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資料3

第12回WIPO著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)の結果概要について

1  概要
 世界知的所有権機関(WIPO)では、近年のデジタル化・ネットワーク化に対応して、著作隣接権による放送機関の保護について検討されている。1998年以降、WIPO著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)にて議論がなされており、本会合(2004年11月17日〜19日)が第12回に当たる。我が国からは、文化庁(池原国際課課長、岩松国際著作権専門官)、総務省、ジュネーブ代表部が参加した。

 これまでに、10カ国(EUを含む)から条約形式の提案がなされ、放送条約の保護の対象、放送機関に付与される権利等について議論がなされてきた。本年4月には、議長より「各国提案をまとめた条約案(Consolidated Text、以下「条約テキスト」)」が提示され、前回会合(2004年6月)では、条約テキストの内容について議論がなされるとともに、放送条約の外交会議の開催について一般総会に諮ることが決定された。これを受けて、本年9月の一般総会において、放送条約の外交会議の開催について議論がなされたが、途上国を中心とする一部の国から「いまだ関係国で了解が得られていない課題があり、SCCRでさらに議論を積み重ねるべき」との慎重な発言がなされ、最終的な合意には至らなかった。

 本会合では、一般総会での結果を受けて、さらに実質的な議論を進めるため開催された。冒頭では、本条約についての一般討議がなされ、ブラジルなど一部の国を除いた大部分の国から「本会合での議論を加速化して早期の条約締結を求める」など本条約の意義を支持する発言がなされた。

 次に、条約テキストの内容のうち、1ウェブキャスティング、2技術的手段、3放送の固定後の利用に関する権利(禁止権か許諾権か)、4権利制限、5保護期間、6締約国の資格、7公衆への伝達権の在り方等について議論がなされた。ウェブキャスティングの保護については、欧米がそれぞれ提案をしているところ、多くの国は「本条約とは切り離して検討すべき」と主張したのに対し、欧米が「あくまで条約テキストに位置付けるべき」と主張したことから、引き続き検討することとなった。この他、各国の意向が確認され、合意された事項については、次の条約テキストに反映されることとなった。

 さらに、今後の進め方について協議したところ、一部の国から強硬な反対があったことから本会合としての結論を得るに至らず、参加国の多数意見により、議長の結論・見解として本会合の議事録にとりまとめられることとなった。議長の結論・見解としては、1ウェブキャスティングについては、条約テキストとは別個の作業文書とすること、2今後の進め方については、参加国の要請に基づき地域会合等を開催し、その結果を踏まえ、次回会合を開催(時期未定)すること等が盛り込まれることになる。

 また、本会合では、チリより「デジタル環境での教育、図書館、障害者に関する著作権・著作隣接権の権利制限の在り方について検討すべき」旨の提案がなされた。権利制限については条約の規定に基づき各国の判断により運用がなされているが、先進国等の運用実態を示すことは途上国の法整備にも参考になることから、次回会合の議題とすることとなった。

2  放送条約に関する議論の内容
1. 一般討議
 初日、20ヶ国を超える参加国から放送条約に対する基本スタンスについて発言がなされた。先進国だけではなく、ウルグアイ、アルジェリア、モロッコ、メキシコ、ウクライナ、セネガルなど途上国からも「本会合で実質的な議論を進め、条約締結に繋げたい」旨の発言がなされた。一方、ブラジル、インド、エジプトからは本条約の課題を指摘し、早期の条約締結に否定的な発言がなされた。各国からなされた主な発言内容は以下のとおりである。
肯定的な発言】
外交会議の開催に向けて、今会合での議論の進展に期待する(日本、EU、ノルウェー、ロシア、ザンビア、セネガル等)
近年のデジタル・ネットワーク化に対応して、放送機関の著作隣接権を見直すべきである(日本、EU、米国、メキシコ、ニュージーランド、バングラディッシュ等)
ローマ条約以来の著作隣接権のバランスを図るためにも早期の条約成立が望まれる(日本等)
前回の議論を受けて、条約テキストが適切に修正されており、条約テキストに基づいた議論が進展することを期待する(ウルグアイ、アルジェリア、イラン、EU、ウクライナ、セネガル等)

否定的な発言】
知的財産を保護すると社会的・経済的な負担を増やすことにもなることから、社会政策の観点からも検討すべき。例えば、技術的保護手段が規制されることにより、市民の情報へのアクセスが困難になる(ブラジル)
本条約の関係者間で利益が調和されているのか、さらに議論する必要がある。国際的な次元で検討する必要がある(インド、エジプト)

2. 条約テキストに関する議論
 一般討議に引き続いて、条約テキストの具体的な内容について議論がなされた。本会合では、未だ各国で隔たりがある以下の事項について議論がなされた。
1 技術的手段(第16条第2項)選択肢V
2 技術的手段(第16条第1項)
3 権利制限(第14条)
4 締約国の資格(第24条)
5 放送の固定後の利用に関する権利(第9、10、11、12条)
6 保護期間(第15条)
7 公衆への伝達権(第7条)
8 ウェブキャスティング(第2条、第3条)

(1) 技術的手段(第16条第2項)選択肢V
問題の所在】
 条約テキストには、技術的手段について、WPPTと同趣旨の規定のほか、アルゼンチンにより提案された選択肢Vが記載されている。放送の暗号化がなされるが、他人が暗号化された放送を解除した場合に技術的手段として法的措置を講じることを目的とするもの。支持する国が少ないことからV案を削除すべきか議論された。
議論の結果】
 ロシア、スイスは、放送の暗号解除に対する法的措置の必要性からV案の維持を主張した。現時点では、V案を条約テキストに残すこととなった。

(2) 技術的手段(第16条第1項)
問題の所在】
 前回に引き続き、ブラジルは技術的手段条項の削除を提案した。これは、放送機関が公有財産(パブリックドメイン)の情報が入った放送に技術的手段を講じた場合、一般人は技術的手段を回避して公有財産の情報に接することができなくなるため、利用者の利便性の確保の観点から削除を求めたもの。
議論の結果】
 スイス、セネガル、チリ、ザンビア、アルジェリア、モロッコ、ロシアは、他の条約と同様、デジタル環境における著作隣接権の保護の必要性から技術的手段を規定するよう主張した。一方、シリア、インドは、公的財産の情報の利用に支障が生じることから削除を主張した。この結果、第16条第1項、第2項(V案)のいずれも条約テキストに残すこととなった。

(3) 権利制限(第14条)
問題の所在】
 米国、エジプトの提案に基づき、条約テキストでは選択肢T(「締約国は事務局に通報することにより、本条約の権利の制限及び例外を定めることができる」)が規定されている。支持する国が少ないことからT案を削除すべきかどうかが議論された。
議論の結果】
 米国は選択肢Tがなくても、スリー・ステップ・テストに基づき権利制限が可能であることから選択肢Tの削除に同意した。一方、エジプトは柔軟な適用ができるよう、選択肢Tの維持を主張した。この結果、選択肢Tを条約テキストに残すこととなった。

(4) 締約国の資格(第24条)
問題の所在】
 米国の提案に基づき、条約テキストでは、本条約の締結国となる資格として選択肢AA(「条約の締結国となるためにはWCT、WPPTの締結を条件とする」)が規定されている。支持する国が少ないことから選択肢AAを削除すべきかどうかが議論された。
議論の結果】
 米国は「WCTを締結せず、本条約を締結した場合、放送の中身には著作権が及ばないが、放送機関に著作隣接権が及ぶ場合も考えられる。これを避けるため、選択肢AAを規定すべき」と主張した。これに対し、エジプト、メキシコ、イラン、シリア、EU、モロッコ、インド等は「本条約の締結は各国の判断でできるようにすべき」と主張し、選択肢AAの削除を求めた。この結果、選択肢AAは条約テキストでは括弧書きとすることとなった。

(5) 放送の固定後の利用に関する権利(第9、10、11、12条)
問題の所在】
 米国は、本条約の意義を海賊版対策と捉え、「固定権の許諾が得られない場合、固定後の放送の利用については禁止する」案を提案した。米国以外の国は排他的許諾権の付与を提案した。このため、条約テキストでは、1排他的許諾権の付与、2固定に関する排他的許諾権の付与と、固定権の許諾が得られない場合の固定後の利用に関する禁止権の付与(米国案)、3上記12のいずれかを選択できる案が規定されている。
議論の結果】
 スイス、ニュージーランドは他の条約との整合性の確保の観点から1案を主張した。米国は2案を主張した。また、ロシア、ザンビアは3案を主張した。この結果、条約テキストでは上記3案とも併記することとなった。

(6) 保護期間(第15条)
問題の所在】
 前回会合にてシンガポールは放送の保護期間として選択肢EE(20年間)を主張した。放送の保護期間について選択肢DD(50年間)のいずれが適切か議論された。
議論の結果】
 インド、シリア、チリ、モロッコは、ローマ条約と同様、本条約の保護期間は20年間(選択肢EE)とし、さらに保護が必要な場合には、各国の判断で延長すればよいと主張した。メキシコとアルゼンチンは50年間(選択肢DD)を支持し、ブラジルはDD案とEE案を併記することを主張した。この結果、条約テキストでは両選択肢が併記されることとなった。

(7) 公衆への伝達権(第7条)
問題の所在】
 前回、入場料を払ってテレビを観る実態が今やないことから本条項を落とす旨の提案がなされたため、今回、本条項について議論がなされた。
議論の結果】
 スイス、オーストラリア、アルゼンチン、セネガルから、本条項の必要性について主張がなされたことから、現時点では、本条項を残すこととなった。

(8) ウェブキャスティング(第2、3条)
問題の所在】
 本条約の保護の対象として、伝統的放送、有線放送のほかに、ウェブキャスティングを入れるべきかどうかが議論されている。これまでに、米国は独立したウェブキャスティングを行う者を保護の対象とすること(選択肢C)を主張。EUは(伝統的)放送機関が放送と同時にネット上でウェブキャスティングを行う場合に保護の対象とすること(選択肢E)を主張している。
議論の結果】
 ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティング(simulcasting organization)の本条約における取扱いについて、本会合の冒頭から各国の発言が相次いだ。米国とEUを除く多くの参加国の意向は、ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティングを本条約とは切り離して検討すべきというもの。
 これに対し、米国は「本条約がデジタル技術の進展に伴った新たな形態も取り入れる意義を有しており、放送形態として発展しつつあるウェブキャスティングについても本条約の対象として取り入れるべき」と主張した。
 また、EUは「WCT以降の一連の見直しはインターネット時代に対応したものであり、放送機関による同時ウェブキャスティングも出現していることから、これを本条約に取り込む必要がある。次の条約で検討することも考えられるが、先送りすれば著しい支障を生じる恐れがあり、是非、本条約で手当すべき」といずれも、本件の本条約での検討を主張した。
 これに対して、ロシアは「米国、EU提案も条約上併記し、各国は保護の可否を判断できる」との妥協案を提案した。
 また、日本は、第9回においてウェブキャスティングの取扱いについて提案したとおり「ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティングを本条約から切り離して検討すべき。ただし、これはウェブキャスティングの重要性が低いというものではなく、保護の対象、支分権の内容等について十分な検討が必要であるためである。このため、WIPOに別途検討の場を設定することを支持する」旨発言した。
 さらに、ブラジルは「ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティングだけではなく、有線放送も必ずしも世界中で盛んに行われているわけではないことから、本条約の対象から外すべき。ウェブキャスティングなど本条約の将来の課題については、非公式会合(inter-session meeting)において議論してもよい。また、WIPOの将来課題としては、本件のようなデジタルアジェンダだけではなく、一般総会でブラジル・アルゼンチンが提案した「開発アジェンダ」を十分踏まえたものとすべき」旨主張した。以上より、本件については引き続き検討することとなった。

3. 今後の進め方について
(1) 議長の提案
 本会合にて、条約テキストに関する実質的な議論がなされた後、議長から「本条約の今後の検討の在り方」について以下の内容の提案がなされた。

第12回SCCR会合での議長提案】
A. 放送機関の保護
1. 用意すべき文書
議長は条約テキストの第2次修正版を用意する。
議長は放送の同時ウェブキャスティング(simulcasting organizations)を含むウェブキャスティングの保護について、法的拘束力のない代替措置(alternative non-mandatory solutions)の作業文書を次の条約テキストの修正に合わせて用意する。
2. 地域会合(regional consultations
 地域会合を参加国の要請によりWIPO事務局において開催する。
3. 第13回SCCR
地域会合の結果を踏まえ次回SCCRを開催する。
次回会合では地域会合の結果を踏まえて修正された条約テキスト等について検討する。
B. 権利制限及び例外
第13回SCCRにおいて、図書館、障害者に関する権利制限の在り方について議論する。

Chairman’s proposal of the twelfth SCCR meeting
A. Protection of Broadcasting Organizations
1. Documents to be prepared
A second revised version of the Consolidated Text will be prepared by Chairman of the present session of the standing committee.
A working paper on alternative non-mandatory solutions on the protection of webcasting organizations including simulcasting organizations will be prepared to accompany the second revised version.
2. Regional Consultation
Regional consultation meetings will be organized by the International Bureau, as requested by the member states.
3. The thirteenth SCCR meeting
The next session of the committee will take into account the progress made in the regional consultations.
The committee will, in light of the results of regional consultations, consider the second version of the Consolidated Text and examine the working paper on alternative solutions on the protection of webcasting organizations.
B. Exception and Limitation
Agenda on exception and limitation for libraries and disabled persons will be placed on the agenda of the thirteenth session.

(2) 「今後の進め方」に関する議論
1 ウェブキャスティングの位置付けについて
 米国、EUからは、議長提案(「ウェブキャスティング及び放送の同時ウェブキャスティングの保護については、法的拘束力を有しない代替措置に関する作業文書にて取り扱う」)に対して、作業文書の位置付けが不明確であり、あくまで、条約テキストで扱うことを求める発言がなされた。
2 地域会合の位置付けについて
 ブラジル、インドは「地域会合(regional consultations)の開催については、外交会議の開催に向けた正式な準備会合の印象を避けるため、情報会合(information meeting)や非公式会合(inter-session meeting)に変更すべき」と主張し、アルゼンチン、チリ、イランはブラジル等の意見を支持した。
 一方、ノルウェー、メキシコ、ロシア、モロッコ、ウルグアイ、シリアなどは「外交会議の開催に向けて地域会合の開催について柔軟に対応すべきである」とし、議長の提案を支持した。
 その後も、インド、ブラジル、エジプトなどの特定の国は議長提案の「今後の進め方」に関する文言の修正にこだわり、さらに、ブラジルから議長提案の議事進行について異議申し立てがなされるとともに、インドからWIPOのルールに基づきSCCRの議長の再任について異議申し立てがなされた。議長は、これ以上議論を継続することは困難であると判断し、今回は議長結論としてレポートに留めることを提案し、この提案に対する参加国の諾否の意向を確認したところ、アルゼンチン、イラン、インド、エジプト、ブラジルの5カ国が受け入れを拒否し、日本他多くの参加国が受け入れを表明した。なお、アメリカ、EUは態度表明をしなかった。この結果、今回の議論を踏まえ、議長が本会合の結論・見解を議事録に記載することとなった。

3  権利制限の在り方
 本会合では、放送条約の検討のほか、チリより権利制限に関する議論の提案がなされた。チリは「著作権は常に関係者間の利益の調和に留意する必要がある。デジタル技術が発展した現在、改めて教育、図書館、障害者に関する権利制限の在り方について検討する意味がある。これは、情報社会における情報へのアクセスの在り方の検討にもつながる。各国の権利制限の運用は様々であり、運用の統一を目指していくため、SCCRで検討すべきである」との発言がなされ、インド、アルゼンチン、エジプト、シリア、パラグアイから、チリを支持する発言がなされた。
 権利制限についてはスリー・ステップ・テストに基づき各国の判断で運用がなされているが、先進国等の運用実態を示すことは途上国の法整備にも参考になることから、次回会合の議題とすることとなった。

4  終わりに
 本年9月の一般総会では「今後、SCCRでの議論を加速化し、2005年の総会で放送条約の外交会議の開催が決定されることを目指す」旨合意された。これを受けて、今回会合が開催されたが、一部の実質的な議論が進んだものの、将来の道筋を示す「今後の進め方」については、特定国の反対から全会一致で合意することができず、議長の結論・見解として議事録に記載することとなった。
 今後、議長の結論・見解が示され、事務局から参加国へ地域会合等の開催について打診がなされる見込みであるが、今回反対した一部の国がどのように対応するか予断を許さない状況である。
 放送条約の採択に向けた進展を目指すためには、再度、参加国の本件に対する真意を確認し、今後の取組の方策を再構築することが求められる。


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