データを分析し現場で活かせる力を育む
お話を伺った先生

- 髙木 諒(たかぎ りょう)先生 福祉科
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教職歴13年。2020年度より同校着任。同校の卒業生。介護・福祉分野の進路をめざしていたが、生徒に寄り添った指導をする同校の教員の姿に憧れて教職を志望。授業では介護過程、介護福祉基礎などを担当。進路指導部で生徒の進路指導にもあたる。
事例概要
- 実践している学校・学科
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愛知県立古知野高等学校・福祉科
- 利用しているデジタル教材・デジタル環境
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情報端末(県推奨)、iPhone、ヘッドセット、見守り支援機器(HitomeQケアサポート)、Microsoftチームス、ロイロノート
- どのような学びが可能になったか
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・大学教員や施設職員などの専門家による指導で、最新テクノロジーやデータ分析などについて学ぶことにより、データを読み解き根拠に基づいた介護の実践を想定できるようになった。
- 支援や事前準備のポイント、工夫
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・卒業後に現場で最新テクノロジーを使いこなせるようにする観点から、ICTの導入に関しては、学校設定科目をつくるのではなく、介護福祉士養成課程の既存のカリキュラムに新たな学びを組み込むかたちで進めた。
・マイスター・ハイスクール指定校として、どの高校の福祉科でも普及・横展開しやすいように、学習指導要領や介護福祉士養成課程の既存のカリキュラムを活かしながらより実践的で深化した学びへと見直しを図った。
- 導入・活用の成果・今後の予定
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・マイスター・ハイスクール指定校として本格的な実施から半年程度だが、当初からデータ分析・活用の重要性を意識して学習。根拠に基づいた介護を実践する力が、生徒たちに育ち始めている。
・最新テクノロジーなどを活用した学びを経験した2年生は、来年度介護実習で実際にiPhoneとヘッドセットを活用した介護記録の作成を行うため、実習で得た経験をさらに次の学びに活かしていきたい。
・VRで認知症の方の気持ちになって体験できるプログラムを導入予定。体験だけではなく、その後にどう感じて、どのような支援が必要かを検討するワークまで含めた一連のプログラムを、認知症グループホームや映像系の専門学校と連携しながら開発する計画。
介護分野の最新機器を授業に導入し、テクノロジーやデータを活用できる介護人材を育てる
愛知県立古知野高等学校の福祉科では介護福祉士を養成する福祉系高等学校として、基本的な介護技術をしっかり学び、実習を通じて実践力を高め、社会に送り出すことを目標としています。現在、生徒が実習を行う高齢者施設などでは、例えば記録を情報端末で入力したり、センサーマットや見守りカメラが導入されていたり、健康状態をモニタリングするデバイスを装着している方がいたりと、デジタル機器の導入が介護関連の現場で進みつつあります。
これまで、生徒たちは卒業後、就職した先で機器やソフトウェアの使い方を教えてもらいながら業務に慣れていくのが一般的でした。しかし近年は、利用者の日々の活動データを蓄積・分析して介護に活かす施設も出始めています。そこで、高校在学中からデジタル機器の操作やデータ活用の基礎を学ぶことで、現場に出てからのデータ活用の促進や深化につながるのではないかと考え、取組を行っています。
1年次の「生活支援技術」は基本的な技術の習得に重点を置き、自立に向けた生活支援に関する知識や技術を学ぶ科目です。その一環として、最新テクノロジーを積極的に導入している特別養護老人ホームの施設長を招き、生活場面におけるデータについて科学的介護の視点から何が読み取れるのかなど、現場でのデータ分析・活用の事例を解説していただきました。また、福祉用具の活用について学ぶ内容に関連して「音声入力による介護記録の作成」や「介護現場で使用する見守り支援機器」など、最新機器の活用法を、各企業の担当者などを招いて学び、ワークショップを行いました。
生徒は、ICT技術を活用した介護の効率化や負担軽減の重要性を学び、実際に機器を体験することで、技術の活用場面を具体的にイメージし、理解を深めることができました。机上の学習だけでは得られない実践的な気付きを通じて、現場での応用力が養われたと思います。
3学期には、福祉の現場への最新ソリューションの普及や介護事業所支援を行う企業のエキスパートを特別講師に招き、「民間企業による介護業界への取組と介護教育との連携」の授業(2時間)を行いました。具体的には同社の見守り支援機器の活用を中心に、介護ロボットの現状などについて学びました。
介護人材が不足している社会的背景により、介護ロボットが求められていること、しかし「機能や操作が難しい」「事業所に合った機器がわからない」などの理由で普及が進んでいない現状を学ぶことは、生徒たちが最新テクノロジーを学ぶ重要性を理解するきっかけとなりました。
その後、実際に最新の見守り支援機器「HitomeQケアサポート」を起動させて生徒が体験しました。使用した見守り支援機器は、利用者がベッドで使用する呼び出しブザーと介護スタッフが持つiPhoneを連動させたシステムです。今回は、見守り支援機器本体1台と、呼び出しブザー1機、システムと連動したiPhone 3台を使用。見守り支援機器本体は実際には、施設等の利用者の生活空間の天井にはめ込むものですが、今回は実習室にスタンドを立て、ベッドの上に設置しました。
生徒たちは3つのグループに分かれて、それぞれiPhoneを持って待機。講師が呼び出しブザーを使うと、各iPhone画面に利用者からの呼び出し通知が表示されます。あるグループが「通知」をタップすると、ほかのグループの端末では反応できなくなるという仕組みに生徒たちは驚きの表情を見せていました。この機能により、「誰がすでに対応しているのか」が明確になり、連携ミスを防ぐことができます。さらに、iPhone画面には、ブザーを押した利用者のベッドでの様子が本体のカメラを通して映し出され、遠隔でのやり取りが可能になります。生徒たちは利用者役と介護者役に分かれて、実際の介護現場のように、同システムを使用してみました。この体験を通じて、生徒たちはICTを活用した介護の現場における見守り支援のシステムや、その利便性を実感することができました。
日々蓄積されるデータを介護に活かす最新テクノロジーに触れる授業では、機器を体験し、使い方を学ぶだけではなく、なぜ、そのテクノロジーが必要とされたのかなどの社会的背景や政策の動向、さらにはそのテクノロジーを今後、どのように活用できるかなども考えることを意識しています。生徒たちは、先端技術の導入が介護現場で果たす役割や、解決できる課題について探究しながら学びを深めています。
今回使用したHitomeQケアサポートは、利用者の行動やスタッフとのやり取りなどのデータを蓄積することができます。そこで、授業後半のワークショップでは、機器から得られたデータ(利用者の5日間の睡眠状態とケア履歴のグラフ)をどのように読み解いて介護の実践に活かすかについて、グループで話し合いました。
生徒たちはグラフから、睡眠時間が断続的、水分量が少ない、排便回数が少ないといった状況を即座に読み取ることができました。
また、これまで最新テクノロジーを積極的に導入している特別養護老人ホームの施設長から、現場でのデータ分析・活用について学んできた経験もあり、「生活リズムを整えることが睡眠の質向上につながるので、日中の運動を増やす」「水分をもっと取りたいと思えるように食事の味を工夫する」など、課題の解決に向けた一歩踏み込んだ提案を示すことができていました。
見守り支援システムを実習室に持ち込み、ベッドの利用者からの呼び出しがスマートフォンに反映される仕組みを体験
指導上の工夫~産業界と連携して実践力を育む
授業へのICTの導入に関しては、学校設定科目を新たに設けるのではなく、介護福祉士養成のカリキュラムで取り組んでいる「生活支援技術」や「介護過程」などに、最新のテクノロジーの活用について組み込むことで、学習内容のさらなる充実を図りました。ICTなどのテクノロジーの活用は、これまでも科目のなかで扱ってきた機器や手法を、発展させた内容であると考えたためです。
さらに、福祉現場におけるICT機器や介護ロボットの活用が進むなか、産業界で求められる実践的なスキルを在学中から身につけることを意識し、産業界との連携を積極的に図りました。また、マイスター・ハイスクール指定校として、学習指導要領や介護福祉士養成カリキュラムの内容を深めた取組は、どの高校の福祉科でも普及・横展開しやすいと考えています。
課題を乗り越える~テクノロジーの導入は介護の本質を見つめる機会に
例えば見守り支援機器は利便性の高い機器ではありますが、一方で「24時間監視されている」と感じる利用者もいます。そうしたプライバシーの配慮や利用者の尊厳を守る視点などについて、高校生のうちからしっかりと考えさせることが大切であると感じています。価値観が形成される大切な時期だからこそ、テクノロジーの可能性を活かしながらも、利用者の生活をよりよいものにするという介護の本質からは決して離れてはいけないと思います。 2年次の「介護過程」の授業では、「DXの推進は大切だが、介護の本質はあくまで人と人との関わりにある」という視点を重視し、「機械に使われるのではなく機械を道具として活かすことが重要である」といったICTリテラシーの部分についても伝えています。
生徒の変化~データを読み込んで次への提案に活かせる力が育つ
見守り支援機器の授業の後半のワークショップで、生徒たちがデータを読み込んで具体的な提案にまで結び付けたことは、生徒たちの成長を感じた部分です。これまでも施設の利用者の事例をもとに適切なケアを提案する学習をしてきましたが、「週2回1日15分間散歩してもらう」といった感覚的な発想から導き出されるものが中心でした。
しかし、これからの時代、1日15分の散歩を1か月間続けると筋肉量がどれくらい増加するかなどがデータとして可視化できるようになってきます。そこで、睡眠データや排尿量、食事量などの情報を収集・分析する視点を意識して1年間授業を続けてきました。生徒から、データや根拠に基づく意見が飛び交うようになり、生徒たちの成長を感じることができました。こうした生徒の姿は前年度までにはあまり見られなかったことです。
生徒が分析に使ったデータ例(提供:愛知県立古知野高等学校、コニカミノルタ株式会社)
教員の変化~テクノロジー利用自体が目的化しないように意識
情報端末等を日常的に使うようになり、「DX時代をリードする高度介護人材の育成」を掲げ授業づくりを行うなか、教員もデータ分析・活用の重要性を意識するようになりました。
一方で、介護は人と人が関わることが本質にあります。テクノロジーが多方面に導入されてきたからこそ、「細やかな共感力」や「的確な判断力」、「柔軟な対応力」といった、人にしかできない能力がフォーカスされてくると思いますし、その重要性はさらに高まっていくと考えます。データの活用などを重視し、最新テクノロジーを使えるようにすることをめざしていますが、決して無機質な介護職員を育成したいわけではありません。指導・評価にあたっても、テクノロジーの導入そのものが目的化しないようにしなければいけないと思っています。何よりも目の前にいる利用者を大切にし、その方の生活を良くするためにデータやテクノロジーを使う視点こそが重要だと、教員も常に意識するよう心がけています。
今後はVRで認知症について学ぶプログラムを開発来年度は、「ICTの活用」について、体験だけでなく実践的に学ぶために、iPhoneとヘッドセットを本格的に活用していきます。音声入力で介護記録を蓄積するアプリケーションは、介護計画作成ソフト「ケアカルテ」に紐づいており、ヘッドセットから音声で入力したデータがiPhoneに送信されてケアカルテに蓄積され、その方の状況が1週間や1か月単位で分析できるものです。「生活支援技術」の授業では、生徒が利用者役と介護者役になって学習する時間を設けています。利用者役では、介護を受ける立場を体験し、支援を受ける際の気持ちや不便さを実感します。一方、介護者役は、適切な声かけや介助技術を実践し、利用者のニーズに応じた対応を学びます。相互の立場を経験することで、介護への理解を深め、実践的なスキルを身につけることを目的としています。そこでもトイレや散歩、食事といった日常生活場面を想定し実際に音声入力を行いながらデータ化する練習を重ね、その経験を介護現場での実習に活用できるようにしたいと思っています。
また、新たな取組として、VRを活用した認知症理解プログラムの開発を進めます。VRで認知症の方の感覚を疑似体験できるソフトはいくつかありますが、体験後に「どのように感じたか」「どのような支援が必要か」を深く考えるワークまでを含めた一連のプログラムは、あまり開発されていません。認知症のグループホームの方とも協力して、映像系の専門学校とも連携しながら実践的なプログラムを開発していきたいと考えています。
※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。
※本記事の情報は取材時点(2025年2月)のものです。
