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著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第3回)議事録・配付資料

1.日時

平成20年5月16日(金曜日)10時〜12時

2.場所

旧文部省庁舎 6階 講堂

3.出席者

(委員)

上野、梶原、金、久保田、佐々木(隆)、里中、椎名、渋谷、瀬尾、津田、常世田、中山、野原、野村、生野、平田、三田の各委員

(文化庁)

吉田長官官房審議官、山下著作権課長 ほか

4.議事次第

  • (1)開会
  • (2)利用円滑化方策について
  • (3)今後の議論の進め方について
  • (4)その他
  • (5)閉会

6.議事内容

(1)開会

【野村主査】

 それでは、定刻がまいりましたので、そろそろ始めたいと思います。過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会の第3回を開催いたします。
 本日は、ご多忙の中ご出席いただきまして、誠にありがとうございます。
 本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照しますと、特段非公開とする必要はないと思われますので、既に傍聴者の方には入場していただいておりますけれども、特にご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【野村主査】

 それでは、本日の議事は公開ということで、傍聴者の方はそのまま傍聴していただくということにいたします。
 まず、事務局から配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 お手元の議事次第の下の方に配付一覧が記載してございます。本日は資料3点と参考資料2点をお配りしております。資料1と資料3は1枚物の薄いものですけれども、ご確認いただければと思います。
 過不足等ございましたら、ご連絡をお願いします。

(2)利用円滑化方策について

【野村主査】

 それでは、本日は、これまで議論してまいりました著作物の利用円滑化方策について、これまでの議論をまとめた後に今後の議論の進め方について検討したいと思います。
 まず、事務局から、著作物の利用円滑化方策についてまとめた(中間総括・案)について、説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、資料1と資料2に基づきまして、ご説明をさせていただきます。資料2は今までの利用の円滑化方策について全体を取りまとめた資料でございますけれども、資料1がその目次となっておりますので、まずこちらで全体構成をどのようにすべきかについて、ご説明をさせていただきたいと思います。
 円滑化につきましては、この小委員会の課題として、2.の多数権利者の場合と、3.の権利者不明の場合、4.のアーカイブと、大きく3つぐらいに分けられると思いまして、このように3節に整理させていただきましたが、2.と4.につきましては、前回の小委員会でそれぞれワーキングチームからのご報告がありましたので、それを基本的に溶け込ませるという形をとっております。2.(2)の部分と4.(3)の部分がそれぞれワーキングチームの報告でございまして、それぞれ、ワーキングチームが検討した事項と全体の検討課題との関係が分かりやすいように、2.(1) 4.(1)(2)を付け加えたという形になっております。
 3.が前回の議論を踏まえて今回初めて文章化した部分でございまして、両論併記の部分など多々ありますので、後ほどご指摘をいただきたい部分でございます。
 なお、タイトルは「中間総括」としておりますけれども、これは、円滑化部分について総括をするという意味でございまして、保護期間の在り方についてはまだ入っておりませんので、中間的な取りまとめまではまだパーツが足りない状態のものとお考えいただければと思います。
 それでは、資料2で中身をご説明させていただきます。
 1.「はじめに」は、単にこの小委員会の検討事項を、それぞれどういう背景で指摘されてきたのかを簡単にまとめてあるだけの部分でございます。
 本小委員会の検討課題の背景の1つ目としましては、保護期間の在り方について検討する小委員会でもございますので、それとの関係で出てきた課題でございます。1つ目のまるで書いてございますように、関係団体などからの要請もございまして、保護期間を延長した場合の利用が困難にならないような円滑化方策を検討するという観点で指摘があったものでございます。具体的には、権利者情報のデータベースの構築などの権利情報の管理の仕組みとか、権利の集中管理。特別な場合にしか使用されていない裁定制度の簡略化。一部の反対のみで全体が利用できなくなるような事態を避けること。それから、二次的創作や文化の承継のための土台となるアーカイブ活動の制約にならないような措置。こういったことが1番目の保護期間との関係で指摘があった部分でございます。
 それから、背景の2つ目としましては、法制問題小委員会から検討が依頼されている問題の観点でございまして、法制問題小委員会で検討が進んでおります「デジタルコンテンツ流通促進法制」のうちの「過去にインターネット以外の流通媒体での利用を想定して製作されたコンテンツをインターネットで二次利用するにあたっての著作権法上の課題」というような観点から、そちらの方から検討が依頼されていたわけです。
 なお、コンテンツの二次利用にあたって著作権等が課題になる場合と言いますのは、二次利用の際に改めて利用許諾が必要となる場合で、かつ、それが困難なときに著作権法上の課題が出てくるわけですが、実際には権利の集中管理が行われている場合には、二次利用についてほぼ自動的に利用許諾が得られる仕組みとなっていますので、二次利用について許諾が得られないという課題がある場合とは、実のところ、多くの場合は、団体に権利を委託していない者とか所在不明の権利者の場合、あるいは、権利者の思想信条などから許諾が得られない場合などに限られるというように、法制問題小委員会では整理をしております。
 このような観点からいたしますと、この小委員会で要望あるいは指摘されている検討課題と、法制問題小委員会から検討を求められている、コンテンツの二次利用にあたっての課題というのは、大きな部分においては共通の課題なのだろうということで、この小委員会の課題全体の整理をしております。
 こういった課題につきまして、以下のところで、多数権利者、権利者不明、アーカイブ、その他の課題というふうに分けて構成したということを、「はじめに」の部分で書いております。
 なお、参考の部分は、保護期間との関係での円滑化という観点からの議論の参考のために、前回の小委員会などでご紹介した諸外国の議論を簡単にまとめて掲載しております。前回まで一度もご紹介していないものとして、韓国について新たな情報が入りましたので、ご紹介します。韓国では米韓FTAの締結を受けまして、現在、著作権保護期間を70年に延長することを含む法案が提出されている最中でございますけれども、その中には、公正利用の規定とか一時的蓄積についての権利制限などの措置が盛り込まれているようでございます。なお、下の脚注にございますように、特に保護期間の延長に伴う代替措置であると説明されているものではありませんが、こういう内容が盛り込まれているということでご紹介でございます。
 諸外国の措置例をまとめますと、英米仏のように、権利者不明の場合の対策が主になっている国、あるいは、図書館での非商業的な利用、あるいは、日常的で小規模な利用の円滑化が、諸外国でも中心的な対策になっているということで書かせていただいております。
 以上が「はじめに」の部分でございます。
 2.「多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について」については、前回、共有ワーキングチームのご報告をいただきましたので、それを中心としてほとんどが構成されております。(1)の部分だけが新たに付け加えた部分でございまして、ここは(2)のワーキングチームの課題とその他の課題との関係を書き加えたものでございます。
 主な課題としては、複数権利者のうち一部の反対のみで全体が利用できなくなるような事態を避けるというご指摘・要望でございましたけれども、この問題の背景としては、1つは、先に申しました保護期間との関係でございまして、70年まで延長した場合には、ひ孫の代になるということもありまして、遺族の数が増えて許諾手続が煩雑になるという観点からのご指摘でございます。もう一つは、保護期間延長と関係なく、現行規定の下においても存在する問題として、放送番組の二次利用などの円滑化に関連して、出演者等の権利処理の過程で一部の者から許諾が得られないことによって、コンテンツの二次利用が妨げられているのではないか、という問題提起があったということに関するものでございます。
 このうち、保護期間延長との絡みの問題につきましては、孫世代からひ孫世代に移ることによって遺族が膨大に増加するのではないかということですけれども、これについては近年出生率が低いということもあり、それほどでもないのではないかということもありまして、小委員会の中心としましては、まずは現行規定の状況下で問題が指摘されている点に焦点を置いて、映像コンテンツの実演などを中心に課題の整理を行ったと。そういう形でワーキングチームの報告書につながるような流れに作らせていただきました。
 ワーキングチームの報告書につきましては、前回の小委員会で特にご意見ございませんでしたので、事務的な修正を加えているだけでございます。例えば、「本ワーキングチームでは」と書いてあるところを「小委員会での検討」と書き替えるような事務的な修正を幾つか加えております。そういった点が幾つかございまして、最後の「まとめ」のところでも、「今後改めて検討することが有意義」というようにワーキングチームからの報告を受けましたけれども、これも小委員会として、当事者としての文言に書き替えました。こういった修正がほとんどでございます。後ほどご質問などございましたら、それぞれご説明をしたいと思います。
 2.については以上でございます。
 3.「権利者不明の場合の利用の円滑化」については、まず最初に課題の整理をいたしております。冒頭にご紹介しましたように、こちらの部分の課題として指摘されていたものは、権利情報の管理の仕組み、権利の集中管理、裁定制度の簡略化などでございましたけれども、この問題の背景としてもまた同じように保護期間延長に関する問題と、それ以外の問題があるのだろうということで、整理を試みております。
 まず1つは、保護期間と関係なく存在する問題としまして、権利者不明の場合については、多くの権利者の権利処理が必要になる場合では権利関係の調査などの費用が過大になりかねないという問題がございます。また、保護期間が延長された場合の問題として、さらに権利情報が管理しきれなくなる場合が自然と増加するのではないかというような指摘があるということと、諸外国においても保護期間延長後の利用円滑化の課題としては、権利者不明の場合の円滑化方策が中心的な問題の一つになっているということでございます。
 さらに、共有ワーキングチームのご報告では、多数権利者が関わる場合においても、実務上は、許諾が拒否されるというよりは、連絡先の不明によって許諾を求めることができない事例の方が多いというようなご指摘もございました。また、これは後ほどご説明いたしますけれども、アーカイブの構築の際にも、コンテンツ事業者自らがアーカイブを構築する場合においては、必要な対応策はコンテンツの二次利用についての問題と同じではないかというふうに整理をさせていただこうと思っておりまして、このような2つの問題にも関わってくる問題であるということ。それから、権利者不明の場合の問題点は、コンテンツの恩恵を受ける側だけではなく、権利者にとっても問題があるのではないかという指摘もございました。
 このようなことから、権利者不明の場合の円滑化というのは、この問題自身にとどまらず、多数権利者が関わる場合の円滑化やアーカイブの円滑化、その他もろもろのより広いものにつながる可能性がございますので、コンテンツの死蔵を防いで社会にとっての損失を防ぐという意味での大きなポイントとなる部分ではないかということで、全体の課題を整理いたしました。
 (2)は、対応策の説明に入る前に、現状の説明と前提の確認をしている部分でございます。(2)1が前提の確認でございます。重要なのは「ただし」のところですけれども、利用許諾の交渉が必要となる場面と一口に言ってもいろいろな場合があるだろうということでございます。1つは、コンテンツの製作に直接関わっていた者と二次利用の許諾交渉をする場合と、「写り込み」のような場合によって、大きく課題が異なってくるのではないかということ。それから、権利処理をしなければいけないものが著作権・著作隣接権である場合と、その他の人格的利益である場合とで違うだろうということで、一律に捉えるのではなく、これらを分けて認識することが重要であるということで前提を置いております。
  23は、前回の小委員会でご紹介をした部分ですので、説明は簡単にいたしますけれども、二次利用の円滑化のため現在取られている方策と、その限界ということをまとめております。今取られている方策としましては、1)のコンテンツ製作時にあらかじめ二次利用を前提とした契約を締結すること。2)のコンテンツ製作者が製作時に責任を持って権利情報を管理しておくこと。3)は、権利の集中管理団体が権利者の所在情報などを管理していくこと。4)は、取組途上の試みではございますけれども、権利者の所在情報についてのデータベースを整備すること。このような4つの取組が主に現状でとられているものであろうと記載しております。
 一方で、これらの取組にもそれぞれ限界があるということを、その次で指摘しております。例えば、「写り込み」のような場合には、コンテンツ製作者が情報を管理しようにも難しい場合がある。また、人格的利益が問題になるような場合には「一任型」の集中管理が難しい、そういった限界があるということのほか、あらかじめ二次利用を前提とした契約を結ぼうとしても、既に過去に作られてしまっているコンテンツには、そういう対策が今さら取れないということ等々、それぞれの対策には限界もあるということで、今までの現状の対策についての総括をしております。
  3は、そういった二次利用関係の対策を取ったにも関わらす、権利者不明になった場合の対応策として、現在、民間で考えられているものについて紹介しております。どのようなものかと申しますと、権利者不明の事態が生じてしまった場合には、一定の能力・実績を有する団体が権利者捜索を請け負うということ。それから、権利者が判明した場合に備えて、どこに事前に使用料を預託しておく第三者機関を設けて、そちらにおいて権利者が事後に判明した場合に事後調整を行うというような仕組みが検討されているということでございます。
 「しかしながら」ということで、次のところでその限界を整理しておりますけれども、このような取組には法的な裏付けがあるわけではなく、事後的に差止請求を受けるとか、刑事罰など、法的リスクがなくなるわけではないので、そういった点について留意が必要であるということで記載しております。
  4は、現行で制度的な対応として、どのようなものがあるのかということでございます。権利者不明の場合に、著作物を利用するための制度として、用意されているものとして大きく2種類あるだろうとしております。
 1つ目は、権利制限規定の対象となる場合でございまして、このような場合には権利者不明かどうかに関わらず、許諾をとる必要がございませんので、利用が妨げられることはないということでございます。それ以外の場合で設けられている制度としては、文化庁長官による裁定制度がございます。
 この2点については次のところで問題点の指摘がされております。各種の権利制限規定については、本小委員会のヒアリングでは、障害者関係団体や図書館関係者等から、範囲が不十分ではないかという指摘もあったところでございます。
 それから、裁定制度については、手数料が高い、あるいは、手続に時間がかかるというような指摘がありました。また、無償での利用を予定しているなど、裁定に要する費用に見合わない場合には、手続をどれだけ改善しても限界があるのではないかというご指摘、著作隣接権に関して同様の制度がないというご指摘もございました。このように、制度的な対応は、民間での対応の限界を補完する唯一の手段ではありますけれども、事実上その利用が困難になっているような実態について指摘がございました。
 次の【参考】のところは、前回の小委員会でご紹介した部分ですので、省略いたしますけれども、アメリカ、イギリスなどで権利者不明の対策について新しい提案が検討されているということでございます。
 (3)今後の対応方策は、そういった状況を踏まえて総括してみたらどうなるかという部分でございます。
 まず、1基本的な考え方、どういう考え方をとっていくのかという部分でございます。
 まず、権利者不明の場合の対応策については、民間においていろいろな取組が進められている途上の状況にあるということでございまして、これらの取組には権利者不明の場合だけではなく、二次利用全体の円滑化に資するような方策が多々含まれておりますので、例えば、権利者情報の把握について、コンテンツ製作者、権利の管理団体、双方において体制整備の努力を続けるということなど、今後ともこれらの取組は充実・強化されるべきものであると前提を置いております。
 一方で、制度的な対応につきましても、このような民間の取組を補完し得る唯一のセーフティネットであるという観点から、より利用しやすい制度とすることが必要ではないか。こういう基本的な考え方をとってはどうかと思っております。
 なお、この小委員会の中では、民間の取組と制度的な対応との関係について、利用しやすい制度ができてしまった場合には、民間の取組が進まなくなるのではないのかというような懸念もございましたけれども、これにつきましては、今申しましたように、まず民間の取組は引き続き充実・強化されるべきであって、制度的な対応はそれを補完する最終手段としてのセーフティネットとしての役割だという、基本的な整理としてはどうかと思っております。
 その次の枠囲いの部分は、この小委員会で結論までは得られていない部分で、今回初めてご提案させていただく部分ですけれども、単なる「写り込み」のような場合は、現在でも権利者不明の場合の対処の仕方が違っているということもございますので、セーフティネットとしての制度的な対応を考えるというよりは、別の権利関係の整理があり得るのではないかということでございます。下の脚注にございますように、現行著作権法の起草者でもある加戸守行氏の解説によりますと、主要な被写体の背景に何か絵らしきものが写っているという程度のものは、著作物の実質的利用にあたらない、そもそも著作権が働かないようなジャンルのものだというような考え方もありますので、そういった考え方も踏まえまして、「写り込み」については別の扱いをしてはどうかというご提案でございます。
  2は、セーフティネットとしての制度的な対応について、どのような方向性があり得るのかということで、前提の整理をaからcまでまとめております。
 まず、aは現行制度の手続の運用改善の可能性についてでございます。改善の要望がございましたのは、裁定制度に要する期間あるいは手数料の問題、それから、権利者情報に関するデータベースを活用して、データベースに登録されていない人については、より簡易な手続を適用してどうかというようなご指摘でございました。ただ、このような指摘につきましては、非営利無料などの小規模な利用については、どのように手続、費用を改善したとしても限界があるというご指摘もございました。それから、データベースで把握できるようにするのは困難な分野もあるのではないかというご指摘もございました。
 こういったご指摘を踏まえてどのように考えるかということですが、データベース上の登録の有無については、権利者捜索の相当な努力の内容として加味することはあり得るのではないかと思われますけれども、権利者情報データベースはこれからどこまで整備されるか分からない部分もございますので、登録の有無自体を直接的に法的効果に結びつけることは現状では難しいのではないかと総括をしております。このように運用改善では難しいのではないかという整理でいいのかどうか、ご指摘をいただければと思っております。
 bの著作隣接権の裁定制度の創設の可能性ですが、最終手段としてのセーフティネットという基本的な考え方に立てば、何らかの対応が必要なのではないかと記載しております。一方で、前回の小委員会でもご質問がありましたが、著作隣接権の場合は、国際条約との関係で多少制限が厳しくなっておりまして、強制許諾という形は、条約に抵触しない場合しかとることができないという条件がございます。文化庁長官の裁定制度はこの類型にあたる可能性があり、権利者不明の場合はそれと別扱いと整理できるかどうかについて、はっきりとそうできるという根拠が今のところ見つかっていないという状況がございます。
 また、この小委員会では、視聴覚用的実演のインターネット送信については、まだ国際約束に基づく義務がございませんので、その部分に限って裁定制度を設けることは特段の支障がないのではないかという指摘もございました。この点についても、どう考えるかご指摘があればいただきたいと思います。
 cは新たな制度設計の可能性についてのご指摘です。単なる手続改善に留まらない提案として、例えば供託金を国庫に帰属させるのではなくて、その供託金を原資としていろいろなことに活用してはどうかというご指摘とか、事前に使用料を支払わせるというような合理性はないのではないか、事前にどのようなコストをかけるのか、事後に訴えられるリスクをどこまで負うのかというのは、利用者自身で判断させるべきではないかというご指摘がございました。権利者に代わって許諾を与えるような第三者機関を考えるべきではないかというご指摘もございました。
 このようなaからcまでの状況を踏まえまして、どのような方向性を取るべきかということですけれども、これまでの小委員会の議論を伺っておりますと、次に書いておりますA案とB案の2つに集約できるのではないかと思っております。なお、このような制度的対応をとるべきという考え方としましては、上の5行に書いてございますように、現行の裁定制度の手続運用では対応が困難だということ、著作隣接権の場合について国際約束との関係が明確ではないこと、より柔軟な制度運用を目指すべきという指摘もあったということが前提でございます。
 A案とB案の中身をご説明させていただきます。A案は、イギリスで検討されているような制度を参考としてはどうかというものでございます。相当な努力を払っても権利者と連絡することができない場合には、著作物の利用ができるという、いわゆる権利制限のタイプでございます。なお、相当な努力を払ったということの立証責任は利用者側が負ってはどうか。それから、利用者側の条件としては、権利制限規定によって利用しているということを明示する。これは、区別して確認できるような何らかの手段を設けておくという趣旨でございます。それから、権利者判明後に通常の使用料に相当する補償金を支払う形にして、事前支払いは不要とするような考え方でございます。
 これが一つのご提案であったかと思うのですが、一方で、こういう案を採用する場合には、現行の裁定制度の要件が相当緩和されることになるということで、懸念を表明する意見もあったかと思います。そういったご懸念に対する対応についてご議論いただければと思っております。
 1つは、権利者捜索についての相当な努力というのはどのようなものかというガイドラインを設けるということでございます。イギリスやアメリカにおいても、このような提案がされているようでございます。なお、「アメリカの著作権局の報告においても、民間でガイドラインを策定」と括弧で書いておりますが、昨日、最新のアメリカの法案を調べておりましたら、現在提出されている最新の法案では大分中身が変わっているようでございまして、現在の法案の中では、基準を著作権局が策定するということが明示されているようでございます。
 その次、イとウでございますが、こちらは、その他の指摘を踏まえまして、映像コンテンツ分野に限って新たな制度としてはどうかというご意見、それから、多数のうち一部の権利者が不明になっている場合に限ってはどうかというご意見。この他にも、どういった懸念の払拭方策があるのかご指摘いただければと思っております。
 次のこめじるしは飛ばしまして、先にB案をご説明いたします。B案は、日本経団連で検討されているような第三者機関の取組を参考としつつ、それに法的な裏付けを与えるというイメージでまとめたものでございます。第三者機関に事前に使用料相当額を支払って、なおかつ権利者捜索の相当な努力も払った場合には、事後の権利追及に関して免責されるという制度設計でございます。なお、立証責任は利用者側が負うというのはA案と共通でございます。また、利用の際にどのような条件で使っているのか明示するというのもA案と共通でございます。
 こういった制度設計でございますが、B案につきましては、事後的な免責という形で書いておりますけれども、免責の法的性質をどう考えるのかということについて少し微妙な部分がございます。仮に、これが許諾と同じ効果があるということにしてしまいますと、実質的には第三者機関が文化庁長官の代わりになるだけでございまして、裁定制度と変わらないことになってしまいますので、著作隣接権の場合は国際約束との関係が出てきてしまうというような問題がございます。ですので、免責ということについてどういう法的な構成をとるのかということが一つ課題になります。
 それから、事前の支払いを要件とする場合には、どこに払っても免責になるということでは制度的に難しいかと思いまして、ここに払った場合には免責ができるというような、ある程度支払先を特定する必要があるのではないかということがもう一つの課題でございます。
 また、3つ目のこめじるしは、事前にお金を実際に払ってしまうわけですので、払ってしまったお金をどう取り扱うのかということについても、利息とか時効とか、その使途はどのように使っていいのか等々、いろいろな規定を置く必要が出てくるかと思います。A案に比べると相当大掛かりな制度設計になるのは間違いないかと思っております。
 一方で、先ほど飛ばしたA案の最後のこめじるしでは、A案の権利制限タイプを採用した場合でも、事前に支払いを一定の機関へプールしておくということについては、民民の取り決めで何らかの機関を設立していただいて、それによって事後清算の仕組みを作るということは可能ではないかということで、指摘だけさせていただいております。
 こういった、今までの指摘から抽出した典型的な2案を提示しておりますけれども、どのような制度がいいのか、幅広にご指摘をいただければと思っております。
 長くなって恐縮でございますけれども、引き続き、4.のアーカイブの部分について説明させていただきます。4.のアーカイブにつきましては、前回のワーキングチーム報告を核として構成してはおりますけれども、前回の小委員会のご議論では、もっと積極的な対応が必要ではないかというご意見もございましたので、もう少しアーカイブの円滑化の全体像が見えるように加筆させていただきました。そういう観点から課題の整理の部分を書いておりますけれども、ざっとご説明をいたします。
 昨年10月に整理した段階では、文化所産としての著作物を幅広く収集・保存しておく仕組み、それから、著作物へのアクセスを幅広くできるようにするような環境整備という視点が必要であるという指摘がございましたが、具体的にどういうアーカイブ像がいいのかという点については見解が統一されていなかったという状況でございました。
 こちらの背景について分析いたしまして、大きく2つ、背景があったと思っております。1つは、保護期間を延長した場合には、古いコンテンツのアーカイブについて、権利処理の負担などで今以上に負担がかかってしまうというご指摘。もう一つは、保護期間の延長問題とは関係なく、デジタル技術の進展、あるいは、インターネット技術を活用して情報を共有する習慣が広まっている中で、インターネット等を通じて図書館の蔵書・資料に皆が容易にアクセスできる環境を整備することが重要だという認識、こういったことを背景とした指摘と、大きく2つあったと思っております。
 望まれるアーカイブ像について見解が統一されてこなかったことの背景としては、このような問題意識の違いがあるのではないかいうことで指摘をしております。
 こういった2つの問題意識があるわけですけれども、この小委員会ではまず実際の取組についてヒアリングを実施したところでございまして、それによって何が見えてきたかと言いますと、目指すべきアーカイブの方向性によってというよりは、取組主体の属性によって、著作権法上の課題が異なってくるのではないかということだったと思います。
 具体的には、コンテンツ提供者・コンテンツ製作者自らがコンテンツを保存しつつ提供を行うというタイプのアーカイブ、それから、そうではなくて市場に流れてきたコンテンツを第三者が収集・保存する場合というアーカイブと2種類ございますけれども、それによって解決すべき課題の性質が大きく異なるのではないかと、そういったことが見えてきたのではないかと思っております。
 一方で、効果の面に着目しますと、インターネットを通じて皆が容易にコンテンツにアクセスできる環境を整備するという効果に照らしますと、誰が構築したアーカイブであっても、効果は一緒でございまして、コンテンツ提供者が作ったアーカイブだろうと、図書館等のアーカイブだろうと、容易にアクセスできるようになるという点では効果は同様でございます。例えば音楽配信については取組が大分進んでおりますが、音楽関係について図書館等でアーカイブを作るというような話は、書籍分野に比べれば今のところ話が大きくないという状況がございます。そういった背景にはこういったこともあるのではないかと思っております。
 こういったことも背景にしてか、この小委員会の中でも、公共的な立場で行うべきことと民間に任せる部分とは明確にした上で課題を検討すべきというご指摘がございました。
 そこで、こういう考え方を基本としてはどうかということで、「このため」以下を記載させていただいております。コンテンツ提供者自らのアーカイブ、それから、図書館等で行うそれ以外の主体のアーカイブ、双方の取組を尊重しつつ、それぞれの役割分担、相互の補完、協調の中で、全体として望まれる環境を実現していく。こういった基本的な考え方をとってはどうかということでございます。前回、図書館等のアーカイブについてもっと前向きにというご指摘もありましたが、望まれる環境を達成するという観点からすると、図書館等だけに頼るのではなくて、コンテンツ提供者自ら行うアーカイブも含めて考えるべきだというような整理を試みております。
 そのような観点から、(2)でコンテンツ提供者が自ら行うアーカイブ活動について課題を整理しております。
 まず、現状の取組ですけれども、現状としては、放送分野についてはNHKアーカイブスとか、ゲームのアーカイブスなども整備されていますし、いろいろな分野で取組があるということと、インターネット配信という意味では、音楽の分野、書籍・漫画の分野などでも取組が普及しつつあるという現状でございます。
 それから、この小委員会でも関係者から幾つかご発表いただきましたけれども、コンテンツ提供者自らが行うアーカイブの場合には、著作権処理が大きな障害になっているという実態は、あまり報告されなかったところです。
 この背景としましては、コンテンツ提供者が自ら製作したコンテンツを二次利用しているに過ぎないということ、あるいは、ビジネスの一環としてやっている場合も多いので、費用的な面がそれほど問題視されないというようなことが背景にあるのではないかと思っておりまして、実際のところコンテンツ提供者自らが行うアーカイブについての課題は、多数権利者が関わる場合の円滑化や、権利者不明の場合の円滑化と同じような二次利用の文脈で捉えられるのではないかということでございます。つまり、2.3.でご説明したところに集約されるのではないかということで、こちらはそれ以上深追いしておりません。
 なお、ヒアリングの中で、コンテンツ提供者自らが行っている取組は、ビジネスの一環として行われている場合もありまして、図書館等の公共主体が行うアーカイブとの役割分担、利害調整などが必要だという指摘がなされておりましたので、それについても記載しております。
 そういった前提を置いた上で、(3)以降は、前回のワーキングチーム報告を基本的にそのまま載せたというものでございます。冒頭いろいろ消しておりますけれども、これは(1)に記述を加えたので、重複で削除しているだけでございます。
 また、ワーキングチーム報告につきましても、前回もっと積極的にというご指摘があったことを踏まえまして、記述を付け加えております。前回あったいろいろなご指摘、技術的保護手段やDRMの活用、契約方式の開発、補償措置を考慮した権利制限の導入、出版システムと競合しない仕組みの採用などを取り入れることにより、図書館資料が適切かつ円滑に利用できるよう、方策を検討するというような観点を付け加えさせていただきました。
 その他につきましては、事務的な修正だけですので、残りの説明は省略させていただきます。
 最後の5.は、2.から4.で包括されない課題として、保護期間の在り方に関連して指摘された問題を記載しております。指摘された問題点としましては、延長問題を契機として二次創作やパロディ、非営利無償のアーカイブ、障害者福祉目的の権利制限、フェアユース的な一般条項などについて、新たに権利制限規定を整備すべきではないかというご指摘があったということでございます。
 一方で、この問題提起に関しましては、保護期間の在り方だけに関係するわけではないので、別途、法制問題小委員会で検討すべきだというご議論もございました。実際に、指摘のあった中では障害者福祉目的の権利制限などについては、既に法制問題小委員会で検討が進められているという状況もございます。
 こういった状況も踏まえまして、権利制限のご指摘につきましては、法制問題小委員会に対して問題提起を行うとともに、そちらで行われた検討を踏まえて改めて評価をしてはどうかという形で引き取らせていただく形にしております。
 以上でございます。長くなりましたけれども、ご指摘をいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【野村主査】

 どうもありがとうございました。
 それでは、ただ今のご報告に基づいてご意見をお願いしたいと思いますが、かなり大部にわたっておりますので、幾つかに分けてご意見を伺いたいと思います。
 まず、最初に、資料2の「1.はじめに」と「2.多数権利者が関わる場合の利用の円滑化について」、この1、2のところ、ページ数で言いますと1ページから13ページまでで何かご意見ございましたら、お願いしたいと思います。
 この部分は特によろしいでしょうか。
 それでは、その先の方に進みます。後でまたご意見がございましたら、おっしゃっていただいて結構ですけれども、その次に、14ページの「3.権利者不明」の中で、先ほどの制度設計の前の部分まで、21ページまでの部分でご意見をまずいただいて、その後でA案、B案についてご意見を伺うということにしたいと思います。そこまではいかがでしょうか。
 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 隣接権の裁定制度と条約との関係ですけれども、あちこちで述べているので、この委員会で述べたかどうか忘れてしまったのですが、条約の解釈というのは、日本は世界的に見て特異なのではないかという感じがしております。これは、条約にやってもいいという明確な根拠を見いだすことができるかどうかではなくて、やってはいけないという根拠があるかどうかということが大事であると思います。そうでないと、仮に日本の国益が裁定制度を採用した方がいいという場合でも採用できなくなってしまう。これは余りにも日本が条約運用に対して自らを縛りすぎて、国益を害しているという感じがいたします。

【野村主査】

 何か事務局からございますか。

【黒沼著作権調査官】

 条約の解釈につきましては、政府の中では外務省が解釈権限を持っているということもございまして、今相談をしている最中でありますが、国際条約の条文の作り方としては、まず明文で、強制許諾は条約に抵触する場合はとることができないという規定がございますので、文言どおりに解釈した場合には難しいという前提がございます。この文言解釈以外のとり方があるのかどうかというところで解釈を確認しているという状況でございます。

【野村主査】

 はい、中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 条約局の解釈は堅すぎるというのは恐らく学会の一致した定説ではないかと思うので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

【野村主査】

 他にご意見いかがでしょうか。上野委員、どうぞ。

【上野委員】

 ちなみにA案、B案それ自体については後で議論するということですよね。

【野村主査】

 この後で。

【上野委員】

 では、今の点に関してだけですけれども、「強制許諾」ということと「権利制限」とでは条約の義務のレベルが異なるということでしょうかね。そして、先ほどのこめじるしのところの記述によりますと、権利者不明の場合に裁定制度を設けるというのは、強制許諾というよりは権利制限に近いのではないかというご趣旨でしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 条約上、言われている強制許諾というのは、「特定の条件の下に、多くの場合は、権限のある機関により強制的に与えられる特別な形式の許可」ということであるという前提に基づきまして、文化庁長官の裁定制度は、手続の外形上からすると単なる権利制限というよりは強制許諾に近い外形をとっているのではないかということで整理しております。

【野村主査】

 よろしいですか。
 他にご意見いかがでしょうか。はい、どうぞ。

【中山委員】

 くどいようですけれども、一般的な裁定制度は難しいとしても、不明の場合は何とかなるのではないかという気がします。ですから、少なくとも不明な場合の裁定はぜひ外務省との交渉で頑張ってもらいたいと思います。

【野村主査】

 はい、上野委員、どうぞ。

【上野委員】

 不明な場合に裁定制度を設けるということと、不明な場合には権利制限で対処すると、これは後のA案、B案に関わってくると思うのですけれども、これはあくまでも形式的な問題のように見えなくもないわけですが、条約上の義務をクリアするというレベルでは区別があるというご趣旨でよろしいでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 ご質問は、ちょっと先走りすぎているかも知れませんけれども、強制許諾と権利制限とを比べますと、強制許諾の方は事前手続で、ある意味では丁寧な手続をとっているのに比べまして、権利制限の方は手続なく利用できる、そういった状況にかんがみて、強制許諾の方が厳しく採用が制約されているというのはおかしいのではないかと、そういったご趣旨でございましょうか。
 その点につきましては、我々もどういうふうに考えたらいいのかと問い合わせをしている最中ですけれども、聞いてみても、そこをこう考えたらいいというはっきりした資料が出てこない状況でございまして、今のところは文言に従って考えるしかないという状況でございます。

【野村主査】

 それでは、A案、B案の方にかなり入ってきておりますので、次に制度設計のイメージのA案、B案という、22ページ、23ページについてご意見をお願いしたいと思います。
 三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 ここまでの整理、まとめを拝見しまして、大変よく問題点が整理されているなということを感じました。このA案、B案というのも非常によく考えられた提案であると思っております。私がこれまで主として提案してきたことはB案の方に入るのではないかなと考えておりますけれども、A案とB案を比べてみますと、A案の方がシンプルですね。こういうものはできるだけシンプルにした方が使いやすくなると。我々は利用者の利便性を図るということのためにこれまで検討を続けてきたわけなので、このシンプルさは非常に評価すべきではないかと思います。
 我々権利者は「権利制限」という言葉を聞きますと、アレルギーになってしまうのですけれども、ここに書かれていることは、団体に所属していて、そこでデータベース等に登録しているものについては許諾権があるということでありまして、行方不明のものに関して権利制限をするということであります。このことを権利者自身が認識して、行方不明のものについての利用者の利便性を図るのだということをはっきり指摘していただければ、権利者からの反対意見もそれほど出ないのではないかと思います。
 ただ、詳細に見てみますと、供託金を払わずに使ってしまうと、後で権利者が判明したときに、例えば使った会社が潰れてしまっているというようなことも可能性としてはあるだろうと思います。実際に権利制限で使われている教科書で、去年ですが、教科書会社が潰れまして、権利者が補償金を取りっぱぐれるということが現実に起こっております。ですから、何らかの保険制度のようなものも必要かと思いますけれども、それについてはガイドライン等できっちりと検討すればよいことでありますので、こういう制度設計の提案というのは大変有意義であると思います。
 以上です。

【野村主査】

 他にご意見。それでは、生野委員、どうぞ。

【生野委員】

 先ほど中山先生からご意見がありましたが、隣接権に関して裁定制度を導入することがローマ条約に抵触すると解釈されるとのことについては、本来は権利者に対する影響の度合によって考えられるべきところ、A案の方は裁定制度に比べてかなり厳しい内容になっていて、これが条約に抵触しないというのもすんなりと入ってこないのです。条約との関係では、条文で明記されていないという形式上の問題だとは思うのですが、隣接権に関する裁定制度についても、今後外務省との交渉で検討を続けて行きながら、A案も併せて検討すると、そういう理解でよろしいのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】

 条約上の問題がクリアできれば選択肢が広がるということは一つございます。ですので、その際に改めてその選択肢を含めてご検討いただいてもいいのですけれども、裁定制度そのものは隣接権だけではなく著作権についてもございます。それについては、手続運用の改善という要望もございますし、非営利無料のような小規模な利用の場合にはどんなに手続を改善しても限界があるのではないかというご指摘もございましたので、そういったご指摘も視野に入れますと、条約上の問題とは別に、このA案、B案という形もご検討いただく必要があるのではないかと考えております。

【野村主査】

 それでは、椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】

 A案でありますと、このシステムを使って利用されたという事実がどこにも記録されていかないという点、これはB案の民間での取組であればどこかに残っていくわけですね。また、使用料の支払いが生じないという点、先ほども会社がつぶれたりという懸念についてのお話がありましたけれども、これも民間での取組においても生じるわけですよね、そういうような話で進行していますので。そうすると、最終的なセーフティネットとしてこれを設置した場合に、民間での取組よりもハードルが低くなってしまって、いとも簡単に使っていけるというふうな話になって、話としては主客が逆転してしまうのではないか。
 先ほどのお話でも、最終的なセーフティネットというのは、民間での取組もやった上で、最終的な手段としてこれを設けるというお話でしたので、極めて恣意的な乱用の可能性を持っていると思っていまして、A案がシンプルであるということは、確かにその通りであると思うのですが、記録をどこかに残していかなければならないということと、使用料の供託という2つのプロセスがないと、ちょっと心配だなというふうに思います。
 利用の事実について、「相当の努力」とはどういうふうなことになるのかというところになるのですが、B案の方の第三者機関の取組ですと、第三者機関に権利者に関して知見を有する権利者団体からの何らかの参加があって、そこで常に専門性においていろいろ調べていくというプロセスが生じるわけですね。そういうのを全部抜きにしてしまって、A案のような制度ができてしまうと、緻密な取組が成立しなくなるような懸念を持ちます。
 以上です。

【野村主査】

 生野委員、どうぞ。

【生野委員】

 私も椎名委員の意見に全く賛成でありまして、A案を採用した場合、利用が水面下に潜って制度がズルズルになる可能性があると思います。それを防ぐための手当てとして、例えば、供託金の支払い義務を課すとか、利用者が著作物等を利用する場合、事前にCRICのサイトに告知を行い、いつどのような利用を行うのか、利用者の住所・氏名、仮に供託金制度が設けられた場合の話ですが、供託金を幾ら払ったとか、これらの情報の開示を行うことを義務化しないと、制度の乱用の懸念が非常にあると考えます。

【野村主査】

 佐々木委員、どうぞ。

【佐々木(隆)委員】

 今までの議論の中で指摘されている部分について、私の方も、利用者側の立場から考えても、正規の使用料相当については、コストを明確にする意味で、利用した段階できちんと供託なり支払うような制度の方がいいのではないかと思います。そういうことによって、利用者側から見ると、ビジネス上コストが明確になり、また、そういったコストを明確に事業採算上はっきりするということもございますので、何らかの使用料相当額を利用する段階で支払う、もしくは供託すると、そういう制度がいいのではないかと思います。

【野村主査】

 他には。それでは、まず三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 例えばA案の場合でも、行方不明の権利者を探す相当な努力が必要であるということになります。その「相当な努力」というのをどういうふうに定義するのかということで、利用しやすさの度合がかなり変わってくると思うのです。以前のように新聞広告を出しなさいというのが相当な努力でありますと、ほとんど使えないものになってしまいます。現行のように、著作権情報センターに掲示をしなさいということでありましたら、新聞広告よりはましなのですけれども、今2万円ぐらい要るのですね。ですから、これが例えば1,000円ぐらいだったら使いやすいかなと、金額の問題になってくるだろうと思います。
 A案をやった場合に、「相当な努力」というのを利用者が勝手に解釈してよいということになってしまいますと、勝手に使われるというおそれが非常にあるので、「相当な努力」というものについては、例えば、文化庁が何かガイドラインを出すとか、あるいは、現行の著作権情報センターに必ず掲示しなければいけないということにして、掲示のための費用をある程度設けることによって一つのバリアを作る、あるいは、その中に一種の保険制度のようなものを入れて、供託金の代わりに幾らかその中から保険金としてプールしておいて、問題が生じたらそこから払うとか。これは、制度設計の中で、ガイドラインの中で考えていけばいいことなのではないかなと。
 ですから、A案にしたからといって、全部がずぶずぶに使われてしまうことはないだろうし、また、そうならないように工夫をすれば、シンプルでなおかつ、きちんと権利が守られるようなシステムができるのではないかなと思います。

【野村主査】

 それでは、渋谷委員、どうぞ。

【渋谷委員】

 手形とか株券といった有価証券をなくしてしまったとき、公示催告、除権判決制度というのがありますよね。そういうものを組み合わせるというアイデアはないのかと、思いつきですけれども、考えました。例えば、A案をとった場合、日本で言えば裁定が出るわけでしょうけれども、その後は放っておいていいのでしょうか。つまり、権利者が分からなかった、裁定が出た、供託金も預けたと、あと何もしないというと、権利者は裁定が出たことも分からないわけですよね。そこのところを手当てする必要があるということが一つ。
 もう一つは、少し話の順序を間違えてしまったのですが、先ほどの公示催告の制度です。権利者を探すという努力ですね、A案ですと、利用者側に負わせているのですけれども、公示催告する除権判決の制度ですと、裁判所に行って、最短6カ月間、自分がなくした手形を拾った者はいないかというようなことを公示してもらうわけであります。ですから、日本の現行制度に引き付けて言えば、文化庁に6カ月前くらいに申し出て公示をしてもらうというようなこと。
 つまり、権利者の捜索について、利用者にだけ負担をかけるというと、先ほどご指摘があったようにいいかげんに捜索して、裁定だけ得てしまうと。裁定が出たら、後は権利者を探さないでそのままにしておけば、事実上法的な問題は何も起こらないということになる。ですから、事前の公示催告と事後の権利者の捜索、公の方法による権利者の捜索を付け加える必要があるのではないかなと。A案をとった場合ですけれども、そんなふうに思います。

【野村主査】

 他に。金委員、次に梶原委員。

【金委員】

 A案ですが、「利用する際の相当な努力」というところは何らかの形でガイドラインを出すということは必要だと思います。その次に、ここにも書いてありますが、利用の際にそれを明示するということに加えまして、その利用を何らかの機関に対して申告して、その利用の記録を集中的に管理する。それを権利者がアクセスできるようにするということによって、潜在的な利用の可能性と取引の可能性をこれが推進するという効果があるのではないかと思います。
 もう一つ、使用料を事前に払うか事後に払うかというのが焦点になっていると思うのですが、質問としては、事前的に使用料相当額を誰かが決めると思うのですが、事前の使用料の相当額を決めるというコンセンサス作り、合意形成というものはもう既にあるのか。それとも、そういうことはそんなに容易にできるのかということについて、ご意見いただければと思います。

【野村主査】

 これは今の段階で、事務局で何らかのお考えはございますか。

【黒沼著作権調査官】

 確かにA案の中ではどう決めるのかというのは明示していないのですが、現行の文化庁長官の裁定制度の例で申しますと、どのような額が通常の使用料相当額かというのは、その分野の代表的な使用料、例えば主要な部分を占めている著作権管理団体の使用料規程などを参考にして、今は決めているという状況にあるようでございます。諸外国の例でも、市場で取引されている通常の額を勘案して決めるというような考え方もあるでしょうし、イギリスは、幾らにするか決まらない時は著作権審判所が出てきて、そこで決めるというような仕組みを考えているということでございます。しかし、今の段階ではA案、B案の中ではそこはまだご提案できておりません。

【野村主査】

 それでは、梶原委員、どうぞ。

【梶原委員】

 利用者側からいうと、「相当な努力」の部分がなかなか大変なので、これまで裁定制度が利用できなかったというところがあるわけで、A案でもこの「相当な努力」というのが書かれていますが、おそらく権利制限されるわけですから、ガイドライン等が設けられて、現行と同じような努力をしなければいけないのであれば、また同じような形で終わってしまうのかなと思います。ですから、現行の裁定制度の中で、例えば非営利の場合には手数料は要りませんよとか、補償金は要りませんよとか、あるいは、権利者団体があれば、そこが捜索してくれれば、わざわざいろいろな役場に問い合わせたりする必要はありませんよといった、現行の裁定制度の中の相当な努力の部分をもう少し使いやすくするという方法も一つあったのではないのかなと思います。隣接権はちょっと別ですけれども、そういう感じを持ちました。

【野村主査】

 瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 この話はいろいろな関係の中で出てきていることですけれども、大変興味深いし、私としては可能性のあるお話であろうと思っております。まず、最初に、利用者が今いろいろな状況の中で、例えば著作権の保護期間を延長するとかしないとか、または現状のままであっても問題になるのはやはり不明であると。不明な著作者のものは使えないというふうなこと、それを探索するためのコストがかかる。そしてまた、分からないために使えないということが一番問題であったと。
 じゃ、どうするのかといったときに、A案のように利用者がリスクを背負ってやるということは、多分今の日本の企業マインドではあまりリスクのあることはやらないのではないかと私は思いますし、前回にもお話ししましたけれども、立証責任と、裁判を常に起こしていくような社会であればいいでしょうけれども、個人が裁判を起こしたら、今はまだ大変難しいというような現状にあります。ですので、そこで経済的な強弱によって著作権利用の強弱も強まってきてしまうという可能性があると思うので、私はリスク自体をなくしていかなければいけないというのが本題なのかと考えています。
 そのリスクをなくすというのは、私は前にも強制許諾機関ということをお話ししましたけれども、それは現実的でないとすれば、権利制限しかないわけですよね。つまり、何らかの法的な制限を、強制許諾にしろ、権利制限にしろ、そういうふうなものを作らない限り、リスクがなくならないということはよく分かります。ただし、先ほどから議論にあるように、そうなるとズルズルになってしまうのではないかという危惧も持っています。
 私はこのA案、B案の2つが1つにならないかなと考えます。つまり、ある特定の機関が補償金を管理する。例えばまず権利制限がされたと仮定します。ただし、そのための補償金の支払いが義務付けられた、もしくは申請をセンターなり第三者機関に届け出る義務を付ける。つまり、利用者が分からなかったときに、そのセンターに届け出るわけですよね、「この人は私の力では分からないのだけど」と言って。
 そこのセンターは、さっき言ったように、今、組織化されている団体だけではなくて、でき得る限りの情報を集めていく義務を負って、著作権情報を管理している。このデータベースの萌芽というのは、今いろいろなところでありますから、ここがデータベースの中心になって権利者情報を知ると。そこのところであったら、そこへ回す、なかった場合にはそこのところで補償金を支払うことで利用ができる。
 つまり、探索の義務も、先ほどの中山委員のお話ではないですけれども、そちらのセンターに投げることになるわけですね。そして、それが終わって、それが利用された。そうすると、利用した人はそれを明示する、使ったときに「これはセンターの裁可を受けて出しています」と。センターの方はそれを常に公示して出している。自分の情報を見て、自分の名前なり自分の作品がそこにあった場合には、後でそこに請求をすれば補償金が支払われる、というふうな第三者機関をかなりオフィシャルな管理センターとして機能させる。
 そして、今のようなズルズルになったり、ガイドラインを作るという案ではなくて、もっと形のある、オフィシャルな形で管理する形の不明の裁定……、裁定ではないですね、これは。権利制限型になるのか、センターに強制許諾権を与えるのかは、法律と条約のことなので私は分かりませんけれども、何らかのそういう役割を持った組織、第三者機関を作り、捜索の手間を省き、かつ法的リスクを省き、かつ権利者もきちんと支払いが受けられる、団体以外の方達も。そういうふうな仕組みを作っていくことが、今までの皆さんのお話からも、私がこれを見た感じからも良いと思います。
 この権利制限は私の立場からあまり言うのは、先ほどのアレルギーの話もあって芳しくないのです。ただ、何らかのリスクを避けるにはそういう関門が避けられないのではないのかなと感じています。そして、それをするためには、今のようなガイドラインという甘いものではなくて、もっと強いものできちんとやれば、公正な利用ができるのではないかというふうに思いました。

【野村主査】

 では、中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 第三者機関を作ると、公正・中立な人が入ってきて判断をして、手続も透明化するし、あるいは、公示とかいろいろな手続で利点があるように見えます。また著作権とは関係のないあちこちで、第三者機関を作ろうという意見が出ておりますけれども、大体うまくいかないのですね。その理由はお金がないのですね。権利者不明の場合ですから、要するに、あまり売れている作品ではないのですね。そういうものを扱うのに、第三者機関というのは一体どこから金を出して、どういうものを作るのか、そのフィージビリティが問題になるわけですね。
 もう一つもっと問題なのは、法的な問題として、行政処分というのは公権的な処分をするような機関のように聞こえますけれども、そのためにはどういう法的手続をすればいいのか。それは文化庁長官の裁定とどこが違うのか。結局同じになってしまうのではないかと思うのです。公権力の行使を、全くの私的な機関ができるわけがないので、法的に一体どう処置したらいいのか、非常に難しいだろうと思うのですね。
 それから、いろいろ出ていますが、A案というのは、自己のリスクでやれということなので、本来、文化庁がガイドラインを作るのはおかしいですね。文化庁長官が裁定をする場合に、文化庁が自分のところはこういうことでやりますというガイドラインを作る、これは自分のところで行う処分のガイドラインですから、当然あり得ます。しかし、これは裁判所で決める問題ですので、文化庁がガイドラインを作って、裁判所がそれをひっくり返したらどうしたらくれるのかという問題が生じます。
 したがって、A案はどちらかというと事前審査から事後審査へという、ある意味では日本的なものからアメリカ的なものへ、と言ってもいいかもしれませんけれども、そういう文化の移行みたいなものも入っている。今言いましたように、A案を取りつつ、なおかつ役所が何とかしてくれというのは矛盾ではないかと私は思っております。
 それから、渋谷委員のおっしゃった公示ですけれども、これはあまり現実的ではないと思いますね。裁判所の公示だって、裁判所の前へ行くと、ガラスのケースに入って吊るしてありますけれども、あんなものを見る人は誰もいない。6カ月間晒して色が変わった頃になって、これでもういいですよと、そういう処置にすぎないので、文化庁に何か紙を置いといても実際は誰も見ないので、手続が6カ月間遅延するということで終わるという感じはします。

【野村主査】

 瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 今、中山委員のお金の話というのは凄く重要で、それは常に出るのですね。こういう、あったら便利な機関を作るというと、誰が作るの、誰がお金出すのと。お金はみんな出さないのですね。そうすると名前だけできても有名無実であり結局機能しないと。そういうのはよく分かります。ただ、今回、著作者不明の著作物が少ないだろうとおっしゃられた部分ですけれども、私はそうは思わないのですよ。今、実際に使えなかったり、不明であるために使えない、小口だけれども大量の利用とか、非常に多くあると私は思っています。
 実際にそういうふうな不明で小口の利用があって、公示をしても、著作者に権利者意識がなくて、勝手に使ってもいいよみたいなことで、後での請求が少ないのではないかということもちょっと考えているのですね。ということは、その補償金はセンターをきちんと使うためのお金になると。お金の面ではもう少し安定してそれは運営できるのではないかなと。ただ、法的な立場でどこまでオフィシャルにしていくかということと、それがどういう法的な立場になるのか、もしくは法律の中で決められるかになると、大変大掛かりでしょうし、どうなるのか分かりませんけれども、法的には大変難しいということであれば、私としては分からない、「そうですか」とお伺いするしかないのですが、お金の面では、今回のそういうセンター構想というのは、私はかなり見込みがあると思って申し上げたいと思います。

【野村主査】

 それでは、久保田委員、どうぞ。

【久保田委員】

 公示制度については、インターネットの技術がどこまで普及していくか。必ず普及すると思うので、中山先生のご指摘の通り、確かに紙の公示というのはほとんど実効性がないと思いますけれども、そういう意味では公示制度とインターネットの関係というのは十分に考慮しておいて議論するべきだと思います。

【野村主査】

 それでは、渋谷委員、どうぞ。

【渋谷委員】

 公示制度ですけれども、実効性がないということは私も分かって言ったのです。ただ、こういう制度を作るときは制度の公正らしさというのが大事だと思うのですよ。権利制限なり強制許諾かもしれないけれども、自分の権利が、著作物を利用されてしまったという人がいるわけですから、その人を納得させるだけの公的な努力を払った形跡が残っていないと、手続というのはうまく運営されないのではないかと。
 現行制度ですと、利用者側が相当な努力を払って探したというわけですけれども、著作者の方から見れば本当にそうだったのかなと。後から自分の著作物が利用されたということが分かった場合、そんな疑いを持つような仕組みになっているのですけれども、そう思わせないような仕組み、公正な仕組みによる手続というものを備える必要があるのではないかと。そういう趣旨だったのですね。

【野村主査】

 それでは、椎名委員。

【椎名委員】

 ここで書かれている第三者機関のことですけれども、第三者機関がうまくいく試しがないというお話はよく分かるのですが、ここで第三者機関というのが出てきた経緯というのは、例えば権利者団体が引き受けてはどうか、あるいは、利用者側で積んではどうかという話が寄り合ってきて、権利者側で預かるというのもグレーな面がある、利用者側でも不十分であるということで、その間に何らか置くべきという意味で第三者機関ということが出てきた経緯があります。だから第三者機関と言っても、全くわけが分かっていない有識者の方が集まるとかいうことではなくて、権利者側、利用者側の等距離のところに、そういう知見を有する人が集まって第三者機関を設置するというような趣旨であったと記憶しています。

【野村主査】

 他にご発言いかがでしょう。三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 この第三者機関ですけれども、B案でも相当な努力は利用者側がやらなければいけないと書かれているのですが、実は使用料を払うのと、きちんと相当な努力を払うのとでは、相当な努力の方がよりお金がかかると思うのですね。ですから、相当な努力を利用者に強いるというのは現実的ではないと私は思います。ですから、相当な努力の部分をどうやって簡略化するということだと思います。
 例えば、現行では著作権情報センターにインターネットで掲示していると。こういうものだけでは不十分であるということであれば、定期的に新聞広告に「情報をここに出しておりますので、見てください」というようなものを出すということで、ある程度集中的にコストをかけることによって、利用者の側としては宣伝をしているサイトに載せるだけで相当な努力に代えることができるというようなシステムを作る必要があるだろうと思います。
 そうしますと、お金はかかる、それから、サイトの運営のためにも手間がかかります。でも、現行の2万円かかるというのではやはり使いづらいと思われますので、例えば非営利のものについてはお金が要らないようにする必要があると思いますし、営利目的の場合には、相応の使用料に該当する分ぐらいを、供託というのではなくて、相当な努力を払うための費用としてそこに出すと。もしも権利者が現れた場合には、その積み立てたものから払うとして、権利者が現れなかったら、それは運営資金にして消費してしまうというようなシステムにしないと、なかなかうまくいかないのではないかなと思います。
 自分で言っていてもこのシステムは変だと思います。何故かというと、宣伝にお金をかけて権利者が名乗り出てきたら、プールしたお金が減っていくわけですね。だから、これを怪しげな団体に任せてしまったら、宣伝しなければ権利者が名乗り出ないということで、お金が貯まるということなので、これは本当にフェアな第三者機関を設定してやる必要がある。これは文化庁さんが十分に監督すれば何とかなるのではないかなと思います。
 以上です。

【野村主査】

 他にご意見いかがでしょうか。中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 従来の紙での出版が中心であったような時代は別だと思うのですけれども、インターネット時代においては、他人の著作物を利用して行うビジネスというものは、何よりも大事なのはスピードなのですね。したがって、権利者不明の場合も、あまり厳格な手続、あるいは、長い公示期間を作るということは、新しいビジネスを抑制するということになりかねないと思うのですね。したがって、お金をどうするかは別として、なるべく迅速な手続を心がけるべきではないかと私は思います。

【野村主査】

 瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 私も今の中山委員の考えと同じで、利用者が法的なリスクを負うということと同時に、スピーディじゃないと使えないというのが現実にあると思うのですよ。そのために、探すという時間、各自が各自の判断で探している時間と判断というのは全部違いますよね、場合によっても違うし。それをどこかに、「ここに聞きました、後は継続してやってください。でも、そこに聞いた時点でスピーディに、使えるか使えないかが分かる状態もしくは、使えなければ不明者として補償金を支払って使える、そのスピード感をどこかで出していかないといけないのではないかと思います。結局、厳しくするといっても、リスクを残したり、今のように探索の時間を長くしては意味がないし、かといってそれで全部ズルズルにして、ただの使い放題だと駄目だしと、そこの悩ましいところをどうするかということで、私は間に一つ挟むという案を出したというところをご理解いただきたいと思います。

【野村主査】

 それでは、椎名委員、どうぞ。

【椎名委員】

 A案の問題点として先ほどからいろいろ出ているのですが、僕の方で指摘したのは、記録が残らないということと、使用料の支払いが担保されないということについてであって、ここをクリアすればいいと思うのですよ。必ずしもむやみに長い公示期間が設定される必要もないし、何らかのログがパブリックにとれていくということと、どこかに使用料が供託されるなり何なりしていくということが必要だと思います。
 それはなぜかというと、裁定制度の問題点として言われてきたのが、使用料の多寡に関わらず、利用のための料金が高すぎるという問題、それから時間がかかりすぎるという点であって、その点は解決した上で、ログをとることと使用料は確保するということが担保されればいいというふうに思います。

【野村主査】

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 記録だけならA案をとろうがB案をとろうが、それほど難しいことではないわけで、たとえば文化庁に通知しておくというような処置をとることは極めて容易で金もかからない。記録だけならばそれほど大きな問題はないと思います。

【野村主査】

 それでは、もう一つありますので、権利者不明の場合については以上にしまして、次に、29ページからの「4 次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化について」、それから、最後の38ページ、「5 その他の課題」ですけれども、29ページ以下について何かご意見ございましたら。
 三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 国会図書館におけるアーカイブというのは、法律を改正してオーケーにするということで、反対意見はないと思うのです。これを国会図書館で見る分にはいいのですけれども、地方の図書館で、せっかくデジタル情報になっているので、これを見たいという要望が必ず出てくるだろうと思います。そこで私が懸念するのは、前回も言いましたけれども、本来地方の図書館が買いそろえるべき本を、国会図書館にあるのを見られるということになりますと、買わなくなる。そうすると、少部数の出版が非常に難しくなって、日本の出版文化や文芸文化そのものが崩壊しかねないという危惧を持っております。
 例えば、地方の図書館が国会図書館のものを見られるということになりますと、地方の図書館が本来買いそろえるべき本を買わなくてもいいということになるので、それに相当する分として、国会図書館のものをネット配信か何かでとった場合に、1回に付き幾らか料金を払うと。もちろんこれは、図書館で本を見た人が払うのではなくて、図書館が払うわけでありますけれども、そうやって国会図書館から本を見られる。
 しかし、その都度お金を払うというようなシステムを仮に作ったとしたら、何回も国会図書館からつないでネットでとるとお金がかかるので、地方の図書館も利用の多いものについてはなるべく現物の本をそろえようということで、出版文化が守られるということにもなりますし、また、そこで払ったお金は出版社や著者に支払うということであれば、相応の埋め合わせはできるのではないかと。ですから、有料のシステムと組み合わせることによって、利用の利便性を図るということを考慮に入れれば、国会図書館以外の利用もあり得るのではないかなと思います。

【野村主査】

 常世田委員、どうぞ。

【常世田委員】

 ちょっと誤解があるのではないかなと思うのですが、現行での図書館法という法律の中で、相互貸借と言いますけれども、図書館同士で本を積極的に貸し借りして文化の振興を図れというふうに法律で決まっているわけであります。国会図書館から現在でも市町村図書館は借り受けることができているわけでありますので、現在の状況そのままのものがアーカイブ化されても存続しなければおかしなことになると私は思います。
 その時に、今は現物を各図書館で貸し出すわけですから、一時的には、全国3,100図書館は、国会図書館で1冊しか借りられませんので、手続や何かを入れますと、往復で1カ月ぐらいかかってしまうのですね。フル回転しても1年間で12人しか、12カ所の図書館しか借りられないということです。そのくらいものがアーカイブされても、例えばストリーミングで、1カ所の図書館しか使用権が認められないというような形にすべきだろうと思います。
 それから、国会図書館から借りる本は100パーセント、10年も20年も前に販売された本でありまして、これはほぼ100パーセント品切れ本です。ですから、そもそも購入することができない本ですので、その辺の利用が変化する、アーカイブ化されても変化するということはまず考えられない。もし新刊を国会図書館から借りるということがあるのであれば、今でもそれは起こっているはずですけれども、そんなことはそもそも存在しておりませんので、もしその辺の誤解があれば解いていただく必要があるかなと思います。

【野村主査】

 他にご意見いかがでしょうか。瀬尾委員、どうぞ。

【瀬尾委員】

 今のお話はいろいろな議論の中に出てきた話で、結局デジタル化したときの出版社さんとか著作者の危惧というのは、デジタル化をすると同時に、例えば1日に100見ることもできる、1年間に12冊しか見られなかったものが、1日に100人ずつ見られて、それ掛ける365日になってしまうのではないかという危惧が、三田委員のおっしゃった危惧だろうと思います。ただ、私も現実が分からないので、これについてはあまりコメントできなかったのですけれども、国会図書館から図書館に貸し出されている本の実態とか回数とか種類が分からないで議論をしているので、利用の全体像が見えないのですね。一方で、出版に対する全体像は見えているわけです、何部出さなきゃ出せないよという最低量も見えているわけですね。
 これは経済的な問題も絡んできますので、とりあえず国会図書館さんがアーカイブ化したときの運用に関してはそういう資料を見て、今、常世田委員のおっしゃっている内容であればあまり強い反対はないと思うのですよ。例えば、今は12人しか見られないけど、20人ぐらい見られてもいいのではないかという話も出るかもしれない。100人は駄目だけれども、もうちょっと見られてもいいとなったら、利便性も上がるかもしれない。ただ、それは量の問題と内容の問題ですので、もう少し資料等をきちんと検討した上で、デジタル化するということであれば、いろいろな形のアプローチと前向きな議論というものを、数字を基にしてやっていけば変な誤解と解釈の齟齬が生れないのではないかなと思うので、これからはそういう議論を進めていっていただきたいと思います。

【野村主査】

 それでは、先に常世田委員。

【常世田委員】

 もう一つお話ししなければいけないのは、今回の国会図書館のアーカイブは利用の側面よりもむしろ保存の側面を考えておりまして、先ほどお話ししましたように、今は文化的な財産である本を、現物を各地方の図書館に郵送しているわけでありますが、大変傷むわけです。下手をすると日本で1冊しかない本を実際に動かしているわけですから、これは避けたいということが大きな意味合いとして存在しておりますので、そのこともぜひお考えいただきたいと思います。

【野村主査】

 それでは、佐々木委員。

【佐々木(隆)委員】

 国会図書館のデジタル化につきましては、ワーキングで随分議論させていただいて、基本的にその重要性とか促進すべきであるというところは一致したわけでございますけれども、今、三田先生のおっしゃったその後の利用については、デジタルという特殊性があるので、関係者間の協議をやっていきましょうという枠組みができたので、そこをしっかり作っていけばいいのではないかと思います。
 今、常世田さんがおっしゃったように、非常に貴重なものとか、学術的なものとか、後世にきちんと残していかなければいけないものは分かるわけですけれども、反面、出版業界もデジタル化が進んでおりますから、出版界との競合という部分について全く可能性がないわけではないので、そういった面を将来に向けて議論していく場を作っていこうということで合意しているはずなので、そこでやるべきだと思います。

【野村主査】

 それでは、金委員。

【金委員】

 デジタル化することについては利害関係者にそう反対がないという認識、そして、その運用において今いろいろな意見が出ているのですが、常世田委員の意見の一番コアは、対象を絞るということだと思うのですね。現行、商業性がまだ残っているものと、残ってないもの、絶版などによって残ってないものと2つあると思うのですが、前者については今後議論を続けていけばいいと思うのですけれども、後者について反対する理由が果たしてあるのかどうか、そこについて言及いただければと思います。

【野村主査】

 常世田委員、どうぞ。

【常世田委員】

 もし商業的な価値があるものが国会図書館からの貸し出しによって、商業的な活動が阻害されているということであれば、現在でもそれは起きているはずであります。先ほどお話ししましたように、100パーセント品切れになっているようなものがほとんどでありますので、むしろ商業的な価値があるような本であれば、既にほかの図書館でも所蔵している可能性が高い。
 そういうものをいちいち国会図書館から借りるということは私たち図書館ではまずやらない。それはなぜかと言いますと、国会図書館は借りた図書館の館内での閲覧しかできないのです。借りた図書館はそこからさらに貸し出すということはできませんので、そんな不便なものをわざわざ国会図書館から取り寄せて利用者に「閲覧だけにしてください」というようなことはまずあり得ない。つまり、少しでも価値があるようなものは、他の図書館で、県立図書館などで所蔵している可能性が高いので、そちらから借りて、それは貸し出しができますので、そちらを利用するというのが実態になっております。
 ですから、繰り返しになりますけれども、図書館界としては、現行の制度、つまり国会図書館から借りた本を、一度には1人しか読めない、そして貸し出しをしない、借りた図書館の館内で閲覧だけをすると、そういう形のストリーミングのような形で、現状だけはともかく維持していただきたいということであります。「いや、一度に10人見てもいいよ」という権利者が出てくれば、それはもちろん個別に対応するというようなことで考えておりますので、その辺はご理解いただきたいと思います。

【野村主査】

 他にご意見いかがでしょうか。
 大体ご意見伺ったということでよろしいでしょうか。
 それでは、予定の時間もございますので、この(中間総括・案)についての議論はこの辺りにしたいと思います。いろいろご意見をいただきまして、特に権利者不明の場合の制度設計のイメージについてのA案、B案についてはかなり細かな意見もいただいておりますので、本日の意見の状況を含めて、先ほど事務局からご説明ありましたように、法制問題小委員会で検討されているデジタルコンテンツの流通促進法制とも関係しておりますので、次回の法制問題小委員会に当小委員会の検討状況として報告したいと思います。
 従いまして、本日お配りしております資料2よりも、若干修正あるいは意見の追加等があるかも知れませんけれども、その辺については事務局と私に一任させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

(3)今後の議論の進め方について

【野村主査】

 それでは、あと30分弱残っておりますけれども、今後の議論の進め方についてということで議論をお願いしたいと思います。
 検討課題の順序からしますと、次回以降は保護期間の在り方について議論するということになりますけれども、事務局から資料3についてご説明をお願いしたいと思います。

【黒沼著作権調査官】

 それでは、資料3でございます。次回以降、順番どおりにいけば、保護期間の在り方の議論になりますが、どういう観点から今後検証を深めればいいのかということについてお知恵をお借りできればということで、今回議論をお願いしたいと思っております。
 資料3は、保護期間延長にあたっての弊害として指摘されていた問題点と、今回の(中間総括)の中身を対応させて、簡単にまとめてみたものでございます。中身は重複しますので、逐一ご説明いたしませんけれども、「権利者の許諾をとるための調査が一層困難になるのではないか」ということにつきましては、民間での取組とか、制度による対応、また、「写り込み」については別途措置などの対策は、ある程度提案が得られつつあるということでございます。
 それから、「多数権利者のうち一部の許諾が得られない場合のコンテンツの二次利用」の問題につきましては、いろいろ分析していただいた結果、大きな問題は権利者不明の場合などではないかという取りまとめをいただいております。
 それから、「文化の継承のための文化遺産の蓄積・活用」につきましても、アーカイブ関係でいろいろご提言をいただいたということでございます。
 このように、保護期間延長にあたっての弊害として指摘された問題点につきましては、今までいろいろと検討が行われてきたわけですが、これによりまして、今後の保護期間関係の検討すべき課題がどう変わってくるのかということで、こないというご意見もあるかもしれませんし、あるいは、今までの弊害についての議論から、今度は保護期間延長についてのメリット、正当性などについての議論に移っていけばいいのか等々、いろいろご示唆を賜れればと思っております。今後どのような議論が必要なのかという点でお知恵をいただければと思います。よろしくお願いいたします。

【野村主査】

 ありがとうございました。
 保護期間の在り方については、延長すべきという意見も、消極的にメリットがないから延長すべきでないという意見、あるいは、積極的に弊害があるから延長すべきでないと、いろいろな意見が出されてまいりましたけれども、本日前半でご議論いただきました利用円滑化策の中間総括との関係を踏まえて、これまでの議論に何らかの修正が必要なのかどうか。特に、例えば弊害についての議論がどう変わってくるのかというような点についてご意見いただければと思います。
 それから、もう1点は、今後議論を進めていくにあたってどういう点を検証していけばいいのか。従来ですと、経済分析あるいは文化の創造サイクルとの関係などが挙げられていたところですけれども、そういった検証の観点についてもいろいろご意見をいただければと思います。
 金委員、どうぞ。

【金委員】

 資料3の左と右は関係があまりないような気がするのですね、直接的な関係は。保護期間を延長するにしてもしなくても、右側は進めなければいけない問題であって、それが保護期間延長を正当化する理由にはならないのではないかと思います。

【野村主査】

 それでは、中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 今の金委員の意見は全くその通りですけれども、この指摘された問題点以外にも、多くの問題点があったと思うのです。これは今日議論した問題と関係がある点だけを挙げたので、他にも問題点があるという前提でよろしいですか。

【黒沼著作権調査官】

 ご指摘のとおりでございます。

【野村主査】

 それでは、三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 昨年からこの小委員会をやっているわけでありまして、昨年、著作権保護期間の延長に反対であるという人の多数のご意見を伺ってきましたし、また、ここ以外でもシンポジウムなどがありまして、いろいろな方のご意見を伺ってきました。その中には、例えば著作権を登録制度にするとか、意思表示システムをしろとか、いろいろなご提案があったわけでありますけれども、今日議論されましたデータベースと裁定制度の簡略化が何らかの形で実現されましたら、ヒアリング等でご意見をいただいた問題点の何パーセントかはそれで解決できるのではないかなと考えております。
 一方で、解決されない問題というのは、そもそも著作権の存続期間が長い方がいいのか、短い方がいいのかというような根本的議論とか、それから、平田委員が指摘されました原作を基にして新たに創作をするといった場合に、許諾が得られない場合には現行の保護期間、50年を切れたものについては著作権フリーになるというような大きなメリットがあるということであります。そういうことに関しましても、今日いただいた資料2の3ページに、「オーストラリアでは、70年に延長した後に、公益目的の非営利利用、及びパロディ・風刺目的の公正な利用について、法改正が行われた」ということが書かれております。
 こういうものをもう少し検討して、正当な二次利用について何らかの形で自由に利用できる余地を作っておくというようなことが実現しましたら、平田委員の反対意見も緩和されるのではないかなというふうに考えます。結局、反対される方のご意見一つ一つに何らかの形で対応していくということで、今や世界標準になっている、70年への延長というのは、私としては何らかの形で実現に向けて進んでいきたいと考えております。

【野村主査】

 平田委員、どうぞ。

【平田委員】

 このオーストラリアの著作権法ですが、次の5ページは原文の英語がどうなっているのかちょっと分からないのですけれども、「パロディまたは風刺のために行われている場合」ということで、これは引用と同じような考え方で、批評性を持った場合には、元のものが引用できなければ批評ができないので、引用というのは許されていると思うのですが、それと恐らく同じ考えなのではないかと思います。
 それから、これは非常に曖昧な条文で、これで本当にオーストラリアは大丈夫なのかと心配になります。裁判になったときに裁判官はどういう判断を下すのか、こんな条文を作って、それから、海外の作品の場合に海外との不整合が起こらないのかどうか。これが本当にできるのだったら大変すばらしいと思いますけれども、50年、70年と関係なく、この文面を見ると適用されることのようですから、生存しているしていないに関わらずということでしょうから、こんなことが本当にできるのどうか、ぜひご検討いただきたいと思っております。
 もう1点、資料3で、「多数権利者のうち一部の許諾が得られない場合にコンテンツの二次利用が円滑に行えないのではないか」ということに対して、「放送番組の二次利用をモデルとして云々」と書いてありますけれども、私たち劇作家がこれまでも問題にしてきたのは、多数権利者ではなくて、1人の権利者でも恣意的に反対される事例が過去に沢山あったということは事実としてあるので、三田先生は「個別に対応して個別に解決していけばいいじゃないか」とおっしゃいますが、個別すぎて、これが解決されたからといって本質的な問題はちっとも解決されないわけです。
 つい最近も、名前は出しませんが、非常に有名な劇作家、ある新聞社の演劇賞の名前にもなっているような劇作家の著作権継承者であるプロデューサーが破産しまして、どうするか今演劇界では大変問題になっております。どうなるか本当に分からないですけれども、そういうことが実際に起こっておりますので、このように単純に片付けられる問題ではないと、一応指摘だけしておきます。

【野村主査】

 他にご意見ございましょうか。それでは、瀬尾委員、次に渋谷委員、お願いいたします。

【瀬尾委員】

 今回、著作物の流通円滑化ということで、過去の著作物ということで話をしてきて、今のパロディの話とか、フェアユースとか、登録制とかいろいろなお話が出てきました。これは前にも私が話したかもしれませんが、一つずつ別の問題だと私は思っております。例えば、フェアユース規定を入れるために、今の権利制限、このままの上にさらにフェアユース規定を乗せるのかとかいろいろな議論もあると思いますし、これは非常に重要なテーマではありますけれども、これは単独の問題です。それから、パロディに関しても、パロディというのは何だという定義とか、そこら辺のそもそも論もなしにパロディというものが議論されるということの問題もあります。また、例えば登録制。登録制を安易にとは言いませんが、著作権の中で登録という考え方を入れるということは非常に大きなことだと私は思っていますので、そのことについても一つの大きなテーマであるし、一つずつが非常に大きなテーマだと思っています。
 ただ、今、社会的に早急に要望のあるのは、先ほどの議論に出た不明の著作物をどのようにして迅速かつ公正に使うかというのが、社会的な利用としては一番強いところなのではないかなと感じております。50年から70年に延長する是非ももちろんありますけれども、延長するからフェアユースをつけようとか、そういう話ではないし、それをやると逆に議論不足になるような気がします。ですので、議論すべきこと、例えば50年から70年の延長問題は議論をして、更に状況を見ていくと。
 ただ、今日、非常に大きいと思ったのは、先ほどの不明の権利者に対する意見の中で、それに対応するのはよくないという意見はほとんどなく、それに対応しなければいけないという意見は皆さんほぼ一致していたというか、皆さんの意見の中で非常に肯定的だったように思いました、方法論は別にして。ですので、そういうふうな部分からきちんと形にして結論を出していけば、この委員会の役割は果たせると思います。変にいろいろなものを天秤に乗せたような形にはしない部分、もちろんプラスマイナスはあるのかも知れませんが、パロディとフェアユース、登録制、この3つに関しては、今回の問題とは切り離して考えるべきだと思っておりますので、それを考えることで、50年、70年の問題に資するというのは、私は反対です。

【野村主査】

 それでは、渋谷委員、どうぞ。

【渋谷委員】

 こういう公式の場で言うべき意見ではないかもしれないのですけれども、著作権にもいろいろありますよね。その内どの著作権が延びると具合が悪いのかといったことを考える必要があるのではないでしょうかね。全くの観念論、抽象論ですけれども、例えば翻案権というのはあまり長くしてしまうと、文化の豊かさを制約してしまうようなところがあるから、例えば翻案権は50年のままにしておくとかですね。
 しかし、単純な複製するだけの複製権の方は少し長くして、特に現代はインターネット社会で、デジタル化社会で簡単に複製ができますよね。かつてのように複製するということについてあまりコストをかけないで良いようになっているわけだから、デジタル化による利用者には、これまでの著作権法の歴史を踏まえて言うならば、少し負担を重くしてやるというようなことも考えられていいわけです。その意味では、デジタル化複製権というのは70年でよろしいとか、そんなふうに考えることもできるのではないかなと。著作物の種類によって期間をいろいろにするというのは、映画の著作物とか、以前の写真の著作物とかあったわけですから、そっちの方はそういうふうに按配をしているのですけれども、権利の方も一つ考えてみてはどうかということであります。

【野村主査】

 他に。野原委員、どうぞ。

【野原委員】

 資料3のような形で、保護期間の延長をする、しないという問題と、利用円滑化方策を関係付けて議論するのは私も反対で、こういった資料を出すということ自体、事務局の方にやめていただきたいなと思います。著作権は延ばすことが前提で、そのために問題を潰していくというような議論のやり方だと思うのですけれども、そういうことを議論している場ではないと私は理解していまして、著作権は長い方がいいのか、短い方がいいのかということとか、著作権というのは、インターネット社会、デジタル社会の中でどう変わっていくべきなのかということを、きちんと考えるべきだと思いますので、皆さんの意見が出たのを1個1個潰していって、70年にしましょうみたいな議事の進め方は少し違うのではないかと思います。

【野村主査】

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 私も今の野原委員や先ほどの金委員と同じですけれども、右欄は延長と関係なくやってほしいですね。例えば、データベースの構築、実質的に死語50年以上もつ著作物というのはごくわずかです。データベースを構築して利益を得るのは、九十数パーセントの、50年以内に生命が尽きてしまう著作物なのですね。従って、これをやったからといって著作権延長の根拠にはならないと思いますし、仮になるとしましても、それが1パーセントか2パーセントか3パーセントか知りませんけれども、たった一握りの著作物のためにデータベースをきちんと作ってくれるのか、ひ孫の住所・氏名まできちんと調べて、金をかけてやってくれるのでしょうか。フィージビリティの点からしても、右欄のことは権利期間の延長とは結びつけるべきではないという感じがいたします。

【野村主査】

 他にご意見いかがでしょうか。三田委員、どうぞ。

【三田委員】

 今、中山先生が言われたように、死後50年以降経済的な価値を持っている著作物というのは非常に少ないわけです。ですから、そういうものだけデータベースに残しておいて、データベースにないもの、あるいは、データベースに出ているけれども、ご遺族が意思表示をして、著作権フリーだよというようなものをデータベースで告知してことによって、現在50年で著作権が切れてフリーになっているものの大部分が、同じように自由に使えるというような状況が実現するのではないかなと私は考えております。つまり、データベースの中で意思表示をすると同時に、データベースがないものについては、簡易な裁定制度によって自由に使えるようになる。ですから、データベースや裁定制度というのは著作権の延長問題とある程度関わりがあることではないかなと考えております。

【野村主査】

 津田委員、どうぞ。

【津田委員】

 資料3のところで言うと、今日は右の利用円滑化方策の方をお話しになっていたと思うのですけれども、先ほど三田委員から右の方に書かれていることが実現に向けて努力されて、実現されたら延長していただきたいというご意見があったと思うのですが、今日のお話全体を伺っていて、右側の利用円滑化方策は実現するにはいろいろ困難がありそうだという理解を僕はしていたのです。ですから、それが実現されたらという前提でお話を進めるのはフェアじゃないなという気がします。右と左は切り離して議論するのが前提かなという気がします。
 それから、渋谷委員から先ほど、デジタル著作権、インターネットとかデジタル技術が発達したことによって、複製が簡単になったことがあるので、それは70年にするという手当ても考えられるのではないかという意見は、非常に分かりやすいところもあると思うのですが、逆にインターネットという面から考えていくと、インターネットが登場してちょうど10年ぐらいたって、その間、常時接続技術が出てきたり、回線で言えば当初の何万倍みたいな形で伸びてきたわけですね。
 デジタルの時代に70年後のことはなかなか想像がつかないようなところがあって、複製が簡単になったことというのはいろいろな面がありまして、当然インターネットのような形で情報の共有がスタートしたことによる著作権の問題は起きているけれども、社会的に見たら多くの人に情報入手の公平性が上がって、そういった人々の情報リテラシーの向上に一役買っているという面もあるわけです。それは、権利という意味では確かに被害が出ている面があるかもしれませんけれども、逆に一般的な社会全体の公益性というところで考えれば、豊かさをもたらしているというところもあるので、そういった全体のところのケアもしながら、最適な著作権、保護期間だけではなくて、こういった利用円滑化も含めて議論しなければいけないのではないかと思いました。
 以上です。

【野村主査】

 中山委員、どうぞ。

【中山委員】

 渋谷委員の翻案権と複製権とに分けるということですけれども、例えば青空文庫ですね、アメリカにも同じようなものがありますが、青空文庫では期間の切れたものをデジタル化して、それを公衆送信しているわけです。あれは恐らく青空文庫がなければ権利が切れて、商業的な利用価値はなくて、ほとんど読まれなくなっているものをインターネットを通じ読まれるようになるというメリットがあるわけです。それを70年にしてしまうと、青空文庫は延長される20年分は、原則としてできなくなるということになるわけで、社会的な影響は物凄く大きいわけですね。翻案と複製を分けて期間を考えるということはかなり難しいし、翻案と複製の範囲がまた非常に難しくてなかなか区別がつかない。もし法で2つに分けた場合に、効果が違ってくると大変なことになるのではないかという気がします。
 それから、これは私個人の経験ですが、相当前に明治期の雑誌を復刻したことがあるのですけれども、これはなかなか大変で、ほとんど死んでから50年経っているだろうというのでやったのですね。こんなことは記録に残すとまずいですね(笑声)。20年延びていたらそういう推測は働かなくて、もしかしたら懲役10年かなと思うと復刻もできない。これは復刻ですから、全くそのままの複製です。従って、複製だから70年、あるいは、デジタルの複製だから70年、翻案を50年というのは難しいのではないかという気がいたします。

【渋谷委員】

 ちょっと哲学論になるのですけれども、500円DVDというのがありますよね。著作権が切れるといきなりああいうものがわっと出てくるのです。そうすると、私みたいにあまり時間のない人間は、映画を見たければ、新作の映画を見ないで、DVDを買ってきてちょっと覗くというような、そんなふうに行動しそうな感じがするのですよ。そうすると、簡単にデジタル複製して、それを利用者に提供できるとなると、過去の文化遺産に依存するような文化状態というのがだんだん形成されてくるのではないかなと、そういう予感がするのですね。
 むしろデジタル複製を困難にというか、負担をかけておけば、新しい著作物の創作をせざるを得ないということになるのですね。権利が一種のブロック作用を営みまして、そのブロックを避けた新たな創作物ができ上がると。特許法の世界などはそういう現象が著しいわけですね。ただし、特許権を侵害したくなければ、自分のところで開発しなくちゃいけない。それが非常に大きな作用を営んでいるわけです。そんなイメージを私は持っているものですから、先ほどのことを申し上げたわけです。
 こんな公式の場合で言うような意見ではないということは冒頭に申しました。大学院のゼミででもみんなでがやがやと話せばいいような内容ですが、そういうことであります。

【野村主査】

 他にご意見いかがですか。では、上野委員、どうぞ。

【上野委員】

 27条と28条の権利とそれ以外の権利を区別して、保護期間を延長するとしても、27条と28条以外の権利のみ延長するという選択肢もあるのではないかというのは、この小委員会の第1回のときに私が、あくまで選択肢としてではありますが申し上げたことであります。
 ただ、その理由は、保護期間延長に反対する側の意見の中に、保護期間を延長してしまうと新たな創作行為の阻害になるのではないかという懸念があるようだったからです。つまり、27条と28条の権利が消滅すれば、他人の著作物をそのまま利用する場合には許されないけれども、新たな創作性を加えた場合は許されるということになります。そうすれば、新たな創作行為を行うという表現の自由を確保するということになりますし、また、新たな創作性を加えれば自由に使えるということから新たな創作行為の契機になることも考えられますので、そのような観点からこうした調整の方法もあり得るのではないかと、理論的な観点からこのように考えてみたわけであります。
 ただ、いくら27条と28条の権利が消滅しても、それ以外の著作権が存続する以上は、何の創作性も加えずに、他人の著作物をそのまま利用することはできなくなります。例えば、青空文庫のように他人の著作物をそのまま公衆送信しているというようなものが結論としてできなくなるわけです。そうしますと、27条と28条の権利以外の著作権のみを延長するという選択肢の是非は、このような結論をどう評価するかという問題だろうと思います。

【野村主査】

 他にご意見いかがでしょう。生野委員、どうぞ。

【生野委員】

 翻案の話ではないのですが、先ほどから資料3に関していろいろ指摘がありました。利用円滑化方策は、保護期間を延長するかどうかとは関係なく進めるべきと。それは私もそう思うのですが、これまで保護期間を延長すべき、またはすべきでないという議論があって、反対する立場から利用円滑化に関するいろいろな指摘がありました。その指摘に対してどういう対応策があるかということも検討されて、それを左・右でこういう形に整理しただけの資料で、これを恣意的に延長の方に持っていくための資料だとは全然思わないし、一旦こういう形で整理した上で、さてこの先どう議論していくのか、検討していくのかというのを考えればいいと思いますので、私はこの資料はこの資料としての意味があると思います。

【野村主査】

 他にいかがでしょうか。どうぞ。

【黒沼著作権調査官】

 資料3が波紋を呼んでしまって恐縮でございます。趣旨としましては、生野委員ご指摘のようなつもりでございます。今回の利用円滑化方策が保護期間延長との関係だけから出てきたものではないということは、資料2の「はじめに」をはじめ各節の課題の整理のところで、両方の側面があるということを明記してございますので、保護期間延長との関係だけでこの資料3を位置付ける趣旨でないことはご理解いただければと思っております。
 その上で、今後、保護期間延長についてどういう議論をすればいいのかということに関しまして、保護期間延長の議論をするときに更にまた弊害の議論を重ねてするのか、それとも、今後は、70年に延長することにどういうメリットがあるのか、正当性があるのかなど、それ以外の議論に集中していくのか、そういうことについてご意見をいただきたくてこのような資料をご用意したということでございます。

(4)閉会

【野村主査】

 それでは、予定の時間がまいりましたので、本日はこのくらいにしたいと思いますが、次回につきましては、本日いただいたご意見を踏まえてどういう議題を設定するかということを調整したいと思います。利用円滑化方策との関連は、今、事務局から説明がありましたように、従来、延長についての弊害として指摘された問題が円滑化方策の中でかなり議論されてきたということで、むしろ他の観点についてもう少し掘り下げて議論していきたいと趣旨でございますので、よろしくお願いしたいと思います。
 それでは、事務局から今後の予定について説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】

 本日はありがとうございました。
 次回の開催日程ですけれども、どういう議題をセットするかに合わせて調整しようと思っておりますので、改めてご連絡をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【野村主査】

 それでは、これで第3回の過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

(文化庁著作権課)