デザインビルド方式で整備した、 メディアコモンズが核となる義務教育学校

嘉麻市立稲築東義務教育学校(福岡県嘉麻市)

市内3校区を同時に義務教育学校として再編し、老朽化対策と地域の核となる教育施設づくりを推進。嘉麻市立稲築東義務教育学校では、中心に「メディアコモンズ」を据えることで、多様な学びや異学年交流を生み出す空間構成を実現した。設計・施工においてはデザインビルド方式を採用したことで短期間での整備を可能にした。 
小中一貫教育・義務教育学校 図書館・図書スペース デザインビルド方式 内装木質化 地域連携・複合化 防災

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事例概要

福岡県嘉麻市は県の中心部にある山間地域。近年は人口減少が進む中で、地域の活性化と魅力向上を図り、新しい時代の教育に対応した地域と連携する学校づくりを進めた。市内3校区にある6つの小中学校を再編し、3校区それぞれで施設一体型の義務教育学校として同時に開校した。
その一つが、稲築東小学校と稲築東中学校を統合した「嘉麻市立稲築東義務教育学校」である。 整備には、設計と施工を一体で進めるデザインビルド方式を採用したことにより、基本計画策定から1年10ヶ月後に着工、3年2ヶ月で開校するスケジュールが実現した。設立にあたり、市教育委員会は地域の核として、子どもも大人もともに成長できる場を目指すコミュニティスクールの実現を掲げ、開校後も地域と協働しながらその取り組みを広げている。

本校の特徴は、学校の中心に「メディアコモンズ」を設け、全学年が自然と集まる共有空間としたことにある。学年を超えた出会いや活動が生まれ、学校全体に活気と一体感をもたらしている。また、学年は義務教育9年間を3段階に分ける4-3-2制とし、それに沿って教室配置が計画された。低学年(1-4 年生)の教室を1階に、中学年(5-7年)と高学年(8-9年)の教室を3階に配置し、2階には吹き抜けの図書室を中心とした特別教室群を配置、コミュニケーションコアを中心とした段階的な空間構成により、 多様な学びの場を創出している。 1階部分の吹き抜けは階段を利用した発表ステージとして、異学年の交流、学習成果の発表や教職員の研修など学校全体で共有される活動の場となっている。

事例ポイント1

本を中心にした活動拠点「メディアコモンズ」を学校中央に配置

メディアコモンズのメインエリアは学校の中心となる2階に設けられ、吹き抜け階段を取り込んだオープンな図書スペースを核にその周囲に理科室、音楽室、美術室等の特別教室を配置している。図書スペースを開かれたオープンスペースとすることで、教科ラウンジや特別教室へとゆるやかにつながる空間的な連続性が生まれている。 図書スペースの横には学習室を別途設け、静かに集中して取り組みたい際に利用できる場として活用されている。特別教室前のオープンスペースは教科ラウンジとして整備され、各教科に関連する書籍を置くことで、読書から得た気づきが議論へとつながり、特別教室での実践へと発展していく。さらに、1階の発表ステージはそれらの学びを共有する場となり、学校全体で学びを循環させる環境として計画されている。 

メディアコモンズ。
中央にはテーブルが配置され、1人の読書から数人の協働学習に利用できる。
本棚を利用してさまざまな居場所がつくられている。
子どもたちの居場所を確保しながら、死角を作らない工夫で安全性を確保している。
本棚の中にある、ガラス張りのおこもり空間。
段差の工夫で、動線と座って読書ができるスペースを分ける。
吹き抜けの安全柵のメッシュは
掲示物を飾るのに利用されている。
高低差のある本棚や様々なテーブルを組み合わせ
多様な居場所を創出している。
1階発表ステージ。学習成果発表や合唱練習などにも使われ、吹き抜けを囲む上階は異学年の子どもたちが見守る観客席となる。
昇降口から見た発表ステージ。
1階低学年教室側から見た発表ステージ・昇降口。
メディアコモンズを囲むように、配置された2階の特別教室。
壁面の戸棚をガラス窓とし
教室内から教室前の活動が外から見ることが出来る。
家庭科室の奥の食育ギャラリー。

 

事例ポイント2

学年ユニットによる学びの段階構成と、地域に開かれた動線計画

学年ごとのユニット構成による、柔軟で多様な学習空間

普通教室は学年ごとにまとまりをもったユニットとして構成し、広い廊下をオープンスペースとして活用することで、学年内での学びや活動が展開しやすい環境を形成している。教室とオープンスペースの間には可動式間仕切りを設け、学級単位での活動にも対応できるようにしているほか、オープンスペースの入り口にも扉を設置し、用途に応じて空間を使い分けられるようにしている。さらに、オープンスペース外には、学年区分をつなぐ低学年コモンズ・中学年コモンズ・高学年コモンズを配置し、複数学年による大人数での学習や交流にも対応できる。1階には職員室と低学年の教室、3階に中学年(5-7年生)と高学年(8-9年生)の教室を配置し、中1ギャップの解消を意図した学年区分が校舎内のレイアウトにも反映されている。

 
低学年の教室とオープンスペース。
学年集会や給食の配膳にも使われる。
低学年ユニット。
高学年ユニット。
高学年の教室前のロッカースペース。
高学年の教室の間にある少人数スペース。

コミュニティスクールとして学校を開く動線計画を整備

来校者用玄関から地域・PTA室へすぐにアクセスできる動線計画となっている。メディアコモンズのある2階は将来的な地域開放スペースとして位置付け、階段を上がると多目的室、地域の歴史を展示する「いなひがギャラリー」、サブアリーナへと続く廊下がある。避難所となるサブアリーナやバリアフリートイレも2階に集約し、地域利用や防災拠点としての役割にも配慮した構成としている。

児童・生徒の昇降口は
校務センター前の一箇所に集約されている。
校務センター(職員室)を昇降口前に配置。

児童・生徒の入り口は昇降口。
その他の赤いマークが地域利用も見据えて配置され、来校者入り口として利用可能な出入り口となっている。

校長室・職員室・事務室・保健室が連携できるよう管理諸室を一体化。
校務センターで全職員が一堂に会する。
バリアフリートイレを 2階に設置し
防災時の避難所利用にも対応。
男女のトイレは、将来のオールジェンダー対応への
段階的移行を想定し、中間の壁が取り外し可能。

サブアリーナ。災害時の避難所利用を想定し、空調を整備。
動線を分け、セキュリティを確保するための、可動式の境界壁。
地域の歴史を展示する「いなひがギャラリー」。

事例ポイント3

快適性と安全性を高める、内装木質化の取り組み

今回の整備では、コストを低減するために仕上げ材を極力使わず、校舎全体をコンクリートの躯体をそのまま見せる仕上げとした。その一方で、無機質になりがちな空間に快適性や温もりを与えるため、教室の天井を木質化し、素材の表情で柔らかさを添えている。
特に教室空間については、設計段階から設計者と施工者が協議を重ね、「LVLプレキャスト化粧型枠」を考案した。この工法により、コンクリートスラブの厚さを抑えながら変形抑制し、木質の意匠、施工性(コンクリートを打つ時に仮設する支保工間隔を広げる)、工期短縮とコスト削減を同時に実現し、合理性の高いクラスルームユニットが形成された。また、型枠をそのまま仕上げとすることで、仕上げ材の落下リスクを排除し、安全性向上にも寄与している。木に包まれたあたたかみのある学習空間を生み出すことにもつながった。


天井スラブ上に木毛セメント板を貼り、その上にLVLリブ材をルーバー状に設置。
構造・仕上・吸音性能を兼ね備えた、温かみのある教室空間を形成している。
さらに学年サインには嘉麻市産材とマグネットを組み合わせた仕組みを採用し、地域材を使いつつ、学年の更新時に付け替えやすいよう工夫されている。サインの製作は事業者提案によりワークショップ形式で行われた。開校前には中学生が参加し、開校後、上級生と新入生が異学年交流として協働で制作する異学年交流の取り組みへと広がっている。将来的には、進級時に生徒が自ら制作したパーツで数字を作り替え、持ち上がりで使用する仕組みも想定されている。

開校時には子どもたちと地域住民が一緒にサインを設置し、市産材と学校・地域をつなぐきっかけとなった。
耐震壁が学年サインを兼ねている。
トイレのサイン。
教室のサイン。
また、メディアコモンズの屋根は福岡県産材と鉄骨梁のハイブリッド構造とし、木の質感と構造的合理性を兼ね備えた。
鉄骨と組み合わせて木材を使用したことで温かみが感じられる天井
 

検討プロセス

義務教育学校整備に至るまでの背景

嘉麻市では、平成21年に市内全ての学校施設を対象とした「学校施設整備基本計画」を策定し、全施設を調査した。結果、築40年以上を経過する施設もあり、老朽化対策のため、大規模改修を中心とした整備方針が示された。
しかし、少子化への対応や地域コミュニティの維持という課題を踏まえ、「質の高い教育を実現する学校」と「地域創造の核となる学校」の2つの基本コンセプトを中心とした小中一体型校舎を整備することとなった。5校区のうち3校区を優先的に整備対象とし、小学校と中学校を小中一体型校舎とする基本計画が策定された。
さらに、令和2年には、これらの小中一体型校舎を、9年間の学びを連続的に支える「義務教育学校」として整備する方針が決定した。小・中学校が別組織のまま連携・調整を行う方式ではなく、「1人の校長」「一つの教員組織」のもとで運営することで、9年間を通じた教育課程の編成が可能になり、より系統的で一貫した教育の実現を目指したものである。

プロポーザルでの評価

本事業では、設計施工一括発注方式(デザインビルド)を採用した。設計と施工を同一事業者が担うことで、工期短縮が実現できたほか、発注者の事務負担の軽減を図りつつ、施工段階での工夫や設計者の創意工夫を計画に反映しやすい点が利点として挙げられる。特に本事業の場合、中学校グラウンドに校舎及びアリーナ(体育館)を新築することで仮設校舎を不要にした計画は、設計者からの提案により採用されたものである。

デザインビルド方式により実現したメリット

工期短縮と並行作業の実現

・契約(令和3年2月)から供用開始(令和5年4月)まで、わずか2年2か月で実施
・市内の3校を同時に整備するという条件下で工程を適切に管理
・設計を進めながら、既存建物の解体などを並行実施できたことが工期短縮につながった

施工上の工夫の取り込み

・施工者の早期参画により、LVL(単板積層材)化粧型枠の採用が実現
・コスト削減、品質の向上、施工性向上を同時に達成
・設計段階では想定しにくい施工性の工夫を設計に反映できた点もデザインビルド方式の成果である

デメリットと課題

一方で、一般的にデザインビルド方式では、発注者が作成する要求水準書に基づき、設計業務と施工を進めていくため、要求水準書の記載方法が難しい。要求水準書は、仕様規定ではなく、性能規定で記載されている項目が多いため、発注者と事業者間で要求水準書の解釈等が異なっている点があり、協議が難航する場面があった。
事業者と粘り強く協議を実施し、こうした課題を乗り越えつつ、デザインビルドの利点を最大限に活用することで、短工期・ローコスト・品質の確保を同時に実現する整備につながった。

3校同時整備を実現したコスト計画

稲築西義務教育学校、稲築東義務教育学校、碓井義務教育学校の整備費用については令和2年度から令和6年度までの5年間の継続費が設定され、財源内訳として公立学校施設費国庫負担金及び過疎対策事業債が充当された。

施設概要

施設名
嘉麻市立稲築東義務教育学校
所在地
福岡県嘉麻市平1536番地
学校規模
17学級462名(前期 306名、後期 156名)・特別支援学級6学級(令和7年度時点)
敷地面積
30,785.21㎡
構造
鉄筋コンクリート造(一部鉄骨造)・地上3階
完成年
2023年
設計者
株式会社久米設計 九州支社

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