資料4 |
国際教育協力懇談会
最終報告案(たたき台)
平成14年7月
国際教育協力懇談会・最終報告案(たたき台)
―目次―
I. | 最終報告書の特徴 | |||
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(1) | 初等中等教育分野等の強化のための「拠点システム」 | |||
(2) | 大学における国際開発協力を促進するためのサポート・センター | |||
(3) | 国際開発戦略研究センター(仮称) | |||
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(1) | 紛争解決後の国づくりにおける国際教育協力(アフガニスタン) | |||
(2) | 国際教育協力におけるNGO・地方自治体等との連携 | |||
(3) | 国際機関との連携を通じた我が国の教育経験の活用(学校給食等を通じた健康教育) | |||
第1部 | ||||
II. | 国際教育協力の意義 | |||
III. | ダカール行動枠組みに対する我が国の対応 | |||
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(1) | 開発途上国での協力経験の浅い分野 | |||
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我が国の教育経験に関する情報提供と対話プロセスの強化 | |||
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考えられる具体的な方策 | |||
(2) | 開発途上国での協力経験の豊富な分野 | |||
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協力経験の共有化と伝達 | |||
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考えられる具体的な方策 | |||
(3) | 国際機関との連携を通じた我が国の教育経験の活用 | |||
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(1) | 「拠点システム」の必要性と意義 | |||
(2) | 具体的な機能と活動 | |||
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我が国の主力となる教育協力分野を強化するための「協力経験の共有化」 | |||
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派遣される現職教員の支援(共有化された協力経験の伝達) | |||
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協力経験の浅い協力分野の活用促進に対する支援 | |||
IV. | 紛争解決後の国づくりにおける国際教育協力 | |||
V. | 国民参画型の国際教育協力の展開 | |||
第2部 | ||||
VI. | 大学における国際開発協力の促進 | |||
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(1) | 国立大学における制度上の制約要因 | |||
(2) | 国立、公立、私立大学に共通の課題と必要とされる対応(活動) | |||
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大学における国際開発協力活動の基盤の醸成 | |||
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国際援助機関との関係構築 | |||
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国内大学間、大学とコンサルタント企業・海外の大学間の連携の促進 | |||
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大学における実務能力の向上 | |||
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分野別の国際開発協力戦略の形成 | |||
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(添付書類)
・ | 「国際教育協力懇談会」協力者名簿 | ||||||||||
・ | 懇談会の開催状況 | ||||||||||
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国際教育協力懇談会・最終報告案(たたき台)
本懇談会は、文部科学大臣の私的懇談会として、平成13年10月に設置されたものである。平成12年6月から11月まで開催された前回の「国際教育協力懇談会」における検討結果を踏まえつつ、その後の新たな課題に対応し、さらに議論を深めることを目的とした。
具体的には、第1部として、急務の課題として、「万人のための教育」を実現するための「ダカール行動枠組み」への対応を、また、第2部として、我が国の大学の知的な資源に着眼し、大学による国際開発協力の促進のあり方を主要議題として取り上げた。
本最終報告書は、その主要な議論を取りまとめたものであり、我が国による協力の質的な転換を図るため、国内体制の抜本的な整備に関して提言を行なったことが最大の特徴である。
なお、カナナスキスサミットの機会に小泉総理から発表された、わが国の教育協力の基本的な考え方である「成長のための基礎教育イニシアティヴ(BEGIN)」においても、本懇談会の議論が反映されている。
1.国内体制整備に関する提言(知的インフラの構築) |
(1)初等中等教育分野等の強化のための「拠点システム」
昨年のジェノバに続き本年のカナナスキスサミットにおいても「万人のための教育」の実現について改めて強い支持が確認されるなど、初等中等教育分野重視の世界的な潮流を踏まえ、我が国が当該分野への協力を強化するために、教育協力経験の共有化と現職教員への伝達を行なうための「拠点システム」の構築について提言している。
なお、「成長のための基礎教育イニシアティヴ(BEGIN)」においても、「現職教員の活用と国内体制の強化(「拠点システム」の構築)」として、本提言が反映されている。
(2)大学における国際開発協力を促進するためのサポート・センター
我が国の大学が有する知的な資源を、幅広く国際開発協力において活用していくためには、大学と援助機関との組織間の契約に基づき、有報酬・有責任の体制で国際開発協力に参画していくことが必要である。また、大学にとっても、実践的な研究や教育を進め、それぞれの特色を生かした大学づくりをしていく上で大きなメリットが考えられる。ただし、そのためには、我が国の大学と援助機関との間、或いはコンサルタント企業・国内外の大学などの連携機関との間の結節点となり、両者の関係強化を図る「サポート・センター」の設置が必要であると提言している。
(3)国際開発戦略研究センター(仮称)
外務大臣の私的懇談会である「第2次ODA改革懇談会」の最終報告書(平成14年3月)では、ODAの基本政策や主要プロジェクトの意義や優先度について議論し提言する指令塔として、「ODA総合戦略会議」の設置が提言されている。
こうした提言を踏まえ、本報告書では、ODA戦略に関する調査研究や分析を提言できる独立した研究機関として、「国際開発戦略研究センター(仮称)」を大学に設置することを提言している。
なお、(2)(3)の両センターの機能の相乗効果に鑑み、両者の密接な関係を確保できるよう、設置形態も含めて、十分な配慮が必要である。
なお、上記(1)(2)(3)の体制整備とともに、国別援助計画の重点化等ODAの戦略化・重点化等の政府全体の取組みに対応するため、文部科学省としても、関係省庁との連携、ODA政策と大学等機関との調整をより一層、組織的に充実していくことが必要である。
2.その他本懇談会の議論を踏まえて進捗した具体的事項 |
(1)紛争解決後の国づくりにおける国際教育協力(アフガニスタン)
本懇談会において、アフガニスタン復興を初め、個別の紛争終結地に対応した具体的な教育協力に関しては、文部科学省が、関係機関と連携しつつ施策を検討するべきとの議論があった。これに基づき、アフガニスタンに対しては、4月にアミン教育大臣(当時)を我が国に招聘するなど、外務省と連携しつつ、各種の施策を検討・実施しているところである(別紙1参照)。
(2)国際教育協力におけるNGO・地方自治体等との連携
本懇談会の議論に基づき、NGOや地方自治体(教育委員会)と連携し、本懇談会にタスクフォースを設置した結果、初等中等教育分野等における協力強化のための「拠点システム」や国際教育協力における現職教員の参加などを、NGOや地方自治体と協力して実施していくこととなった。また、アフガニスタンとの協力についても、女子教員支援のための女子大学コンソーシアムや教育支援募金等、具体的なNGOとの連携が進捗している。
(3)国際機関との連携を通じた我が国の教育経験の活用(学校給食等を通じた健康教育)
ユネスコ等の国際機関が途上国において協力実績を有している分野に関し、我が国の教育経験を付加価値として活用しうる場合には、これら機関との連携を図ることも有意義と考えられる。
これに基づき、我が国として協力経験の浅い健康教育分野に関し、開発途上国での実績を有している世界食糧計画(WFP)及びユネスコとの連携を図りながら、我が国の栄養教育を含む食の教育の経験の活用など、どのような協力が可能か検討を行なっているところである(別紙2参照)。
第1部 |
我が国は、貧困、環境、人口爆発、食糧、エイズ、紛争など、さまざまな問題を抱える開発途上国への人道上の観点から、またアジアなどの開発途上国との共生を通じ我が国の生存と繁栄を維持するという観点から、これまでにインフラ整備から保健・医療にいたるまで、幅広い分野においてODAを実施してきているが、以下のような理由からさらに国際教育協力を推進する必要が痛感されている。
教育は、家庭教育、学校教育、社会教育などのさまざまな形において、人間の一生を通じて実現されるべきものであり、人格形成と、人権、環境、経済産業等のあらゆる領域の基盤を形成するものである。とりわけ、最大の課題である貧困に対して教育は、人間の潜在的な能力の開発を促すため、開発途上国が自らの努力によって貧困から脱出し持続的に発展していくための基盤づくりに大きな役割を果たすことができる。さらに教育は、人々に自ら考える力を与え、対話を通じて他者や他文化を理解する力、国際協調の精神を重んじる態度を育むことができる。
我が国は、戦後、教育を国づくりの基本とし、「米百俵」の精神をもって復興してきた。国民生活、経済活動のあらゆる領域の基盤となる教育に人的・物的資源を傾注するかかる経験は、開発途上国、そして、世界各地でみられる紛争地域での紛争解決後の国づくりにとっても大いに参考になり得る。
一方、我が国においては、教育に関して学校や草の根レベルでさまざまな交流が行われている。こうした交流が土台となって、よりきめの細かいODA協力へと発展していく可能性がある。政府のODAで実施されている国際教育協力を、我が国の国民が参画した交流へと結びつけ、裾野の広い協力に発展させていくことも考えられる。
このように、国際教育協力は、あらゆるレベルで我が国の国民が、開発途上国の国民と繋がりを緊密化することを促し、日本とアジアをはじめ開発途上国との共生をより深いレベルで実現していく可能性を有している。
また、教員が開発途上国において国際教育協力に従事することによって、コミュニケーション、異文化理解や概念化の能力を身に付け、国際化のための素養を児童・生徒に波及的に広めるならば、「内なる国際化」を促進し、相互理解と相互依存の必要性がますます高まる国際社会に対応できる日本人の形成にも資することができる。
さらに、開発途上国と我が国との間では、教育を成立させている歴史や社会文化が大きく異なることから、我が国から派遣された教員が、両国の教育経験を比較することにより、我が国の教育の良い点を再認識したり、国内の教育に生かせる点を発見できる。このため、教育協力に参加した教員は帰国後に自身の経験を教育の現場に還元できるようになり、我が国の教育の質を直接的に高めるという効果もある。
このように、国際教育協力において我が国の教育経験を活用することにより、「日本の顔」だけでなく、「日本人の心」が見える協力となる。そして、多くの日本人が協力の有効性を実感できることとなる。この点から、国際教育協力は国民によるODA理解を増進していく上でも大きな意義を持つ分野である。
1.初等中等教育分野等に対する協力の重視 |
ダカール行動枠組みの目標(別紙参照)の中心である初等中等教育等(就学前教育、女性教育等を含む)は、高等教育やその他あらゆる分野での人づくり協力の基盤であり、このような基礎的な人材の土台があってこそ初めて、技術協力を初めとする各種の協力の成果が点から線、線から面へと発展していく。
この意味において、初等中等教育分野等に対する協力は、我が国のODA協力全体の効果を底上げし、発展させていくためにも重要な役割を持ちうるものであり、我が国は今後、初等中等教育分野等に対する協力を重点的に強化し、ダカール行動枠組みの目標達成に向けて協力していくことが重要である。
なお、協力を進めていく際に、全般的に留意すべき点として、子どものみならず、親、青年、成人を含めた地域社会のメンバー全体を取り込みながら、協力を計画・実施していくことの重要性が上げられる。
また、当該分野における我が国のこれまでの協力は、学校施設の建設などハード面の協力が中心となってきたが、これらと我が国からの人の派遣を通じたソフト面での協力を組み合わせることが、初等中等教育分野における協力のインパクトを一層高めることにも留意すべきである。
「成長のための基礎教育イニシアティヴ」(BEGIN)においても、以下に示す「我が国の教育経験の活用」とともに、これらの議論が反映、明記されたところである。
2.我が国の教育経験を生かした国際教育協力 |
教育を国づくりの根幹としてきた我が国の教育経験を活用し、得意な分野に対して重点的に協力を進めていくことが重要である。このことは、我が国による主体的な協力を確保する上で重要であるとともに、我が国が培ってきた具体的な成果を生かし、それぞれの国の教育発展に効果的に役立てることになる。
一方において、開発途上国の抱える教育ニーズは、伝統や文化の影響もあり多様であることから、我が国の経験をそのまま現地に適用することは困難である。したがって、開発途上国におけるニーズに我が国の教育経験を適合させていくことが必要になる。この際、これまで我が国が関係省庁やその他援助機関等のODA事業を通して蓄積してきた成果を十分勘案しつつ、開発途上国が自らの努力により自立していくことを促す必要がある。
こうした観点から、開発途上国における共通の教育課題であるダカール行動枠組みの6つの目標と、我が国の教育経験分野を照らし合わせたところ、別紙3のように、開発途上国への教育協力に活用できると考えられる分野が現時点で10分野あるものと考えられる。ただし、これらに関しては、我が国による協力経験が浅い分野(7分野)と経験の豊富な分野(3分野)に分かれる。
また、これら教育分野に加え、教育行政や学校運営など各分野を横断した分野については、公教育の普及と教育の質の向上を両立させてきた我が国の歴史自体が貴重な参考であり、開発途上国からの関心が高く、ダカール行動枠組みの目標全てを達成するためにも有意義なものと考えられる。
(1)開発途上国での協力経験の浅い分野
幼児教育、環境教育、家庭科教育、女性教育、障害児への教育、健康教育(学校保健・学校給食を含む)、学校施設1 |
我が国の教育経験に関する情報提供と対話プロセスの強化
これらの分野に関しては、我が国の教育経験について、開発途上国に必ずしも十分な情報や理解があるとは限らないことから、相互に対話・検討し、開発途上国の現場で我が国教育経験の有効性を実証していくプロセスが重要である。
考えられる具体的な方策
○ | 開発途上国関係者の我が国への招聘や、ワークショップの開催等。 |
○ | インターネット等を通じた我が国からの情報提供による助言・交流。 |
○ | 開発途上国と共同で現地における問題の分析や、協力可能性を調査。 |
○ | 開発途上国からの要請に基づき、ODA等の協力形態を通じた協力の実施を検討。 |
(2)開発途上国での協力経験の豊富な分野
理数科教育、教員研修制度、職業教育 + 横断的分野(教育行政、学校運営等) |
協力経験の共有化と伝達
これらの分野は、開発途上国からのニーズが引き続き高いと考えられる分野であり、開発途上国毎の状況の違いに配慮しつつも、要請ごとの個別的な対応ではなく、分野ごとに共通して活用できる経験を取りまとめ、共有化し、派遣者などに伝達していていくことが重要である。
なお、当面は、開発途上国からのニーズも引き続き高い、「理数科教育」、「教員研修制度」と「横断的分野」を中心とすることが適当である。
考えられる具体的な方策
○ | 様々な協力形態別や協力機関別の経験やノウハウを集積。 |
○ | 関係機関との協力のもと、成功事例や教訓を抽出。 |
○ | 現地での協力に共通して活用できる各種の教材等(開発途上国の教員のための指導書、各種教材、問題集、到達度評価試験など)の整備。 |
○ | 現地協力に共通した活動内容の研究と整備(併せて、国・地域などの特殊事情に関する留意点を含む)。 |
○ | 共有化された内容を、派遣される人員に伝達。 |
(3)国際機関との連携を通じた我が国の教育経験の活用
ユネスコ等の国際機関が途上国において協力実績を有している分野に関し、我が国の教育経験を付加価値として活用しうる場合には、これら機関との連携を図ることも有意義と考えられる。
例えば、我が国として協力経験の浅い健康教育分野に関しては、世界食糧計画(WFP)やユネスコに相当の開発途上国での実績がある一方、我が国の栄養教育を含む食の教育の経験を付加価値として用いることが可能であるところ、これら機関との連携を進め、アジアを中心に我が国の健康教育の経験を役立たせることが肝要である。
また、識字教育やノンフォーマル教育においては、これらの分野において実績を有するユネスコと連携し、我が国の経験を活用しつつ、寺子屋運動やコミュニティー学習センターなどの活動を引き続き充実させていくことが効果的である。
3.現職教員の活用による「日本人の心」が見える協力の促進 |
全国約90万人の現職教員(小中高校)は、指導案の作成、教材開発、各種の指導技術など、児童生徒に密着した実践的な教育経験や能力を有しており、「日本人の心」が見える国際教育協力を進めていくための、重要な人的資源と考えられる。
しかも、これら現職教員のうち、約4万人(現職教員全体の4.3%)が国際協力活動に従事することを希望しているとの推計もある(H11,渡辺良の調査に基づき推計)。
また、現在、開発協力に携わっている人材の多くが中高生時代に国際協力に携わった人に触発されていることから、開発途上国で活躍した教員が我が国の教育現場に増えることにより、将来の開発協力人材の裾野が広がることが期待される。
しかし、これら現職教員のODA事業への参画は必ずしも活発ではなかった。前回(平成12年度)の国際教育協力懇談会の提言に基づき、青年海外協力隊に「現職教員特別参加制度」が創設されたことは大きな前進である(平成13年度募集においては、合計63名を派遣予定)。
自治体によれば、青年海外協力隊への参加は、教員自身のための研修としても大きな効果があると評価されている。
ただし、その一方で、依然として応募数が十分となっていない理由として、(1)事前の活動場所の状況や活動内容が十分に分からないために、校長として奨励しづらい面があること、(2)開発途上国での経験が少ない現職教員が自分の専門性や能力を開発途上国で十分に発揮できるか不安があること、(3)自治体の財政負担をともなうことから、派遣数に制約があること、などが主要な要因として挙げられている。
したがって、現職教員の参加をさらに促進していくためには、現職教員の活動参加に対する広報活動をさらに積極的に行なっていく必要がある。また、派遣される現職教員に対し、予め基本的な活動内容の提示、協力の事例集や共通して活用できる教材等の提供、派遣前研修や派遣期間中の指導・相談を行なうなどの、サポート体制を強化していくことが重要である。
また、自治体としては、自治体の顔の見える援助活動に結び付けたいとの意向も強いことから、派遣元としての主体性を高め、より長期的な計画をもって派遣を可能とする派遣方法などの検討が必要である。
さらに、現職教員の参加促進に際しては、青年海外協力隊の対象とならない40才以上の現職教員についても併せて考えることが課題となっている。平成10年度10月時点で現職教員の平均年齢は41.8才となっており、40才以上の現職教員が全体の6割近くを占めるに至っている。実際、40才以上の現職教員からも参加を強く希望する声が多く挙がっている。
このような状況に対応するには、40才以上の現職教員が、人事上の不安なく、シニア海外ボランティア制度(対象者40才以上69才以下)に応募できるようにすることが必要である。具体的には、シニア海外ボランティア制度において青年海外協力隊の場合と同様に、派遣前研修と活動期間を学校年度(スクールイヤー)に合わせ、
各自治体の教育委員会を通じた募集・応募を行うことで現職教員の参加促進を図ることが望まれる。
他方、これまで40歳以上の現職教員を対象とした開発途上国の教育機関からの要請案件がなく、派遣実績がほとんどなかったことから、例えば開発途上国の教育委員会への派遣等ニーズの発掘を進めていくことが前提となる。また、青年海外協力隊現職教員特別参加制度と併せ、現職教員の募集及び派遣につき地方自治体・学校長等の理解と協力を得ることも必要である。
これらを踏まえ、シニア海外ボランティアへの現職教員の参加を促進するため、開発途上国のニーズ把握と案件発掘の結果を見つつ、全国の教育委員会を通じた募集・応募による実施を試行的・段階的に進めることが肝要である。
4.初等中等教育分野等の強化のための「拠点システム」 |
(1)「拠点システム」の必要性と意義
前節までにおいて、我が国の教育経験の活用及び現職教員の活用を促進していくことの重要性とその具体的な方法について検討を行なってきた。これらを実現するための国内の実施体制が「拠点システム」である(別紙4参照)。
我が国における協力経験を直接的に開発途上国へ移転できないことは、これまで議論されてきた通りであり、とりわけ、初等中等教育分野等においては文化や社会的な背景への配慮が不可欠である。
しかしながら、これまでは多くの場合、個別の要請に応じて個々に協力の活動内容や教材等の検討が行なわれ、しかも、派遣された専門家やボランティア個人による現地での努力によるところが大きかった。
これに対し、「拠点システム」は、予め我が国の協力経験、すなわち知的インフラを国内で整備しておくことにより、協力要請に前もって備えておくことを可能とし、協力の質的、量的、さらにはタイミングの観点からも、開発途上国の要請に対して、的確に応えていこうとするものである。
これを可能とするために、国際教育協力に実績のある広島大学及び筑波大学の「教育開発国際協力研究センター」を拠点としつつ、国立、公立、私立及びNGO、民間企業等からなるネットワークを形成し、省別又は官民といった枠に縛られることなく、関係機関の協力のもと、以下に述べる活動を行なう。
(2)具体的な機能と活動
我が国の主力となる教育協力分野を強化するための「協力経験の共有化」
「理数科教育」、「教員研修制度」、及び横断的分野である「教育行政」や「学校運営」等は、「成長のための基礎教育イニシアティヴ(BEGIN)」においても、「重点分野」の柱とされており、且つ我が国の教育経験の豊富な分野である。これらの教育分野に関し、これまでの協力経験を蓄積・分析し、協力に共通して活用できる協力モデル(活動内容や教材等)の整備を図る。
また、協力経験の浅い地域・国や、新たな協力手法等に関しても研究を実施していくことが必要である。
さらに、個々の或いは横断的な教育分野に加え、教育協力全般につき、国際動向分析を行なうとともに、我が国の協力経験を積極的に国際社会に発信していく。
派遣される現職教員の支援(共有化された協力経験の伝達)
上記の中心となる拠点大学の指導・助言のもと、特に地域の教育大学の積極的な協力により、青年海外協力隊、シニア海外ボランティア等として派遣される現職教員に対して、蓄積された経験や協力モデルを伝達し、開発途上国での経験の浅い現職教員の適格性を備えていくことが重要である。
具体的には、協力モデル等について、派遣前研修を通じて伝達し、現職教員に協力の内容や活動のイメージを明らかにするとともに、インターネット等を通じた派遣中の相談を通じて、現地活動での課題に対する助言を与えていく。
なお、開発途上国の現場における現職教員の体験は、「拠点システム」に還元され、我が国の協力経験に、新たな付加価値を与えていくことが期待される。
協力経験の浅い協力分野の活用促進に対する支援
我が国としての協力経験の浅い分野(学校保健、環境教育等)に関しては、分野別のグループ、又は中心機関を形成していくことを促進し、開発途上国との対話プロセス等を通じ、我が国の経験の活用を拡大していくことを模索することが肝要である。
これに対して拠点大学等が、このようなグループ等による検討会等に参画し、教育行政などの横断的分野や、教育協力の国際動向等につき助言することは、極めて有効であり、協力経験の浅い分野の活用促進を側面から支援していくことになる。
なお、現職教員の支援と同様、協力経験の浅い個々の分野における協力の進捗や開発途上国での応用は、「拠点システム」に還元されていくこととなる。
冷戦の終焉後、頻発する紛争は人間の生命や生活のみならず、それを支える経済・社会基盤など開発成果を損なうとともに、その後の復興・開発を困難とする様々な問題を引き起こしている。紛争地域での紛争解決後の国づくりにおいて、教育が果たすべき役割はとりわけ重要であると考えられる。すなわち、教育は国民生活や経済活動など、復興に関するあらゆる分野の基盤となるばかりでなく、歴史や宗教、民族について相互理解を促進し、平和構築と長期的な発展のために大きな役割を持つと考えられるからである。
したがって、紛争解決後の復興期において、地域に次の世代を担う子供が現存することに鑑みても、教育は一日たりとも休むことができない営みであり、平和国家である我が国が、教育分野において積極的な支援を行なうことは大きな意義と効果がある。
地域の行政機構の安定が図られつつある段階にあっても、平時とは異なる緊急対応的な教育協力が必要となることがある。かかる対応としては、国際機関及びNGOに多くの活動経験があるところ、これら諸機関との連携も含め、我が国としてどのような役割を果たしうるのか検討することが必要である。しかし、緊急暫定的対応もやがて平時の教育協力に移行していくため、かかる連携に際して、我が国の二国間教育協力を視野に入れた検討が必要である。その際、上記で検討された平時の対応を応用しつつ、段階的かつ長期的な対応を検討することが肝要である。
また、紛争解決後の国々においては、宗教上の問題など、社会的文化的な要素が教育に大きな影響を与えている場合が多いので、我が国がこれまでに同様の背景を有する国々で行ってきた協力の成功例などを分析し、その経験を援用することが有益である。
アフガニスタン復興を初め、個別の紛争終結地域に対応した具体的な教育協力に関し、文部科学省は上記を十分に踏まえ、関係機関と連携しつつ施策の検討を行なっていくべきであるとの議論がなされてきた。
特に、アフガニスタンに対する教育協力については、本懇談会の議論を踏まえ、アミン教育大臣(当時)の本邦招聘など、着実に施策が実行されてきているところ(別紙1)、引き続き、積極的に検討・実施していくことが必要である。
国際教育協力を展開するにあたっては、草の根レベル、あるいは、独自の交流を行っているNGOや地方自治体(教育委員会)等と、ODAを推進している政府とが連携することにより、一層裨益効果の高い協力が実現していくことが期待されている。このため、本懇談会ではNGOや地方自治体(教育委員会)と連携したタスクフォース(作業部会)を設置し、我が国の教育経験や現職教員を活用した国際教育協力に関する具体的な検討を行った。
我が国の教育経験の活用を検討するタスクフォースでは、日本の教育経験がNGO等と共有化され、今後、初等中等教育分野等における協力強化のための「拠点システム」においても国際教育協力に係わるモデル開発等の研究をNGOとの協力関係のもと構築していくこととなっている。また、NGOからも大学等の国際教育協力の専門家によるNGOの活動への参画・評価が要望されている。今後、政府とNGO双方の協力関係のもと、政府によるODAと草の根レベルの国際教育協力の実施において、更なる質の向上が期待されている。
現職教員の参加促進のためのタスクフォースにおいては、複数地方自治体の教育委員会と意見交換を行っていく中で校長会や教頭会等、様々な教育層と連携することにより、現職教員の参加を促していくことが可能であることが判明した。
また、アフガニスタン教育支援についても、NGOの協力を得て「アフガニスタン女子教育支援のための女子大学コンソーシアム」が形成されるとともに、文部科学省の協力のもと、NGOによる「アフガニスタン教育支援募金」プロジェクトが実現するなど、いくつかの連携事例が始動するに至っている。
今後は、国内における「内なる国際化」とより深いレベルの開発途上国との共生を促進していくためにも、本懇談会を通じて生み出されたNGOや地方自治体との交流や連携を、更に多くの国民各層に発展させていくことが望まれる。そのための布石として、本懇談会のシンポジウムを地方で開催し、国内における国際教育協力活動の理解促進を図るとともに、より深い国民各層の参画の機会を模索していく必要がある。
第2部 |
1.教官個人による協力から、大学組織による協力への転換 |
我が国の大学が国際開発協力に参画していくことは、援助関係者の裾野を拡大するのみならず、我が国の知的な資源を国際開発協力に活用していき、日本の「顔の見える援助」を実現していく面からも、大きな期待が寄せられている。
しかしながら、大学による従来の協力は、ほとんどが大学教官個人による協力であり、無報酬(ボランティアベース)、すなわち、大学に対する人件費の補填等がなく、協力期間中に授業や研究活動に欠員が生じる状況となっている。このため、大学側にとって長期間あるいは頻繁な協力が困難になっている。
このような問題を解決するため、大学が援助機関と契約ベースで組織的に携わり、人件費、間接経費を得て、欠員等に対する補填に対応することが必要である。
このような援助機関との契約ベースの開発協力プロジェクトは資金的メリットのみならず、研究・教育面においても意義が大きい。例えば、工学、医学、環境、農業分野の各種の調査・研究や評価・研究等、我が国の大学がその特色を生かした研究等を進めるのに適したプロジェクトが多く存在しており、研究資源としての魅力が大きい。
特に国際機関のプロジェクトに参画していくことは、大学の国際的な認知や名声にも反映され、個性豊かな大学作りに資すると考えられる。教育面においては、学生に対して途上国における実地経験を通じた実践的な教育を施すことが可能となるため、実践的な人材輩出にも効果が高い。
このように、今後は、国立大学の法人化も視野に入れつつ、能力と意欲を有する大学がその特色を生かし、国際開発協力プロジェクトに組織として主体的、戦略的に携わることが望ましいと考えられる。その際には、国立大学法人(仮称)が果たすべき使命や機能に鑑み、また、民間のコンサルタント企業との業務上の仕分けの観点からも、大学本来の教育研究等の業務及びそれに密接にかかわる事業等に限定した上で、参画を促していくことが必要である。
なお、大学がこのように組織的に国際開発協力活動に携わっていくことは、援助機関にとっても安定的な協力体制の確保の点から望ましい。我が国のODAにとっても、我が国の知的リソースを活用した「顔の見える援助」の実現が可能となる。更には、我が国からの国際開発金融機関への就職者の拡大も期待される。
2.我が国の大学による国際開発協力の制約要因・課題とその対応方法 |
(1)国立大学における制度上の制約要因
現在の国立大学には、契約上の問題(国立大学と外部機関との契約形態には、一般的な契約の慣行に馴染まない点がある)や、定員管理の枠があるために、大学教官が協力活動に従事することにより授業等に欠員が発生するなどの問題が発生している。
しかしこれらに関しては、国立大学の法人化により、各大学の自主性が拡大されることに伴い、基本的に解消の方向に向かうものと考えられる。
ただし、これまでも組織的な協力が可能であった私立大学においても、必ずしも協力活動が活発でなかった実態に鑑みれば、このような制度上の制約要因が解消されたとしても、直ちに国際開発協力活動が進展するとは限らない。したがって、今後、国立大学がこのような活動に参画するためには、以下の(2)に示す国公私立大学共通の課題に対応する活動が必要であるとともに、インセンティブをいかにして付与していくかも検討する必要がある。
なお、国立大学法人(仮称)が援助機関と契約を行なう場合の間接経費の有り方や、受託可能な業務の範囲等については、国立大学法人が本来果たすべき使命や機能に配慮しつつ、外部資金の導入がより積極的に可能となるよう、今後の国立大学の法人化に際して反映させていくことが重要である。
(2)国立、公立、私立大学に共通の課題と必要とされる対応(活動)
大学における国際開発協力活動の基盤の醸成
・ | 大学における国際開発協力活動の理解を増進するための、国際援助機関の要人による大学での講演会や大学経営層との懇談会の開催の実施。個々の大学の国際開発協力に関する相談・助言。 |
・ | 大学に関する評価において、国際開発協力活動を観点の一つとすることを検討。また、教員の業績評価において、国際開発協力に携わった教員の実績を評価するシステムについても各大学で検討。 |
国際援助機関との関係構築
・ | 国際援助機関から我が国に対して、国際開発協力プロジェクトへの対応可能性等についての照会に対応するため、データベース(大学組織、大学教官)を整備し、専門家を紹介・斡旋。 |
・ | 国際援助機関に、我が国から専門的な提案を行なう機会を設けるため、大学教官の渡航機会に援助機関の担当者を紹介し、会合を設定。また、大学と国際援助機関との人事交流が重要であり、そのために大学教官、援助機関の担当者又はその経験者等を紹介・斡旋。 |
・ | JICAやJBICによる各種セクター調査やプロジェクト評価などの調査研究業務に一層大学が活用されるよう、同機関の登録制度などの環境を整備。 |
国内大学間、大学とコンサルタント企業・海外の大学間の連携の促進
・ | 国際開発協力プロジェクトは、規模が大きく、複数の専門領域にまたがっている場合が多く、コンソーシアムを形成することが世界的潮流であるところ、連携可能性がある機関(国内コンサルタント企業、国内外大学等)からの照会に対応するため、データベース(大学組織、大学教官)を整備し、専門家を紹介・斡旋。 |
・ | また、世界中の大学等の連携機関が集まるALO2 、GDN3等の会合への大学教官の参加や、人事交流を促進。 |
大学における実務能力の向上
・ | 大学が国際開発協力プロジェクトを受託するためには、委託者である国際援助機関の仕事の進め方を理解し、対応能力を向上することが必要であるので、大学教官及び事務官を対象に、プロジェクト実施に関する基礎知識、各種の調査手法、英語プレゼンテーション、プロポーザル作成、英文契約書作成事務などに関する研修を実施。 |
分野別の国際開発協力戦略の形成
・ | 大学が分野別の専門性を生かし、主体的、効果的に国際開発協力プロジェクトに参画していくため、論文等により国際的にも裏付けされた我が国の比較優位に照らして戦略を策定。 |
・ | 具体的には、既に設置されている、教育、工学、農学、法学、医学などの分野別の国際協力教育研究センターが中心となり、国内外の大学、コンサルタント企業、援助機関等とワークショップ・研究会を開催し、分野別の戦略形成を促進。 |
3.大学における国際開発協力を促進するためのサポート・センター(別紙5) |
それに対し、上記(2)の分野ごとの国際開発協力戦略の形成については、それぞれの分野に特色を持った大学機関等が中心となる。たたし、サポート・センターに援助機関や連携機関から寄せられる専門的な照会事項に関しては、サポート・センターから、分野別のセンターに相談するなど、両者の密接な連携のもとに活動を行なうことが肝要である。
なお、これまでのところ、我が国の大学が国際開発協力に契約ベースで参画した例はほとんどないため、性急な成果を求めるのではなく、大学と援助機関、あるいは連携機関との中長期的な関係構築を模索しながら、試行錯誤し取り組んでいくことが肝要である。
4.国際開発戦略研究センター(仮称) |
国際開発戦略研究センター(仮称)が行なう国際機関・援助国の国別戦略に関する研究を通じて得られた人脈は、サポート・センターにとっても有用である。また、サポート・センターとの連携に基づき、分野別のセンターが我が国の優位性を検討する際にも、国際開発戦略研究センター(仮称)による地域別・国別情報は有益である。このような両センターの機能の相乗効果に鑑み、両者の密接な関係を確保できるよう、設置形態も含めて、十分な配慮が必要である。
1 | 中長期的な施設計画の策定手法、及び、学校施設と地域の社会施設を一体化した効果的な施設のあり方に関するノウハウ |
2 | ALO: 開発協力大学協議会連絡室 (The Association Liaison Office for University Cooperation in Development |
3 | GDN: グローバル開発ネットワーク(Global Development Network) |