地域材をふんだんに使用した木に子どもたちが寄り添う学び舎

福岡小学校(岐阜県中津川市)

小学校4校の統合に伴い新しく整備された小学校の木造校舎。
地域材によって構成される2,730mmモジュールの空間や、工事期間中から実施された木育等、木に子どもたちが寄り添う工夫が様々な観点で施されている。
小学校 木材利用 プロポーザル方式 木材先行調達 木育

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事例概要

中津川市立福岡小学校は、人口減少に伴う小学校4校の統合校として、新しく整備された木造校舎である。
木造の大屋根がつくる大空間は、地域を象徴する4対8本の丸太柱と、120mm各の一般製材の柱を2,730mmの間隔で配置することで現れる小空間(2,730mmモジュール)で構成されている。
延べ面積2,000㎥以上の校舎は、「準耐火建築物」とする必要があり、施工には高い技術力が求められ、県内で施工可能が業者が限られていたが、木造の各棟をそれぞれ2,000㎥未満の「その他建築物」の別棟とし、市内企業が活躍できる大規模な木造校舎の計画とされている。
本校舎では、地域で伐採・製材される一般流通材を活用するために、在来軸組工法が採用されている。木材調達においては、森林組合等の関係者とも協力しながら「先行調達」のスキームを確立し、木材総使用量の96%を岐阜県産材、66%を中津川市産材とし、地域経済にも貢献している。
また、学校そのものが環境教育の場となることを理念に掲げ、木造校舎の特徴を生かした様々な教育が行われている。

事例ポイント1

2,730mmモジュールの小さな居場所が集まりながら空間を構成

本校舎は、この地域で製材される一般流通材をふんだんに活用するために、在来軸組工法が採用されている。木造の大屋根がつくる大空間は、地域を象徴する4対8本の丸太柱と、120mm角の一般製材の柱を2,730mmの間隔で配置することで現れる小空間(2,730mmモジュール)で構成されている。
2,730mmモジュールは単体では、子どもたちの「小さな居場所」となり、同時にモジュールが集合することで「大きな居場所」としても活用できるなど、多様な活動に合わせて利用可能な柔軟な空間となっている。
120mm角の柱を利用するため、床から2,400mmの高さに座屈防止の下弦材を設け、この下弦材にピクチャーレールや照明を設置し、機能的なワークスペースとなるような工夫もされている。教室間や天井の低い非居室上部に設備スペースを集約し、教室や共用部に天井を設けない計画とすることで、木架構を室内に現し、より木材を身近に感じることができる空間とされている。

2,730mmモジュールによって構成される空間
下弦材に設置されたピクチャーレールと照明
2,730mmモジュールによる小さな居場所と モジュールの集合によって構成される大きな居場所

事例ポイント2

「別棟解釈」を活用し、大規模な木造校舎を実現

延べ面積が2,000㎡以上の校舎は準耐火建築物とする必要があり、大断面集成材を多用した「燃えしろ設計」や「ハイブリット構造」は高い技術力を求められ、岐阜県内で施工可能な業者は限られていた。
そこで、「別棟解釈」の通達を活用し、鉄骨造の耐火建築物棟を挟み込み、木造建築物棟を2,000㎡未満ごとに区画し「その他建築物」とすることで、県内・市内企業でも活躍できる大規模な木造校舎を実現している。
また、意匠的な視点からは、防火壁から3.6mの範囲の壁と屋根を耐火構造とすることで、外観上「うだつ」をつくらない計画とされている。


「別棟解釈」を活用した木造校舎の平面構成
周辺の景色に呼応する「うだつ」のないシームレスな一枚の大屋根

事例ポイント3

地域循環を可能とした木材の「先行調達」スキーム

岐阜県の木材生産量は57.6万㎥(令和3年時点)であり、その中でもヒノキ材は全国2位の生産量である。中津川市は岐阜県下において有数のヒノキの産地となっており、「学校に地元の木材を使用したい」という市の想いを実現するため、木造校舎の建設が検討された。
これまで、住宅用の木材供給ルートは確立されていたが、大規模な非住宅施設への木材供給の実績が無かったことから、中津川市、設計事務所及び森林組合等の関係者が連携・協働することにより、円滑な木材調達が可能な体制が構築された。
地域材を使用した学校づくりには、大量の木材の確保が必要となり、原木の収集から製材までに多くの期間を要し、建設工事内で木材調達する通常の方式では工期に間に合わないことから、木材の「先行発注」が実施された。先行発注を実施するため、工事の木材加工(プレカット)時期から逆算して木材リストを作成し、大きく3回の木材のみの積算を行い調整が図られた。
こうした取組を通じて、地域の木材を地域の林業関係者で「伐って、使って、植えて、育てる」地域循環の建築づくりが構築された。

中津川市事業全体のスケジュール
構造材における産地別の木材使用量とその割合

事例ポイント4

学校づくりを通した木育

新しい学校への愛着を育むと同時に、「学校そのものを環境教育の場とすること」を理念に掲げ、以下のような取組が実践されている。
 ・校舎の工事期間中には、在校生及び地域住民を対象とした施工現場見学会の開催
 ・森林が担う役割や都市部での森林の役割を学ぶワークショップの開催
 ・柱の端材を使った校歌のレリーフやコースターづくりを実施
 ・地域から寄付された、現在はエントランスのシンボルとなっている8本の丸太柱の伐採・乾燥・加工される過程をまとめた動画による授業を実施
子どもたち自身の体験を通じ、様々な観点から「木」について学ぶ機会が提供されている。

工事期間中の見学会
東濃ヒノキの木育ワークショップ
端材を使用したコースターづくり
地域から寄付された4対8本の丸太の柱

学校概要

学校名
福岡小学校(岐阜県中津川市)
全体工期
令和3年9月~令和5年7月
学校規模
14学級、270人 ※令和6年5月時点
敷地面積
4,162.07㎡
延べ面積
6,034.87㎡
構造
<校舎棟>木造、S造 2階建 <屋内運動場棟>RC造(一部S造)2階建
設計
石本建築事務所
受賞歴
令和5年度木材利用優良施設コンクール 優良施設部門「文部科学大臣賞」
ウッドデザイン賞 2024
グッドデザイン賞 2024
第19回こども環境デザイン賞
令和6年度岐阜県木の国・山の国県産材利用促進表彰 優秀賞、他
断面図
 
構造材に加え家具や内装材にも地域材を活用した教室
学年がつながる教室前のワークスペース

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