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資料5

放送条約テキストに関する参考資料

1.技術的手段

1. WCT、WPPTにおける議論
(1) 条文の趣旨
 技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める旨規定(WCT第11条、WPPT第18条)。コピー・プロテクションなど、著作者あるいは実演家またはレコード製作者が自らの権利を守るために施した技術的手段を無効化し、無断複製等を行いうるようにする行為を規制する趣旨で設けられた。条約策定の議論の中で、アクセス・コントロールに係る措置は技術的手段には当たらないとされている。

(2) 具体的な規定
WCT第11条】技術的手段に関する義務
 締約国は、著作者によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその著作物について実行されることを抑制するための効果的な技術的手段であって、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の行使に関連して当該著作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。

WPPT第18条】技術的手段に関する義務
 締約国は、実演家又はレコード製作者によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその実演家又はレコードについて実行されることを抑制するための効果的な技術的手段であって、この条約に基づく権利の行使に関連して当該実演家又はレコード製作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。

(3) 条約締結を巡る議論
 WCT、WPPTでは、当初、「技術的手段」の違法とすべき対象行為について詳細な内容となっていたが、米国関連企業を中心とするグループの反発で最終的には上記の規定となった。このため、措置の対象、内容については各国の判断に委ねられている。

2. 暗号解除に関する各国の提案

日本: 国際的な議論を踏まえて検討
米国: 「技術的保護手段」において適切に救済策を講じる
EU: 不要

各国提案比較)
  技術的保護手段
  暗号解除条項
日本 規定あり
(更に検討)
スイス 規定あり 規定あり
アルゼンチン 規定あり 規定あり
EU 規定あり 規定なし
ウルグアイ 規定あり 規定あり
ホンジュラス 規定あり 規定あり
アメリカ 規定あり 規定なし
ケニヤ 規定あり 規定あり
エジプト 更に検討 更に検討
シンガポール 規定あり 規定なし

スイス提案】
第14条   暗号化された放送の詐欺的暗号解除のための装置の製造及び販売に関する義務締約国は、その構成部分又はデータ処理プログラムが暗号化された放送を詐欺的に暗号解除することに役立つ、又はそのような目的に使用される装置の製造、輸入、輸出、輸送、販売又はインストールに対して、これを禁止するとともに、効果的な法的救済を定めなければならない。

ウルグアイ提案】
第11条   暗号解除権
放送機関は、その放送の暗号解除を許諾あるいは禁止する排他的権利を享有する。

アルゼンチン提案】
第8条   技術的手段に関する義務
締約国は、放送機関によって許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為が、その放送について実行されることを抑制するために放送機関が施した効果的な技術的手段であって、この条約に基づく権利の行使に関連して放送機関が用いうるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。
特に、法的救済は以下の行為を行う者に対して定めなければならない。
1. 暗号化された番組搬送信号の暗号解除
2. 暗号化された番組搬送信号を送出する放送機関の明示の許諾なく暗号解除された番組搬送信号を、受信し、公衆に頒布又は伝達すること
3. 暗号化された番組搬送信号を暗号解除することのできる、又は暗号解除を助けることのできる装置又はシステムを利用可能にする製造、輸入、販売又はその他のあらゆる行為に荷担すること

2. 各国の現行法
(1) 米国
 WCT、WPPT対応を目的としたDMCA(Digital Millennium Copyright Act)によって技術的手段に関する規定が盛り込まれた。具体的な法的措置としては、
1 著作権法上規定されている権利を保護するための技術的手段(複製権を保護するためのコピー・コントロール等)の回避を目的とする技術や装置の製造、供給等を禁止する
2 著作物へのアクセス・コントロールの回避を目的とする技術や装置の製造、供給等を禁止する
3 アクセス・コントロールを回避する行為そのものを禁止する
が挙げられる(第1201条)。

第1201条(抜粋)】
(a) (1) (A)  何人も、本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避してはならない。
(3) (A)  「技術的手段を回避する」とは、著作権者の許諾なく、スクランブルがかかっている著作物のスクランブルを解除し、暗号化された著作物の暗号を解除し、またはその他技術的手段を回避し、迂回し、除去し、無効にしもしくは損壊することをいう。
(B)  技術的手段が「著作物へのアクセスを効果的にコントロールする」とは、当該技術的手段がその動作の通常の過程において著作物へのアクセスを行うには、著作権者の許諾を得て情報を入力しまたは手続もしくは処理を行うことを必要とする場合をいう。
(f) リバース・エンジニアリング−(1)第(a)節(1)(A)の規定にかかわらず、コンピュータ・プログラムとその他のプログラムとの互換性を達成するために必要なプログラムの要素であって、回避を行う者にとってそれまで容易に入手することができなかったプログラムの要素を特定し解析する目的のみのために、かかる特定及び解析の行為が本編に基づく侵害を構成しない範囲において、当該プログラムの特定の部分へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避することができる。
(g) 暗号化研究
(1) (A)  「暗号化研究」とは、当該行為が暗号化技術の分野における知識を進歩させまたは暗号化製品の開発を支援するために行われる場合において、著作権のある著作物に使用される暗号化技術の欠点や弱点を特定し解析するために必要な行為をいう。
(2)  暗号化研究において許容される行為−第(a)節(1)(A)の規定にかかわらず、善意誠実な暗号化研究の行為において、発行著作物のコピー、レコード、実演または展示に適用された技術的手段を回避することは、以下の全てを満たす場合には当該規定の違反とならない。
(j)  セキュリティ検査
(1)  「セキュリティ検査」とは、コンピュータ、コンピュータ・システムまたはコンピュータ・ネットワークの所有者または運営者の許諾を得て、セキュリティ上の欠点または弱点を善意誠実に検査し、追究しまたは補正することを唯一の目的として、当該コンピュータ・ネットワークにアクセスを行うことを意味する。
(2)  セキュリティ検査において認められる行為―第(a)節(1)(A)の規定にかかわらず、セキュリティ検査の行為を行うことはかかる行為が本編における権利侵害または本条以外の適用法の違反とならない場合には、当該条項の違反とはならない。

(2) EU
 2001年、「WCT、WPPTの早期加盟を促すために制定された情報社会における著作権および関連権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会及びEU理事会のディレクティブ」において、加盟国は、コピー及びアクセス・コントロールの技術的手段の回避について適切な法的保護を与える旨規定された(第6条)。EU指令を受けて、20カ国注釈において制度改正が行われている。

注釈 デンマーク、ギリシャ、イタリア、オーストリア、ドイツ、イギリス、アイルランド、ルクセンブルグ、オランダ、ポーランド、キプロス、ポルトガル、リトアニア、ラトビア、スロベニア、マルタ、チェコ、スロバキア、ハンガリー、エストニア

第6条】技術的手段に関する義務
1. 加盟国は、関係する者が、その目的のためであることを知り、または知るべき合理的な理由を有しながら行う、いずれかの効果のある技術的手段の回避に対して、適切な法的保護を与えるものとする。
2. 加盟国は、次のものの製造、輸入、頒布、販売、貸与、販売もしくは貸与のための宣伝、または装置、製品もしくは部品の商業目的の所持に対して、適切な法的保護を与えるものとする。
(a)  いずれかの効果がある技術的手段の回避の目的で宣伝され、広告されまたは市場化されるもの、または、
(b)  いずれかの効果がある技術的手段を回避する以外に商業的に重要な目的または用途を持たないもの、または、
(c)  主としていずれかの効果がある技術的手段の回避を可能にしまたは容易にする目的で設計され、製作され、調整されまたは使用されるもの

3. 国内法の手当て
(1) 著作権法
 WCT、WPPTの合意を受けて著作権法を改正。
技術的保護がなされている著作物の私的複製について制限(著作権法第30条第2項)
技術的保護手段の回避装置等の公衆譲渡に対して刑事罰を適用(著作権法第120条の2)

(2) 不正競争防止法
アクセス・コピー管理機能を無効化する装置・プログラムを譲渡等する行為を「不正競争」(不正競争防止法第2条第10号(特定者向け)、第11号(不特定者向け))と定義。
差止請求権(第3条)、損害賠償請求権(第4条)、信用回復請求権(第7条)の対象である。
刑事罰(第14条)の対象ではない。


2.権利管理情報

1. WCT、WPPTにおける議論
(1) 条文の趣旨
 「権利管理情報」とは、著作権及び著作隣接権の権利者及び利用の条件に関する情報である。デジタル化やネットワーク上での取引の進展に伴い、違法利用の発見・立証や権利処理を効果的に行う目的で、権利管理情報が電磁的な方法により、記録媒体に付されるようになっている。
 かかる権利管理情報が改変されると、違法利用を発見・立証することが困難になったり、誤った権利処理が行われ、権利者に多大な被害を及ぼす恐れがある。このため、電磁的な権利管理情報の除去及び改変等に対する法的保護の枠組みを策定した。

(2) 具体的な規定
WCT第12条】権利管理情報に関する義務
(1) 締約国は、この条約又はベルヌ条約が対象とする権利の侵害を誘い、可能にし、助長し又は隠す結果となることを知りながら次に掲げる行為を故意に行う者がある場合に関し、適当かつ効果的な法的救済について定める。さらに、民事上の救済については、そのような結果となることを知ることができる合理的な理由を有しながら次に掲げる行為を故意に行う者がある場合に関しても、これを定める。
(1) 電磁的な権利管理情報を権限なく除去し又は改変すること。
(2) 電磁的な管理管理情報を権限なく除去され又は改変されたことを知りながら、関係する著作物又は著作物の複製物を権限なく頒布し、頒布のために輸入し、放送し又は公衆に伝達すること。

(2) この条において、「権利管理情報」とは、著作物、著作物の著作者、著作物に係る権利を有する者又は著作物の利用の条件に係る情報を特定する情報及びその情報を表す数字又は符号をいう。ただし、これらの項目の情報が著作物の複製物に付される場合又は著作物の公衆への伝達に際して当該著作物とともに伝達される場合に限る。

WPPT 第19条】権利管理情報に関する義務
(1) 締約国は、この条約が対象とする権利の侵害を誘い、可能にし、助長し又は隠す結果となることを知りながら次に掲げる行為を故意に行う者がある場合に関し、適当かつ効果的な法的救済について定める。さらに、民事上の救済については、そのような結果となることを知ることができる合理的な理由を有しながら次に掲げる行為を故意に行う者がある場合に関しても、これを定める。
(1) 電磁的な権利管理情報を権限なく除去し又は改変すること。
(2) 電磁的な管理管理情報を権限なく除去され又は改変されたことを知りながら、実演又は固定された実演若しくはレコードの複製物を権限なく頒布し、頒布のために輸入し、放送し、公衆に伝達し又は公衆により利用が可能となる状態に置くこと。

(2) この条において、「権利管理情報」とは、実演家、実演家の実演、レコード製作者、レコード、実演若しくはレコードに係る権利を有する者又は実演若しくはレコードの利用の条件に係る情報を特定する情報及びその情報を表す数字又は符号をいう。ただし、これらの項目の情報が固定された実演若しくはレコードの複製物に付される場合又は固定された実演若しくはレコードを公衆に伝達し若しくは公衆により利用が可能となる状態に置くに当たって当該固定された実演又はレコードとともに公衆に伝達され若しくは公衆により利用が可能となる状態に置かれる場合に限る。

(3) 現状
 権利管理情報の記録の仕方としては、1ヘッダー方式(著作物等のデータと隣接する領域に権利管理情報を独立して記録しておき、連続して読み取らせる)、2電子透かし方式(著作物等のデータそのものに権利管理情報を埋め込み、著作物と同時に読み取らせる)がある。
 既に、権利管理情報が埋め込まれたコンテンツが媒体やネットを通じて取引されている。また、権利管理情報の検索によってコンピュータネットワーク上の違法複製物を発見するシステムも実用化されている。

(4) 放送における位置付け
 2010年から本格化するデジタル放送では、権利管理情報の活用が考えられる。将来は、放送の権利の所在、利用の条件などについても取り扱われる可能性がある。


3.再送信権

1. 各国の提案内容
 (表)各国提案における再放送、有線放送等のワーディング
  日本 米国 EU 条約テキスト
再放送 rebroadcasting retransmission retransmission retransmission
異時再放送 deferred rebroadcasting deferred retransmission retransmission transmission of their broadcasts following fixzations
有線放送 communication to the public cable retransmission retransmission retransmission
異時有線放送 communication to the public deferred retransmission retransmission transmission of their broadcasts following fixzations
生放送のアップロード making available of broadcasts computer network retransmission retransmission retransmission
固定された放送のアップロード making available of fixations of broadcasts making available of unauthorized fixations of broadcasts making available of fixations of broadcasts making available of fixed broadcasts

2. 具体的な侵害事例
欧州では、放送番組が国境を越えて傍受され、有線放送等で放送されるケースがある。
米国では、放送番組が国境を越えて傍受され、カナダの有線放送で放送されるケ−スがある。
我が国では、放送番組が国境を越えて傍受され、アジア諸国で有線放送されるケースがある。


4.禁止権

1. 各国の提案内容
日本の提案   排他的許諾権(exclusive right to authorize
EUの提案   排他的許諾又は禁止権
exclusive right to authorize or prohibit
米国の提案   無許諾な固定物による二次利用について禁止する権利
(無許諾な固定物の流通阻止を目的、right to prohibit
条約テキスト   排他的許諾権と排他的ではない禁止権を併記

2. 条約の関連条項
 著作権・隣接権関連条約のうち、ローマ条約第14条(放送機関の権利)の規定以外は全て排他的許諾権を規定している(報酬請求権を除く)。

ローマ条約第14条】
 放送機関は、その放送に関し、次の事項を許諾し又は禁止する権利を享有する。
(a)   放送の再放送
(b)   放送の固定
(c)   次の複製
(d)   料金を支払うことによって公衆が入場することができる場所で行われるテレビジョン放送の公衆への伝達

以上




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DMCA技術的手段の規定に関する判例


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