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著作権分科会 法制問題小委員会(第3回)議事録・配付資料

1.日時

平成20年5月22日(木曜日)10時〜12時

2.場所

三田共用会議所 3階 大会議室

3.出席者

(委員)

大渕、清水、末吉、茶園、土肥、苗村、中山、前田、松田、村上、森田、山本 の各委員

(文化庁)

高塩文化庁次長,吉田長官官房審議官,山下著作権課長,ほか関係者

4.議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    • (1)「デジタルコンテンツ流通促進法制」について
    • (2)「検索エンジンの法制上の課題」について
    • (3)「機器利用時・通信過程における蓄積の取扱い」について
    • (4)その他
  3. 閉会

6.議事内容

【中山主査】

 そろそろ時間でございますので、ただ今から文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第3回を開催いたします。
 本日はご多忙中のところ、ご出席いただきまして誠にありがとうございます。
 いつものとおりでございますけれども、議事に入ります前に、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照いたしますと、特段非公開にするには及ばないと考えられますので、既に傍聴者の方々にはご入場していただいているところでございますけれども、このような処置でよろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【中山主査】

 ありがとうございます。
 それでは、本日の議事は公開ということにいたしまして、傍聴者の方々はそのまま傍聴をお願いいたします。
 それでは、議事に入ります。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 お手元の議事次第の一覧の下に配付資料一覧を記載してございます。
 本日、資料1から資料5まで、それから資料2につきましては、2−1と2−2がございますので、合計6点をお配りしてございます。
 過不足等ございましたら、ご連絡をいただければと思います。

【中山主査】

 よろしいでしょうか。
 本日検討していただきたい議事は3つございまして、1はデジタルコンテンツ流通促進法制、2は検索エンジンの法制上の課題、3は機器利用時・通信過程における蓄積の取扱い、この3点でございます。
 1のデジタルコンテンツ流通促進法制につきましては、前回報告のありましたインターネット上の新たな創作に関する課題のほかに、過去のテレビ番組等のコンテンツのインターネット上における二次利用に関する課題として、権利者不明等の場合の利用円滑化方策について検討すべきこととされておりましたが、この問題につきましては、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会において検討が進められておりましたので、まずそちらの方の小委員会の検討を待つということとされておりました。
 本日は、その検討経過について、同小委員会からご報告いただき、その報告を踏まえまして自由討議を行うということにしたいと思います。
 また、2の検索エンジンの法制上の課題及び3の機器利用時・通信過程における蓄積の取扱いにつきましては、昨年よりデジタル対応ワーキングチームにおいて検討が進められておりましたので、本日はその検討経過の報告を受けた後、自由討議の時間をとりたいと思います。
 それでは、最初にデジタルコンテンツ流通促進法制につきまして、事務局より配付資料の説明をお願いいたします。

(1)「デジタルコンテンツ流通促進法制」について

【黒沼著作権調査官】

 お手元の資料の1と2に基づきましてご説明をさせていただきます。
 まず、資料1につきましては、これまでの検討経緯でございます。タイトルは「過去の放送番組等の二次利用の円滑化に関する検討経緯」となっておりますけれども、この問題は、昨年以来ご検討いただいております「デジタルコンテンツ流通促進法制」の中身の一つでございます。昨年度この中身を二つに大きく分けて分析をいただきまして、一つが過去にインターネット以外の流通媒体での利用を想定して製作されたコンテンツをインターネットで二次利用するに当たっての課題、二つ目はインターネット上で行われております新たな創作形態に関する課題ということで、この2につきましては、前回実態調査をご報告させていただきまして、それについてご議論いただいたわけですが、今回はこの1のところをご議論いただければと思っております。
 こちらにつきましては、先ほど主査からご紹介ございましたように、過去のコンテンツの二次利用の円滑化というのは、実際ところ分析してみますと所在不明の権利者の場合等の利用の円滑化の問題に場合が絞られてくるということで、詳しくは後ほど紹介しますけれども、そういったこともありまして、そういう課題であれば過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の検討事項に含まれておりますので、まずはそちらの検討状況を見守るということにされていたわけでございます。そういった経緯で今回、この過去の著作物等の小委員会の検討状況をご報告させていただくということでございます。
 資料2の方に移っていただきまして、そちらの内容でございます。資料2−1が、先週の5月16日の過去の著作物等の小委員会で取りまとめをいただいた利用円滑化に関しての中間的な整理でございます。
 目次をご覧になっていただけると、こちらの小委員会は基本的には保護期間の在り方等について検討をしている小委員会でございますが、併せて以下の目次にあるような項目についても検討課題とされております。法制問題小委員会との関係で申しますと、2の多数権利者が関わる場合の利用の円滑化、それから3の権利者不明の場合の利用の円滑化が、コンテンツの二次利用の関係で主な関係部分になるわけですが、4につきましても、図書館の権利制限の課題と絡んでくる部分ございますので、後ほど簡単にご紹介をさせていただきたいと思います。
 それでは、中身の方に移らせていただきます。
 1ページの「はじめに」のところは、先ほど申し上げたような検討の経緯のことが書いてありまして、保護期間特有の部分を省きつつご紹介をさせていただきますと、1ページ目の一番下の丸のところでございます。まず、昨年の法制問題小委員会でコンテンツの二次利用に当たっての課題を整理していただいた際には、前提として二次利用について改めて許諾を求める場合で著作権が課題になるという場合には、著作権等管理事業者が権利を管理している場合であるとか、団体間のルールなどが定まっている場合には、実際には二次利用の問題が余りないということもございまして、実際のところ二次利用で著作権が課題になるということは所在不明の権利者の場合等、あるいは権利者の思想信条に関係する場合などにほぼ限られているというような整理を昨年いただきました。こういったことを基に、多数権利者が関わる場合の利用の円滑化、あるいは権利者不明の場合の利用の円滑化などについて検討が行われておりました。
 まず多数権利者が関わる場合の利用の円滑化についての議論をご紹介させていただきたいと思います。
 過去の著作物等の小委員会では、保護期間延長に絡む問題として、孫世代からひ孫世代に保護期間が及ぶことによって、権利者が相続によって増えてしまうということで検討事項として指摘されていたものと、それから保護期間延長と関係なく、現在でも既に放送番組の二次利用などで多数権利者のうち、特に出演者の一部で許諾が得られない場合にコンテンツ全体の二次利用が妨げられているのではないかというような指摘とを踏まえて検討をされておりました。
 とはいいましても、近年の出生率を踏まえますと、孫世代からひ孫世代に移るという方の問題は、実はそれほど膨大なものではないのではないかということもありまして、過去の著作物等の小委員会では、まず現在の問題、特に放送番組を念頭に置いて、中でも特に出演者の場合が問題になるという指摘もありましたので、そういったことを中心に課題の整理が行われております。それらにつきまして、学識者、実務家、放送事業者、実演家団体の代表にお入りいただきまして、共有ワーキングチームというものを構成いたしまして、そちらで実態を踏まえて検討が行われました。
 (2)のところがその報告書になりますが、最初のまるのところは前提でございまして、放送番組の二次利用に関しましては、放送についてしか許諾を得ていない場合には、改めて録音・録画その他の利用について許諾を求める必要があるわけですが、放送番組の場合には特に放送の許諾しか得ないことも実態として多いということもありまして、特にその問題が多く、円滑化を求める声が多かったということでございます。
 7ページの一つ目のまるのところにございますように、昨年の法制問題小委員会でもご紹介しました平成16年の過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書では、二次利用が進まない問題の分析としまして、著作権契約以外の問題が実は多く、著作権契約の問題が占める割合はそれほど多くないということが指摘されておりまして、さらに近年では契約問題についてもあらかじめコンテンツのマルチユースを念頭に置いた契約を結ぶような環境づくりも進められているという状況もございまして、本当に著作権に関する問題があるのかというような指摘もあったのですが、この平成16年の当初からは周辺の状況も変わっておりますので、そういったことを踏まえて改めて検討を行ったということです。
 まず、最初ターゲットに当てたのは、共同実演についてというものでございます。なぜこれをターゲットに当てて検討が行われたのかと申しますと、著作権法上、共有著作権に関しては共有者全員の合意によらなければ著作権を行使することができないという規定、それから各共有者は正当な理由がない限り合意の成立を妨げることができないという規定がございます。これが著作隣接権にも準用されておりますので、もし共同実演というものが著作権法で明確に観念されているということが分かれば、放送番組の中でも共同実演と言える部分につきましては、多数の権利者がいても正当な理由がない限り合意の成立が妨げられることがないということで、利用が円滑化されるのではないかといった考え方があったということでございます。また、これは知的財産推進計画2007にも記述があったものでございます。
 こういった問題意識に基づきまして、共同実演の解釈の明確化というものが図れないかということで検討が行われたのですが、まず共同実演の定義を共同著作物に準じて考えるとしますと、1から3までございますが、実演で、二人以上の者が共同して行うもの、それぞれの寄与を分離して個別的に利用することができないという三つの観点から定義をすることができるのではないかということになりますけれども、この2の二人以上の者が共同して行うという要件を仮に設定した場合には、放送番組の場合はそれぞれのシーンが個別に収録されている場合もございまして、最終的に番組は一つになりますけれども、その要素の実演がばらばらに行われているのであればこれに該当しないという場合も多いのではいかと思われます。3のそれぞれの寄与を分離して個別的に利用することができないという部分についても、こういう要件を立てた場合には、最近の番組制作技術で言えばどんな場面でも大体のものが切り出し可能というようなことがございますので、放送番組の場合には共同実演と言えるものはなかなか実例としては少ないのではないかという整理でございます。
 また、次のまるのところは、副作用といいますか、いいことばかりでもないという観点でのご指摘でございますが、仮に放送番組全体が共同実現だという整理をとった場合には、その番組の部分利用をしようという場合にも、その場面に出演している人以外に、その場面に出演していない人についても許諾が必要になるということで、共同実演だという整理をしても、逆に不便になってしまう場合もあるのではないかというご指摘がございました。
 ということもございまして、共同実演の定義を明確化するということについては、意義がないわけではないけれども、直ちに実演の利用を円滑化するという効果があるかどうかは疑問だというご指摘でまとめられてございます。
 その次の2は、共同実演以外でも著作隣接権などが共有になる場合、それから複数の実演が一つのコンテンツの中に含まれている場合などございますので、そういった場合についても活用できるような円滑化方策はないかという観点から、いろいろ検討が行われてございます。
 冒頭の「許諾が得られないことについての正当な理由」の部分については、放送番組の二次利用について許諾が得られないことは実際には多くないということは紹介されましたけれども、その中でも正当な理由のない利用の拒否が現実的な問題になっているのであれば、何らか検討する必要があるのではないかという問題意識に基づきまして、実際にどういった実例で二次利用の許諾が得られなかったのかについてまず分析されております。
 関係者の間から指摘があったものとしましては、「デジタルコンテンツの特質に基づく目的外への流出が不安」、「相手方事業者の実情がよく分からない」、「イメージ戦略の観点から露出のコントロールをしたい」、「実演のできが悪い」、「対価に満足できない」、それから「もう既に引退してしまって平穏な生活を希望している」などの実例の紹介がございました。
 これらにつきましては、一般には許否の理由として必ずしも不当な理由とは言い切れないのではないかというようなことでございます。
 ただ、例えば、同じ「実演のできが悪い」という理由でも、主演級の実演家がそういった理由で拒否する場合と、知名度が低く、端役で出演しているに過ぎない方が同じような理由で拒否する場合とでは、正当な理由としてそれだけで認められるかどうかは差があるのではないかという指摘もございました。また、「対価に満足できない」という事情でも、ふっかけられているのか、それとも元々額が低いのかなど、事情が様々であろうということもありまして、それぞれの事案に応じて判断するべきだということでございます。など、それぞれの事案ごとに正当な理由というのは判断が異なってくるのではないかということでして、正当な理由はこういうものだという判断基準はなかなか一律に定めがたいのではないかということでございます。
 それと、10ページの一番上のまるでは、こういったいろいろな事例を検討していく中で、実務の現場の意見としましては、実演の二次利用が許否されるというよりは、むしろ引退等の理由によって連絡先が不明になっていて、許諾を求めることができないという事例の方が多いのだというご指摘もございました。
 その次の「その他、実演を円滑に利用できるようにする方策があるか」という部分は、正当な理由があるかどうかは別として、さらに円滑に利用できるような仕組みがないかというような観点から行われた検討でございます。
 いろいろと検討がなされましたけれども、例えば「協議不調の場合の裁定制度を作る」ですとか、そういったいろいろな手段が検討されましたが、それにつきましては条約上の問題があるとか様々な問題がございまして、現時点で直ちにこういう方策がいいのではないかというような合意が得られるには至ってはおりません。詳しくは省略いたしますけれども、様々なものが検討されてございます。
 この共有ワーキングチームの「まとめ」といたしましては、許諾が得られない場合について、必ずしも不当な理由と言えるものではないという実例が多く、むしろ二次利用の阻害原因となっているのはビジネスモデルの問題ですとか、権利者不明の問題であるというような整理がございました。その他のものについては課題として認識するにとどまっているという感じでございます。
 13ページ以降が、権利者不明の場合の利用の円滑化方策について議論されたものでございます。先ほど、複数権利者が関わる場合の利用についても、権利者不明の場合の方が問題であることが多いというご指摘もありましたので、むしろこちらの方がメインの解決策の提示というような形になっております。
 まず(2)1の「前提」のところですけれども、権利者不明の問題と一口に申しましても、いろいろな場合が中に含まれているということで、「ただし」以下のところに書いてございますように、二次利用に当たっての利用許諾交渉を行う相手方がコンテンツ制作に関わっていた出演者、原作者などの場合と、写り込みで入ってしまった人の場合とで、大きく課題が異なってくるのではないかという前提でございます。また、対象として著作権や著作隣接権が問題になる場合と、その他の人格的利益が問題になる場合、これによっても対処方策が大分異なるのではないかということで、以下の対応策ではこれらを分けて認識すべきだということがまず前提として整理をされております。
  2は、二次利用の円滑化に当たって、現状でとられている施策の紹介と、それからそれについての限界についての指摘をされている部分でございます。
 現状の対策として幾つかございますが、1は「コンテンツ製作時にあらかじめ、二次利用を前提とした契約を締結しておく」ということでございます。それから、2は「コンテンツ製作者が出演者の情報などの権利者の所在情報をきちんと管理しておく」というもの。それから、3は「権利の集中管理団体が権利者の所在情報を管理しておく」という方策。それから、4は、これは今権利者団体が取り組んでいる取組ですけれども、「権利者情報のデータベースを整備する」というような取組でございます。
 それぞれの取組には限界もございまして、例えば写り込みのような場合にはコンテンツ製作者が情報管理しようと思っても限界があるということ、それから、人格的利益の場合には権利の集中管理というようなものは難しいというご指摘、それから二次利用を予め前提とした契約を結んでおくということにつきましては、もう既に過去に作られてしまっているコンテンツについては、今さらどうしようもないというご指摘もありまして、これらの現状で行われている取組にはそれぞれ限界もあるというご紹介がございました。
  3は、それぞれの取組にも関わらず、権利者不明になってしまった場合の対策として日本経団連を中心としまして今検討されているものについてのご紹介でございます。権利者不明の場合には、一定の能力・実績を有する団体が権利者捜索を請け負う、それからあらかじめ使用料を一定のところに預けておいて、事後に権利者が判明した場合には、その機関が精算を行うという取組が検討されているということでございます。
 ただ、こういった取組を行ったとしましても、最終的にこれに法的な裏づけがあるわけではございませんので、形式上は権利処理をしない形で使ってしまうということでして、法的なリスクは必ずしも払拭されないという問題点が指摘されております。
  4は、民間の取組ではなく、現行制度でどういう対応が可能なのかと、その限界についての指摘でございます。
 権利者不明の場合に利用許諾を改めて求めることなく利用できる制度としましては、大きく分けて、権利制限規定、それから文化庁長官の裁定制度、この二つが用意されているわけでございます。それぞれ問題点、ご指摘がございまして、権利制限規定につきましては、過去の著作物等の小委員会で行ったヒアリングでは、障害者関係団体や図書館関係団体などから現行の権利制限規定ではカバーできない部分があるというご指摘がございました。それから裁定制度につきましては、手数料や手続に要する時間についてのご指摘がございまして、特に無償での利用を予定している場合には、それだけの費用をかけるというのはなかなか難しいというようなご指摘、それから著作隣接権についてはそもそも裁定制度がないというご指摘がございました。
 そういった民間での取組の限界、あるいは現行制度の問題点のご指摘を踏まえまして、(3)以降が対応策として検討された部分でございます。
  1は基本的な考え方として、民間の取組と制度的な対応等をどう関係付けるべきかというところですけれども、まず民間で取り組まれているような対策、先ほど4点ご紹介しましたが、これらは著作物等の二次利用全般の円滑化に資する方策も含まれておりますので、そういったものについては引き続き、今後とも強化、充実されるべきだということを申しまして、その限界を補完する、セーフティネットとしての意義を有するものとして制度的な対応を考える、こういった基本的な役割分担をするのだろうという基本的な考え方が打ち出されております。
 それと、そのページの一番下の「なお」のところですけれども、権利者不明の場合においても、単なる写り込みにつきましては、問題の本来的な性格が異なるのではないかということもございますし、実際の対応策が異なるということもありますので、写り込みにつきましては、権利者不明の場合の制度で対応するというよりは、むしろ別途の権利制限の見直しなどの措置で対応すべきではないかというような指摘がされてございます。
 その次のページは、そういった制度改正をセーフティネットとして整備すべきだという考え方に基づきまして、どういう改正の手段があり得るかという観点で検討をされたものでございますが、まず裁定制度の手続の改善によって対応するのはどうかということでございます。過去の著作物等の小委員会で行われた提案としましては、例えば権利者情報データベースを活用して、そこに掲載されている人についてはしっかりと手続を踏むけれども、掲載されていない人については簡易な裁定制度を適用してはどうかというご提案もあったわけです。ただ、まだできていないデータベースだということもありますし、どの程度の情報がそこに集約されるかによってくるのではないかということもありまして、そういった権利者情報データベースと直接に効果を結び付ける手続の改善は難しいのではないかというご指摘がまずございました。
 bは、著作隣接権について裁定制度を作れるのかどうかという点でございますが、こちらは条約上の議論がいろいろございまして、具体的には実演家等保護条約の第15条で著作隣接権の保護の例外として認められる範囲につきまして、強制許諾については条約と抵触しない範囲でしか作ることができないという制約条件がございます。文化庁長官の裁定制度は手続の形式からいいますと、この強制許諾に当たる可能性があるということでございまして、それが明確に条約上の制約をクリアできるというような状況証拠が今のところは見当たっていないというご紹介でございます。
 それから、そのような点を踏まえまして、では、どういう制度設計をするのかということでございますが、過去の著作物等の小委員会で出てきたご意見を集約すると、このA案とB案、二つに集約されるのではないかということで取りまとめを行っております。
 まず、一つ目の案は、裁定制度のような事前手続をかませないものでございまして、権利者の捜索について相当の努力をした場合には利用することができるという権利制限のタイプでございます。今イギリスで検討されているようなものを参考とすべきという意見に基づいたものでございます。
 骨子を申しますと、権利制限規定でございまして、権利制限規定によって利用されたものであるということを利用の際に明示をする。それから、権利者が判明した場合には、事後に通常の使用料に相当する補償金を支払うという制度でございます。なお、こういった形にすることにつきましては、過去の著作物等の小委員会の委員から懸念もございまして、いたずらに要件を緩和することによって、ずるずるに運用されるのではないかという懸念でございますが、それについての付加的な条件についても議論がされております。
 例えば、アは権利者捜索についての何らかのガイドラインを設けた方がいいのではないかというご指摘、イは権利制限規定に従って利用するという際には、事前にどこかの機関に通知なり申告をしておくということ、ウは導入が特に求められている映像コンテンツ分野に限って導入して、その他の分野については既存の裁定制度で対応するということ。エは多数権利者のうちの大半の同意が得られている場合に限るとか、そういった一定の条件を付けたらどうかということ。これらにつきまして、議論をしていただきました。
 特に、イの事前の通知につきましては、先方の小委員会では異論がなく、概ねそういった方向がいいのではないのかというご指摘がございました。アについては設けた方がいいという意見と、ガイドラインを設けても実効性がない、裁判所で否定されるのではないかというご指摘もございました。
 ウとエについては、特にご指摘がなかったという状況でございます。
 B案につきましては、日本経団連の先ほどご紹介したような、第三者機関を設けて、そこで事後的に精算をするという取組を参考に作った制度設計の案でございます。骨子をご紹介しますと、権利者の捜索について相当な努力を払っても連絡することができない場合で、第三者機関に事前に使用料相当額を支払った場合につきましては、事後に免責の効果を与えるという制度設計でございます。また、A案と同じように、免責規定によって利用されたものであるということを利用の際に明示する。
 ただ、このB案につきましては、この免責というものをどういう法的性質で考えていくのかによって、大分考えることが変わってくるかなという点がございます。と申しますのは、これが仮に許諾に代わる性質を持つということでございますと、文化庁長官の裁定制度と、裁定を与える主体が違うだけということになりますので、著作隣接権については引き続き実演家等保護条約との関係が問題になってしまうということがございます。ですので、権利者の許諾と同等の効果があるという以外の免責という性質を持たせなければいけないという点が1個ございます。
 それから、どこに払ってもいいというわけにはいかないと思いますので、支払いをする第三者機関をあらかじめ指定なり何なりをしておかなければならないということ。それから、事前に実際にお金が動きますので、支払われたお金についての取扱いについていろいろ制度的なものを設けておかなければいけないのではないかと。例えば、第三者機関に請求があった場合と利用者本人に請求があった場合とで、どのようにその後の求償関係を整理するのか、それから利息の関係ですとか、時効の取扱いなどなど、いろいろと制度的なものを設けなければならないと思われまして、相当大がかりな制度設計になるのではないかと思われます。
 このようなA案、B案、二つを提示してご議論いただいたのですが、B案がいいというご意見もございましたけれども、A案をとりつつ、第三者機関のようなものをさらに工夫をして、民間の取組でやられるのかもしれませんが、そういったものを組み合わせていく方策がいいのではないかということで、先方の小委員会でご議論がされたということでございます。また、後ほどどのような制度設計がいいのかご指摘をいただければと思います。
 以上が、過去の著作物等の小委員会でコンテンツの二次利用に関して検討されていたものでございます。
 なお、28ページ以降のアーカイブの円滑化につきましても、この法制問題小委員会でも図書館の権利制限が検討課題でございますので、それに関係する部分に限りまして、若干、結論部分をご紹介させていただきます。
 (3)以降がこちらの検討結果ですが、アーカイブ活動、要するに資料の保存なり、集積なりの活動につきまして、図書館等がそれを行う場合についての課題について検討を行ったものでございます。前提としましては、国民が広く著作物、コンテンツにアクセスできるような環境整備が必要だという前提がございまして、それにつきましては、コンテンツ事業者が自ら、例えば音楽配信などが典型でございますけれども、自らネット上で提供する場合、それから国会図書館のようにコンテンツ事業者以外の人がコンテンツを集積するというような二つのパターンがございます。そのうちの後者の部分、コンテンツ提供者以外が行うアーカイブ活動に着目して、著作権法上の課題を整理したという部分でございます。
 まず現状でございます。国会図書館の所蔵資料のデジタル化についてという1の部分ですが、国会図書館では資料の保存を納本制度によりやっておりますけれども、その資料の保存自体が大きな目的の一つとなっている一方で、現在は資料の劣化が相当進んでいるという状況にあるということでございます。
 現在の著作権法第31条第2号では、「保存のため必要がある場合」には複製をすることができるという規定があるわけですけれども、この規定につきましては、かつての著作権審議会では、所蔵資料の複製については相当の必要がある場合に限るというような厳格な考え方が示されていたということもございまして、国会図書館の方でもなかなかこの規定によって全ての資料を複製するということはためらわれているという状況のご紹介がございました。
 このように将来にわたる保存のためにデジタル化することが31条第2号の解釈で読めるかどうか、必ずしも明らかではないという部分がございますが、一方で国会図書館の役割を考えれば、資料の傷みが激しくなる前に良好な状態でデジタル化して保存をすることが当然に期待されるということもございますので、著作権法上も国会図書館が納本された資料について直ちにデジタル方式により複製できるようにということを明確にすることが適当ではないかとご提言がされてございます。これがまず1点でございます。
 一方で、そのデジタル化がされた資料の利用につきましては、幾つか利用方法がございまして、31ページ以降でつらつらと検討されているわけでございますけれども、例えばaの1の国会図書館内でそのデジタル化された資料を利用することにつきましては、非営利・無料の上映という形でございますので、今の紙媒体の資料と同様に可能だろうということが整理されております。ただ、電子媒体の場合では紙と違いまして、同時に多数の人が閲覧することも可能になってしまうので、そこでは一定の条件が必要なのではないかというようなご指摘もございました。
 その次のbは、国会図書館でデジタル化したものを他の図書館で閲覧することにしてはどうかというご指摘もあったわけですけれども、それについての検討もなされておりまして、結論といたしましては、まず現在図書館間で現物の本の相互貸借が行われておりますので、この範囲ではできるようにすべきではないかというご指摘がございました。
 ただ、一方でデジタル化された資料はそのまま流通していく場合には、いろいろな心配もあるということもございまして、どういう条件でやるかについては、引き続き図書館関係者、あるいは出版社関係者、著作権関係者において協議をして条件付けをしていこうということで、とりあえずの条件付けについてさらに宿題が残っているような状況になってございます。
  3の国会図書館以外での図書館のデジタル化でございますが、こちらにつきまして、この法制問題小委員会の課題でもございましたが、昔の記録形式で保存されたもの、SPレコードですとかベータのビデオ、こういったものの再生が必要な機器が市場で入手困難になっているような場合に、これをほかのメディアに移し替えることが著作権法31条2号で可能なのかどうか。これにつきましては、31条2号の規定の解釈として不可能ではないのではないかというようなご指摘がされてございます。
 そのほか、この課題以外で国会図書館並びでいろいろデジタル化することにつきましては、引き続き関係者間によって協議を続けるということになっております。
 このように図書館関係の議論が先方の小委員会でも行われているということでございます。
 なお、長くなりましたが最後のページでございます。
 先方の小委員会では、保護期間の延長などについて議論が行われる中で、保護期間が延長された場合の弊害に対する対応策ということでいろいろなご指摘があったわけですけれども、その中では、例えば二次創作、パロディ、それから非営利無償のアーカイブ、障害者目的の権利制限、フェアユースなどにつきまして、権利制限規定を整備すべきではないかという提案も向こうではなされておりました。
 ただ、そういった問題につきましては、保護期間の在り方に関係する問題だけではないということもありまして、むしろ法制問題小委員会で検討すべきではないかというご意見もございましたので、先方の小委員会としてはこちらの方に問題提起をするという形で議論が引き継がれております。ご紹介をさせていただきました。
 すみません、長くなりましたが以上でございます。この報告に関しまして、いろいろご指摘なりいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【中山主査】

 ありがとうございました。
 それでは、ただ今のご報告を踏まえまして、ご意見、あるいはご質問をちょうだいしたいと思います。何かございましたらお願いいたします。
 どうぞ、松田委員。

【松田委員】

 説明大変よく分かりました。
 こういう方向性が出るだろうというのは、言ってみますと利用がかなり正当性があるにも関わらず、今の著作権法の制限規定ではどうしても乗り越えられないというところが多々あらわれてきているからだと思っています。
 A案にするかB案にするかというようなことがありますけれども、それほど変わっていない。基本的なことは何かというと、大きく分ければこれぐらいの要件があったときには使わせてもいいのではないかなというコンセンサスがあるだろうと思います。これくらいの要件というのは多分利用の目的が正当なものであって、それから十分調査した結果、権利者等が分からない。それから、その状況を公表すること、それから損害賠償については相当額のプールを予めしておく、こういうことがあったときには制限があってもいいのではないかなという共通のコンセンサスがあるのではないかと思います。
 そこで質問ですけれども、A案をとられた先生方は、これはまさにこういう状況のときに、特別な制限規定を設けようという考え方と、もう一つ、これをフェアユースとして考えて、フェアユース条項を設ければいいのだという考え方等はありませんでしたでしょうか。

【中山主査】

 どうぞ。

【黒沼著作権調査官】

 とりあえずは、現行の裁定制度があるということがございましたので、その裁定制度の手続をどういうふうにできるかという方向から出発しておりまして、権利者不明の場合の制度という形でまずは検討がされていたわけございます。

【松田委員】

 そうですか、分かりました。

【黒沼著作権調査官】

 ただ、フェアユースにつきましても、全然別の観点ではございますが、保護期間を諸外国並みに揃えるということであれば、権利制限規定も諸外国並みにすべきではないかというような意見がありましたので、そういった観点からご指摘があったことはあったということでございます。

【松田委員】

 もう一つ、制限規定という考え方をとるときに、一定の要件の下で損害賠償請求権は権利を制限する必要はないけど、差止め請求は権利の制限をした方がいいのではないかという、この二つのあらわれ方を議論したことはありませんでしょうか。というのは、大体は差止め請求権を制限すれば、損害賠償請求権だけが残るわけで、損害賠償請求権が残るというのであれば相当の額を予め十分プールしておけば、問題は解決できるということになるはずです。そういう議論はありませんでしたでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 確かに課題意識としては、予め利用許諾の効果といいますか、権利侵害であることを払拭したいというご要望が寄せられたことの念頭には、差止請求の制限があるのかなということは何となくありますけれども、明示的に差止め請求に限ってどうするべきかという議論は、そこまでは至っておりません。

【松田委員】

 意見としては、その議論をしてみていただきたいと思います。差止め請求権を制限するという、それだけを制限するという発想は、実は著作権法の中にはありませんけれども、解決する糸口になる可能性があるのではないかという意見を出しておきたいと思います。

【中山主査】

 おっしゃるとおり、今の物権的な構成だとそういう見解はないと思いますが、ただ、隣接権の貸与権のところには少しありますね、1年間だけは許諾権であと49年間は対価請求権。だから、おっしゃるとおり決して背理ではないのですけれども、A案もB案も結局言っていることは同じですね、差止めは認めないけどお金は払いなさいということですね。

【松田委員】

 そういうことですよね。

【中山主査】

 ええ、A案もB案も結果はそういうことですね。だから、心はA案、B案とも同じかもしれないけれども、事前に金を積んでおくか積んでおかないかとか、あるいは特別な機関を作るか作らないか、つまり裁判所に任せるか、特別な機関に任せるかという、そういう話ですね。

【松田委員】

 それについて言うならば、私その部分を裁判所に任せる方向の方がいいのではないかと思います。といいますのは、今までの裁定制度もそうですが、緩和しましてもなかなか事前に手続をとって一つずつ利用をするということは、結局は利用の促進にならないというふうに思っております。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 ほかに何かございましたら。
 どうぞ、村上委員。

【村上委員】

 もう一回、説明のところを確認させてもらいたいのですが、過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の現在の雰囲気としては、さっきの実演家の権利、その他も含めてA案かB案のどちらかのそういうものを作るという方向で進んでいるのか、それも必要がないというか、なくても大丈夫というか、どちらの方向が議論の進み方になっているのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 権利者不明の場合の一定の対策が必要だろういうことにつきましては、概ね反対意見もなく、ほぼ一致を見られているのではないかと思っておりまして、その権利者不明の場合の対応策として必要なものとしては、このA案、B案のような、何らかの制度的な対応が必要だというところまではいっていると思います。

【村上委員】

 それで続けて2点です。
 そうしますと、その対象にはさっきいろいろ条約上の制約とか何かいろいろ説明がありましたけれども、例えば実演家の権利なんかもやはりその対象に入れていいということでしょうか。
 それから、第2点目が、もともとこの問題が出ているのは、著作物全部の話というよりは、放送番組に特定した話なので、過去に放送された放送番組の中で二次使用をして経済的にやっていけるものがあるので、それを例えばネットで使わせるのを促進しようというのがそもそもの問題意識にあった話だと思います。そのときにこの解決策で大体全て解決されたというふうに考えていいのか。というのは、もともと権利処理のときに制作する放送会社とか制作プロダクション側の権利処理が完璧にできるなら、それで契約上けりがつくという話でして、それができるなら問題はなかったわけです。けれども、放送番組を作るときには、どの番組が当たるか当たらないかと言ったらおかしいですが、その後二次使用にまで行くかどうかというのが分からないので、結局そこのコストを誰も負担したがらないので、そこの権利処理が行われていない。
 それで後から市場に経済的に使えてネットにやって、多少対価を払ってもビジネス上利用できるという状況になったときに、ある程度対価は支払うけれども使わせてもらいたいというのが、そもそもの放送番組に特定しての問題意識だと思うのですが、そういうことに対する回答は、今回の回答で大体全部できたという感覚でよろしいのかどうか、そこだけ伺いたいと思います。

【黒沼著作権調査官】

 まず1点目でございますけれども、こちらは実演も含めての制度設計でございます。前提としまして、現行の文化庁長官の裁定制度と同じ形で制度を作るのであれば、実演については条約上の問題となる可能性があるのですけれども、今回こちらで議論されているA案のようなものであれば、文化庁長官が絡みませんので、条約上の問題が生じないということもありまして、実演も含めての制度設計でございます。
 それから2点目の放送番組関係で、今回の案で問題点が全て払拭されるのかどうかというご趣旨かと思いますけれども、先方の小委員会には放送事業者の代表の委員の方もいらっしゃいまして、そちらの方からご提示があった問題点としては、裁定制度では手続の時間がかかるというような問題点でございましたので、その手続の要する時間につきましては、今回新たな制度設計にすれば、問題点は大きなところは対応ができるのではないかとは思っております。ただ、このA案につきましても、権利者捜索の相当な努力が引き続き必要だということにしておりますので、その部分についてどういう捜索が必要なのか、それ次第によってくるのではないかというようなご指摘は、その委員からはございました。

【村上委員】

 確認させてもらいますが、最初のところの資料を読んでいて、国際的な条約上の制約が結構大きいような日本の法体系になっているのかなという印象を受けたのですが、そこは無事クリアしたというか、問題点は解消してあるということでよろしいでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 先ほどご説明をはしょってしまった部分ですけれども、19ページ、20ページに条約上の制約としてどのようなものがあるのかをご紹介しております。実演に関しましては実演家等保護条約で権利の例外をどういう場合に作っていいかという条件が書いてあるのですが、そちらでは著作物に関しての制限と同じものであればいいということがまず一つございます。一方で強制許諾というものだけは特別扱いされておりまして、強制許諾は条約上で認められた場合しかダメという、一段高いハードルが設けられている形になってございます。
 この強制許諾といいますのは、19ページに書いておりますように、特定の機関、権限がある機関が間に入って強制的に許可を与える、そういったものを強制許諾と呼んでおるようでございまして、そういった形ではない場合にはその条件はかかってこない。つまり、著作物と同じ例外規定であれば構わないというような条件に戻ります。
 一方で、著作物一般につきましては、いわゆるスリー・ステップ・テストという制約がございますので、結論としましては、スリー・ステップ・テストをクリアできれば条約上の問題も払拭できるということでございます。
 その点、このA案の権利制限型につきましては、イギリスの検討を参考に制度設計をしているわけですけれども、イギリスで検討されている中ではこのような形であれば、スリー・ステップ・テストはクリアできるのではないかという分析がされているようでございます。

【村上委員】

 一つだけ、私はもともと、日本では国際条約というか、その拘束が非常に強過ぎるのではないかという気がしているもので、そこのところはある程度その束縛というのは緩やかに考えた方が、今後のためにはいいのではないかという、これは意見になります。

【中山主査】

 貴重な意見をありがとうございます。
 ほかに何かございましたら。
 大渕委員、どうぞ。

【大渕委員】

 今の議論の本題そのものではないのですが、先ほど事務局の方から最後に37ページの関係で、「その他の検討課題」というところで、権利制限関係の見直しの点について、法制問題小委員会の方にボールが投げかけられているというようなご趣旨の説明がありました。この権利制限関係の見直しの点については、この小委員会で今までも検討されてきておりますが、重要な問題ですので、さらに検討していく必要があることは当然だというように思っております。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 ほかに何かございましたら。
 どうぞ、土肥委員。

【土肥委員】

 短い時間に、非常に詳細な分析と高いレベルの取りまとめをしていただいて、非常に勉強になったということで、まずお礼を申し上げたいと思いますけれども、A案、B案ございまして、実演家についての権利制限といいますか、実演家のところを解決して、コンテンツの利用の促進を図らなければならないという点は恐らく共通した認識なのではないかというふうに思います。
 それで、先ほどからお話のあった、ローマ条約15条との関係ですけれども、その強制許諾の形にすると、そのローマ条約15条2項に当たるということで、その文化庁長官の裁定はそれに当たるという認識でこの委員会では議論があったという理解でよろしいわけですね。
 そうすると、その形はとれないので、A案というのはまさに現実行われているような、ある種、エイヤ、というのに近いような形になっているわけですけれども、それよりも丁寧なやり方であるB案というのが、文化庁長官の裁定に非常に近いという形になるので、できないということであれば、そこを少しそういう形にならないような丁寧な仕組みはとれないのかということが、まず一つございます。
 それから、15条2項との関係でおっしゃった1項の制限が4つあるわけですね。しかし、それ以外、1の規定に関わらず国内法令でという場合にスリー・ステップ・テストがあるというのは、これベルヌ条約で言っているわけで、国内法令では具体的に特別に規定していっているわけですよね。そこが少しおっしゃっているところと現状が違うのではないかと思うんですけれども、そこはどうなのでしょうか。
 その2点よろしゅうございますか。

【黒沼著作権調査官】

 まず1点目の裁定制度と条約の関係との認識の部分でございますけれども、前提としましては、文化庁長官という特定の権限ある機関が許諾を与えるという形ですので、条約で言っている強制許諾に外形上は当たるだろうということはまず整理はされております。ただ、同じ強制許諾といっても権利者不明の場合はそこで言われているようなものとはちょっと違うのではないかというご指摘があったことも確かでございまして、もしかしたら条約の問題がクリアできるのではないかという望みも一部にはあることはある、ただ、それが権利者不明の場合は別扱いですよというようなはっきりとした証拠がないので、それを前提として条約上の問題はクリアできるでしょうという前提で議論するのはちょっと難しいかなという前提で、こういったA案、B案という流れに来たということがまず1点でございます。
 それから、2点目、もうちょっと丁寧な仕組みがとれないものかということでございますが、そのご指摘につきましては、過去の著作物等の小委員会でもございまして、B案につきましては、利用許諾という形以外の免責を考えれば、条約上の問題は何とかなるという点はございますけれども、それはどう考えるのか。どういう性質の免責にするのかというのは一つはっきりとした手がかりが出てきていないということ。それで、A案につきまして、事前の通知なりの一定の手続を踏ませるようなことが必要ではないかという意見がございまして、そういった形で丁寧な仕組みといいますか、そういったものを担保しようではないかという流れがあったという形でございます。

【土肥委員】

 スリー・ステップの話というのもお尋ねしたのですけれども、それというのは、既に15条1項のようなABCDの特別な形で日本の国内法、著作権法の規定の権利制限規定ができているわけですよね。だから、そのスリー・ステップ・テストが著作権法上あるので、それとの関係では、15条2項で言うところの国内法令に定める制限と同一の種類に当たるのかどうかという、そういう意味なのですが。

【黒沼著作権調査官】

 ローマ条約の15条2項は、著作物と同一の種類であればいいということですので、このA案、B案、いずれにしましても、著作物についても同じ制度を設けるということが前提でございます。その上で、著作物についてそういう制度を作ることがスリー・ステップ・テストに合致するのかどうかということにつきましては、アメリカ、イギリスいろいろ検討されている中では、権利者不明というのは特別な限定された場合だろうというようなご指摘も議論されているようでございます。

【土肥委員】

 分かりました。どうもありがとうございました。

【中山主査】

 ほかに。
 どうぞ、森田委員。

【森田委員】

 今の土肥委員の質問にも関連しますけれども、A案、B案とが示されていて、この2つの案は、それぞれの法的な位置付けと、事前の支払いか事後の支払いかという組み合わせによって成り立っているわけですが、そこの組み合わせはこのほかにもいろいろな可能性がないか、ということが質問の第1点です。例えば、権利制限とする場合についても、事前の支払いを要件として権利制限をするという選択肢も論理的には成り立ちそうですけれども、そのようなものであったならば国際条約に反しないのであれば、権利制限という性格付けをした上で、事前の支払いがよいのか事後の支払いがよいのかというその点だけを詰めていくという方向もあり得るのでしょうか。A案とB案の2つに選択肢を絞ってしまうと、二者択一になってしまってそれ以外の可能性が排除されてしまいますが、それ以外の選択肢がないのかという点について、もう少しお聞かせいただきたいというのが1点であります。
 それから質問の第2点は、ここで対応を検討しているのは「権利者が不明である場合」の対応策ということでありますので、その後、権利者が出てきた場合にはどうなるかという点です。つまり、ここでの対応策というのは権利者が不明である場合の暫定的なものであって、例えば、その後権利者があらわれてきて、それ以降、将来に向かっては使ってもらっては困るということを権利者が主張すれば、それは尊重されるのか、それとも、許諾というのは権利者に代わって未来永劫にわたって許諾してしまうということなのでしょうか。ここで狙っているのは権利者が不明である場合の暫定的な権利制限であったり、暫定的な許諾であったりということの方がその趣旨にはかなうような感じもするのですが、その辺りがよく分からなかったものですから、その点についても確認のためご説明をお願いします。

【黒沼著作権調査官】

 まず1点目でございますけれども、権利制限プラス事前の支払いという選択肢、もちろん可能性としてはございます。ただ、過去の著作物等の小委員会で出てきた議論としましては、そこに至る過程で、今の文化庁長官の裁定制度では事前に支払いが要件となっておりまして供託されているわけですけれども、供託金を取りに来ている実例がまだないということもありまして、事前に支払わせる合理性がどこまであるのかというようなご指摘があったということと、それから事前に支払いをさせるべきだという意見も多数あったんですが、その支払ったお金を別の用途で使うようにしたいと、今であれば供託金は時効になると国庫に入ってしまうわけですが、そうではなくて、それを例えば非営利・無料の申込者の利用料の軽減に回すとか、別の使い方をしたいというような希望もあるということもありましたので、制度的に事前支払いを位置付けるよりは、民間の取組なりで任意にどこかでプールするという方が柔軟な運用も可能ではないかという観点などありまして、案としてはこのA案、B案というような二つの選択肢をご提示させていただいたというようなことでございます。
 それから、2点目のご質問の出現した後の取り扱いでございますけれども、確かにこちらにははっきり整理をしておりませんで、先方の小委員会でもそれほどご指摘がなかったわけでございますけれども、仮に、A案はイギリスの例を参考にしているわけですので、その例で申しますと、権利者があらわれた後につきましては、通常のルールに戻りまして、その後の将来にわたっての利用を続けるかどうかについては改めてその場で交渉をするという形が検討されているようでございます。

【中山主査】

 よろしいですか。

【森田委員】

 まず、前者の点は、そうだとしますと事前の支払いか事後の支払いかは、いずれががよいかという点に絞って、どちらに合理性があるかという議論をむしろ正面からした方がよいように思います。事前の支払いはB案であって、これは選択肢としてあるけれども、条約上クリアするのは難しいので、だから事前支払いが不要であるとすべきだというふうに考えていくのは、何か別の理由から選択肢を狭めているような気がしたものですから。要するに組み合わせはいろいろあるということですね。
 それから、後者の点については、B案でいくとどうなるかという点はちょっと分からなかったんですが、権利者があらわれた場合にはB案でいくとどうなるのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 B案につきましては、事後の免責をどのような形にするかというところまで深い形で議論がされておりませんので、詰まっていないというのが正直なところでございます。

【中山主査】

 ほかに。
 どうぞ、清水委員。

【清水委員】

 今の点に関連して、非常に分かりやすくご説明いただいたと思っておりますが、A案、B案の制度設計の最初のところで、裁定制度では非営利の利用の場合などの手続コストの負担が難しいので対応が困難だというのを前提にしていながら、何でB案が出てくるのかが、基本的によく分からなかったのです。B案の中でも、免責を与える、つまり、支払は実際にしなくていい場合を分けるような議論で進んでいたのでしょうか。無料でやろうという人についても事前に支払わせることの説明がつきにくいように感じていたので、ご議論の中では、B案でも、非常に低廉にする場合を設けるというような話もあったのかどうかをお教えいただけたらと思います。

【黒沼著作権調査官】

 確かにご指摘のような意見はございまして、事前に支払われたお金を原資として、非営利・無料の場合のようなものは事前の利用料をそこから軽減する、そのような原資として使っていくという形で、非営利・無料の場合は事前の使用料の支払いを軽減する、免除するという仕組みを作るべきだというご指摘はございました。

【中山主査】

 ほかに何か。
 どうぞ、松田委員。

【松田委員】

 その前に答えたイギリスの制度に倣った考え方というのがご説明ありましたけれども、それについて質問したいのですけれども、一定の制度を作って適法化しておいて、権利者が出てきたら損害賠償も差止めも可能だということになりましたら、その制度の意味って一体何なのだろうかと、疑問に思っているのです。というのは、その制度に全然当てはまらないで、勝手に無断で利用をしておいて、権利者が出てきたら損害賠償も差止め請求権もあるに決まっているのですけれども、これとどう違うのだろうか。やはり、何らかの制度に当たって制限規定等に当たっている場合には、それを選択するメリットがないと制度として維持できないのではないでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 事後の差止めという観点から言いますと、権利者が出現した後にはそこから先の利用について改めてということでして、例えば、権利者不明の間に出版したものについてさかのぼって回収しなければいけないとか、それ以上の効果が発生するというようなことではないという意味でございます。

【松田委員】

 ただ、その場合でも制度を作るときに一定の使用料的なものをプールするということになりますと、過去のものに遡って払わなければいけないことは間違いないわけでしょう。そうすると制度のインセンティブはないのではないでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 使用料については確かに一緒でございます。ただ、今の例えば民間の取組で事前にどこかにお金をプールしておいて使うという形も検討されているわけですけれども、そういった場合には権利侵害であるという形にはなってしまいまして、例えば刑事罰なりの適用もあり得るわけでございますので、そういったリスクを払拭するといいますか、誠実に探す努力はしているという場合には、そこは適法だという形でその点のリスクを負わないという形を作った方がいいのではないかというご指摘もあったということでございます。

【中山主査】

 いずれにいたしましても、権利者が現れた場合についてはもう少し詰めていただければという気はいたします。
 ほかに何かございませんでしょうか。
 どうぞ、茶園委員。

【茶園委員】

 今までに出された意見と同じようなことなのですけれども、ご説明の中で裁定制度を設けることが、ローマ条約上、問題があるのではないかというようにおっしゃられていました。問題がないという証拠はないということは、おっしゃるとおりだと思うのですけれども、私は個人的には、権利者不明の場合には裁定制度を設けたとしてもローマ条約には違反しないのではないか、この条約が強制許諾を禁止しているのは、結局権利者保護のためであって、権利者不明の場合に強制許諾ができないとすることは条約上予定されていないのではないかというように思っております。
 このような考えを持っておりますので、A案とかB案とかのうち、どちらがよいとか、あるいはこれらの修正を加えたものがよいとか、そのようなことが、それ自体として検討されるのであればよいのですけれども、条約上の問題がありそうなので、その問題を避けるために、本来余り望ましくないのだけれども、こういう案を選ぶとかということになるのであれば、本当に条約上の問題をクリアできないのかどうかをもう少し考えていただきたいと思います。お願いいたします。

【中山主査】

 A案とB案、それは条約の問題もあるけれども、それ以外にも事前規制から事後規制の、どちらがいいかという今現在の社会の流れのもありますし、あと何よりもそのスピードとかかる費用、特に第三者機関に関するかかる費用等の問題もあるわけですから、単に条約上の縛りを免れるためにA案というわけではなくて、A案にはA案なりのメリットがあるという議論もされておりましたけれども。
 ほかに何かございましたら。よろしいでしょうか。
 どうぞ、松田委員。

【松田委員】

 すみません、一つだけ。最後の図書館の件ですけれども、恐らくは議論なさっていると思うのですけれども、この報告書を見る限り、かなり図書館に集中して議論しているようですけれども、図書館だけではなくて博物館とか美術館だとか、こういうものも同じ問題を抱えているということをご指摘しておきたいと思います。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 どうぞ、村上委員。

【村上委員】

 むしろ、長期的な要望だけなので、私の専門分野ではないのですが、国際条約が著作権の分野でどの程度効力があるのかなというのは、非常に大きな問題だと思うので、特に条約のいわゆる国内法的効力と言われている部分にあるのですが、そこだけは長期的に少し検討しておいてもらった方がいいと思います。アメリカは、私の知っている知識の範囲内では法律と条約の間に優劣がありませんから、後から作った方がとにかく優先するわけです。したがって、後法である法律の方が優先する。イギリスは条約は国を縛っても、国内法の個人は縛らないので、したがって、法律を作った場合には国内法が優先するという感じになっています。そういう国の制度と議論する場合に、どこのどれだけそれらの国で条約の拘束力があるというのか、同じような議論をしているかどうかというところに違いがあると思うので、一度日本でも著作権関係の条約というのは、これまた日本独自の憲法上の解釈問題との関係で、その優劣関係なり、どこまで拘束されているのかということは、一度、長期的にはどこかで検討しておいていただければと思っています。

【中山主査】

 おっしゃるとおり、日本の憲法、あの規定は恐らく世界では余り例のない条約優位の規定で、恐らく戦争に負けて日本が変な法律作らないようにということではないかと思うのですけれども、それは別として、あれほどの条約優位の国はほとんどないわけで、そういう条件の下で議論をしているわけですから、非常に面倒くさいのですが。ただ、先ほど条約の国内適用法の問題というよりは、むしろ私は条約のエンフォースメントの問題ではないかと思います。違反した場合、一体、どういうエンフォースメントがあるかということですが、実は知的財産関係の条約に違反してもそれほど大きなエンフォースメントはないのですね。WTO、国際司法裁判所はあまり当てになりませんけれども、WTOに提訴ということしかないわけですね。WTOにおいて、パネルで負けたらアピールすればいい、アピールして負けたらそこで法律を変えればいい。あるいはアメリカのバード修正条項のようにパネルで負けても、なお国益を優先するならば、そのまま突っ走ればいい。突っ走った場合のエンフォースメントサンクションしかない。知的財産のサンクションというと何かというと、今まで余り例がないのですね。理論的にはクロス・リタリエーションが考えられますけれども、余りやった例というのはない。ダンピングなどですと相当分のお金を相手国からダンピング課税で取るということはありますけれども、知財の場合はなかなかこのリタリエーションは難しいということ等々を考えると、この条約のエンフォースメントというのは一体国際的にどう考えられているのか、という点を検討しなければなりません。場合によっては国際経済法の専門家を呼んで、もし時間があればお話ししてもらってもいいと思っています。確かにおっしゃる点は非常に大事で、どうも日本の法律家というか日本人はまじめですから、条約を余りに厳格に、実直に解釈すると国益を害する場合もあり得るのではないかと私は思っています。
 ほかによろしいでしょうか。
 一つだけいつも気になるのですが、6ページの真ん中当たりで出生率が低下しているから権利者を探すのに余り苦労しないということが書いてあるのですが、確かに日本の人口は減っていますけれども、出生率減っていない国、増えている国を含め、世界中の著作物も利用するわけですね。したがって、これは日本のことだけしか考えていないのではないかという気がしますし、それに出生率が減っているということは子どもがいないことも多くて、子どもがいないと兄弟姉妹が相続し、それから甥や姪が相続したりして、かえって複雑で希薄な関係の者が共有してしまうとか、いろいろな場合があり得るので、出生率が減ったから余り問題なくなっているのではないかというのは、私は少しおかしいのではないかという気は前々からしておりますけれども、その点はいかがですか。

【黒沼著作権調査官】

 こちらに書いてあるのは、共有ワーキングチーム報告をなぜメインターゲットにしたのかということにつながる流れを書いているものでございまして、だから問題がないということを言いたいというわけではございません。現状で既に顕在化している問題にまず焦点を絞りましょうということが書いてあるという趣旨でございます。

【中山主査】

 ほかに何か、よろしいでしょうか。
 それでは、時間もありますので、この項目はこのくらいにいたしまして、この問題につきましては、ただ今の議論を基に事務局の方で議論を整理していただくようにお願いしたいと思います。
 次に、議事の2番目と3番目の「検索エンジンの法制上の課題」と「機器利用時・通信過程における蓄積の取扱い」について、デジタル対応ワーキングチーム茶園座長よりご報告をお願いいたします。

(2)「検索エンジンの法制上の課題」について

【茶園委員】

 では、ご報告させていただきます。
 資料3の「検索エンジンの法制上の課題について」をご覧いただきたいのですが、検索エンジンに関しましては、これまでも本小委員会においてご報告させていただき、いろいろなご意見をちょうだいいたしました。そして、いただいたご意見を踏まえまして、こういうペーパーを作成させていただいたということです。ここでは、修正点を中心にご説明させていただきます。
 現在インターネット上に膨大に存在している情報の中から必要な情報の所在を探すために、検索エンジンが非常に有用な手段になっておりますが、検索エンジンにおいては、著作物の利用が行われており、著作権法上の問題があるということでして、検索エンジンの法的地位の安定化確保ということを考えないといけないのではないかということで、この議論をスタートさせたわけです。
 最初の2ページ、3ページ、4ページでは、検索エンジンの説明をしておりまして、8ページから現行法の対応の可能性を検討いたしまして、結論としては十分ではないだろうということで、何らかの立法措置が必要であるとしております。この立法措置に関しまして、9ページの下の方からずっと書いております。先ほど申しましたような検索エンジンの有用性等を鑑みますと、検索エンジンにおいて行われている著作物の利用行為について、権利制限を設ける必要があるのではないかということでして、最初の方に記述しておりますのはこれまでにご説明させていただいたとおりのことでして、変更点は12ページの下線部からです。
 検索結果の表示に関しましては、それが公衆の目に触れるものですので、権利制限を設けようとした場合にどういう方法によるべきか、個別的に規定すべきか、あるいは包括的に規定すべきかという選択肢があり得るわけですけれども、この下線部では今後の検索エンジンの発展を考慮すると、包括的に規定するという方が望ましいのではないかということを書いております。
 今回、特に大きく変わりましたのは、13ページの下の方のdの権利者保護への対応、その中でも特に14ページの下の方の2の技術的回避手段以外による意思表示のところであります。基本的に検索エンジンにおける著作物の利用について権利制限を設けるべきということなのですけれども、ただ、権利者保護というものについて考慮すべき点があるのではないかという問題です。まず、一般には自己の著作物をネット上に載せたその権利者は、通常その著作物を多くの人に見てもらうために載せるのでしょうから、検索エンジンにおいて利用されることについては、黙示的にも許諾していると思われるわけですけれども、中には検索対象として利用されたくないという方もおられるでしょう。次に、そもそもネットに載せられたことが違法であったという場合があります。
 前者に関して、自己の意思に基づいて権利者がその著作物をネットに載せたが、検索対象とされたくないという場合には、技術的回避手段というものが通常検索エンジンに備えられておりますから、それを用いることによって検索対象から除かれることができます。
 問題は、この技術的回避手段以外に、例えばメールや手紙において利用されたくないということを検索エンジン側に通知すれば、検索エンジン側がそれに対応しなくてはいけないかという点です。それが2の技術的回避手段以外による意思表示の部分でして、郵便やメールによる意思表示で対応してもらいたいという権利者からの要望があるということも考えられるのですけれども、通常そういうことはあまりありませんし、技術的回避手段が十分に機能するという前提条件が担保されるのであれば、郵便やメール等によって著作物の利用停止や削除を請求することができるとする措置を講じなくとも、技術的回避手段で足りるものと考えられるということです。以前は技術的回避手段以外の意思表示に対しても対応する必要があるのではないかということを書いておりましたけれども、今回はそういうことが必要ないのではないか、技術的回避手段だけで十分なのではないか、というように変更しております。
 後者については、内容的には以前のものとあまり変わっておりません。違法複製物が検索対象になりますと、違法複製物の流通が拡大するということになりますので、その拡大防止の観点からは、権利者が違法複製物の削除等を求めた場合には、検索エンジンサービス提供者としても対応する必要があるでしょうということです。ただ、検索エンジンサービス提供者としては、検索対象にしたものが違法複製物かどうかということは基本的に認識することができませんので、そこで16ページの最初の方にありますように、プロバイダ責任制限法3条の規定も参考にしまして、検索エンジンサービス提供者が他人の著作権が侵害されていることを知った場合、または他者の著作権を侵害するものであることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった場合に、検索エンジン側が違法複製物を検索対象から除くべきだということを記述しております。
 先ほど述べましたように、権利者が検索対象として利用されたくないといった場合の意思表示の方法を技術的回避手段に限ることにしましたので、そのため技術的回避手段の重みというのが増えることになります。そこで、17ページのところに書きましたけれども、これに関してきちんとしたルールの形成をしてもらいたいということを記述しております。また、違法複製物に対してはプロバイダ責任制限法と同様のルールを考えておりますので、そういうような関係当事者間の中でいろいろと協力関係を構築してもらいたいということを記述しております。
 以上です。

【中山主査】

 ありがとうございました。
 それでは、ただ今のご報告を基に議論を進めてまいりたいと思いますけれども、ご意見、ご質問ございましたらお願いいたします。
 一言よろしいでしょうか。この案でいって、Google、あるいはYahooのアメリカでの活動と日か得してと日本の場合はやりにくいというようなことはあるのでしょうか。それとも、Google、Yahoo並みにできるということなのでしょうか。

【茶園委員】

 そんなに大きな違いはないのではないかと思っております。ただ、今そもそもこの議論を始めましたのは、GoogleやYahoo!などは行われているのだけれども、日本で検索エンジンを行うことには著作法上に問題があるのではないかということからでした。GoogleやYahoo!が日本では利用することができるのですけれども、サーバーが外国にあるので、日本の著作権は及ばないという、私はその点はいかがなものかとは思うのですけれども、ともかくそういうように考えられているようでして、そうであれば、GoogleやYahoo!のサーバがアメリカにあるのであれば、アメリカ著作権法で許されるかどうかということが検討されることになるのでしょうし、その場合には、フェアユース規定の適用等の問題となると思います。アメリカ著作権法で許される範囲と詳細な比較をすることは難しいでしょうが、そう大きな違いはないのではないかというように思っております。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 ほかに。どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】

 少しだけ確認させていただければと思います。ワーキングチームのご報告として9ページ以下で「立法措置による対応の可能性と論点」とあって、1というのを中心にご説明になって、あと23も書いてあるのですけれども、23の位置づけというのはどういうものでしょうか。2というのは利用許諾の推定、擬制のパターンとか、あるいは先ほどの黙示の許諾のところとか、それからさっきのご説明でもプロバイダ責任制限法を参考にするという部分もありましたけれども、類似の特別立法による対応の可能性などもあるが、ワーキングチームのご報告としては1の方向性でいくという趣旨で理解すればよろしいでしょうか。その上で、先ほどフェアユースという話が出ていましたけれども、フェアユースだとやってみなければ分からない面があるというのは、ある意味では一般条項の特性であるのですけれど、それに対してここに出るものは、むしろ先ほどのいろいろ問題点も解決されて、技術的回避手段以外の意思表示では認めないということで、技術的回避手段によらない限りは、先ほどのいろいろ言われたところを満たしている限りは権利制限が働くというところを明確にしているというご趣旨かと思ったのですが、このような理解でよろしいのでしょうか。

【茶園委員】

 どうもありがとうございます。
 まず最初の点である立法措置として、今ご報告したのは1のところばかりだったのですけれども、おっしゃるように17ページから23と書いてありまして、この2の利用許諾の推定や擬制規定の立法、あるいは3のプロバイダ責任制限法類似の立法という対応も考えられるということですが、ここに書いておりますように、2とか3には問題があるということです。そこで、対応としては123が考えられるのですが、ワーキングチームとしては1を主に考えておりまして、これで基本的に現在の検索エンジンに関する問題を何とか解決できるのではないかというように思っております。
 もう一点の技術的回避手段以外のものは認めないということについてですが、フェアユースで対応するとしますと、手紙やメールで来た場合に対応するかどうかはケース・バイ・ケースの判断ということになるのではないかと思います。これに対して、今ご説明させていただいた方法ですと、技術的回避以外のものに対応しなくても権利制限を受けられるということでして、この点については明確化を図ることができるというように思っております。

【大渕委員】

 今のところにも関連すると言えば関連するのですが、できるだけ柔軟性を出すように包括的に規定するか、できるだけ明確性を高めるように個別的に規定するかというのは、著作権法に限らず、どの法律にとっても永遠の課題ともいえるかと思います。その関係で、12ページから13ページにある、線がずっと引いてある、個別的に規定するか、包括的に規定するかというところですが、ここでは包括的な方がいいのではないかという方向性が示されているように思われます。やはり、現時点の技術状態を前提に余り細かく規定してしまうと、何年か後には、技術状況が全く変わってしまって、またすぐにでも改正しなければいけなくなるというように、不都合が起きてくる可能性がありますので、その辺は最後はバランスの問題に帰着するかと思いますが、なるべく技術の変化に柔軟に対応できるようにするために、あまり細部についてまで詳細にがちがちに規定しない形の方がいいのではないかと思っておりますので、その観点からここでの方向性というのは賛同できるものと思っております。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 ほかに何か。
 どうぞ、村上委員。

【村上委員】

 1点だけ、先ほど茶園委員の説明でもう一回確認させてもらいたいのですが、やはりサーバーをもしアメリカに持っていって、そこから動かした場合には準拠法の問題としてはアメリカ著作権法が適用になって、日本事業者もそれができるという結論が解釈論として一番有力であるということになるということでよろしいでしょうか。

【茶園委員】

 強いかどうかというのはよく分からないのですけれども、恐らくその考えに基づいて企業は行動しているのではないかというように思っております。恐らくそれがゆえに外国の検索エンジンを日本で利用することができるのだけれども、日本の著作権法上の問題をあまり考えなくてもよく、逆に日本で検索エンジンを置こうとすると、日本の著作権法が適用されるということになる、そういうふうに考えられているのではないかと思っております。

【中山主査】

 これは恐らくここで議論しても収拾がつかない問題で、判例もないし、これといった確定的な説もない。ただ、恐らく企業としては日本にサーバーを置くよりは向こうに置いた方がより安全だろうということは言えると思うのです。その程度ではないかと思いますが、確定的なことはまだ分かりません、国際的にも揉めているところで、ここで議論をしても収まりのつくような問題ではないと思うのですけれども。
 ほかに何かございましたら。
 どうぞ、森田委員。

【森田委員】

 先ほど大渕委員のご質問に関係するところですけれども、立法がどういうイメージになるかということについてお伺いします。技術の発展やビジネスモデルの発展を阻害しないように包括的に規定すると、「検索エンジンの目的上必要と認められる範囲」といったような一般的な要件のもとで権利制限することになりますが、そうなってくると、その要件に具体的に当たるかどうかという解釈のリスクが生じてきます。それについて、後ろの方では自主的ルールとかガイドラインによる補完という話が出てきますが、ただ、その対象となっているのは文字通り読みますと、dやeの場合ということになっていますけれども、全体的には包括的な規定にしておいて、その解釈はガイドラインで補完するというような組み合わせで考えておられるのかどうかという辺りについて、ちょっとご確認させていただきたいと思います。

【清田企画調査係長】

 事務局といたしましては、大体ご指摘のような方針で考えております。

【森田委員】

 今まで、著作権法の解釈についてのガイドラインというのはあまりなかったと思いますが、今後は、著作権法にもいろいろ包括的な規定を置いておいて、その解釈を補完するようなガイドラインを作る、ただ、ガイドラインどおりに裁判所が判断してくれるかどうかという問題が次に出てくると思いますが、そういうツールも今後は活用していこうという方向での第1歩だという感じなのでしょうか。

【清田企画調査係長】

 新しい業界間の協力関係というものも必要ですので、そういうふうに考えております。

【中山主査】

 そこら辺、ちょっと微妙な点ありまして、ご存じのとおり、著作権課の解釈が裁判所で覆されてしまった例もあります。これは著作権だけではなくて、例えば先ほどの職務発明のガイドラインを定めてくれとか、特許法の先使用権のガイドラインを定めてくれという要求は業界からは非常に強いんですね。役所としてはその要求も答えざるを得ないかと思うのですけれども、しかし、役所としては、裁判所で否定されないような方向で作らざるを得ないということになりますと、そうすると自主規制が働くというか、ある意味では安全性に偏ったものになりがちです。これは包括的な規定になればなるほどフェアユースに近くなるわけですよね。包括的な規定を置けば置くほど、自分でこれいいと思ってやる、あとは裁判所で争うのだという、その方向が出てくると思います。。そういう意味でフェアユース、今回は議論していませんけれども、フェアユースのミニチュア版のようになってくるというような感じはするのですけれども。
 どうぞ、茶園委員。

【茶園委員】

 ガイドラインに関して、森田委員がおっしゃっているのは12ページから13ページのところだと思うのですけれども、この部分に関わることもガイドラインに入れるとしても、技術的回避手段以外についてどうするかとか、違法複製物についてどうするかというのは実体の問題でして、その後の方のどういうようになれば侵害を知っていることになるかとか、侵害であることを知ることができたと認められるかどうかということとはちょっと性質が違っていて、基本的にはここでは、現在、通常検索エンジンが行っているような標準プロトコールは特に問題がないであろうが、ただ、今後いろいろなものが出てくるということを考えて包括的にするわけでして、これをもし仮にガイドラインの対象にするとしても、恐らく性質がかなり異なって、ガイドラインに入れるとして、その在り方はいろいろ違うことになるのではないかというようには思っております。

【中山主査】

 土肥委員。

【土肥委員】

 実は、お尋ねしようと思ったのは、森田委員がお聞きになったこととほとんど同じだったのですが、この12ページ、13ページのところは公衆送信についての話ですね。その公衆送信に関して、検索エンジンの目的上必要と認められる範囲内でということに関して、一般的な規定を置くのか、つまり小フェアユース的な規定を置くのか、あるいはきちんと書くのかということなのですが、ガイドラインでというのはびっくりしたのですけれども、それはその著作権法の外でということになるわけですね。どちらにすべきかという議論はこの中でなさったということですか。ガイドラインを著作権法、つまり素直に読むと著作権法の中で公衆送信に関する小一般条項のようなものを作って、その目的の必要が認められる範囲を対応しておくということだと思うのですけれども、外にガイドラインを置くようなことが可能なのかということなのですけれども。

【茶園委員】

 置くことは可能というよりも、基本的にガイドラインを設けるものとして考えていますのは、後の方のものです。ですから、例えば知っていると認められるかどうかということについては、現在プロバイダ責任制限法の下でも行われておりますし、あのようなイメージのものを考えております。他方、今おっしゃった12ページ、13ページのところについては、今後の発展も考えますと、場合によっては少し問題が生じるようなものも出てくる可能性もないではないのですけれども、ただ、むしろ制限的に定めることにするといろいろな弊害が生じるおそれがあるので、包括的にしたほうがよいであろうということです。
 ですから、後の方のところは手続絡みのものですので、ガイドラインなりを設けることについて権利者側と検索エンジン側が協力関係を持ってもらいたいということでして、前の方の12ページ、13ページの部分についてはガイドラインで何とかするといったことはあまり考えておりません。包括的に規定するために不明確性が生じるので、ガイドラインで明確性を担保しましょうとかいったことは考えておりませんでした。

【中山主査】

 ありがとうございます。
 ほかに何か。
 どうぞ、大渕委員、次に松田委員お願いします。

【大渕委員】

 先ほどの12ページ、13ページで包括的とありますが、そもそもフェアユースといってみんなが同じ言葉を使っても念頭に置いているのがかなり違うのではないかと思うのと同じように、包括的といっても、どういうものが包括的というのかは、人によってかなり違いがあるように思います。私がイメージしていたのは、技術的なことを細部にわたって詳細に規定するのではなく、もっと包括的なものというものでありました。ただ、そのような包括的な規定の不明確性をガイドラインで埋めるということを強調するのは方向性としてはあまり妥当ではないように思われます。そのような包括的規定も基本的に最終的には裁判所が解釈するということでありまして、その際の参考資料的なものとして、立案当局の方でこういうことを念頭に置いて規定を立案したという解説書等は、もちろん裁判所の解釈にとって役立ちますが、ガイドライン自体で法律に代替しようというのは、むしろ今後あるべき方向性に逆行しているように思います。基本的には法律は法律としてあるものであって、先ほどのような解釈上の参考資料が有益であることは間違いないのですが、ガイドライン自体で法律を穴埋めする形というのは、むしろ好ましくないのではないかと思っております。

【中山主査】

 松田委員。

【松田委員】

 もしかしたら書いてあるのかもしれませんが、情報を提供している側が、権利者が技術的回避手段を行使して、そして検索システムの中で検索対象にしないでくださいねという意思表示をしていたとすれば、それがほとんど担保力あるというのは、私もそう思います。簡単なシステムでできるというのもそのとおりだと思うのです。フラグか何か立てるだけでもう検索対象外になるのです。それで私もいいと思うのです。
 それはなぜ担保されているかというと、今の検索エンジンが制度にのっとってみんなやってくれているからです。そういうことにのっとらないで、言ってみれば検索対象にしてもらっては困るような情報について、あえて検索エンジンで集めてしまおうという不心得な者が生まれた場合、技術的保護手段を回避してしまうわけです。そして、検索できるようになってしまうのです。その場合には、もちろんこの検索エンジンは違法になるわけです、制限規定に反しているわけです。その結果、その検索エンジンから流れてしまった著作物については、当該検索エンジンの運営者として責任を負うのでしょうか。そうしないと止まらなくなってしまうのではないかと思うのですが。

【茶園委員】

 ちょっと確認させていただきたいのですけれども、検索エンジンは通常検索対象から除かれるという回避手段を採っている情報を検索対象としないわけですけれども。

【松田委員】

 通常はしませんね。

【茶園委員】

 しかしながら、そのような対応をすることはやめて、回避手段を採っている情報を集めて検索できるようにするということですか。

【松田委員】

 というのは、検索できないものを検索してご覧に入れますという検索エンジンを運用すると、はやると思うんですよ。

【茶園委員】

 一つは、松田委員がおっしゃられましたように、それ自体は違法となるわけですよね。ただ、流れてもといいましても、そもそもその情報はネットに載っているわけでして、権利者にとっては、多くの人に見てほしくないと思っているとしても、その意思に反して多くの人の目に触れるようになっても、ネットに載せているわけですから、それは仕方ないということなのではないでしょうか。もちろん、その情報を得て見るという行為は許されますが、そこからダウンロードして、さらにそれを公衆送信するようにすれば、当然その行為は検索エンジンが関わったかどうかとは関係なしに侵害になるでしょうが。

【松田委員】

 自動公衆送信権侵害になりますね。

【茶園委員】

 はい。ですから、技術的回避手段を無視した検索エンジン会社があることによって、権利者はネットに載せながら、多くの人の目に触れてほしくなかった著作物が検索エンジンによって目に触れやすい状態になったということでして、権利者の救済は検索エンジンを止めること以外にはないのではないでしょうか。

【松田委員】

 検索エンジン主催者に対して、差止め請求するほかないということになるわけですね。

【茶園委員】

 逆にそれ以外の救済はなかなか難しいように思います。

【中山主査】

 知的財産権侵害の場合は、何が損害かというのも分からないことが本当に多い。このことだけではなくて、ありとあらゆるところで出てくるわけでして、これももしそういうことが起きたら、裁判所で新しい解釈を示してもらうしかないのでしょう。あるいは、学説として損害の議論をしてもらうということになるので、恐らく、審議会でどうでしょうかと言われても、困る議題ではないかという気はするのですけれども。

【村上委員】

 審議会でやる対策としてはやっぱりできることは、例えばその行為を刑事罰としてきちんと、もしそういうことがあった場合には個人責任とか何とかという方策をとるぐらいの話かなということで聞いていました。ただ、それも効くかということ、本当に違法を覚悟してやっている団体というのは姿がなくなるというのが、実態の問題なので、効力は疑問ですけれども。

【中山主査】

 刑事罰は当然ありますよね。

【茶園委員】

 これについて何もしないのであれば当然複製権、あるいは公衆送信権侵害ですから。

【中山主査】

 すみません、どうもそれ以上の議論はなかなかここではしにくいものですから。
 ほかに何かございましたら。
 機器利用時の方にいきたいと思います。

(3)「機器利用時・通信過程における蓄積の取扱い」について

【茶園委員】

 では、続きまして資料4の「機器利用時における蓄積の取扱について(中間報告)」のご説明をさせていただきます。
 これにつきましても、前の本小委員会においてご報告させていただきました。この問題につきましては、平成18年の著作権分科会の報告書の中で、一時的蓄積を「瞬間的・過度的な蓄積」と「一時的固定」に分けまして、「一時的固定」について権利制限を及ぼすものがあるか、あるとすればそれはどういう要件で考えるべきかということを検討いたしまして、2ページの123の要件を一応設定いたしました。
 ただ、この18年の報告書の段階でも、通信についても複製の問題があるのだけれども、その対応はなかなか難しいということを書いておりました。その後、やはり機器の問題と通信の問題は分けて検討すべきではないかとなりました。今ご報告させていただいているのは機器利用時の問題ですけれども、機器利用時に関しましても、18年報告書の特に3の合理的な時間の範囲内という要件については、定量的な時間の問題ではないのではないかと考えまして、4ページのところにありますように、利用者の適法な機器利用の確保と権利者の権利の適切な保護の双方を踏まえますと、仮に長時間にわたって蓄積が残存したとしても、実質的に当該蓄積を「複製」として利用したと評価するには及ばない程度あれば、複製権の対象とならないようにするというように要件を再検討することが適切ではないかということに至りました。そして、次の(2)の複製権を及ぼすべきではない範囲といたしまして、機器利用において複製が行われる場合は、1視聴等行為に合目的な蓄積であること、2上記蓄積を伴う視聴等の行為が合理的な範囲内であること、この二つを要件にして複製権を及ぼすべきではない範囲を画するべきではないかと、こういう結論に至りました。
 合理的な範囲か否かについては、4ページの最後のところに書きましたけれども、「所与の技術的体系の下において社会的に一般的と認められる機器利用の態様から客観的に判断されるべきである」ということです。定量的に判断することは現在の技術状況からいたしますと、先ほど申しましたとおり、長期にわたる場合もあって、それを時間が長過ぎるからという理由で権利制限を及ぼさないのは妥当性を欠くこともあろうということで、ここでは明確性を欠くという問題があるのですけれども、合理的な範囲という要件でよいのではないかというように考えました。
 ただ、視聴等に合目的な蓄積、上記蓄積を伴う視聴等の行為が合理的な範囲内のものであるという要件を定めるとしますと、その書きぶりにもよるのですけれども、もし客観的に合理的な範囲を超えるようなことになったとしても、(3)の「関連する論点」のところですが、それが意図せずにたまたま行われたものであるというならば、利用者保護の観点から複製権を及ぼすべきではないように整理すべきではないかと考えております。
 結論といたしましては、機器利用時の一時的蓄積につきましては、1著作物等の視聴等に係る技術的過程において生じる、2付随的又は不可避的で、3視聴等に合目的な蓄積であって、当該技術及び当該技術に係る一般的な機器利用の態様に照らして合理的な範囲内の視聴等の行為に供されるものであること、こういう要件を満たすものについては、権利を及ぼさないという立法措置を講ずることが適切なのではないかという結論に至りました。
 以上です。

【中山主査】

 時間の関係もありますので、資料5の通信過程の方も説明していただきまして、時間がなければ議論は次回ということにしたいと思いますので、続いて資料5の方をお願いいたします。

【茶園委員】

 では、資料5の「通信過程における蓄積等の利用行為に関する法制上の論点について(審議経過報告)」をご報告させていただきます。
 この問題については、まだ現在審議を行っている途中です。通信過程においてもいろいろな複製が行われますが、それは通信の円滑化とか効率化のために行われるものでして、それを複製が行われたから著作権侵害であるとすることは妥当性を欠くのではないかということでして、権利を及ぼすべきではない範囲を考える必要があるということから、この問題を検討したわけです。
 2ページのところを見ていただきたいのですが、議論の対象になっている蓄積行為としては、例えば次のようなものがございます。
 通信過程において、伝送過程で中継や分岐の際に生じる瞬間的・過渡的な蓄積とか、あるいはシステム・キャッシングの際の蓄積とか、あるいはミラーリングの際の蓄積とか、あるいはP2P型の通信の中継過程において生じる蓄積、こういったような通信過程における蓄積等の利用行為について権利を及ぼすべきでない範囲をどういうように考えるべきか、ということです。2ページの下の方では、行為主体を、例えば送信者と考えることによって問題解決を図ることができるのではないかという主張もありましたが、原則として送信者が行為主体であるということは考えにくいし、そういうことを法定したとしても様々に解釈される可能性があるため、この方法ではなかなか安定的な対処は難しいのではないかということを記述しております。
 また、権利を及ぼすべきでない範囲を検討するに当たっては、蓄積装置の設置主体に着目して問題を考えるべきではないかという議論もありましたけれども、やはりこれも難しいでしょうということです。
 「3.法的評価について」ですけれども、現行法ではどのように解されるかについてまず検証いたしまして、契約、あるいは権利者の意思の推認等による対応可能性を検討したのですけれども、十分な対応にはなり難いのではないかということです。
  2のプロバイダ責任制限法の対応可能性もあるのですけれども、これもまた不十分さが残るということでして、そこで、4ページの(2)の立法措置による対応可能性を考えたということであります。
 先ほど言いましたように、通信過程における蓄積は、通信の円滑化、効率化に資するものですから、権利を及ぼすべきではないとする立法措置を設ける必要性、正当性があるということは認められると思われます。
 5ページですけれども、ただ、次の点に留意する必要があるということでして、第2段落のところですけれども、原則としては、今問題にしているような蓄積は、送信者と受信者間の通信の効率性や信頼性確保を目的とする通信過程における蓄積であって、これは通信と不可分のものであり、通信とは別個に権利者の経済的利益に影響を及ぼすものではないと言えるのではないかと思われます。
 しかしながら、違法な著作物流通におきましては、この下のa)とかb)がその具体例ですけれども、例えばP2Pのファイル交換ソフトにおいて、中継過程において生ずる蓄積、そして公衆送信に対して権利を及ぼさないとすることについては、以下のような問題が生じるのではないかということでして、まずa)ですけれども、P2Pファイル交換ソフトの中には、著作物が違法にアップロードされて流通している場合に、権利者は最初にアップロード行為をした人に対しては権利公使をすることができるのですけれども、サーバーから違法複製物が削除されたとしても、その中継過程で生じた蓄積やそこからの公衆送信によっては、著作物の違法な流通を助長して、著作権侵害の著しい拡大を招来するという仕組みのものが存在いたします。
 そこで、この場合に、中継過程の蓄積や公衆送信についてまで権利を及ぼさないということは問題があるのではないか、スリー・ステップ・テストの関係からも問題があるのではないかということであります。
 次のb)についてですが、これもまた一部のP2Pファイル交換ソフトにおきましては、中継過程における蓄積や公衆送信に対して権利を及ぼさないとした場合には、最初にアップロードした行為については権利が及びますが、最初のアップロード行為に対する権利行使が実務上困難になるという問題が指摘されております。その問題とは、最初に著作物を違法に公衆送信する行為と、通信過程で蓄積が行われ、そこから公衆送信がされることを外形上判別することが難しいために、後者の方に権利が及ばないということになるとすると、前者の行為に対する権利行使が困難になるというものです。
 以上のような問題があるということを踏まえまして、立法措置を考えますと、具体的には次の123の三つのパターンが想定できるのではないかということです。
 まず、最初の一つ目ですけれども、通信過程における全ての蓄積等の行為を、権利を及ぼさない対象にするわけですけれども、一定の制約要件を課するということであります。
 これが5ページの下に書いてあるもので、制約条件として、権利者の正当な利益を不当に害しない場合に限るといったものを設けるということであります。この方法によりますと、その技術や利用形態によって対象を画することはありませんので、技術進歩に対して柔軟性を確保することができるというメリットがあるのですけれども、その一方で権利が及ばない範囲、先ほどの例でしたら、権利者の正当な利益を不当に害しないという制約条件ですけれども、こういう範囲につきましては、司法の判断に委ねられるということで、事業者の法的安定性が十分に担保できるかという点が論点となると思われます。
  2番目のパターンは、通信過程における蓄積等の行為のうちで、P2Pに係るものだけを抜き出しまして、P2Pに係るものについては一定の制約条件の下で権利を及ぼさないとするというものです。
 P2Pに係るものについては問題がある場合がありますので、それについては一定の制約条件を課するということなのですが、6ページの2の二つ目にいきますと、この方法による場合には、P2Pに係る著作物の違法流通への対応が可能になるというメリットがある一方で、P2Pというものの定義を技術的進歩に左右されずに規定することができるか、あるいはP2Pに係る蓄積等の利用行為を他のものと区別して規定することが可能であるか、あるいは制約要件として具体的にどういうものを課せばよいか、こういう点が論点となるのではないかと思われます。
  3番目のパターンは、2番目と同じようにP2Pを区別するわけですけれども、P2Pに係るものは除外して、P2P以外の通信過程における蓄積等の行為について権利を及ぼさないというものです。
 この方法によりますと、権利が及ばない範囲の明確性が図られるということを期待できるのですけれども、2番目と同じようにP2Pに係る蓄積等の利用行為を他のものとは区別するということが必要となりまして、そういうことが法技術上可能かということが論点になるのではないかということであります。
 まとめますと、4番の「むすび」のところですが、通信の円滑化や信頼性確保という観点から、通信過程において生じる蓄積等の利用行為の法的安定性を確保することは重要であり、権利が及ばないとする立法措置を講ずることが望ましいということは言えるのではないかと思います。
 では、具体的にこれをどのように法制化するのかにつきましては、現在、審議途上でして、今申しましたような1番とか2番とか3番とか、そういう三つのグループ分けが一応できまして、それぞれの論点について今後引き続き検討していきたいと考えております。
 以上です。

【中山主査】

 ありがとうございました。
 ここで議論をいただきたいのですけれども、時間でございますので今の報告をここでお聞きして、次回6月19日になりますけれども、次回に討論をしていただきたいと思います。
 それから、次回の小委員会では知的財産戦略本部の検討状況等につきましても、事務局から紹介をしていただきたいと思っております。
 その他、事務局から何か連絡ございましたらお願いします。

【黒沼著作権調査官】

 次回の小委員会の日程でございますけれども、今、主査からご指摘ございましたように、6月19日(木曜日)、時間は10時から12時、虎ノ門パストラルでの開催を予定してございます。
 以上でございます。ありがとうございました。

【中山主査】

 場所がまた変わって、虎ノ門パストラルですのでお間違えのないようにお願いいたします。
 それでは、本日はこれで文化審議会著作権分科会の第3回法制問題小委員会を終了いたします。
 長時間ありがとうございました。

(文化庁著作権課)