【2025年コラム4】国際スポーツ大会の招致について

公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 人材開発オフィサー兼
公益財団法人 スポーツヒューマンキャピタル(SHC) 業務執行理事 鈴木 德昭

 

 本年は、東京2025世界陸上や東京2025デフリンピック、そして2026年には、愛知・名古屋アジア大会・アジアパラ大会が開催されます。本コラムでは、こうした国際スポーツ大会の招致に関して、成功に向けた招致活動のポイントなどについて述べたいと思います。
 
 まずは、大会招致の前に、国際大会の意義や効果についてですが、大きく以下3つの要素があると捉えています。
1)アスリートの活躍の場であり、ファンを魅了する大会となり、競技環境の整備や競技力の向上に資する
2)スポーツの力が日本の活力源となり、日本人・日本の国としての誇りを再認識することができるとともに、
  スポーツが国の文化・産業に発展する
3)持続可能な取り組みや新たな社会的価値を生み出し、世界へ発信することにより、世界平和に貢献する
 
 次に、大会招致について、これはあくまでも手段であり、目的ではないと考えています。一方で、大会招致を成功させなければ国際大会は開催できないため、結局は大会招致に向けて取り組むことが最初のステップであり、重要になると考えます。

 大会招致のルールやスケジュールは、それぞれの組織・大会によってまちまちですが、通常のプロセスとしては、下記のとおり共通した取り組みが求められます。

国際スポーツ大会招致のプロセス

 上記のプロセスを見ていただければ分かると思いますが、開催の決定・開催契約の締結までには、様々な取り組みが必要になります。こうした中で、特に重要なポイントとしては、「招致プロセスの理解と遵守の重要性」、「決定方法の熟知とKeyとなる組織・人物の把握」、「決定時期に向けた戦略的な招致活動の実施」などが挙げられます。
 
 ここからは、国際大会招致における主要活動を紹介したいと思います。下記のとおり、主な活動を8つの柱に整理しました。これらの活動においては、綿密な招致戦略とそれぞれのフェーズに合わせた一貫した取り組みが重要です。そして、適切な人材を集め、強固な組織体制を構築することが必要不可欠となります。東京2020オリンピック・パラリンピックの招致活動では、民間を中心とした招致委員会に加え、東京都・JOCや政府など多くの関係者が集いましたが、開催決定時には、「オールジャパン」として結束しました。その素晴らしさは、皆様の記憶にも残っていることと思います。

   国際スポーツ大会招致における主要活動

 

 それでは、これらの重要な活動について、いくつかの事例を交えて説明します。
 まずは、国内機運の醸成です。国内支持率が招致の最終決定要因にはなりませんが、招致の動向に大きな影響を及ぼします。東京オリンピック・パラリンピックの際、2012年5月の時点では50%未満であった国内支持率が、開催決定前の翌年9月には90%以上にまで上昇しました。
 また、開催理念や具体的な運営計画を備えた大会計画を策定することは、非常に重要であり、これらはその後の広報活動やプレゼンテーションにも大きく関わってきます。
 さらに、招致活動においては、国際広報は重要な役割を担い、国際広報(International Communication)と国際渉外(International Relation)はICとIRと呼ばれ、招致の鍵を握る活動となります。ICにおいては国際世論を喚起し、IRにおいては直接的・間接的な折衝を行う。まさに招致活動の両輪とも言えると思います。
 そして、招致決定には、視察の受け入れも非常に重要な影響を与えます。2002FIFAワールドカップの招致では、FIFAインスペクションビジットと称し、日韓両国にFIFA視察団が訪れました。FIFAは、日韓の激しい招致合戦と国民の期待を感じ取り、招致できなかった国の落胆を懸念し、その後、共同開催へのレールが敷かれていくことになりました。
 最終的なプレゼンテーションも重要となります。プレゼンテーションの機会は数回あるので、戦略的な検討や綿密な計画と準備が必要となり、直後に行われる記者会見も重要な役割を担います。
 また、こうした活動を実行するには、専門人材として、「大会計画策定」「国際広報」「プレゼンテーション」「国際渉外」などの領域における外部コンサルタントも重要になります。ただし、あくまでもオーナーシップや基本方針は組織内部の人間が持つことが重要で、適切に人材の任命と活用を行う必要があります。

 

FIFA2002開催記念モニュメント

2002FIFAワールドカップの開催を記念するモニュメント YOKOHAMA FEVER 2002 
©(公財)横浜市スポーツ協会


 ここまで、国際大会の招致について述べてきましたが、招致を成功させるためには、様々な活動が必要となることがお分かりいただけたと思います。日本サッカー界では、2050年までにワールドカップを招致するという大きな目標があり、ラグビー界でもワールドカップを招致する動きがあると伺っています。今後は、日本において計画している国際大会の開催時期やベニューなどを整理することも必要になってくると思います。さらには、スポーツ人材のプールやコミュニティの拡大など、スポーツ界組織のネットワークの構築や、日本におけるスポーツ人材育成体制の整備などに取り組むことが非常に重要だと考えています。
 

東京2020大会招致決定の瞬間

東京2020招致成功の瞬間
写真提供:Getty Images


 アスリートのため、ファンのため、スポーツの更なる価値向上のため、そして、日本や世界のために、日本スポーツ界の絆を更に深め、力を合わせれば、国際大会の招致・開催を成功に導くことができ、素晴らしい未来が待っていることを、私は固く信じています。
 

鈴木氏プロフィール写真

鈴木 德昭

 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) 人材開発オフィサー
 公益財団法人 スポーツヒューマンキャピタル(SHC) 業務執行理事
 
 1984年より日産自動車・横浜マリノス、1992年からは日本サッカー協会でチーム強化の仕事に取り組む。その後、2002年FIFAワールドカップ招致委員会・組織委員会、アジアサッカー連盟の役員などを歴任。東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(国際・戦略広報担当部門長)を経て、現在はJリーグ及びSHCで、人材育成や組織開発に携わる。