ラグビーワールドカップ2019の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針

平成28年2月24日
関係府省庁申合せ

1. はじめに

(ラグビーワールドカップの意義)
ラグビーワールドカップは,オリンピック・パラリンピック競技大会やサッカーワールドカップと並んで3大国際スポーツ大会の1つとして世界中から大きな注目を集めるものであり,ラグビーワールドカップ2015イングランド大会においては247万人の観客動員など,社会的・経済的インパクトが非常に大きいものである。
また,2019年に我が国において開催するラグビーワールドカップは,アジアで初の開催であるとともにラグビー伝統国以外で初の開催となるものであり,そのことは,アジアをはじめとしたラグビーが十分に浸透していない国・地域にラグビーを普及させる上において絶好の舞台となるものであり,そのことを通じて,これらの地域におけるスポーツの振興はもちろんのこと,ラグビーやスポーツを通じた平和と社会・経済発展に寄与することもできるものである。
折しも,現在,我が国においては,ラグビーワールドカップ2015イングランド大会における日本選手のめざましい活躍によってラグビー人気が高まる中,このムーブメントを今後ともさらに高揚させていくことができれば,国内にラグビーを普及・発展させるための絶好の機会となりうるものである。
さらに,ラグビーワールドカップ2019の開催は,その有形・無形の遺産(レガシー)を創出することを通じて,大会開催期間はもちろん大会開催後においても,スポーツの振興のみならず,地域経済の活性化を通じた地方創生への貢献,文化プログラム等を活用した日本文化の魅力の発信,震災復興の推進や教育活動の一層の推進又は観光や国際交流の促進等の社会的・経済的発展に貢献できると考えられる。また,ラグビーワールドカップは,翌年の2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の意義を更に高めるものであり,国内におけるオリンピック・パラリンピック・ムーブメントの一層の促進にも寄与するとともに,国外における我が国に対する注目を集めることを可能にし,そのことがさらなる外国人等のインバウンドの増加をもたらし,社会・経済の活性化に寄与することが期待できるものである。
このようなラグビーワールドカップの開催を通じて,我が国のラグビー界が長年にわたって培ってきた,「ワン・フォー・オール,オール・フォー・ワン」や「ノーサイド」等の独特のラグビー文化を広く世界に伝える機会としたい。このことは,ラグビーというスポーツの振興のみならず,世界の発展と平和に貢献しうるものと考える。
以上のように,ラグビーワールドカップの開催の効果は,国内ラグビーの更なる発展及びラグビー文化の普及促進を果たすだけでなく,日本国内では,ビジネスとの融合による経済の活性化,震災復興及び地方創生等に貢献することが期待されるとともに,国外では,「Sport for Tomorrow」事業等を通じたラグビーの普及及び「開発と平和のためのスポーツ(Sport for Peace and Development)」等の国際的な取組への関与等によって,周辺の海外の国・地域に対してその効果を波及させていくことなどの国際貢献も行いうるなど,国内外の社会的・経済的な発展のために非常に効果的であると考えられる。

(基本方針の策定)
上記のようなラグビーワールドカップ2019の意義に鑑み,同大会の成功に向けて,大会に関連する取組を加速させるため,大会の円滑な準備及び運営に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るための基本的な方針として,本基本方針を定め,関連施策の立案と実行にあたっての基本的な考え方,施策の方向について明らかにする。

2. 基本的な考え方

政府は,以下の基本的な考え方に基づき,関連施策の立案と実行に取り組む。

(1)次世代に誇れる遺産(レガシー)の創出
ラグビーワールドカップ2019を開催期間において確実に成功させるのはもとより,大会の開催後においても有用であり次世代に誇れる有形・無形の遺産(レガシー)を,日本ラグビーフットボール協会等が中心となって国内及びアジアをはじめとする海外に創出する。

(2)訪日客の特性に対応した受入体制の充実
ラグビーワールドカップ2011では13万3千人の観客が海外からニュージーランドを訪問し,平均で23泊の長期にわたって滞在した。ラグビーワールドカップ2015では40万人を超える観客が海外からイングランドを訪問することを想定して大会の準備が行われた。また,ラグビーワールドカップを目的とした旅行者は,イギリス,アイルランド,フランス,イタリア,南アフリカ,オーストラリア,ニュージーランド等,ラグビー伝統国であり,比較的,来日者の少ない国の国民が多い。ラグビーワールドカップ2019では,海外からの大量の観客を想定して,外国人の受入体制を整備することが不可欠である。

(3)政府一体となった取組と関係機関との密接な連携の推進
大会の成功のためには,国,日本ラグビーフットボール協会,ジャパンラグビートップリーグ,ラグビーワールドカップ2019組織委員会,試合が開催される都市の地方公共団体(以下「開催自治体」という)及び経済界等が一体となって取り組むことが不可欠である。大会組織委員会が,大会の運営主体として,大会の計画,運営及び実行に責任を持ち,開催自治体が,大会組織委員会を全面的にバックアップするとともに,開催自治体として必要な準備を進め,両者が外国人受け入れ体制の整備及び開催機運の醸成等について,国等と連携して取り組む。国は,大会の円滑な準備及び運営の実現に向けて,各府省庁に分掌されている関連施策を一体として確実に実行するとともに,大会組織委員会及び開催自治体と密接な連携を図り,オールジャパンでの取組を推進するため,必要な措置を講ずる。また,新国立競技場の建設計画変更に伴う,開幕戦の東京スタジアムへの変更及び決勝戦の横浜国際総合競技場への変更並びにこれらの変更に係る種々の影響に対して,必要な措置を講ずる。さらに,上記連携と併せて,翌年の2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会と共通する施策が含まれることから,同大会に係る関係機関と連携して進めることが必要である。

(4)明確なガバナンスの確立と施策の効率的・効果的な実行
政府は,明確なガバナンスの確立に向け,関係機関と円滑に連携して意思決定を行う。また,限られた予算と時間で最高の大会を実現するため,関連施策については,事業の進捗と効果を点検することを通じて効率的,効果的に実行し,施策に要するコストをできる限り抑制するとともに,大会の確実な成功に向けた取組を加速する。

3. 大会の円滑な準備及び運営

(ラグビーワールドカップ2019として進める準備と2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会と共通して進める準備)
ラグビーワールドカップ2019の準備及び運営においては,翌年の2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会と共通する施策について連携して準備を進めるとともに,ラグビーワールドカップ2019において特に重視すべき事項として,例えば,大会会場が東京及びその近郊のみならず全国12カ所を舞台に展開されること及び比較的長期間にわたる開催になること等があるため,これらについては,別途ラグビーワールドカップ2019において特に重視した準備及び運営を行う必要がある。

(1) 大会の円滑な準備及び運営における2020年オリンピック・パラリンピック競技大会との共通事項

(オリンピック・パラリンピックとの共通事項)
大会の円滑な準備及び運営に関しては,「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(平成27年11月27日閣議決定)において,「ラグビーワールドカップ2019は,大規模かつ国家的に重要なスポーツの競技会であること,ラグビーワールドカップ2019の準備及び運営が,翌年に開催される大会の準備及び運営と密接な関連を有するものであることから,平成三十一年ラグビーワールドカップ大会特別措置法(平成27年法律第34号)を踏まえ,政府として必要な支援に努めるとともに,セキュリティの万全と安全安心の確保,外国人受入のための対策など,共通する施策について連携して準備を進める」こととなっている。

(共通する施策項目)
《1》セキュリティの万全と安全安心の確保のための対策
全ての大会関係者,観客及び国民が安心して大会を楽しむことができるよう,広く関係者の理解と協力を得ながら,以下のようなセキュリティの万全と安全安心の確保に係る各種の取組を実施する。
(※取り組むべき事項:テロ対策,防災・減災対策等)

《2》関係者・観客等の円滑な輸送のための対策
選手やスタッフ等の関係者及び観客等や貨物等の円滑な輸送が可能となるよう,以下の取組を推進する。
(※取り組むべき事項:空港の機能強化,バリアフリー化等の空港アクセスの改善,鉄道・バス等の利便性向上,道路・交通インフラの整備等)

《3》外国人受入促進のための対策
外国人旅行者を地方へ誘客するために,海外へ日本の魅力を積極的に発信する。さらに,大会開催効果を,開催自治体,キャンプ地の自治体のみならずその他の自治体まで広く全国的に波及させるため,以下の外国人受入促進のための施策を推進する。
(※取り組むべき事項:CIQ体制の強化その他の外国人の受入のための対策,多言語対応の強化,無料公衆無線LANの環境整備などの社会全体のICT化の推進,文化プログラム等を活用した日本文化の魅力の発信,宿泊施設の供給確保に向けた対策,外国人旅行者を地方へ誘客するための施策,水辺環境の改善,医療機関への外国人患者受入環境整備,外国人来訪者等への救急・防災対応,外国人来訪者等に係る事件・事故等への対応等)

《4》震災復興及び地方活性化のための対策
東日本大震災の被災地の復興を後押しするとともに,復興を成し遂げつつある被災地の姿を世界に向けて発信するため,被災地と連携した取組を推進する。また,大会に関連する様々な事業やイベント等に多様な主体が参画し,日本全体でビジネス機会の拡大を含め地域活性化につながるよう,大会開催の効果を全国に普及させるため,以下の取組を推進する。
(※取り組むべき事項:東日本大震災被災地との連携,大会と連携した地域交流・地域活性化,大会に関連する様々な事業やイベント等への多様な主体の参画と連携,文化プログラム等を活用した日本文化の魅力の発信,キャンプの誘致等を通じた大会参加国との人的・経済的・文化的な相互交流等)

《5》環境問題への配慮
大会における持続可能性を実現するため,大会の二酸化炭素等の排出量削減や3R促進等をはじめとする環境負荷低減に向けた取組を推進する。
(※取り組むべき事項:大会と連携した環境対策等への支援等)

《6》バリアフリー対策
ラグビーワールドカップ2019への準備を弾みとして,スポーツ・運動を通じた健康増進,障害者・高齢者を含め全ての人が安全で快適に移動できる公共施設等のユニバーサルデザイン化,及び障害者等への理解等のいわゆる「心のバリアフリー」による共生社会の実現を通じて障害者・高齢者の活躍の機会を増やすため,以下の取組を推進する。
(※取り組むべき事項:ユニバーサルデザイン化された競技施設・公共施設等の整備,障害者スポーツの体験等による障害者への理解促進等)

《7》スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現のための対策
ラグビーワールドカップ2019の開催は,スポーツ基本法(平成23年法律第78号)の目指す「スポーツを通じてすべての人々が幸福で豊かな生活を営むことのできる社会」を実現する好機であり,スポーツ立国に向けた以下の取組を推進する。また,「Sport for Tomorrow」プログラムを通じて,スポーツ分野での世界の国々への貢献・協力関係の促進に係る取組を推進する。
(※取り組むべき事項:競技力強化及び指導者の養成,アンチ・ドーピング対策の推進,地域におけるスポーツの振興,生涯を通じた多様なスポーツの機会確保のための環境の整備,スポーツ関連産業の育成及び連携,スポーツに関する科学的研究の推進,国際的な交流・貢献の推進,障害者スポーツの推進等)

《8》大会を弾みとした健康増進・受動喫煙防止対策の強化
大会を弾みとして,個人の主体的な健康増進の取組を促進することにより,健康寿命の延伸を目指す。このため,市町村等が実施する取組への支援を進める。
受動喫煙防止については,競技会場及び公共の場における受動喫煙防止対策を強化する。

《9》その他の体制整備のための対策
上記《1》-《8》の他,大会準備及び運営のために,以下のことに関する取組を推進する。
(※取り組むべき事項:大会協賛宝くじ・寄附金付き記念切手等の発行,式典等大会運営への関係機関の協力,税制上の特別措置,良好な無線通信環境の確保等)

(2) ラグビーワールドカップ2019において特に重視すべき事項

ラグビーワールドカップ2019の準備及び運営においては,上記(1)の2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会と共通する施策のみならず,ラグビーワールドカップ2019の円滑な準備及び運営に向けて,以下のような取組を特に重視して行うことが必要である。

(ラグビーワールドカップ2019において特に重視すべき事項)
《1》ラグビーワールドカップ2019に関する競技力の強化への支援
日本選手が最高のパフォーマンスを発揮し,過去最高の成績を収めることができるよう,戦略的な選手強化等に係る取組を進める。
(※取り組むべき事項:トップアスリート及び次世代アスリートの育成・支援のための戦略的な選手強化,競技役員など国際的に活躍できる人材の育成,スポーツ医・科学,情報分野の多方面からの専門的かつ高度な支援体制の構築等)

《2》ラグビーワールドカップ2019に向けたアンチ・ドーピング活動の推進
大会のインテグリティ(公正さ,完全性)を担保するために,ドーピング違反を排除する取組みを徹底する。具体的には,公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(JADA),世界アンチ・ドーピング機構(WADA),及びWORLD RUGBY(WR)と連携し,インテリジェンス対応を含む強固な検査体制の構築,実践を行う。全国12会場及びキャンプ地等におけるドーピング・コントロールが円滑に実施されるよう,全ての試合会場,チームホテル等でのドーピング検査室の確保を含む施設整備,教育・研修の実施,人員体制の整備等の取り組みを進める。
(※取り組むべき事項:ドーピング・コントロールに向けた施設整備の支援,アンチ・ドーピングに係る選手等の研修,ドーピング検査員の確保及び育成,ボランティアの確保及び研修,インテリジェンス体制の整備を含む検査体制の強化,国際的なアンチ・ドーピング推進体制の強化等)

《3》ラグビーワールドカップ2019に向けた国内外のムーブメントの普及,ボランティア等の機運醸成
ラグビーワールドカップ2019に向けて,国内外のラグビー人口の裾野の拡大を図るため,学校教育や地域スポーツにおいてタグ・ラグビー等の取り組みや「Sport for Tomorrow」関連事業等を通じたラグビーが十分に普及していない国々への指導者派遣等の取り組みを進める。また,各種ボランティア活動,大会に関連する取組に係る寄付等への機運醸成を図る。
(※取り組むべき事項:大会へのムーブメントの高揚を図るため,学校体育又は地域スポーツにおけるタグ・ラグビーやストリート・ラグビー等の身近に楽しめるラグビーの普及等及びラグビーへの関心や大会メッセージの発信,「Sport for Tomorrow」プログラムの推進,スポーツ・文化・ワールド・フォーラムの開催,JICAボランティア事業との連携も活用した日本ラグビーフットボール協会「アジアンスクラムプロジェクト」の推進等)

《4》開催自治体及びキャンプ地自治体における試合(練習)会場・ファンゾーン等の整備に向けた支援
試合会場及びキャンプ地等の整備に係る経費は,原則として各開催自治体等が負担すべきものではあるが,政府としても可能な範囲内において必要な支援を行う。
(※取り組むべき事項:全国12の試合会場及びキャンプ地の練習場等に関し,国際水準に合致した試合(練習)会場及びファンゾーン等の関連施設の整備及びそれに対する多様な支援等)

《5》ラグビーワールドカップ2019組織委員会及び日本ラグビーフットボール協会の体制強化に向けた支援
ラグビーワールドカップ2019の準備及び運営が円滑に実施されるよう,大会組織委員会及び日本ラグビーフットボール協会の体制強化への支援を進める。

《6》ラグビーワールドカップ2019に関する関係府省庁連絡会議の実施
ラグビーワールドカップ2019の準備及び運営が円滑に実施されるよう,関係府省庁間の連携を深めるため,関係府省庁連絡会議を開催し,連携・支援方策を協議する。

(了)

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(スポーツ庁国際課)