戻る

II   女性研究者への支援について

  本懇談会では、「1  基本的な考え方」で述べた基本的なコンセプトに基づき、まず、これまで女性の参画が少なかった分野の一つとして、大学・研究所等における教育研究を取り上げ、女性研究者が個性や能力を発揮し、わが国の教育研究活動の水準の向上に資するためにはどのような支援方策が考えられるかについて検討した。
  このような、女性研究者が多様な価値観や発想を生かして能力を発揮できる教育研究機関は、男性にとっても望ましいものであると考えられる。
  なお、ここでは、主として大学等(国公私立大学、大学共同利用機関等、施設等機関、独立行政法人、特殊法人等文部科学省の所掌に係る教育研究機関。以下同じ。) における女性研究者(専ら教育・研究に従事する女性。以下同じ。) に対する具体的な支援方策を提言することとした。

1. 女性研究者等の現状(平成14年度)
(1) わが国の女性研究者等の現状
(教員)
  教員に占める女性の割合は、小学校(62.5%)、中学校(40.6%)、高等学校(26.1%)、大学(短期大学を除く。以下同じ。) (14.1%)の順で少なくなっている。
  大学についてみると、女性教員(助手、講師、助教授、教授、副学長、学長。以下同じ)の割合は14.1%で、公立(21.1%)、私立(17.5%)、国立(9.9%)の順で少なくなっており、また、助手(21.7%)、講師(21.0%)、助教授(14.4%)、教授(8.8%)、学長(8.2%)の順で、女性の占める割合が低くなっている。分野別に見ると、人文・社会科学系よりも自然科学系の割合が低くなっている(人社:人文21.6%、社会11.7%等、自然:理学7.6%、工学3.7%等)。(平成14年度学校基本調査報告書(文部科学省))※3

(学生)
  学部及び大学院への進学率は、男女ともに5年前に比して増加しており(学部は男性3.6%増、女性7.8%増、大学院は男性2.9%増、女性1.6%増)※4、在籍者数に占める女子学生の割合は学部38.9%、大学院修士課程28.1%、大学院博士課程27.9%となっている 。※5
  専攻分野別に女子学生の割合をみると、学部(人社:人文67.4%、社会29.8%等、自然:理学25.7%、工学10.5%等)、大学院修士課程(人社:人文54.5%、社会32.6%等、自然:理学21.6%、工学9.2%等)、大学院博士課程(人社:人文50.9%、社会31.2%等、自然:理学16.9%、工学10.6%等)のいずれの場合も、教員と同様に、人文・社会科学系よりも自然科学系の割合が低くなっている。
  このように、女子学生の進学率は向上しているものの、大学学部、修士課程、博士課程となるにしたがってその割合が減っていく傾向があり、自然科学系の多くの分野では依然として女子学生の割合が低い。

(教員の採用等)
  教員に占める女性の割合は、人文・社会科学系(人文21.6%、社会11.7%等)及び自然科学系(理学7.6%、工学3.7%等)の両分野ともに、大学院博士課程の女子学生の割合に比べて低くなっている。
  また、人文・社会科学系、自然科学系ともに、助手等に採用された後講師や助教授等への昇進があまり進んでいない。

(2) 諸外国との比較
  高等教育機関(国公私立の大学及び短期大学)に占める女性教員の割合は、アメリカ37.2%、イギリス32.7%、ドイツ24.8%、日本16.2%となっている(1999年)※6。(「教育指標の国際比較(平成15年版)」 (文部科学省))
  主要国における学位取得者(大学学部及び大学院)に占める女子学生の割合を専攻分野別にみると、社会科学分野では、フランス59%、イギリス55%、アメリカ53%、ドイツ43%、韓国40%、日本26%となっている。生命科学・自然科学・農学分野では、イギリス52%、アメリカ51%、フランス49%、韓国42%となっており、日本はドイツと同率の38%となっている。また、工学分野ではフランス24%、韓国23%、アメリカ21%、ドイツ・イギリス20%、日本9%となっている。なお、人文科学分野における学位取得者(大学学部・大学院)の女子学生の割合は、6カ国とも70%前後の割合で推移している。(2000年)※7

2. 女性研究者支援の基本的な視点
(1) 男女ともに公平で公正な人事管理システムの実現
1 大学等においては、女性研究者の数が少なく、意思決定の場などに参画する機会も少ない。
  女性研究者であることを理由に採用、処遇、業績評価、研修機会等の面で不公平な取り扱いがなされるといった声があったり、出産・育児期間中の研究継続が困難であるといった問題も指摘されており、優秀な女子学生が最初からこのような障壁を見越して研究者への道を回避する傾向も考えられる。
2 研究者の世界は能力主義が前提であり、他の分野に比べ、男性、女性に関わらず研究業績に基づいて客観的に評価される傾向にあるにもかかわらず、このような不公平感が存在する理由の一つとして、男女の固定的役割分担意識が大学等の組織や運用の面で存在していることが考えられる。
3 大学等の女性研究者が個性や能力を十分発揮して活躍するためには、男性の意識を改革し、男性であろうと女性であろうと、公平で公正な評価基準に基づき適正な処遇がなされるシステムを確立するとともに、女性研究者が自ら教育研究能力を研鑚し、高度な研究分野にも意欲的にチャレンジし、大学等の意思決定の場にも積極的に参画していくという自覚を高めることが肝要である。

<検討課題>
大学等における組織的な男女共同参画推進への取組み体制の整備
人事選考における透明で公正な評価システムの確立

(2) 知的創造立国の担い手としての女性研究者数の増加
1 知的創造立国を目指すわが国にとっては、世界のあらゆる知の分野で活躍し得る創造性に富んだ人材を育成し、独創的、先駆的な学術研究や科学技術を世界に発信していくことが必要である。
  少子高齢化社会を迎え、学術研究、科学技術の担い手となる人材の養成・確保は喫緊の課題であり、女性研究者の活躍の場を広げることが重要である。
2 科学研究費補助金の採択状況等を見ても、女性研究者の採択率は男性研究者とほぼ同じであり※8、女性研究者の数を増やすことにより、研究活動全体が活性化するとともに、女性研究者の多様な価値観や発想による研究の質的変化が期待できる。
3 大学等における女性研究者の数を増やすためには、積極的に女性研究者を採用し活躍の場を広げていくだけでなく、女子学生が、最初から研究者への道を回避することなく夢と自信を持って研究者としての進路を選択できるよう、早い段階からのキャリア形成を支援することが不可欠である。また、女性研究者自身が後輩たちの良きロールモデルとして実績を示すことにより、これまで女子が少なかった大学学部や大学院等へ、夢と希望を持って進学できるようにすることが必要である。
4 特に、学校で女性教員が生き生きと活躍する姿は、女子生徒のみならず男子生徒にとっても、最も身近なロールモデルとなることから、教員自らが資質向上に努め、充実した指導により、子どもたちの様々な分野への興味・関心を培うとともに、管理職にも積極的にチャレンジすることが重要である。

<検討課題>
大学等における女性研究者の採用の拡大
一人一人の個性や能力・適性、興味・関心を大切にする教育の充実
早い段階からのキャリア形成の支援
初等中等教育と高等教育との連携  
教員のキャリアアップ
女性研究者のロールモデルの提供

(3) 大学等の「経営戦略」としての組織的な取組みの推進
1 今日、産業界では、新しい潜在市場を開発するための研究開発を行う場合、従来の開発手法では十分対応できないことから、考え方のフレームや方法論、求められる能力が大きく変わってきており、女性研究者へのニーズや期待が高まっている。
2 大学等においても、活力に富み国際競争力のある組織を作るためには、大学等が独自の理念や目標を明確にし、その実現を目指して教育研究を多様に展開し、個性豊かな組織として発展していくことが必要である。性別、年齢、国籍などの多様な背景を持つ研究者を受け入れ、多様な価値観や発想を取り入れることにより、教育研究活動が活性化したり、社会のニーズを敏感に読み取って柔軟に対応するなど、より高度な教育研究へのインセンティブを与えることが可能になる。
3 研究者のキャリアについても、大学・大学院を経て直接研究の道に入るといった単線型だけでなく、途中で一時中断した後、研究を再スタートする場合、企業や行政、地域社会等の多様な分野での経験を生かして教育研究に従事する場合、あるいは大学等での研究成果を地域社会等に還元する場合など、多様な背景を持つ者が大学等を拠点に活動したり、異なる機関の間を自由に移動することによって、教育研究機能の質的向上や地域コミュニティーの活性化につながり、研究者の能力発揮の機会も広がる※9
4 また、近年、女性研究者の進出により新しい研究分野が生まれたり、斬新な視点に立った研究が行われる※10ようになってきており、多くの優れた学生や研究者を獲得・育成し、独創的な学術研究や科学技術を世界に発信していくための大学等の「経営戦略」として、女性研究者の量的拡大方策を位置付けることにより、多様性のある個性豊かな教育研究共同体作りを目指すことが必要である。

<検討課題>
組織としての総合的目標や具体的計画の策定及び進捗状況のフォローアップ
柔軟で多様な人事システムの構築
大学等の意思決定の場への女性研究者の参画促進

(4) 女子学生、女性研究者にとって魅力のある環境作り
1 近年、経済成長が停滞し、少子高齢化、国際化、高度情報化が進展し、長期雇用、年功序列、長時間労働等を背景とした画一的な仕事スタイルは機能しなくなってきており、急激な変化に対応できる、柔軟な思考や創造性のある人材が求められている。
  これまでわが国の社会において形成されてきた同質的な価値観や発想といった基準から脱却するためには、多様な背景を持つ人材が個性や能力を十分発揮する環境作りが必要であり、そのためには多様な働き方の選択肢を提供することが不可欠である。
  個人の自由・責任・選択で自分の時間をデザインするという視点で、一人一人の個性や能力、価値観に合ったキャリアを設計し、働き方も学習も自分で選択できるようにすることにより、組織としても「質」と「量」の両面で人材の確保につながる。
2 大学等においても、多様な人材の個性や能力を活かす観点から、多様な勤務形態を導入したり、勤務時間管理の在り方を弾力化するなどの工夫をすることにより、女性研究者はもちろん、男性研究者にとっても働き方の選択肢が増え、優秀な人材を惹きつけることが期待できる。
  また、研究者のキャリアには、一度離職したり、他の分野においてキャリアを積んでから再び参加する場合や、企業等大学以外の社会におけるキャリアを積んでから大学の教育研究に参加する場合など、個人により様々である。このような多様なキャリアの形成は、研究者本人にとって、生涯の様々なステージの中で、自分の専門知識・技術だけでなく、意思決定能力、対人能力なども含めた総合的な能力を向上させる上で有意義である。
3 大学等の施設は、教育研究のための機能面を重視するだけでなく、学生や研究者等が多くの時間を過ごす場として、精神的にも肉体的にも快適な環境を整備することが求められ、これにより、優秀な人材を確保したり、研究者としての潜在的能力を引き出すことができ、教育研究の質的向上にもつながることが期待できる。

<検討課題>
多様な勤務形態の導入や勤務時間管理の弾力化
任期制の導入や公募の実施・定着による研究者の流動性の向上
保育施設の設置などに女性の視点を入れた施設設計
研究費の弾力的な運用

3. 女性研究者支援のための方策
(1) 基本的な考え方
  「知」の時代である21世紀のわが国の基盤を支える上で、大学等の使命や機能に対する期待が高まってきており、各大学等が自主性、自律性に基づきこれまで以上に創意工夫を重ねながら、教育研究の高度化、個性豊かな大学作り、大学運営の活性化などを推進することにより、活力に富み、国際競争力のある教育研究共同体を目指すことが求められている。
  大学等の独自の目標や理念の実現を目指して、教育研究を多様に展開し、個性豊かな組織として発展していくための経営戦略の一つとして、女性研究者を多数受け入れ、多様な発想・価値を活かすことにより、教育研究活動の活性化やより高度な教育研究へのインセンティブを与えることが考えられる。
  その場合、学長等のリーダーシップの下、大学等自らが経営戦略として女性研究者への支援を位置付け、中・長期の観点に立ったダイナミックで機動的な意思決定が可能となるような仕組み作りに取組むとともに、人事や環境整備等の面においても各機関の独自の工夫や方針を活かした柔軟で多様な支援を行っていくことが重要である。
  国は、こうした大学等の自主的、自律的な取組みを十分尊重しながら、大学等における男女共同参画の視点に立った取組みが一層促進されるよう、条件整備を進めていくことが必要である。
  このような考え方に基づき、本懇談会では「2.女性研究者支援の基本的な視点」で掲げた課題を踏まえて検討を行い、以下のような具体的支援方策を提言として取りまとめた。
  人文・社会科学系、自然科学系で女子学生や女性教員の割合に差は見られるものの、研究者としてのキャリアの継続や人事面などにおける諸問題は共通する部分が多いことから、特に人文・社会科学系、自然科学系に分けずに提言することとした。
  大学等や国において女性研究者への支援を考える場合に、これらの提言が指針として有効に機能するとともに、女性研究者や研究者を目指す女子学生が積極的に自らの可能性を切り拓いていくことを期待したい。

(2) 具体的な方策(提言)
1 男女共同参画推進に向けた組織的な取組み体制の整備
(男女共同参画推進組織の整備等)
  大学等における男女共同参画を推進するためには、学長、部局長等のリーダーシップの下、男女共同参画推進委員会などを設置し、組織的に取組むための体制を整備することが重要である。
  このような委員会において、女性研究者の実態の把握、男女共同参画推進のための中・長期的な目標の設定、具体的な行動計画の策定等を行うとともに、大学等の構成員に対し男女共同参画についての理解を深めるための啓発活動を行ったり、女性研究者の優れた業績を積極的に顕彰することにより、大学等における女性研究者支援の気運を醸成することが考えられる。
  また、大学等においては、男女共同参画に関する窓口を設置し、教職員からの様々な意見や疑問等を広く聴取し、男女共同参画の取組みに生かしていくことも必要である。
  さらに、男女共同参画を着実に推進するためには、男女共同参画への取組み状況について、組織として継続的にフォローアップを行い、教職員や学生に情報提供するとともにホームページに掲載するなど、内外に積極的に公表することも考えられる。

(女性研究者の割合の数値目標)
  諸外国では、研究分野における男女共同参画の観点から、数が少ないほうの性の割合を目標値として設定し、雇用の促進に取組んでいる例が見られる 。※11
  我が国では、国立大学協会が「男女共同参画に関するワーキンググループ」を設置し、平成12年5月に報告書をとりまとめており、その中で、2010年までに国立大学の女性教員(講師、助教授、教授、副学長、学長)の割合を20%に引き上げることを達成目標とし、継続的なフォローアップを実施している 。※12

  こうした国立大学協会の動向を受けて、東北大学、金沢大学、名古屋大学などで、学長のリーダーシップの下、女性教員の割合の向上についての取組みが進められている※13
  女性研究者の割合については、組織ごとに目標や理念、女性研究者の実態、大学院の女子学生の割合等が異なることから、それらを踏まえて各大学等が自主的に数値目標を設定し、計画的に割合を増加させていくことが基本であるが、研究者の養成課程でもある大学院博士課程の学生に占める女子学生の割合が約28%(平成14年度)であることから、本懇談会としては、大学等において新規に研究者を採用する場合には、候補者の間で能力や業績評価の面で差がなければ女性を採用するというぐらいの意気込みを持って、少なくとも30%程度は女性を採用することを目標にしてもらいたいと考える。
  また、女性研究者を採用する場合、他大学や企業、海外にも広く目を向けることが大切である。

(女性事務職員等への支援)
  大学等の運営においては、研究者と事務職員等は「車の両輪」であり、女性研究者支援とともに、女性事務職員等についても、採用・登用を拡大するとともに、ジョブ・ローテーション※14や研修等により資質の向上を図り、大学等の運営への積極的な参画を推進することが必要である。
  なお、文部科学省においては、平成14年1月に「文部科学省  女性職員の採用・登用拡大計画」を策定し、平成17年度に向けて国立大学等の採用者に占める女性の割合、及び昇任・昇格者に占める女性の割合を平成13年度と比較して2割程度以上増加させることを目標として定めるとともに、勤務環境の整備にも努めていくこととしている※15
  本懇談会としては、各国立大学において、引き続き目標の達成に向けた積極的な取組みを行うとともに、公私立大学や研究所等においても積極的に女性職員の採用・登用の拡大を図ってもらいたいと考える。

(大学等における評価への反映)
  こうした大学等の取組みの内容については、組織全体または単位組織が行う自己評価や外部評価における評価項目に組み入れることなどにより、その評価結果等を踏まえて大学等が自主的に改善に取組むことが望ましい。

2 人事システムの工夫・改善
(採用、処遇、業績評価における透明かつ公正なシステムの導入)
  大学等においては、公募を積極的に実施し、研究者の選考等の過程の客観性や透明性を高めることが必要である。
  また、採用、処遇、業績評価が公正で公平な評価基準に基づき客観的に行われるシステムを構築するとともに、選考基準・結果を公開し、透明性、公正性の向上を図ることが求められる。

(研究者の多様性・流動性の拡大と再雇用への支援)
  出産・育児等で研究を中断した場合や、研究以外の分野でキャリアを積んだ場合など多様な背景を持つ研究者の受入れを拡大したり、他大学や民間企業等との人事交流を促進するため、大学等においては、任期制を積極的に導入するなど、研究者の流動性を高めることが必要である※16
  また、諸外国では、男性、女性に関わらず、育児や家事などで一度研究を中断した研究者の復帰を助けるための基金を設け、新しい知識や専門的な技術を身につけて復帰するための支援を行っている例が見られる※17
  国や大学等においては、例えば研究を中断して復帰する場合など一定の要件の下で大学等において再雇用を促進するための方策を検討する必要がある。

3 女性研究者が働きやすい環境の整備
(働き方の選択肢の拡大)
  多様な発想や価値をもった多様な研究者の受入れを促進するためには、女性研究者に限らず男性研究者も含め、多様な働き方の選択肢を用意することが必要である。そのため、大学等の自主的な方針や工夫により、例えば週3日のワーク・シェアリングなど多様な勤務形態を導入したり、勤務時間管理の在り方を弾力化して裁量労働制を導入できるよう、国において検討することが必要である。
  また、大学等においては、出産・育児、介護等で一時的に大学等を離れる場合でも、自宅で研究が継続できるようなネットワーク・システムを整備するとともに、その間の研究を支援するスタッフを雇用したり、学生ボランティアを活用するなどの工夫が考えられる。

(保育施設の整備等)
  教育研究への意欲と能力があり、大学等にとって必要とされる女性研究者が、出産や育児との両立ができないためにキャリアを断念することは、本人にとっても大学にとっても大きな損失である。
  このため、大学等の敷地内などに、保育施設を整備することが考えられるが、職場よりも自宅付近の保育所を利用したり、自宅でベビーシッターを利用するといった、一人一人のニーズや考え方に配慮することも必要である。

(施設の工夫・改善)
  大学等の施設は、教育研究のための機能面を重視するだけでなく、学生や研究者等が多くの時間を過ごす場として、精神的にも肉体的にも快適な環境を整備することが求められ、これにより、優秀な人材を確保したり、研究者としての潜在的能力を引き出すことができ、教育研究の質的向上にもつながることが期待できる。
  また、トイレや保育施設の整備など女性研究者や女子学生の増加に適切に対応することや、地域に開かれた施設設計により、夢多い年代の子どもたちに研究者の魅力を伝えることや、研究成果の地域への還元に資することが求められる。

(研究費等の弾力的な運用)
  女性研究者は、出産・育児等の影響を受けやすく、科学研究費補助金等の競争的資金の受給期間中や特別研究員制度等の支援期間中にやむなく研究を中断することにより、研究者としてのキャリア形成上支障が生じる場合が考えられる。
  競争的資金等を受給している研究者が研究を中断する場合の取扱いは、研究課題や制度の趣旨により異なっているが、例えば、1年程度の中断期間を認めたり、研究期間の延長を認めるなどの弾力的な運用を可能にするなど、国において女性研究者の研究継続を支援する方策を検討する必要がある。

4 意思決定機関等への女性研究者の参画の促進
(大学等の意思決定の場や、論文、研究費等の審査への参画の促進)
  大学等における男女共同参画を推進するためには、評議会、部局長会議等意思決定を行う組織における女性研究者が増えることが重要である。
  そのためには、大学等が積極的に女性研究者を登用しようという目標や方針の下に組織的な取組みを進めるとともに、女性研究者自身も責任を回避せず、積極的に意思決定の場に参画していこうという意識や意欲を持つことが必要である。
  同様に、学術論文の審査や、競争的資金等の審査においても、女性研究者の参画を促進することにより、女性研究者の活躍の場が広がると考えられる。

(国の審議会等における女性委員の登用促進)
  国の政策決定過程への女性の参画を促進するため、政府では、国の審議会等における女性委員の割合を、平成17年度末を目途に30%とすることを目標に取組みを進めている。
  文部科学省においては、「審議会等への女性委員の登用については、平成15年度末までの出来るだけ早い時期に「30%」を達成できるよう鋭意努めるものとする。また、目標の達成後も引き続き30%を維持するとともに、審議会等の委員の人選が、男女共同参画社会の形成に資するものとなるよう努めるものとする。」という決定をしているところであり、概ねこの目標を達成※18している。しかし、個別に見るとほとんど女性委員がいない審議会もあり、その理由の一つとして、当該分野の学識経験者に女性が極めて少ないということが考えられる。
  このような状況を改善するためには、大学等において多様な分野の女性研究者の数を増やし、組織の中での意思決定の場への参画を推進することにより、国の審議会委員として活躍できる人材として育成することが大きな意味を持つ。

5 大学等における取組みへの支援
(女性研究者の活躍の評価)
  近年、女性研究者の活躍により、新しい研究分野が生まれたり、斬新な視点に立った研究が行われるようになってきている。
  国や大学、関係団体等は、このような優れた女性研究者の活躍を積極的に評価し、優れた女性研究者を顕彰するなど、より一層の活動を支援することにより、わが国の教育研究水準全体の向上を図ることが必要である。

(男女共同参画推進状況の把握)
  大学等における男女共同参画の取組みを促進するためには、学生や教職員に関する男女別の統計を整備し、組織における現状を把握するとともに、女性研究者が少ない原因を分析したり、取組みを進める上での問題点等を明らかにすることが必要である。
  このため、各大学等において、男女共同参画の現状を調査し、積極的に公表するよう努めるとともに、国においては、大学等における男女共同参画への組織的な取組み状況などについて実態を把握したり、個別にアドバイスを行うなど大学等の取組みを支援することが求められる。

(女性研究者の情報ネットワークの構築)
  女性研究者の能力を十分発揮して活躍の場を広げようとする動きは、大学等はもとより、学会や団体等においても活発になってきているが、それらをより効果的なものとするためには、個々の活動をネットワーク化し、相互の交流や情報交換を促進することが重要である。
  このため、例えば、女性研究者の育成や支援に実績を持つ大学等が中心となり、そのノウハウを十分に活かして女性研究者に関する情報ネットワークを構築したり、大学等の女性研究者のグループが交流したり情報交換したりできる場を提供することが考えられる。

(キャリアアドバイスに関する研修会の実施等)
  女性研究者の数を増やすためには、女性研究者自らがロールモデルとして優れた実績を示し、また大学学部の女子学生に対して研究者の世界の素晴らしさとともに、課題やその乗り越え方を伝えるなど、研究者としてのキャリア形成を支援することが求められる。
  こうしたキャリア形成への支援は、研究者を志す女子学生に限らず全ての学生に必要である。例えば、国が大学等や企業と連携・協力して、男女を問わず大学教員を対象として、学生へのキャリアアドバイスに関する研修会を実施するとともに、国公私立大学を通じて様々な分野で活躍する人々の事例を集めたロールモデル集を作成し、学生のキャリア設計を支援することが考えられる。

6 家庭、学校、地域社会における教育の充実
(教育の充実)
  知的創造立国の担い手の確保という観点からは、女性に限らず男性も含めて早い段階から家庭、学校、地域社会の教育全体を通じて、様々な学問分野や職業社会への興味や関心を伸長し、主体的に研究者への道を選択できるような能力や態度を育成することが重要である。
  特に、家庭における教育の役割は大きく、親は、特定の型にはめ込んで子どもが本来持っている可能性を狭めることのないよう、幼少時から子どもの個性や興味、関心などを大切にしながら育む必要がある。
  また、大学における教育を充実し、主体的に変化に対応して課題を探求し解決する能力を育成し、卒業時における質の確保と教育研究の質の一層の向上を推進するとともに、科学技術創造立国の実現や学術研究の推進等のため質の高い人材の育成や創造性、独創性の豊かな優れた研究者の養成を目指すことが重要である。

(進路指導の充実)
  キャリア形成は、基本的には個人の意思と能力によるものであり、めまぐるしく変化する社会にあっては、適性と適職をマッチングさせる進路選択に加えて、自分自身と環境の変化に対応して多様な選択肢の中から自ら意思決定していく進路選択のために必要とされる基礎的能力を学校教育全体を通じて涵養することが求められている。また、職業に必要な知識や技術だけでなく、職業人としての生活も含めて総合的に考える能力を育成することが必要であり、研究者としての多様で柔軟なキャリア設計にもつながると考えられる。

(科学的素養の幅広い涵養)
  近年、子どもの理科離れが指摘されており、子どもたちに科学技術の面白さや研究の魅力を伝えるためには、理科や数学とともに、技術・家庭や情報、工業・農業などの職業科目、地域の博物館や科学館での実験・観察や自然体験活動などを通じて、科学技術への興味・関心を幅広く培っていくことも必要である。

(子どもたちのロールモデルとしての教員のキャリアアップ)
  学校教育における教科指導やキャリアガイダンスを充実する上で教員の果たす役割は大きく、様々な研修や大学院でのリカレント教育などにより、教員自身が資質の向上に取組むことが重要である。
  また、学校教育活動全体を通して固定的な性別役割分担意識を是正するとともに、特に女性教員は、積極的に管理職にチャレンジするなど女子の児童・生徒の身近なロールモデルとして能力を発揮することが期待される。

(高等学校と大学の連携の促進)
  高校生の研究に対する興味・関心を涵養するため、高等学校段階から大学の教育研究に触れる機会をつくることが重要である。
  例えば、大学の教員が高等学校での出張講義等を行ったり、大学院生を招いて専門的な知識や将来の研究者への夢などについて話す機会を持つことなどが考えられる。
  また、大学においては、高校生が大学の講義を受講したり、高校生を対象にした大学公開講座、大学の最先端研究設備を使用した科学教室を実施することなどが考えられる。
  また、高校生が大学の講義を受講した場合に高等学校の単位として認定したり、または大学の単位として認定することなどにより、高校生の学習意欲を高めることが期待できる。
  さらに、高等学校の教員と大学の研究者が定期的に懇談会等を持つことにより、高校生の興味・関心のある分野や大学が学生に求める能力・資質等について情報を共有し、高校生のキャリア設計への支援に役立てることが考えられる。

(大学入学者選抜の工夫・改善)
  大学入学者選抜においても、例えばペーパーテストの結果だけで判定するのではなく、小論文や時間をかけた丁寧な面接、実験・実習などを通して潜在的能力の高さを測ったり、大学の教員が高等学校に出向いて、研究者としてのすぐれた素質を持つ生徒を直接見出すなどの工夫・改善を図ることなども考えられる。



※3  
資料4   本務教員総数に占める女性の割合
資料5   設置形態別大学における教職員数及び教職員数に占める女性の割合
資料6   専攻分野別大学における女子学生・女性教員の占める割合
※4 資料7  進学率(高等学校・大学・短期大学・大学院)
※5 資料6  専攻分野別大学における女子学生・女性教員の占める割合
※6 資料8  主要国と日本の女性教員の割合について
※7
資料9   主要国の専攻分野別学位取得者(大学・大学院)に占める女性の割合
資料10   主要国の専攻分野別学位取得者(大学・大学院)に占める女性の割合の推移
※8
資料14   平成14年度科学研究費補助金(基盤研究等)の男女別採択状況
資料15   特別研究員の男女別採用状況
※9   例えば、フランスでは、政府において採用とその後のキャリアを見通した人材管理を図るなど、公的研究機関、高等教育機関、産業研究協力を通して研究人材の流動性の促進が図られている。また、国立科学研究センター(CNRS)は、人文・社会科学を含む全科学分野を包括した、大学や公的研究所、企業を含めた様々な研究機関の研究ネットワークによる研究連合体であり、企業との共同研究の実施や企業と研究機関が連携して大学院生や研究者の養成を図るなど、より開放的、流動的な組織への転換を図っている。
※10 資料17  女性研究者の活躍の事例
※11 資料18  諸外国における女性研究者支援の取組み
※12 資料19  国立大学における男女共同参画を推進するための提言(要約)  
※13 資料20  大学における先進的な取組み  
※14   社員に多くの仕事を経験させるように、人材育成計画に基づいて、定期的に職務の異動を行うこと。一般に、業務を通じた社内教育であるOJTの一環として行われる。
※15
資料27   国家公務員採用1種試験  区分別・府省等別採用状況(平成14年度)
資料28   文部科学省女性職員の採用・登用拡大計画について(通知)
※16 資料29  総合科学技術会議「研究者の流動性向上に関する基本的指針」(意見)について(通知)
※17 資料18  諸外国における女性研究者支援の取組み
※18
資料30   審議会等における女性の参画状況
資料31   審議会等及び懇談会等行政運営上の会合への女性委員の登用促進について
(平成14年9月9日  文部科学省男女共同参画推進本部決定)


ページの先頭へ