初中教育ニュース(初等中等教育局メールマガジン)第356号(平成31年3月22日)

[目次]

【お知らせ】
□文部科学大臣メッセージの発出について
□2019年2月の文部科学省選定作品(学校教育教材等)の紹介
□運動会等におけるオリンピック・パラリンピックに関連した取組の募集について
□2020年4月からの高等教育の無償化に向けた検討について(その6)
□2019年度第1回高等学校卒業程度認定試験の出願受付について
□文部科学省見学について
□第5回国際女性会議WAW!/W20開場時間の変更について
□教員向け教育フォーラム「みんなが迷っている時の教師の役割」について
【コラム】
□二つの「未来像」の相克と学校教育の役割
 -学校における働き方改革と新学習指導要領がともに目指すもの-
 〔文部科学省初等中等教育局財務課長 合田 哲雄〕

□【お知らせ】文部科学大臣メッセージの発出について

〔初等中等教育局児童生徒課〕

 千葉県野田市で起きた小学四年生女児死亡事案を受け、本年3月19日(火曜日)に関係閣僚会議において「児童虐待防止の抜本的強化策」が決定されたところ、それに合わせて、全国の児童生徒に向けた文部科学大臣メッセージ「全国の児童生徒の皆さんへ ~安心して相談してください~」を発表しました。
 つきましては、メッセージの内容について機会を捉えて周知していただきますとともに、子供たちが相談しやすい環境作りに御配意いただきますようよろしくお願いいたします。
◆メッセージ本文はこちら
 →全国の児童生徒の皆さんへ ~安心して相談してください~(※国立国会図書館ホームページへリンク)別ウィンドウで開きます
◆動画はこちら(mextchannelウェブサイト)
 →全国の児童生徒の皆さんへ ~安心して相談してください~

 (お問合せ先)
 初等中等教育局児童生徒課生徒指導第一係
 電話:03-5253-4111 (内線3299)

□【お知らせ】2019年2月の文部科学省選定作品(学校教育教材等)の紹介

〔初等中等教育局情報教育・外国語教育課〕

 文部科学省では、映画その他の映像作品及び紙芝居について、教育上価値が高く、学校教育又は社会教育に広く利用されることが適当と認められるものを選定し、併せて教育に利用される映像作品等の質的向上に寄与するために、教育映像等審査規程(昭和29年文部省令第22号)に基づいて映像作品等の審査を行っています。
2019年2月の文部科学省選定作品(学校教育教材等)の紹介
※以下、文部科学省特別選定を「特別選定」、文部科学省選定を「選定」として、【作品名】/申請者/利用対象の順に記載しています。

○DVD(選定)
・【「やさしく」の意味 -おばあちゃんは認知症だった-】/株式会社映学社/少年向き
・【12か月の未来図】/ニューセレクト株式会社/青年向き・成人向き
・【みんなで考えるLGBTs 3性的指向と性自認(解説編)】/株式会社サン・エデュケーショナル/中学校生徒向き・高等学校生徒向き
・【道草】/映画「道草」製作委員会/青年向き・成人向き
・【大雨のとき気をつけること 早めにひ難するヒント】/株式会社映学社/小学校高学年児童向き・少年向き
・【豪雨の危険を考える 検証 西日本豪雨】/株式会社映学社/中学校生徒向き・高等学校生徒向き・少年向き・青年向き
・【助ける、助かる 検証 西日本豪雨】/株式会社映学社/成人向き

○映画(選定)
・【こどもしょくどう】/株式会社パル企画/成人向き・家庭向き
・【ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ】/株式会社クロックワークス/青年向き・成人向き

(お問合せ先)
初等中等教育局情報教育・外国語教育課映像等審査担当
電話:03-5253-4111(内線2417)

□【お知らせ】運動会等におけるオリンピック・パラリンピックに関連した取組の募集について

〔スポーツ庁オリンピック・パラリンピック課〕

 東京2020組織委員会では、学校の運動会・体育祭等でのオリンピック・パラリンピックと関連した取組を募集し表彰するプロジェクト「東京2020みんなのスポーツフェスティバル」を実施します。
 本プロジェクトはスポーツの力やオリンピック・パラリンピックの価値・意義を児童・生徒の皆様に楽しく学んでいただくことを目的としています。
皆様の学校での創意工夫を凝らした取組を是非御応募ください!

※詳細はこちら(東京2020教育プログラム特設サイト)
運動会や体育祭等におけるオリンピック・パラリンピックに関連した取組を募集し表彰する 「東京2020みんなのスポーツフェスティバル(春)」を実施します!

(お問合せ先)
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
「東京2020みんなのスポーツフェスティバル」応募事務局
メールアドレス: sportsfestival@tokyo2020.jp
(本件担当)
スポーツ庁オリンピック・パラリンピック課 佐原
電話:03-5253-4111(内線3951)

□【お知らせ】2020年4月からの高等教育の無償化に向けた検討について(その6)

〔高等教育段階の教育費負担軽減新制度プロジェクトチーム〕

 今回は、2020年度から始まる予定の新制度の支援措置の対象となる大学等の要件についてお知らせします。
 学問追究と実践的教育のバランスの取れた一定の要件を充たした大学・短期大学・高等専門学校・専門学校が支援措置の対象となります。
 対象大学等は夏以降に発表になりますので、大学等で授業料等減免や給付型奨学金を受けることを考えている高校生は進学を検討している大学等がその対象になるか御確認ください。

※詳細はこちら
高等教育段階の教育費負担軽減

※本項は現時点での検討状況のお知らせですので、状況によって変更の可能性があることをご承知おきください

(お問合せ先)
高等教育局 高等教育段階の教育費負担軽減新制度プロジェクトチーム
電話:03-5253-4111(内線3505、3495)

□【お知らせ】2019年度第1回高等学校卒業程度認定試験の出願受付について

〔総合教育政策局生涯学習推進課〕

 文部科学省では、様々な理由により高等学校等を卒業していない方のために、「高等学校を卒業した人と同等以上の学力があるかどうか」を認定する試験を毎年2回実施しています。
 当該試験に合格すると、大学・短期大学・専門学校の受験資格が得られます。また、就職や資格試験にも活用することができます。受験を希望される方は、受験案内を御確認の上、出願の手続をお願いします。

■受験資格  2020年3月31日までに満16歳以上になる方で高等学校等を卒業していない方。高等学校等の在学者も受験可能。
■出願受付  2019年4月26日(金曜日)~5月15日(水曜日)消印有効
■試験日  2019年8月6日(火曜日)・7日(水曜日)
■試験会場  下記HP参照
■結果通知  2019年9月2日(月曜日)発送予定
※詳細はこちら
高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定)

(お問合せ先)
総合教育政策局生涯学習推進課 認定試験第一係・第二係
電話:03-5253-4111(内線2024・2643)

□【お知らせ】文部科学省見学について

〔大臣官房総務課〕

 文部科学省では、小学生から高校生を対象に「文部科学省見学」を行っており、当省の仕事内容を、映像や展示室を利用しながら分かりやすく説明しています。
 見学メニュー及び所要時間は下記のとおりです。(複数選択可)
・文部科学省の仕事内容の説明(映像視聴など)(所要時間:約20分)
・記者会見室・執務室等の見学(所要時間:約10分)※都合により見学できない場合があります
・情報ひろばの見学(所要時間:約30分)
 御興味ある方はぜひ下記まで御連絡ください。
見学案内

(お問い合せ先)
大臣官房総務課広報室事業第二係
電話:03-5253-4111(内線2170)

□【お知らせ】第5回国際女性会議WAW!/W20開場時間の変更について

〔総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課〕

 前号で御案内した第5回国際女性会議WAW!/W20の1日目3月23日(土曜日)の受付開始時間が7時30分に変更になりました。当日は大変な混雑が予想され、開会時間直前に来られても、すぐに入場できない可能性がございます。御参加される皆様におかれましては、時間に余裕を持ってお越しくださいますよう御案内します。なお、2日目の開場時間については、9時から変更ございませんので、御注意ください。
 W20(Women20)と同時開催される当会議には、基調講演者にマララ・ユスフザイさん、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官、特別挨拶にガブリエラ・ミケティ アルゼンチン共和国副大統領といった豪華パネリストに加え、海外より女性外相をお招きし、日本及び世界における女性のエンパワーメントのための取組について議論を行います。外務省HPにて、登壇者およびプログラムを掲載していますので、是非御覧ください。

※詳細はこちら(外務省ウェブサイト)
第5回国際女性会議WAW!/W20

(お問合せ先)
外務省WAW!準備事務局 三好
電話:03-5501- 3311(内線9650)
(本件担当)
総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課企画係
電話:03-5253-4111(内線3073)

□【お知らせ】教員向け教育フォーラム「みんなが迷っている時の教師の役割」について

〔初等中等教育局初等中等教育企画課〕

 この度、一般社団法人CEEジャパンでは、教育向けフォーラムを開催します。本フォーラムでは、激しく変化する時代、「これから一体どうなるのだろう」という素朴な不安感が広がる中、教育指導上の「不変の本質」と「変化する手法」を深く掘りさげる「人生100年時代における教育論」を取り上げます。是非御参加ください。

日時:2019年5月26日(日曜日)9時00分~17時30分
場所:東京大学弥生講堂(東京都京区弥生1-1-1)
対象:全国小・中・高の教職員、教育委員会及びその他の教育機関関係者、教員養成系大学教員、教職課程履修中の学生ほか。(定員300名)
参加費:1000円
※詳細はこちら(一般社団法人CEEジャパンウェブサイト)
【教員フォーラム】Teacher 3.0 - beyond FORUM-人生100年時代における教育論-

(お問合せ先)
一般社団法人CEEジャパン
電話:080-3487-6472
(本件担当)
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
電話:03-5253-4111(内線2007)

【コラム】二つの「未来像」の相克と学校教育の役割
     -学校における働き方改革と新学習指導要領がともに目指すもの-

 〔文部科学省初等中等教育局財務課長 合田 哲雄〕

 このメールマガジン「初中教育ニュース」をお読みいただき、ありがとうございます。初等中等教育局財務課長の合田(ごうだ)哲雄です。この「初中教育ニュース」には、昨年2月、6月と2度、コラムを掲載いたしました。多くの方にお読みいただき感謝いたしております。

 ◆初中教育ニュース(初等中等教育局メールマガジン)第327号(平成30年2月23日)
 ◆初中教育ニュース(初等中等教育局メールマガジン)第335号(平成30年6月22日)

 3度目の今回は、現在担当している学校における働き方改革についてお話したいと思います。
 文部科学省は、本年3月8日に働き方改革についてのプロモーション動画を公表いたしました。

 「学校の働き方改革」プロモーション動画
 ~働き方改革の当事者と有識者のインタビューと政務三役からのメッセージ~

 ありがたいことに公表後12日間で1.3万回以上視聴されました。ご覧いただいた方もいらっしゃると思います。今後とも是非、学校やPTA、地域などでもご覧いただきそれぞれの学校や地域に応じた学校の働き方改革を進めるための対話や議論の素材として活かしていただければと存じております。

 このコラムは、プロモーション動画の理解を深める観点からお読みいただければ幸甚です。

(二つの「未来像」の相克)

 本年1月25日に柴山昌彦文部科学大臣に提出された学校の働き方改革に関する中央教育審議会の答申には、「人工知能(AI)、ビッグデータ、Internet of Things(IoT)、ロボティクス等の先端技術が高度化してあらゆる産業や社会生活に取り入れられ、社会の在り方そのものが現在とは「非連続的」と言えるほど劇的に変わるとされる Society 5.0 の到来が予想されている。このような社会の構造的変化は、資本の有無や年齢・居住地などにかかわらず、新しいアイディアを持つあらゆる人に可能性の扉を開け,クリエイティブに価値創出ができる時代をもたらしたという見方もある一方で、魅力的なアイディア自体が資本として大きな価値を生み出す「知識集約型社会」の中で、「目の前の子供たちが就く職業がなくなるのではないか」「今の学校教育は役に立たないのではないか」という不安も生じさせている」(4ページ)という指摘がなされています。

 ◆新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)(第213号)

 なぜ、このような時代認識が働き方改革に関する答申に盛り込まれているのでしょうか。それは、未来社会はあらかじめ用意されている、既に「ある」ものではなく、目の前の子供たちが「創る」ものだからだと思います。そして、「教育」は教師をはじめとする大人が子供たちに働きかけることにより未来社会を創造する営為にほかなりません。未来社会がこうだから子供たちにはこんな教育をしなければならないという受け身の発想ではなく、こんな未来社会を創っていくために、今子供たちにこんな資質・能力をはぐくもうという積極的な意思が求められています。そのような観点から、今、世界において生じている二つの「未来像」の相克を乗り越えて、創造性と社会的公正が両立する未来社会を創造しようという意思が中央教育審議会にはあるのだと思っています。

 ご覧になった方もおれると思いますが、昨年の10月、NHKスペシャルで「マネー・ワールド 資本主義の未来」という番組が放映されました。司会をしていたのは爆笑問題という二人のコントグループ、出演していたのはソフトバンクの孫正義代表と国立情報学研究所の新井紀子先生でした。
 表現は正確ではないかもしれませんが、孫代表は「人工知能(AI)の飛躍的進化やSociety5.0などと言われる今は素晴らしい時代だ。新しく素晴らしいアイディアさえあればどこに住んでいようと、年齢がいくつであろうと、新しい社会的な価値を生み出せる社会。こういう時代においては、後ろを振り向いてはだめだ。どんどんどんどん前に行って新しいアイディアを作り続けることが必要だ」と語りました。これに対して、新井紀子先生は「あなた(孫代表)のような新しい価値を生み出す数%の人はいいかもしれないけれど、残りの97%は資本主義の構造変化のなかで尊厳ある生活や職が奪われる可能性がある」と指摘しました。その上で、新井先生は「孫社長、ベーシックインカムといった新しい社会的公正を確保策に要する財源の確保のために法人税の引き上げに賛成しますか?」と孫社長に迫り、孫社長は珍しく困惑した表情を浮かべておられました。まさに二つの未来像の相克です。
 二つの未来像、すなわち、孫会長がおっしゃるように、資本の有無や年齢、居住地等に関わらず、新しいアイディアをもつあらゆる人に可能性の扉が開かれた、クリエイティブに価値創出ができる時代になっているという認識と、もう一つは新井先生がおっしゃっていたように、魅力的なアイディアを生み出すことができる数%を除いた大多数の市民は、資本主義の変容の中で、職や尊厳ある生活が奪われるという予測や不安。後者は、新井先生がおっしゃるように、ベーシックインカムといった社会的公平を確保するための新しい仕組みが必要という議論につながる一方で、世界を席巻するいわゆるポピュリズムの背景にもなっているという構造になろうかと思います。

(未来社会を創造する学校教育)

 このように未来像は、「創造性」と「社会的公正」を軸に相克しています。この相克を前に、数%のイノベーターを生み出すことについても、残りの97%が職や尊厳ある生活を得ることについても学校教育は無力なのでしょうか。
 私は、高校時代の歴史の先生に「新しい局面に直面したと思った時には、歴史を振り返ったら得るとことが多い」と教えていただきました。確かに、80年前、大衆化とブロック経済化という国内外の構造的変化とそれに基づく国民的不安は、「新体制運動」や「近代の超克」といった政治や思潮のうねりを生みました。二つの未来像の相克のなかで、学校を含む従来の社会システムを「オワコン」(終わったコンテンツ)と切り捨てては、閉塞状態を打開するために「バスに乗り遅れるな」というスローガンが説得力を持つ歴史の一コマと何ら択ぶところはありません。
 あらゆる問題について、これですべて解決という特効薬はありません。複雑な課題を丁寧に解きほぐして、関係者の「納得解」を得る地道な努力から逃げるわけにはゆきません。だからこそ、今、「オワコン」などと浮足立つことなく、冷静に我が国の学校教育の果たしている役割を踏まえた上で、創造性と社会的公正の両立する未来社会を創造することが求められています。
 現在進行している社会の構造的変化は、所有や消費を目的にモノの価値を高めることが目指されていた「モノ」が中心の社会から、自動車というモノ自体よりも、スマホの操作一つで自動運転の車が迎えに来て目的地まで運んでくれるというビックデータに基づいたシステムや、我が国固有の文化や技術に裏付けられたストーリーに基づくサービスに大きな価値がある社会への転換だと言うことができると思います。このような転換は、要するに、人間自身が体験し、協働し、創造していくことに価値があるという、人間が中心の社会への転換にほかなりません。
 そのためには、一部のエリートだけでなく、ボリュームゾーンを含めた国民全体で「人間としての強み」を高めることが求められています。考えてみれば、そもそも我が国の学校教育は、「人格の完成」と「国家・社会の形成者」を目指して、自分の足で立って、自分の頭で考える子どもを育てることを重視してきました。しかし、工業化社会のなかでは、嫌なことにも我慢して取組み、与えられたゴールから逆算して予見可能性を高めてリスクを最小化できるパッシブな人材が求められ、逆にゴール自体を自分で考えるアクティブな子どもは企業からも社会からも忌避されました。スクリーニング(ふるいわけ)としての入試を我慢強く乗り越える人材が求められ、長らく「自分の頭で考える子どもを育てる」ことは「理想」に過ぎないと受け止められていたと言えましょう。それが、今、経済産業省や時代の歯車を回しているベンチャー企業などから本気でそんな本来の教育をしてほしいと言われているのです。大企業などは本当に変わっているのかなと思わないでもありませんが、学校教育が本領を発揮できる時代になったのです(そのことは、前述のプロモーション動画の09:48頃にこの2月から中央教育審議会委員にもなられた長谷川敦弥・株式会社LITALICO代表取締役社長が言及なさっています)。
 このように、創造性と社会的公正は、「人間が中心となる社会」で通底し、両立します。だからこそ、我が国の学校教育の出番だと思っています。我が国の学校教育は、「自分の足で立って自分の頭で考える」ために、(1)尊厳ある社会生活の基盤となる力を身につけさせつつ、(2)様々な社会的な課題や現象について探究したり創造したりする大事な場としての役割を果たしてきました。それは、相互的寛容と自制心を持って粘り強く対話し、納得解を共有する民主政やそれを支える社会の大事な土台ともなっています。

(「出藍の誉れ」時代の学習指導要領)

 創造性と社会的公正が両立する我が国らしい未来社会は、目の前の子供たちが私たち大人を乗り越えて新しい価値や文化を創造することで出現する「出藍の誉れ」時代でもあります。そのなかで、尊厳ある社会生活の基盤となる基礎・基本(語彙、読解力、知識、計算能力など)は絶対必要で、ゆるがせにしてはいけません。私自身、今心配しているのは、特に小学校において私どもが「アクティブ・ラーニング」という言葉を強調し過ぎたために、「基礎・基本はもういいのだ」という雰囲気が横溢しているのではないかということです。他方、「出藍の誉れ」時代は、学校の先生が唯一の真理を握っていて、それを子供たちに分け与えるという構造ではないことも事実です。子供たちの方が分野によっては知識をもっていることもあるでしょう。けれども、バラバラの事実や知識をそれぞれの教科固有の見方・考え方を働かせて体系的に考えたり、構造的に考えたりするという経験を教室で一緒に行い、「後は君達に任せたから頑張ってほしい」というのが、「出藍の誉れ」時代の学校教育ではないかと思っています。
 だからこそ、今回の学習指導要領は、「浮き足だつことなく」(プロモーション動画09:04頃の新井紀子・国立情報学研究所社会共有知研究センター長の発言)、我が国の学校教育の蓄積を活かすことを重視しています。もちろん、浮き足だつ必要はないと言うのは、今のままで変わらなくていいということでは決してありません。AIが「解なし」と言った時に本領を発揮するための力とは、(1)教科書や新聞、新書などの内容を頭でベン図を描きながら構造的に正確に読み取る力、(2)歴史的事象を因果関係で捉えるとか、比較・関連づけといった科学的に探究する方法を用いて考えるといった教科固有の見方・考え方を働かせて、教科の文脈上重要な概念を軸に知識を体系的に理解し、考え表現する力、(3)対話や協働を通じ新しい解や「納得解」を生みだそうとする力。そういう力が社会の構造的変化のなかで益々大事になってきていますが、これらはすべて我が国の学校教育が重視してきた力であります。このような力を育むための構造は、既に我が国の教科教育の中にしっかり組み込まれています。そのことを、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力・人間性等」という構造で可視化したのが今回の学習指導要領改訂です。

(学校の持続可能性のための働き方改革)

 そして、今回の働き方改革は、このような我が国の学校教育の蓄積と教師が真正面から向き合う時間を確保し、教育の質を維持・向上させながら学校の持続可能性を確立することを目的としています。その意味では、働き方改革は創造性と社会的公正が両立する未来社会の創造にとっても不可欠な取組みです。
 もちろん、学校における働き方改革は特効薬のない、総力戦を地道に続ける必要がある大変難しい課題であることは間違いありません。その総力戦のトリガーとして、中央教育審議会の審議を踏まえ文部科学省が策定した上限ガイドラインは、教師の在校等時間の上限目安を月45時間、年360時間と設定しています。少なくない教育関係者が「非現実的だ」とお考えかも知れません。
 この上限ガイドラインについては、このようにご理解いただきたいと思います。我が国の地方公務員は約300万人いらっしゃいますが、そのうちの三分の一の約100万人が小中高等学校等の先生方です。他方、霞が関において、財務省に行きますと「最近税務署(約5万人)の職員の採用に苦労している」、「税関職員(約1万人)もそうだ」という話を聞きます。警察庁に参りますと、「警察官(約30万人)の人材確保に苦労している」と言われます。このように、教師だけではなく、我が国においてパブリックセクターを含めて全般的にかなり深刻な人手不足が生じています。そのなかで、働き方改革推進法において企業で働いている方々については罰則を伴う形で月45時間、年360時間という時間外勤務の上限が設けられ、特に大企業はこの4月からこの仕組みがスタートいたします。その状況のなかで、文部科学省としては、このような働き方と大きく異なる環境の職場には人が集まらなくなるのではないかという大きな危機感を持っています。今の学校教育の高い成果は、今管理職を務めている先生方をはじめとした教師の献身的な努力の賜物であることはもちろんなのですが、今はその働き方を変えてでも学校の持続可能性を高めて、志と能力のある若い方々や教育に意欲ある教育界以外の方々に続々と教育界に入っていただき、さらに発展させなければなりません。

(教師にとっても子供にとっても最大のリソースである「時間」)

 働き方改革とって重要なのは、「時間」は最も大事なリソース(資源)であるという認識を共有することだと思っています。マネジメントにおいてリソースとは、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」などと言われますが、学校における最大のリソースは「時間」。子供たちにとっても、先生方にとっても限りある時間は最も重要なリソースです。子供のためなら、どんなことであっても、いくらでも時間を使っていいという働き方をとにかく変えていかなくてはなりません。プロモーション動画の02:00頃に工藤祥子・神奈川過労死等を考える家族の会代表が仰っておられるように、志ある教師の過労死等はその家族だけではなく、教え子である子供たちにも大きなショックとなるものであり、決してあってはなりません。
 そのために大事なのは、目の前の子供たちのためにどんな活動を優先するかの「プライオリティ・セッティング」です。そして、何を優先すべきかと申し上げるとすれば、教師とは授業を軸に子供達を育み、成長させる専門職でありますから、授業の質を磨くことではないでしょうか。授業を磨いていくことに全力投球できるような環境を作ることを共通の土台にして、学校における働き方改革と教育の質の向上は両立するのだと思います。
 これは抽象的な話ではありません。小学校の先生は、あくまでも推計ですが、年間700時間程度、中学校の先生は部活動指導がありますから年間1000時間程度の時間外勤務をされていると思われます。勤務実態調査によれば、先生方は朝勤務時間より平均で45分早く来ておられます。早く来られることについては、それぞれの学校や教師により様々な事情があろうかと思いますが、一日45分早く学校に来るということは年間150時間の時間外勤務をしていることを意味します。45分早く来ることを見直せば、150時間の時間外勤務の縮減につながるということであり、日々の先生方の時間の使い方の一つ一つを見直すことが求められるゆえんです。答申においては、登下校時の見守り、給食費の徴収などは教師でなくてもできる仕事だという指摘に加え、例えば、夏休み期間の高温時のプール指導、内発的な研究意欲がないにもかかわらず形式的に続けられる研究指定校としての業務、地域や保護者の期待に過度に応えることを重視した運動会等の過剰な準備、本来家庭が担うべき休日の地域行事への参加の取りまとめや引率等などは、大胆に削減すべきだと提言しています。「昨年こうだったから今年もこうやらないといけない」、「地域から求められているので自分が校長の代ではやめられない」、「去年の3年生が経験したのだから、今年の3年生も経験させてあげないと可哀想」といったお気持ちはよく分かります。しかし、これからは、貴重な限られたリソースである時間を優先して使ってでも行うべきかどうかを真正面から考え直して、大胆に削減してほしいと考えております。その優先順位を決める際、大きな判断基準となるのが、前述した目の前の子供たちが次代を切り拓くために求められる資質・能力をはぐくむ上で重要な教育活動かどうかではないでしょうか。

(「人間としての強み」を引き出す学びの充実)

 このように今回の学習指導要領改訂と学校における働き方改革で共通しているのは、子供たちが「AI時代」「Society5.0」を切り拓く上で求められている「人間としての強み」をいかに引き出し、創造性と社会的公正が両立する未来社会を創造するかだと思います。人間としての強みは、我が国の学校教育が大事にしてきた資質・能力ですから、それを引き出すための授業改善を先生方がしっかりできる環境を作っていく上で、「昨年もやったので、今年も行います」という思考を転換することは不可欠です。
 例えば、部活動についても、少子化のなかで現在一つの中学校で部活動を維持することがなかなか難しくなっています。部活動の実施主体はこれから大きく変わってゆくでしょう。ゆくゆくは部活動指導の実績のある教師は兼職・兼業の許可をとっていただいて、学校とは別の実施主体のもと部活動指導員として活動していただくという形も見えてくるのではないかと思っています。部活動は生徒指導そのものだから、中学校教育とは切り離せないとおっしゃる先生も少なくありません。しかし、過日お目にかかったある中学校の体育教師でいらした方は教職大学院で学位をとるために2年間部活動指導は一切やらなかったけれども、体育の授業の質をしっかり高めることにより生徒との関係は変わらなかったとおっしゃっていました。先生方の主戦場は授業ですので、この「授業の質を高める」ことが働き方改革と教育の質の向上を両立させる一つの大きなポイントです。その意味で、私自身が日々の仕事を通じて感じている先生方の授業改善に対する思いの強さは、我が国の学校教育の大事な財産だと思っています。
 今後、私ども文部科学省は、これまで以上に「これは学校や教師の仕事ではありません」といったことを明確に申し上げてまいります。前述のプロモーション動画や事務次官通知などによる発信、管理職や教育委員会担当者向けの動画「勤務時間管理講座」の公開、知事会や市長会といった地方団体、経済界、PTA、メディアなどへの文部科学省幹部による個別の働きかけなどを総出で行います。

 『~公立学校の校長先生のための~やさしい!勤務時間管理講座』
 文部科学省の担当者が勤務時間管理についてやさしく解説した動画です。是非ご覧ください。

 これらを通じて、止めたり圧縮したりした行事などについて、地域の方や退職校長などから「前の校長先生はやってくれたのに」と言われた時に、「私だけではなく、文部科学省もだめと言っているのです」と断っていただけるようにしたいと思っています。そして、その上で、「この行事は止めますが、是非、子供たちを見てください。この働き方改革によって授業の質が高まり、子供たちは次代を切り拓くに相応しい力をつけています」と胸を張っていただけるように、私どもも学校をしっかりとお支えしたいと思っております。

(文部科学省もまなじりを決して取組を進めます)

 そのことは、プロモーション動画の14:24以降において、柴山昌彦文部科学大臣、浮島智子副大臣、中村裕之大臣政務官が、文部科学省を代表して言明しています。
 1月29日に第1回会合が開催された「文部科学省学校における働き方改革推進本部」(柴山大臣が本部長)において、柴山大臣は、「学校や教育委員会に「お任せ」ということでは残念ながら働き方改革は進まないと考えます。教師が教師でなければできないことに全力投球していただく。そのために、文部科学省がしっかりと役割を果たし、地域や保護者をはじめとする社会全体に対し、何が教師本来の役割であるのかというメッセージをしっかりと発信していく必要があります。例えば、働き方改革に関する動画メッセ―ジを文部科学省のホームページにアップする、あるいはメディアの皆様ともしっかりと連携していく。こうしたことなど、文部科学省が学校と社会の連携の起点・つなぎ役としての役割をしっかりと前面に立って果たしていく必要があると考えております。また、本推進本部の本部員一人一人が手分けをしながら、各府省、教育関係団体、スポーツ・文化関係団体、経済団体などに対して、学校における働き方改革を推進するために対話をし、働きかける必要があります。さらに、来年度(2019年度)政府予算案を足がかりに、教職員定数の改善などの一層の条件整備を図るとともに、教育課程や教員免許などの教育制度も必要に応じて、大胆に緩和などの見直しをする必要があると考えております」と発言いたしました。

 ◆学校における働き方改革推進本部

 この教育課程や免許制度などの教育制度の見直しについては、働き方改革に関する答申においても、
・ 特に小学校における効果的な指導と教師の一人当たりの指導時間の改善の両立の観点からの、小学校の教科担任制の充実、年間授業時数や標準的な授業時間等の在り方を含む教育課程の在り方の見直し
・ 免許更新制がより教師の資質能力向上に実質的に資するようにすることも含め、能力が高い多様な人材が教育界に加わり、意欲的に教育活動を行うための養成・免許・採用・研修全般にわたる改善・見直し
・ パイロット事業の成果を踏まえた新時代の学びにおける先端技術の効果的な活用と学校外の多様な主体との連携の進化
・ 「圏域」における地方公共団体の協力関係の進展状況を踏まえた教育的観点からの小規模校の在り方の検討
・ 公立学校の教師の勤務時間や労働安全衛生体制等について調査・監督する地方公共団体の人事委員会等の効果的な活用方法の検討
が指摘されており、引き続き中央教育審議会でも審議を重ねることになっています。

 このように文部科学省の役割は、教職員定数の改善などの条件整備、教育課程や免許制度などの教育制度の大胆な見直し、教師に関する労働環境についての法制的な枠組みに関する中長期的な検討など法律や予算にかかわる事柄も含めて多岐にわたりますが、先生方の日々の具体的な業務にかかわることも重要だと思っています。
 例えば、本年2月14日に野田市の事件を踏まえ、政府として、各学校に14日間一度も登校していない児童生徒等について家庭訪問など面会による確認をお願いしました。子供たちの命にかかわる事態ですからこれはどうしてもお願いしなければなりませが、他方、この年度末は、総授業時数を確保するために各学校において様々な工夫がなされる時期でもあります。当課の中学校における教職経験のある職員が、この時期に家庭訪問を学校にお願いするなら、短縮授業の実施など教師の在校等時間が増加しないような取組が可能であることを文部科学省として明確に発信する必要があるのではないかと指摘したことを踏まえ、教育課程課や健康教育・食育課といった関係課が知恵を絞り、緊急点検の依頼と同時に、以下のような負担軽減に関する事務連絡を発出しました。

 ◆「児童虐待が疑われる事案に係る緊急点検」の実施に伴う学校業務の負担軽減について (PDF)

 私ども文部科学省は、柴山大臣を先頭に、固定概念にとらわれずに立場を超えて知恵を出し合うとともに、自らの職務権限を十二分に活かして働き方改革を推進し、教師や子供たち、保護者、あるいは地域の方々がその成果を実感できるようにまなじりを決して取り組んでまいります。

 引き続きどうかよろしくお願い申し上げます。

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