導入を検討している先生へ
- 川田 大介(かわた だいすけ)先生 理工科
デジタルだからといって好き嫌いせずに、「まずは受け入れてみよう」という姿勢が大事です。行動しなければ、欲しい情報は入ってきません。やって損はありません! ICTを上手に活用すれば、確実に生徒への還元につながると実感しています。
事例概要
- 実践している学校
愛知県立愛知総合工科高等学校
- 実践している学科
理工科
- 活用する場面・授業
IT実習
- デジタル教材等を導入したねらい
ICTツールを活用することで、効率化を図るとともに、生徒の興味・関心を高め、個々の進度や理解度にあわせた授業を行う。
- デジタル教材等を活用した指導内容
理工科1年生のIT実習において、デジタルホワイトボード「miro」や共有ツール「Helpfeel Cosense」を使い、実習用のデジタル教材を作成。生徒の興味・関心を高める動画や、参考になるホームページのリンク集、教材や小テストへのリンクなどは、すべてHelpfeel Cosenseにまとめ、必要な情報を一元化している。特にプログラミングについては個々のスキル差が大きいため、苦手とする生徒に対しては、Helpfeel Cosenseにサンプルのコードを掲載してサポートを行い、クラス全体で進度を合わせられるように工夫した。また、生徒からの課題提出や質問を受け付ける場として「Teams」を活用、小テストには「Forms」を使用した。
使用機材:Surface Go 2、iPad(教員私物)、ドローン「tello」、プログラミングロボット「Arduino」、Wi-Fi環境
使用教材:Microsoft 365 Education(Teams、Formsなど)、Helpfeel Cosense、miroなど
- 学習効果等
デジタル教材を活用する以前は特定の生徒しか発言がなかったが、TeamsやFormsなどによって発言の場を設けたことで、意見をアウトプットできる生徒が増えた。さらに、生徒が、自分が調べた情報をまとめるツールとしてHelpfeel Cosenseを活用するといった自主的な学びや新たな活用方法も生まれている。現在では、他教科の授業や、学校の部活動の情報発信にもICT活用が広がっている。
- 先生の感想
授業で活用できる無料で使いやすいICTツールを探し続けた結果、ホワイトボード「miro」や共有ツール「Helpfeel Cosense」を使って、必要な情報を集約し、生徒に共有するという方法にたどり着いた。URLを伝えるだけで情報にアクセスできるため、生徒のパスワード管理などのサポートに時間をとられることなく、効率よく授業を進めることができるようになった。これらのツールは、生徒の俯瞰的な思考をうながすことができるだけでなく、リアルタイムでデータを書き換えられるため、ほかのクラスでつくった教材を応用しやすいなど、多くのメリットがあると考えている。
どんな授業を実践したのか
理工科1年のIT実習では、ドローンやロボットを使ったプログラミングを行います。実習では教科書がないため、毎回、授業の教材をデジタルホワイトボード「miro」と共有ツール「Helpfeel Cosense」でつくり、生徒に共有しています。
例えば、ドローンをプログラミングで操作する授業の1回目では、いきなりドローンを飛ばすのではなく、生徒が興味・関心をもつようなドローンのYouTube動画を見せることからスタートしました。実際に世界各国を旅した記録をドローンで撮影した動画や、企業での活用法など、生徒の感情に訴えかけられるような動画を探して選びました。
授業の教材はHelpfeel Cosenseを使い、これらのYouTube動画のリンクを埋め込んだほか、ドローンの仕組みや歴史などの知識を箇条書きで書いたテキスト、写真などを掲載しています。Helpfeel Cosenseは無料で使える共有ツールで、複数のページをつくることができ、テキストだけでなく写真やPDF、リンクなどをドラッグ&ドロップで簡単に埋め込むことができます。また、URLを伝えれば、生徒はアカウントなしで閲覧することが可能です。
授業ごとにページを作成し、生徒にURLを伝えて共有しています。また、理解度を確認する小テストを実施していますが、その際には愛知県の県立高校に導入されている「Microsoft 365 Education」のプランで使用できる「Forms」を使っています。
プログラミングは、最初の授業では数行のコードを書く簡単なものですが、それでもコンピュータが苦手、あるいは経験が少ない生徒は、「:」や「“」などの記号の打ち方がわからず止まってしまいます。そのため、まっさらな状態からプログラミングを始めるのではなく、ある程度コードを書いたテンプレートをHelpfeel Cosenseに用意しておき、「ここの部分は自分で考えよう」という形にしています。これによって、得意な生徒は自分でどんどんコードを書いていきますし、一方、苦手な生徒はテンプレートを見て埋めていくことができ、クラス全体の進度を調整することが可能になりました。
どのような工夫をしたのか
本校では、2022年度より1人1台の「Surface Go2」が導入されましたが、わたしはそれ以前から、さまざまなICTツールを探してきました。現在の方法に辿り着く以前は、ほかのICTツールも使っていましたが、毎回パスワードを忘れてしまう生徒がおり、毎時間その対応に時間を取られていました。そこで、Helpfeel Cosenseを使い、ここに毎時間の授業ごとの情報を集約することにしたのです。Helpfeel CosenseはURLを伝えるだけで、ログイン不要で生徒は必要な情報を得ることできます。また、Helpfeel Cosense上の情報は検索しても表示されないため、安心に使えます。
ツールの選定は、「無料」「手軽で使いやすい」「社会で実際に使われている実用的なツールで、卒業後も役に立つ」という3つの柱を軸にしました。無料にこだわったのは、予算を心配せずICTツールを使える環境をつくることができること、この先ほかの学校に異動した際も同じICTツールを使えるということが、とても重要だと考えたからです。また、「miro」などは企業でも使われているツールのため、卒業後に就職した際にも、継続性があるのではと考えています。
そのほかにも、Teamsを先生・生徒全員が使う情報発信の場としています。生徒に対しても「チーム」や「チャンネル」をつくって情報を整理しやりとりしています。学校で配るプリントや教材の置き場としての利用のほか、課題の提出、アンケート、校外学習での写真の共有など、幅広く活用中です。また、生徒からの質問を受け付けるなど、生徒のアウトプットの場としても役立っています。
また、授業外の活用になりますが、わたしはTeams上で全生徒に向けたチャンネルを作成し、話題になっているニュースや、ためになる情報、数学のクイズ、本で得たことなどを読み物としてまとめ、発信しています。毎朝、音声認識ツールやCanvaなどを活用して30分ほどで作成し、一時期は毎朝更新していました。校長や教務主任以外の先生が、全生徒に向けて自分の考えていることなどを伝える機会がほとんどありませんが、ICTを活用すればこのように簡単に行うことができます。
わたしは「自分が勉強して得たことを生徒にも伝えたい」という思いがあったから続けてこられたものだと思いますが、クイズを熱心に解いてくれる生徒がいたり、この発信をもとに共通の話題ができたりと、生徒とのコミュニケーションにも一役かってくれたと実感しています。
どのような苦労を、どのように乗り越えたのか
わたしがICTを使い始めたころは、1人1台の端末もなく、コンピュータの活用についての理解もあまり得られませんでした。
現在は端末が行き渡ったものの、先生も生徒も多様な考え方があり、すべての先生がICTに積極的なわけでありません。けれど、「ChatGPT」を始めとした生成AIが流行し、働き方やこれまでの考え方すら変わっていく時代において、学校から変わっていく必要があると考えています。当然、反対意見も出てきますが、自分だけで完結したら何も変わりません。勇気がいりますが、反対意見を聞きつつ、みんなで良い方向に持って行こうと常に言い続けることが非常に大事だと感じました。
例えばTeamsも、導入当初に先生だけのチームをつくり、そのなかでさらに進路指導部、保健部など分掌ごとにチャンネルを分けて情報共有を試みたものの、最初はまったく活用されませんでした。そこで、まずは「毎日Teamsをたちあげて、『いいね』だけでもしてください」と根気よく呼びかけました。そういった地道な活動で少しずつ活用が広がっていき、今では多くの先生が自ら発信するコミュニケーションツールになっています。
また、生徒の中にはコンピュータを苦手とする生徒も多く、キーボードを打つのもおぼつかない場合もあります。そうした生徒に向けては、Helpfeel Cosenseに「キーボード練習サイト」などのリンクを紹介し、練習をうながしています。
生徒にどのような学びの効果があったのか
デジタルネイティブな生徒たちは、先生が言わずとも、端末導入時からICTを積極的に使っていました。一番大きな変化として感じたのは、ICTによって、「心の中のアウトプット」がやりやすくなったことです。
例えば、教室で「これについて何かわかる?」と40人に声をかけても、毎回、手を挙げて発言する生徒はほぼ一緒です。けれど、Formsなどを使って記述をすると、普段は発言のない生徒もしっかりと回答できていて、先生の側も「この生徒は、こういうことを思っている」といった気づきを得ることができました。もちろん、対面でのコミュニケーション能力も大切ですが、自分の感情や気持ちをICTは表現しやすいと実感しています。
また、ICTを使って自分の学びに役立てる生徒も増えました。授業で活用しているわたしの真似をして自分専用のHelpfeel Cosenseをつくり、自分で集めた情報をまとめ、書いたコードなどのポートフォリオ置き場として活用するようになりました。一人が使い始めたことでどんどん活用が広がっています。
先生にはどのような意識の変化があったか
先生方は最初はICTに対しては保守的な雰囲気でしたが、コロナ禍で休校になったことがきっかけで、数学や英語、古典、国語など、他教科の先生方も、Helpfeel Cosenseを使って情報をまとめたページをつくるようになりました。パソコンが苦手という先生もいましたが、「とにかく学びを止めてはいけない」という気持ちで動画などもつくってきました。現在では、さまざまな教科の教材がHelpfeel Cosenseに並んでいます。
また、学校の部活動ごとの情報や、本校と連携していただいているサポーター企業へのリンクなども、Helpfeel Cosenseを使って紹介しています。便利だと感じたら徐々に活用が広がり、今では、生徒だけでなく先生たちにも「とにかくやってみよう」という文化が生まれてきたと感じています。
※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。
※本記事の情報は取材時点(2023年6月)のものです。