国内外問わず、国際スポーツ大会開催の現場では、生き生きと活躍する多くのスポーツボランティアの姿を観ることが出来る。直近で開催された東京2020大会やラグビーW杯2019など、大規模な国際スポーツ大会では、数万規模のスポーツボランティアが様々な大会関係者と力を合わせて大会の成功に向けて活動している。
今回は、東京2020大会のボランティア運営に深く関わった日本財団ボランティアセンター常務理事の沢渡一登氏(以下、「沢渡氏」)と、ラグビーW杯2019組織委員会でボランティア運営の責任者を務めた神野幹也氏(以下、「神野氏」)の2人が、スポーツボランティアが持つ価値や可能性について語り合った。

【東京2020大会とラグビーW杯2019、2つの大会でボランティアが果たした役割】
神野氏:
ラグビーW杯2019では約1.3万人、東京2020大会では約7万人の大会ボランティアが活躍されました。東京2020大会ではコロナ禍による難局もありましたが、これだけの規模のボランティア運営が行われる機会も、これまで我が国においてはあまりなかったかと思います。東京2020大会では、日本財団ボランティアサポートセンターが非常に大きな役割を果たされ、沢渡さんも深く関与されていらっしゃいましたが、いかがでしたか?
沢渡氏:
2017年に東京2020大会のボランティア育成業務を担うこととなり、「日本財団ボランティアサポートセンター」が設立されたことがきっかけで、スポーツボランティアに大きく関わることになりました。それまでも日本財団として東京マラソンのボランティア教育事業に関与はしていましたが、都市ボランティアも含めた10万人ものボランティア育成に関与したのは大きな転機でした。選手や関係者、観客と最初に接するのはボランティアであり、その対応が大会全体の印象を決めると言っても過言ではありませんし、なにより10万人のボランティアの皆さんがいなくては大会が成立しないということで、育成にもプレッシャーがありました。
神野氏:
ボランティアがいなくては大会が成立しないというのは、国際スポーツ大会の現場に立つと強く感じます。2019年に開催されたラグビーW杯2019においても、全国12開催都市で約13,000人の大会ボランティアの皆さんが、会場内外、国内外のアスリート、メディア、来賓、観客の方々に温かいおもてなしを行い、まさに「大会の顔」として世界から絶賛されました。
東京2020大会はいかがだったでしょうか?
沢渡氏:
無観客開催となったことで、ボランティアの役割も変化したかと思いますが、それでも東京2020大会にボランティアは不可欠な存在でした。大会後のアンケートでも「やりがいを感じた」「人の役に立てた」という回答が多く、無観客開催だったとしても、自分が大会を支える一員であるという実感を持って活動されていたことが分かります。
【なぜスポーツボランティアとして参加するのか?】
神野氏:
東京2020大会では、初めてボランティア活動に参加された方も多かったと思います。そもそも、なぜ人はスポーツボランティアとして大会に関わろうと思うのでしょうか?その動機や背景について、どのように捉えていらっしゃいますか?
沢渡氏:
まさにご指摘の通りで、東京2020大会で初めてボランティアを経験された方が非常に多かったです。日本では、ボランティアというと「人のために尽くす奉仕活動」というイメージが強くあることもあって、参加するに至るまでの敷居が海外よりも高いですし、また継続しづらい面もあります。その意味では、スポーツボランティアは「自分が楽しむ」「自分のためにやる」という、「自分主体」の側面が強いこともあって、他のボランティア活動よりも参加しやすいのだと思います。
実際、東京2020大会のボランティア募集動画「#2年後の夏」では、「私は○○したい」という一人称の表現を使って、自分自身がどうなりたいか、どう関わりたいかを描いていました。イベントは本来、楽しいものであり、お祭りのように盛り上がるものです。そのためコロナ禍で制限はありましたが、それでも「自分が大会の一員として関わる」という実感を持って参加してくださった方が多かったです。
神野氏:
日本は近隣国に移動しやすいヨーロッパや言語障壁が低い英語圏と違って、自国開催でないと大きなイベントに触れることも難しいですから、ラグビーW杯2019から東京2020大会、そして東京2025世界陸上や愛知・名古屋アジア・アジアパラ大会といったように立て続けに国際イベントが開催されることは、ボランティア活動全体にもいいきっかけを与えていますね。特に国際大会だと言語が得意な方などは自身の特性を活かした活躍もできるので、「やりがい」などもより感じられますね。
沢渡氏:
大会後のアンケートでも、「やりがいを感じた」「人の役に立てた」「視野が広がった」「人と交流できた」といった回答が多く、自分の成長につながったと感じている方が多かったですね。そうした実感が、次の大会への参加意欲や、ボランティア活動の継続につながっているのだと思います。
神野氏:
「自分のために参加する」という価値観が広がったことは、ボランティア文化の転換点とも言えるかもしれませんね。やりがいを感じられるからこそ、次につながるというのは非常に重要な視点だと思います。実際、東京2020大会から4年が経った今でも東京2020大会のボランティアウェアを着て、地元のスポーツ大会等のボランティア活動をされている方をよく見かけます。

【東京2020大会とラグビーW杯2019、それぞれのボランティアプログラムが残したレガシー】
神野氏:
沢渡さんは東京2020大会のボランティア研修プログラムの設計にも関わられていたと思います。募集にあたっては「主体性」等を意識していたとお伺いしましたが、実際に応募してくれたボランティアの方の研修プログラムは動画教材など様々なコンテンツがあり、東京2020大会のホストの一員としての自覚を持てるものだったと認識しております。その研修プログラムの設計にあたって、どのような理念を重視されましたか。
沢渡氏:
東京2020大会は「多様性と調和」をテーマにしていましたので、ボランティア教育プログラムでもその部分は意識していました。特に障害者理解に力を入れたのですが、これは従来のスポーツイベントの研修とは異なる新しい試みで、パラリンピック終了後の日常の中でも、障害のある方が困っているときに自然に手を差し伸べられるような意識を育てることを目指していました。
大会後のアンケート結果からは、こうした価値観が参加者に浸透していたことが確認できていて、レガシーとしてボランティアの方に残っていることを実感しています。単なるスキル習得ではなく、社会的な理解を深める教育として機能したことは、東京2020大会が残した大きなレガシーの一つだと考えています。
神野氏:
教育プログラムが、参加者の意識や行動に変化をもたらしたというのは非常に意義深いですね。特に障害者支援の場面で、自然な声かけや行動ができるようになったというのは、社会全体にとっても大きな前進だと思います。
沢渡氏:
こうした意識の変化、ボランティア活動を通じて得られた経験が日常生活にも活かされているという点は、非常に価値のある成果だと感じています。東京2020大会を契機に、ボランティアが単なるイベント支援ではなく、社会的な役割を担う存在であるという認識が一般の人々の間で広がったことも、レガシーの一つだと思います。
神野氏:
ラグビーW杯2019でも、東京大会とはまた違った形でレガシーが残っていると感じています。12の開催都市の一つである岩手県釜石市では、活躍した大会ボランティアの約半数が県外在住の方々だったのですが、今も毎年のように集まって釜石でスポーツボランティア活動をしつつ、釜石市との縁を保っておられます。
大会ボランティアに参加された皆さんの大多数がそれまでラグビーと接点のなかったそうなのですが、9割を超える方々が「今回の活動を通じてラグビーの魅力を感じた。是非生観戦したい」と回答され、新たなファン層になって下さっていますし、「またラグビーのボランティアをしたい」と回答された方も7割以上いらっしゃいました。
スポーツボランティアに参加していただく、その機会がある、ということは、単にその大会を成功させる以上の、様々な可能性があると感じています。

【地元住民がスポーツボランティアとして参画する意義や、地域に残るレガシーとは】
神野氏:
これまでは主に、ボランティア参加者のレガシーについてお伺いしてきました。一方ボランティアを受け入れる側の自治体には、ボランティア活動を促進するメリットなどはあるのでしょうか。
沢渡氏:
非常に重要な視点だと思います。国際スポーツ大会は、スポーツに関心のある方だけでなく、これまでボランティア活動に縁がなかった層にも参加のきっかけを提供できる場です。地元住民がボランティアとして大会運営に関わることで、地域への愛着や誇りが生まれ、地域社会の一体感が醸成されます。
さらに、ボランティア活動を通じて得られた経験やスキルは、地域の課題解決にも活かすことができます。大会をきっかけに形成された人材ネットワークが、防災や福祉、教育など、さまざまな分野で活用される可能性があります。つまり、ボランティアは単なる大会運営の人手ではなく、地域の未来を支える人材育成の仕組みでもあるのです。
神野氏:
近年は国際スポーツ大会を招致する段階から、レガシー継承を念頭に置いた開催計画が求められています。地域住民をはじめとした多くの方が大会ボランティアとして参加することによるレガシー継承の視点は、自治体が大会を招致する際の大きな説得材料になりますね。

神野 幹也氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
公共・社会インフラユニット マネージャー
【より良い「ボランティアレガシー」を残していくために】
神野氏:
より良いボランティアレガシーを残すために、主催者側が考えるべきことについて教えてください。ボランティア活動を継続してもらうためにはどのような仕組みや工夫が必要になるのでしょうか。
沢渡氏:
現状、ボランティアを受け入れる側のリソース不足が大きな課題です。ボランティアを「やってみたい」という方はたくさんいますが、受け入れ体制が整っていないことで、その意欲が活かされないケースも少なくありません。研修やコミュニケーション、マネジメントには時間も人材も必要で、そこに対する社会的な理解と支援がまだ足りていません。また若者世代の参加者も増えていることから、安心して活動できる環境を整えることが、未来のボランティア文化を育てる鍵になります。
神野氏:
確かに、受け入れ体制が整っていないと、せっかくの意欲が活かされないですよね。研修やサポートの仕組みは、ボランティアの満足度にも直結すると思いますし、また安心して参加できる環境がなければ、どんなにボランティア活動内容の満足度が上がっても続けてもらえない、という視点は忘れてはいけないですね。
沢渡氏:
その通りです。そして、ボランティアは「無償の労働」ではなく、「社会を支える力」だという認識を広げることが、今後ますます重要になっていきます。大会が終わった後も、そこで育まれた人のつながりや経験が地域に根付き、次の世代へと受け継がれていく。そうした文化を育てるためには、主催者だけでなく、社会全体でボランティアの価値を共有し、支える仕組みが必要です。
未来の大会や地域づくりに向けて、ボランティアが「一過性の支援」ではなく、「地域の未来を担う力」として根付いていくことを願っています。
(聞き手:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社=神野・中山)
【沢渡氏プロフィール】

沢渡 一登
日本財団ボランティアセンター 常務理事
1982年生まれ。大学を卒業後に日本財団へ入職。
2011年に発生した東日本大震災では、1千名を超える学生ボランティアのコーディネートをおこなった。
2017年に日本財団ボランティアサポートセンターを立ち上げ、東京2020大会のボランティアトレーニングに携わる。
2021年から現職。組織運営から災害現場でのボランティアコーディネートまで幅広く担当している。

神野 幹也
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 公共・社会インフラユニット マネージャー
行政職から転じ、(公財)ラグビーワールドカップ2019組織委にて観客サービス運営とボランティアマネジメントの責任者を務める。その後、(公財)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委を経て、現職。
大規模国際イベントにおけるプロジェクト管理、レディネス、来場者体験設計、ボランティアマネジメント等に係る支援のほか、スポーツをハブとした地域活性化や政策立案などを担当