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著作権分科会 法制問題小委員会(第3回)議事録・配付資料

1. 日時
平成19年5月11日(金曜日)10時〜12時3分

2. 場所
霞が関東京會舘「シルバースタールーム」

3. 出席者
(委員)
青山,市川,大渕,末吉,多賀谷,茶園,道垣内,中山,松田,村上,の各委員,野村分科会長
(文化庁)
吉田長官官房審議官,甲野著作権課長,亀岡国際課長,川瀬著作物流通推進室長,ほか関係者

4. 議事次第
1  開会
2  議事
(1) デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方について
(2) 海賊版の拡大防止のための法的措置の在り方について
(3) その他
3  閉会

5. 配付資料一覧
 
資料1   デジタルコンテンツの特質に応じた制度についての主な論点
資料2 デジタルコンテンツの特質に応じた制度の主な背景
資料3 過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書の概要について
資料4 海賊版の広告行為の類型と主な論点
資料5 インターネット上での海賊版対策と広告行為について(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会作成資料)
資料6 著作権法における親告罪についての主な論点
資料7 著作権等侵害罪の公訴までの流れ(例)(PDF:55KB)
(参考資料)
 
参考資料1   過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書(PDFファイル)
(※文化庁ホームページへリンク)
参考資料2 著作権罰則の非親告罪化に関する意見書(日本弁護士連合会)(第2回参考資料)(PDF:185KB)
(※(第2回)議事録・配付資料へリンク)

6. 議事内容
【中山主査】
 それでは、時間でございますので、ただいまから文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第3回を開催いたします。本日は、御多忙中のところ、お集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 議事に入ります前に、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参酌いたしますと、特段非公開とするには及ばないと思われますので、傍聴者の方々には既に御入場していただいておりますけれども、この処置でよろしゅうございましょうか。

(「異議なし」の声あり)

【中山主査】
 ありがとうございます。
 それでは、本日の議事は公開ということにいたしまして、傍聴者の方々には、そのまま傍聴をしていただきたいと思います。
 まず、事務局において人事異動があるようでございますので、紹介をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 それでは、紹介させていただきます。文化庁長官官房国際課長でございますが、秋葉の後任として、5月1日付で、文部科学省大臣官房文部科学広報官から亀岡雄が着任しております。

【亀岡国際課長】
 亀岡でございます。どうぞよろしく。

【中山主査】
 それでは、まず事務局から、配付資料の確認をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 お手元の座席表の下に議事次第の1枚紙がございますけれども、その真ん中から下に配付資料の一覧ということで記載がございますので、それと見比べながらお願いいたします。
 資料1は、デジタルコンテンツの特質に応じた制度についての主な論点、資料2が、デジタルコンテンツの特質に応じた制度の主な背景、資料3として、過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書の概要、資料4が、著作権法における海賊版の広告行為についての主な論点、資料5が、インターネット上での海賊版対策と広告行為について、資料6は、著作権法における親告罪についての主な論点、資料7は、1枚紙でございますが、著作権法等侵害罪の公訴までの流れ、参考資料として2点お配りしてございまして、参考資料1は、資料3の過去の放送番組の二次利用の促進に関する報告書の本体でございます。それと参考資料2は、こちらは前回もお配りしたものですが、前回御紹介をし損ねましたので、もう一度配らせていただいております。日本弁護士連合会の意見書でございます。以上でございます。

【中山主査】
 よろしいでしょうか。それでは、本日は議事が錯綜しておりますので、議事の段取りについてまず、確認をしておきたいと思います。
 本日検討していただきたい事項は、前回に引き続きまして、まず、デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方についてと、海賊版の拡大防止のための法的措置についての2点でございます。まず前半は、デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方についてでございますけれども、これは前回の御議論でさまざまな意見を頂戴いたしましたが、それらを踏まえまして、事務局におきまして論点ごとにまとめていただいたものがございます。それを報告していただきまして、その後、質疑応答及び自由討議としたいと思います。
 次に後半は、海賊版の拡大防止のための法的措置についてでございますけれども、これについての主な論点は、1番目は海賊版の広告行為に対する取り締まりについて、2番目は、著作権法における親告罪のあり方についての2点でございます。それぞれにつきまして、事務局において論点ごとに意見をまとめたものについて報告を頂戴した後、質疑応答及び自由討議ということにしたいと思います。

(1) デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方について
【中山主査】
 では初めに、デジタルコンテンツの特質に応じた制度の在り方について、検討を行ってまいりたいと思います。事務局からまず、説明をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 それでは、該当の資料は資料1から3になりますけれども、まず、資料1と2について、私のほうから御説明させていただきます。
 資料1でございます。前回、デジタルコンテンツ関係の主な提案につきましては、大きく4つのタイプの御提案を紹介させていただいたところでございますが、今回はその中から、共通的もしくは特徴的に挙げられていた幾つかの制度について、それぞれ個別に取り出しまして、詳細に御検討いただければということで資料をまとめさせていただいたものでございます。資料の構成といたしましては、前回の法制問題小委員会の配付資料1の(2)検討すべき点についてで論点を幾つか例示させていただきましたが、それにつきまして、前回までに出てきた意見をそれぞれ書かせていただいております。簡単に御紹介させていただきますと、まず、議論の対象についての御意見でございましたが、そもそもデジタルコンテンツの定義をどうするのかと。それから、放送番組などがございますけれども、どういったものを念頭に置いて議論をしていくのか、こういうものを明確にしないと話が進まないのではないかと、そういった御意見がございました。
 その次に1としまして、著作権や人格権の放棄や不行使といった制度を活用することについてどうかということでございましたが、主な意見といたしましては、権利放棄などは今でも可能である場合もございますけれども、果たして法的な手当てというのは必要があるのかどうかという御意見。放棄できないようなものまで放棄できるようにしようという提案なのか、そういったものを明確にしないと議論は進まないという御意見や、最後のこめじるしのところですが、仮に法的な手当てが必要になるとしたらということで、一度、表明した意思を事後に撤回した場合に生じる効果を限定的にするとか、もしくは表示された意思を信頼して取引関係に入った人の保護をするとしたら法的手当てが必要になると思うが、そういった場合にいろいろな制度との関係でどういう問題点が生じるのかというようなことが、論点としてまだ出てないものであると思います。
 それと2番目でございますけれども、こちらは前回までに出た御意見で最も多かった部分でございますが、新たな登録制度をつくることについてでございます。主な意見といたしましては、登録をして何らかの利益が得られるというような仕組みを想定する場合には、条約上、何らかのメリットを内国民待遇で与えなければいけないので、そういった外国人などすべてを対象にした登録制度というものの実現可能性があるのかどうかというような御意見がございました。その次の点ですけれども、日本で特別法を制定するということになっても、インターネットでは特に国境の境目とかがはっきりしませんので、限界づけは難しいのではないかという御意見がございました。
 3番目でございますが、利用者側からの登録をして一定の権利の制約が加わるというような制度を想定した場合には、どのような正当性を持たせるのかによって、法制的に成り立つのかどうか、そういった疑問があるという御意見がございました。
 次のページでございますけれども、その次は、権利者が自らの意思によって登録を行うというパターンでございますけれども、こういったパターンの登録制度については、いわば権利者自身が同意の上で自分の権利を処分するということでありまして、こういった仕組みであれば法的な手当てがなくても、今でもできるのではないかというような御指摘がございました。その後、登録したら、例えば特に記載がない事項についてはこういった意思だと推定する、あるいは、みなすというような効果を1つに特定してしまった場合には、むしろ多様な契約形態の創意工夫を阻害することになる場合もあるなど、いろいろなパターンがあり得るという御指摘もございました。
 また、このように権利者自らの意思によって何らかの定型的なものをつくるのであれば、既にクリエイティヴコモンズのように、登録制度でなくてもできているものがあるのではないか、そういったものを活用すれば、登録制度よりも経費が安いなど効率的にできるものがあるのではないか、そういった御指摘がございました。
 その次の点でございますが、こちらは著作権の放棄などと同じ点でございますけれども、仮に法的な手当てが必要だとしたら登録を撤回できないような仕組み、もしくは登録内容を信頼した者を保護するような仕組み、そういったものを作るのであれば法的手当てが必要なのではないかという御指摘。その次でございますが、今、様々に御提案されているようなものは、そういった当事者の意思任せておくような制度を待っていられないという問題意識から出てきているのではないかという御指摘もございました。そういった中身にかかわらず、簡便な安いコストでできるような登録制度を用意しておくことは、流通促進の面では大事ではないかという御指摘。それから、最後でございますけれども、登録によって今までより不利になるということであれば登録が進まないので、何からのメリットを持たせて、登録することについて期待感を持たせることが大事ではないかというような御指摘がございました。
 その次、3番目でございますが、より簡易な強制許諾制度、もしくは利用許諾があったとみなすような制度をつくってはどうかということでございます。こちら、特に意見が出てきてないもので、全て登録制のものなどについての意見の再掲でございますので御紹介は省略させていただきますが、論点としては、今の裁定制度で対応できていないような部分、用意されていないような裁定制度というのはどのようなものがあるのかと、そういったようなところがあり得るのではないかと思っております。
 その次、4のフェアユース規定や新たな権利制限規定についてのお話でございますが、出てきました主な意見といたしましては、フェアユース規定については、裁判になってみないと結果がわからないということで、投資の観点から困るというような御意見や、次のページでございますけれども、訴訟になれば莫大な資金と非常に長い時間かかるような場合もあるということで、ネガティブな意見もあるという御紹介がございました。
 2番目でございますけれども、特別法を制定する場合には、肖像権など、その他の権利も含めて一括で処理をするというような御提案がありましたが、そういったものにも果たしてフェアユースの法理というものの適用があるのかどうかという検討をしなければいけないという御意見がございました。前回、フェアユース規定について主に意見が出ましたけれども、そのほかパロディでありますとか、いろいろ元々の御提案がございましたので、そういった新しい権利制限規定や、そもそも一般的な要件をはっきりさせないような権利制限規定を設けることが、今の例えば刑事罰の構成要件の関係とかで可能なのかどうか、そういった論点がまだ残っているかと思います。
 5でございますが、利用条件調整のための仲裁制度もしくは不正行為の監視機関をつくることについての御意見でございますが、最初の御意見は、仲裁制度は今でもあまり使われていない、実際に機能するか、詰めた議論が必要である。2番目の市場の監視機関でございますが、こういったものも、強制調査権限がなければあまり意味がない、機能しないのが実態ではないかという御意見、民間で自主的に行われている監視活動について何らかの支援をすることによって、こういったものを機能させていくべきではないかといった御意見がございました。
 最後は、議論の進め方についての御意見でございますが、過去の著作物の保護と利用に関する小委員会でも利用の円滑化について議論されていますが、その関係をどうするのかといった御意見や、中・長期的に議論すべきような課題もいろいろあるのではないか、そういった御意見がございました。本日、こういった点について、さらに足りない論点をつけ加えていただく、もしくは詰めるべき点などについて、御指摘を賜れればと思っております。
 その次、資料2でございますけれども、今のように、各御提案の中からいろいろな制度を抜き出しまして、採用できるもの、できないものというものを検討していくという観点は、一つございます。けれども、そうするとなかなか目的がはっきりしないといいますか、最終的なゴール、どこを目指しているのかというところをはっきりさせないと、個別の議論をしていてもちょっと議論が拡散してしまうのではないかと、事務局でも前回の資料を含めて反省をしておるのですけれども、そういう観点もございまして、資料2では、改めて立ち戻りまして、デジタルコンテンツ流通促進法制で求められているものは一体何なのか、改めて整理をして、まとめさせていただいております。
 (1)のところでございますが、そもそもデジタルコンテンツ流通促進というのが何を意味しているのかでございますけれども、そちらを、関連の提言などからもう一度整理したものでございます。最初のまるでございますが、「情報爆発」というような言葉もある中で、今、インターネット上には、非常に多数の情報が流通しているわけで、にもかかわらず、「デジタルコンテンツの流通促進」が求められるというのは一体どういう意味かという基本的な問題意識を述べさせていただいております。初心に戻りまして、経済財政諮問会議で元々出てきました提言をもう一度分析しますと、下の脚注の1番のところで下線を引いてございますけれども、デジタルコンテンツの多くが利用されずに死蔵されているというのが問題意識でございまして、例として過去の放送番組等というのがございますが、これをインターネット上で流通させるという、そういう問題意識だということが、元々の提言には書かれておりました。これを踏まえますと、流通というのは、流通するメディアはたくさんあるわけでございますが、専ら念頭にあるのはインターネット上の流通が想定されているということと、それから考えますと、デジタルコンテンツというのは、既にインターネット外で製作されているもので、それをいかにインターネット上で流通させるか、そういった問題意識なんだということではないかと思います。
 それと、下の脚注の2番目、こちらは、先月出ました経済財政諮問会議の成長力加速プログラムというものでございますけれども、こちらではコンテンツ産業の発展、国際展開という観点からやるべきだというような指摘もございまして、そうしてみれば、当たり前の話ではございますけれども、単にたくさんの情報が流れればいいという問題意識ではなくて、産業としての発展に資するような流通の仕方、そういったものが求められるということであるかと思います。
 上に戻りまして3番目のまるでございますけれども、こういった提言のほかに実際に、幾つか前回御紹介したような構想で、どういうことが問題意識として持たれているのかを考えてみても、1から3まで整理して、大体、次のような点が問題意識として掲げられていると思っております。1が、契約に関するコストを課題として掲げている提案があったということで、例としましては、許諾交渉、契約交渉に関するコスト、もしくは条件の調整、権利者不明の場合には探索のコストもありますけれども、こういった契約コストをどうするのかというような問題意識。もしくは、2のビジネスモデルとして、ネットを使うようなビジネスモデルが十分に育ってない、そういったものが活用されてないというビジネスモデル上の問題。もしくは、3としまして、インターネット上の違法行為、そういったものについて二の足を踏むような場合があるのではないかと、そういった問題意識が背景として見られるのではないかと思っております。
 具体的に申しますと、次のページでございますが、1の契約交渉のコストということでは、そうは言いますけれども、ネット外の既存のコンテンツで改めて契約交渉が必要になる場面というのは、例えばどういうものがあるのだろうかというものを考えてみますと、実際には著作権等以外にも肖像権などいろいろな権利があるのですけれども、とりあえずここでは著作権だけを念頭に置かせていただきまして、どういう場合があるのかというものを考えますと、1番目のポツでございますが、製作時にはインターネットで流通させることを念頭に置いていないでコンテンツ製作を行ったような場合でございます。そういった場合には例えば頒布や放送、そういったことにかかる権利の許諾のみを得ていて、その後、インターネットで流通させるときには、改めて自動公衆送信に関する権利、送信可能化に関する権利、こういったものについて改めて交渉が必要になるような場合、そういったものがあるかと思います。
 それから、2番目のポツでございますけれども、最初の利用のときには権利制限規定の対象になっていたので特に契約交渉はしていなかったけれども、それを別の目的に使うことによって改めて契約交渉が必要になる場面、こういったところが、おそらく問題になるのだろうと思っております。
 その次のまるでございますが、ビジネスモデルの心配、そういった課題に関してでございますけれども、こういった問題意識が特に問題になるのは、おそらく典型的に想定されているのはテレビ番組とか書籍とか、こういうルートで流通させるのだということをあらかじめ想定して、そのメディア関係の業界がコンテンツ製作の中核を担っているような業界、おそらくそういったものを中心に想定されているのではないかと思っております。そういった業界では自らのメディアに対応したビジネス展開を今まで図ってきているところでございまして、そういった今までの流通メディアに適したビジネスモデルを展開していたところが、インターネットとか別の流通メディアを使うときにいろいろな心配がある。適合しないんではないかと、そういったところでいろいろな問題が生じているのではないか。このような問題意識が、背景にあるのではないかと思っております。
 こういった問題意識をそれぞれ踏まえまして、結局一言で、インターネットの流通促進という問題でどういうものが専ら念頭に置かれているのか。最後に一言でまとめておりますけれども、要するに、特定のメディアで流通させるとか、特定の利用方法を想定して製作されたコンテンツについて、これをほかのメディアで二次利用するに当たっての課題ということで、大きくまとめられるのではないかと思っております。
 それでは、二次利用するに当たってということで考えてみれば具体的にどういう課題があるのかということで、(2)のところでまとめさせていただいております。こういった二次利用についての課題ということであれば、例えばどういう分野で具体的に課題があるのかということでございますが、下線を引いてございますけれども、前の提言では例えばテレビ番組が例として挙げられましたが、放送分野では確かにこういった指摘が新聞紙上などでなされているほか、我々も承知をしておるところでございますが、それ以外の分野でも想定できるものがあるのかどうか、そういったところは、論点として1つあるかと思います。
 その次の2番目のまるでございますが、二次利用についての具体的な課題として、契約交渉のコストというものを先ほど紹介させていただきましたけれども、では、実際にどのような分野で契約交渉のコストが問題になっているのかと具体的に考えてみますと、1の部分でございますが、権利の集中管理による取り組みのようなものが進められている分野がございまして、こういった分野につきましては、二次利用についての契約交渉といいましても基本的には集中管理されていて、個別の許諾を得なくても、実質的には報酬請求権と同じような形で契約ができるというシステムが用意されている場合がございます。音楽や原作、脚本、そういった分野、いろいろございますけれども、二次利用についても権利の集中管理が行われている場合があります。
 次のページでございますが、そういったものでなくても窓口となる団体が用意されているような場合。または、集中的な窓口がなくて個別許諾ではありますけれども、一定のルールが業界内で形成されていて、そのルールに乗って個別交渉を申し込めば簡単に契約ができるというような、そういった工夫がなされているような分野もございます。そう考えてみますと、二次利用についての契約交渉の課題といっても、こういったシステムが整備されてないようなもの、例えば団体に所属されてないような権利者の場合ですとか、権利者不明といった、そういった場合が専ら想定されるのではないかと思います。
 その次のまるのところですが、その他、そういった契約交渉以外の問題、契約に入る以前の問題でございますが、ビジネスとしてのインセンティブを阻害するようなものが何かあるのか。
 そういったものが二次利用についての課題になるのではないかと思っております。
 今、簡単にご紹介したような問題については、過去に文化庁で放送番組の二次利用について詳しく分析したものがございますので、後ほど資料3で御紹介させていただきたいと思います。
 (3)のところでは、今、デジタルコンテンツ流通促進というのは実は二次利用の問題ではないのかということでまとめさせていただきましたが、単純にそれだけの問題で限っていいのかという問題意識で書かせていただいております。二次利用の問題はもちろんありますが、そういったもののほかに、デジタル化、ネットワーク化のもとでの著作物の利用形態、創作形態に応じた著作権制度のあり方を検討していく上では、2番目のまるにありますように、例えばインターネットは流通の手段としてだけではとらえられないような側面がございまして、そもそもインターネット上で新しく創作が行われるような、ブログとか掲示板とかございますけれども、そういったものについてはそもそも制作と流通というような概念を分けて論じることができなくなっているのではないか。その次の例でございますけれども、ネット上でお互いに改変、創作をし合うことによって作品の完成度を高めていくような創作の形態がございますけれども、こういったものについてはどこまでが制作でどこからが流通なのか、そういったものがわからないような場合もございます。こういった新しい創作形態について、著作権法上一体どのように考えていったらいいのかと、あまり捉えどころがないような問題ではございますけれども、そういった問題も、二次利用の問題と併せて考えていかなければならないのではないかと思っております。
 その次のページの最後のところでございますけれども、今までは、専らインターネット上の流通に関しての問題でございましたが、デジタル化されたことによって、今後、インターネット以外でも新たな流通方法が次々と出てくるような場面があるのではないかと思っておりまして、具体的な問題ではございませんけれども、何らかの問題が出てくるのか、そういったものも論点としてはあり得るのではないかと思っております。
 引き続きまして、資料3のほうについて説明させていただきたいと思います。

【川瀬著作物流通推進課長】
 それでは、資料の3を御覧いただけますでしょうか。これは平成16年の6月に公表されたものです。二次利用の対象物としては放送局が膨大なコンテンツ資産を持っているわけですけれども、その二次利用が進まないのは著作権の問題があるからではないかというご指摘がございまして、それを踏まえた上で、私どものほうで放送番組関係者、番組製作の関係者、権利者団体の関係者をお呼びしまして、現状を分析するとともに、著作権契約の改善についてまとめたものでございます。
 2の報告書の概要を御覧いただけますでしょうか。まず、現状の分析でございますけれども、番組の保存につきましては、放送は1953年から放送されましたけれども、本格的に保存が始まったのが1980年代の後半。NHKは比較的早くから保存を始められたのに対して、民放では1990年代の後半からというのが実情でございます。
 それから、二次利用の現状につきましては、放送番組につきましては、契約。例えば、これは放送局の資料映像とかスポーツの映像については他のコンテンツを契約によって利用しているわけでございまして、そういう契約や人権、プライバシー、肖像権なんかの関係から、これはドキュメンタリーとかニュースの関係が多いわけですけれども、二次利用が制限されているものがございますので、あくまでも可能な範囲で二次利用を行うというのが放送事業者のスタンスということでございます。
 それから、3番目ですけれども、インターネット配信につきましては、配信インフラや消費者ニーズの問題。配信インフラにつきましては、回線速度の速いものと遅いものが混在をしているとか、パソコンの性能のばらつきがある、配信インフラ、回線容量の問題があるとか、課金方法の問題があるというような問題、それから、消費者ニーズですけれども、関係者がまだ2004年当時はビジネスになりにくいと考えているところから、放送番組の供給があまり進んでいないということです。
 それから、著作権の契約につきましては、基本的には当初の放送に関する、一次利用に関する契約でありまして、放送番組の二次利用については、改めて契約が必要である。この原因を分析しますと、放送番組は視聴者やスポンサーにすぐれた番組を提供すること、すなわち当初予定していた放送、つまり一次利用の実施を最優先にして製作するという性格を有していることからであり、著名な作家や実演家については、二次利用の許諾を求めた契約の締結を求めると使用料や出演料の高騰を招いたり、製作現場が混乱したり、関係権利者の反発を招くなど一次利用にも影響を与える可能性があるため、今後もこのような著作権契約の慣行は完全に変わることはないというのが分析でございました。
 それから、(2)としまして、過去の放送番組の二次利用が進まない問題点は何なのかということでございますけれども、これは12と分かれておりまして、1が著作権契約以外の問題でございまして、過去の放送番組の二次利用ができないのは著作権契約以外の理由であり、主な理由は次のとおりであります。そもそも番組が保存されてないということで、古い番組については保存されてないものが多いわけでございまして、また、保存されていても保存状態が悪く、利用できない。これは、映画の場合には基本的にはフィルム素材なので劣化が少ないのですが、放送番組にはビデオ素材が多いものですから、劣化がフィルム素材に比べて激しいということで、保存状態が悪くて利用がしにくいというようなこともあるということでございました。
 それから、二次利用をするためには使用料の支払いを含め、コストが必要になるわけですけれども、これに見合う収入が見込めないというようなご意見がございました。
 それから、放送局みずからが再放送を予定していたり、他のメディアによる提供と競合するような場合。例えば、DVDのレンタルに供する予定があるので、そのインターネットのVODサービスには提供できないとか、そのような調整を要する業務上の理由がある場合というのもあるということでのした。
 それから、著作権契約に関する問題点としましては、著作権契約を理由として二次利用できない場合はそれほど多くないということで、その理由は次のとおりということです、できた作品がイメージどおりでない、演技が未熟で他人に見せたくないなど、主として権利者の思想、心情により許諾が拒否される場合が、少数のケースとしてあるようです。また、著作者、実演家等の死亡、引退等によって、権利者の所在が不明である場合。これは、不明の場合と、あと、共有関係で多数の権利者になるというような2つの意味がございます。それから、権利者との間で使用料についての協議が整わない、実演家のイメージ戦略のため、一定の期間は二次利用を制限されるということでした。現在はどうなっているかわかりませんけれども、その当時は、3年程度は放送から二次利用はしないという業界のルールがあったようです。また、ある有名タレント事務所との間では、二次利用をしないということを前提とした出演契約がされているということもあったようでございます。
 それから、(3)としては、これは現行法を前提にして著作権契約を円滑化するための方策ということで、1から4までの方策が提言されているということでございます。
 以上でございます。

【中山主査】
 ありがとうございました。それでは、ただいまの説明につきまして、質問あるいは御意見がございましたら、お願いいたします。はい、どうぞ、多賀谷委員。

【多賀谷委員】
 千葉大学の多賀谷と申します。前回と前々回は日程調整できず、出席できませんでした。これから、よろしくお願いします。
 私はもともとは行政法ですけれども、放送通信の分野には若干、知識を持っていますが、その観点から今の最後の、放送番組の利用に係る特殊性について、報告書には書いてないことを、若干、補足させていただきたいと思います。
 1つは、放送の場合においては、御存じだと思うのですけれども、現実に番組を購入する、あるいは作成するのは東京キー局が中心になっております。そして、キー局からロートルの系列のローカル局への番組の提供というのは同時再送信で配信になるわけです。これは番組販売という形ではなくて、ネットワーク協定に基づく番組の提供という形。そして、それは番組を買うのではなくて、逆にキー局のほうがローカル局に対してネット保証金を支払うという形態になっています。こういう番組契約に関する特殊性というのは、どうも我が国の特徴でありまして、もちろんアメリカにおいてもそういうネット協定はありますけど、アメリカの場合にはそれとは別に独立シンジケーションというのがありまして、その独立シンジケーションにおいては番組販売契約、日本では番販と言いますが、番販によって番組が提供される形になっている。あるいは、そこにおいて単にお金で番販をするのではなくて、広告枠の提供とともに、バーターシンジケーションのような形で番組が流れている。こういう形で、番組がさまざまな形態、コンテンツがさまざまな形態で流れるという仕組みが存在しているということがおそらく、アメリカのハリウッド等が強力になった原因だろうと思います。その意味では、日本の場合にはキー局中心の系列があまりに強いということが、やはりコンテンツの自由な流通を妨げていたのだと思います。そして今現在ブロードバンドサービスが提供されることによって、そういう新たな形態に乗りかえなければいけないということは日本のテレビ局自体も考えていて、それをどうするか。既存の仕組みはやはり自由に流通することを阻害している面があることは否めないと思うので、それをどう変えるかということが問題だと思います。
 もう1つとして、それでは、日本ではそういう仕組みがないのかと。要するに日本の仕組みというのは基本的に、この報告書にありますように、キー局のところで、テレビ局で一次放送することをすべて買い取ってしまって、二次利用、あるいは副次利用を想定していない。したがって、二次利用するためにはより多くのお金をもらわなくてはいけないから、だからうまくいかないというふうに皆さんおっしゃるのですけれども、一般的には日本の番組はそうですが、実際には例外がありまして、日本でも二次利用的な仕組みがうまく機能している例があります。それはいわゆるアニメ番組でありまして、アニメ番組の場合には最初につくるときに投資をする人が放送局だけではなくて、放送局と当然それから番組製作の独立プロ、銀行とか、もうかる可能性が高いことがわかっていますので、そこに何らかの形で皆さん、投資をするんです。そして、その場合、キー局は多分10パーセントとか15パーセントぐらいの取り分しか持たなくて、ほかの投資家がそれぞれの取り分をとっていく。取り分をとるというのはどういうことかというと、放送だけで収益を上げるのではなくて、それを二次利用、ビデオのほうは、実際には地上波の放送よりも収益が高いですし、キャラクターグッズでも高収益を上げる。そういう場合の二次利用、あるいは副次利用の取り分を最初に投資にかかわる協定で決めて、それを流通させていく、そういう仕組みが現実に存在いたします。だから、その意味で日本ではないわけではないんだけど、この報告書は一般的なことであって、個別的には日本でもそういう仕組みがあるんだということをちょっと補足で申し上げました。

【中山主査】
 はい、ありがとうございます。はい、どうぞ、道垣内委員。

【道垣内委員】
 資料の2についてですが、基本的な考え方の点で非常に大切なところではないかと思うのですけれども、国際私法という分野をやっているものですから、「インターネット上の」という表現が非常に引っかかります。特に1ページ目の一番最後のほうに「インターネット上の違法行為」という言い方がございますが、これは、そういうふうに考えている人もいることは確かです。インターネットは宇宙空間のように、それ自体が世界であるとの考え、だから、国家法の介入をするなというか、それについては特別に考えるべきだという人たちがいます。しかし、私はどちらかというと保守的なほうで、インターネットはただ、線の中を信号が流れているだけであって、無線の場合もありますが、とにかく通信の手段にすぎないので、インターネットを介した違法行為というか、あるいはインターネットを通じた違法行為とか、そういうのはあるけれども、インターネットの中で違法行為が起こるということはないのではないかと思っています。
 しかし、この紙では「インターネット上」という記述があるものですから、それに対応して「インターネット外」という言葉が出てきています。私からみれば、あえて言えば、すべて「インターネット外」生じているこになります。また、(3)では、「インターネット上で創作が行われる」という表現が出てくるわけですが、これもインターネットというのはただの線の集合なので、その中で創作が行われることはないのではないかなと思うのです。確かに、一般用語としては「インターネット上」という言葉は私も使うのですが、法律のことを考えるときに、そのような表現には何か違和感があります。特に国際私法、すなわち、法の適用に関する通則法によれば、不法行為は原則として結果発生地によるということになっています。「地」という言葉がついていて、土地に結びつけて準拠法を定めるという仕組みになっています。ですから、インターネット空間があるかのような表現を使って議論すると、少なくとも国際私法の問題については、あいまいになったり、あるいは混乱が起きるのではないかと思います。

【中山主査】
 貴重な意見、ありがとうございます。ほかに何かございましたら。
 はい、どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 前回の小委員会でタイプA、B、C、Dというのを出していただいたのですが、その際にも多分、私だけではなくて多くの人がなかなかその趣旨がよくわからなかったところがあって、このまま検討していってもどうなるのかという気がしていたのですが、基本的には多分、A、B、C、Dそれ自体についてどのような趣旨のものであるかを考えていくというよりは、それ自体何を求めているのかいま一つよくわかりませんけれども、こういう形で端的に問題点を抽出するというか、何かしらしてほしいというメッセージみたいなものが出ているかと思いますので、むしろそれがどういう趣旨かというのを考えていきましょうということでしょうか。タイプAとかBとか、それ自体を見ていくというよりは、そういう問題点を抽出していく作業が多分この資料2でやっていく作業だと思いますし、何かやってほしいということでこういうのを出されているわけでしょうから、その趣旨がどの辺にあるのかということを見ていったほうが実益があるのかなという気がしておりましたので、そういう観点からは、こういうふうに整理してみると、意見をおっしゃられる方々は、自分たちの趣旨はそうじゃないというのがあればまた意見をいっていただければいいのですが、個別の論点ごとに、それが可能なのか、あるいは難しいのかということが検討できるようになりますので、そういう意味では、こういう形でやっていただくというのは、大変結構なことではないかと思っております。
 2はちょっと後に回しまして1のほうですが、この前回出た4つの案というのは、要するに、現行法ないし、その延長線上にあるものに対して御不満というか、何か変えてほしいというのがあって別のものを出しておられるわけなのですけれども、受けた印象としては、これらの中には現行法の中でもできるのではないか、ないしは現行法の延長線上で対処できるだろうと思われるものと、それから逆に、現行法の枠内では非常に難しいというものが混在しているかと思いますので、このような性格の異なるものが区別されずに混在していると非常に議論がしにくくなるため、そういう意味ではこれらのものを区別して出していただくのがいいと思います。例えば、契約的処理ないし放棄等で組み立てる場合、著作権と著作者人格権とでは放棄等に関しても非常に異なる面がありますので、これらの点に関して区別した形で整理していただくと、その辺に関してもきめ細かい検討ができてくるということになりますが、全体的な印象としては、このように分けて考えていくと結局は、やるのであれば、現行法制の枠組から全く離れた別世界のような制度をつくるというよりは現行法制の中ないしはその延長線上でのインプルーヴのような形になってくるのかなという気がしております。そのような関係で、例えば登録と言いましても、これが権利放棄ないし契約処理的なことを考えておられるようなのですが、そういうふうに考えていくと、放棄等できる権利であれば比較的説明しやすいところもあるのですけれども、放棄等してしまった後でその放棄を撤回できるのかといった様々な問題が出てきてしまうので、そこのあたりは、どういう趣旨でどういうふうに組んでいくのかというところは、大変重要なところではないかと思います。
 それから、例えばデジタルコンテンツの定義についてですが、デジタルコンテンツというのは、最初からデジタルでつくっているものもあれば、従前アナログでできていたものをデジタルに変えただけのものもあるわけで、デジタルコンテンツの定義が明確でないとどこまで射程に入るのかが明らかにならないのではないかという気がします。
 それから、前回申し上げなかったのですが、5のところで監視機関に関してはいろいろお考えがあろうかと思うのですが、私は、むしろ著作権制度というのは、著作権という私権を与えて、あとはマーケットに委ねて、当事者の合意等で組んでいくという、非常にmarket-orientedというか私法的な形、国家が直接介入するというよりは私人間でいろいろ関係を形成していくというところに特色があるのだろうと前々から思っておりますので、あまり官ないし行政が前面に出ていくのが果たしていいのかなというのは前々から少し感じておりました。前回は、監視機関のようなものをつくってもあまり効果が上がらないのではないかということだったのですが、私は何かそれだけにとどまらず、あまり官ないし行政的なものが従前私人にゆだねられていた部分に入り込んでいくのがいいのかなというところで、少し抵抗感を感じているところであります。

 それから、少し順番は戻りますけれども、フェアユースというのがありますが、例えば、現行の権利制限規定の中でもう少し柔軟なものを多少加えていくかとか、限定した形での一般条項的なものを多少加えていくといった、何かもっと現実的なアプローチの余地であれば、少しは可能性もあり得るのではないかという気もしておりますが、これとは異なり、アメリカ型の、判例に全面的にゆだねるというようなものをそのまま我が国の法制の中に導入するのは難しいと思います。以上です。

【中山主査】
 ありがとうございます。
 ほかに御意見。はい、どうぞ、松田委員。

【松田委員】
 多賀谷委員から放送の実情についてのお話がありましたが、その限りにおいて、全く私も同感でございます。最後の、アニメ番組については割合流通が促進されているのではないかという御指摘もありました。これは、実は、私はアニメ番組だけではないのだろうと思っています。著作権法の枠だけで放送番組を考えますと、29条の1項か2項、ないしは15条の法人著作、この3つの類型のいずれかに多分なるのだろうと思いますが、あらかじめ29条2項で、専ら放送事業者が放送のための技術的手段として製作される映画の著作物というのを用意しているわけですが、実務上は、ほとんどこれは適用になるようなケースはないと、私は経験上思っています。ほとんど29条の1項か法人著作か、いずれかで処理していると思います。ところが、この2つの場合でありましても、なかなか流通になじまないものは何かというと、タレントさんが出てきてドラマ風になっているものについては、実演家の許諾を、最初の放送の段階で二次的利用まで含めて契約をとってないからなんですね。その部分だけ残して、あとに譲っているからなんです。実は著作権法の枠組みとは別に、契約上の問題として残っている、それは29条1項でも15条でも同じだと思っています。
 アニメ映画の場合には、たまたまタレントさんは声優さんだけしか出ませんものですから、この処理ができているわけですね。二次的に利用できるようにしている、だからスムーズに流れる。言ってみますと、放送番組もアニメ風に、将来使う場合のことを想定して契約関係をつくっていかない限りは、いずれにしてもだめだと。登録制度にしてもだめだし、何らか自主的にやっていただく場合でも、それはだめだと。その点については放送事業者と関係者の方々がきちんと話し合いをして、むしろ次の市場といいますか、コンテンツの国際化も含めて、考えていただかなければならない問題であろうと思っております。

【中山主査】
 ありがとうございます。はい、どうぞ、村上委員。

【村上委員】
 私は、決論的には今の松田委員と同じで、結局、製作のときに契約書類をどの程度きちんとやるかということに、かなりのところは尽きるものでないかと思います。その絡みで、むしろ多賀谷委員の説明で、1つだけ、伺いたいのは、放送番組の流通を妨げる要因として、キー局とローカル局のいろいろな実態があるという説明でしたけれども、問題は、それは基本的に放送法制に絡むものなのか、もしくは取引慣行とか実態とか言いますけど、法制以外に、事実上そういうふうに日本では独特の取引になっているということが問題であるのか、いわゆる法律の制度の問題、放送法とか制度の問題なのか、取引慣行的な問題なのか、どちらの問題と認識すればよろしいという話になるのでしょうか。

【多賀谷委員】
 両方といいますか、日本の放送法制が、そういう取引慣行がなされるのを放置してきたということです。具体的には、アメリカの場合には30年ぐらい前ですが、同じようにネットワークが、番組、独立プロ等の番組製作権も、自分で取り込んでしまおうとしたときに、フィナンシャル・シンジケーション・ルールというものをつくりまして、プロダクションが製作することについて、放送局が投資してはいけないという規制をつりました。その結果として、番組の独立プロダクションは放送局に必ずしも依存していません。そして、もう1つ、アメリカと日本が違うところは、アメリカの場合にはネットワークのほかにCATVが非常に普及していまして、CATVがシンジケーションを独立してつくるわけです。CATVに提供するという道があった。そういうことで結局、放送局による拘束的な仕組みが、十分には機能しなかったのです。CATVと独立プロのほうが十分に強力になったので、最近はフィナンシャル・シンジケーション・ルールは廃止されました。日本の場合には従来そういう形で慣行が今まで続いてきたわけですけれども、今、ブロードバンドサービスができて、かつてのアメリカのようにほかのシンジケーションができる可能性はあるわけです。私は、民放のキー局の中には既存のローカル局との間のネットワークのみではなくて、そういうところにも新しい形でビジネスモデルをつくって乗り出していこうという気があるんだろうと思うんです。ですから、それをインセンティブを設けて、あるいは既存の仕組みによる寡占を撤廃すれば、そういうことができる素地はあり得るんじゃないかと思います。
 1つ問題は、今の話は有線放送、アメリカの場合には放送と有線放送ということですけれども、ブロードバンドサービスの場合にはそこは通信ですから、既存の放送法制、放送と通信法、通信の場合の著作権法上の取扱いの違いというのが1つのネックになります。同時再送信については今回、既存の法改正で部分的にそれは直されましたが、異時再送信の場合にはやはり同じような問題が出てくる、そういう問題があります。

【中山主査】
 ほかに、御意見ございましたら。どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 質問なのですが、先ほどの話で、なぜデジタルコンテンツ云々というのが出てくるのかというところで分析されたところ、結局のところは資料2にあるように、今ずっと議論が出ていた二次利用の関係の話がメインで、あとプラスしてこの(3)のところの、「インターネット上」という言葉がいいかどうか別として、割と古典的論点ですけれども、著作者人格権の関係をどうするかという話、この2つぐらいだということなのでしょうか。つまり、お聞きになっている範囲で、そこでやってほしいということを抽出していくと、大体この2点に落ち着くということでよろしいのでしょうか。それで落ち着いてくれば、そこを中心に考えればいいし、また別にあるのであれば、また別に考えなければいけないということになりますので、その辺をお伺いできればと思います。

【黒沼著作権調査官】
 事務局で整理させていただいたのは、本日は資料1の方は、いわば帰納法的にいろいろと御提案されているものから、この中から採用できるものがあるかないか、そういったものを検討してはどうかというものと、資料2の方で整理させていただいたのは、御指摘のように今の2点でございまして、大きく分けて、二次利用の問題、それから、それ以外の「インターネット上」と言っていいのかどうかわかりませんけれども、そういった新しい創作形態が普及してきたことなどに伴う問題、大きく、2つに整理できるのではないかと思っております。それ以外にもあれば、御指摘賜ればと思います。

【中山主査】
 よろしいですか。

【多賀谷委員】
 これは論点ではなくてお願いなんですけれども、先ほど少し放送と通信の話をしましたけれども、現在、EUでは国境を越えるテレビのガイドラインの見直しということが行われていまして、多分夏休み前後に固まると思います。そこで、既存の放送をどうするか、IPTVをどうとらえるか、インターネットプロトコルによるテレビをどうとらえるか。著作権とは直接関係ないわけですけれども、既存の放送は、地上波とCATVと媒体に即してとらえられていたわけですが、それを新たな概念として放送というものをとらえる。広義、狭義と2つの放送概念があるわけですけれども、基本的に、そこで媒体とは関係なく、リニア放送という概念が出てきた。リニアというのは要するにばらばらに、オンデマンドではなくて一定の、セットで流されるものは広い意味で放送ととらえて、それについて国境を越えた場合には放送としてとらえる。この概念がEUで、それはほぼ固まっているんですけど、加盟各国の国内法でもそのように定義される。それが著作権法にどう波及していくかということをぜひ、とらえていただきたい。多分、それはおそらく、日本と共通の問題があると思いますので、お願いいたします。

【中山主査】
 はい、ありがとうございます。

【茶園委員】
 前回の議論ではタイプAやBといったものがありましたが、それと今回の資料2における主な背景とのつながりぐあいがよくわからないので、その点を少しお尋ねしたいと思います。
 流通促進との関係で、適法に利用しようとすると許諾を受けなければいけないのに、その許諾を得るのが困難であるという問題があるということは、大変よくわかります。そのために、許諾を受けるためのコストをどのように削減するかとか、あるいは許諾を受けようとしているのに権利者が不明ななためにそれができない場合に強制ライセンスを簡便化するかどうかという問題があると思うのですが、それと、前回の議論ではタイプAとかタイプBでは登録という手法が出てきて、それが具体的に何を目指しているのか明確ではないということだったと思うのですが、それとどうつながるのでしょうか。
 ある作品に関わる権利者の中から誰か代表者を決めて、その人が登録をして、そこで許諾を得るということでしょうか。登録をすれば、JASRAC(ジャスラック)などと同様に、利用者は申し込めばほとんど許諾が受けられるという仕組みをとるというのであれば、ここの資料2で書かれている問題というのは登録の前の段階の話であって、登録をしたから何かメリットがあるかというと、そのようなメリットはないということになるのではないかと思うのです。例えば共有者の中から誰か1人が登録をすれば、他の共有者にも権利が及ぶとか、他の共有者も許諾をしたような形になるとかという、権利者の意思に反してといいますか、権利者の意思なしに何かするというのは、前回の議論では、それはいかがなものかというか、そもそも可能なのかという議論があったと記憶しています。今日、資料2で整理していただいた問題と登録という方法が、そもそもの提案の中でどのように関わっているのかという点をもう少し詳しく説明していただいたら、より提案の内容が理解できるのではないかと思います。
 それと、もう1点お尋ねしたいことがあります。それぞれの提案ではフェアユースとかいろいろ規定がありましたが、おそらくそれは、許諾を受けるのが困難だという問題とは別に、著作権法が定める利用ルールとは別のルールをつくったほうが流通促進につながるという、そういう問題意識があるのではないかと思うのです。もしそうであったら、それは権利者が自ら、ある部分については自由な利用に委ねて、自分は権利行使しませんとか、あるいは許諾の中でそれを決めてしまえば基本的には足りると思うのですけれども、そのようなことを例えばより明確化するとか、より簡便な許諾システムをつくるために、登録制度を設けるというように考えられているのか。資料2で指摘されている問題は、これは非常に重要な問題だと思うのですけれども、それとそれぞれの提案がどのように繋がっているのかという辺がちょっとわからないので、お分かりになっていればお教えいただきたいと思います。以上です。

【黒沼著作権調査官】
 資料1と資料2の関係でございますけれども、資料1の方は前回の御紹介したタイプAからタイプDをまとめたものでございますが、実は、事務局でも少々反省しているんですけれども、前回、いろいろなタイプの御提案を紹介すれば、おそらく共通の問題意識が探れてくるのではないかと思ってしていたわけです。けれども、実はやってみれば、中身はいろいろな思想の違いとか目指しているものの違いとかがありまして、このままいくと議論が拡散してしまうのではないかということで、今回改めて資料2でゴールの設定というものを目指して整理をさせていただいたところです。ただ、そうは言いましても資料1の方で個別具体の御提案はありますので、その中で使えるものがあればもちろん。その後に、資料2の方で演繹的に議論を進めていった後に使えるものが出てくるかもしれません。そういう意味で、並行して御検討をいただければ幸いかと思っております。

【中山主査】
 前回、A案とかB案と言っていたものですから、何か非常にインパクトが強いのですけれども、これは単なる私案といいますか、それに拘束されるわけではありません。ただ、その中から問題意識が出てくればという、多分そういう意味で掲げたたと思うのですね。4案とも、登録については書いてありましたけれども、別にそれにこだわる必要はなく、登録を議論してもいいし、あるいはしなくてもいいという、その程度のと考えてよろしいんですね。

【黒沼著作権調査官】
 中に具体的に、これは採用できるとかできないとか、そういったものがあれば、具体的に後々の議論に活用できる部分があるかと思います。

【中山主査】
 どうぞ、松田委員。

【松田委員】
 登録という言葉がまだ熟してないのはそのとおりなんですが、JASRAC(ジャスラック)の場合でも、慣行としては、登録するというふうに言うことがあるんですよね。信託譲渡する、登録するということは、言葉としてはあるわけです。そういう、ちょっと幅広いところで登録というものをまず考えておかなければいけないけれども、音楽の場合は、権利処理をしようとした場合に、JASRAC(ジャスラック)の著作権管理と実演とレコードと、ブドウで言うなら、3つのブドウを食べれば一通り味わうことができるんです。しかし映像の場合には、映画の場合でありましても放送コンテンツでありましても、そのブドウの実が3つや4つではなくて何十もぶら下がっているわけですから、登録をしてもらう制度をもしつくるとすれば、ないしは登録を自主的にしてくれる団体をつくるとするならば、ブドウの房の部分を登録してもらわないといけないのではないかと思うのです。音楽との違いは、私はそこではないかなと思います。房を登録してもらって、つながっているブドウにつきましては、その房以下のところで何らかの形で処理できる方法を考えないと、映像についてはおそらく使いものにならないだろうと私は思っています。

【中山主査】
 房の部分の登録というのは、具体的にはどういうことですか。

【松田委員】
 映画製作であれば、製作会社が映画の登録をする。そして、映画にぶら下がっている実演家の権利も、それから、クラシカルオーサーの権利も、場合によってはそれ以外の肖像権のような権利もあるかもしれませんが、そういうものを、房以下のところで映画会社が権利処理をするか、登録したならば、その権利処理ができるようなシステムにしないと使いものにならない。普通の映画の場合には映画会社、放送の場合には放送番組をつくった放送局、ゲームであればゲームをつくったゲーム会社、そういうところの映像を最終的に取りまとめた、映画の著作権と言ったらいいかもしれませんが、そこのところの権利を持っているところが房なのではないかなと思っています。

【中山主査】
 大もとの房のところで権利処理をするというのは非常によくわかるんですけれども、大もとのところで登録をするというとわからない。この映画に関するすべての権利ということですか。

【松田委員】
 いや、違うと思います。

【中山主査】
 権利処理なら、わかるのですよね。それはよくわかるのだけれども、登録ということになると、では、何を登録するのか。肖像権まで全部含めた権利ということですか。

【松田委員】
 それは無理だと思います。

【多賀谷委員】
 金額が高くなってくる。それは実際上、放送局はそんなことやらないと思うんです、無理だと。

【松田委員】
 無理だと思います、私も。

【中山主査】
 おそらく二次使用で、放送局が全部処理をしておけば一番いいに決まっていると思うのですけれども、できないのは、儲かるものが少ない、あるいはコストがかかる、あと、意識が低いとか人手が足りないとかという話をよく聞きます。結果的にやっぱり、儲からない、儲かるという見込みがないからではないか。逆に、アニメは儲かるという見込みがあるからやるという、そういうことなのでしょうかね。

【松田委員】
 少なくとも、テレビ局はそのように言ってます。

【中山主査】
 とすれば著作権の問題ではなくて二次使用の、作品がいかにうまく儲けるようにするかという、ビジネスモデルの形になるわけですね。

【松田委員】
 ビジネスモデルというか、最初から、製作するときに、すべての二次的利用を想定したビジネスモデルとして権利処理がもしできているならば、これは多分、放送番組で、今流れているのだと思うのです。それは、先ほど言ったアニメと同じことになるんだろうと思うのです。それがなぜできなかったかというのはやっぱり、放送局が放送番組をつくる歴史的な背景が、日本にはあると思うのです。それは一言で言うならば、できるだけ放送コンテンツに関する制作費を安くしようとして、放送だけができればいいやという最初の発想があったからだと、私は思っています。
 未来永劫、放送コンテンツがそういう状態であって、なおかつ流通に出ないということは、これはだれが考えてもまずいわけですから、それを今言った、登録というのはまだ固まってませんけれども、何らかの形で処理をするということができないかというのが、この委員会の仕事でしょう。だとしたら、とにかくできないというのではなくて、できる方向を考えるほか、ないのではないでしょうか。

【中山主査】
 多賀谷委員。

【多賀谷委員】
 日本の場合には、確かに放送で1回利用するだけで、ほとんどの儲けをそこで上げてしまうという仕組みなわけですけれども、アメリカの場合にはそうではありません、ハリウッドが映画をつくったときに数十億ドル使って映画をつくるわけですけれども、その映画の収益は、最初の劇場での上映だけですべて儲けを上げるということを前提としませんで、その後、レンタルビデオにしたり、それから、衛星で流し、そしてCATVで流し、最後に地上波で流すという形で、繰り返し行う。それから、海外にも販売するという、そういうことを前提として、それで初めて製作コストを回収するという仕組みになっているわけです。
 日本の場合にそれができなかったということは、要するに国土が狭くて、しかもCATV等のほかの仕組みが存在しなかったということと、それと首都圏で2,000万人が同時にテレビを見る、そこで1回放送してしまえば、コンテンツをお金を払って見る人はほとんど終わりだという意識があったので、二次利用でもうかるというのは大したことはないという状況になっていたわけです。ただ、結局、それはまさに、広告代理店が実際上間に入るわけですけれども、現実に今、地上波のテレビにスポンサーが広告を払う金額は次第に下がってきているわけでありまして、インターネットとかほかの分野に広告が移ってきている。ということは要するに、収益の構造が変わっていかざるを得ないという面がある。ですから、そういう意味において、今後同じような状況が続くということには、私はならないと思います。

【中山主査】
 どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 また、先程の点に戻るのですが、登録というあたりが非常に重要で、先ほど主査が整理されたとおり、要するに権利処理というのと登録というのは必ずしも同じではないのであって、そのあたりをある程度整理しないと議論が混乱してきてしまうという気がするというのが1点です。
 それから、この二次利用のための契約については、アメリカだと以前からそのマインドがあって、二次利用のことも想定して、一次利用の際に契約していたといわれていますが、日本はあまりそのマインドがなくて、一次利用の契約をした後からやろうとして、問題となっているということであれば、それは今後、登録制度云々の問題というよりはマインドを高めていって、一次利用の契約の際に二次利用まで念頭に置いたような契約ができればそこで処理できるし、逆に一次利用だけに絞っているから合意ができるので、二次利用の不明確なものまで最初にやってしまうとしたら合意が成り立たないという場合だったら、それはビジネスモデルの問題なのか、契約の関係かは別として、それはできないものをやれというわけにもいかないということになりそうにも思われます。その意味では、今の点は、むしろマインドの問題にしかすぎないのかもしれません。他方、どこかにデータベースがあったら非常に処理し易いというのはだれしも認めるところなのですが、そのことと登録というのがどう絡んでいるのかがよくわからないところがあります。私は、例えばタイプCなんかは登録にむしろ法規的な意味を込めてあって、登録すると権利は弱くなるのだから、使ってもらえる、それがいい制度かどうかは別として、議論がまた別の方向を向いている気もするので、そのあたりで議論がかなりしにくい気がします。

【中山主査】
 はい、どうぞ、松田委員。

【松田委員】
 議論がしにくいのは、私はこういう登録制度がいいですよということをここで提言している人が、だれもいないからなんですよね。そうではないでしょうか。でも、いろんな、登録という言葉を使うなり、ないしは処理という言葉を使いながらも共通のものをとりあえずは選び出してみて、そして我々の頭を整理したところで、本当にそういう登録制度を主張している人たちのお話を聞かないことには、ないしは映画会社とかテレビ会社が考えているようなものを聞かないと、最終的にはまとまらないのではないでしょうか。
 それはおそらく、委員の中には、自分はこういうのがいいかもしれないなというのは具体的に持っている方々もいらっしゃるかもしれませんけれども、それを個人的意見としてここで言ってみてもあまり意味がないような気もいたしますので、だから、議論しにくいのではないでしょうか。

【中山主査】
 村上委員、どうぞ。

【村上委員】
 先ほどの解決策で、放送局なり製作会社が製作段階のところで二次使用ができるように権利書類をきちんとすべきであるし、それは、やればできるのではないか、とありましたが、そういったことが望ましいかな、という話は既に5、6年前からあった話で、しかも、それでとりあえず動きましょうという形で動いたことがあるわけです。いまだにこの問題が出てきているということは、やっぱり現時点では日本ではうまくいってないということを意味するのではないですか。

【松田委員】
 そうです。

【村上委員】
 登録制度がうまくいくのかいかないかは自信がない話ですが、それをうまくやる方法があるのかないのかというのは、松田委員の言われるように検討してみる価値はあるのではないかという、そのぐらいの意見です。

【中山主査】
 おっしゃるとおり、ずっと前から言われているのですけれども、では、なぜかと言われると、マインドの問題なのか、ビジネスモデルの問題なのか、何か法律上の欠陥があるのか、あるいは単純に儲けないのか、いろいろあり得ると思うんですね。そこら辺のことを大いに議論してもらえればと思います。
 はい、大渕委員。

【大渕委員】
 先ほど議論しにくいと申し上げたのは、主張者がいるとかいないとかという話ではなくて、やはり登録という用語を使う場合にはある程度共通認識を持って議論しないと、普通に我々が聞いて登録と思うものと違うものが登録として議論されていると議論がしにくいので、そのあたりを議論すること自体は大変結構だと思うのですが、共通言語で議論しないと議論がかみ合わないおそれがあるのではないかという趣旨で申し上げた次第です。

【松田委員】
 では、主査のほうで登録の解読を、整理していただいて。

【中山主査】
 たまたまA案からD案に登録ということが出てきただけであって、ここでは登録について議論をしていないわけで、そもそも登録すべきかどうかもわからないし、何もわからないで議論しているわけですから、とりあえずは各人コメントをつけつつ、例えばJASRAC(ジャスラック)の方式を考えていますよとか、コメントをつけつつ議論してもらうしかないのではないかと思うのですね。議論が収束してきて、仮に登録制度のようなものが必要だとなってくれば、もっと細かく詰める必要があると思うのですけれども、ここで私に登録を定義しろと言われてもなかなか、議論の進行上難しい面があるものですから、なるべく幅広く議論してもらえればと思いますけれども。
 ほかに、何か御意見ございませんでしょうか。
 では、議論は大事なものですから、また続けていきたいと思いますけれども、今日のところは、これで終わりにしたいと思います。

(2) 海賊版の拡大防止のための法的措置の在り方について
【中山主査】
 それでは続きまして、2つ目の議題であります海賊版の拡大防止のための法的措置に移りたいと思います。本議題につきましては、先ほど申し上げましたように、1番目に海賊版の広告行為に対する取締りについて、2番目には著作権法における親告罪の在り方について、この2点であります。最初に海賊版の広告行為に対する取締りについて、事務局より説明をお願いいたします。

【大和著作権課課長補佐】
 はい、御説明いたします。前回、海賊版の販売をインターネットを通じて広告する行為について著作権侵害とみなすことについて、関係業界の要望をヒアリングをいたしました。その上で、この問題に対する自由討議をしていただいたわけでございます。また、席上、この問題について検討を行うべき点という資料もお示しし、確認をいただいたところでございます。本日はまず、前回いただいた意見を、検討を行うべき点という項目に沿って、便宜上整理をしました資料を用意しました。また、あわせて事務局といたしまして、さらに御議論いただいてはどうかと思う事項も書き加えまして、お示ししたいと思います。これに基づいて議論を進めていただければと考えております。
 資料4を御覧ください。
 資料4、著作権法における海賊版広告行為についての主な論点とタイトルをしまして、(1)が、前回いただいた意見を列記したものでございます。(2)が、検討を行うべき点という項目に沿って、便宜上、同じ(1)の内容を再整理したものでございます。そういう意味で、(2)を中心に御説明をさせていただきたいと思います。なお後ほど御説明しますが、こめじるしの項目については、まだ御意見を頂戴していない点、あるいは補足説明を要する点と考えております。事務局として気づいた点でございますので、こういったものを本日の議論のきっかけにしていただければと考えております。
 まず1の項目、海賊版の広告を取り締まる法的措置を講ずる必要性はあるのか。現行法で対処できない事例はどれぐらい存在するのかという論点でございます。これに関しては、広告行為を著作権侵害とみなすことで、プロバイダ責任制限法の適用要件である「特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合」に該当することを明確にして、発信者情報の開示を請求することを可能にすべきだという主張でございます。特に、関係業界からの要請というものでございます。これに対して、著作権法112条における差止請求で、本問題について対処することは可能なのか。プロバイダのように、商品を販売する譲渡の意思表示の部分だけに関与し、その後行われる直接の譲渡、販売行為には関与しない者、広告だけに関与して販売には関与しない者に対しては、現行規定では差止は困難ではなかろうかという御意見をいただいております。
 また、2番目の項目、海賊版の広告行為を取り締まる法的措置を講じた場合、どのような行為態様を取締りの射程にすべきなのかというような論点につきましては、その広告行為というものを不特定多数に対するものと考えるのか、それとも1対1、あるいは特定多数のようなものも含めるのかというようなことを明確に絞り込む必要がある、明らかにする必要があるというような御意見があったかと思います。
 また、オークションの場合、最高額を入札した時点で落札、すなわち契約成立という場合もあれば、最高額を提示した人に交渉権が発生する、あと、契約成立するかどうかはいろいろ、販売を申し出た者との間の協議で決まるというように、単に交渉する義務が生じるだけと、サイトによって、さまざまな場合があるようでございます。今回、侵害とみなす行為にしようとする申し出行為という概念は、契約の申し込みと、承諾という、申し込みのようにとらえるのか、もう少し広くとらえるのかについて、詰める必要があるという御意見があったかと思います。
 その他、こめじるしで書いてありますのが事務局として気づいた点、気になっている点でございますので、本日の議論の参考にしていただければと思います。
 まず、海賊版の広告行為について、現行の直接侵害を構成することは可能か。すなわち間接侵害というものを検討する以前に、例えば頒布行為の幇助というような観点が現行で対応できると考えられるのかどうか、この辺についての御意見がいただければと思っております。
 また、射程の問題ですけれども、取締りの射程とすべき行為態様ごとに、いろいろ論点があるのではなかろうかということでございます。これについては前回も資料をお示ししましたけれども、2ページ以降に例1から例5まで、前回よりちょっと数を増やしていますけれども、こういう類型をお示ししております。ちょっと後ほど、御説明したいと思います。
 さらに、その取り締まりの対象ですけれども、海賊版であるということについて認識して広告行為を行っている場合に限定すべきと考えてよいのかどうか。情報を知って、というような主観的要件を付す事が絶対要件となると考えていいのかどうかということでございます。
 それから、関係業界からはインターネットを通じた取り引きを想定していますけれども、それ以外の取り引きについても、例えば譲渡の申し出とかというふうな用語を使った場合、インターネットに限らない場合もありますけれども、そういったものについても含めて考えていいのか、あるいは何らかの考慮が必要か。例えば新聞の折り込みチラシの中に海賊版なんかの販売を掲載するというようなことも海賊版の譲渡の申し出に当たるかもしれないわけですが、インターネットを通じたものとそれ以外のもので、取扱いを変える必要があるや否やという問題でございます。
 それから、その他取締りの実務に照らして問題はないかどうかということでございますが、特に行為類型の中で一番最後のページ、例5がございますが、4ページの下、海賊版の広告行為があり、それを見て、購入者、発注者が注文をして、注文を受けてから製造する、それで発注者に販売するという形態です。それ以外の例は、あらかじめそういう海賊版を持っておいた上で広告して販売するというんですが、これは注文を受けてから販売するという、順番が逆転している例なわけですけれども、こういったものについて、広告を出した時点では海賊版がつくられていないわけですから、頒布目的の所持もまだあり得ないわけで、そういったケースがあった場合に問題は生じないだろうかという点が気になるところでございます。
 そのほか行為類型、今御紹介しましたもののほか簡単に御説明しますと、2ページでは例1、これは、一番典型的なものかもしれません。広告行為を出す者自体が、海賊版を所持している、注文を受けて販売するというケースですが、この場合はおそらく広告行為を侵害とみなすまでもなく、頒布目的の所持ということで対処可能ではなかろうかと思いますが、いかがでしょうか。
 それから、例2のケースは、広告行為を行っている者と所持販売を行っている者が別のケースでありまして、広告行為を行っている者が注文を受けて、海賊版の販売業者に発注をかけて、流通させるというケース。
 それから、例3は、海賊版の製造販売業者が主体となって、まず広告行為を依頼をして、それを受けて海賊版の製造販売業者に発注し、販売されるという流れでございます。こういったものについては、広告主については広告の依頼を受けてネット上で海賊版の広告を出すわけですから、主観的要件みたいなものが不可欠ではなかろうかなという気がいたしますが、いかがでしょうかということでございます。
 このように行為類型ごとにも、こういった場合にはこういった要件に留意する必要があるというふうな御意見もあろうかと思いますので、ここに示したものに限らず御意見をいただければ、ありがたいと思います。
 また、資料5を御覧ください。資料5は、前回ヒアリングを行いましたインターネット知的財産権侵害品流通防止協議会のメンバーでありますコンピュータソフトウェア著作権協会が、前回の発表資料を、ポイントを再度まとめていただいたものでございますので、業界の主張がわかりやすいかと思います。めくっていただきますと、途中は、今どのような対応を行っているかという実務を紹介しておりますが、3ページ、問題点というところがございます。業界ではどのようなことを今回、問題と認識しているかというところでございます。黒い丸で2カ所ほど書いてございますが、プロバイダ責任制限法にのっとった手続きがとれないため、発信者情報開示ができない。そのため現実には、1で3行ほどですが、要するに疑わしいものに対してお願いベースでいろいろ交渉せざるを得ないというケース。2は、そもそも販売者が住所を偽っている場合、連絡がとれない場合、お願いしようにも相手が見つからないというケース。そういうふうになってしまうと、実際に海賊版を購入した上で、海賊版であることを確定させた上で刑事手続きをとらざるを得ないという問題認識を持っているようでございます。それでなおかつ、刑事事件にしようと思っても、すべての海賊版販売に対して刑事事件にすることもできないようなこともあって、できれば民民で流通を事前に防止することができるように、発信者情報が開示されやすいように、そういう目的で、侵害とみなす行為の中に海賊版の広告行為を加えてほしいという要望でございます。前回のヒアリングの内容の業界の主張、要望している点というのはこういう点にあるのではなかろうかと思いますので、御紹介をさせていただきました。以上でございます。

【中山主査】
 ありがとうございました。この問題につきまして、御意見、御質問ございましたら、お願いいたします。
 どうぞ。

【松田委員】
 例1から例5までの類型で、広告についてどういう対処がとれるかということを考えてみてという要求がありますので、考えられるところだけ考えてみます。
 少なくとも例1は、所持をしていますし、販売しているわけですから、これは1項で不作為命令が出るわけですから、2項で広告禁止は出るのではないでしょうかと、私は思うのですが。2項は、前回、私が説明者に質問したら、こういうケースはないというふうに言われていましたけれども、少なくとも販売する者が1項で不作為命令を受ける場合には、2項で、その他侵害の停止または予防に必要な措置として広告も禁止することができる可能性は十分にあるのではないかなと私は思っています。
 例2について、注文を受けて発注者と一緒に仕事をするような、こういう場合にはおそらく共同不法行為になって、注文を受ける側も、物の移動は所持者から発注者に流れるのかもしれませんが、注文を受けるこの段階で取り引きが成立しているわけですから、少なくとも共同不法行為になる。ないしは単独の販売者になる可能性も十分にあるのではないかなと思いますが。共同不法行為になれば、113条の1項適用なり2項で広告禁止が打てるのではないかと思います。
 例3ですが、広告依頼を受けて広告だけやっているわけですから、所持者が販売することが違法だということを承知しているとして、どうでしょうか、共同不法行為にはならないのではないかなと思います。そうすると、所持者の販売を促進するための幇助をしている可能性が出てくる。幇助として構成する場合に、1項で不作為命令が出るかというと、これについては大議論があるわけで、そうすると2項についてもすんなり出ない、こういうことになるのではないかなと思いますが。
 例4は、これは例2と同じ結論になるのではないかなと思います。共同になって、1項不作為命令が出て、2項で広告禁止が打てるのではないか。
 一番難しい例5ですけれども、広告と注文だけを受ける、ここに、取り引きの一部申し込みを受けるということが譲渡になるかどうかということですが、なかなか譲渡性までは難しい。そうすると、せいぜい認められて幇助かなと。幇助だとすれば、先ほど例3で問題になったことがそっくりそのまま問題になる、こんなふうに思うんですが。

【中山主査】
 そうすると結論は。立法は必要か否かというのは。

【松田委員】
 いや、まだそこまでは。幇助に1項命令、不作為命令が出せるかというのは、ここだけで議論できるような問題ではない、大議論ではないでしょうか。

【中山主査】
 あともう1つは立証の問題があり、所持しているといいうことを立証することはかなり難しい場合があります。現実には所持していても、それをいちいち立証することは大変です。

【松田委員】
 だれが所持しているかわからない場合でも、広告だけを押さえるということですね。

【中山主査】
 そうですね。大体、悪い者はどこかに隠しておいて、本当は所持しているのだけれども、所持がわからないようにするというのが結構あると思うので。
 あるいは一番最後の例とは、引き渡しする前に何とかしたいと言えば、やはり広告を対象にしなければいけないという要請はあると思うのですけれども、それでいいかどうかという問題だと思いますけれども。
 どうぞ、多賀谷委員。

【多賀谷委員】
 別の論点なのですが、この広告の規制についてプロバイダ責任制限法との関係を書いてあるのが、私はちょっと何か違和感を、正直言って感じます。というのは、これで仮に広告について何らかの禁止の規定をして、それでプロバイダ責任制限法でやりたいという、著作権協会の方々がそういう提言をしているわけですけれど、現実にはそれはどうもうまくいかないんじゃないかと思います。プロバイダ責任制限法というのは、つくったけれども、正直、ほとんどあまり機能していない法律だろうと思うのです。
 ということは、仮に広告が違法だということになったとしても、それではプロバイダがそれを違法だと理解して削除するなり、あるいは発信者情報を開示するということがあまり考えられないといいますか、現実に削除は結構民民でなされていますけれども、発信者情報開示はほとんどなされていなくて、裁判になっている例が結構あると思います。今、松田委員が言われたように、微妙な事例だとまずプロバイダは責任をとりたくないから、開示をしない。これはあくまでも民民の仕組みですから、やっぱり何らかの、先ほど大渕委員が、あまり公的機関が入るのはどうかと思うとおっしゃったのですけど、結局これは、もしやるとしたら何らかの監視機関的なところも組ませないと、あるいは刑事罰を組ませないと、プロバイダ責任制限法だけで解決するというのはちょっと甘い考えではないかと思います。

【中山主査】
 どうぞ、市川委員。

【市川委員】
 またちょっと論点が変わるかもしれませんが、先ほど「情を知って」を入れるかどうかという議論があったと思うのですが、それは、立法のときの選択としてはどういうことが考えられるかというところをちょっと御説明いただきたいのですが。差止め的に考えますと、客観的に海賊版ということだけが明らかになれば「情を知って」ということを入れなくてもいいのではないかという考え方もありますし、ただ、「情を知って」というのを仮に入れても、裁判の過程で知ったということに擬制されるようなことも考えられます。例えば今の条文で言いますと、どの条文あたりを下敷きにしてお考えなのか、ちょっと、もしお考えの点がありましたら教えていただきたいと思います。

【大和著作権課課長補佐】
 具体的に、これでなければならないわけではありませんが、例えば113条侵害とみなす行為の1項2号で、著作者人格権等々を侵害する行為によって作成された物を情を知って頒布し、又は頒布の目的をもって所持する行為という規定にならって、譲渡の申し出というものを規定するのかなと考えております。

【中山主査】
 よろしいでしょうか。

【市川委員】
 従来の立法との整合性というのがあろうかと思うのですが、何とか「情を知って」ということを入れないような立法の方向というのも考えられないかなという、ちょっと感覚的なものは持っているんですが、いかがでしょうか。

【中山主査】
 その場合、所持についても、できれば現行法を変えて平仄をとったほうがよろしいという、こういうお考えでしょうか。

【市川委員】
 そこまで大きくなってしまうと自信はあまりないのですが、「情を知って」というのは必ず裁判をやっていますと、その辺の立証の問題というのは必ず出てくるということですよね。ただ、それはある程度立証できるじゃないか、いろいろな間接事実からできるじゃないかと。ある程度「情を知って」ということを入れることによって流通の阻害にならないというような、もちろん反対の利益があるという点もあるのですが、その点はちょっと実務的にどうかなという疑問を、普段から少し持っているものですから。

【大渕委員】
 よろしいですか。

【中山主査】
 どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 これはお願いなのですが、先程も少し間接侵害の話が出ていまして、司法救済ワーキングチームで作業を進めている内容とも絡んできますので、こういうような間接侵害に絡むようなものを考える場合には、それを導入したときに、反対解釈を含めてどのような法的なインプリケーションないしは影響があるかというところも併せて御検討いただければと思います。以上です。

【中山主査】
 どうぞ、多賀谷委員。

【多賀谷委員】
 先ほど言い忘れたのですが、プロバイダ責任制限法で限界があるというのは、もう1つの面があります。プロバイダ責任制限法が出てくるのは例えばオークションサイトのように、現実に特定のサイトでそういう広告行為が行われている場合には、プロバイダに削除責任なり発信者情報の開示を求めることができるわけですけれども、おそらく広告といった場合、それがウェブサイトとかスパムメール経由ですね。その場合に特定のプロバイダではなくてISP、インターネットサービスプロバイダを複数転々と回ってくるような場合、その場合にこのプロバイダ責任制限法でやっても、自分のところではなくほかのところから来たものについては規制できないという、そういう限界がありますので、それをどうするかということをやはり考えなければいけない。

【中山主査】
 前回のヒアリングだと、とりあえずはオークション、という感じだったのですけれども、おっしゃるとおり、スパムメールで来たものをどうするかと言われると、これはまた難しい問題だと思いますけれども。
 ほかに、何かいかがでしょう。先ほど大渕委員から御発言がありましたけれども、間接侵害が議論中で、そちらのほうもぜひ幅広く目配せをしながら議論をしていただければと思いますけれども。
 今日のところは、このぐらいでよろしいでしょうか。次の議題がありますので、この議題はこのぐらいにしたいと思います。
 次は、親告罪の在り方について、事務局から説明をお願いいたします。

【大和著作権課課長補佐】
 資料6、7を御覧ください。また、これに関連して参考資料2もございますので、後ほど御紹介をいたします。
 親告罪につきましても前回御議論をいただきましたが、この問題につきましては、既に文化審議会著作権分科会で、平成11年、平成15年の報告書の中でもたびたび、積極意見、消極意見を含めて議論されてきました。本日の資料では、これらについてこれまでの積極的意見、それから消極的意見、それから、前回の会議でお示しいただいた点について、先ほどの資料と同様に、検討を行うべき点ごとに再整理をいたしました。資料6の(2)以下でございます。ここの部分について、御説明をさせていただきます。
 以下は、上記の意見を法制問題小委員会第2回配付資料の6「検討を行うべき点」に沿って並びかえたものでございます。こめじるしは先ほどと同様、まだ意見が出ていない点で補足説明を要する点として、事務局として気づいた点を挙げさせていただいております。
 まず、1番目の項目といたしまして、著作権法上の犯罪について著作権等を「私権」としている当時の制定趣旨等を踏まえ、その後の状況の変化をどのように評価すべきかという問題でございます。これについては、aで消極的意見ですけれども、日常的な活動の中で著作権侵害が生じることも少なくなく、こういった侵害について、告訴もなく警察が関与することや盗作疑惑などの日常的なニュースでも警察が動かざるを得ないということは適切なのかというような消極的な意見が、以前からございました。また、前回の意見ですが、私権であるからという理由はちょっといかがかと。所有権も私権であり、表現として不明確なので、先ほど読み上げましたaのような趣旨ではないかというふうな御意見です。
 また、こめじるしでございますけれども、近時のコンテンツビジネス拡大の状況、いわゆる社会の変化でございますとか法定刑の引き上げ、500万円を1,000万円に引き上げたような改正が行われた背景をどのようにとらえるかということも、状況の変化として議論しておく必要があるのではなかろうかと思っております。具体的には、なお私益性が高いというふうに考えるべきなのか、あるいは、私権とはいえ公的性格が高まっているというふうに評価すべきなのかというふうな状況の判断、分析ということが必要かというふうに考えております。
 それから、2点目でございます。上記の評価を踏まえて非親告罪化をすべきか否かということでございます。これについては前回の議論で、非親告罪にするニーズがあるんだろうかという御意見が出ておりました。これまでの審議の中でも、その下にも書いておりますように、国民の著作権に対する規範意識の観点から、権利者が告訴の努力をしない限り侵害が放置されるという現状は適切でないとか、第三者の告発によって法の執行機関が捜査権限を得ることで権利侵害に対する抑止力が高まる、あるいは実態の調査に時間を要するなど、告訴期間の経過により告訴できないという事態を避ける必要があるといった積極的意見や、他方、先ほども挙げましたような消極的意見等々、ここに列記したものがあるわけでございます。
 これに対しまして、例えばaのところで「日常的な活動の中で著作権侵害を生じることも少なくなく」という書き方が今までの報告書でされたことがございますけれども、一律にそう言ってよろしいのかどうか。例えば著作権を侵害する行為の中には確かに制限規定を多少超える程度の権利侵害もあるわけですが、他方、組織的な犯罪とか悪質巧妙な犯罪もあるわけでございますので、個別の罪ごと、侵害行為ごとに論じる必要もあるかもしれないと考えております。
 それから、もう1点、その他参考資料2を参照ということでございますが、前回も御用意したんですが、ちょっと説明をする時間がございませんでしたので、本日御説明をさせていただきます。
 参考資料2は、日本弁護士連合会から出された意見書でございます。これは、知財本部の専門調査会の中で著作権法における親告罪の見直しについて、2月でしたか、議題に上がった際に、それを踏まえて日弁連が検討を行い、関係方面に意見書として提出したもので、政府として受けとったものでございます。意見の趣旨、ポイントは、非親告罪にすることを反対するというものでございまして、そもそも親告罪とはこういった場合に必要なものであるということを説明した上で、著作権侵害に関しても、その保護法益が私的利益であること、さらに加えて、これを認知するのは侵害行為に最も敏感で、しかもその事情をよく知る被害者の告訴に待つのが相当であるといったことから、非親告罪にしても、刑事罰による抑止として有効か否かは疑わしい。さらに、人格権の侵害の罪については人格的利益を保護法益とするので、被害者の感情に反してまで国家が介入するのは不適当である。公に公訴提起することによって、かえって被害者の被害を拡大する場合もある。何よりも名誉、感情にかかる犯罪は、被害者の告訴に待たなければ通常、国家はこれを認知しがたい等々の理由。これまで審議会と重なる部分もありますが、弁護士連合会からも、このような理由を挙げて反対を述べております。
 また、この中で文化庁の国会答弁なども紹介しておりまして、特許の分野では近年権利者のほとんどが法人と考えてもよいという状況の変化から、人格的利益の保護という色彩が薄れてきた。このため、親告罪から非親告罪に改めた経緯があるけれども、著作権侵害に関してみれば審議会でもこれまで何度も議論されており、特許権とは異なる事情が多いので、慎重な検討が必要であるという答弁をしておりますが、日弁連としては、状況の変化がないと考えられるので、非親告罪化する立法事実は認められないという見解でございます。このような立場から、日弁連として、この問題について反対という意見が表明されておるものでございます。
 それから、3番目の項目3−1、先ほどの資料6に戻りますが、仮に非親告罪化をする場合、一定の範囲に限って非親告罪化する必要があるか。また、非親告罪化に当たって、その他留意すべき点はあるか等々、例を列記しておりますけれども、著作者人格権については個別の事情があることに配慮する必要があるという御意見が、前回出されたかと思います。
 また、3−2といたしまして、仮に非親告罪化をする場合、一定の範囲に限って非親告罪化する必要はあるか。また、その場合にその他留意すべき点があるかということでございますが、これは従来からの意見の中で、権利者の負担増、海賊版であるかどうかを確認する鑑定というものについて、検挙の件数が増加した場合にそのような負担があるのではないかという意見が、従来から報告書なんかには示されております。
 さらに、こめじるしとしまして捜査の実態に照らしてどうかということですが、先ほど御紹介しました日弁連からの意見書の中にも記述がありますが、2ページの(5)結論の第2段落目です。「また非親告罪化は公訴官に大きな負担を負わせる反面」ということで、権利者の負担のほかにも公訴官にも負担があるという指摘も出されておりますが、これをどう考えるかということでございます。
 資料7について、イメージ図を御説明したいと思います。これは、著作権等の侵害罪があった場合の公訴までの流れをフロー図のようにしたものでございますが、左側に親告罪、右側に非親告罪とした場合の流れを書いてございますが、おおむね同じような手続きかと思います。事件の発生があった場合、端緒として告訴とか告発とかそういったもの、あるいは報道等で情報をキャッチしながら捜査が始まるということについては、親告罪、非親告罪でも同じでございます。こういうことにつきましては、犯罪捜査規範という国家公安委員会の省令の中で努力義務規定が課されておるわけでございまして、親告罪であるか非親告罪であるかにかかわらず、このような活動が行われるようでございます。もっともこのあたりで、親告罪の場合には告訴の意思確認などを被害者、権利者にするという手順がかんでくるかとは思いますけれども、端緒としての情報収集、告訴、告発を受けて捜査が始まるという意味では、どちらも同じでございます。
 捜査が入った、捜査の実施後は、若干違いはございますが、親告罪の場合であっても告訴以外でも捜査を開始することができますし、親告罪である犯罪について知った場合には、捜査機関は告訴がない段階でも、証拠隠滅なんかのおそれがある場合には急を要する捜査というようなことができるというような規定もあるようでございます。この点について非親告罪の場合でも同様ですが、告訴、告発があった場合には、迅速な捜査をするような努力義務というのが課されているようでございます。その後、証拠の収集等を行い、検察官に事件が送付されていくわけでございます。
 親告罪と非親告罪の違いというのは一番下の部分でありまして、親告罪であるか非親告罪であるかによって異なるのは、一番下の点線の枠囲みのところでございます。親告罪であれば、当然のことですけれども、告訴がなければ公訴を提起することができないということでございますし、親告罪の場合には、告訴は犯人を知った日から6カ月を経過したときはこれをすることができないというところが、実質的に異なるところかと思われます。
 以上、前回の議論を再整理しますと、このように親告罪と非親告罪ではどのような違いがあるかというのを図示させていただきました。これらをもとに、御議論いただければと思います。

【中山主査】
 ありがとうございました。この問題は、前回はほとんど議論がなかったのですがけれども、これは特許権侵害罪のほうが非親告罪になってしまったということから、知的財産法全体の中で平仄をとる必要があるのかということで問題が提起されたと思います。しかし、著作権の場合と特許権の場合と侵害は同じであると考えることもできますし、また、著作権の場合は、今説明がございましたようにプレーヤーが全然違います。特許の場合は、侵害は業としての行為だけですからプロ同士の話なのですが、著作権の場合は、1億総クリエイターの時代になってきており、このプレーヤーの違いをどう見たらいいのか。あるいは権利の発生においても、著作権の場合は権利の発生、帰属範囲についても特許のように明らかではないという、こういう状況で非親告罪にしてもいいのか、等々の論点がございますので、今日はぜひ、活発な御意見を頂戴できればと思います。
 何か質問や御意見ございましたら、お願いいたします。

【末吉委員】
 意見ということではないんですけれども、実務感覚というのをちょっと報告しておこうと思います。
 親告罪で、告訴人が告訴するわけですが、告訴代理人で捜査当局に告訴状を持っていくと、「取り下げないでもらいたい」と必ず強く言われるんですね。どうしてかというと、告訴人と捜査機関というのは二人三脚みたいなところがあって、特に著作権の刑事事件は、難しい案件があります。私は、建築の著作物の著作者人格権に基づく刑事告訴というものの被告訴人代理をやったことがあり、どういうことになるかというと、事実関係は大体争いがなくても、告訴人側からいろいろ法的な主張が出てきて、それに対して被告訴人から反論してくださいという流れで、ボールの投げ合い、ラリーが随分続くということがあって、告訴人と被告訴人という関係を外して、本当に捜査機関は大丈夫なのかなというのが素朴な実務感覚であります。
 今、主査が御指摘されたとおり、プレーヤーの違いということもあるのですけれども、もともと著作権の事件はかなり難しいのがあって、よく、放っておかれる案件がたくさんあるんですね。告訴期間が切れそうになったときに慌ててやることも随分あるぐらいです。私の理解では捜査当局も別に怠慢ではなくて、相当苦労してやっておられるんじゃないかなと思います。これは告訴代理人側もやったことがあるし、被告訴人側の代理人もやったことがあるのですけれども、いずれも何か、捜査機関には御苦労さまと言いながらやってきたところがあります。そういう実務感覚からすると、やはり、著作権事件はちょっと違うのではないかと思っています。いずれにしても、捜査機関側の御意向というのが、もしかしたら立法事実を考えるときに1つ大きな要素なのかもしれないので、もし、そういう御検討がまだであるとすれば、その点をちょっと御考慮いただけたら、実情に沿うのではないかなと思いました。以上でございます。

【中山主査】
 それは、非親告罪化に近い御意見でしょうか。

【末吉委員】
 私は、あまり変わってないものだと思うんです。

【中山主査】
 同じですか。

【末吉委員】
 状況は変わってないのではないかなと、私は思っているのですが。告訴がなくてもやれますよということであるとすれば、非親告罪化しても構わないのではないかと思いました。

【中山主査】
 どうぞ、市川委員。

【市川委員】
 これはなかなか難しい問題だと思いますので、私自身もちょっと態度を決めかねているところがございますけれども、まさに類型によって全く違うのだろうと思うのですよね。本当に海賊版のような路上で売るような有名なブランドとか真似しているということになりますと、これは非親告罪ということで意見の分かれることはほぼないのだろうと思いますけれども、やはり著作権法というのは表現の自由に関わる面がございますので、やはり特許が導入されたから著作権法でも当然ということにはならないと思います。ですから、どうも、そこのうまく区分けができるのかどうか、なかなか、これがちょっと立法技術としてできるのかどうかも含めて、少し慎重に議論していかなくてはいけないのかなという感想だけは持っております。

【中山主査】
 確かに特許に比べると著作権のほうがいろいろ複雑ですし、侵害だけ見ても、おっしゃるとおり、やくざの行う侵害から学者が行っている侵害まで種々雑多ございますので、難しい点はあると思うのですけれども。
 はい、どうぞ、道垣内委員。

【道垣内委員】
 前回の資料5のところに外国法の紹介があって、その中にドイツ法は親告罪にしているけれども、ただし書きがついていて、特別の公共の利益を理由として職権による告訴もできるという規定があるようです。これはいろいろな対応ができる規定ではないかと思いますが、このような規定は日本の刑事法の中でなじむのかなじまないのか、少し刑事法の観点から議論すべきかと思います。なぜドイツにこのような規定が存在するのか、また、ドイツ方にそのような規定があることは十分知られているけれども、日本でのそのようなルールを採用することは無理だという何か理由があれば、教えていただければと思いますが。あるいは調査しておいていただければと思います。

【大和著作権課課長補佐】
 次回に向けて、調べさせていただきたいと思います。

【中山主査】
 あと、可能性としては常習犯。常習侵害罪みたいなものをつくって非親告罪化するとか、アイデアとしては、いろいろあり得ると思いますけれども。
 どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 刑事から離れて長いのでほとんど忘れかけていますけれど、ドイツはたしか日本のように起訴便宜主義ではなくて起訴法定主義が原則だったように思いますので、その辺の差がもしかしたら関係しているのかもしれません。そういう意味では日本とドイツは、近そうな割には意外と大きいところで異なっていますから、そうであれば、それも含めて考える必要もあり得ようかと思います。これを拝見しますと、前回の資料の9ページのところにオーストリアとドイツというドイツ系のところだけ親告罪になって、アメリカ、フランス等では親告罪になっていないということなので、そういう意味では何で親告罪にしているのかというあたりが、先ほどのご質問にも関連するのかもしれません。ただ、ドイツでも、親告罪にしている割には結局、完全な親告罪ではないような規定ですので、その辺は我々のこの検討にも、先ほど市川委員が出されたところにも関係するような、何か示唆がありそうな気もするので、調べていただければと思っております。
 それから、先ほど末吉委員からも出たところなのですが、やはりこれは、捜査機関がどういうふうに認識しているかというのも重要なところなので、ある意味では、親告罪にしても非親告罪にしても同じということなのか、それともやはり、かなり非親告罪と親告罪で違うのかというあたりについて、実際上捜査機関のいろいろな捜査の在り方にも大きな影響を与えるかと思いますので、ユーザーがどういう気持ちでいるのかというのが1つありますけれども、捜査機関のほうについても、何かしらの形で調べていただければと思います。

【中山主査】
 捜査機関については特許法が変わったので、その結果、どう変わったかというのを見れば、かなり参考になるのではないかと思います。
 ほかに、何かございましたら。どうぞ、村上委員。

【村上委員】
 論点は、私は大体、各先生方の主張で尽きていると思うので、結局、非常に悪質な海賊版みたいなものを頭に描くなら、それは当然非親告罪にしてどんどん取締りを行うべきであり、それで規制の実効が上がるならば別に親告罪にしておく必要はなく、非親告罪でいいだろうと。ただ、実務で本当に実効性が上がるのかなというのは多少気になる。というのは、非常に悪質な海賊版などの場合、捜査機関が動くとしても、これは消費者法などで悪質な商法などでも同じなので、相手方が消えてしまうといったらおかしいですけれども、法人は実体がなくなってしまう、それから、とらえようと思った人はどこに行ったかわからなくなってしまうという話になると、実際に非常に速やかにやらないと、取締りの実効性が上がらないことになるので、非親告罪にしたら海賊版をきれいに摘発できるかどうか、相手方をとらえられるのかというのは、実際の捜査の実務が1つの大きな論点になるかと思っています。

【中山主査】
 はい。ありがとうございました。ほかに、何かございましたら。
 確かに、これ、知財戦略本部の「知的財産推進計画」に載っているわけですけれども、あちらの議論にも参画していましたが、どうも議論は海賊版とか、あるいはテロリストにお金が流れる場合だとか、そういうのを主として念頭に置いているようですけれども、ここではそれももちろん念頭に置きつつ、著作権全体について考えていただければと思います。
 何か、ほかに。どうぞ、大渕委員。

【大渕委員】
 先ほど、何か類型ごとに違いがあるのではないかということが出ていましたが、やはり著作者人格権と著作権とでは、もともと財産権か人格権かという点で大きく異なりますので、多分、またドイツの場合だと一元論だから、あまりそこを区別してなかったり、あまり参考にならないかもしれませんけれども、ちょっとその辺は議論する必要がありそうです。
 前回の親告罪になっているものの理由というのが、前回の資料で8ページのところにAとBとありまして、1つは主として訴追して事実を明るみに出すことにより、かえって被害者の不利益になるおそれがある、強姦罪とか名誉毀損等、そういうもの。もう1つが、被害が軽微で、被害者の意思を無視してまで訴追する必要がない場合。これに当たるかと言われると、ちょっと法定刑との関係で難しいですが、Aとの関係では人格権あたりがかなり関係する可能性がありますので、その辺はやはり、ある程度議論する必要があろうかと思います。著作権法一般というのではなくて、ある程度分けて考えないといけないかなという気がしています。

【中山主査】
 おっしゃるとおりで、今度刑罰強化のときも、著作権法の条文によって、分けて強化したものもあれば、強化しなかった条文もあるという感じでなるのではないかと思います。
 ほかに、何かございますか。今日のところは、このぐらいでよろしいでしょうか。それでは本日の会議は、ここまでといたします。次回の小委員会につきましては、各課題についてこれまでの議論の整理を行いたいと思いますので、事務局では、これまでの論点の整理をした資料を用意してくださるようにお願いいたします。
 最後に、事務連絡がございましたら、お願いいたします。

【黒沼著作権調査官】
 次回の日程でございますが、まだ調整中でございますけれども、6月上旬あたりで開催できたらと思っております。また、確定し次第、連絡させていただきます。

【中山主査】
 それでは、本日の会合は、これで終わりにしたいと思います。どうも、長時間のご議論、ありがとうございました。

(文化庁著作権課)


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