タブレット端末を活用する ことで 実習が 充実している
導入を検討している先生へ

- 田村 桃絵(たむら ももえ) 先生 看護科
デジタルツールは、「怖いから使わない」のではなく、まずは触れてみることが大事だと思います。

- 益子 八千代(ましこ やちよ)先生 看護科
若い教員はデジタルに関する知識もスキルも持っていることが多いので、積極的に教えてもらうことをすすめます。
事例概要
- 実践している学校
大成女子高等学校
- 実践している学科
看護科
- 活用の場面・授業
看護の実技演習、専門科目の授業、レポート課題の配布・提出など
- デジタル教材等を導入したねらい
動画の活用による実技習得の深化、タブレット端末で気軽に小テストを受けられることなどによる「学びのハードル」の低減
- デジタル教材等を活用した指導内容
看護の実技講習でiPadを活用。教員による看護行為の手本をiPadで撮影・録画・中継し、看護技術を生徒が正確に習得することを促している。またデジタル教科書を採用しており、授業は教科書内の該当箇所が教室にある大型モニタと、生徒一人一人が持つiPadに映し出されながら進行する。生徒はiPadを操作して図を拡大したり、メモを書き込んだりすることが可能。
使用機材:iPad、モニタ、Wi-Fi環境など
使用教材:医学書院eテキスト「看護師・保健師・助産師養成テキストシリーズ」など- 学習効果等
臓器の仕組みなど、本物を観察することができない学習対象について、デジタル教科書の拡大表示を利用して正確かつ詳細な知識を得ることができる。実習では、教室内の生徒全員が器具の持ち方、操作の仕方などを細かく観察することができ、かつ繰り返して視聴することで、正確な知識・技能を習得することができる。また、練習の様子を生徒同士で撮影し合い、振り返りに活用することで話し合いを通じて課題を解決する力をはぐくむことができる。
- 先生の感想
教科書をデジタルにできたのは、本当に意義深いこと。生徒の学びに向かう姿勢にも変化が見られた。また、看護科は多くの教科書を使い、生徒は時に医学書を読んだりもするので、持ち運びの負担が大きかった。iPadに集約できたことで、生徒も喜んでいる。(田村)
デジタル教科書をモニタに映して授業をすることで、黒板に書いたりする手間が軽減されている。効率的に授業を進められるようになったことで、生徒が考えたり話し合ったりする時間をより多く設定できるようになり、学びの質が高まっている。また教科書内の図を使ってテストをつくる作業なども、アナログでやっていたときより楽に速くできるようになり、内容の検討に時間をかけられるようになった。さまざまな面で、業務が効率化されたことにより、指導の質の向上につながっていると思う。(益子)
どんな授業を実践したのか
田村:生徒は1人1台iPadを所有し、そこにはデジタル教科書や看護学習用アプリ「看護roo!」が入っています。

こうしたデジタル教材の使用に加え、現在では、看護の実技演習、ウェブテストやレポート課題の配布・提出・採点、専門科目の授業など、多様なシーンでデジタルツールを活用しています。
例えば「基礎看護」の授業では、座学で基礎知識を習得したうえで実技演習を行います。その際、事前学習としてデジタル教科書での予習と看護学習用アプリでの動画の視聴を課しています。演習前のデモンストレーション(手本)では、離れていては見えにくい細かい手技をiPadで撮影し見せています。

教員のデモンストレーションの様子をリアルタイムで共有(提供:大成女子高等学校)
続いて生徒たちが演習を行う際は、その様子を録画して、後から振り返ることができるようにもしています。授業の様子や資料を録画・保存して、YouTubeの限定公開で共有する教員もいますね。実技演習後には、「Classi」のポートフォリオ機能を使って、学びの振り返りを記入・提出してもらっています。
予習の段階で動画を用いることで、生徒はイメージトレーニングをして実習に臨めるため、学習効果が高まっていると感じます。また、デジタルツールによって基礎知識の伝達を効率的に進められるため、実習や思考など本質的な学習行為に時間を割けるようになっているのも、導入効果として大きいですね。
益子:そのほか生徒に自作の問題をiPad経由で提出してもらい、そこからピックアップした問題をClassiのウェブテストで配信して解答させたり、Microsoft Teamsの会議チャット機能を使って授業内での気づきや感想を共有したりと、さまざまなシーンで活用が進んでいます。
特に、簡単に作問・配信できるClassiのウェブテストと学習履歴を蓄積できるポートフォリオ機能は、いまや不可欠なものとなっています。
また、生徒のiPadには医学映像教育センターが提供する「ビジュランクラウド」という動画学習コンテンツも導入しており、医療や看護に関する約90タイトルの動画を視聴できます。さまざまな疾患や病態の患者の事例を学べる動画がそろっていて、授業の予習・復習のほか、看護臨地実習の事前学習などでも活用しています。
Classiの学習履歴を見ると、定期試験前に何度も繰り返し問題を解き、全問正解するまで反復している生徒もいたりします。タブレット端末を使うことで気軽に復習しやすくなり、習得の速度も高まっているのではないかと思います。
どのような工夫をしたのか
田村:実技演習で教員のデモンストレーションをiPadで撮影・配信する際には、できるだけ細かい部分も映すようにしています。器具の持ち方や微妙な角度など、看護において大事なことをしっかりと伝えるためです。
それに、実習の参加者は1人ではありません。モニタを通じて、教員から遠い位置にいる生徒も正しい知識を習得できるようにすることが、大事だと思っています。
益子:授業では、デジタル教科書を教室のモニタに映し出して、例えば複雑な構造の臓器などを拡大表示したり、重要箇所をマーキングしたりしながら進めています。

また生徒のiPadは、教科書とメモ用のノートを同時に表示できます。教員が説明している箇所がリアルタイムでモニタとiPadに表示されて、ぼんやりしているうちに授業についていけなくなった……なんていうことも起こりにくくなっているんです。ちなみに、ノートはiPadでとる生徒も紙に書く生徒もいて、それぞれが自分に合った方法で学んでいます。
どのような苦労を、どのように乗り越えたのか
益子:新しい価値やサービスが次々と生まれて、人々の暮らしや働き方もどんどん変わっています。働き方が変われば、求められる能力も当然変わる。だからこそ大成女子高校は、近い将来に予測される新しい社会に対応するため、いち早くデジタルツールを導入し始めました。
ただ導入当初、生徒はすぐに操作を覚えて使いこなしていましたが、私たち教員は慣れるまで苦戦しました。私自身、デジタルツールの利用に長けているわけではなく、iPadの導入にも正直なところ抵抗がありました。
それを乗り越えられたのは、周囲のサポートがあり「まずは使ってみよう」と思えたから。それに、コロナ禍で授業や業務をオンラインで行わざるを得なくなったことも、大きかったですね。ある意味追い込まれて、必死になって使い方を覚えました……。
いまも、教員同士で授業を見合ったりして、学んでいます。
例えば最近は校内の教員の多くが、自分が開いている教科書のページを大きなモニタにミラーリングしながら授業を進めています。かつては「教科書○ページの△行目を見てください」と指示していましたが、いまは生徒が自らモニタを見てページを開けるので、授業により集中できるようになっています。
また、教科書の一斉検索機能も多くの教員が使っています。これによって「基礎看護」の「フィジカルアセスメント」に関する授業で、「解剖生理」の「呼吸」の単元に関する内容を調べるなど、横断的な教育が可能になっています。

田村:本校の校長は情報系が専門ということもあり、デジタルツールに詳しく、教員や生徒のID登録など、機器やツールの初期設定をかなり手厚くやってくれるんです。だからこそ、比較的スムーズに導入できているのだと思います。また、英語科のALT(外国語指導助手)も情報系の知識を持っていて、わからないことがあればすぐに聞いて教えてもらっていました。この2人に支えてもらえるのは大変心強いですね。
生徒にどのような学びの効果があったのか
益子:デジタル教材などを活用することで、より詳細な観察が可能になり、看護に関わる知識・技能の確実な習得につながっています。また、自身の実習の様子を動画撮影し振り返りに用いたり、それを生徒同士の話し合いに活用したりすることで、思考力や表現力の育成にもつながっています。
さらに、学習意欲も高まっていると実感しています。授業中に疑問が生じればすぐに検索して、新たな知識を得ようとする生徒が最近は多いですね。
それから、スライドや動画などの作成に対する心理的ハードルが低くなっているのも、好ましい傾向です。多くの生徒が、表現するツールとして当たり前に使っています。先日もある生徒へ実習病院について後輩に教えてあげてほしいと頼むと、自発的にスライドを作成してくれました。
田村:本質的なことではありませんが、看護科の教科書は専門的なことを学ぶことから、他分野に比べて分厚くその重量が生徒の負担になっていました。デジタル化により教科書を持ち運ぶ負担が減り、かついつでもどこでも閲覧できるようになったのは大きいと思います。また、デジタルについては生徒たちのほうが詳しくて適応力も高く、思わぬ活用法をしていることに驚かされることがあります。

(提供:大成女子高等学校)
先日、3年生が1年生に向けて学習や生活のアドバイスをする機会があったのですが、「赤シートを用いiPad上の赤字を隠して勉強する」というデジタルとアナログを融合する学び方を教える生徒がいて。さまざまな工夫の可能性があることを実感しました。
先生にはどのような意識の変化があったか
益子:コロナ禍を機にオンラインで授業をするようになってから、まずメリットを感じたのが、ウェブテストの配信・採点とレポートなど課題の出題や回収でした。特にテストは、過去につくった問題の編集や自動採点が可能で、作業負担が減って、以前より格段に業務効率が良くなりました。
レポートなどの課題については、生徒の提出状況がひと目でわかるのが利点です。それに、自分が担当していない科目の提出状況も見ることができて、生徒の現状を多面的に把握できます。
また、生徒にとっても動画教材やアプリ学習はとっつきやすく、看護について理解を深めるうえでかなり有効ということが明らかになってきました。

教員と生徒の双方にとってのメリットを実感できたことで、高いと感じていたデジタル化のハードルが下がり、より活用しようと私自身の意識も変わってきています。現状に満足せず、もっと勉強してより良い活用法を模索していきたいです。
田村:テスト作成に加えて、授業の資料づくりや板書の手間もかなり省けるようになりました。デジタルだと図の引用などが容易ですし、見やすくきれいに仕上がります。タブレット端末などの導入が、生徒の学びの変容とともに教員の業務効率化にもつながっていると実感しています。

※本記事は実践事例を広く紹介することを目的としており、記事内において一般に販売している商品、機器等に言及している部分がありますが、特定の商品等の活用を勧めるものではありません。学校が一般に販売されているものを活用する場合は、活動内容や各学校の状況等に応じて選択してください。
※本記事の情報は取材時点(2024年3月)のものです。