【2025年コラム2】横浜市が国際スポーツ大会の招致・開催を通じて目指す街の姿とは?


 毎年、日本各地で様々な国際スポーツ大会が招致・開催されているが、その中でも神奈川県横浜市はこれまでオリンピック、サッカーワールドカップ、ラグビーワールドカップをはじめ、数多くの大規模スポーツイベントを積極的に招致・開催してきた。今回、横浜市でスポーツイベントに携わってきた熊坂俊博氏にその意義や狙い、今後の展望についてお伺いした。

横浜市 熊坂氏

横浜市にぎわいスポーツ文化局スポーツ振興部長 熊坂 俊博氏

 

横浜市が国際スポーツ大会の招致・開催を通して見据える狙い】
 横浜市は、2002 FIFA ワールドカップ(サッカー)、ラグビーワールドカップ2019日本大会、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(男女サッカー及び野球・ソフトボール)の決勝戦を開催するなど、世界でも例を見ない大規模国際スポーツ大会の開催実績を持つ。また、世界卓球2009や世界リレー2019横浜、FIVBワールドカップバレーボール2019女子横浜大会のほか、現在も例年5月に開催されているワールドトライアスロンシリーズ・パラトライアスロン横浜大会やWTTチャンピオンズ横浜(卓球)など、幅広い種目の世界大会を招致・開催してきた。
 
 これらの大会招致・開催の目的について、熊坂氏は「誘致時期や誘致する大会の特性によって、期待する要素の軽重は異なりますが、大きく分けると、シティプロモーションと地域経済の活性化、そして何より市民のスポーツに対する関心の高まり、特に次世代を担うこどもたちに夢と希望を届けることだと思っています。」と言う。
 2002 FIFA ワールドカップではメディアセンターを誘致したこともあり、大会期間中、毎日のように「YOKOHAMA」の名が全世界に発信された。また、世界トライアスロン横浜大会では、市内中心地にコースを設定したことで、「YOKOAHMA」の名前はもちろんのこと、アイコニックな街並みが世界に発信されている。ラグビーワールドカップ大会期間中にはファンゾーンを含めると55万人以上の観客が来訪し、その経済波及効果は市内だけで360億円超と試算されるなど、実績も着実に積み上がっている。

横浜市 トライアスロン①   横浜市 トライアスロン②

みなとみらいの美しい街並みの中で開催される世界トライアスロン横浜大会の様子
©Satoshi TAKASAKI , Shugo TAKEMI/ Japan Triathlon Media
 

 「市民のスポーツに対する関心の高まりはどうか」との問いに対し、熊坂氏は「スポーツは言葉の壁を越え、夢や大きな感動を与えることができます。特に国際大会のような世界トップレベルのプレーを市民に間近で見て肌で感じてもらえることは、『観る』ことをきっかけに『やってみたい(する)』につながっていく。さらに、大会ボランティアなど、スポーツを『支える』場の提供も可能です。招致・開催の効果を市民に還元していくためにも、市民への観戦招待や大会運営への市民参画の場が持てるように心掛けています。」と言う。
 
 また、次世代を担うこどもたちが幼い頃からスポーツに触れることは、生涯、スポーツに関わるためのきっかけとして大きな意義を持っていることから、横浜市では「こどもが主人公」になれる取組を意識しているという。こうした取組は、「結果としてスポーツ人口の増加による裾野の広がりや、ひいては競技力の向上につながるなど、競技団体にもプラスの効果が還元できているのではないかと思います。」と熊坂氏は語る。

 
世界トライアスロン横浜大会における選手交流の様子

世界トライアスロン横浜大会における選手交流の様子 
©
Satoshi TAKASAKI/Japan Triathlon Media
 

 このように様々な意義や狙いを持って大会を招致・開催する中で、近年、横浜市が特に注力しているのが環境やサステナビリティ領域である。

 

大会の招致・開催による環境・サステナビリティ領域での狙い】
 
そもそも、世界トライアスロン横浜大会は2009年に初めて横浜開港150周年の記念事業として招致された。しかしながら、当時、横浜市は会場となる山下公園付近を含めて、「横浜の海は汚い」というイメージに悩まされており、大会の招致・開催を契機として「景観、にぎわい、水環境にすぐれた”きれいな海”の実現に向けた活動」を開始。それ以降、毎年大会を開催すればするほど海が綺麗になるという好循環をつくり上げた。15年にわたる地道な取組ではあったが、近年の大会の際には、参加選手から「今日は海底が見えた」と声が上がるほど海の透明度を増すことに成功した。

 世界トライアスロン横浜大会では、他にもグリーントライアスロンの開催や、横浜市水源林の間伐材を利用した記念品の制作、参加者一人ひとりが負担する協力金によるブルーカーボンオフセット、イベントマネジメントの国際標準規格(ISO20121)の認証取得などの取組により、2018年にアジアオリンピック評議会 (OCA)の「スポーツと環境賞」を受賞。
 その後も、パートナー企業と連携した活動として、大会で発生したペットボトルを回収し、新たなペットボトルにリサイクルする取組(水平リサイクル)や、使わなくなったスポーツウェアを回収してリサイクルする取組など、持続的な大会運営のあり方が評価され、2024大会、2025大会では、ワールドトライアスロンのサステナビリティ認証制度において、最上位であるGoldの認証を受けている。

サステナビリティ認証ゴールド受賞

ワールドトライアスロンよりGoldのサステナビリティ認証を受賞 
©横浜市提供

 横浜市のこのような取組は、トライアスロン以外の競技の試合や大会にも波及し、ラグビーの日本代表戦におけるフードドライブ(家庭における未使用食品を持参して支援を必要とする施設などに提供する取組)や、会場でのエコステーションの設置、来場者を対象としたスタジアム周辺の清掃活動などに繋がっている。

 さらに、毎年2万人以上が参加する横浜マラソンでも、ペットボトルの水平リサイクルや不要ウェア回収・リサイクル、電気自動車による先導など、様々な取組を展開している。また、こうした取組は横浜市をホームタウンとして活動するプロ野球、Jリーグ、Bリーグなどで活躍するプロスポーツチームにも広がっている。
 このように、横浜市ではスポーツを通して、環境をより良くするための取組に重点を置いており、2027年には環境と共に生きるEXPO(国際園芸博覧会)、GREEN×EXPO 2027も控えている。このGREEN×EXPO 2027は、会期中だけでなく、未来に繋がる持続可能なグリーン社会や、環境と共に生きるきっかけづくりを目指す博覧会だ。EXPOの開催を契機として、スポーツ活動による環境・サステナビリティの取組が、多様な市民生活の中に溶け込んでいくことが期待されている。

 

【横浜市が今後スポーツと共に目指す姿】
 熊坂氏は、公務員の役割について「市民の皆様がより住みやすい街を作ることをお手伝いする立場であり、スポーツや大会招致はその『手段』だと思っています。」と言う。

 そして、スポーツが持つ価値については、「スポーツには、スポーツ基本法にもあるとおり、市民、ひいては国民のwell-beingの達成に寄与する力があると考えています。国際大会の招致・開催は、試合を観戦するだけでなく、地域の仲間づくりやボランティア活動を通した地域の居場所づくりなど、様々な効果をもたらすきっかけとなります。市民・国民が健康で心豊かな生活を送れることこそ、持続可能な社会の実現に繋がっていくと考えています。」と語る。
また、ラグビーとの地域協創を推進することを目的とした自治体連携協議会(通称:自治体ワンチーム)の会長都市として、横浜市に限らず日本全国を対象とする取組についても視野に入れているという。
 
 最後に、熊坂氏は「横浜市が行う取組を通じて、横浜市だけが良くなるのではなく、他の地域にも展開することで、その地域も良くなる。また、他の地域で実施されて良いことは吸収する。こうした取組を相互に行うことで、誰もが暮らしやすい社会をつくっていければと思います。そのために、横浜市としてできることは精一杯やっていきたいと思っています。」と力を込める。
 
(聞き手:事務局=EYストラテジー・アンド・コンサルティング 神野、伊藤)


【インタビュー協力者】

横浜市 熊坂氏プロフィール

熊坂 俊博

 横浜市において、2001年の企画局コンベンション都市推進室ワールドカップサッカー推進課での業務に従事したほか、ラグビーワールドカップ2019組織委員会の横浜支部長や、市民局オリンピック・パラリンピック推進課担当課長などを歴任。2020年より、現職である横浜市にぎわいスポーツ文化局スポーツ振興部長を務める。