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著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第7回)議事録・配付資料

1. 日時
平成19年9月3日(月曜日)14時〜16時

2. 場所
フロラシオン青山 3階 「孔雀」

3. 出席者
(委員)
上野、大渕、大村、梶原、金、久保田、佐々木(正)、佐々木(隆)、里中、椎名、渋谷、瀬尾、津田、常世田、都倉、中山、野村、生野、平田、松尾、三田の各委員
(文化庁)
吉田長官官房審議官,山下著作権課長,亀岡国際課長 ほか関係者

4. 議事次第
(1) 開会
(2) 保護期間の在り方について
(3) 戦時加算の取扱について
(4) 閉会

5. 配付資料
資料1   主な議論のポイントについて
資料2 著作権関連の諸条約における保護期間に関する主な規定
資料3 ベルヌ条約加盟国 保護期間一覧(PDF:75KB)
資料4−1 諸外国における一般著作物の保護期間の変遷(PDF:150KB)
資料4−2 諸外国の保護期間に関する議論の動向について
資料5 平均寿命及び平均出産年齢の変遷
資料6 著作権に関する国際収支について
資料7 日米英の著作者が共同で創作したミュージカルの保護期間(都倉委員提出資料)(PDF:140KB)
資料8 著作権の保護期間に関する戦時加算について
資料9 今後の日程について

参考資料1 ヒアリング等で出された主な意見の整理(第6回後更新版)(PDF:543KB)
参考資料2 保護期間の問題等に関する要望について(PDF:856KB)
参考資料3 ポータルサイト構想について(著作権問題を考える創作者団体協議会提出資料)(PDF:378KB)
参考資料4 第6回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会議事録
(※(第6回)議事録・配付資料へリンク)

6. 議事内容
【大渕主査】
 それでは、定刻となりましたので、ただいまから、第7回の過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を開催いたします。本日も御多忙の中、御出席頂きましてまことにありがとうございます。
 私の病気のために、皆様には大変御心配と御迷惑をおかけいたしまして、まことに申し訳ございませんでした。御覧のとおり大変元気になっておりますので、御安心頂ければと存じます。
 本日の進行でございますが、私のほうでこれまでの議論の流れを十分把握できておりませんので、本日はまことに恐縮ながら、野村主査代理に引き続き進行役をお願いしておりますので、皆様にも御了承頂ければと思います。野村先生、よろしくお願いいたします。

【野村主査代理】
 それでは、本日は私が進行を務めたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
 本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容によりますと、特段非公開とする必要はないと思われますので、既に傍聴者の方には入場して頂いておりますが、特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村主査代理】
 それでは、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方にはそのまま傍聴頂くことといたします。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 それでは、議事次第の1枚紙の下に配付資料一覧が記載しておりますが、本日、資料9点、参考資料を4点お配りしております。なお、資料4につきましては、資料4−1と4−2に分かれてございます。
 過不足等ございましたら、御連絡を頂けますでしょうか。

【野村主査代理】
 それでは、早速議事に入りたいと思います。
 本日も、前回に引き続き小委員会の各検討課題について、検討課題の整理に基づいて個別の議論を進めていきたいと思います。本日は、保護期間の在り方及び戦時加算の取り扱いについて議論をしたいと思います。事務局より資料の説明をお願いいたします。
 また、本日は都倉委員より、以前御発言のあった国際共同創作における問題点について資料を配付して説明したいとの御連絡を頂いておりますので、事務局からの資料の説明に続いて、御説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 それでは、資料1から順に御説明をさせて頂きます。
 まず、資料1は、本日の保護期間に関する議論の主なポイントについてということで用意させて頂いております。参考資料1が毎回お配りしている資料でございますけれども、前回までに出された意見の整理になっておりまして、そちらの保護期間の部分を要約したような資料になっております。
 簡単に御説明いたしますと、まず(1)検討の視点については、どういう視点から保護期間の問題を議論すべきかということについて幾つか指摘がありました。1番目は、パブリックドメインにしてしまうことと、20年間延長すること、どちらが情報の豊富化を招いて文化の発展に役立つのかという著作権法の目的に照らした視点です。その他に、ヒアリング等の中で検討すべきということで指摘があったものとして、ビジネスへの影響、創作者の創作意図への配慮、市民への情報アクセス、各国の延長の背景に日本が合うのかどうか、それから日本の国益、今後の情報流通のあり方、こういった点についても議論が必要ではないかと御提示がありました。また、その他の利用の円滑化方策との関係をどう考えるのかというような点も出ております。
 (2)は、保護期間延長の議論のきっかけとなる事項についてでございますが、(2−1)は遺族の寿命の伸長についてということで、これは後ほど資料5で御説明いたしますが、寿命の伸長が保護期間延長の根拠となるのかどうかといった点が議論のポイントとして挙げられておりました。
 それから、(2−2)の諸外国との保護期間の関係についての部分ですが、そもそも他国との平準化の必要があるのか、異なることによる弊害があるのか、それから平準化の必要があるとすれば何を基準として考えるのかという点でして、これは後ほど資料2と3で諸外国の状況などを御説明いたします。それから、4番目としまして、各国の保護期間延長の背景が日本にも当てはまるのかどうかということで、こちらも資料4から6まで関連の資料を御用意しております。
 それから、(3)でございますけれども、延長によって得られる効果、弊害についての議論も挙げられております。延長による創作インセンティブがどの程度あるのか、既に死亡している作品についてもインセンティブがあるのかどうかですとか、二次創作を制限する効果との比較においてインセンティブがどうなのかといった点が挙げられております。
 次のページですが、延長に伴う利用の支障についてはどうなのかという点につきまして、利用の抑制、あるいは結果として死蔵されるといったデメリットをどう考えるのかとか、相続人が増える、それから特に二次創作についての影響をどう考えるのかというような指摘が出されております。
 それから、(3−3)としまして、パブリックドメイン、要するに保護期間が消滅することによって利用が進むのか、あるいは権利があることによって流通するのか、こういった点もポイントとして出されておりました。
 その他、(4)以降は、延長してどうなるのかというところで幾つかこちらもポイントが提示されておりまして、1番目としましては、創作が豊かに行われる環境とは一体どういうものなのか、どういう条件があればこういう環境ができるのかについて幾つか議論がなされております。その他、既存の創作物の蓄積を土台とした創作もしくは高いオリジナリティーを有する作品、どちらに悪影響が出てしまうのかという議論、それから社会全体の文化に対する考え方に対する影響はどうかといった点が出されております。
 その他幾つかポイントがございまして、貿易上の利害あるいは経済的な結果分析、創作者の人格的利益といったものが議論すべき点として挙げられております。
 最後のページになりますが、その他に古い作品の利用と保存について著作権によって保護するべきなのか、その他の文化行政との区別はどうするのかといった論点、また著作隣接権については今までの論点と同じように考えるのかどうか、それから戦時加算の取り扱いについてどうするのかといった点も挙げられております。
 その他、単純に延長する以外の方法として幾つか挙げておりまして、死後50年から70年の間は報酬請求権とするなど、そういった御提案もなされております。最後ですが、一般の著作物の他に団体名義の著作物あるいは映画の著作物についてはどう考えるのかも議論のポイントになるかと思っております。
 では、個別の資料の御説明をさせて頂きます。
 まず資料2は、諸外国との保護期間との関係についての関連資料でございまして、国際標準や平準化といった議論の際に当然念頭に置かれるべきものとして条約がありますが、諸条約において保護期間に関する規定がどうなっているのかということで、抜粋を御用意させて頂きました。
 まず、著作物について最も基本となるものとして、ベルヌ条約がございます。こちらでは、著作者の生存の間及びその死後50年ということで基本が定められております。
 死後50年としている趣旨は、世界知的所有権機関が発行している逐条解説によりますと、著作者から孫までの3世代の生存期間が含まれるための平均的な期間として考えられたということです。同じ解説書では、これを最低限の期間としておりまして、実際、第7条(6)で、前記の保護期間よりも長い保護期間を許与する権能を有する、各国はこれより長い期間を定めることができるとされております。これによって複数の国が50年より長い期間を設定しているわけでございます。
 第7条(8)は、こういった場合にそれぞれの国の関係はどうなるのかということですが、保護期間は著作物の本国において定められる保護期間を超えることはないとされておりまして、多少読みにくい規定ですが、要するに、これは相互主義と言われているものでして、例えばある国が70年で日本が50年だったとしますと、日本を本国とする著作物は、そのある国では50年しか保護しなくていいという内国民待遇の原則の例外の規定でございます。
 引き続きまして、3ページの上のところに著作権に関する世界知的所有権機関条約を掲載しております。こちらはベルヌ条約についてインターネット時代に合わせて条約を更新するというような性格のものですが、保護期間は基本的にはベルヌ条約の規定を踏襲しております。要するに、死後50年が最低基準として定められております。
 以下は著作隣接権についての条約でございますけれども、ローマ条約では実演家、レコード製作者及び放送機関について、それぞれ起算点は異なりますけれども、20年より短くてはならないという規定を設けております。こちらにつきましては、その後の条約の更新によって保護期間は延びておりまして、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約でについて、こちらは先ほどのローマ条約の一部をインターネット時代に合わせて更新するというような性格ですけれども、この中では最低基準がそれぞれ50年に延びております。
 条約については以上でございます。
 それでは、この条約の最低基準に基づきまして、実際に各国がどのような保護期間を設定しているのかということでございまして、資料3でございます。
 こちらはベルヌ条約加盟国の保護期間一覧ということで、社団法人日本音楽著作権協会から御提供頂いた資料でございます。ベルヌ条約加盟国ということで、先ほどのように最低限が50年ということですので、50年のところは特段記載しておりません。空欄になっております。御覧のように網かけになっているところが70年以上になっておりまして、アジアではシンガポール、スリランカ、イスラエル、トルコといった国、それからヨーロッパ諸国ですとか北中米でも何カ国か、南米でも何カ国かということで、合計で163カ国の加盟国のうちの69カ国が70年以上ということで設定しているということです。
 その次ですが、資料4は第1回の委員会で大村委員から宿題を頂いていたものです。いつ、各国がどんな事情で保護期間を延長してきたのかについて資料をということで、現在、詳しい背景、事情については外部に委託して調査している最中ですが、分かっているものについてこちらで記載させて頂きました。表の見方ですが、横に入っている網かけの線はそれぞれのベルヌ条約の改正会議のところでして、その年次と、そのときに各国の保護期間がそれぞれどのぐらいだったのかを基準にして資料を作っております。
 まず、条約のところですが、初めて条約上に死後50年という数字が入ったのは1908年のベルリン改正条約ですが、実際にはそれぞれの国がそれぞれ定めていいことになっておりましたので、条約上50年主義が確立されたのは1948年のブラッセル改正条約になっております。
 このような形で、条約上の義務は変遷をたどってきたわけですが、各国ではどうだったのかと申しますと、まずアメリカですが、アメリカは当初、発行後14年、それから更新可能という制度でしたが、1976年に死後50年、それから1998年に死後70年に延ばしております。
 イギリスは、同じように当初は発行後14年でしたが、1911年に死後50年という形に延長をしております。ただ、こちらは前半25年がいわゆる排他的権利で、後半25年は有償公有制度、いわゆる報酬請求権です。こういった形で50年に延ばしたということです。その後、ブラッセル改正条約の後に排他的権利50年という形にしまして、その後、1993年にEUの指令、域内を死後70年で統一するという指令が出た後にイギリスでも70年に延長されております。
 フランスにつきましては、1866年、ベルヌ条約の前から死後50年をとっておりまして、1992年に70年に延長しております。
 ドイツにつきましては、1934年に50年、それから1965年に70年になっております。
 スペインについては、当初は死後80年という期間でしたが、こちらは特殊な形でありまして、登録していない場合は10年で消滅するという登録制の80年でございます。それから、1987年に60年に短縮する改正を行いまして、その後、EU指令を受けて、更に70年に延長するといった変遷を経ております。
 それから、オーストラリアですが、こちらは死後50年から、つい一昨年前に、アメリカとのFTA交渉の結果、死後70年に延長しております。
 それぞれの延長の理由については、先ほど申しましたように、現在、外部に委託して調査中ですが、50年から70年に延長した部分については多少明らかになっている部分がありますので、次に、そちらについて御説明いたします。

【高柳国際著作権専門官】
 それでは、資料4に基づきまして、保護期間に関する最近の議論につきまして御説明させて頂きます。
 まず、欧州ですが、93年にEU加盟各国の著作権の保護期間につきまして死後70年で調和を図るというEU指令が出されておりまして、これ以降、EU諸国では順次法改正が行われてきました。
 EU指令のバックグラウンドですが、まず加盟国間の保護期間の相違がEU共通市場の競争をゆがめる、また、平均寿命が従来よりも長くなっているために、当初想定していた子孫2世代の保護が50年という保護期間ではもはや不十分になったということでして、当時のEUの中で一番長い70年の保護をしている国に合わせて70年にしたと指摘されております。
 なお、著作隣接権につきましては、実演家は50年、レコード製作者は発行後50年とされておりまして、延長の可能性につきましては、まだ期が熟していないということで、市場の動向を更に注視していくということが2004年のレポートで報告されております。
 続いて2ページにまいりまして、英国におきましては著作隣接権の延長について議論がございまして、英国政府では2006年に作成したガワーズ・レビューにおきまして、レコード、実演家の保護については欧州委員会で50年を維持すべきと提言をしております。その理由は、延長しても、50年以上にわたって売られるレコードはわずかということで、投資のインセンティブが働かないとか、あるいは許諾獲得が困難になるなど利用者にとってアクセス性が低下する、更には、貿易収支に関して、英国の場合はこれが悪影響を及ぼすであろうという理由を挙げております。これに対して下院の委員会では、ガワーズ・レビューの分析が作曲家と比べて実演家のほうが小さいことに対して積極的な説明がないとか、米国に比べると短いことを指摘しておりまして、欧州委員会がレコードの保護期間を少なくとも70年に延長するよう政府は働きかけていくべきだと提言しておりますが、これに対して英国政府のほうでは、実質的な反証がないということで、70年延長の働きかけは適当でないと結論づけているところでございます。
 続きまして、3ページにまいります。
 米国の状況でございますが、98年にソニー・ボノ法という法律が制定されておりまして、保護期間を著作者の死後50年から70年に延長されているところです。主な論旨につきましては、米国の著作物が持っている商業的価値を最大限活用することが重要であるということで、そのためにも著作物を適切に保護することで貿易黒字という経済利益を確保していくというものでございまして、EU域内において、相互主義の関係上、米国の著作物がEUの著作物よりも20年早くパブリックドメインに入ってしまっている状況を解消することで、経済利益を確保することが可能になるということでございます。また、保護期間の延長自体につきましては、新しい著作物の創作の促進とか、著作物の保護の動機付けにもなるということで、結果的にはパブリックドメインの量などは増えるとしております。
 なお、これに対しましては、4ページにまいりまして、エルドレッド判決にありますように、既存の著作物の保護期間の延長を繰り返し認めてしまいますと、事実上、永久の著作権のようなものを作り出してしまうということで違憲訴訟がなされていたのですが、2003年に最高裁判所で敗訴が確定しております。
 5ページにまいりまして、保護期間の延長によって権利者の不明な著作物が増加するなど、利用者への負担が増加することに対応する観点から、前回の委員会でも御紹介がありましたが、パブリックドメイン強化法案ですとか、オーファンワークス法案などが提出されるに至っているわけで、結果的にはこれらは取り下げられているのが現状でございます。
 最後に、6ページ、その他の国の動向でございます。
 先ほども説明がありましたが、オーストラリアで2005年に保護期間を70年、韓国でも70年に延長する法改正を行うことになっておりまして、これらの背景といたしましては、米国との自由貿易協定での合意がその要因になっているところでございます。

【黒沼著作権調査官】
 引き続きまして、資料5でございます。
 こちらはEUの延長の背景として御紹介がありましたように、EUでは域内での流通の話の他に、寿命の延長によりまして2世代を保護するのに不十分であるということが1つ挙げられていたわけでございます。それに応じまして、日本ではそれが当てはまるのかどうかというための参考データでございます。
 平均寿命については、昭和25年当時は大体61.3歳ぐらいだったのですが、平成17年で82.09歳になっております。昭和25年と申しますのは、先ほどベルヌ条約で50年主義が採用された1948年に一番近い数字ということです。また、現行法が制定された昭和45年、要するに日本で50年に延長したときから比べると大体10年ぐらい寿命が伸びているということです。
 なお、前回までの意見の中では、寿命は子孫だけではなく著作者自身も伸びるので、相殺されるという意見もありました。その関連で、補足データとして出産年齢の推移についてもデータを載せております。古いほうは父親のデータがないのですが、母親のデータで申しますと、全出産時の平均年齢では当時28.7歳だったものが現在30.4歳と3歳近く遅くなっております。ただ、全出産時の平均年齢と申しますと、子供の数の多寡によっても大分左右されますので、第1子で比べてみた場合には大体5歳ぐらい遅くなっているということです。
 このデータをもう少し可視化的にしたものが、次のページでございます。
 要するに、まず著作者の寿命がありまして、それから出産年齢の分だけ遅れて子孫の寿命が始まるということで、それを右にずらして記載しているものです。それぞれ一番下に黒いバーがございまして、これが保護期間でございますが、死後50年間ということで、その端に太い点線がありまして、保護期間がカバーしているものはこの太線より左側でございます。当初のデータですと、大体2世代をカバーしている形のデータにはなっておりますが、一番下の平成17年ですと、出産年齢が遅くなっている分、保護期間の50年からはみ出している部分があります。ただし、こちらのデータは単純に当時の数字を当てはめて作成したものですので、必ずしも実態を表しているものではございません。その点に御注意を頂きたいと思います。本来であれば、世代が異なれば寿命も当然変わっているわけですので、あくまでもイメージとして捉えて頂ければと思います。
 なお、参考値ですけれども、合計特殊出生率をもとに、世代間をまたいでどれだけ子孫が増えるのかということで、それぞれ数字をバーの最後のほうに載せております。一番上は、1世代で3.7人、2世代で13.3人、3世代は48.6人です。現在は4世代を経ても大体2.0人と、現在の数字を計算すると、そんな形になっております。
 その次のページは、諸外国の平均寿命でございまして、日本の伸び率は突出しているわけですが、大体諸外国でも平均寿命の伸びが見られます。
 次に、資料6でございます。
 こちらは、アメリカの延長理由として貿易の収支といったことが挙げられておりましたが、それに対応する日本のデータでございます。ただ、申し訳ございませんが、いろいろ文献を当たってみましたところ、この統計関係ではあまりまとまったデータが整備されていないようで、いろいろな文献で数値がばらばらでして、ここでは幾つかの文献からピックアップしたものだけを御紹介させて頂きます。
 まず、最初は、著作権使用料の国際収支ということで日本銀行で整備されている統計で、500万円以上海外送金があったときの理由として著作権使用料と挙げられていたものをピックアップしたものでございます。世界計というのは、日本が対世界に対してどのぐらいのという数字ですが、2006年の速報値で約5,000億円の赤字です。アジアに対しても、2000年から急に赤字になっております。下のグラフはそれをグラフ化したものです。主にコンピューターソフトウェア等の使用料と書いてありますが、こちらは特にコンピューターソフトウェアだけではなく、上の表全てをグラフにしたものとなっております。
 本来は、コンテンツの国際取引の力を計るには、こういった現金の移動の他に、物そのものの移動を貿易統計から拾ったり、海外に子会社を設けるなどで直接投資する場合についてもデータを拾わなければ正確なデータにはならないのですが、あまり目ぼしい統計がなくて、とりあえず金銭面の入送金のデータだけを載せております。
 その次のページですが、こちらはコンテンツ別の輸出入の金額でございます。それぞれ出典が違いまして、映画関係は業界の数字でして、音楽CDや出版については貿易統計からとってきたデータですけれども、ざっと見て、ゲームソフト以外はおおむね輸出が多い状況になっております。テレビ番組につきましては、特に金銭のデータがなく、こちらは番組タイトル数でのデータだけですが、こちらも輸入のほうが多い状況になっております。
 次に、資料7は後ほどということですので、先に資料8のを御説明させて頂きます。

【高柳国際著作権専門官】
 続きまして、著作権の保護期間に関する戦時加算につきまして、資料8で説明させて頂きます。
 まず、戦時加算の概要ですが、これはサンフランシスコ条約に基づいて、日本が連合軍に対して負っている義務でございます。連合国及び連合国民が戦前、戦時中に取得した著作権の保護期間に関しまして、戦争開始時からこれらの国との平和条約が発効されるときまでの期間の日数を加算するというものでございます。
 対象国と対象期間ですが、平和条約が発効するときまでにベルヌ条約などによって日本が著作権を保護する義務を負っていた、以下に挙げる国等が対象になっておりまして、その多くにつきましては約10年間余りの保護期間が加算されることになっております。
 なお、過去の取り扱いでございますが、著作権制度審議会におきまして保護期間を50年延長する際、戦時加算を解消できないかという議論がございまして、答申では解消されるべきものとの方向性が出されておりましたが、その後、政府部内で検討した結果によりますと、平和条約の規定におきましてはその時々の著作権法において規定されている保護期間に加算すると解釈されるとのことでございまして、結局、当時延長した50年に更に上乗せをする、加算することになったという経緯がございます。
 なお、その他の状況、とりわけドイツ、イタリアはどうなのかということでございますが、ドイツにつきましては、平和条約という戦後処理の形式ではなく連合国に対する個別賠償ということであり、連合国側に対して著作権の保護期間の申し入れを受け付けたところ、結局、受け付けがなかったということで、実質的に本件に関する問題は発生していないらしいということでございます。他方、イタリアにつきましては、早く降伏していたため、双方の戦時加算の義務が課される形になったのではないかということでございます。したがって、結果的に日本だけが、いわゆる片務的な義務を負っている状況でございます。

【野村主査代理】
 それでは、引き続きまして、都倉委員から御説明をお願いします。

【都倉委員】
 前に、この委員会で国際共同著作に関して私も発言して、海外でいろいろ作品を発表されている平田オリザ委員も御発言されましたけれども、僕も、平田委員も、あまり深い議論をする時間がありませんでした。
 この国際共同著作というのは様々なケースがありますし、プロデューサーであろうと、作家であろうと、あくまでも個人的な判断における行動ですから、一概にこうだと決めつけるわけにいかないのですけれども、今日は、先ほどもちょっとありました作品の本国主義、この作品が最初に公演された初演の国、これをベルヌ条約では本国と言っているわけですが、この本国というものが保護期間とどういう関連性があるか、この表で御説明をさせて頂きたいと思います。
 その前に、これも僕は1回質問させて頂いたのですが、著作物には共同著作物と結合著作物という考え方がありまして、共同著作物というのは、例えば作詩・作曲が1つのものであり、絶対に分離できないものであるという考え方、これはアメリカなどがとっている考え方です。それから、結合というのは、作詞家と作曲家、作詩という作品と作曲という楽曲はばらばらなものであるという考え方です。これは日本とか英国がとっている考え方ですけれども、それをちょっと頭に入れて頂いて、この表の一番上で、例えば脚本、歌詞と楽曲が3者に分かれている、国籍が3つに分かれている場合を考えてみました。
 まず、一番上の米国初演の場合、米国が本国の場合です。日本における保護期間は、もちろん死後50年ということで、これは徹底しております。それから、米国における保護期間も、先ほど御説明がありましたが、国内で70年と規定されています。そして、EU内における保護期間も、それぞれの国がやはり70年ということで、米国が本国である場合は日本の作曲家の作品も70年保護されるということです。
 以下同じでございます。次の英国初演の場合は、やはり英国の国籍のものも、日本国籍のものも、米国国籍のものも、みんな保護期間は死後70年保証されているということでございます。
 そして、一番問題になります3つ目のケースです。日本初演の場合、我々が何か国際的なものを発表する、共同著作を発表するときには、やはり日本初演、日本が本国であるということにするためにもちろん努力をいろいろするわけですが、この場合に、ここに書いてありますように、日本における保護期間は日本国内の規定で50年であると。アメリカにおける保護期間は、例えこれが日本でありましても、アメリカの場合ば内国民待遇、つまり例えば日本が50年しかアメリカの著作物を保護しなくても、アメリカはアメリカの国内で70年、アメリカ以外の国でもアメリカに合わせる、日本の著作物もアメリカでは70年保護されるという規定になっているわけです。問題はEU内における、EU内というよりも、フランスはちょっと例外的なところなのですが、ここでPDがばらばらになるという現象が起こります。つまり、英国はもちろん自分の国内ですので70年、この場合だったら、英国の作詞家は70年保護されます。しかし、日本人は、いわゆる相互主義と申しますか、日本で50年しか保護していないから50年しか保護しません。例えば、EU以外の、例えばアメリカ人でありますとか、あるいは韓国人でありますとか、そういう方が脚本を書かれた場合には彼らも50年しか保護されないということが起こってくるわけです。
 何を僕が言いたいかと申しますと、やはりこれは著作権保護の長短ではなく、50年だろうが、70年だろうがということではなくて、やはり統一することが僕は非常に重要な意味を持ってくるのではないかと考えているわけです。つまり、本国、日本で発表するもの、例えば映画でいいますと、世界同時公開、これもやはりベルヌ条約によって一番保護期間の短い国に合わせなければならないということになるわけです。ですから、世界同時公開ということも、作家あるいはプロデューサーにおきまして日本を本国とすることは非常に不利になってくる、こういう現象が起こってくるわけです。ですから、例えば日本人の作家が自分の作品をとりあえず発表したいといった場合に、保護期間という観点では日本でやらないほうがはるかに有利になってくる。そういう事態が必ず起こってくるわけです。
 ですから、ある意味では、日本は知財立国、情報発信国であると。将来、芸術遺産、文化遺産をやはり日本から発表したいということに対しては、甚だ弊害となってくる保護期間だということになってきます。自分の作品もアメリカで発表したほうが有利である、あるいはイギリスで発表したほうが有利であるということになってきますと、今、例えば映画で韓国も非常に盛んになっておりますが、日本で発表するということはあまり考えなくなってしまうのではなかろうかと危惧をしているわけです。すなわち、日本の芸術活動の空洞化が起こるのではないだろうかと。やはり保護期間は統一して頂いたほうが、いろいろな意味で便利ではないかということです。
 その他にも、特にミュージカルとか舞台芸術というのは、発表の手段が、例えば文化交流、歌舞伎がどこかへ行くとか、ある作品を限定公演で発表するとかいう場合もあります。例えば、新作を2週間どこかの国で発表するというケースがあります。もう一つ、僕はこの間申し上げましたが、世界の商業演劇、OERと我々はよく言いますけれども、オープンエンドラン、つまりクローズの期間を置かず、例えば「キャッツ」みたいに20年間ずっと長期公演する。こういう機会が非常にあって、その期間内に、これは死亡から70年とかい色んなケースがありますから、一概に法期間とは直接関係ありませんが、ロングランの中で1人の作家がPD化してしまう。これは結合の場合ですけれども、これによっても様々な問題が起こり得る可能性があると考えられます。
 例えば、ジェローム・カーンという作曲家がオスカー・ハマースタインと作った「ショウ・ボート」は1927年に発表されたわけですけれども、これは例えばブロードウェイだけでも4回か5回再演されて、1回再演されている期間が4、5年。僕が最近見たのは94年のニューヨークですけれども、もう1927年からです。作詩のオスカー・ハマースタインは1960年まで生きておりますから、これはPDにはなっておりませんけれども、こういう再演、しかも、それがロングランするということになりますと、100年ぐらいのスパンの話になってくるわけで、これは非常に今日的な問題であります。どんどん再演して、その中でPD、例えばT・S・エリオットという1960年に死んだ作詞家の詩に曲を付けたのが「キャッツ」でありますけれども、もしT・S・エリオットがPDになったときに、うがった見方をすると、例えば日本で劇団四季がそれを公演したときに、T・S・エリオットがPDになっていたら、別の「キャッツ」を、そのT・S・エリオットの詩だけをとって、どこかの作曲家が曲を付けて違う作品が作れるという理屈になってしまうわけです。
 ですから、PDというのは、先ほど申し上げましたように作家の死後ですから、保護期間とは関係ない議論にはなってしまうのですが、やはり保護期間というものはある程度揃えておくほうが、いろいろな仕事上は便利ではないかと僕は考えるわけです。
 もし説明の足らないところがありましたら、御質問頂ければと思います。ありがとうございました。

【野村主査代理】
 どうもありがとうございました。
 それでは、もう一つ、今回の直接の議題ではありませんが、前々回に議題となりました権利者情報の管理に関しまして、ちょうど先週、著作権団体協議会のポータルサイト構想の発表があったようですので、本日、三田委員から御報告を頂こうと思います。三田委員、よろしくお願いいたします。

【三田委員】
 お手元に参考資料3が配付されております。これは先週の8月31日に記者会見で発表した資料でありますけれども、著作権問題を考える創作者団体協議会、これは17団体が加わっておりますが、この17団体合同で新しい創作者団体ポータルサイト、正式名称はまだ決まっておりませんが、めどとして2009年の正月からポータルサイトをスタートするということで計画しているということを発表させて頂きました。これは、著作物の利用をする場合の利用者に便利なようにということで作るものですが、本日議題となっております著作権保護期間の延長問題にも関わってくるところでありますので、まず概要を説明いたしまして、それから延長問題とどう関わってくるのかを説明させて頂きたいと思います。
 まず、1ページ目をめくって頂きまして、2ページ目を御覧下さい。
 これは、このポータルサイトは創作者と利用者を結び付けるものであるということで、大変便利なものであるということと、それから現在生きて活動している著作者だけではなくて、亡くなった方、これは御遺族が継承者になっているわけですが、そういうものももちろん入っておりますし、また、既に保護期間が切れてパブリックドメインになったものも記載してありますので、とりあえずこのポータルサイトから入って頂いて、作品名や著作者名で調べて頂きますと、今、著作権というものがその作品に関してどういう状態になっているかが分かるというものであります。
 次に、3ページ目にいきますと、利用者が著作権について調べるという場合に、新たに作られますポータルサイトとは別に、今、経団連が作りつつあるコンテンツ・ポータルサイトというものもあります。これは主に作品を中心にしてデータベースを作るものでありまして、特に小説等に関しましては、出版社が出版権を持っておりますので、出版社のほうから書籍出版業界を通じて経団連のポータルサイトのほうに作品のデータが入っていくということであります。創作者団体のポータルサイトのほうは、著者を中心としてデータベースを作るということでありますけれども、相互に関連し、また相補性のあるものですので、経団連のポータルサイトからもこちらの創作者団体ポータルサイトへ移動できるような仕組みを検討したいと考えております。
 次に、4ページにはこれまでの経緯が書かれております。
 5ページにいきまして、他のものとの関連ということですが、特に今まで既に作られているデータベースがありますので、そういうものとの関連を深めていくことも重要であります。それから、裁定制度というものが現在あります。これについては、文化庁で審議するとともに、社団法人著作権情報センターで広報活動が現に実施されておりますけれども、これに関しましても、文化庁さん及び著作権情報センターと、裁定ということに関しても利用者の利便性を図るような工夫ができないかということで協力関係を深めていき、これらのものと総合的にネットを結び合うことによって、このポータルサイトがオフィシャルなものになっていけばと思っております。オフィシャルなということは、このポータルサイトにとりあえず行けば全ての情報が得られるものにしたいと思っております。このように、著作物を利用したいという利用者にできる限り便利に、簡単に著作物の利用ができる。許諾の申請とか、あるいは許諾の状態がどうなっているのか、パブリックドメインになっているのかとか、それから著作者がいつお亡くなりになったか分かる、そういう便利なサイトを目指しております。
 ただ、17団体ありますので、この17団体の中には現に著作権等管理事業法にのっとって文化庁に登録をして管理事業をやっているところと、そうでないところがあります。管理事業をやっているところでは既にホームページ等で簡単なデータベースがあって、そこで直ちに利用許諾が申し込めるシステムになっております。これに関しては、相互のデータベースがばらばらにならないように調整をして、玄関口となっておりますポータルサイトから個々の許諾申請ができるサイトに気づかないうちに自動的に移っていけるように、また目に見えるレイアウト等もなるべく統一をして利用できるようにしたいと思っておりますし、まだデータベースが整備されていないようなところは17団体で協力をして、一定のレベルのデータベースを作っていきたいと思っております。
 このポータルサイトと、それから保護期間の関係ですけれども、これまでもこの小委員会でヒアリングを重ねてまいりました。そうしますと、やはり50年を70年にするということになりますと、大変業務に支障が出ると言われる方が現に幾つかあったことは事実であります。例えば、国会図書館で明治時代の出版物をアーカイブするといったときに、没年が分からない作者が非常に多いわけです。それから、著作権継承者の所在も分からないものも非常に多いということになります。我々でもこの継承者についてできる限り努力をして探し、登録者を増やしていきたいと思っておりますけれども、パーフェクトにすることは実質上不可能であります。そこで、やはり現行の裁定制度を一つの柱として、このポータルサイトと裁定制度の両輪で利用者の利便性を図っていかないとうまく機能しないのではないかと考えております。
 何が問題かというと、このポータルサイト、幾らデータベースを充実させても、どうしても分からないものが出てくるわけです。現行の裁定制度では1万5,000円とか、そういうお金を払って文化庁に申請をするわけですけれども、それに先立って著作者の継承者を探す相当の努力をしなければならない。一件一件について、国会図書館あるいは大学図書館等が相当の努力をしなければならない。これは手間もかかりますし、その作業をやる人、大学の先生とか、そういう人がやるとすると、その人の時間給みたいなものを考えるとコストも非常にかかってきます。ところが、書籍のアーカイブというのは無償の行為でありますから、利益を全く生まないものについて非常にコストをかけることは非合理であります。
 また、同時に著作者の立場からしても、自分の作品あるいは先祖の作家の作品が国会図書館でアーカイブされるとか、大学図書館でアーカイブされて、それが例えばネットを通じて世界の人々がそれを読むことができるというのは、もう既に経済的な利益がなくなっているものに関してそういう形で作品が世に残っていくということは、御遺族にとってもむしろ大変歓迎されるべきことであります。また、行方不明の作者の作品を復刻版として復刻する場合も、後で本人がまだ生きていたというような場合でもほとんどのケースではその著作者は大変感謝する、ありがたいというのが通常であります。そういうことを考えますと、現行の裁定制度は値段もかかるし、大変に利用者に重い責務を負わせていて、現実的ではないのではないかなとも考えます。
 そこで、我々としては、相当な努力というものに相当する部分を我々著作者が相当な努力をして探すということで対応できないかと考えております。具体的には、このポータルサイトの中に情報を交換するような書き込みの部分を作りまして、こういう作者を探しているのだというようなことを掲示すると同時に、これについて情報を知っている人は情報を寄せて頂きたいということをやる。そうしますと、利用者がこれを利用して相当な努力を払う。実際には、そこへ書き込むだけでいいということで、一々色んな資料に当たって電話をかけたりして探す努力ではなくて、このポータルサイトを利用することによって非常にたやすく相当の努力を払うことができることになるだろうと思います。
 現行の裁定制度では、そういう相当な努力を払った後に文化庁にお金を払って申請を出しますと、以前は新聞広告を出せという過酷な責務がありました。現在は著作権情報センターのホームページにリンクを張ればいいということになっておりますけれども、これでも2万円お金がかかります。これも著作権情報センターと協議をいたしまして、このポータルサイトへの書き込みと交流をする、あるいは書き込みのところに掲示することが同じ意味を持つというように文化庁さんに認めてもらえれば済むわけです。このポータルサイトへの書き込みは全く無償でやることを計画しておりますので、そうすると、その2万円も要らなくなるということなので、文化庁に申請するときのお金ももうちょっと安くしてもらえば、利用者にとって非常に利便性の高い裁定制度になるだろうと思います。
 更に、現在はそういう相当な努力を払って、それから著作権情報センターにも公示をした後に、文化庁で委員会を開いて、それで供託金を決めるということでありますけれども、日本の場合、例えば本を出した場合の印税率というのはほとんど一定なのです。ほぼ1割ということで決まっておりますし、二次利用に関しましても、著作権等管理事業法によって文化庁に値段を登録しなければならないことになっております。ですから、利用料金は一定です。ですから、映画のような、プロダクションが作って、後でプロダクションの後継者が分かったときに幾ら請求されるか分からないというような特殊なものを除いて、一般の二次利用、復刻版を出すとか、あるいは教材、国語の問題集に使うとか、そういう利用料の分かっているものについては一つ一つ個別に会議を開く必要はないのではないかなと。一定のガイドラインを作っておけば、自動的に、では、これだけ供託しなさいということでいけるのではないかなと思います。
 そうしますと、利用者が申し込めば、直ちに一定の基準に照らし合わせて、もうアーカイブしていいよとか、そういう形でアーカイブ事業や復刻版の出版ができるようになるということになりますと、今、利用者が50年で著作権が切れたから利用できるというようにして利用されているものについても、この新たな裁定制度と、それから創作者団体のポータルサイトで掲示をして、利用者の利便性を図るということの二本立てでほぼ問題は解決するのではないかなと考えます。
 私どもとしては、50年を70年にすることによって利用者に御不便をかけるということは大変心苦しいことでありますし、また日弁連のほうからも、もし70年に延長するならば利用者の利便性を図りなさいという提案もなされております。それに応える形で、この新しい裁定制度の提案と、それから、このポータルサイトをできるだけ早く実現したいということで、今回この発表をさせて頂きました。
 以上であります。

【野村主査代理】
 どうもありがとうございました。
 それでは、残りの時間で保護期間について議論をして頂きたいと思いますが、その前に、ただいま御発表頂いた都倉委員、三田委員の御発表内容につきまして御質問がありましたら、お願いしたいと思います。
 中山委員、どうぞ。

【中山委員】
 三田委員にお伺いしたいのですけれども、これにはかなりの額の金がかかるのではないかと思うのですけれども、その費用の点の裏付けはどうなっているのでしょうか。

【三田委員】
 ポータルサイトというと、ヤフーみたいなものをお考えになるかと思いますけれども、私が言っているのはその入り口という意味でありまして、入り口を作り、そこに書き込みとか何らかの検索ができるような部分を付けるということであります。実際の許諾を与えていく部分は、現在、著作権等管理事業をやっております各団体のサイトに自動的に飛んでいくということで、このポータルサイトである程度調べてから、その部分をクリックすると各団体の著作物利用の申し込みのサイトに飛んでいくということであります。現行の各団体が既に作っている許諾システムの上にこのポータルサイトの部分をかぶせるということでありますので、費用はほとんどかからないと考えております。

【中山委員】
 そういたしますと、現在17団体がある。それをそのまま使う。ただ、入り口は1カ所になる。それだけのことでしょうか。

【三田委員】
 それだけのことと言ってしまいますと、それまででありますが、大変利用者にとっては便利になると同時に、書き込みの部分で、この入り口が非常にポピュラーなオフィシャルなものになって、マスコミの方々等にも御協力を頂いて、とりあえず著作権に関して使いたいということであれば、このポータルサイトへ行けばいいということになり、またそこで不明なものがありましたら、そこに書き込みをして頂くことで利用者と著作者の交流の場になれば大幅に前進するのではないかなと考えております。

【野村主査代理】
 よろしいですか。津田委員、どうぞ。

【津田委員】
 そのポータルサイトの報道を見ましたが、そのポータルサイトの構築の費用は大体予算が200万から300万ということを記者会見でおっしゃっていたと思うのですが、現実的にポータルサイトという形でアクセスが集中して、各団体のデータベースをつなげるという形になると、多分200万、300万というのは現実的なコストとしては、かなり安過ぎるのではないのかなというのが、まず1点、疑念としてあります。
 あと、こちらの参考資料の1−4、10ページで挙げられている権利者情報に関しても、今、死亡年月日のデータを持っているのが17団体のうち5団体しかない状況がある中で、それで単に入り口でしか機能しなくて各団体のデータに行って、許諾などもそこでできるわけではないという状況で、それがどれだけ著作物の許諾ですとか、権利者情報の検索に有効に機能するのか疑問があるというのがもう1点です。
 もう一つ、三田委員のほうから情報交換システムを使って、フォローがあれば大幅に前進するのではないのかというときに、提供される情報の正確性の担保はどうするのかというところで、そこのところでたぶん正確性を確認するところのコストがおそらく一番かかる。まさにそこのところは200万、300万とかではできない部分ですから、情報の正確性が担保されない限り、三田委員のおっしゃったように大幅にという表現はちょっと大げさなのではないのかなという気がしました。
 以上です。

【野村主査代理】
 他に御発言ございますか。それでは、梶原委員お願いします。

【梶原委員】
 裁定制度についてはかなり前向きで、その面では利用者の利便性ということがあるでしょうが、ポータルサイトの部分をいいますと、現在も管理事業をやっていらっしゃる団体がほとんどなので、そういった意味でいうと、例えば放送番組のコンテンツの流通を考えた場合にはあまり現状と変わらないのかなと。ここでも書いてありますけれども、課題として、やはり団体に所属していない方々の情報、特に文芸の分野などはかなり管理されている作家の方が少ないので、やはりそこのところは大きな課題としてあって、これによって大幅に利用者の利便性が図られるとは思えないということであります。

【野村主査代理】
 それでは、金委員。

【金委員】
 ポータルも、新しい裁定制度も、著作物の利用を促進するという意味で非常に有益な取組みだということは、私自身も認めているのですが、それと保護期間延長をつなげていくところは無理があるのではないかと思うのです。保護期間延長によって起き得る障害、例えば著作権関連の情報へのアクセス、その検索費用、また契約費用、その契約を締結された後のモニタリング費用といった取引費用が超過する。それをこうしたポータルサイトと裁定制度を改めることによって取引費用を削減するというようなことをお話しされたのですが、実際、今までポータルサイト、または裁定制度の改善については様々な議論が行われています。しかし、実効性を持ったインプリメンテーション(実施)は今までほとんどなかったのではないかと思います。そういう意味では、もし裁定制度とポータルを保護期間延長問題をつなげて議論するのであれば、先にこうしたポータルを構築をして、裁定制度を改めて、その実効性が出た段階で保護期間延長とつなげていくのが順番としては正しいのではないかと思います。

【野村主査代理】
 佐々木委員、どうぞ。

【佐々木(隆)委員】
 裁定制度に言及されていまして、確かにこれが先生のおっしゃるとおりの機能をすれば大変利便性が高まると思うのですが、これの具体的な実現性というか、これが実現するための具体的なアクションプランとか、そういうところには触れていらっしゃらなかったようですが、その辺はいかがでございましょうか。

【野村主査代理】
 三田委員、何かございますか。

【三田委員】
 この小委員会で既に裁定制度についても随分議論が深まっていると思っております。この小委員会は、利用者の利便性をどうやって図るかということと、それから権利者をどうやって守るかということを話し合っているわけですから、更にここで話し合って、その話し合いの意見を踏まえた上で、文化庁さんにも何かアイデアを出して頂くということで進んでいけるのではないかなと考えております。

【野村主査代理】
 それでは、このポータルサイトについては、ここで議論する場でもございませんので、以上にしたいと思います。
 残り1時間弱でございますけれども、次に、保護期間の在り方及び戦時加算の取り扱いについて議論を進めたいと思います。
 基本的に、資料1の検討課題ごとに順次議論を進めたいと思いますが、これまでの意見については参考資料1の12ページ以下に整理されていますので、そこも適宜あわせて御議論を頂ければと思います。瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】
 いろいろ錯綜して―錯綜したと言っては申しわけないですけれども、経団連のポータルサイト、または創作者団体提供のポータルサイト、その他いろいろなことがございます。が、先ほど金委員のおっしゃられたように、今回の延長議論とは一線を画するお話でございます。確かに、あったら便利になるし、1つだけ御留意頂きたいのは、今までは権利者は勝手に使ってもらえばいいという風潮が実は少しございました。けれども、権利者自身が自分の情報を自ら積極的に公開しようという時代になった、そういうことは言えるかと思います。これは、私が最近感じる権利者の一番大きな変化だと思います。
 今回の延長の問題に関しましては、まず文化論がございました。要するに、文化サイクルをこれによって損なうのではないか、もしくは促進するのではないかという議論でございます。ただ、私が思いますに、文化というのは非常に主観的、また客観的になかなか定義しがたい部分があると思います。今回、著作権の問題ですので、著作権法の最初の第1条の目的の中に、学者の先生方がたくさんいらっしゃる中で僣越ですが、少なくとも保護をもって文化の発展に寄与する、保護イコール文化の発展であるということが明示されているということを前提に、今回、私は文化論について議論から外すべきなのではないかと思います。
 もう一つ重要なことは、ECが実際に70年に延長したように、これを延長することによってどれだけのマイナスがあるのか、または延長すべき理由が、EUがやったように我々にとってそれがちゃんと当てはまるのか、それとも当てはまらないのか。そういう個別のことについてきちんと勘案をして、そしてまた平準化という議論をしていくべきではないでしょうか。
 私は平準化をするべきだという論を持っていますが、平準化とは何なのか。世界の、先ほどの国数でいけば、少ない、でも実際にコンテンツを作っている国の数からいったら、私はやはりほとんどの国が70年であると思いますが、これについても異論はあるかもしれません。でも、ここら辺の勘案、要はきちんと、それを変えたときと変えないときとどれだけプラスマイナスがあるのか、今、なぜ変えるべきなのか、または変えないべきなのかについて、集中的に皆さんの御意見の中で出てきたらいいと思います。
 私の意見を最初に述べますと、やはり今まで有体物、いわゆる物品の流通であったコンテンツ、例えばCDとか、そういうものがネット上で世界中を流通する時代に、やはり日本が日本におけるサーバーからの発信で海賊版的なことをしてはいけないだろうし、そして、何よりもみんながフェアな中で、世界中きれいに流通していくネットのコンテンツで迎えるべきであろうと。そのためにも、今、日本は70年にするべきだと思っております。
 その後、実際に日本が70年にしても、実は損をするだけではないかとかいう経済論とか、いろいろございます。また、日本は世界と違った方法でコンテンツを守ったらいいのではないかという論もあると聞いております。ただ、今、私は日本の精神文化、少なくとも何かを作っている創作者として、そういうものが世界にどんどん発信される必要がある、そういう時期に来ていると思います。そのときに、やり方が日本的なのではなくて、日本の文化がどんどん世界に出ていって欲しいし、それが国策にもかなっていると思います。それを容易にするためには、やはり保護期間を延長すること、そしてまた、それと同時に戦時加算のような脱戦後、やはり著作権だけ戦後のままではなくて、脱戦後を各国の理解の中で様々な手段を講じて乗り越えていく時期に来ているのではないかというのが私の考え方です。
 以上です。

【野村主査代理】
 どうもありがとうございました。金委員、どうぞ。

【金委員】
 今の発言の第1点目についてお話ししたいと思うのですが、今おっしゃっていたのは、第1条は保護をもって文化の発展に寄与するということは正しいと思います。ただ、そのときに保護という言葉の意味は、完全保護を意味するわけではないと思うのです。適正な保護水準を決めることによって文化の発展に寄与するということだと思います。そういう意味では、保護の範囲、その保護の強さ、また、ここで議論されている保護の期間は何が適正なのかという議論が焦点になっていると思うのです。
 今、50年から70年ということに慎重な人々は、別に保護をゼロにしようという議論ではなくて、文化の発展のためには現状の死後50年というのが適正な保護水準ではないかという議論であると思います。そういう意味では、一番大前提に立っているところは全く同じところにあって、ただ、ここで議論されているのは適正な保護水準は何かということについて様々な状況、文脈を含めて議論する場であると思います。

【野村主査代理】
 他に御意見、いかがでしょうか。三田委員、どうぞ。

【三田委員】
 先ほど金先生が言われました、裁定制度とかポータルサイトを実際に動かしてみて、それから延長問題について考えればいいのではないかという御意見がありました。確かに、それも貴重な御意見ではあるのですが、著作権というのは私権であります。私の権利の修正でありますので、一般論として著作権がどうあるべきかということの議論とは別に、個々の著作者及び著作権継承者というものがあります。全体を考えているうちに、個人の権利を侵害することがなるべくないようにして頂きたいと考えております。
 例えば、谷崎潤一郎や江戸川乱歩、梅崎春生とか、こういった人々の作品が10年以内に切れてしまいます。横山大観はあと2年で切れるとか、あと2年後に切れる人、3年後に切れる人、4年後に切れる人がずらっと並んでおります。谷崎潤一郎や江戸川乱歩に関しましては、文藝家協会で扱っている二次利用だけで年間数百万を御遺族の方が受け取っているのが現状であります。これは10年たっても変わらない、大変人気の高い作家であります。
 同じような時代に亡くなったヨーロッパやアメリカの作家の著作権が保護されているのに、同じ先進文化国である日本で、もうパブリックドメインになりましたから、もうお金は払いませんよという形で御遺族が毎年受け取っていたお金が突然もらえなくなるということは、その御遺族の方々にとっては大変ショッキングな出来事であろうと思います。管理事業をやっている者としては、できる限りの努力をして個々人の御遺族の方の権利を守っていきたいと思いますし、また、そうやって文芸家協会が御遺族の権利を守っていくということは、作家たちにとって、我々の権利が守られているのだなということが死後100年たっても人気のある作品を書こうという作家のインセンティブをもたらすものだと私は考えております。
 それから、もう1点、この資料の最初のほうに、もう一つ別のやり方があるのではないか、例えば50年切れたものについて報酬請求権だけにしろとか、そういうことが書いてありました。それから、例えば登録制にしなさいとか、そういうこともあります。これに関して、確かにもう経済権が消失して、特に権利を主張しない人は、実はたくさんあります。ですから、そういうものについてもわざわざ著作者や継承者を探す手間というのは大変にロスになるわけです。我々が考えておりますポータルサイトでは、作者の中にはもう自分が死んだらパブリックドメインにしてくれというような方もいらっしゃいます。また、もう経済権がないのだから、青空文庫みたいなものにどんどん出して欲しいという御遺族もいらっしゃいますので、そういう意思表示をこのポータルサイトでやっていきたい。例えば、ネット上への公開はオーケーだけれども、100円ショップで売るのはまずいとか、そういう意思表示です。
 意思表示に関しましては、ネット上に関してはいろいろ記号を付けるとか、そういう計画もなされておりますけれども、クリエイティブ・コモンズのプランというものがあります。これは割合にネット関係が中心になるだろうと思うのですが、我々が作るポータルサイトでは、過去に本の形で著作物を出したような人に関する意思表示に関しましては、このポータルサイトが非常に役に立つだろうと思います。登録制にしろと言っている人に対して、実質的には登録と同じように、我々はまだ経済権が欲しいという人は、そのままデータベースに出しておけばいいわけですし、もう経済権も要らない、自由利用していいのだという人はそこに自由利用の登録をしておけば、利用者はそれを見るだけで、ああ、もうパブリックドメインになっているから使えるのだという形で利用が進んでいくだろうということで、このポータルサイトをうまく活用して頂ければ、多くの懸念が解消されると考えております。
 以上です。

【野村主査代理】
 他に。平田委員、どうぞ。

【平田委員】
 今の三田先生の御意見を伺っていますと、文藝家協会は二、三人のごく少数の御遺族、しかも、おそらく四、五十歳を過ぎているであろう、経済的な基盤も確立している、要するに教育期間中とかではない御遺族のためにこれだけの大きな改変をし、多くのあいまいな、このまま埋もれてしまうけれども、著作権保護が切れれば自由に使えるものを使えなくするということを主張なさっているように聞こえるのですけれども、そのことを本当に御遺族が皆さん望んでいらっしゃるのかどうか。そう思うとおっしゃられているのですけれども、そこら辺の根拠が何かあるのならば、お伺いしたいと思っております。

【三田委員】
 平田さんが欠席のこの小委員会のときに既に御報告しておりますけれども、これは1人や2人ではありません。もちろん御遺族が分散している場合は分けるわけでありますけれども、1人の著作者で100万以上の二次利用がある方は、そのときに発表しました。今はもう忘れてしまいましたけれども、100人とかです。10万円以上に限ったら何百人といらっしゃいます。

【平田委員】
 この10年で切れる方がですか。

【三田委員】
 いや、御遺族の方全部です。平均はそうです。

【平田委員】
 それはそうでしょう。この10年で切れるのは、先ほど例に挙げたのは谷崎先生と江戸川乱歩先生ですね。

【三田委員】
 これは個人情報でありますので、この人は何万円と申し上げることはできませんけれども、決して1人や2人ではないということは申し上げておきます。

【平田委員】
 いや、この10年でとおっしゃられたので、この10年で切れる方がそんなにたくさんいらっしゃるのですか。

【三田委員】
 切れる人がたくさんいるということは事実であります。

【平田委員】
 切れて、そんなに売れている人はそんなにいないのではないのですか。

【三田委員】
 いや、かなりいます。資料が必要ならば提出をいたしますけれども、1人や2人ではないということです。

【野村主査代理】
 それでは、中山委員、どうぞ。

【中山委員】
 谷崎潤一郎や横山大観の権利が切れて遺族に金が入らなくなるということが、それほど悪いことなのでしょうか。つまり、今までも十分儲かっているのに、よりたくさんもうけたいということなのではないですか。こういう趣旨はわかります。誰だって金が欲しいですから、それはわかりますけれども、もう十分もうけたものが、期間延長でより一層利益を得るというだけの話であって、それほど谷崎潤一郎の孫だか、ひ孫だかを保護する必要があるのでしょうか。おじいさんが偉かったから、孫がのうのうとして収入が入るというのは、本当に社会正義でしょうか。
 保護期間については、権利の期間を決める確定的な理由というものはないので、子供とか孫とかいうことも確かに言われましたけれども、本当に著作権というのは孫の生活を保障するものなのでしょうか。もしそうならば、いろいろな問題がある。例えば、人間の寿命が延びているのも一つの要因かもしれないし、逆に言えば、少子化になっているわけです。孫が、昔10人いたのが3人になっていれば、3倍取り分があるわけです。そんなことも全部考えなければいけない、本当にくだらないことも全部考えて勘案しなければいけなくなるはずです。孫まで保護することによって創作家のインセンティブがあるのか。インセンティヴがあるのならば、私は期間延長も結構だと思うのですが、孫やひ孫の収入を考えて小説を書くとか論文を書くとか映画を作るという人が一人でもいるのでしたら、私はぜひ知りたいのですが、まずそれはないだろうという気がします。したがって、十分もうかっている人の権利が切れてしまう例を挙げて、だから困るという理論はおかしいのではないかと思います。

【野村主査代理】
 瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】
 前にもありましたが、誰かが切れてしまうとか、誰かが切れてしまうと困ると。いろいろな事情はあると思います。それは、売れている人もいるし、本人が死んだ時点で全く忘れられてしまっている人もいるだろうし、いろいろなことがあると思います。いろいろなことがありますけれども、私は、今回の話はそういう話ではないだろうと思います。
 寿命の問題はあると思います。EUの中でも寿命の高齢化によって、孫まで保護するべきなのかどうかという今の中山先生のお話、これは一つの投げかけとしてあると思いますが、現行では孫まで保護する、孫まで残すという趣旨で言っているのではないのではないかと思います。それ自体を中山先生が、息子でいいのではないか、もしくは娘かも分からないけれども、子供でいいのでは、孫まではやることが良くないのではという論であれば、それはそれとして一つの要素でしょう。けれども、現実的な延長の問題としては、全て孫までということでずっと来ておりますし、長寿化によって延長すべきという論がある。これは皆さんも御理解頂けると思います。
 そのときに、目先の、目先と言ったらいけませんけれども、具体的な利益で誰がどうとかこうとか、何人いるとか、そういう話ももちろん大切なことかもしれませんが、私はそうではなくて、今、日本の国として著作権法を変えるにあたって、どういうことかという方向に議論を向けていって頂かないと、細かな例を1つずつ言っていると、いつまでたっても論が進まない。
 私は、一番最初の論と今の論はあまり進まないような気がいたしますので、今ここで日本という国が著作権を変えるときに、EUなり先例、もしくは世界情勢もしくは日本の国策などを考えて、また当然、権利者からの要望、またそれに反対する方々の要望、そういうものを勘案した上で、どうすべきかについて少し絞った議論をお願いできたらと思います。

【野村主査代理】
 三田委員、御発言ございますか。

【三田委員】
 いつの間にか議論が孫の話にいってしまいましたけれども、現在、あと10年で切れるという作者の場合、奥さんがまだ生きているというケースがあります。それから、お子さんはほとんど生きていらっしゃいます。ですから、孫の問題ではありません。お子さんが生きているのに、父親の著作権が切れてしまうということであります。この問題は、文学が盛んな先進国でも同じような議論がなされたと思います。子や孫にその権利を伝えることはいかがなものかと言った人はいらっしゃるだろうと思いますけれども、文学の盛んなヨーロッパの、モナコを除く全ての国と、アメリカ、オーストラリア、それから南米も文学が盛んでありますけれども、ほとんどが70年になっているということであります。そうやって文化を守っていこうというのがそれらの国の方々の考え方でありまして、決して孫だけを優遇するということではなくて、みんなで作品を大切にしよう、必要ならば、それなりの対価を払っていくべきではないかとみんなが考えた結果、これらの先進国では既に70年になっているということでありまして、日本だけ孫を大切にしないような文化があるとは私には思えません。

【野村主査代理】
 金委員、どうぞ。

【金委員】
 今の議論は遺族の話が1つと、もう一つは国際的に欧米に合わせる必要があるのではないかという2つのことが議論されていると思うのです。
 1つ、遺族に関しては、この場においては、より大局的な視点から議論する必要があるのではないかと思います。先ほど平田さんの話の中で、この10年間に切れた、また切れようとする著作物の中に経済的な価値がまだ残っているのはどれぐらいのパーセンテージかという話があったと思うのですが、おそらく切れるものはたくさんあるでしょう。しかし、その中でまだ経済的な価値を持っているのは、おそらく1パーセント以下だと思うのです。0.何パーセントだと思います。しかし、そうしたごく一部の著作物のために保護期間を延長すると、残りの99.何パーセントの潜在的な著作物の利用が阻害される恐れがあるということを念頭に入れる必要があるのではないかと思います。
 もう一つは国際標準の話でありますが、日本と欧米との間で著作権制度の違いはおそらく保護期間延長問題だけではないと思うのです。様々な違いがあると思います。それは、おそらく欧州とアメリカの間でも様々な制度の違いがある中で、なぜ選別的に保護期間延長問題に限って欧米に日本が合わせなければいけないのか。その他の部分についての議論はどこに行ったのかということについて考えて頂きたいと思います。

【野村主査代理】
 里中委員、どうぞ。

【里中委員】
 いろいろ議論になりますと、どうしても直接創作をしている者と、創作物を利用する立場の方とでは多少感覚的な違いがあるかなと感じております。
 私は、経済的なことだけではなくて、個人的には保護期間延長に賛成ですけれども、その根本的な理由は、どういう二次利用のされ方をするか、そこで作品世界が汚されたと感じる遺族がいたら大変な不幸である。現実に、前も申し上げましたが、私どもの世界においては今でも著作権法を違反していろいろな形で、本当はいけないことですけれども、二次著作物が生まれております。大変心を痛める状況もあれば、それを気にしない作者ももちろんいます。著作者というのは様々ですから、著作者全般がこうだとか言い切ることはできませんけれども、中には生きている間から、自分はフリーに使って頂いていいという人もいて、あるいはそうではない方もいて様々ですから、やはり皆さんがどのようなお考えをお持ちかという情報がまとめられて、先ほどから三田委員がお話しになっているポータルサイトがきちんと構築されていきますと、こういうのも育っていくものですから、使いやすくなる、利用しやすくなると思います。
 そして、先ほどから、子や孫に遺産を残さなくてもいいではないかというお話もあります。もちろん、遺産のことを考えて、子や孫に何らかのものを残したくて創作しているものは、ほとんど皆無に等しいと思います。全て、やはり自分の創作意欲と、世に何か問いたいという姿勢で一生懸命書いているわけです。しかし、その結果、何を生むかといいますと、この社会の中で安定した職業についている方はお給料を頂き、退職金も頂き、財産を残し、そして財産を大変築いた方は子や孫にも残っていくわけです。土地とか山林とか株券とか、残っていくわけです。相続するときにそれなりの相続税は取られます。目減りしていきます。だけれども、やはり孫の代ぐらいまでは残るのではないかなと思います。創作者だけが生きている間、何の保障もなく、退職金もなく、形にならない財産を残して、それが形のある財産を残す人と差があっていいのだろうかという気は少ししております。
 重ねて申し上げますけれども、創作者自身が孫にまで残せるから頑張ろうと思ってはいないとは思いますが、他の分野の給与なり報酬を得ている方たちと同等ぐらいのものは孫に残しても、別に構わないのではないか。決して金もうけしたいとか、孫を食べさせたいとか、そこまでではありませんが、相続税が高いと言われる日本ですら、孫やひ孫に、土地は目減りしながらも残されていきます。そのことが不当でないと思われるのであれば、創作者も孫やひ孫に少しは残っていっても罰は当たらないという感想は持っております。
 いずれにしましても、保護期間の問題は、作者自身も長寿で寿命が延びたと同時に、遺族も寿命が延びている。直接知っている配偶者や子供や、あるいは孫も直接知っているであろうおじいちゃん、おばあちゃんの書いたものがこんな形で使われたくないと思う心の痛みを少し想像して頂けたらなと、創作者の立場から思います。
 ちょっとずれてしまったかもしれませんが、お許しください。

【野村主査代理】
 それでは、先に中山委員。

【中山委員】
 今の里中委員の話ですけれども、こんな形では使って欲しくないというのは人格権の話であって、人格権は財産権とは関係なく、2親等、つまり孫、兄弟姉妹まで行使できるわけです。今議論されているのは財産権の問題ですから、これはちょっと話が違うのではないかと思います。人格権には死後50年という制約はありません。兄弟姉妹、孫まで、同一性保持権の侵害で訴えることはできるわけです。その問題と財産権の問題、つまり独占的な利潤を上げることができる期間の問題

【野村主査代理】
 それでは、津田委員、どうぞ。

【津田委員】
 今の里中委員のお話で言うと、国際標準、グローバルスタンダードというところにも関わってくると思うのですけれども、今、日本のサラリーマンの人も退職金が出ない企業とかがとても増えていますよね。いわゆる成果主義が非常に増えてきて、年俸制になって退職金も出さないという企業も非常に増えてきている状況があるときに、僕はそんなに創作者とサラリーマンの違いもないなと思っています。
 また、創作で得た創作者が株券を買って、土地を買って子に残せばいいのではないかなという個人的な疑問としては1つあります。
 あと、もう1つ、金委員のお話とも関係するのですが、やはりアメリカと欧州、ヨーロッパでも著作権制度は非常に異なっている。例えば、著作権保護期間だけでなくて、例えば著作権侵害をしたときの罰則も国によって全然違いますよね。日本は去年の著作権法の改正で非常に罰則が強化されて最高10年とかまで許可されていますから、これは国際的にもたぶんとてもきついですよね。多分世界的にも一番厳しい罰則を設ける。先ほどの瀬尾委員の話でいえば、罰則という意味で保護水準が高くなっている。ところが、保護期間は50年だけれども、罰則は最大10年というように長いという意味で、そういう意味では非常に揃っていない。
 ばらばらという話でいうと、先ほどの都倉委員の資料7で、このように日米英で著作者で共同で創作したミュージカルの保護期間が揃っていない、これを揃えたほうがいいのではないのかというお話があったと思うのですが、現状、日本が死後70年に延長したとしても、やはり米国の保護期間は相互主義を排除していますし、現実に揃わない。細かい部分で最終死亡著作者なのか、脚本家のところへ行ってばらばらになっている時点で、どっちにしろ揃わないという状況は、50年にしろ、70年にしろ、多分当分は続くという状況があったときに、それを70年に揃えたところで揃わない、ばらばらだろうという状況は当分続いてしまうのではないのか。それは70年に揃える理由にならないのではないのかなというのが1点あります。
 もう一つ、最後に、国際調和が必要だと言われる、瀬尾委員でも、都倉委員でも、三田委員でもいいのですけれども、権利者の方にお伺いしたいのですが、そういう著作権制度について国際間で非常に細かい部分でばらばらという状況があるときに、それをハーモナイゼーションしていく必要があるのであれば、それはこういった場で話すというよりも、まずWIPOで議論して、その結果に従うのが筋なのではないのかなと僕は思っているのですが、そのあたりはどうでしょうか。

【野村主査代理】
 都倉委員、どうぞ。

【都倉委員】
 今、津田委員にお答えしますと、私は、さっきも申しましたように純粋な芸術のためにやっている。これはみんな我々作家というのはそういうものがあって、例えば子供に残すとか孫に残すとかいうのは一切関係なく、そのときに完結しているエネルギーとか情熱みたいものがあって創作物ができるわけです。
 ただ、僕は、平準化議論というのがすごく日本的だなと思いながら今の議論をずっと聞いていたのですが、谷崎潤一郎だろうが、誰だろうが、神からもらった一つの希有な才能と、大いに努力、本当に僕は多分才能は99パーセントの努力だと思っているのですけれども、そうして世に出た人は、稼ぎまくるどころか、子孫、未来永劫莫大な財産を築いたって何も悪いことはないと思っているのです。それを誰が取り上げるとかいうことは、社会的なシステムの中で、社会主義的な平準的な考え方をするのであれば別ですけれども、こういう自由な世界では問題ないだろうと思います。
 ちょっと余談になりますけれども、日本というのは、例えばレコード大賞といっても作曲賞をとると歌唱賞はとれないとかですね。アメリカを見ていると、アカデミー賞は7部門独占とかいうのがあるわけです。だから、僕は子供に残すとか、孫に残すとかといった平準的な議論というのは必要ないのではないかと思います。僕は、ひ孫にまで残そうが、その人が持ち得た才能と努力とによって花開いた技術というのは、例えばピカソの末裔は何代にもわたって億万長者の生活を多分続けていくと思います。僕は子供がいませんけれども、僕の稼いだ印税は、僕が死んだ後、何年だろうが構わないのですが、やはりそれによってまた新しい才能がある、そういうところに自由にある特定の財団なり、子供がいたら子供が使って欲しいという希望もあるわけですから、僕はあまり平準的な議論にはくみしたくないと思います。
 それから、さっきの津田委員の質問にお答えいたしますと、世界のマーケットというのは、先ほど僕が説明しましたけれども、アメリカは共同著作物、おっしゃるとおりそうなのですが、全体の音楽を含めた、映画も含めたエンターテイメントで、これは経済省の数字ですけれども、日本一国で、今、ドイツとイギリスが一緒ぐらいのマーケットです。アメリカは、そのEUと日本を合わせたマーケットなのです。ですから、EUというのは全世界の市場の38パーセントぐらいの市場があるわけです。そこで、やはりさっき言った保護期間が不都合になるということは、やはり僕は弊害なしとは絶対に言えない。僕は予測でしか言っていないのですけれども、日本が空洞化するという現象は必ず起きると僕は考えて、さっきの数字を申し上げたわけです。

【野村主査代理】
 他にいかがでしょうか。平田委員、どうぞ。

【平田委員】
 以前、ヒアリングの際にも弁護士の福井先生から、そういった保護期間が違うからといって契約上問題になるということは、まず考えられないのではないかという話がありました。今、福井先生はおそらく日本の国際的な著作権ビジネスの第一人者の一人ですから、おそらくそういう経験がない、またそれも想定できないとおっしゃっているわけですから、その意見を尊重すべきなのではないかと思っております。そしてまた、私自身も自分の経験から、そのように申し上げました。
 前回は、それはショービジネスの世界ではあるのだとおっしゃられたのですけれども、今回は、今はないかもしれないけれども、想定できるということで、ちょっとそこら辺のやはり根拠が少しあいまいなのではないか。要するに、50年、70年違うからといって契約をしてもらえないとか、日本で初演しないというようなことを考えるプロデューサーは、私には少なくとも想定できません。一応申し上げておきたいと思います。

【野村主査代理】
 都倉委員、どうぞ。

【都倉委員】
 平田委員に僕は申し上げておきたいのですけれども、最初に今日の僕の発表のときに、これはあくまでもプロデューサー、作家の個人的な判断によると申し上げたわけです。だから、こういう現象が起こり得るということは、数字的にあり得るわけです。

【平田委員】
 何だってそれは起こり得るでしょう。

【都倉委員】
 だから、それを僕はちゃんと資料で提出しているわけで、それを基本にされるかされないかは皆さん個人の自由でありまして、さっき僕が申し上げた全世界発表するというところで、確かにこれは日本で本国として発表すると、明らかに保護期間に関しては短くなることは決まっているわけですから、それをされると思う。それはいいとされるのでしたら、日本、本国で発表されればいいことですから、それはプロデューサーの判断にかかっているわけです。
 ただ、数字的には、保護期間に関しては明らかに20年短くなることは事実ですから、それを発表しているだけで、平田委員がどういう理屈をこねられるのかわかりませんけれども、それはちょっと違うと思います。

【平田委員】
 今まではそれで日本のアーティストが不利になる、要するに契約ができない可能性があるとおっしゃられてきたわけで、そういうことはないのではないかと申し上げているわけです。そういうことは、まず事例として考えられないのではないかと。そのことが原因で契約ができない、あるいは日本の初演が妨げられるということはあり得ないのではないかということを申し上げているわけです。

【中山委員】
 先ほど金委員のおっしゃったことと関係しますが、知的財産権というのは、世界各国みんな違います。最低限は条約で揃えておりますけれども、それ以上は違うのす。著作権は比較的ベルヌ条約で統一されているほうですけれども、特許ではかなり違う。アメリカ特許法では、とんでもない独自のシステムを作っているわけです。そういういろいろな世界で違うのがありながらも、契約で何とかやっている。アメリカはけしからんから、アメリカのマーケットを放棄しようという人はまずいないわけです。日本は、50年だからけしからんからといって日本のマーケットをビジネス上放棄しようというところがあるならば、これは確かに問題ですけれども、本当にあるのかなという疑問があります。
 あと、これから作者が死んで50年、100年近く先のことを考えて、不利益だから日本のマーケットは遠慮しましょうということが本当にあるのか。先ほど福井弁護士さんの話が出ましたけれども、日本でおそらく第一人者で国際的な契約を扱っている人ですけれども、彼はヒアリングで、毎年何百件か扱っていて、いまだかつてそういう例は一件もないと述べており、本当に実務上そういう弊害があるのかどうか。弊害があったら、こういう弊害があったということを聞かせて頂きたいのですが、私は多分ないのではないかと考えております。

【野村主査代理】
 では、瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】
 今の中山委員のお話とか、弊害がある、例えば平田委員のお話もそうですけれども、そういうことは起こっていないじゃないかと。実際、今、不具合がないではないか、だから、これに関しては延長する必要がないのではないか、これで問題が今のところないのだからという議論のように思ってしまったのですが、私が先ほどから延長したほうがいいと申し上げている最大の理由は、今不具合があるから直したほうがいいとか、今非常に問題があって大きな事件があったから直したほうがいいとかいうことで言っているのではありません。
 私は権利者の側から言っていますし、先ほどのインセンティブの話をお話しします。孫にお金が残るからインセンティブが働き、良く作るのではなくて、孫まで保護するということは、少なくとも権利者を大切にしようという社会的な制度が厚くなる。とすると、権利者は、当然、自分に対しての保護を厚くしてくれれば喜ぶ、そういう話です。具体的に幾ら残るとか、誰がどうとかいう話ではなく、社会的に大事にされれば権利者は喜びます。これは当たり前の話だと私は思います。ですので、そういう意味では、社会も私たちを大事にしてくれている、私たちの創作を大事にしてくれているという気持ちで言っている。そういった意味でのプラスということを私は考えています。まず、それが1つです。
 これはちょっと別の話ですが、私が先ほどから延長すべきであろうというのは、これからのネットの時代、それから、これからやはりいろいろ情報の発信のときに、今不具合があるから変えるべきだとは、実は、私は思っていません。私が分からないだけかもしれない、不具合はあるのかもしれないし、わかりませんけれども、ざっと考えても、日本でサーバーを立てて50年で日本でパブリックドメインになったものを世界中に発信することを各国が止められない。実際に、それをWIPOだとか、いろいろなことをして止めて防御するということは大変難しいと思います。日本でそんなことをやったって、まだ50年の国がたくさんあるのだから、そこでやられたら一緒でしょうと言われれば、そうです。言われればそうですけれども、日本がそういう海賊版対策を行ったり、これから知的財産を世界に発表したいというときに、問題がないからとして、そういう環境を放置しておいていいのかというのが私の考えです。
 ですから、今、日本があるべき状況ということについて言っているのであって、今こんなに不具合があります。そして、創作者がそれをやることによってこんなにプラスがあります、だから延ばしたほうがいいですとは私は一言も申し上げておりません。ただ、この国際的な状況と、これからの日本の方向性を考えたときに、私は純粋に同じほうが、いろいろな意味でそれを延ばすことのマイナスよりも多いと思うから申し上げている。そのときに、具体的な不具合をという話になってくると、やはり不具合があってから変えるのでしょうかと。
 論が違うし、日本というのは、先ほど申し上げたように、私は戦時加算とともに戦後の脱却、これから今まで輸入超過だったコンテンツというのを輸出超過にしていく意気込みでやっていく状況にあるのだという認識に基づいて申し上げているということです。何かいろいろな方で微妙にニュアンスが違うので、私の申し上げていることを整理させて頂きました。
 以上です。

【野村主査代理】
 上野委員、どうぞ。

【上野委員】
 保護期間の延長に関しましては内外で議論が高まっているところでありまして、それ自体は大変結構なことだと思います。ただ、従来の議論におきまして双方から示されてきた理由と申しましょうか、根拠と申しましょうか、そうしたものの中には、延長の賛成または反対を直接に正当化するとは言い難いと思われるものも正直なところ少なくなかったのではないかと思います。
 そのような観点からいたしますと、先ほど瀬尾委員からも御指摘がありましたけれども、EC指令におきまして著作権の存続期間が延長された際に一応根拠とされていた事情が、現在の日本でも妥当するのかどうかというのは、さしあたり1つの視点になるのではなかろうかと思います。つまり、諸外国が死後70年に延長したということだけでは、わが国が保護期間を延長する直接の理由にはなりがたいのですけれども、そうした諸外国において保護期間を延長する一応の根拠とされてきたものがもし我が国にも当てはまると言えるのであれば、それはそれで我が国でもさしあたり保護期間延長の根拠足り得ると考えられるからであります。
 そこで、EC指令の前文におきまして示されている保護期間延長の理由をみてみますと、おおむね3つありまして、商品やサービスの自由な流通であるとか、平均余命の伸長であるとか、あるいは戦時加算の解消といったことが示されております。
 1つ目の商品やサービスの自由流通については、そもそもヨーロッパというのは物理的な近接性から一つの共同体を目指しているというものでありますから、自由な流通といったものが強く求められるわけですけれども、この点については日本と事情が異なると考えられます。
 とは申しましても、ネット時代におきましては、物理的な近接性がなくてもコンテンツの自由な流通が求められるということもあろうかと思います。例えばサン・テグジュペリの著作物について、フランスの著作権は残っているけれども、日本の著作権は消滅しているという場合、たしかに日本で書籍を出版することなどは自由にできるわけですけれども、では日本でネットに載せていいかというと、少なくともフランスからアクセスできる場合、もちろんこれは国際私法の問題とも関わりますけれども、それが本当に許されるかどうかは不明確なところがございます。そのような観点からいたしますと、ネット時代におきましては、たとえ物理的な近接性がなくても保護期間の長さが統一される方が、コンテンツ流通の観点から望ましいと言えるかもしれませんので、この点は検討が必要かと思います。
 ただ、保護期間の長さを統一すると申しましても、厳密に言いますと、過去の著作物も含めて本当に一致させることができるのかというと、既存の経過規定などもありまして、実際問題としては難しいところもあろうかと思います。
 2つ目の平均余命の伸長に関しましては、たしかに従来からよく論じられてきたことでありまして、保護期間を死後70年に延長したドイツ著作権法の改正におきましても、あるいはEC保護期間指令におきましても、そのような説明が見られるところであります。また、ベルヌ条約の解説におきましても、死後50年という期間が選定されたのは単なる偶然によるものではなく、著作者とその孫の平均的な生存期間が含まれるのが妥当だと考えられたからだと述べられております。
 これを具体的に申しますと、こういうことかと思われます。すなわち、かつては平均寿命が55歳で、1世代が25年だといたしますと、著作者が55歳で死亡した場合、その時点で5歳の孫がいるということになる。そうすると、その5歳の孫が将来55歳で死亡するまで50年あるから、この50年間を保護期間とすべきだという考え方だった。だけれども、現在は平均余命が75歳になったので、死後50年では保護期間が20年不足する。そこで保護期間を20年延長したというわけであります。
 これは確かにそのようにもいえるわけでありますけれども、しかしながら、平均余命が20年伸長したということは、そもそも著作者の生存期間が20年延びたことを意味するわけでもありまして、それだけで既に著作権の存続期間はすでに20年長くなっているではないかという指摘はかねてからなされておりました。
 しかも、先ほどのように1世代25年という前提にしたがいますと、現代の著作者が75歳で死亡する場合、その時点で孫は25歳だということになりますので、この25歳の孫が死亡するのが75歳だといたしますと残り50年ですから、保護期間はやはり著作者の死後50年でいいではないかということになります。
 そうなってまいりますと、その頃には平均余命がさらに20年間伸長して95歳になっているというのでなければ、著作者の死後70年という保護期間の長さを正当化することはできないのではないかと思うわけであります。
 そうしますと、本日ここで詳しく述べる時間はないのでありますが、保護期間延長の根拠として平均余命の伸長という正当化を採用するのであれば、平均余命が伸長したということだけでは足りず、平均余命が将来にわたっても継続的に延び続けるという前提がない限り、死後70年という保護期間の長さを将来的に維持することができないばかりか、まして次なる延長を正当化することはできないものと思います。
 そうすると、これも結論だけ申し上げることになりますが、1世代を30年だとして、かつ将来2世代間で平均余命が10年間伸び続けるのであれば、それで初めて死後70年という保護期間の長さを正当化できるのではないかと思います。したがいまして、そのようにいえるのであれば、平均余命の伸長という事情は延長賛成の根拠になると考えられます。他方、そのような事情は、今回たとえ死後70年に延長されたとしても将来においてそれ以上の延長を食い止める理由にもなると思います。
 ですので、延長に賛成または反対のいずれの立場を主張するにいたしましても、平均余命の伸長という正当化を採用するべきかどうかというのは慎重に検討する必要があるのではないかと思います。
 そして、更に申しますと、そもそもなぜ「孫」の生存間まで著作権を存続させるというのが、保護期間の長さについていわば「目安」になるのかという説明それ自体の妥当性が、当然ながら問題とならざるを得ません。ただ、このような考え方は、ベルヌ条約でも古くからみられるわけであります。しかも、そのような考え方は既に我が国の著作権法におきましても見られないわけではありません。すなわち、著作者の死後における人格的利益を保護するための措置として、116条の規定によって、まさに著作者の「孫」までの遺族に差止請求権等を与えるなどしておりますけれども、起草者によれば、ここで「孫」としているのはむしろ著作権との存続期間とのバランスをとったものだと説明されております。
 そうだといたしますと、良くも悪くも伝統的に採用されてきたと言える、著作物の保護期間は著作者とのその孫の平均的な生存期間とするという考え方に対して、どういう評価をすべきなのかということがやはり問題となってくるように思われます。
 そして、孫までの遺族に著作権を与えるということは、排他権を与えるということでありますから、それは生活を保障するというよりも、著作物利用の禁止権ないし決定権を与えるということだと私は思います。たしかに、著作権法60条によって著作者の人格的利益は著作者の死後も保護されるのだから著作権はなくても大丈夫ではないかというご指摘もありますが、著作者人格権といいましても、著作者の人格的利益を一般的に保護する権利ではありませんので、例えば著作物が改変されたという場合は同一性保持権の侵害に当たりますからちゃんと保護されますけれども、他方、例えば、あの週刊誌には掲載して欲しくないといったようなことをいえるかというと、いくら著作権法60条がありましても、それはやはり著作権がないと反対できないことになろうと思います。したがいまして、結局のところ、そうした決定権ないし禁止権までをも著作者の遺族に保障する必要があるのかどうか、そこのところの判断が決め手になるということではなかろうかと思います。
 それから、3つ目の戦時加算の解消という事情につきましては、まさに日本にも当てはまるわけですけれども、ヨーロッパの場合は、ヨーロッパ各国によって自発的に定められた国内法による戦時加算を国家間の条約によって統廃合するというものであるのに対して、我が国の場合は、戦時加算の解消と申しましても、我が国著作権法の改正のみによってこれを実現しようとするものではないかと思います。その意味では両者の事情は異なることになりましょう。そのため、日本が単独で戦時加算を解消することはできないのではないかとも言われているわけです。しかしながら、条約上の義務からいたしますと、現在のような戦時加算を国内法の改正によって解消することが本当にできないのか、個人的には再検討の余地があるのではないかと思っております。これにつきましては、もしかしたら後ほどまたお話しする機会があるかもしれません。
 以上がEC指令において一応示されていた保護期間延長の理由でありますが、正当化根拠に関しましては、最後に、いわゆるインセンティブについても一言申し上げておきたいと思います。
 保護期間の延長問題をめぐりましては、創作のインセンティブになるとかならないとかいった議論が見られるところであります。とりわけ、過去に創作された著作物ですとか、あるいは既に死亡した著作者の著作物については、その著作権の存続期間を今さら延長しても、その限りでは創作のインセンティブにつながらないではないか、というのは確かにそのとおりであります。
 ただ、少なくとも過去の法改正によって行われてきた著作権の存続期間延長を見ますと、我が国の場合でも、改正法の「施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する」ものについてその存続期間を延長してきたことは、その是非はひとまずおくとしましても、事実であります。もっとも、我が国におきましても、改正法の「施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している」ものにつきましては、遡及して延長しておりません。これは「既に形成された著作物自由利用の法秩序を乱すこととなりますので」ということが理由とされているわけです。けれども、EC保護期間指令におきましては、1995年7月1日においていずれかの加盟国によって保護されている全ての著作物について適用するものと規定されておりますために、国によっては死後70年に延長する時点で既に消滅していた著作権でありましても、これを基本的に復活させることとしております。したがいまして、このことをとらえて「ゾンビ」だとする見解もあるわけでございます。
 このように見てまいりますと、従来の保護期間延長というものは、その是非はともかくといたしましても、もともといわゆるインセンティブ論のみで基礎づけられてきたとは言いがたいように思われます。そもそも、知的財産法の中でも、とりわけ著作権法に関しましては、典型的なインセンティブ論者でさえも、インセンティブ論だけでは割り切れないと述べられることが少なくないわけであります。そうしますと、そもそも著作権法の正当化としてどういう立場をとるべきなのかという、これはもちろん極めて難しいテーマですけれども、やはりこのことは問題とならざるを得ないのではないかと思うわけであります。
 そのような観点から申しますと、保護期間が50年から70年に延びたって創作のインセンティブは変わらないのではないかというのであれば、これはもしかすると、むしろ逆に、著作権がなくても人は創作をするのではないかということになってしまいかねないのではないかとも思う次第であります。

【野村主査代理】
 どうもありがとうございました。
 他に意見はいかがでしょうか。三田委員、どうぞ。

【三田委員】
 これまでの議論でよく分からないところがあります。
 というのは、音楽でも文学でも写真美術でも、文化が非常に盛んな国があります。そうでない国があるとは申しませんけれども、我々が子供のころから受け取ってきた世界中の文化的な作品というものは、やはり欧米であろうと思われます。また、最近は南米の文学も盛んであります。今、韓国のものもかなり入ってきております。そういう文化的な国が、韓国も、今、70年に延長を検討しております。そういうところがもう既に70年になっていたり、70年になることを検討しているという状況の中で、日本だけ50年にとどめておく決定的な理由というものは一体何でしょうか。日本の文化は尊重しなくていいということなのでしょうか。あるいは、何か他の明確な理由があるのだろうかということを、御意見があればお伺いしたいと思います。

【野村主査代理】
 金委員、どうぞ。

【金委員】
 事実確認ですが、韓国で保護期間延長の法改正が検討されているという一つの理由は、韓国自身は保護期間延長を望まないという基本スタンスがあります。しかし、アメリカとのFTA交渉においてアメリカの圧力があった。そこで、韓国は保護期間延長を一つのバーゲニングチップとして、交渉の一つの手段として使ったのです。保護延長をするかわりに、例えばスクリーンクオーター制を残すというような、アメリカに対する取引の一つの材料として使ったということであって、韓国自身が主体的に議論をして、韓国の将来のために保護期間延長を決めている、そういうことではないことを確認したいと思います。

【野村主査代理】
 他に、いかがでしょうか。津田委員、どうぞ。

【津田委員】
 保護期間だけではないと思うのですけれども、そういった国際的に数字を揃えることに意味があるというのであれば、僕はさっきも述べたのですけれども、では、なぜ日本は著作権侵害の罰則を世界に先駆けて10年に延ばしたのかというのがあると思うんですよ。国際的に数字を揃える必要があるのだったら、むしろ5年とか、それぐらいが大体国際的に一番多い水準にするべきだと思うのです。それは要するに、世界に先駆けて、ある種、保護水準を強化しているにもかかわらず、保護期間も都合のいいほうに、長いほうに揃えるという感じがしているのです。その理屈でいってしまうと、今、メキシコとかは100年になっているので、では、100年に揃えていくのがいいのではないか、そういう論法になっていくような気がしてしまうのですが、いかがですか。

【野村主査代理】
 いかがでしょうか。生野委員、どうぞ。

【生野委員】
 何をもって国益とするかということがあるかと思います。短期的には国際収支、現実、先ほどの説明でありましたとおり、どちらかというと輸入超過という状況。ただ、国益というのは、やはり短期だけではなくて中長期的に考えた場合、このペーパーでも書かれていますけれども、日本が今後、海外展開を積極的に促進していくという方向性、それから前にも発言いたしましたけれども、海賊版防止条約の提唱国等といった著作権を含めて世界の先進国、リーダー国として今後発言していく際に本当に50年でいいのか、周りはみんな、先進国は70年の中で、日本だけ50年で本当に発信していけるのか、リーダー国として発言していけるのか、そこら辺も含めて広い視点から考えなければいけないと思います。

【野村主査代理】
 それでは、そろそろ時間ですので、本日はこの程度にして、著作隣接権とか戦時加算について最後に発言がありませんでしょうか。
 それでは、本日は以上にしたいと思います。
 次回は、これまでの議論を踏まえて、もう少し意見の一致点や対立点を整理して、次々回以降にもっと具体的な議論を進めるようにするために論点を整理してはどうかと思いますので、事務局のほうで本日の議論を整理して、新たに資料の用意をお願いしたいと思います。
 事務局から連絡事項がございましたら、お願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 本日はありがとうございました。
 今後の小委員会の日程ですけれども、資料9に今後の日程を記載しております。次回は9月27日木曜日の16時から18時、フロラシオン青山で予定しております。その他、9回以降についても記載しております。以上でございます。

【野村主査代理】
 それでは、本日はこれで文化審議会の著作権分科会の第7回過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を終わらせて頂きます。熱心な御討議を頂きまして、どうもありがとうございました。

─了─

(文化庁著作権課)


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