【2025年コラム5】KOBE2024世界パラ陸上競技選手権大会を通し、神戸市が考えるパラスポーツ大会の開催意義とは


 近年、世界的に注目度が高まっているパラスポーツ。そのパラスポーツ国際大会の舞台を神戸市が担った背景には、長年にわたる福祉とスポーツの融合の歴史がある。今回は、KOBE2024世界パラ陸上競技選手権大会組織委員会の事務局長として大会開催に尽力された、神戸市文化スポーツ局局長(スポーツ担当)の檀特竜王氏に取組の概要やその意義、今後の展望についてお話を伺った。

檀特様お写真

神戸市文化スポーツ局局長(スポーツ担当) 檀特竜王氏
 

神戸市とパラスポーツの深い関係性】
 神戸市とパラスポーツ大会の関係は、36年前にまで遡る。1989年、市制100周年を記念して開催された「第5回フェスピック大会」は、神戸市でのパラスポーツ普及の歴史を語る上で欠かせない存在だ。その時に会場となったのは、神戸総合運動公園ユニバー記念競技場と、同年オープンした総合福祉ゾーン「しあわせの村」。スポーツ施設と福祉施設を併せ持つこのエリアは、その後も車いすテニスの神戸オープンや、「のじぎく兵庫大会」(2006年)など、パラスポーツの拠点として機能してきた。
 そして2024年、神戸は再び世界の注目を集める。フェスピック以来35年ぶりに、神戸市が中心となって大規模国際大会「KOBE2024世界パラ陸上競技選手権大会(以下、KOBE2024世界パラ陸上)」を開催したのである。ユニバー記念競技場は大型ビジョンの更新やトラックの新調を行い、「しあわせの村」も練習会場として活用。大会は「つなげる」「ひろげる」「すすめる」を理念に掲げ、パラスポーツ振興とインクルーシブな社会づくりを目指した。

大会の写真   

KOBE2024 世界パラ陸上の様子
©Kobe 2024 / WPA

KOBE世界パラ陸上の地域を巻き込んだ大会づくり】
 なぜ神戸市は、国際スポーツ大会への社会的関心が高まる中、KOBE2024世界パラ陸上の招致を進めたのか。「国際大会を久しぶりに開催できることを市民が実感すること、障がい者にやさしいまちを皆で考える機会となることが、経済効果よりもはるかに意味がある。」という開催決定時の久元喜造神戸市長のコメントからも分かるように、神戸市はただ国際大会を開催するだけでなく、大会を通じて、パラスポーツ振興と国際交流の拡大、そして誰もが暮らしやすいまちづくりを目指すためにKOBE2024世界パラ陸上の開催を決定したのだ。

 大会準備を進める中で、「地元の中小企業団体に協賛依頼をする中で、手軽に応援できる金額設定の寄附制度のアイデアが生まれた。」と檀特氏は語る。この課題と、神戸市のこどもたちに大会観戦をしてもらいたいという狙い、さらにパラスポーツ観戦が有料化する世界的な流れを踏まえて考案されたのが、企業や団体の寄附によって学校単位での観戦を実現する「ONEクラス応援制度」である。こどもたちの観戦を後押しするため、1クラス分のチケット代や交通費、競技ガイドや応援演出ページを収録した冊子、小型メガホンなどの観戦グッズ制作費を賄うことができ、1口50,000円という大規模な国際スポーツ大会としては破格の寄附制度を新設した。この実現には、国際競技団体であるWPAとの折衝にかなりの時間と労力を要したが、結果としてWPAの賛同を得ることができた。制度の目的や金銭面の負担の軽さからも、多くの企業・団体・個人に賛同いただき、兵庫県内の多くの児童・生徒が会場を訪れることができた。このような「地元企業が小口でサポートできる仕組み」が大規模な国際スポーツ大会で独自に構築される事例は決して多くない。

 
新たなスポンサー制度ONEクラス応援制度の概要

新たなスポンサー制度                   ONEクラス応援制度の概要 
 

 制度設計に苦慮したONEクラス応援制度だが、「こどもたちのパワーはアスリートにも大きな影響を与えた。」と檀特氏が話すように、その効果は大きかった。スタンドを埋めたこどもたちの声援に応える形で、選手が観客席に歩み寄り交流する場面が多く見られた。大会後に開催された神戸市小学校社会科作品展では、「僕の想像を超える“可能性の祭典”でした」という感想が寄せられ、パラスポーツ観戦が教育的価値を持つことを示した。
 さらに、職員が発案した1日1万人の集客を目指す「1万人プロジェクト」では、市民から寄せられたアイデアを大会に実装。大学生の発案による地域の飲食店との地元の食材を活かしたコラボ弁当の開発など、地域資源を活かした取り組みも進められた。このようにKOBE2024世界パラ陸上は、運営が組織委員会にとどまらず、地域全体を巻き込む形で進められた大会であったといえる。

子どもたちの観戦グッズ  子どもたちの観戦の様子

こどもたちの観戦グッズ              神戸市でのこどもたちの観戦の様子
                                                                                                                   @Kobe 2024/ WPA 
 

【神戸市がパラスポーツを通じて目指す姿】
 神戸市は、KOBE2024世界パラ陸上の開催を一過性のイベントで終わらせることなく、その後も共生社会の実現に向けた取り組みを継続している。その象徴が、体験型授業「あすチャレ!」(主催:公益財団法人 日本財団パラスポーツサポートセンター)と、2023年に創設された「パラレゾ」である。「あすチャレ!」は2016年から実施しているが、KOBE2024世界パラ陸上を契機に神戸市での実施枠を前年度比約2.2倍に拡大し、パラアスリート自身の体験談を含む講話やパラスポーツ体験を通じて、こどもたちが多様性や挑戦する意義を学ぶ機会を広げた。また、「パラレゾ」では、競技アシスタントの講話やガイドランナーの体験を通じてパラスポーツや障がいへの理解を深めるプログラムを提供し、共生社会の理念を教育現場に浸透させている。これらの取り組みはパラスポーツを通じて互いを理解し、誰もが活躍できる都市を目指す神戸市の姿勢を示している。
 檀特氏は「神戸市だけで何度も大会開催ができるわけではない。日本全体でパラスポーツを盛り上げていき、またいつか神戸に戻ってきてほしい。」と力をこめる。神戸市のレガシーは、本年11月の東京2025デフリンピックや、来年の2026年愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会へとつながっていく。

 
(聞き手:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社=神野・中山)


【インタビュー協力者】
プロフィール
檀特 竜王

 神戸市文化スポーツ局局長(スポーツ担当)
 
1990年、神戸市に入庁。神戸市アジア進出支援センター所長、工業課長、国際部長などを務めた後、2023年から現職。KOBE2024世界パラ陸上時には組織委員会事務局長として大会運営に携わった。現在、神戸マラソン(2025年から新コース)、神戸市内に12チームあるトップスポーツチームと連携したまちづくりなど、スポーツ全般を担当。