事例概要
令和5年度に京都市立塔南高校を移転・再編するにあたり、文部科学省事業「新時代に対応した高等学校改革推進事業(普通科改革支援事業)」の採択を受け、新しい普通科系高校として、開建高校の開校が検討された。新設校舎の計画段階で、教育委員会や教職員が、未来の学校とは何かを積極的に検討し、育成したい人物像として、自らが主体的に考え探究し、また多様な他者と協働することで、未来社会を創造する人物を「協創者」と名付け、協創者の育成を目指して次の3つのポイントを掲げた。
1.問いから始まる学び
2.対話・協働の学び
3.個に応じた学び
これらの学びを実現する空間として、目的や場面に応じて、ホワイトボードの可動間仕切りで部屋を区切ることができる普通教室4つ分の大空間(L-pod)を設けた。 L-podにおいて、1授業80人に対して3名の教科担当がつき、可動式の机・椅子、ホワイトボード壁を活用して、対話・協働に重点を置いた探究型の授業を実施している。(ホームルームも80名の生徒に、3名の担任で実施)
● 目指す学校の姿は、当事者たちの対話の積み重ねでまとめられた。
京都市立開建高校は、設計者選定のプロポーザルにおいて、当初は従来型の施設の計画が選定されていた。しかし、学校と教育委員会は、未来の学校として従来型の施設でよいだろうか、実現したい教育とそれを実現する施設はどういうものなのかとの思いを抱き、設計者もそうした教育委員会、教職員の積極的な姿勢を受け止め、対話を重ね、現在のプランが実現している。
教職員や教育委員会だけでなく、前身の塔南高校の生徒も学校づくりに参画しており、開校の約1年半前に「未来の学校の姿を協創するKAIKEN PROJECT」により、生徒たちが校章のデザインと校歌の歌詞を作成した。また、旧校舎において、新校舎で導入されるL-podを想定した模擬授業を実施しており、学校施設を利用する当事者である教職員と生徒が体験することで、新校舎建設後のスムーズな移行に寄与している。
● 「共創者」の育成のための3つのポイント
京都市立開建高校では、生徒が自分で問いを立て、解決の方法を見いだす探究的な学びにより生徒の学びのモチベーションを高め、生徒の可能性や能力を引き出すとともに、伝統、文化、大学、ものづくり都市などの地域特性の強みを生かした、実社会での体験と実践に基づく学びの実現により、自らが主体的に考え探究し、多様な他者と協働することで、未来社会を創造する人物「協創者」を育成することを目標とした。
「協創者」の育成をめざして展開する学びは、他律的に知識を伝達される学びや、画一的な学びではなく、学ぶことを楽しみ、考えられることが広がる中で、より良い未来社会を創り出すことにつながる学びである、との考えのもと、「協創者」の育成をめざす次の3つのポイントを設定している。
1.問いから始まる学び
生徒の「なぜだろう?」「何だろう?」という素朴な疑問を「問い」として授業で取り上げ、思考する経験を繰り返し、深く、豊かな「考え方や学び方」の修得を目指す。
2.対話・協働の学び
意見交換に終始するのではなく、一人一人の価値観や有している知識・技術の違いを共有し、組み合わせ、新しい考え方や価値観の創造を生徒が楽しみ、対話・協働がもたらす世界の広がりを実感することを目指す。
3.個に応じた学び
一人一人が多様な他者との思考を楽しみ、互いの考えを尊重し、生徒それぞれが集団の中にありながら、自分に適した学び方で、自身で設定した目標の達成を目指す。
● 「協創者」の育成のための3つのポイントを実現する学習空間「ラーニングポッド(L-pod)」の配置
一方向・画一的な授業からの転換を図り、生徒が自発的に疑問を持ち、また、多様な仲間との対話・協働や、自ら学び方を考え、選ぶことができるよう工夫。生徒が自分で考え、楽しむ授業を展開できる学習空間として、普通教室4つ分の広さを有する「ラーニングポッド(L-pod)」を配置した。
L-podでは、可動式ホワイトボード壁を採用するとともに、移動が容易な机・椅子を配置することで、教室のレイアウトを自在に変更できるようになっている。また、室内の壁全体もホワイトボード仕様になっており、これまでの講義形式での授業から、協働学習、発表活動や個別学習など、様々な授業形態が可能となる。可動式であり、レイアウトの変更は生徒の手により可能なため、授業中のレイアウト変更や、生徒の自主的な活動において、活動内容に合わせた望ましい環境を容易に構築することができる。

L-podに隣接してホームベースを配置し、旧来の普通教室がもっていた学習空間と生活空間の2つの機能を分離(L-pod:学習空間、ホームベース:生活空間)させた。こうすることで、L-podの机・椅子が個人のものではなくなり、学習のツールとしての性格を強め、自由な学習空間の設計に寄与している。L-pod内のホワイトボード壁は、壁としてだけでなく、グループワークや発表時のツールとして使用することができる。発表時には、小型スピーカーと接続したワイヤレスマイク(ハンドマイク、ピンマイク)を使用するが、部屋のどこにいても明瞭に聞くことができるよう、天井の吸音等が工夫されている。L-pod以外のPCエリア、ラーニングコモンズ、自習室、調理室などでも同じ机、椅子を活用しており、生徒がどの部屋でも悩まずに扱うことができ、ある部屋で数が足りない場合にも容易に他の部屋から持ち込むことができる。
●ホワイトボード壁、可動式家具を活用したL-podでの授業展開
①フルオープン状態での活用
1授業80人に対して3名の教科担当がつき、対話・協働に重点を置いた探究型の授業を実施している。1つのテーマに対して少人数のグループで考えたことを発表する場面では、フルオープンの形態で机は使わず可動式の椅子のみを利用。ホワイトボード壁をスクリーンとして、大型プロジェクターから映像を投影することも可能であり、机を折りたたんで教室周囲に格納し、椅子だけを持ち寄って投影画面の周囲に集まることで、80名の大人数であっても、映像から遠すぎる状況を回避することができる。なお、映像資料の視聴だけでなく、web会議を用いた講義・対話に用いることもできる。

左下の図は、フルオープンの形態での空間活用として、L-podの3/4の空間を活用した授業展開の形態。この場合は20名程度のグループワークを行い、教員1名がファシリテーターとして入るなどして授業が行われる。グループごとの十分な広さに加えて、グループ間の距離もあり、生徒はグループでの授業に集中するとともに、壁がないことで、教員が各グループの様子を容易に見ることができ、また、グループワーク中のメンバー入れ替えや、グループ間での成果発表、交流なども容易に行うことができる。

②空間を2分割した状態での活用
左の図は、L-podをホワイトボード壁によって2分割したもの。フロアには3つのL-podがあり、すべてこの形態とすると1フロアに6つのスペースができる。開建高校では、1年次の研修旅行が5つのコース(海外コースも含む)に分かれており、こうしたコース別の活動が行われる場合に活用される。

③空間を3分割または4分割した状態での活用
左の図は、L-podをホワイトボード壁によって4つに分割、右の図は3つに分割したもの。分割後の各室で異なる授業を展開することができる。左の図は80名の生徒をほぼ均等に3分割した状態であり、教科担当3名で同一の授業を行う際に、習熟度やアプローチ方法等で別種類の講座を開く場合などに活用されている。開建高校では、生徒自身が自らの学び方を考えて選択した講座を受ける授業もあり、その場合は講座によって人数に偏りが生じる場合があるが、こうした場合に右の図のように分割することで、人数が多い講座も設けることが可能となる。L-pod内には電子黒板が3台と大型プロジェクターが1台あり、それぞれの空間で活用できるように配置しており、それぞれの空間で資料投影をすることが可能である。

④セミオープン状態での活用
左の図は、ホワイトボード壁を隙間を開けて配置することにより、空間をセミオープン状態にしたもこの。この状態であると、生徒は仕切りによって大まかに区切られつつ、集団間を容易に移動することができる。図では、計8枚のホワイトボード壁を活用しているが、枚数や配置は、授業展開や生徒の状況に応じて変更が可能となっている。例えば、ジグソー学習において、3つのグループが異なる内容を深め、それぞれが学んだことを別のグループの生徒に発表する場合に用いたりするなど、グループ別学習や発表時に活用されている。(※ジグソー学習:グループ分けし、ある課題に関して、共通する内容を調べる学習を実施した後、そのグループを解散し、調査内容が異なる人たちとグループを再編成。前のグループで調べた内容を新グループ内で発表したり、再編成後のグループで課題に関する発表を行う学習方法。)
