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技術的手段(第16条第2項)選択肢V
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問題の所在】
条約テキストには、技術的手段について、WPPTと同趣旨の規定のほか、アルゼンチンにより提案された選択肢Vが記載されている。放送の暗号化がなされるが、他人が暗号化された放送を解除した場合に技術的手段として法的措置を講じることを目的とするもの。支持する国が少ないことからV案を削除すべきか議論された。 |
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議論の結果】
ロシア、スイスは、放送の暗号解除に対する法的措置の必要性からV案の維持を主張した。現時点では、V案を条約テキストに残すこととなった。 |
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(2) |
技術的手段(第16条第1項)
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問題の所在】
前回に引き続き、ブラジルは技術的手段条項の削除を提案した。これは、放送機関が公有財産(パブリックドメイン)の情報が入った放送に技術的手段を講じた場合、一般人は技術的手段を回避して公有財産の情報に接することができなくなるため、利用者の利便性の確保の観点から削除を求めたもの。 |
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議論の結果】
スイス、セネガル、チリ、ザンビア、アルジェリア、モロッコ、ロシアは、他の条約と同様、デジタル環境における著作隣接権の保護の必要性から技術的手段を規定するよう主張した。一方、シリア、インドは、公的財産の情報の利用に支障が生じることから削除を主張した。この結果、第16条第1項、第2項(V案)のいずれも条約テキストに残すこととなった。 |
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(3) |
権利制限(第14条)
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問題の所在】
米国、エジプトの提案に基づき、条約テキストでは選択肢T(「締約国は事務局に通報することにより、本条約の権利の制限及び例外を定めることができる」)が規定されている。支持する国が少ないことからT案を削除すべきかどうかが議論された。 |
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議論の結果】
米国は選択肢Tがなくても、スリー・ステップ・テストに基づき権利制限が可能であることから選択肢Tの削除に同意した。一方、エジプトは柔軟な適用ができるよう、選択肢Tの維持を主張した。この結果、選択肢Tを条約テキストに残すこととなった。 |
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締約国の資格(第24条)
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問題の所在】
米国の提案に基づき、条約テキストでは、本条約の締結国となる資格として選択肢AA(「条約の締結国となるためにはWCT、WPPTの締結を条件とする」)が規定されている。支持する国が少ないことから選択肢AAを削除すべきかどうかが議論された。 |
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議論の結果】
米国は「WCTを締結せず、本条約を締結した場合、放送の中身には著作権が及ばないが、放送機関に著作隣接権が及ぶ場合も考えられる。これを避けるため、選択肢AAを規定すべき」と主張した。これに対し、エジプト、メキシコ、イラン、シリア、EU、モロッコ、インド等は「本条約の締結は各国の判断でできるようにすべき」と主張し、選択肢AAの削除を求めた。この結果、選択肢AAは条約テキストでは括弧書きとすることとなった。 |
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放送の固定後の利用に関する権利(第9、10、11、12条)
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問題の所在】
米国は、本条約の意義を海賊版対策と捉え、「固定権の許諾が得られない場合、固定後の放送の利用については禁止する」案を提案した。米国以外の国は排他的許諾権の付与を提案した。このため、条約テキストでは、 排他的許諾権の付与、 固定に関する排他的許諾権の付与と、固定権の許諾が得られない場合の固定後の利用に関する禁止権の付与(米国案)、 上記 と のいずれかを選択できる案が規定されている。 |
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議論の結果】
スイス、ニュージーランドは他の条約との整合性の確保の観点から 案を主張した。米国は 案を主張した。また、ロシア、ザンビアは 案を主張した。この結果、条約テキストでは上記3案とも併記することとなった。 |
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(6) |
保護期間(第15条)
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問題の所在】
前回会合にてシンガポールは放送の保護期間として選択肢EE(20年間)を主張した。放送の保護期間について選択肢DD(50年間)のいずれが適切か議論された。 |
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議論の結果】
インド、シリア、チリ、モロッコは、ローマ条約と同様、本条約の保護期間は20年間(選択肢EE)とし、さらに保護が必要な場合には、各国の判断で延長すればよいと主張した。メキシコとアルゼンチンは50年間(選択肢DD)を支持し、ブラジルはDD案とEE案を併記することを主張した。この結果、条約テキストでは両選択肢が併記されることとなった。 |
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(7) |
公衆への伝達権(第7条)
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問題の所在】
前回、入場料を払ってテレビを観る実態が今やないことから本条項を落とす旨の提案がなされたため、今回、本条項について議論がなされた。 |
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議論の結果】
スイス、オーストラリア、アルゼンチン、セネガルから、本条項の必要性について主張がなされたことから、現時点では、本条項を残すこととなった。 |
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(8) |
ウェブキャスティング(第2、3条)
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問題の所在】
本条約の保護の対象として、伝統的放送、有線放送のほかに、ウェブキャスティングを入れるべきかどうかが議論されている。これまでに、米国は独立したウェブキャスティングを行う者を保護の対象とすること(選択肢C)を主張。EUは(伝統的)放送機関が放送と同時にネット上でウェブキャスティングを行う場合に保護の対象とすること(選択肢E)を主張している。 |
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議論の結果】
ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティング(simulcasting organization)の本条約における取扱いについて、本会合の冒頭から各国の発言が相次いだ。米国とEUを除く多くの参加国の意向は、ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティングを本条約とは切り離して検討すべきというもの。
これに対し、米国は「本条約がデジタル技術の進展に伴った新たな形態も取り入れる意義を有しており、放送形態として発展しつつあるウェブキャスティングについても本条約の対象として取り入れるべき」と主張した。
また、EUは「WCT以降の一連の見直しはインターネット時代に対応したものであり、放送機関による同時ウェブキャスティングも出現していることから、これを本条約に取り込む必要がある。次の条約で検討することも考えられるが、先送りすれば著しい支障を生じる恐れがあり、是非、本条約で手当すべき」といずれも、本件の本条約での検討を主張した。
これに対して、ロシアは「米国、EU提案も条約上併記し、各国は保護の可否を判断できる」との妥協案を提案した。
また、日本は、第9回においてウェブキャスティングの取扱いについて提案したとおり「ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティングを本条約から切り離して検討すべき。ただし、これはウェブキャスティングの重要性が低いというものではなく、保護の対象、支分権の内容等について十分な検討が必要であるためである。このため、WIPOに別途検討の場を設定することを支持する」旨発言した。
さらに、ブラジルは「ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティングだけではなく、有線放送も必ずしも世界中で盛んに行われているわけではないことから、本条約の対象から外すべき。ウェブキャスティングなど本条約の将来の課題については、非公式会合(inter-session meeting)において議論してもよい。また、WIPOの将来課題としては、本件のようなデジタルアジェンダだけではなく、一般総会でブラジル・アルゼンチンが提案した「開発アジェンダ」を十分踏まえたものとすべき」旨主張した。以上より、本件については引き続き検討することとなった。 |
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