川崎市は“若者文化が盛んである”という強みを活かし、アーバンスポーツを中心としたまちづくりを進めている。その取組はブレイキンやジャンプロープなどを対象とした国際大会の招致・開催から、実際にプロとともに競技を体験できるイベント・場所の提供など多岐に渡る。今回、川崎市でアーバンスポーツを中心とする若者文化の発展に携わってきた石床高志氏に、これまでの取組の概要やその意義、今後の展望について伺った。

【川崎市がアーバンスポーツを中心としたまちづくりに力を入れる狙い】
川崎市は、2018年のWDSF世界ユースブレイキン選手権や、WORLD JUMP ROPE CHAMPIONSHIPS 2025など様々な世界選手権を開催してきた。さらに、アーバンスポーツの国際大会や体験イベントが展開されるInternational Street Festival Kawasaki、市内の小学校等を中心にプロを招いた体験イベントの実施など、アーバンスポーツを中心とした様々な取組を実施しており、今や聖地となるまでの盛り上がりを見せている。
川崎市におけるアーバンスポーツの隆盛は、元々は自然発生的なものであった。若者が自然と集まり、皆で競技を楽しむ中でカルチャーとして発展してきたが、2016年に川崎市でブレイキンの国際大会の予選が開かれたことや、川崎市をホームに活動するTHE FLOORRIORZがブレイキンの世界大会で連覇したことなどをきっかけに、行政との繋がりが生まれ、連携した取組が始まった。当初は、オリンピック・パラリンピックの担当部署が所管していたが、東京2020大会の終了後、そのレガシーを市として残すため、「若者文化推進担当」の部署を新たに創設。川崎市は若者文化が盛んである背景に鑑み、「若者が挑戦できる街」というイメージを打ち出すことにした。
石床氏は「川崎市が“若者が挑戦できる街である”ということを広くPRすることで、何かに挑戦したい若者が川崎市に集まってくることを目指しています。」と言う。実際に街でブレイキンを楽しむ若者に聞くと、全国から聖地である川崎へ引っ越してきた人も多く、中にはブレイキンで世界を目指すプレイヤーが家族とともに川崎へ移住したケースもあるという。
【川崎市が実施するアーバンスポーツ振興の取組】
こうした意義を見据える中で、川崎市では2025年夏、ジャンプロープの世界選手権を開催。IOT(International Open Tournament:世界選手権の代表に選ばれなかった選手たちが演技をする場)とジュニア世界選手権を同時開催し、2,600人以上の選手団が世界中の30の国と地域から大会に参加した。また、8日間の大会を通して約2万人の観客が大会を訪れるなど、大いに賑わいを見せた。

イベント自体、大成功に終わったが、川崎市としては単体のイベント開催にとどまらない、カルチャーを中長期的に根付かせるための取組にも力を入れているという。「世界選手権のような大きな大会を開催することは、より多くの人にその競技を知っていただく機会となります。しかし、それだけでは市民の皆様へ文化として根付かせることは難しいのが現状です。」と石床氏は話す。
そこで川崎市は、競技に興味を持った若者、とりわけこどもたちがアーバンスポーツに触れる機会をつくることを土台に様々な取組を行っている。例えば、地元のブレイキン、ダブルダッチ、ヒップホップのプレイヤーと連携し、こども向けの体験会を開催。また、プロダンスチームのKADOKAWA DREAMSが市内の小学校を訪れ、授業の中でダンスを一緒につくって踊るといった取組も行っている。他にも、スケートボードやBMXの体験会を開講するとともに、市内の小学校等にダブルダッチの講師を派遣して体験教室を開催するなど、こどもたちが実際に体験できる機会の創出を重視し、様々な取組を実施している。
市の取組は学校に限らない。例えば、元々パチンコ店であった京急川崎駅近くの空きビルを活用し、建物の所有者である京急電鉄やプロバスケットチームを運営するDeNA川崎ブレイブサンダースと連携して、日常的に3x3やスケートボードなど様々な競技を楽しむことができる施設(カワサキ文化会館)として再生させた。ダンススタジオも併設しており、川崎にゆかりのあるプレイヤーがここで教室を開いている。京急川崎駅前の再開発に伴い、2025年9月から同施設は閉館となるが、民間事業者と連携し、近隣にカワサキ文化公園という後継施設を新設することで、コミュニティを維持し、引き続きアーバンスポーツを楽しむことのできる場を提供することとしている。

【川崎市がアーバンスポーツを通じて目指す姿】
アーバンスポーツの魅力について、石床氏はアーバンスポーツ特有の互いにリスペクトを持ち、ボーダレスに皆で楽しむカルチャーに共感しているという。「例えばジャンプロープ世界選手権大会の終了後、選手や関係者が参加するアフターパーティーが開催されました。パーティーと言っても堅苦しい挨拶などはなく、軽食を用意し、音楽のかかった空間に参加者が集まるだけです。そんな中で自然とサイファーが発生し、誰かが技を披露、国籍も年齢もバラバラの参加者が互いに歓声を送る。アーバンスポーツには、こういった垣根を超えて皆で繋がっていく文化があります。川崎市として、アーバンスポーツの推進を行うことで、スポーツを通じたボーダレスな社会の実現について発信したいと思っています。」と石床氏は語る。
(聞き手:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社=神野、伊藤)

石床 高志