長寿命化・機能改善・防災機能強化の 3つを軸とした長寿命化改修

富士吉田市立明見中学校(山梨県富士吉田市)

築52年を超える既存校舎の構造躯体を活かし、建て替えではなく改修を選択することで、長寿命化・機能改善・防災機能強化の3つを軸に、次の世代へ引き継ぐ学校環境を再生した。
教室拡張や学校図書館のメディアセンター化による学びの刷新に加え、校舎をゆるやかにつなぐ動線計画を通じて、教育と地域を支える学校づくりを実現している。
中学校 長寿命化改修 防災 増築 図書館・図書スペース

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事例概要

富士吉田市立明見中学校は、校舎の最も古い部分が築52年を超え、老朽化が進んでいたため、令和5年12月から令和7年12月までの約2年間にわたり、長寿命化改修工事が実施された。本事業は、「校舎の長寿命化」「機能改善」「防災機能強化」の3つの柱を基本方針として進められた。
耐久性の高い内外装材の採用や設備一新による建物の長寿命化と併せて、スロープやエレベーター設置によるバリアフリー化、教室拡張や学校図書館のメディアセンター化といった機能改善を図った。さらに、地域の避難所としての役割を果たすため、体育館空調の整備や非常用発電機の設置など、防災機能の強化にも取り組んでいる。

建て替えではなく改修が選択されたのは、事前に実施された耐力度調査により既存躯体の健全性を診断した結果、既存躯体の再利用が可能と確認されたためであった。また、改修であれば建て替えとは異なり、解体工事から着手する必要がないため比較的短期間で工事を完了できるという工期短縮の利点とともに、新築に比べて工事費を抑えた整備ができると判断した。また、設計者選定に先立ち実施された生徒・教員へのアンケートで「今の校舎を残してほしい」という意見が寄せられたことも改修に決定した理由の一つであった。
既存校舎は、管理・教室棟と特別教室棟が折れ曲がるようなL字の配置であった。その対面には体育館が位置し、今回の改修で、中央に円弧を描く回廊状の動線が新たに加えられた。校舎をゆるやかにつなぐ動線の先には富士山の姿が立ち上がり、この地域ならではの風景が描かれている。
 

改修前後の比較

 
改修前図面
改修後図面

事例ポイント1

耐久性と環境性能の向上により、校舎を長寿命化

築年数を重ねた校舎を、老朽化対策に留まることなく、今後30年以上の使用を見据え、性能を新築同等水準まで引き上げることを目的に、長寿命化改修が行われた。

・建物躯体の性能向上と省エネルギー化

屋根・外壁の断熱性能向上やLED照明採用による省エネルギー化に加え、IPH工法(内圧充填接合補強)により、コンクリートのクラック(ひび割れ部)に樹脂を充填させ、躯体の耐久性を向上させる施工がされた。さらに、外壁の一部にガルバリウム鋼板を被覆することで、紫外線や雨風への耐候性を高めた。



改修後 内部躯体の様子
サッシを断熱性の高いものへ更新
外壁や屋根の一部をガルバリウム鋼板で被覆

躯体の耐久性向上を目的に、IPH工法(内圧充填接合補強)を採用。クラックへの樹脂注入によりコンクリートの耐久性を回復させるとともに、表面にアルカリ付与・中性化抑制材を吹き付け、再劣化を抑制している。

IPH工法でクラックに樹脂を注入し耐久性を回復
注入後にアルカリ付与・中性化抑制材を吹付けた
さらに、断熱材と合板を一体化させたパネルを外壁に施工し、建物の断熱性を強化した。窓はペアガラス(Low-E複層強化ガラス)に交換されている。さらに、高効率エアコンや、熱交換型換気システムの省エネ機器を導入することで、エネルギー消費の削減を図っている。

・タイルの再利用

設計段階で実施した中学2年生を対象としたワークショップでは、「学校のシンボルカラーである赤褐色のタイルを残してほしい」という声が寄せられた。そこで、既存外壁タイルを可能な限り活用する方針とし、既存タイルにはピンニング工法による補強を実施した。劣化のある箇所については新しいタイルへと張り替え、校舎の印象はそのままに、既存と新設のタイルが調和する外壁に改修している。

事例ポイント2

「新しい時代の学び」に対応する学習環境の機能改善

本改修では、内装をすべて撤去し、躯体のみを残すスケルトン改修を実施。内装・設備を一新し、天井にはシナ合板の有孔板を採用するなど、新築同様の学習空間として再生整備した。

・学校図書館のメディアセンター化

改修前は校舎2階端部にあった学校図書館を、校舎1階へ移設。管理棟と体育館の間に配置されていた倉庫、木工室、準備室、金工室を再構成し、増築によって空間をつなぐことで、学校図書館を核としたメディアセンターとして一体的に整備した。調べ学習やグループワーク、発表など、多様な学び方に対応できる学習拠点が校舎の中心に生まれている。学校図書館の面積は、改修前の111㎡から445㎡へと大きく拡張され、閲覧コーナーや多目的スペースが連続する、開放的な学習空間となった。

改修前図面
改修後図面
学校図書館の先に、多目的スペースがつながる
天井のスケルトンを隠すように木製ルーバーを配置。
設備を内包しながら、温もりある学習空間を作り出している
天井はスケルトンとし、配管を現しながらライン照明を組み合わせることで、配管と照明が一体となったデザイン

・教室の拡張

校舎内部の主要な改修として、学習環境の向上と柔軟性を高めるため、既存の3教室の間仕切り壁を撤去し、新たに2つの広々とした教室へと統合した。これにより、普通教室の面積は、従来の約1.5倍に拡大している。

改修前の教室
改修後の教室。
背面に可動式パーテーションを設け、
廊下と教室が一体となった多目的スペースとして利用できる
昇降口横のコミュニケーションラウンジ
扉を開けると保健室とつながり、一体的に利用できる

事例ポイント3

地域防災拠点としての役割を見据えた、防災機能の強化

本改修では、学校施設の日常利用に加え、災害時に地域の防災拠点として機能することを重点ポイントの一つに位置づけ、設備・空間の両面から防災機能の強化が図られている。多目的スペース・体育館は避難所として利用されることを想定し、非常用電源として発電機及び蓄電池を設置し、専用の非常用コンセントの整備を行った。これにより、停電時においてもメディアセンターや保健室などの必要な場所で電力を確保できる計画としている。

・避難所機能の強化として、体育館を改修

体育館は、学校行事や日常的な活動の場としての機能に加え、災害時には地域住民の避難場所となることを想定し、設備等の更新が行われた。改修前には設けられていなかったステージを新たに整備し、ステージ下は椅子などを収納できるスペースとして活用。壁面には吸音効果を高めるため有孔ボードを広範囲に採用し、あわせて内装の塗装を全面的に更新することで、明るく機能的な空間へと再生している。防災機能強化の一環として、停電時においても稼働可能なガス式空調設備(バッテリー併用)を体育館に導入。これにより、災害時も一定の室内環境を確保することができる。

改修前の体育館

改修後の体育館。
ステージを新たに作り、その下に収納スペースを整備
体育館内の備蓄倉庫。
体育館には複数の部室が併設されカラフルな扉が空間を彩る
災害時の炊き出しを想定し、
備蓄倉庫には白米などの非常食を保管

・校舎全体のバリアフリー化とアクセシビリティの向上

スロープやエレベーターを新設し、誰もが安全に利用できるユニバーサルデザインを導入している。建設時期の違いから生じていた校舎の床の段差については、既存の急なスロープを撤去し、勾配を12分の1に近づけた緩やかなスロープに改修することで解消された。さらに、教室と一体利用される廊下部分は、教室の床材に合わせてフローリングを延長し、段差のないフラットで連続的な空間を創出している。新たに定員11人のエレベーターも設置し、車椅子利用者の移動や給食運搬などに利用されている。

改修前 昇降口

改修後 昇降口。
段差を解消し、フラットに校舎内へとつながる動線を確保
下駄箱をロッカータイプからCLTを使用した木製什器へ変更し、温もりのある印象を与えている
避難所利用を想定し、体育館に整備された多機能トイレ
正門すぐ左の体育館。
体育館前には庇やスロープを新設し、
正門から段差なくアクセスできる動線を確保
体育館とメディアセンターをつなぐ空間
校舎群をゆるやかに囲うように配置された回廊。
各棟をフラットな動線で結び、教室棟、体育館、メディアセンター等を一体的に繋いでいる

検討プロセス

改修にあたって、初めに耐力度調査を実施し、既存躯体の健全性を確認した上で改修方針を策定した。施工計画においては、当初、生徒が在校したまま工事を進める「居ながら改修」も検討されていたが、グラウンドに仮設校舎を建設する方式へと変更された。これは、「居ながら改修」の場合に想定された工事エリア分割による工期の長期化、騒音・振動による教育環境への影響を踏まえ、総工事費、工期、生徒への影響を総合的に判断した結果である。

また、設計者選定に際しては、仕様書に生徒参加の仕組みを盛り込み、設計プロポーザルで提出された技術提案書を校内に掲示して、生徒による投票を行うなど、設計者選定の段階から生徒が関わるプロセスを導入した。さらに、設計期間中には在校生を対象としたワークショップを2回にわたって実施し、そこで寄せられた意見が校舎のデザインに反映されている。学校図書館を核とした広いメディアセンターを学校の「軸」として位置づけるなど、校舎全体の構成を組み替えながら、校舎全体を学びの場としてつなぐ一体的な学習環境を整備した。

・生徒が参加する学校づくり

設計業者選定への参与

設計業者の選定にあたっては、プロポーザル方式を採用し、生徒による投票結果(配点1%)を評価項目に採用している。自分たちが日々過ごす学校を「自分たちで選ぶ」というプロセスを取り入れた。

ワークショップの実施

設計段階では、中学2年生を対象としたワークショップを2回実施した。
第1回:プロポーザル案に対する意見出し(ポストイットを用いた発表形式)。
第2回:生徒の意見を反映した図面に対するフィードバック。
これらを通じて寄せられた「エレベーターを設置してほしい」、「学校のシンボルである赤褐色の外壁タイルを残してほしい」といった声は、実際の設計に反映され、生徒の視点や愛着が空間づくりに活かされている。
 

施設概要

学校名
富士吉田市立明見中学校
所在地
山梨県富士吉田市小明見1丁目4番14号
学校規模
生徒数 181人、学級数 9学級(令和7年5月1日現在)
普通学級6学級、特別支援学級3学級
延床面積
8,696㎡
敷地面積
25,049㎡
構造
鉄筋コンクリート造、鉄骨造
完成年
2026年
設計者
(株)青木茂建築工房
監理者
(株)青木茂建築工房
施工者
【建築】川上建設・加々見工務店・富士ハウス工業JV
【電気】芙蓉実業・萱沼電気設備JV
【機械】一水工業・スマイル設備JV
【仮設】大和リース

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