有識者インタビュー

GIGAスクール構想 × 保護者との連携
(山梨大学 准教授 三井一希 氏)


 1人1台端末を進めていくためには、保護者と連携して進めていく必要があります。そこで、保護者との連携について、山梨大学の三井一希准教授にお話を伺いました。 (令和4年11月25日掲載)
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―学校で活用を進めている1人1台端末について、保護者の理解が必要な理由
―GIGAスクール構想2年目、保護者のICTに対する意識に変化
―保護者の理解を得られるように進めていくポイント
―保護者に理解してもらうために取り組んでいる具体的事例
―保護者との連携をさらに進めていく上で大事なポイント

 

保護者の理解が必要な理由

―学校で活用を進めている1人1台端末ですが、保護者の理解が必要なのはなぜでしょうか。

 理由は大きく3点あります。


①学校での使い方を把握してもらい、家庭でも子供に声をかけてもらうことが必要

 例えば、小学生という発達段階では、子供が頑張っていれば褒めたり、使い過ぎていれば注意が必要だったりします。また、日常生活の中で分からないことがあったら、これまでは家族に聞くことが多かったのですが、端末があることで「端末を使って調べてごらん」という声かけをすることができます。さらに、そうした場面では「その情報は本当に正しいのかな?」「他の情報も調べた?」といった視点を与えることで、情報活用能力の育成にもつながります。学校だけではなく、家庭からも声をかけてもらうことで、子供たちの資質・能力はさらに育成されるのではないでしょうか。


②家庭のルールを子供と一緒に作っていくことが必要

 家庭への端末の持ち帰りが日常化してくると、当然教師の目は届きづらくなります。だからこそ、子供たちが自律的な使い手になることが必要です。そのためには保護者の協力が欠かせません。もちろん、声かけをしなくても、全部自分でできることが理想ですが、小中学生には難しいことも多いでしょう。学校で指導している内容を基に、家庭でも使用時間や場所などの家庭のルールを子供と一緒に作ってもらうことが大切です。子供たちを見守るためにも、保護者の理解が必要になります。


③学校でも家庭でも子供の力を育てていくことが必要

 ネットに繋がる1人1台端末やクラウドツールは、学習のみならず、生活する上でも、仕事をする上でも基盤的なツールになっています。だからこそ、我が子が「今どんなことができるのか」「どんなことに使っているのか」ということに、ぜひ関心を持ってほしいです。「日本の将来を担う子供たちを育成する」という意味からも、保護者の理解は必要です。
 

GIGAスクール構想2年目、保護者のICTに対する意識に変化

―GIGAスクール構想が2年目になり、保護者のICTに対する意識に変化など起きてきていますか。

 昨年度までは「1人1台端末を使って学習しているらしい」という段階でしたが、2年目になり、学校からの情報発信や授業参観等で端末を活用している様子を知ったり、学校によっては、端末を持ち帰って課題に取り組んでいる様子を見たりしているので、保護者にも少しずつ理解が広がってきているように感じています。
 一方で、自治体によっては、感染症予防の観点から授業場面を公開できなかったり、持ち帰りを実施していなかったりと、学校での様子を十分に伝えきれていないというのが、実態ではないでしょうか。様々な友達の考えに触れている場面や、自分の考えを表現している場面など、1人1台端末導入以前と比べて、我が子が生き生きと授業に参加している姿を目にすれば、保護者の理解は進んでいきます。反対に、使っている様子が分からなかったり、見えなかったりすると、不安や不満につながっていきます。我が子が生き生きと学ぶ姿や、力をつけた姿を見ることで、ICTに対する意識もポジティブに働いていきます。
 また、保護者は、習い事や職場のつながりなど、学校をまたいだネットワークを持っていることも多いので、 隣の学校の様子や別の市町村の様子にとても敏感です。「私の学校では持ち帰りをしている」「うちではしていない」「こんなことで授業に使っているみたいだよ」といったやり取りが保護者のネットワークの中で日常的に行われています。保護者は、「周りと比較してどうなのかな」ということに関心がより向かっているのではないかと感じています。
児童生徒が安全・安心に1人1台端末を利用するために、使用ルールなどを指導するだけでなく、
保護者や地域の方々など関係者にも理解と協力を得ながら、児童生徒が安全・安心に端末を利用できる環境を整えることが重要。
学校と保護者等との間で確認・共有しておくことが望ましい主なポイント:文部科学省 (mext.go.jp)
 

保護者の理解を得られるように進めていくポイント

―端末活用のイメージが湧かない保護者の理解を得ていくためのポイントとはどのようなことでしょうか。

 まずは、授業参観や、あらゆる場面を通じて保護者に子供たちの様子を見てもらうことが1番だと思います。それが難しければ学校ホームページ等で発信することが大切です。また端末上でお家の人と一緒に取り組めるような課題を出すなど、子供と一緒に端末を活用することで、使い方について保護者に理解してもらうことも有効でしょう。併せて、保護者懇談会などで学校に来てもらった際に、共同編集など子供たちが授業で行っていることを体験してもらうのも有効です。実際に操作体験をしてもらうと、具体的なイメージが湧きますので、そういった場面を作っていくことも大事だと思います。
 大切なのは、これから求められる学びの姿を繰り返し説明して、理解を求めていくことです。保護者は、自分が受けてきた教育を基にしていろいろなことを判断することが多いです。保護者自身が小中学生の頃は1人1台端末を使った授業をしたことがないからこそ、「なぜ端末が必要なのか」「端末を使って何がしたいのか」が分かりにくいと感じるのでしょう。保護者の授業観や、教育観をアップデートすることが必要だと思いますし、そういったことが可能になれば、きっと保護者は頼もしい応援団になってもらえると思います。


○端末を持ち帰って、家庭を巻き込んだ課題の例

 取り組みやすい例は音読の練習です。子供が音読をしている様子を保護者に端末で撮影してもらうことは、小学校低学年でも可能です。また、学校で作ったプレゼンテーションの発表練習を宿題として出せば、子供たちは必然的に端末を持ち帰るので、学校で使っている様子や子供ができることが家庭でも見やすくなります。
 学年が上がってくると、自分でできることが多くなります。例えば、ディスカッションのテーマを与えて、家族はどう思うか聞いてくるように課題を出し、生徒は家族と話し合った内容を、文書作成ソフトやデジタルホワイトボードに打ち込んでまとめることも考えられます。
 休みの日には「自分の地域のことについて保護者と一緒に調べる」ことを課題として出し、インターネットを使って調べ、調べた内容を文書作成ソフトにまとめたり、プレゼンテーションソフトにまとめたりすることで、保護者をうまく巻き込むことが可能ではないかと思います。こうした、学校の学びを家庭と連携させる形で、お家の人と一緒に取り組んでみてはいかがでしょうか。
 

○ある学級、ある学年だけの取組ではなく、学校全体でねらいを持って取り組んでいくことが大切

 学校はこれまでも、音読の宿題を出したり、お手伝いの宿題を出したりと、家庭との連携を図ってきました。ですから、端末を使った課題でも、低学年から家庭と一緒にやっていくことが大事だと思います。学校でタイピングを練習するのも1つですが、家庭でタイピングをしている様子を保護者に見てもらったり、音読のようにカードに書いてもらったりするなど、日々の積み重ねがその先に繋がっていくと思います。
 低学年のうちから繰り返し取り組むことで、保護者自身の意識も高まっていきます。そうすることで、学年が上がった時に、自分でやっていくことが当たり前になってきます。だからこそ「高学年になってから」「中学生になってから」ではなく、学校全体はもちろん、中学校や保護者と連携を図り、低学年のうちからできることを考えながら日常的に取り組むことが大切です。
 

○管理職として、端末活用について理解してもらうために取り組むべきこと

 保護者は、「お願いされればやらなきゃいけない」と分かっていても、実際にどうすればいいのかが分からないのだと思います。例えば「どんなリスクがあるのか」「それに対してどうやって対処すればいいのか」が分からないのに、「家庭で指導してください」というのは、保護者も困ってしまいます。だからこそ「一緒に育てていく」というスタンスで、「今何をやっているのか」「家庭に何をお願いしたいのか」学校は情報をしっかりと提供することが大切です。管理職には、端末の使い過ぎに関するリスクやインターネットトラブルへの対処法などを、家庭にきちんと伝える役を担ってほしいと思います。
 

学校が全てのルールを作って守らせるのではなく、使い方を一緒に考えるような指導が重要。
児童生徒が、健康面を配慮してICT端末を使用できるよう、学校と家庭が共通理解を図りながら使用を促していくことが必要。

家庭でのICT端末の使い方を考えよう:文部科学省 (mext.go.jp) 家庭と連携した児童生徒の健康への配慮:文部科学省 (mext.go.jp)

 

保護者に理解してもらうための取組事例

―保護者の理解を得るために取り組んでいる具体的な事例を教えてください。

【就学前の説明会での保護者体験会】
・就学前の子供たちに対するアプローチとして、就学前の説明会で「1年生になったら、こうやって学習していきますよ」と、来入児と保護者に実際に遊びながら端末の体験をしてもらい、ワクワク感を持たせている取組です。保護者にも、1人1台端末を使いながら学習することを理解してもらうことができます。

【年度初めの学校・学年・学級経営方針】
・年度初めに学校・学年・学級経営方針を示す時に、「1人1台端末をどう活用していくのか」「どんなビジョンでやっていくのか」を保護者に示して理解を求めている学校もあります。

【クラウドツールを活用した教育活動の紹介】
・学校からの日常的な情報発信として、学校だより、学年だよりなどにクラウドのツールを取り入れている取組です。授業や給食の様子、合唱の動画などを、クラウドツールを使いながら、日常的に情報を発信している学校もあります。タイムリーに情報発信ができるので、発信した情報が家庭での会話に繋がっています。保護者とカレンダーを共有している例もあります。
 
学級だよりに関わらず、学級、学年、学校に関する様々な情報をICT端末で閲覧できることで、シームレスな情報提供が可能。

【家庭学習で使える有益なサイトの発信】
・家庭学習で端末を持ち帰ることも増えてきたので、家庭学習で使えるような有益なリンク集を提供しています。具体的には、調べ学習で使えるサイトや、追加で問題を解きたい時に使えるサイトのリンク集を、保護者と子供たちに共有して活用を促している例もあります。

【端末利活用における留意点の共有】
・端末に関して学校でどんな指導を行っているのか、内容を情報提供しています。例えば「20分使ったら目を休めるような指導をしています」「端末とは30センチ離れましょう」と発信するだけでも、「学校で言われているでしょう」「学校で聞いているでしょう」と、家庭で声をかけやすくなります。

【教育委員会主催の体験教室開催】
・教育委員会主催の親子体験教室を開催して、保護者、子供たちに端末を体験してもらい理解を促している取組です。年に2~3回、保護者への働きかけをしている自治体もあります。
 

保護者との連携をさらに進めていく上で大事なポイント

―今後、保護者との連携をさらに進めていく上で配慮すべきことはどのようなことでしょうか。

 「家庭のことは家庭でお願いします」では、ダメだと思います。保護者も巻き込んで、お家の人と一緒にできるようにすることが大切です。保護者も我が子のことなので、お願いされれば頑張ろうと思うでしょう。でも「どうすればいいか分からない」のが多くの保護者の声だと思います。分からないのに、「家庭で見てください」「家庭に持ち帰ったら家庭の責任で」と言われるのは、保護者にとっても負担が大きいです。
 だからこそ、学校からの情報(学校は何をやっているのか、どんな指導を子供たちに普段しているのか)をしっかり提供した上で、家庭に何をお願いしたいのかを伝えていくことが大切です。保護者が不安を持つことに寄り添いながら、一緒に子供たちを育てていくことが何より大事だと思います。
 端末に限らず「保護者と連携を図っていく」「保護者に情報を伝えていく」ことは、全く新しいことではなく、これまでも行われてきました。保護者自身が経験してきたことがないから、端末活用のイメージが湧きません。だからこそ、学校がいろいろな情報を提供していく中で、保護者からもフィードバックをもらい、お互い悩みながら、どうすればいいのかを共に考えていくことが、保護者との連携をさらに進めていく上で、大事なことではないでしょうか。
 

【有識者インタビュー】GIGAスクール構想×保護者との連携(山梨大学 三井一希 氏)【一括ダウンロード版】
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