PFI事業を活用した、 9年間の学びをつなぐ施設一体型の小中学校

富山市立芝園小学校・中学校(富山県富山市)

4小学校の統合新校舎と老朽化した中学校の新校舎を併設した、施設一体型の校舎。建設には、民間のノウハウや資本を取り入れたPFI手法を導入し、学校が要求する以上の質の高い提案を反映し、施設整備の費用削減を達成した。子どもたちの学びの段階に合わせた柔軟な教育環境が整えられ、教員間の連携や小学生・中学生の交流を深める、小中一貫的連携教育を進める施設を実現した。

小中一貫教育 柔軟な学習空間 オープンスペース 地域と連携 家具 ICT活用 PFI手法 プロポーザル方式

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改修概要

富山市立芝園小学校・中学校は、中心市街地の4小学校の統合である芝園小学校と、老朽化した校舎を改築した芝園中学校の施設一体型の小中学校として、平成20年4月に開校した。
建設にはPFI手法が導入され、価格より提案の内容重視で事業者選定が行われ、民間からの質の高い提案とワークショップによる児童生徒・教員・地元の意見を反映して計画が進められた。民間事業者が設計・施工・工事監理を行い、完成後は所有権を富山市に移行して、事業者が継続して維持管理及び運営を行うPFI(BTO)方式が取られた。
校舎は小学校棟・中学校棟に分かれ、その間にある共用棟と「みんなの広場」が2つの校舎をつなぐ。正門に入ると、半屋外空間の「パサージュ」が小学生と中学生の登下校の通り道になっている。
施設の主な特徴としては、児童・生徒の学びの段階に合わせた教室空間の工夫、小・中学校校舎をつなぐ共用棟の多機能な共用スペースとセキュリティを確保した地域交流の場、天然芝グラウンド(小学生)、屋上プール(屋根開閉式、昇降床)などが挙げられ、中学校体育館棟には制振構造、その他の棟には免震構造を採用し、震災時の防災拠点としても機能できるように整備された。
小学校の教室は廊下側に間仕切りのない、オープンスペースとつながる広々とした空間で、多様な学習形態に対応する教育環境となっている。中学校は校舎に入ると、大階段のある吹き抜けのアトリウムとなり、この空間を囲むようにオープンスペースや各教室が配置されている。ガラスが多いため教員と生徒の様子が互いによく見え、自然光を取り込み、明るく一体感のある空間となっている。
小中一体型の校舎の中で、日常的に児童・生徒と教員の交流を盛んに行うことで中1ギャップの解消をうながしている。ハードとしての建築とソフトとしての教育環境の運用が融合し、9年間の学びをつなぐ、小中一貫的連携教育が行われている。
 

事例ポイント1

ICTの利活用を促進する、オープンスペース型教室と家具の配置

小学校の普通教室は廊下側に間仕切りがない、オープンスペースとつながる広々とした空間を採用。広々とした教室で、授業の必要に応じたさまざまな家具を配置し、子どもたちが学習方法を主体的に選べる柔軟な教育環境を実現している。ひょうたん型テーブルは15年前の開校時から使用しており、その後、子どもたちが集まって学ぶための丸テーブルやホワイトボードを追加した。
 


水飲み場の裏側はベンチや収納棚になっている
普通教室の間にあるトイレの壁には、さまざまな掲示物が貼られ、明るい空間に。教室の壁には合板を使用することで、木の温もりを感じる柔らかい空間を創出している。
      

ICTを活用した「課題解決型学習」で、個別最適で協働的な学びを実現

芝園小学校では令和2年度より1人1台端末を導入し、「課題解決型学習(PBL)」を進めている。従来の学習は、学習方法や流れを教員が決めていたが、新しい学びでは、一人一人の課題や興味・関心に応じて、自分の調べたい方法で、自分のペースで、誰と共に考えるかを選んで学びを掴み取る、主体的な学習を促している。児童は、教科書、図書室、端末などから情報を収集、分析し、導き出した答えをまとめ、表現する。広々とした教室空間では、個別最適な学びと協働的な学びの両方が深められ、自由で活発な交流を促す教育環境が実現されている。

事例ポイント2

アトリウムを掴み、独自性のある教室配置

中学校校舎は、吹き抜けの大空間のアトリウムを囲み、各教室やオープンスペースが配置されている。1階には、事務室・保健室・校長室・職員室といった管理機能が集約され、向かい側には調理室がある。ガラス張りの調理室は、「食」への関心や感謝の心を育む食育に寄与する。
中学校の普通教室は、集中力を促すため、ガラスと木製建具で仕切られ、独立性が保たれている。廊下やオープンスペースには机や椅子、ホワイトボードや本棚などを配置し、教室空間を拡張して多様な学習形態に柔軟に対応している。

アトリウムを囲んで、普通教室や特別教室などを配置。どの場所からも自然光が入り込み、明るく、一体的に感じられる
アトリウムの大階段。休み時間の生徒の交流の場や、イベント時のホール、天気の悪い日には部活動の練習など、多様な活動を生む
ガラス張りの調理室、
この先、中学校の体育館棟に続く
教室前のオープンな
ワークスペース
アトリウムに面したカウンター

事例ポイント3


小学生と中学生の交流を深める、多目的な共用スペース

正門を入ると、小・中学生の登下校の道となる半屋外空間のパサージュとなり、天気の悪い日や夏の熱い日差しの中でも屋外で心地よく過ごすことができる遊び場にもなっている。その先には、小学校と中学校を柔らかくつなぐ接点として「みんなの広場」があり、芝園小・中学校のシンボルツリーとなる枝垂れ桜が広場の中心に据えられている。
小学校校舎には、地域に開放されたラウンジや階段状の多目的室である「表現の舞台」が配置され、小・中学校の校舎は共用棟により接続される。共用棟内部には、2階に図書室・メディアセンター、3階に音楽室、4階にランチルーム・ステージなどが配置されている。
また、ランチルームの先には小学校用プールがあり、床が昇降式のため学年の体格に合わせた使用や、冬のシーズンオフには床面をあげた上に人工芝を敷いて運動場として使用するなど、柔軟な空間活用の工夫が行われている。
 

パサージュ
       
図書館は、自由に読書ができる小上がりスペースや、読み聞かせコーナー、自習スペースなど、小・中学生の多様な使い方に対応する
図書館での中学生の自習の時間に小学生が参加するなど、共に学ぶ場になっている
共用棟4階のガラス屋根式屋上プール。夏は小学生用プールでシーズンオフには人工芝を敷いて多目的な運動スペース等に活用し、中学生の部活動にも使われる

「表現の舞台」。 主に小学生が使用。ゲストティーチャーによる授業、発表会の場として使われている。
      

9年間の学びをつなぐ、小中一貫的連携教育を推進

開校時には小・中学校教員による合同研修等を実施していたが、現在は教員の働き方改革という面も考慮され、研修時間を特別に設けていない。しかし、お互いの月の行事予定を共有しているので、教員が隙間時間を使って自由に行き来しながら授業を見学するなど、教員の負担とならずに日常的な交流で連携が取られている。
児童・生徒は生活空間を共にし、合同の挨拶運動や保健委員会の実施、中学生の朝の自習時間に小学生が参加すること、中学校教員が6年生の授業に関わるなど、連携した授業・活動の展開など、日常的な交流が行われている。そのため、小学校から中学校へ進学する際に、新たな環境の変化に対応できない「中1ギャップ」という状況が起こりにくく、小中学校が一体となり、9年間の連続的・継続性のある教育が行われている。      

検討プロセス

コンパクトなまちづくりの推進事業と、PFI手法による学校整備事業を同時に実施

小学校統合とPFI事業導入の背景

富山市は人口減少や少子高齢化の課題に対し、「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」の実現を目指し、中心市街地の活性化・居住誘導を推進している。
ドーナツ化現象で中心市街地の児童減少が進むなか、都心部の小学校7校を2校に統合する事業を進め、平成16年に統合を決定した。統合についての住民の合意形成は、10年間以上にわたり粘り強く話し合いを続け、PTAと東京都心等の先進的な学校視察を行うなど、校舎建設の具体的なイメージを共有し、意見を集約した。
「都心地区に居住誘導するためには、地元が要望する以上の質の高い学校をつくる」という市長の意向のもと、従来型公共事業ではなく、民間より質の高い提案を取り入れるため、当時、法律が施行されたばかりのPFI手法を導入する方針とした。

PFI事業における、独自提案による品質向上と中心市街地活性

芝園小学校・中学校の新校舎建設と、中心市街地の3小学校統合(中央小学校)の2つのPFI事業が同時期に開始され、学校跡地の活用についてもPPP(官民連携)手法により、都心地区の居住誘導につながる街づくりを行う計画とした。
富山市では初のPFI事業となり、新たに「統合校整備等推進室」を設置。事業者選定においては、従来の価格重視の選定方式から提案の内容重視の配点方法が取られ、市の提示した「要求水準書」の内容に加えた民間の創意工夫が発揮され、学校施設整備の品質向上を実現した。また、PFI事業におけるVFM※は32%となり、財政的な縮減を達成している。
(※)VFM Value For Moneyの略 PFI事業における最も重要な概念の一つで、支払い(Money)に対して最も価値の高いサービス(Value)を供給するという考え方のこと。従来の方式と比べてPFIの方が総事業費をどれだけ削減できるかを示す割合(内閣府 民間資金等活用事業推進室より)

中心市街地小学校跡地の活用事例

•清水町小学校跡地(中央小学校に統合)を活用し、PPP手法により公共施設(公民館・地区センター)と民間施設(スーパーマーケット・ドラッグストア)を一体的に整備し、地域拠点化
•総曲輪小学校跡地(芝園小学校に統合)は公有地有効活用と都市機能整備等の観点から、PPP手法により、公共施設(地域包括ケア拠点)と民間施設(専門学校施設等)を一体的に整備し、健康拠点化。民間施設利用者(平日は1800人以上)の回遊、交流事業の実施等による賑わいが創出されている。

      

      

中心市街地における小学校児童数の増加と、コンパクトなまちづくりの効果

富山市では、PPP・PFI手法を採用することで、民間の事業機会を創出し、経済の活性化、エリア全体の価値の向上を促進している。中心市街地の児童数は、平成19年から平成30年の間に181人(21.6%)増加し、富山市全体に占める中心市街地の児童の割合が1.35ポイント増加した。また、都心地区の人口は平成20年から転入超過を維持している。こうしたことから見えるように、学校整備事業は、中心市街地活性化の一環として「コンパクトなまちづくり」に寄与する要因の一つとなっている。
 

学校概要

※令和5年5月時点

学校名
富山市立芝園小学校・中学校
所在地
富山県富山市芝園町三丁目1-26
学校規模
小学校 23(4)学級、593人
中学校 15(5)学級、370人
※学級数のカッコ内は特別支援学級数を表す。
敷地面積
13(3)学級、428人 
※学級数のカッコ内は特別支援学級数を表す。
敷地面積
24,466.44㎡
構造
鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造、鉄骨鉄筋コンクリート造 地下 1 階、地上 4 階建
完成年
平成20年4月

主な改修内容

•パサージュ(半屋外空間)
•みんなの広場と時計塔
•免震構造(中学校体育館は制振構造)
•天然芝グラウンド(小学校)、人工芝テニスコート(中学校)
•屋根開閉式・床昇降式屋上プール
 
 

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