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1.はじめに

  •  本小委員会では、「著作権法における今後の検討課題」(平成17年1月24日文化審議会著作権分科会)に基づき、著作権等の保護期間の在り方を検討課題としているが、一方で、文化価値の共有・普及や次代の文化創造にもつながる貴重なコンテンツを円滑に流通させ、死蔵による社会の損失を防止するとの観点から、関係団体からの要請により、保護期間の延長をした場合の文化的経済的影響、及びデータベースの整備や実効性のある裁定制度その他、保護期間の延長をした場合に利用が困難にならないようにするための利用円滑化方策について、併せて検討課題としている。
  •  昨年10月には、「文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会における検討状況」(以下「昨年10月の検討状況の整理」という。)として、その時点での論点の整理を行ったが、その中では、利用の円滑化のための課題や要望として、
    •  権利情報のデータベース(所在、生没年、戦時加算対象物、管理事業者の管理著作物の範囲)の構築など権利情報の管理の仕組みを整えることや、権利の集中管理を一層促進すること、
    •  特別な場合にしか使用されていない裁定制度を(著作隣接権の場合も含め)より簡易に使えるようにすることや、アメリカやイギリスの検討例を参考に需要に見合ったコストで著作物が利用できる方策を整えること、
    •  複数の権利者のうち一部の反対のみで全体が利用できなくなるような事態を避けること
    •  過去の文化遺産を土台とした二次的創作や文化の継承のためのアーカイブ活動の制約にならないようにするための措置が必要
    などの指摘がなされた。
  •  これらの点に加えて、法制問題小委員会では、「知的財産推進計画2007」(平成19年5月31日知的財産戦略本部決定)や「経済財政改革の基本方針2007」(平成19年6月19日閣議決定)において2年以内に整備することが求められている「デジタルコンテンツ流通促進法制」の検討に際して、この提言の問題意識・背景を、「過去にインターネット以外の流通媒体での利用を想定して製作されたコンテンツをインターネットで二次利用するに当たっての著作権法上の課題」であると分析・整理しており、この二次利用の円滑化の観点からも、過去の著作物等の利用の円滑化のための方策が求められている。
  •  なお、法制問題小委員会でも整理されているように(注1)、コンテンツの二次利用に当たって著作権等が課題になる場合とは、既に製作されたコンテンツを別の用途で、又はコンテンツ製作者とは別の者が用いることについて、著作権者等から改めて利用許諾を得なければならず、かつ、それが困難なときであるが、実際には、著作権等管理団体に権利を委託している者、権利者団体と利用者団体との協定が適用されている者については、所定の規程や協定のルールに従って、一定の使用料を支払うことにより、ほぼ自動的に利用許諾が得られる仕組みとなっており、二次利用について許諾が得られない場合とは、実のところ、
    •  多くは、これらの団体に権利を委託していない者、ルールが適用されていない者や、所在不明の権利者の場合であり、
    •  その他には、実演家のイメージ戦略、経済的価値の維持のために許諾をしない場合や、権利者の思想信条(例えば、論説やインタビュー等について制作時と考え方が変わっている)に関係する場合
    にほぼ限られている。
  •  このような観点からは、本小委員会で要望、指摘された前述の検討課題と、法制問題小委員会から検討を求められている過去のコンテンツの二次利用に当たっての課題とは、大きな部分において共通の課題である。本小委員会では、このような双方の問題意識を踏まえつつ、指摘された課題や要望について、
    •  多数権利者が関わる場合の利用の円滑化、
    •  権利者不明の場合の利用の円滑化、
    •  次代の文化の土台となるアーカイブの円滑化、
    •  その他の課題
    に分けて、それぞれ議論を行うとともに、特に実務の実態について精査が必要となった「多数権利者が関係する場合の実演の利用の円滑化」、「図書館等におけるアーカイブ活動の円滑化」については、本小委員会の下にワーキングチームを設置して、関係者も交えて実務の実態を踏まえつつ、検討を行ったところである。

【参考】諸外国の保護期間延長の際の措置例

  •  著作権の保護期間を既に著作者の死後70年に延長している国においては、中には、保護期間の延長の是非やその弊害に対する対策等について活発に論じられているものもある。主な国では、過去の保護期間延長の際に、次のような代替措置の例が見受けられる(注2)。【参照条文p.4】
  •  諸外国の中で最初(1965年)に70年に延長したドイツでは、延長の代替としての利用円滑化方策の議論は特に見あたらないが、次いで延長したフランスでは、
    •  まず1985年に音楽の著作物について70年に延長した際に、著作者の相続人による利用許諾権の濫用、権利者の不明、又は相続権主張者の不存在、若しくは相続人の不存在の場合において、著作物を利用しようとする者が大審裁判所に申立てを行い、あらゆる適切な措置を命ずる判決を得ることができるとする措置を導入している。
    •  また、1997年にEU指令を受け、全ての著作物について70年に延長した際には、共同著作物として、共同著作者中の最後の生存者の死後から保護期間を計算していた映画の著作物について、起算の基となる者を限定(脚本の著作者、台詞の著作者、音楽著作物の著作者、監督)する措置を講じている。
  •  イギリスでは、1995年にEU指令を受け70年に延長したが、その際には、特に延長の代替としての利用円滑化方策の議論は見あたらないものの、その後、2005年12月にアンドリュー・ガウワーズ氏(Financial Timesの元編集長)に対し、イギリスの知的財産の枠組みについての報告書の提出を依頼し、2006年12月にガウワーズ・レビュー最終答申が公表されている。その中では、権利者不明著作物の対策の必要性が述べられ、利用者が合理的な調査を行うことを条件とする権利制限規定や、権利者情報を任意に登録するシステムの整備などを提案している。
  •  アメリカでは、1998年に70年に延長した際に、図書館や文書資料館において、保護期間の最後の20年間は、通常の商業的利用の対象でなく合理的価格で入手できない公表著作物については文書の保存を目的とした複製・頒布等を許容する規定が追加されている。
     また、その後においても、「孤児著作物」と呼ばれる権利者不明の場合の対応策について議論等(注3)が活発に行われており、2006年に著作権局が「孤児著作物に関する報告書(Report on Orphan Works)」をまとめている。その後2度にわたり、利用者が、真摯な調査を行ったが著作権者の所在を特定できない場合で、かつ、可能な限り適切な著作者・著作権者の表示を行ったことを利用者が証明した場合、著作権者が後に出現して著作権侵害の請求を行ったとしても、救済手段(金銭的救済等)を制限することを内容とする法案が提出されたが、いずれも廃案となっている。また、現在、新たな法案が議会提出されている(注4)。
  •  オーストラリアでは、2005年に70年に延長した後、2006年に公益目的(図書館、教育機関、障害者福祉)の非営利利用、パロディ・風刺目的の公正な利用についての権利制限を含む、創作活動の促進を目的とした著作権法改正が行われている(注5)。
  •  また、韓国では、2007年の米韓FTAの締結を受け、現在、著作権の保護期間を70年に延長することを内容に含む法案が提出されている最中であるが、その法案の中には、フェアユース(公正利用)の規定や一時的蓄積についての権利制限などの措置が、併せて盛り込まれている(注6)。
  •  このように、既に保護期間の延長を行った又は決定した国においても、権利者不明の場合の対策、図書館等の非商業的な利用や、日常的で小規模な利用の円滑化が、中心的な対策となっていることが見て取れる。
  • (注2) 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成20年3月14日・第8期第1回)配付資料「諸外国の保護期間延長の際の議論(※過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第1回)議事録・配付資料へリンク)」より
  • (注3) なお、保護期間延長の代替措置そのものについての議論ではないが、保護期間を延長した1998年改正法が、言論・出版の自由を定めた憲法に違反するのではないかと争われた訴訟(Eldred v. Ashcroft, 534U.S.1160(2002))において、これを合憲とした法定意見の中では、公正利用の場合には著作権の効力が及ばない(フェアユース理論)等の著作権の内在的な調整原理の存在が、憲法違反ではないことの理由として挙げられている。
  • (注4) Orphan Works Act of 2006 H.R.5439,109th Cong. ; Copyright Modernization Act of 2006 H.R.6052. 109th Cong. ;現在提出中のものは、Orphan Works Act of 2008, H.R.5889,及びShawn Bentley Orphan Works Act of 2008, S.2913, 110th Cong.
  • (注5) 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(平成19年9月3日・第7期第7回)配付資料「諸外国における保護期間に関する議論の動向(※過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第7回)議事録・配付資料へリンク)」より
  • (注6) 2007年12月26日「著作権法一部改正法律案」(韓国文化観光庁HPより)
     ただし、同HPによれば、公正利用の規定については、技術の発展に応じた著作権保護強化との関連で設けられた旨が記載されており、特に保護期間延長に伴う措置であるとは説明されていない。

【参照条文】

1フランス著作権法(注7)

  • L122-9条
     L121-2条に定める死亡著作者の代理人による利用権の行使または不行使において濫用が生じた場合、大審裁判所はあらゆる適切な措置を命ずることができる。複数の代理人間で対立がある場合、権利者不在の場合、または相続権主張者の不存在もしくは相続人の不存在の場合も同様とする。
     大審裁判所は、特に文化担当大臣によって提訴されることができる。
  • L123-2条2項
     視聴覚著作物については、〔保護期間の計算の〕基準となる年は、以下の共同著作者のうち最後の生存者の死亡した年とする。脚本の著作者、台詞の著作者、視聴覚著作物のために特別に作曲された歌詞付きまたは歌詞なしの音楽著作物の著作者、主たる監督
  • 旧L123-3条2項
     仮名著作物、匿名著作物または集合著作物が段階的に公表される場合、保護期間はそれぞれの要素の公表の翌年の1月1日から起算する。ただし、公表が最初の要素の公表から起算して20年内に終了した場合は、著作物全体についての排他権は最後の要素の公表の年に続く50年の満了時にはじめて消滅する。
  • (注7) 株式会社三菱UFJコンサルティング&リサーチ編「著作物等の保護と利用円滑化方策に関する調査研究『諸外国の著作物等の保護期間について』報告書」(平成20年2月)のうち大橋麻也氏・執筆部分より。

2アメリカ著作権法(注8)

  • 第108条(h) 図書館・文書資料館による利用
    • (1) 本条において発行著作物に対する著作権の保護期間の最後の20年間に、図書館または文書料館(図書館または文書資料館として機能する非営利的教育機関を含む)は、合理的な調査に基づいて第(2)項(A)、(B)および(C)に定める条件に該当しないと判断した場合には、保存、学問又は研究のために、かかる著作物又はその一部のコピーまたはレコードをファクシミリ又はデジタル形式にて複製、頒布、展示又は実演することができる。
    • (2) 以下のいずれかの場合、複製、頒布、展示または実演は本条において認められない。
      • (A) 著作物が通常の商業的利用の対象である場合。
      • (B) 著作物のコピー又はレコードが合理的価格で入手できる場合。
      • (C) 著作権者又はその代理人が、著作権局長が定める規則に従って、第(A)号または第(B)号に定める条件が適用される旨の通知を行う場合。
    • (3) 本節に定める免除は図書館又は文書資料館以外の使用者による以後の使用には適用されない。
  • 第504条 侵害に対する救済:損害賠償及び利益
    • (c) 法定損害賠償―
      • (2) 侵害が故意に行われたものであることにつき、著作権者が立証責任を果たしかつ裁判所がこれを認定した場合、裁判所は、その裁量により法定損害賠償の額を、150,000ドルを限度として増額することができる。侵害者の行為が著作権の侵害にあたることを侵害者が知らずかつかく信じる理由がなかったことにつき、侵害者が立証責任を果たしかつ裁判所がこれを認定した場合、裁判所は、その裁量により法定損害賠償の額200ドルを下限として、減額することができる。著作権のある著作物の利用が第107条に定めるフェアユースであると侵害者が信じかつかく信じるにつき合理的な根拠があった場合、侵害者が
        • 1) 非営利的教育機関、図書館もしくは文書資料館の被用者もしくは代理人としてその雇用の範囲内で行動している者、または非営利的教育機関、図書館もしくは文書資料館であって、著作物をコピーまたはレコードに複製することにより著作権を侵害したとき、または
        • 2) 公共放送事業者または個人であって、公共放送事業者の非営利的活動の通常の一部(第118条(g)に規定する)として、既発行の非演劇的音楽著作物を実演しまたはかかる著作物の実演を収録した送信番組を複製することによって著作権を侵害したときには、
        裁判所は、法定損害賠償額の支払を減免しなければならない。
  • (注8) 株式会社三菱UFJコンサルティング&リサーチ編「コンテンツの円滑な利用の促進に係る著作権制度に関する調査研究報告書」(平成19年3月)のうち山本隆司氏・執筆部分より。

3オーストラリア著作権法(注9)

  • 第41A条 パロディまたは風刺のための公正利用
     言語、演劇、音楽もしくは美術著作物または言語、演劇もしくは音楽著作物の翻案物の公正利用は、パロディまたは風刺のために行われている場合には、当該著作物に対する著作権の侵害にあたらない。
  • (注9) 2007年7月 FTA交渉における日本政府からの質問に対する豪州政府の回答より。事務局仮訳。

4韓国著作権法(改正案)(注10)

  • 第35条の2(著作物利用過程の一時的複製)
     コンピュータ等を通して、正当に著作物を利用する技術的過程の一部として複製物が作られることが必須に要請される場合にはこれを一時的に複製することができる。
     ただし、不法複製物から一時的複製が起きる場合にはそうでない。
  • 第35条の3(著作物の公正利用)
    • 1 第23条から第35条の2までに規定された場合のほか、著作物の通常の利用方法と衝突せず、著作者の合法的な利益を不合理に害しない特定の場合には著作物を利用することができる。
    • 2 著作物利用行為が第1項の公正利用に該当するのか可否を判断するに当たっては次の各号の事項を考慮しなければならない。
      1. 営利非営利など利用の目的および性格
      2. 著作物の種類および用途
      3. 利用された部分が著作物全体で占める分量および比重
      4. 利用が著作物の現在または将来の市場や価値に及ぼす影響
  • (注10) 2007年12月26日「著作権法一部改正法律案」(韓国文化観光庁HP)より。事務局仮訳。