16.日本記録メディア工業会

●該当ページおよび項目名

p.97〜 「第7章 第1節 私的録音録画問題の検討にあたっての基本的視点について」

●意見

 当工業会は、平成18年1月の文化審議会著作権分科会報告書に沿って「私的録音・録画についての抜本的な見直し及び補償金制度に関してもその廃止や骨組みの見直し,更には他の措置の導入も視野に入れ,抜本的な検討を行うべき」と考え、抜本的な検討を行うためには、補償金制度の前提となる「補償の必要性」、即ち、“どのような行為に、補償措置が必要であるのか”について十分に検討されることが不可欠と主張してまいりました。
 私的録音録画小委員会では、本節4 検討の手順 の「30条の適用範囲の見直し」と「補償の必要性」について、未だ議論が尽くされていない状況にも関わらず、「“仮に”補償の必要性があるとした場合」として、補償金制度のあり方の具体論につき検討が進められていることに強い懸念を覚えます。何に対して補償が必要であるかについての合意が得られぬまま、闇雲に制度設計の議論を進めることは適切とは考えられません。
 繰り返しになりますが、私的録音録画補償金制度は、家庭内での録音録画行為を対象とした制度であり、国民生活に少なからぬ影響を及ぼすものであるため、まず、同制度の前提となる「補償の必要性」について慎重な検討を行う必要があると考えます。

●該当ページおよび項目名

p.100〜 「第7章 第2節 著作権法第30条の適用範囲の見直しについて」

●意見

 本節2(2)(p.106)の「音楽・映像等のビジネスモデルの現状から契約により私的録音録画の対価が既に徴収されている又はその可能性がある利用形態(契約モデルによる解決)」として、第30条の適用範囲から除外する形態について、一定の結論めいた内容が記載されていますが、とりわけ「レンタル店から借りた音楽CDからの私的録音」と「適法放送のうち有料放送からの私的録画」の2点については、十分な審議がなされたとは言えません。
 当工業会は、この点について、2007年私的録音録画小委員会(第7回)にて提出の意見書(注)でも述べておりますように、「利用者の録音録画を想定した対価を取得し得る、契約等の他の手段があるかどうか」という基準によって判断すべきと考えます。著作権者等〜提供事業者〜エンドユーザーをつなぐ契約等の手段があるのであれば、補償金制度のような間接的でわかりにくいシステムに頼る必要はありません。この点を踏まえ、継続して十分な検討がなされることを要請します。
 なお、レンタルからの録音及び有料放送からの録画について、外形上、契約書や約款等には明記されていないとしても、実質的にはそれらの料金には家庭内での複製見合い分が含まれているとも考えられます。従って、現実に行われているビジネスやユーザーの慣行に影響を与えることなく、私的録音録画の範囲からそれらを除外することも出来るのではないかと考えられます(貸与権は、p.109の脚注56「著作権審議会第1小委員会の審議結果について」にあるように、レンタルされた「著作物の複製によりもたらされる著作物の経済的利益に影響を与えている」ことを理由に創設されており、レンタル事業者からの貸与〜家庭内での複製を一体として捉えたものと評価できます。また、有料放送事業者は、ユーザーにホームページ等でコピーワンスやコピーネバーなどの利用ルールについて説明し、現実に放送サービスごとにそれらの利用ルールを設定しており、有料放送の料金にはその利用ルールに見合った複製の対価が含まれると評価できます)。
 特に有料放送については、伝送方式が放送という方式であるというだけで、著作権保護技術を用いてユーザーの利用をコントロールしながら有料でコンテンツを配信するという点で本節において私的録音録画の範囲から除外することが適当とされた適法配信と全く同様と考えられ、これを区別することは、今後の成長が期待されるネット配信の事業者を不利な立場に置くことになり、適切とは考えられません。

●該当ページおよび項目名

p.110〜 「第7章 第3節 補償の必要性について」

●意見

 本節 2(3)イ-2(p.116)の意見を支持致します。権利者の意思により著作権保護技術が適用され、提供された著作物の利用範囲を想定できる場合には、当該範囲内での録音録画は権利者に重大な経済的不利益を与えるとは言えず、補償の必要はないと考えます。
 本節2(3)イ(p.115)において、「著作権保護技術には、私的録音録画自体を厳しく制限するというよりは、通常の利用者が第30条の範囲内で必要とする私的録音録画の機会は確保しつつ、デジタル録音録画された高品質の複製物が私的領域外へ流出するのことを抑制するもの」と記載されています。確かに著作権保護技術には私的領域外へ流出することを抑制する効果もありますが、制度上、著作権保護技術を回避して複製すれば私的領域での複製であっても著作権侵害となることから(著作権法30条1項2号)、むしろ制度としては“私的領域における複製を制限するもの”と位置づけられると考えられます。
 例えば放送番組の録画の場合、著作権保護技術のないアナログ放送の時代には私的複製として許容された録画であっても、デジタル放送では著作権保護技術によって限られた範囲でしか録画ができず、私的使用を目的とする場合であっても制限されます(具体的な例としては、居間のDVDレコーダで録画したものを、通勤通学時に視聴するために、PC上で必要な部分だけに編集したとしても、それをリムーバブルメディアにコピーするなどして孫コピーを作成することは、デジタル放送ではできません)。このように私的領域に踏み込んで権利者の意思でコントロールできている実態がある場合には、もはや私的使用を目的とすれば自由に録音録画ができる状況にはなく、そこに重大な経済的不利益があるとは考えられません。
 従って、少なくともデジタル放送のように著作権保護技術が適用され、利用者がその著作権保護技術によって定められた利用ルールに従っている実態があるような場合には、それは権利者の受忍限度内の利用行為と捉えられるべきであり、補償措置は不要と考えます。

●該当ページおよび項目名

p.126〜 「第7章 第5節 私的録音録画補償金制度のあり方について」

●意見

(1)「1 対象機器・記録媒体の範囲について」(p.126〜)

 仮に、補償の必要がある部分がある場合、対象機器・記録媒体の範囲については、当然、その補償が必要な部分に限定されるべきと考えます。
 本節1(2)1(p.129)のア「録音録画機能が附属機能かどうかにかかわらず著作物等の録音録画が行われる可能性がある機器は原則として対象にすべきであるという考え方」は、補償の必要があるか(重大な経済的不利益があるか)否かを問わず、制度の対象となることを意味するため、全く賛成できません。補償金制度は、強制的な徴収を伴うことを十分に留意すべきであり、補償の必要がないのであれば、仮に少額であっても、それを正当化する理由はありません。
 なお、本節1(2)2(p.130)において、「現行制度の対象となっている分離型専用機器と専用記録媒体については、特に対象から除外する理由はなく従来どおり対象にすべきであることでおおむねの了承を得た」とありますが、見直しの結果として補償が必要ない態様で用いられているのであれば、対象から除外すべきと考えます。

(2)「2 対象機器・記録媒体の決定方法について」(p.133〜)

 対象機器・記録媒体の決定方法については、恣意的な判断がなされ、関係者間の紛争が生じることのないよう、現行の政令指定方式と同様に明確な基準を法律等で定めるべきと考えます。企業活動において、法的安定性は極めて重要な要素であり、対象となるか否かについて予見できないような状況に陥ることは避けなければならないと考えます。

(3)「3 補償金の支払義務者」(p.135〜)

 補償金の支払義務者を製造業者等とすることは、複製を行う者がその責任を負うとする著作権法の大前提を合理的な理由なく覆すことであり、強く反対いたします。
 必要があって設置された補償金の返還請求制度については、利用しやすくする等の検討でその問題点の解決を図るべきであり、返還請求制度そのものを廃止するという考え方には反対です。また、その問題点の解決のために支払義務者を製造業者等に変更することは本末転倒であり全く理解できません。補償金の支払義務者を製造業者等としても利用者であるエンドユーザーが事実上の支払いを行うという実態に変化がない以上、支払義務者を変更する理由はないと考えます。

前のページへ

次のページへ