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資料2

第40回WIPO一般総会の結果概要について

1. 本総会の結果概要
 第40回目となる本年度の一般総会は、本年9月27日〜10月5日にWIPO本部(ジュネーブ)において開催された。本総会には、加盟国181カ国から参加、我が国からは、特許庁、文化庁、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部が参加、文化庁からは森口審議官、岩松国際著作権専門官が出席した。

 本総会では、著作権関連議題として、放送機関の保護に関する外交会議の開催、視聴覚的実演の保護について議論が行われた。放送条約については、本年6月の第11回著作権等常設委員会(SCCR)での議論を受けて、放送条約の外交会議の開催について議論がなされた。我が国、メキシコなどから、本条約の外交会議の開催を求める発言があったものの、ブラジル、インド、エジプトなどから、検討が十分ではなく、来年の総会で改めて議論すべきとの発言がなされた。議長から「さらにSCCRで議論を進め、適切なタイミングで特別総会を開催して外交会議を決定する」案も提案されたが、最終的には、来年の総会で放送条約の外交会議の開催について再度議論することとなった。

 視聴覚的実演の保護については、我が国をはじめ多くの国から、本条約の重要性について発言がなされ、最終的には、本件について関係者間で検討を進め、来年の総会で再度議論することとなった。

 本総会では、このほか、12ヵ年予算の見直し、2特許審査条約の外交会議の開催、3商標条約の外交会議の開催、4遺伝資源、伝統的知識、フォークロアの保護、5エンフォースメント委員会の報告等について議論がなされた。議題毎の議論の結果は以下のとおりである。

2. 放送機関の保護
(1) これまでの経緯
 放送条約に関する検討は、1998年以降、11回にわたってSCCRにて行われてきた。本年6月の第11回SCCRでは、議長により「各国提案をまとめた条約テキスト」が提示され、本テキストに基づいて議論がなされた。その結果、放送条約の外交会議の開催について、本総会に諮ることが決定された。具体的な決定内容は以下のとおりである。
1 一般総会で、放送条約の外交会議の可否について議論する。
2 第12回SCCRを本年11月に開催する。その議論の結果を踏まえて、外交会議の開催日や準備作業を決定する。また、議長は外交会議で用いる基本条約案を作成する。
3 外交会議に向けて、参加国の要望のあった適切な場所にて地域会合を開催する。
以上の決定を踏まえて、本総会で放送条約の外交会議の可否が議論された。

(2) 本総会での議論の結果
 WIPO事務局から、これまでの放送条約の検討の経緯、SCCRでの決定内容について説明がなされた後、各国から発言がなされた。
 冒頭、インドから「放送条約の重要性を認識するものの、本条約の内容については、いまだ関係国で了解が得られていないこと、条約テキストについてもさらに修正が求められることから、SCCRにて実質的な議論を進め、その上で、来年の総会で外交会議の開催を決定すべきである」との発言がなされた。また、アフリカグループを代表してエジプトから「権利者間のバランスにも考慮する必要がある。途上国としては、デジタル技術の知見をさらに深めることが必要である。放送機関の保護は根本的な課題であるが、外交会議の開催については慎重に対処しなければならない」との発言がなされた。

 これに対し、我が国から「デジタル技術が進歩し、放送の形態も多様化している。放送条約は放送機関の保護、権利者間の処理、海賊版対策にも資する。1998年からSCCRで精力的に議論がなされてきたこと、権利者間のバランスを考慮する必要があること、条約締結に向けたモメンタムを維持する必要があることから、本総会で外交会議の開催を決定すべきである」との発言がなされた。さらに、メキシコから「デジタル化に対応して、すでにWCT、WPPTが策定されており、放送条約の策定も求められる。条約テキストについては次回SCCRで検討する必要があるが、放送機関の権利を更新する必要があり、外交会議の開催を決定すべき」との発言がなされた。

 次にEUを代表してオランダから「これまでSCCRで実質的な議論が行われてきた。本条約は意義深く、実現可能性もある。しかしなから、本総会で外交会議の開催のみを決定し、次回SCCRで外交会議の開催の詳細を決定するとの手続きに疑問がある。また、条約テキストについてもさらなる精査が求められる」との慎重な発言がなされた。その後、中国、南アフリカ、ブラジルから発言がなされたが、いずれも外交会議の開催に慎重な発言あった。ブラジルは「ウェブキャスティングや技術的手段の取扱いなど、未解決事項が残っている。また、視聴覚的実演の保護とのバランスをとることも重要である。このため、さらに議論を進める必要性から、放送条約の外交会議の開催は来年の一般総会で決定すべき」との発言がなされた。

 その後、米国、加国からの発言の後、議長から「本条約の締結に向けたモメンタムを失うことなく検討を進めることが必要であり、あらゆる可能性を探りたい。このため、来年の総会まで外交会議の決定を延ばすのではなく、SCCRでの議論を進め、適切なタイミングで特別総会を開いて外交会議の開催を決定する案も考えられる」との提案がなされたが、インドから「予算の制約、AV条約とのバランスから、特別総会の開催に反対する」旨の発言がなされた。以上の議論を踏まえて、最終的には「放送条約の外交会議の開催は来年の一般総会の議題とする」旨決定された。

3. 視聴覚的実演の保護
(1) これまでの経緯
 2000年の外交会議以降、継続的に検討が行われている。昨年11月には本件に関する非公式会合が開催され、本件に関する各国制度の報告及び議論がなされた。その後も、イドリス事務局長の下、関係国、権利関係者間で非公式な調整が進められている。

(2) 本総会での議論の結果
 事務局から、本件にかかる報告がなされた後、メキシコ、オランダ(EU代表)、ブラジル、日本、中国、米国、エジプト、イラン、コロンビア、アルジェリア、ザンビアから発言がなされた。各国から「AV条約がデジタル化・ネットワーク化に対応した重要なものであり、著作権者、他の隣接権者とのバランスを確保するためにも、継続的な検討が求められる」との発言がなされた。我が国から「本件はデジタル化・ネットワーク化に対応したものであり、その重要性はいささかも変わっていない。放送条約の進展が見込まれる中、権利者間のバランスを考慮すれば、本条約の締結が求められる。条約締結に向けたモメンタムが失われないよう、関係者間の調整が進展することを期待する」旨発言した。
 以上の各国からの発言を受けて、議長により「これからも困難が予想されるが、合理的な解決を目指して、さらに検討を進めていきたい。本件について来年の一般総会の議題とする」旨決定された。

4. 2ヵ年予算の見直し
 WIPOの予算は2年毎に策定されており、2004〜2005年の予算が昨年の一般総会で決定された。WIPOの収入はその大半が国際特許(全体の89%)で占められており、国際特許の申請動向に依存する。昨年一般総会で承認された2ヵ年予算では、収入見込みが6億3900万スイスフラン(553億円)に対して、支出見込みが5億8800万スイスフラン(509億円)であった。しかしながら、世界経済の影響を受けて、国際特許の申請が減少しており、収入見込みが5億スイスフラン(433億円)に減少した。

 このため、本総会では、2ヵ年予算の見直しが議論された。事務局は、支出削減のため、1新庁舎建設の中断、2職員コストの削減、3途上国支援の見直し、収入増加として、国際特許申請料の値上げ(1件当たり12万円から14万円)を提案した。

 支出削減については、途上国支援の縮減を恐れるブラジル、アルゼンティンから途上国支援の強化策の提案がなされたため、これと併せて議論が行われた。議論の結果、今後、途上国支援の在り方については、開発常設委員会で議論することとなり、その他の支出削減については、WIPOが最大限努力することとなった。

 国際特許申請料の値上げについては、事務局の提案に対して、国際特許料支払いの大半を占める日米両国が反対するとともに、国際特許会計の透明性の確保、申請料の算定方式の確立を求める提案を行った。最終的には、財政委員会で、国際特許申請料の在り方について議論することとなった。

5. 遺伝資源、伝統的知識、フォークロアに関する検討
(1) これまでの経緯
 2000年の一般総会において、遺伝資源、伝統的知識、フォークロアに関する政府間会合(IGC)の設立が承認され、これまでに6回IGCが開催された。当初は、各国の関連制度について調査研究を進めてきたが、昨年総会において、途上国から本件に関する法的枠組みの策定に対する要望がなされ、最終的には「本件にかかる国際的な枠組みの策定の可能性も排除せずに検討する」旨合意された。本年3月に第6回が開催され、本件の基本的な考え方、保護の手法などについて議論がなされた。

 また、生物多様性条約において、遺伝資源の原産地を記載することが求められており、この記載方法についてWIPOに検討が依頼された。本総会では、WIPOでの検討の仕方について議論が行われた。

(2) 総会での議論
 途上国を中心に、遺伝資源、伝統的知識、フォークロアの保護の必要性を指摘する旨の発言がなされた。また、遺伝資源の原産地記載の検討については、途上国が法的拘束力を持たせるため、特許等常設委員会での議論を主張する一方、先進国は遺伝資源等の検討のための委員会であるIGCでの議論を主張した。最終的には、2005年までIGCで議論を継続し、その後の検討については、改めて来年の総会で審議することとなった。

6. エンフォースメント諮問委員会に関する事項
 2002年の一般総会において、エンフォースメント諮問委員会の設立が承認された。本委員会は、各国の著作権関連法制の整備を促進するとともに法執行の在り方について検討を行うものである。これまでに2回開催されたが、第1回(2003年6月)では、各国法制度の状況について議論がなされ、第2回(2004年6月)では、各国司法制度について検討がなされた。第3回(2005年)では、教育・啓蒙活動について検討する予定である。本総会では、以上の検討状況について報告がなされた。

7. 終わりに
 本一般総会では、いくつかの条約の外交会議の開催について議論がなされた。そのうちの一つである放送条約については、1998年以降、SCCRにて11回にわたって議論が進められ、議長により条約テキストが取りまとめられる段階にきた。しかしながら、今回、外交会議の決定がなされなかったのは、いくつか要因が考えられる。一つの要因としては、WTOをはじめとするマルチの世界で途上国があらゆる課題を交渉条件として捉え、時には審議を遅らせる傾向があることである。放送条約の検討でも同様の傾向が見られ、ブラジル、エジプト、インドなどが様々な課題で留保する傾向がある。他の要因としては、EUの拡大に伴い、先進国の意向に沿ったEUの発言の統一が難しくなってきていることである。このため、従来の日米欧の三極で強力に議事を進める形が変わりつつある。さらに、近年、様々な国際機関で互いに関連性のある国際取極めが検討されており、それぞれの推進国の思惑から他の取極めに影響が及ぶ事態が生じている。例えば、現在、ユネスコにおいて、仏国、カナダ等の提案により、文化多様性条約の検討が進められている。今後の審議にもよるが、文化多様性条約の内容は既存のWIPOやWTOの条約と重なるおそれがあり、今後、それぞれの国際機関の役割、内容の棲み分けについて検討が必要になる。
 現在検討している放送条約やAV条約は、デジタル化・ネットワーク化に伴う、一連の見直しの一部をなすものであり、早期の締結が求められる。引き続き、SCCR等において議論を進め、早期外交会議の開催に向けて、関係国の合意を形成していくことが求められる。

以上


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