということでございます。
 この著作権関係条約の流れでいいますと、最近のものでは、やはりそれぞれの条約に対象を分けてやってきている場合には、それぞれの保護物、保護の対象に応じた特殊なプラスアルファの保護が与えられているケースがないとは言えませんので、そこから先はいいか悪いかという議論は今後あるかと思いますが、100%条約でこういうことはあり得ないというか、全く初めてのケースということでは必ずしもない。例えば、WPPTにおきましては、レコードの保護期間ですが、実演家につきましては固定後でございますが、レコード製作者につきましてはレコード発行後で起算されることになっておりまして、特段にWPPTから保護機関の起算点が変わってきております。このようなことがやはり産業実態、あるいは社会実態に合わせて、条約上、定められてきているところでございますので、そうしたことがあることが条約として極めていびつであるということには必ずしもならないと思いますが、本条約にとって正しいかどうかというのは別の議論だと思いますので、ご議論いただければと思います。

道垣内主査 どうあるべきかという点と、日本としてどういうのが望ましいのかというのはほんとうはずれない方がいいと思うのですが。はい、どうぞ、山地委員。

山地委員 この目的を考えたときに、目的をフレキシブルに達成するためにはやはりアクセスコントロール議論は避けて通れないと思いますので、日本としてアクセスコントロールの議論を排除する必要はないと思います。
 それから、技術的保護手段とか暗号解除権という言葉の問題ですが、多分それは言葉の定義、意味合いをどこまで持たせるかということによるのではないかと思います。アメリカや日本でも技術的保護手段を仮に広くとらえれば、その中に結果的に暗号解除権も含むということにもなり得るんだと思いますので、それは細かいワーディングが出てきたときでないと、多分余り実質的な議論にはならないのではないかと考えます。
 それと、アクセス権との兼ね合いは実はちょっとなかなか難しい問題だとは思うんですけれども、私としては一般的に広い意味でのアクセス権という議論は関連して出てくるかもしれないので、その場合には前にも申し上げましたように法制小委員会の議論も考慮に入れた上で議論することが必要だと思っています。
 なお、多分これは条約ですからどう決まるかわかりませんけれども、多分国内法でどの法律で対応せよというところまでは言及されないと思いますので、日本としては、いろんなことが義務化された場合にこれは著作権法でいくけれども、こっちについては別の法律でいくよという、多分そういう選択の余地は残ると私は思っていますので、それを前提に意見を申し上げております。
 それと、もう一つ、公有財産の件についてですが、これは昔から実は議論があって、日本でもいろいろ議論した記憶があります。放送以外でメディア、DVDとかCDでも同じような問題があって、パブリックドメインの公有情報が入っているのをコピープロテクトをかけたりすると見れなくなる、アクセスコントロールすると見れなくなると、問題ではないかという議論はありましたけれども、ただ、そういうことがあるから一切コピーコントロール、アクセスコントロールはだめだというのもちょっと乱暴なのであって、もしも公有情報のアクセス制限が極めて大きな問題になるということになれば、そのことを個別に救う手だてがないかという議論をした方がいいのではないかというふうに現時点では思っています。

道垣内主査 最初の方でおっしゃったことですが、条約がどうなるかというよりは、どうすべきか、日本としてどう働きかけていくのかということを議論した方がいいと思うんですが、そうしますと今おっしゃった法制に関する委員会が別に動いているので、そちらで日本の方向が決まった上でのことだと、そういうご趣旨でしょうか。違いますか。

山地委員 アクセス権一般の議論は多分もっと広い議論だと思うんですが、この放送条約に限定すれば、もうちょっとしぼった議論になると思うんですがね。それはそれでもう放送条約対応として議論は進めざるを得ないと思うんです。そうしませんと、日本はちょっと出遅れて意見を言うことができなくなってしまうので、それはそれでちょっと問題だろうと思います。ですから、放送条約に限定された範囲内でアクセスコントロールの議論をとりあえずしていただいておいて、様子を見て必要であれば、至急法制問題小委員会の方でも、放送条約におけるアクセスコントロールの議論を横目でにらみながら、日本としてアクセス権はどうあるべきかという議論をしなければいけないのではないかと思っています。

道垣内主査 その点について、できれば山地委員のお考えをお示しいただければ。ご議論いただきたいじゃなくて、議論を山地委員にしていただきたいのですが、いかがでしょうか。

山地委員 アクセスコントロールの内容でございますか。

道垣内主査 というか、権利を設定するというのがどうなのかと。日本は今検討中ということに括弧書きで書いてありましたけれども、委員のご意見の集約を参考に日本の立場を決めていくことになると思いますので。

山地委員 日本は既に放送ということではないわけですけれども、アクセスコントロールの議論はアクセプトして、アクセスについては著作権法で、対応するのは問題が多いということで不正競争防止法に入れたわけでありまして、そういう意味では、考え方としては、それは日本はアクセプトしていると思います。それで、そういうことを踏まえた上で、放送という媒体、メディアを考えたときに、暗号ないしアクセスコントロールという概念を入れなくても、実効的なプロテクト、放送の保護ができるのかどうかという観点になるだろうと思います。そうすると、現状を考えますと、やはり資料にも書いてありますようにWOWOWを初めかなりの放送が現実に暗号化を始めているわけでありまして、ということは業界として暗号化は避けられないということなんだと思います。したがって、そういうものに対してある程度規制を加えていくというのは避けられない方向だと私は考えております。

道垣内主査 ありがとうございました。ほかの委員、はい、どうぞ。森田委員。

森田委員 議論が十分理解できていないかもしれませんので、ちょっとその点を確認したいと思います。先ほどの資料5の2ページの表の見方について上原委員から説明がありましたけれども、ここでの対立点というのは、この技術的保護手段とは別に暗号解除条項というのを書き分けるのか、書き分けないかという違いだけであって、書き分けないという立場の国も技術的保護手段の中に暗号解除条項というのが含まれるという理解でよいということなのでしょうか。アメリカは、国内法ではそういう形で運用しているので、だから暗号解除条項が技術的保護手段の中に含まれるかどうかという点が問題になりますが、それは暗号解除条項を別に書き分けるかどうかが問題になっているだけだとしますと、いずれにしても暗号解除条項を含めるという結論自体については大勢は定まっているようにも聞こえたんですけれども、そうかどうかという点が一つであります。
 それから、その点とは別に、それによって保護される権利としてアクセス権とかアクセスコントロール権という権利の設定が必要かどうかということですが、権利の設定せずに技術的保護手段とか暗号解除条項だけを保護するとどうなるかを考えてみますと、これは権利を設定しなくても反射的に権利があると同じことになるとすると、多分結論には影響を及ぼさないようにも思われますが、他方で、この条約提案の16条の文章を見ると、「この条約に基づく権利の行使に関連して当該放送機関が用いるものに関し」というような限定があって、何か権利があることが前提となって、それに対して権利を守るためのプロテクションについてはというような書きぶりになっているようにも見えるので、その条約の読み方としては、そもそももととなるアクセス権みたいなものがないのにここだけ膨らんでいるという読み方ができるのかどうかという点がわからないものですから、その2点についてちょっと教えていただきたいと思います。

上原委員 長い間の議論でございますので、順にご説明させていただきたいと思います。
 まず、暗号解除権を出すのかあるいは技術的保護手段の中に含めるのかという議論につきましては、基本的には当初、理論的には暗号解除権をつくった方がすっきりするということで、各国暗号解除を認める国は自分のところの条約提案で入れたところでございますが、全体の議論の中では、別の権利を設けることについてはややちゅうちょする向きもあるけれども、実態を勘案して何らかの保護を与えることに関しては必ずしも反対ではないという大勢から、大勢で決定ではありませんけれども、大勢といたしましては技術的保護手段の中にインクルードして特段に保護を与えたらどうかという方向になっているという状態ということでございます。決定とかということではございません。
 それで今、お尋ねのこの条約の読み方ということになるんですが、実はこの条約のテキストというのは、まずいわゆるベーシックプロポーザル、基本条約提案ではございませんので、各国の条約をまとめたものでございますので、継ぎはぎ条文になっておりまして、全体としての整合性がとれておりません。したがいまして、アルゼンチン提案の特別条項をわざわざ持ってきて、いわゆる技術的手段の保護の第2項というふうに入れておりますので、森田委員のご懸念、あるいは先ほどの奥邨委員のおかしいというのが出てきたと思うんですが、つまりアルゼンチン提案はもともと自分のところの提案の中に暗号解除権を設けておりますので、この書き方で齟齬がないわけです。ところが条約テキストをつくったときには、今の議論の大勢の流れを受けまして、暗号解除権は特段設けずに技術的保護手段の中で丸くくくりましょうということにしておきながら、アルゼンチン提案だけぽこっとワーディングを持ってきたために、読んでいて違和感があるというか、矛盾点があるということになります。
 したがいまして、今のこのままでベーシックプロポーザルがつくられるということになるならば、例えば第1項の規定にかかわらず放送信号のあるものについては、特段にこれに対する技術的保護を与えるというような書き方をするとか、あるいは第1項の保護の中に若干の工夫を加えるとか、そういうことになろうと思いますので、その辺のワーディングの整理が全くできていないために、条約テキストを頭から順にお読みになりますと、理論的には完全に矛盾した、破綻したものになっているんだという前提でお読みいただきたいと思いますので、その辺よろしくお願いします。

森田委員 16条のアルゼンチン提案を入れないとして、(1)だけ残ったという場合でも、ここで言う「技術的手段」の中には暗号解除条項的なものが読み込めるという、そういう理解であって、なおかつ「この条約に基づく権利の行使に関連して」というのは、あくまで関連してであって、権利そのものを守るんじゃなくて、権利の行使に関連するところまで膨らんでいてもいいんだと、そういう読み方であるとすると、アルゼンチン提案を入れなくても暗号解除条項に相当するものは入っているということになるのかどうかというのが、先ほどの質問なんですけれども。

上原委員 失礼いたしました。アメリカは読めると言っております。アメリカはWPPTでも読めるから、DMCAでつくったんだと主張しております。したがってアメリカは一切そういう条文を入れる必要はないと言っております。ただし、議論の中でWPPTと同じ書きっぷりでは読めないということで幾つかの国が話をし、議長がそういうことですねと言ったものについて特段の反対がなかったところから、議長の考え方としては1項だけでは読めないというのが大勢なので何か入れてやらないとだめだよねというところから、こういう継ぎはぎ的な条約テキストになっているということでございます。

道垣内主査 日本の解釈もそうなのですか。文化庁にお聞きしますが。

事務局 日本はWCT、WPPTで受けた国内法の改正において、厳格にとらえています。第2条の技術的手段においては、条約を受けた権利を保護する場合に限定しておりますので、今のアクセスコントロールについては入らないという認識です。アメリカとの協議の中ではアクセスコントロールも入りうるとアメリカは主張していますが、大勢は本16条の第1項だけではアクセスコントロールは読めないと認識しています。

道垣内主査 ありがとうございました。森田委員、どうぞ。

森田委員 不競法の技術的制限手段の改正のときに私も若干関係していましたので、不競法はそこを全部カバーしているという点ですね。問題となるのは、例えば個人がWOWOWのデコーダーを用いずにスクランブルを解除するような機械を買って見ているときに、その個人の行為が違法行為になるのかどうかという点ですが、その点は不競法改正のさいにも議論しましたけれども、そのような個人の行為はもともと違法な行為であって、それを幇助するような手段を与えるものについても違法になるというような関係にあるのであって、正犯共犯のような関係に立つんだから、技術的制限手段を解除する個人の行為も違法であることが前提になるんだという考え方と、個人の行為はそれは違法とはいえないけれども、しかしそういう行為を幇助するような手段の提供を業として行うことが違法性が高い、つまり、正犯はいいけれども共犯だけは違法だというような考え方もあり得ると主張される方もいて、議論したんですけれども、不競法そのものは、個人を対象としていないので、この点は規定していないのですね。ですから、入っているかどうかということもアクセス権を設けることによってだれのどういう行為を規制するかというのは権利を想定してしまいますと個人の行為まで必然的に及んでくるということになり得ますので、日本の状況としては及んでいるか及んでいないかというのも、不競法まで入れますとある種の業として技術的制限手段の解除装置を提供するようなことを行う者については不競法でカバーしているという言い方ができると思いますが、そこで落ちているところまで含めるかどうかという点が違うんだと思います。

道垣内主査 ありがとうございました。
 ほかの観点からこの点についてございますでしょうか。十分に方向性が見えたという気もしませんけれども、いかがでしょうか。特に放送に携わっている方におかれましては何か、上原委員とは違うご意見があればお伺いしたいと思いますが。

石井委員 非常にここは難しいところでして、それぞれの放送局の置かれている立場によっても微妙に考え方が違ってくることではないかと思います。特にスクランブルを行っている商業放送については絶対必要な条項だと思いますし、どちらかというと国民のみなさんに情報を伝えるということが一つの使命になっております公共放送においては、それほど変わることもないというような面もあるのではないかと思います。そういうところを考えまして、私個人としてですけれども、確かに放送界全体としてはアルゼンチン提案といいますか、具体的な暗号解除条項というのがあった方が望ましいし、それは今後議論していくべきことだと思うんですけれども、一方で途上国が、公共財へのアクセスそのものに対する懸念というものを表明しているこの状況におきまして、非常に抽象的というかあいまいな言い方になりますけれども、ある種の妥協といいますか、そういうものが必要ではないかと。具体的に言いますと、必ずしもここに強くこだわって条約全体の方向性が失われるよというようなことは避けなければならないのではないかというふうに考えております。

道垣内主査 ありがとうございました。
 どうぞ、田嶋委員。

田嶋委員 昨年度の著作権分科会の報告書を見ますと、総論では、暗号解除の行為に対して何らかの措置が講じられる必要があるのだということを明確に書いていただいております。この方向性を受けて、本日は、それを著作権法で採用する場合に技術的保護手段を講じるという方法をとるのか、あるいは暗号解除権を付与するという方法をとるのかということで議論がなされているのだと思います。実際にジュネーブに出かけていってのWIPOの議場の雰囲気は、上原委員、石井委員がおっしゃったとおりで、そのなかで、条約を早く成立させることと中身のバランスをどうとっていくかに苦労しておりますが、世界的な状況がスタックしておりますので、毎回の常設委員会でそれが変わっております。地上デジタル放送が始まり、コピー制御と暗号化を併用しておりますので、民放事業者にとりましても大事な問題ですが、アルゼンチン提案をどう評価するのかという点については、現時点ではなかなか判断が難しい、というのが、正直なところです。

道垣内主査 わかりました。要するに、全体に早く進むのであれば、これをなくすことによって、そうであればこだわらないけれども、入れてもすうっと通るのであれば入れた方がよいということでしょうか。

田嶋委員 あっても早く進むかもしれないという状況があるものですから、そこの組み合わせだと思っています。

上原委員 よろしいでしょうか、関連ですけれども。
 今、田嶋委員がおっしゃったことと同じことを言わさせていただきますと、要するに現在スタックしている状況の基本は、サブスタンシャルな議論に根差しているものではなくて、政治的領域に根差しているものでありますから、難癖をつけられている一つ一つについて、外せば前へ進むかというと外しても進まないということもあるでしょうから、政治状況が破れたときに進められるものと進められないものとを振り分けていって作業していくしかないんじゃないかというふうに考えております。そういう意味で言いますと、どうしても進まないのであればそれにこだわるのかというのは別問題でありますが、ここの問題はむしろためにされている議論のところがかなり多いようにも思いますので、これがあるから進まないというものにも必ずしもなるのかなというふうに、必ずしもならないんじゃないかなというふうに思っているところでございます。

道垣内主査 わかりました。
 時間の関係もございますので、先ほど少し山地委員が触れてくださいましたけれども、16条1項だけに関係すると思いますが、これを削除したらどうかというブラジルの意見に基づいているパブリックドメインへのアクセスが過度に妨げられる虞はないのかと。このような懸念は日本についてはないのか、日本国内ではないのかということを、もしないのであれば、ブラジルに対してどういうふうに説明をしていって納得してもらうのかという点について、どなたかご意見ございますでしょうか。
 ここで言っているパブリックドメインというのは放送された中身が、よそからとってきたものという意味ですか。

事務局 例えばニュースだとかですね、要は著作物でないものを放送で流すときに、技術的保護手段を講じたときに、それへのアクセスができなくなってしまうことを想定しています。

道垣内主査 ふつうのパブリックドメインというのとはちょっと違いますね、ほんとのところは。だれかの特別のお金がかかって努力の成果ではあることは確かで、著作権の保護が与えられないという意味でのパブリックドメインですか。

事務局 そうです。

上原委員 というか、権利切れの映画みたいなものですね。

道垣内主査 古い映画。わかりました。それについては、日本ではそうは言っても保護は必要でしょうと。それ以上の説明はないのでしょうかね。

上原委員 一応、WIPOのSCCRのひらばの、正式の会議の場ではないところで私どもが説明しておりますのは、基本的には放送信号というものの保護で、海賊行為を止めるということです。これはあくまで乗り物であって、中に乗っているモノの権利とは関係していない。したがって、その乗り物ごとパクらないということであって、中身を扱うのはそれは別な話ですよと。たとえば、レコードにおきましても、現在、レコードでも中で使っている音楽はパブリックドメインになっているものがあり、さらに言えばWPPTにより実演もパブリックドメインになっているものがあります。しかしながらレコード製作者の権利は残るという事態が起こってきているわけでございまして、じゃそれが公衆のいろいろな問題に大きな影響があるのかということでありますと、必ずしもそうではないだろうということと、逆に、これはあくまで古い映画というようなものを考えますと、古い映画というようなものであるならば、これは著作権法的にはパブリックドメインになっているわけですが、それを例えば物理的に放送にかけよう、ビデオにしようといった場合には、原盤の保持者から物の許諾を得ないと使えないわけでございます。これをパブリックドメインのものを放送したら、それをだれでも勝手に売れるということになると、当然にしてその物の保持者は放送に出さないということになると、逆に放送というものを通じてパブリックドメインのものでも広く、少なくとも私的複製の範囲と直接視聴の範囲においてはそれに皆さん接することができるのに、それをむしろ阻害する要因にもなりますよという部分については、一応議場なりロビー等でご説明しているところではあります。

道垣内主査 ありがとうございました。
 まあ理屈は一つ通っているのだと思いますけど、理念的な話ですので、法律の専門家のお立場から著作権法全体を見渡せるご専門の方というか、そういう方からいかがでしょうか。

上野委員 全体を見渡せる能力はまったくございませんが、それではわたくしの方から一言申し述べさせていただきます。たしかに、ブラジル提案が述べているように、もしアクセスコントロールの回避行為自体に関しても放送事業者の保護を認めてしまうと、公衆がパブリックドメインにアクセスすること自体が阻害されてしまう事態が生じるかも知れません。しかし他方では、先ほど上原委員からもご説明がありましたように、放送事業者を保護しなければ、パブリックドメインのコンテンツを提供することが事実上できなくなってしまうかも知れません。だといたしますと、むしろ放送事業者を保護した方が、逆に、公衆がパブリックドメインにアクセスする機会を促進することになるというような考え方もあるかも知れません。
 ただ、放送に関しまして、先ほど上原委員からご説明がありましたような特殊性が本当にあるのかどうかということは検討していかなければならないと思います。そして、もしそのような特殊性が本当にあるというのであれば、技術的保護手段を通じた対応というのではなくて、むしろ新しい権利として認められるはずなのではないかと思われます。
 もちろん、保護すべきかどうかの判断は立法政策の問題ですから、わたくし自身が現時点で何かはっきりとした確信を持っているわけではございません。ただ、仮にそのような立法的対応をするということになりますと、次の2点が問題になるように思われます。
 第一に、どのようにして放送事業者と他の主体との平仄をとるかの問題であります。これは、著作隣接権の中でも問題になりましょうし、著作権法全体の中でも問題になりましょう。放送だけは特殊性があるということをどのようにして正当化できるかが問われざるを得ないように思うわけでございます。
 第二に、もし新しい権利を設けるわけではないけれども技術的保護手段を通じた対応をするという立法的対応をおこなうことになりますと、そもそも権利の内容に含まれていない行為について技術的保護手段を通じた保護を与えるということになります。これは技術による著作権法のオーバーライドを、法が承認ないしは支援するということを意味することになります。したがいまして、そうした立法をおこなう場合には、これによって一体どのような波及効果が生じてくるかということをあらかじめ検討しておく必要があるのではないかと思われます。

道垣内主査 ほかに。ほかの方はよろしゅうございますか、この点は。ほんとに議論すると尽きなくなるかもしれませんが。
 それでは、時間の関係もございますので、次の点に入らせていただきたいと思います。
 権利管理情報に関する措置で17条に関するところでございますが、この点はいかがでしょうか。特に日本では大きな問題はないところなのでしょうか。
 時間の関係もありますので、もし必要あればまた戻っていただいて結構ですので、次の利用可能化権の付与、それから再放送権の付与、これをあわせてご議論いただければと思いますが、この11、12が中心なのでしょうか。ここについては何かご議論等ございますでしょうか。
 はい、どうぞ。

上原委員 3点目のところも一緒にという話だと思いますので、再放送権の同時・異時への拡大につきましては、ローマ条約制定当時は、いわゆる簡易な録音・録画による放送ということが想定されておりませんでしたので、現在ではどなたも家庭で簡単に録音とかができるという状況から、異時のものが入っていないということは、実態上、ローマ時代には特段考えておらないけれども、現在では当然その状況を考えれば必要だということで、広く各国のご理解をいただいているところでありますし、放送事業者としてはぜひお願いしたいというふうに思っているところであります。
 問題は、日本独自でかかわる再放送から再送信への範囲の拡大ということと利用可能化権の関係性の問題だと思います。これにつきましては、我が国の立場といたしましては、基本的にはウェブ上に出すものにつきましてはmaking availableで対応する。これは生のものもそれから固定物を介するものもという考え方で、ウェブ以外のものにつきましては、いわゆる日本の放送と同様に放送権なり有線放送権、条約提案の言葉を使えばCommunication to the publicとなっておりますが、で対応するという日本の条約提案をしておりまして、この方式が一番現在考えられる限りでは合理的だろうというふうに考えております。
 と申しますのは、再送信権でカバーをした場合には、まず第一には、先ほどの資料の中でややこしいのは、ややこしいというのは、実は条約的にはややこしいんですけれども、8ページのところの表の左側に生放送のアップロード、固定された放送のアップロードと書いてありまして、日本から見ればアップロード権と書いてありますのでアップロードの分類になるんですが、EUやアメリカや条約テキストの立場から言うと、このtransmissionあるいはretransmissionの中に、あるいはcomputernetwork retransmissionの中に、いわゆるWCTが想定しているように公衆への送信権の中に自動的にmakingavailableの権利が含まれているものだという提案になっているのかどうかにつきましては、定義についての吟味並びにその意味についての議論はSCCRで一回も行われておりませんので、不明のところでございます。
 しかしながら、再送信ということで放送を受信してそれを放送、有線放送で流すとき以外の、つまりウェブ上で流すものをも含めた場合、その再送信の主体となるものがまず放送事業者に限られてしまうというところから、ウェブに流れるところこそさまざまな個人がやるところでございますので、それではちょっといささか私どもとしては困るという点が1点ございます。
 それともう1つは、もしこれで再送信、コンピュータネット上での再送信というようなことでとらえるということになった場合に、それは放送事業者が行うというのが全部の前提になっておりますので、そうするとじゃウェブ上に放送を流して、流している中の人間のうちどれが放送事業者なのか、つまりわざわざウェブキャスティングを論議から外していこうとみんなが言っている中で、もう1回ウェブキャスティングとは何かという論議に戻らなければならなくなるという問題点を含んでいるところから、日本提案のように整理していかないと、実はウェブキャスティングを排除できない。ウェブキャスティングのややこしい論議を排除できないということに事実上なっていると思いますので、ぜひとも日本提案の方向で頑張っていただきたいというふうに考えております。

道垣内主査 私もそこがよくわからなかったので、そこがこんがらってくるんですね。はい、わかりました。どうぞ、森田委員。

森田委員 どう仕分けをするかという点、どういう違いが最終的に出てくるかという点が重要になると思いますけれども、そこがちょっとわからないので質問させていただきます。この2条の定義で、放送機関というのは、これはコンピューター・ネットワーク上で送信をする行為を行う者は入らないということなのか、入るということなのかというのは、(a)の「放送」の定義はそれに関することが書いてあるんですけれども、(b)は、法人でない個人は除かれますけれども、法人であれば公衆への送信を行えば放送機関であるように見えます。この読み方というのは今の点、先ほど違いとして第三者の再送信が入ってくるかどうかで、放送事業者でない者が行った場合にカバーされないんじゃないかという問題点が指摘されたんですけれども、結局その第三者が放送機関かどうかというのはこの定義によるんだと思うんですが、今のアップロード行為ですね、これはどうなるのかということについてちょっと教えていただきたいと思います。

道垣内主査 上原委員。

上原委員 ここは、実はそういう意味で言いますと先ほど申し上げましたコンソリデーティッドテキストで寄せ集めになっているために整理がされていない部分というふうにお考えいただくのが全く正直なところでございます。つまり、もともとアメリカ提案では、ウェブキャスティング、ケーブルキャスティングというのがブロードキャスティングと並んで3パラで出ておりまして、それに対してブロードキャスター、ケーブルキャスター、ウェブキャスターというのはほぼ同様の決め方をされていたところでございます。それをウェブキャスティングを外してというか、代替案にしていったために、全体のバランスが見えにくくなったと。そのために先ほど私が申し上げましたようにコンピュータネットワーク上の送信を再送信する者を再送信権でとらえてそれを放送機関が行うといった場合、放送機関とは何なんだという議論が、実はこの条約テキスト上からもう既にすべり落ちていて、将来必ず出てくる問題だという状況に今なっているという構造でございます。

道垣内主査 最後は、そこはウェブキャスティングの話を全体として条約に切り出すということになれば整理されるということで、ただそうすると、この再放送から再送信への、と言っている議論もウェブキャスティングに入るという前提の人たちの議論も中には入っていて、そこの整理もないということですか。こんがらがらして構わないと思っている人もいるというお話でしょうか。どうぞ。

事務局 まず、放送、有線、ウェブキャスティングは今どういう切り分けになっているかといいますと、放送は無線です。有線は有線になっていて、ただウェブキャスティングも有線なので、それとの差を設けるためにコンピュータネットワークを外すという規定が今有線の中に入っています。次に事業者、機関というのは何かというと、ぞれぞれの事業を行う法人になっていまして、個人は今回入っていません。そうしますと、この再送信権というのは何かというと、放送機関による他の放送機関のあらゆる手段での送信行為ですので、放送機関、今の条約上はその伝統的な放送事業者が行う場合にのみに限っていますので、個人あるいはその第三者がウェブ上に流す行為は再送信の対象からは外れています。

道垣内主査 ただ、その伝統的かどうか、しかしこの放送機関の定義に入りさえすれば法人であればだれでもなれるということですか。

上原委員 そこは整理がきちんとされていないと思います。今回の放送条約の「放送」とは何かといったときに、放送及び有線放送とするかもしれません、将来的に。ただし、今の条文の案では「放送機関」と書いてあって、放送機関とは何かといったら、2条の(a)の「放送」を受けた放送機関と読めますので、それは伝統的な放送事業者というふうに、条約上素直に読むとそういうふうに読めます。

道垣内主査 森田委員、それでよろしいですか。

森田委員 私が知りたかったのは、再送信で読めると言っている方々は、それは今の言った点は除くということを自覚的に伝えた上で議論しているのか、それともそこは困るかもしれないということで、ただその整理があるだけなのかという点が聞きたかったことですから、実質的な主張の違いがあるのか、単に切り分けの違いに過ぎないのかという点が私の質問の趣旨です。

道垣内主査 その点はいかがですか。上原委員。

上原委員 私自身が議場で聞き、あるいは外で話をしている限りにおいては、まだそこまで、テキストの段階までまとめていって、ここまでまとまったから本質的な問題点を整理して前へ進めようねというのに邪魔が入っている状況ですので、実はそうした深い議論のところをすると、こことこことが矛盾があるじゃないかという話をすると前へ進まなくなるので、前へ進めたいところは言わない。前へ進めたくないところは、別にそんなところに関係なくもっとほじくれるところでほじくるという議論をしているために、森田委員がおっしゃったところから言うとまだ十二分に意識されないままに未整備のものが出ているということで、その整理は恐らく外交会議開催への道が開かれてベーシックプロポーザルがつくられる段階ではそれなりに整合性を持たさないとできませんので、そこで大きな問題点になろうかと思っております。

道垣内主査 最初に上原委員がおっしゃった、今の段階で条文の言葉を云々しても始まらないというのは、そのような状況にあるからですね。わかりました。
 ほかの方いかがでしょうか。この点。どうぞ、増山委員。

増山委員 非常に複雑な問題でございます。この問題を考えるときに、条約テキストにあった用語の定義と現時点わが国提案の権利付与の範囲をもう一度確認することが非常に重要だと思います。我が国提案は、基本的にはWPPTとのバランスを考慮し、放送のネットワーク送信については、放送事業者に「送信可能化権」しか付与しない、つまり、生または固定された放送のアップロードのみをカバーします。ネットワーク送信の部分については、決して権利付与を提案しておりません。従って、わが国提案にあった「公衆への伝達(communication to the public)」という用語は、WPPTのそれと同様の意味をもっており、即ち、放送及びネットワーク送信以外のあらゆる媒体による送信、例えば、同時又は異時の有線放送やテレビ放送の公衆への伝達等をカバーすることになります。このアプローチは、WCT第8条でいう「公衆への伝達権(Right of Communication to the Public)」と明らかに異なります。WCT第8条は、送信可能化を含み、有線又は無線の方法による著作物のあらゆる公衆への伝達をカバーしますので、当然ネットワーク送信についても権利が及びます。
 一方、放送条約テキストでは、「放送の同時再放送、同時有線再放送及び同時ネットワーク再送信」は、第2条(d)でいう「再送信(retransmission)」という概念でくぐられており、また、条約テキスト説明の第11.02文によると、「放送固定物を用いる放送、有線放送及びネットワーク送信」、即ち、放送の異時再放送、異時有線再放送及び異時ネットワーク再送信は、第11条「固定物を用いる送信に関する権利(Right of Transmission following Fixation)」の対象とされています。この他、第12条の「放送固定物の送信可能化権(Right of Making Available of Fixed Broadcasts)」やローマ条約第13条でいうテレビ放送の「公衆への伝達権(Right of Communication to the Public)」(第7条)に関する提案も用意されております。条約テキストを見る限り、「(放送の同時)再送信権」や「固定物を用いる送信に関する権利」それに「放送固定物の送信可能化権」または「公衆への伝達」と、条文の規定ぶりこそ別々となっているが、権利付与の内容はWCT並の非常に幅広いものが提案されているように思います。
 配布「資料5」の7ページと8ページに表がございますが、この整理の仕方は我が国の提案に沿った形で整理されているかと思うのですが、厳密にいえば8ページのこの表の一番下に、わが国提案には無かったが、EU等が提案する「固定された放送の異時のネットワーク送信」という部分があります。EU案やアメリカ案それに条約テキストを素直に読みますと、実はこの部分は、第11条「固定物を用いる送信に関する権利(Right of Transmission following Fixation)」によってカバーしようとしていることが分かります。そういう意味では、用語の定義あたりをきちんと整理しないまま議論をすると、内容がかなり錯綜して、ますます混乱になってしまうのではないかと思います。

道垣内主査 ありがとうございました。
 それでは、まだご意見おありかもしれませんが、最後の禁止権の付与につきまして、いかがでしょうか。
 はい、どうぞ、上野委員。

上野委員 アメリカが主張しているという許諾権と禁止権の区別につきまして、私はかねてからこの区別に一体どのような意味があるのかという疑問を持っております。
 と申しますのは、排他的許諾権として規定いたしました場合、権利者は他人に対して許諾できる権限があるわけですから、権利者は許諾を得ていない者の利用を禁止できる権限を有しているということになります。他方、禁止権として規定いたしました場合、権利者は他人の利用を禁止できる権限があるわけですから、ある無権限利用行為を禁止しないことにより、――もちろん禁止しない自由が権利者に認められている限りにおいてではありますが――、権利者は他人の利用を許諾する権限を有しているということになります。ですから、この区別には実質的な意味がないように思われます。
 ただ、あえて申しますと、許諾権として規定する場合に比べて、禁止権として規定する場合においては、権利者が他人に利用を許諾することが通常予定されていない、というように考える可能性はあるかも知れません。例えば、やや文脈は異なりますが、著作者人格権の一つである同一性保持権は、ドイツなどでは改変禁止権と呼ばれておりますけれども、ここでは、著作者の人格的利益を害するような態様で他人が自己の著作物を改変することを著作者自身が許諾するというようなことは通常想定されていないように思われます。ですので、これは改変許諾権ではなく、あくまで改変禁止権と呼ばれているのだと考えることができるかも知れません。そのような点に許諾権と禁止権との違いがあるといたしますと、今回の問題につきましても、もしかするとそのような考えが背景にあったのかも知れません。
 そのような観点からいたしますと、アメリカが「本条約の意義を海賊版対策ととらえている」と述べていることが、より理解しやすくなるかも知れません。また、許諾権として構成する方が放送機関による二次利用の促進につながる、というわが国の立場も整合的に理解できるかも知れません。
 しかしながら、仮にそのように考えたといたしましても、権利者は他人の利用行為を必ず禁止しなければならないと強要されるのでない限り、権利者には禁止するかしないかの自由があります。したがいまして、結局は、ある他人の一定の利用について禁止しない、すなわち許諾することができるということになります。そうだといたしますと、禁止権として構成するか、排他的許諾権として構成するかによって、実質的相違が生じるものとはやはり考えにくいように思われるわけでございます。
 それでもなおアメリカが許諾権と禁止権という書き分けにこだわるというのでありますと、その背景に一体どのような考えがあるのかというのが気になるところであります。この点に関しまして、もし何かご存じでしたら、差し支えない範囲でご教示いただきたいと思います。

道垣内主査 私はもう1点だけ、追加の質問ですが、これはexclusiveが入っているのと入っていないのとで何か意味が違ってくるのかについても一緒にお答えいただけたらと思います。

上原委員 アメリカの問題につきましては、私がとりあえず、アメリカがアメリカ提案をつくっている段階でアメリカのその放送事業者からいろいろな情報を得たという範囲の中で伺いました議論を知っている限りについて申し上げますと、いわゆる背景ということにつきましては、実はアメリカが条約提案を行うに当たって、ご存じのように各団体とのヒアリング、話し合いをして決められていくわけですが、レコード業界を中心といたしまして、放送だけが先に進むことは認められないと。少なくとも放送はレコードの条約の権利と同じかそれ以下であるべきだという強い主張が団体から出されて、その結果といたしまして、要するにこのような固定物を介したさまざまな権利につきましては、海賊行為ということであるならば何もここでは許諾権じゃなくてもいいだろうという、非常にその法的な効果を考えたということではなくて、政治的な一つの妥協とそれからいわゆる各団体間のバランスをアメリカ国内でとるための一つの便宜策として出てきたというふうに聞いております。
 それにつきまして、一体禁止権に何の意味があるのか、許諾権とどこが違うのかということにつきましては、アメリカの放送事業者が激しくアメリカ政府に対して迫ったところでありますが、それにつきまして具体的に法的なきちんとした解釈が出てきているという状態ではないというふうに聞いております。したがいまして、大きなバックグラウンドとしては、あくまでそうした範囲の中でのアイデアとして出されているものということで取り上げていただければいいのではないかと思います。
 したがって、議長の条約テキストの第2弾の提案の中に、要するに各国はどっちでも選べるよというのができて、アメリカがそんなにこだわるならそっちでアメリカだけとったらというやり方をしてみたらどうだろうという意味で、さらに条約上の政治的妥協というのを議長の方から提案しているという状況でございます。
 なお、exclusiveがついているのとついていないかにつきましては、これもアメリカの議論の中では明確なそれについての、こういう論点でつけるとかつけないかという話は、最終的には出なかったというふうにアメリカの放送事業者からは聞いております。

道垣内主査 ありがとうございました。
 日本提案がor prohibitをつけていないのは、格別な理由はあるのですか。

事務局 他の条約ではexclusive right to authorizeを許諾する権利としています。EUはprohibitを明記していますが、我々はauthorizeの中に禁止権を含むと考えていますので、あえてそこは入れていません。

道垣内主査 趣旨は同じですね。

事務局 はい。

奥村委員 今の点について、上原委員にもうちょっと教えていただきたいのですが、アメリカでは、放送機関の権利はレコード並みというか、レコードに優越することを許しませんよという内部的ないろいろと圧力的なものがあるとのお話でした。とすると、アメリカは、この条約が決まった際には、著作権法で放送をレコードと同じように位置づけていくというニュアンス込みなのでしょうか。アメリカが折れやすいかどうかということが一つのポイントなのかなと思いましたので、その辺どういう意見を持っているのかなというのを教えていただければと思ったんですが。

上原委員 これはあくまで私の理解というふうにとらえていただければと思います。非常に難しいお尋ねです。私が知る限りにおいては、アメリカ政府部内では、基本的には現在条約で議論されている大多数のことはアメリカの何らかの法律でほとんどカバーされているというふうにアメリカ政府は考えておりまして、そういう意味で、何も著作権法をすぐに改正しなければいけないという論点だというふうには大きくとらえていないというところがあります。なおかつ、著作権法を改正しなければいけないような論点については、基本的に強い支持があるものについてはそうしたものを積極的に打ち出していく意味がある。例えば放送と一緒にウェブキャスティングというものを条約の中に入れるというようなことは当該団体から強い要望が出ているところでありまして、そうすると、それを条約上の話に入ってくると現在いろいろな法律で手当されている放送と同等に3パラで認めましょうということを条約を受けて法の解釈運用でやっていくのか、あるいは法律改正をするのかというのは、アメリカはよく解釈運用でやっていきますのでわかりませんが、そのようなことで考えておりますので、アメリカ自体としては大きく国内法を変えなければいけないという前提でいろいろな調整を必ずしもしているのではない。ですから、この辺はさらに議論がつまってきて、条例の書きっぷりによってどうしても国内法を変えないとまずいぞという事態が入ってきたときには、アメリカは極めて厳しい対応をしてくるものと思われますが、現段階では比較的スピーチ等でも緩いスピーチをしているというのは、そういう今のところ状況にあるということだと思っております。

道垣内主査 ありがとうございました。
 まだご議論足りないかもしれませんけれども、そろそろ時間になっておりますので、このあたりで本日の国際小委員会を終わらせていただきたいと思います。どうもご協力ありがとうございました。
 最後に事務局から連絡事項等についてお願いいたします。

事務局 どうもありがとうございました。
 次回の会議の日程につきましては、既にご案内申し上げたとおり、来年1月19日水曜日の10時半から、場所は本日と同じこの三田共用会議所で行いたいと考えております。
 昼食を用意しております。恐れ入りますが別室にて昼食をとっていただくことになりますので、お時間のある方は同じ階の三田ルームまでご移動をお願いいたします。
 ありがとうございました。
午後 0時30分開会


(文化庁長官官房国際課)

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