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著作権分科会 法制問題小委員会(第7回)議事録

1 日時  平成17年8月25日(木曜日) 9時30分〜12時45分

2 場所  如水会館2階 「オリオンルーム」

3 出席者
  (委員)
  石井,市川,大渕,加藤,小泉,潮見,末吉,茶園,土肥,苗村,中村,中山,前田,村上,森田,山地,山本の各委員,野村分科会長
(文化庁)
  加茂川次長,辰野長官官房審議官,甲野著作権課長,池原国際課長
ほか関係者
(ヒアリング出席者)
  金原(株式会社 医学書院 代表取締役社長),中西(有限責任中間法人 学術著作権協会常務理事),三田(社団法人 日本文藝家協会 常任理事・知的所有権委員会委員長)
の各説明者

4 議事次第
   開会
 議事
(1) 「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 審議の経過(案)」について
(2) その他
 閉会

5 配付資料
 
資料1   文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 審議の経過(案)
資料2   著作権制限規定の見直し審議についての意見(金原氏作成資料)
資料3   著作権制限規定の見直し審議についての意見(中西氏作成資料)
資料4   福祉施設・図書館・教育機関における権利制限の拡大について(三田氏作成資料)
資料5   裁定制度に関する検討報告(文化審議会著作権分科会 契約・流通小委員会)

参考資料1   文化審議会著作権分科会法制問題小委員会(第6回)議事録
(※第6回議事録へリンク)
参考資料2   文化審議会著作権分科会法制問題小委員会審議予定

6 議事内容
  (中山主査) それでは時間でございますので、ただいまから文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第7回を開催いたします。
 議事に入ります前に、いつもと同じなのですけれども、本日の会議の公開につきましては、予定されている議事内容を参照いたしますと、特段非公開とするには及ばないと思われますので、既に傍聴者の方々には御入場をしていただいておりますけれども、この点に御異議はございませんでしょうか。

〔異議なしの声あり〕

(中山主査) ありがとうございます。
 それでは本日の議事も公開ということで、傍聴者の方々はそのまま傍聴をしていただくということにしたいと思います。
 それでは、議事に入ります。まず事務局から、配布資料の説明をお願いいたします。

(白鳥著作権調査官) 議事次第の中段以下に配布資料一覧が書いてございますので、そちらを併せて御覧ください。本日の資料は5点ございます。資料の1が、「本小委員会の審議の経過の(案)」でございます。資料の2から4につきましては、権利制限規定の見直し審議についての意見として、資料2が金原医学書院代表取締役社長の作成された資料、資料3が中西学術著作権協会常務理事の作成された資料、資料4が、三田日本文藝家協会常務理事・知的所有権委員会委員長の作成された資料でございます。資料の5につきましては、契約・流通小委員会によります「裁定制度に関する検討報告」でございます。なお、参考資料については、2点ございます。1点目は前回第6回の本法制問題小委員会の議事録で、2点目が、本小委員会の審議予定でございます。以上でございます。万一不足等がございましたら、事務局まで御連絡いただきますよう、お願いいたします。

(中山主査) よろしゅうございましょうか。

(山地委員) ちょっとよろしいですか。一つ、意見を申し上げたいのですが。資料2、3、4が出ておりまして、御三人の方がメインテーブルに着席されておりますので、多分、意見聴取が行われるものと思います。
 しかしながら、本件については、他方当事者もございまして、例えば教育関係者、あるいは図書館、あるいは医療関係者等の、各々の主張が非常に食い違っているところであります。例えばで申し上げますと、医療関係でいうと、管理事業者に権利処理が委託されている文献率について、出版社や著作権者の主張によりますと、「ほぼ80パーセント程度で、非常に率が高くて問題ない」と主張しておりますが、一方、利用者側の薬剤師とか、お医者さんとか、あるいは製薬会社からいうと、「委託率は20パーセント程度であって、極めて率が低くて、非常に困っている」という主張をされているわけです。このように事実問題についてさえ、主張に食い違いがあるのですから、もしも意見を聞くのであれば、両当事者を呼んで、同時に聞くべきだと思います。
 さらに言えば、事務局が、補償金問題について、もう1回、9月下旬ないし10月にこの委員会を開いたらどうかということで調整されているようなので、もし可能であれば、その場に両当事者を呼んで、意見聴取をすることにされてはいかがでしょうか。以上、提案を申し上げます。

(甲野著作権課長) それでは、この件につきまして、御説明をさせていただきます。
 今回、権利制限の問題に関しまして、出版の関係の方、各分野の関係の方々においでをいただくという段取りをさせていただきました趣旨でございますが、これらの問題につきましては、前の法制小委員会におきましては、「これを認めてほしい」という御立場から各行政機関その他の関係者に来ていただきまして、その主張をまとめていただいたわけでございまして、それに対する反対の立場といいますか、権利を制限される側の御立場というものが、この委員会では表明されていなかったものというふうに、承知をしているところでございます。
 そうしたことから、逆に今回は呼びませんと、もっと非常に、公平性という点で問題があるかなということもございましたので、今回、このタイミングにはなっておりますけれども、権利者側の方々をお呼びして、こちらの方の意見も聞いてみようということでございました。
 今後、どういう形でフェアにやったらいいかということにつきましては、今の山地委員の御意見をよく踏まえまして、主査とも相談をしまして、図っていかなければいけないというふうに思っているところでございます。

(山地委員) しかしながら、医療関係について申しますと、厚生労働省が確かに来て御説明、意見表明をされましたけれども、厚労省は利用者ではございません。利用者というのは、お医者さんであり、薬剤師であり、あるいは製薬会社なわけでありまして、彼ら利用者は、意見表明の機会が一度も与えられていないというのが、私の認識であります。

(中山主査) なるべく広く意見を求めるのはいいと思うので、もし、ここにお呼びすることが不可能なら、少なくとも文書ででも、提出をして頂けるものがあれば提出して頂き、委員に配るようにしてもらう必要があるのではないかと思いますけれども。
 どうでしょうか、山地委員。できることなら呼んだ方がいいと思いますけれども、時間の都合もあって、なかなか全部を呼ぶことは難しいのではないかと思うのですけれども。

(山地委員) もっと事前に連絡を受けていれば、事前に私も意見を申し上げたのですけれども、こういうアレンジが何の連絡もなくて、ここの会場に来てみたらこうなっていたということで、突然の提案を言わざるを得ないというふうに追い込まれているというのが、私の感じでございます。
 さらに言えば、薬事で言うと、厚生労働省が1人しゃべっただけでありまして、本日は3名がお話をされるということに、非常に不公平感を持っております。これ以上の裁定は、主査にお任せいたします。

(中山主査) 方向は別として、なるべく多くの関係者の方からの意見を聴取できるように努力したいと思います。

(潮見委員) 中身ではないのですが、議事次第の配付資料の一覧で、資料の1、2、3、4ですが、この前は、著作権分科会委員として、作成配付資料という形で出していただいていますけれども、今日、意見をおっしゃられるのは、著作権分科会委員として、そういうお立場で作成した資料に基づいて、そういうお立場でおっしゃられるつもりなのでしょうか。多分、今のやり取りを伺っていると、そうではなさそうだと思われます。そうであれば、これは形式だけのことかもしれませんけれども、資料2、それから資料4の部分については、むしろしかるべき表記に、肩書にしておいたほうがいいのではないかという感じがいたします。

(中山主査) その点はどうでしょうか。

(甲野著作権課長) 特に肩書につきましては、ちょっと私どもも注意深くは見ておりませんでしたけれども、厚労省のメンバーにしましても、著作権分科会のメンバーではございませんし、そういう意味では肩書が取れているのかなという気がしているわけでございますが、いずれにしましても、権利が制限される側の意見を聞くということでございまして、お呼びしたということでございます。

(中山主査) よろしいでしょうか。
 それでは本日も、いつものとおり、3時間の長丁場になりますので、議事の段取りについて、まず確認をしておきたいと思います。本小委員会におきましては、これまでに「権利制限の見直し」、「私的録音録画補償金の見直し」につきまして、6回にわたり、議論を行ってまいりました。また前回は、各ワーキングチームからの検討結果を報告していただいて、議論をしてまいりました。
 そこで、今までの議論を踏まえて、「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 審議の経過(案)」を本日は、まとめるということになるわけであります。
 時間的な制約も厳しい中、扱う項目や論点も多いために、効率的な議論ができるように、各項目・論点ごとに区切って議論をしたいと思います。
 「権利制限の見直し」、「私的録音録画補償金の見直し」、「デジタル対応、契約・利用、司法救済の各ワーキングチームの検討結果」、「裁定制度の在り方」について、この順番で事務局から説明をしていただき、併せて有識者の説明も受けた上で、意見交換の時間を取りたいと思います。
 なお、「裁定の在り方」につきましては、「著作権法に関する今後の検討課題」において、本小委員会における検討に先立ち、契約・流通小委員会において検討を行うことが適当とされておりました。
 7月25日の契約・流通小委員会におきまして、「裁定制度に関する検討報告」についての取りまとめをいただきましたので、主査であります土肥委員から、本日は御報告を頂戴するということになっております。
 それではまず、「権利制限の見直し」につきまして、「審議の経過(案)」に沿って、事務局から説明をお願いいたします。

(甲野著作権課長) それでは、お手元に配布をしております資料1を御覧いただきたいと思います。
 「審議の経過(案)」につきまして、御説明をさせていただきます。なお、時間も限られておりますので、ポイントのみを、できるだけ簡略に御説明をさせていただくこととしたいと思っておりますので、場合によりましては、自分の意見は何か言及してないなというふうに思われる場面もあるかもしれませんが、その点は御容赦をいただければと思います。
 まず、2ページを御覧いただきたいと思います。「権利制限の見直し」につきましては、特許の問題、薬事行政、図書館、障害者、学校関係につきまして、提案というか、論点になったわけでございます。その内の第1番目が、特許の審査に係る制限でございまして、3ページでございます。
 現行制度は裁判のため、あるいは、裁判に準ずる手続の場合には、必要と認められる限度で複製ができる、そして行政目的の場合には、内部資料として必要と認められる限度で複製が許容されるということになっておりますが、特許の審査につきましては、これは裁判手続に準ずるということにはなりませんので、行政の内部資料として必要と認められる場合のみ、複製が許容されることになっております。
 ところが、ここの「問題の所在」の枠内にありますような1から4の事柄につきましては、必要性がありながら、内部資料としてのものと必ずしも言えるわけではございませんし、あるいは複製の主体が行政主体ではないということで、権利制限を求める声が挙がっているわけでございます。つまり、1につきましては、内部資料ということではありませんし、23は、主体が行政とは異なります。また4につきましては、閲覧の対象にもなり得る資料でございますので、内部資料として必要かどうかという要件を満たすかという問題がございます。この点についての御議論は、6ページを御覧いただければと思います。
 6ページでございますが、この「審議の状況」でございます。要望の12につきましては、的確・迅速な審査、手続の観点から、権利制限を行うことが必要であるとする意見が多かったかと思います。ただ、広範にわたる、あるいは量も大きくなるおそれもあるということから、補償金制度の導入という意見もございました。
  3については、そういう意見がございました。しかしながら、やはり、将来の紛争防止につながる公益性の高い、極めて重要な手続であるので、12と同様の扱いとすべきという意見が多かったかと思います。
 また、4の審査情報の一環で、出願・審査情報として電子的に特許庁が保存するということでございますが、これも権利制限の対象とすべきであるとの意見が多かったわけでございますが、やはり「行政の目的のための内部資料として必要と認められる場合」に該当するので、現行法でも可能だという意見も多かったわけでございます。しかしながら、先程述べさせていただきましたように、閲覧の対象となるので、立法的にここのところは明示すべきではないかという意見もございました。
 また、権利制限を行うに当たりましては、複製物が関係手続外に利用されることがないような配慮が必要だという意見もあったところでございます。
 なお、権利制限につきましては、ベルヌ条約との関係が問題になりました。この点につきましては、以下のような意見がございました。
 これは現行法でも、42条は、内部資料として行政目的の複製を認めているということでございますので、ここにありますような複製を仮に認めたといたしましても、権利者にとって結果的に被る被害は現状と同程度であるということから、「通常の利用を妨げず、また、著作者の正当な利益を不当に害しない」ということで大事なのではないかという意見でございました。
 なお、これらの法改正を行う場合には、対象となる手続を列挙するのではなくて、「行政手続のために必要と認められる場合」というものを置いて、政令で個別の根拠規定を列挙するという方法を検討すべきだという意見がございました。加えて、手続外で利用されることがないような担保、また特許法に関して言えるのであれば、実用新案、意匠、商標等も同じではないかという意見もあったところでございます。
 以上が、特許の審査に関してでございました。
 2番目が、8ページをお開けいただきたいと思いますが、「薬事行政について」でございます。薬事行政につきましても、現行制度は同様で、裁判に準ずる手続、及び行政の内部資料としては複製が認められておりますが、薬の承認、あるいは副作用の報告等につきましては、裁判に準ずる手続ともいえませんので、「行政の目的」で、「内部資料として必要」な場合のみ、複製が認められるわけでございますが、この問題の主題にありますような123のケースは、それぞれ、それに該当しません。しかし、大変重要な事柄ということで、これを権利制限にしてほしいという要望があるわけでございます。
 これらの審議の状況でございますが、10ページをお開けいただきたいと思います。「審議の状況」の12は、薬の承認、それから副作用についての報告等、これらにつきまして、申請者等が国に研究論文等を、配付するというものでございますけれども、これは国民の生命・健康への被害を未然に防止するということから、権利制限が必要だという意見が多かったわけでございました。
 そして、先程と同じ議論でございますけれども、42条では行政目的で複製が認められるということもあり、権利制限を置いたとしても、被る被害というものは、権利者が被る被害は同程度であると考えられるということでございました。
 そして、3番目でございますけれども、医薬品等の適正な使用に必要な情報を提供するために、医薬品の販売あるいは製造会社が研究論文を医療機関等に複製して、頒布・提供することでございますが、これにつきましてもやはり、国民の生命・健康を守るために重要であり、権利制限の対象とすることに賛成する意見が多くあったわけでございますが、もしこれが、権利制限が認められない場合には、許諾を得るのに時間がかかりすぎる、あるいは権利者が探索できない場合には利用ができないというようなことがあるという指摘がなされたわけでございます。
 しかしながら、部数が多数になるのではないかということもありまして、慎重な検討が必要ではないかという意見もございました。また、権利制限を認めるという場合でも、無償とするのは困難ではないかという意見もあったところでございます。
 現在、この点につきましては、許諾のシステムが動いているところでございます。このシステムがどのように動いていくかというのを注視しましたところ、現行のシステムの下ではやはり支障が出る状態にあるというような御指摘もございました。そうしたことから、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」ではないということを条件にして、権利制限を認めることについて、検討を行うことが適当であるという意見があったところでございます。
 ここのところで、括弧書きで「不当に害することになる場合」というところは、ちょっと表現上、ベルヌ条約と同じ書き方にすべきであったのかもしれませんけれども、ここではとりあえず、このような形で書かせていただいております。
 13ページをお開けいただきたいと思います。「図書館の権利制限」でございますけれども、図書館の権利制限につきましては、現行では、一定の物につきまして複製が認められているところでございます。ところが現行の状況の下では、必ずしも複製が認められるかどうかは定かではない点の6点につきまして、権利制限を認めてほしいという要望・論点が出されているわけでございます。
 問題点としては、まず1が、他の図書館等から借り受けた図書資料のコピーをすることでございますが、現行法では、自分の図書館の図書資料に限られておりますので、問題になってまいります。
 ページをめくっていただきまして、14ページですが、2のファクシミリ、電子メール等を利用して、複製物を送付する、これも認められておりません。
 3番目は、これは、図書館においたコンピュータでインターネット上の情報をプリントアウトすることについて。これにつきましても、法令上、明確でないという御指摘がございます。
 それから4番目が「再生手段」の入手が困難である図書館資料の保存。図書資料の保存のために必要だという条文はございますけれども、これがはっきりその条文に入るかどうかは、明確ではないということでございます。
 5番目でございますが、一部分の複写ということは認められておりますが、全部は認められていないところなのですけれども、官公庁作成の広報資料についても、果たしてそれがいいのかという問題でございます。
 そして6番目でございますけれども、障害者の関係でございますけれども、複製の方法を録音、それから利用者を視覚障害者に限定をしておりまして、また対象の施設の福祉施設等に限定をして、本を録音した物のコピーを認めているところでございますが、その限定を外してほしいということと、それから公衆送信を認めて、視覚障害者の元に取りやすくしたらどうかという御提案もございました。
 これらにつきましては、16ページを御覧いただきたいと思いますけれども、他の資料につきまして、これをコピーする問題につきましては、現状での申請者に郵送するという手続でこれが行われている部分もありますけれども、行われていない部分もございます。今後の図書館の役割ということを考えますと、複製ができるとする方向で権利制限を行うことが適当であるという意見が多かったわけでございます。しかしながら、これを認めることになりますと、図書館が共同で1冊しか購入しないという事態になりまして、権利者の利益を害するおそれがあるということがあるので、具体的な条件について、もう少し検討する必要があるという意見もあったところでございました。
 2番目のファックス、メール等を利用して、著作物の複製物を送付する点でございますけれども、現状のように、電子的に情報を送るという手段が発達した段階では、特に外国からの複製依頼などについても、複製のみによる対応に限定することは、非常に問題があるのではないか、利用者の便益を拡大することが望まれるという意見もあったところでございます。
 そうしたことから、中間的に発生した物はすべて廃棄することを条件に、認めたらどうかという意見が多かったわけでございます。
 なお、さらに進んで、図書館から利用者に直接、所蔵館から回線を通して送信をすることについても権利制限を行うべきだという意見もあったところでございます。しかしこれにつきましては、権利者の利益が相当に害されるのではないかという御指摘もございました。
 3番目が、図書館に置いたコンピュータにおきまして、インターネット上の情報をプリントアウトすることについてでございますけれども、現状の法律の下でも、30条1項の「私的使用の複製」に当たるのではないかと、あるいは明示的、黙示的に許諾があるのではないかと、そうしたことから、自由に行い得るケースが存在するという意見もございました。そうしたことから、議論の体制としては、直ちに立法措置に関する具体的検討に入る必要は認められないのではないかということでございました。
 4番目で、22ページをお開けいただきたいと思いますが、「再生手段」の入手が困難である物ということは、例えばベータマックスのビデオの形式ですとか、SPレコード等でございますけれども、こうしたような物が実質ではなくなっていくという状態において複製を、ということでございますが、図書館の使命にかんがみて、趣旨に賛同する意見が多かったわけでございます。しかしながら、新形式の複製物というのが存在するときには除くべきではないか等の御意見もあったところでございまして、現行の枠組みでどこまでが対応が可能か、これを見極めて判断基準を示して検討することが適切であるということでございました。
 図書館においての官公庁の広報資料の全部分の複写についてでございますけれども、これは本来歓迎すべきことなのではないかと。図書館に限らず、一般的に全部の複製を認めるべきという意見もあったところでございます。
 しかしながら、国が「図書館における複製可」のなどの表示を行えば解決するという意見もございまして、どこまで権利制限を行うべきかにつきまして、引き続き検討する必要があるということでございました。
 障害者の関係は、6でございますけれども、これにつきましては、利用促進という観点から支持する意見がありました。
 ただし、要望の範囲が広範囲すぎるのではないかと、もう少し明確化が必要であるというような意見もございました。そうしたことから、具体的に論点を整理して、特定された提案を待って、改めて検討すべきであるという意見があったわけでございます。
 それから、「障害者福祉の権利制限」でございますけれども、24ページをお開けいただきたいと思います。
 「問題の所在」の1でございますけれども、公表された録音図書の公衆送信ができるようにすることについてということでございますが、これは点字ということでございますから、電子的環境を用いて、点字を信号化して送るというということは認められておりますが、録音についても認めてほしいという要望でございます。
 それから26ページの23でございますけれども、これらにつきましては、リアルタイムの字幕というものは、現行制度でもオーケーでございますが、ビデオ等に入れるということにつきましては、権利制限が認められておりません。また、字幕を入れるときには、翻案(要約すること)につきましても、必ずしも認められているわけではございませんので、ここのところを認めてほしいという要望でございました。
 それから4でございますが、障害者が複製をするといいましても、物理的に不可能な方もいらっしゃいます。一定の条件を満たす第三者が複製するということも認めていいのではないかということでございました。
 これらにつきましての審議の状況でございますが、1で、27ページでございますけれども、対象者が視覚障害者に限定することを条件に、認めるべきだということが多かったわけでございます。
 それから23でございますけれども、これは一定の意義があると考える意見が多かったところでございますが、必要性の明確化、こうした利用の意義などについて、趣旨を明確化すべきであるという意見も多かったわけでございます。
 それから4番目は、28ページでございますが、これらにつきましては、障害者が他人の助けを借りるのは当然であるので、権利制限ということについては、積極的な意見が多かったわけでございますが、第三者の際にというものをどうするかなどの検討等が必要であるとの意見がございました。
 そして「学校教育の権利制限」でございますけれども、「問題の所在」といたしましては、1が、29ページですが、オンデマンドで自動公衆送信をするということについての要望、それからいったん教育目的で作った物については、サーバに蓄積すること、それから3番目でございますけれども、無線LANについても、有線LANと同様の扱いにしてほしいという要望でございますけれども。
 まず1のことで、30ページでございますが、これは送信の利用にも権利制限をやるべきであるとの意見もあったところでございますけれども、やはり著作者の利益ということを考えて、慎重な検討が必要とする意見もあったところでございます。
 そうしたことから、もう少し要件を限定するということで、学校教育関係者等による具体的な提案を待って検討することが必要であるということでございました。
 また、いったん複製された著作物については、その教育の過程において、別の先生等が使ったり、あるいは教育機関内のサーバに蓄積をするということを認めてほしいということでございますが、可能な限り認めるべきだという意見もあったわけでございますが、権利者の利益を不当に害することがないかという点についての検証が必要ではないかとの指摘もございまして、慎重な検討が必要であるという意見があったわけでございます。そうしたことから、もう少し具体的な運用の指針も踏まえて、具体的な提案を待って検討することが適切であるということでございました。
 最後に、無線LAN、有線LANの問題でございますけれども、これは教育の場面に関連して提案があったわけでございますが、一般的な公衆送信の定義に関する問題ということで検討するのが適当であるということでございました。
 そして34ページでございますが、最後になるたけ政令等に委任することが必要ではないかという問題がございましたけれども、積極的に技術的な点については、委任を考慮するべきであるという意見があったところでございます。
 以上でございます。

(中山主査) ありがとうございました。
 引き続きまして、「権利制限見直し」に関する論点の再整理をしていただくために、株式会社医学書院、金原 優代表取締役社長、有限責任中間法人学術著作権協会、中西 敦男常務理事、それに社団法人の文藝家協会、三田 誠広常務理事の御三名の有識者をお招きいたしまして、「権利制限の見直し」の各項目に含まれる問題点等についての洗い出しをしていただきたいと思います。
 時間の制約もございますので、各々5分ということ厳守でお願いいたしたいと思います。
 なお、質疑応答につきましては、まとめて最後に行いたいと思います。
 それでは、まず、金原社長からお願いいたします。

(金原医学書院代表取締役社長) おはようございます。まず、このような機会を与えていただきましたことについて、感謝を申し上げます。
 最初に、一言おことわりを申し上げたいのですが、先程も議論がありましたが、私自身は著作権分科会の委員でもあるのですが、本日は文化庁の事務局としての御指示もありましたので、「一医学書の出版社の代表者」という立場で、意見を述べさせていただきたいというふうに考えております。
 それでは、資料の2で、御説明を申し上げます。頂戴した時間が5分ということですので、すべてを御説明するということにはいかないと思いますが、要点だけを申し上げたいと思います。
 まず、1番の「権利制限規定の見直しに対する基本的な考え方」というところですが、(1)のところで、「公共目的利用が権利制限の対象となるのは必ずしも適切ではない」という意見であります。現在審議されております項目が、公共目的利用である、公共目的における複製利用であるということについては、そのとおりだと思いますし、私もそれ自体を否定するものではありません。公共目的であれば、複製利用ということは許容されるというものであるという考えについては、異論はありません。
 しかし、複製される出版物の中にも、公共の利益を目的とした状況において、有償で、つまり通常の出版物として発行されている物が、たくさんあるわけであります。現在、特許、あるいは薬事の問題で該当する出版物というのは、理工学専門書や、あるいは医学専門書ということになります、あるいは学校教育における利用を目的とした出版物というものもあるわけですが、そのような物が、公共目的であるところの特許の審査、あるいは医・薬事行政の場面で複製利用されるということになると、本来の目的であるところの市場に、これらの出版物をほとんど販売できなくなってしまうという可能性もあるということを、申し上げておきたいと思います。
 したがいまして、公共目的であるということだけをもって権利制限の対象とするということは、必ずしも適切ではないのではないかという意見であります。当然ですが、そのようなことで複製利用が多くなりますと、著作者の発表の機会も、失われますし、出版そのものが難しくなるという状況も起こり得るであろうということであろうかと思います。
 次に(2)ですが、「ベルヌ条約との整合性」の問題ですが、特に、9条の2項のスリー・ステップ・テストをクリアするということは、著作権法改正においては、必ず必要なことであるわけであります。現在、審議されている項目につきまして、具体的にどの程度の複写量があるのか、あるいはどの程度の複写量が該当するのかという議論がほとんどないことが、私は不思議であるわけです。特許の申請のところで、特許庁が複製するのは2万件だということは、3月の法制小委で話が出ておりましたが、それ以外の項目については一切出ていないというのが、不思議といえば不思議ということであります。
 私どもでいろんな方からお話を伺う範囲では、特に製薬企業による情報提供の、先程の2番と3番になりますが、この分野は非常に複写量が多い分野でありまして、数百万件、1件は5、6ページの文献ということになりますと、年間では多分数千万ページの複製が行われているのではないかと。
 このような複製の提供先というのは、当然のこととして、医療従事者で、病院、大学の医師、先生方、あるいは薬剤師、あるいは看護師といった人たちであるわけですが、製薬企業によって、このような情報提供がそのような方々を対象として行われるということになりますと、私どもが出版している物も、全く同一の目的を持って、有償で、有料で販売をしているわけですが、そのような市場に対する影響が非常に大きいということですので、この辺の要望につきましては、ベルヌ条約第9条2項に違反するのではないか。したがって、この辺のことにつきましては、慎重に御審議をいただきたいということであります。
 (3)ですが、現在、複写管理団体が、今幾つかあるわけですが、特に理工学系、医学系の出版物につきましては、学術著作権協会、あるいは日本著作出版権管理システムが、このような団体が管理をしておりまして、年間、今現在で8億円ほどの複写使用料を徴収しております。この内、特に要望事項の2番の薬事法関連の使用料というのは、約4億円ほどであろうと思いますが、このように、現在許諾システムが、部分的にですが、機能しております。この辺のことにつきまして、権利制限規定が適用になると、せっかく築き上げてきたこういったシステムが、機能しなくなってしまうのではないかという危惧を持っております。
 それから、特に薬事の問題ですが、許諾を得るのはなかなか大変なのです、時間がかかる、手間もかかるというお話が、3月30日の法制問題小委員会で出ておりますが、この複写管理3団体とも、このような利用につきましては、事後報告、あるいは事前の包括契約を、つまり1回ごとの許諾の手続は不要ですというシステムを採り入れております。したがいまして、手間がかかるというような実態は、少なくともこの管理団体の3団体においてはないのではないかというか、ありません。したがって、そのような実態は存在をしないというふうなことであろうと思います。
 あとは、個別の意見ですが、これはちょっと多岐にわたりますので、資料の2をお読みいただきたい、お読みいただければ御理解いただけると思いますが、若干、ポイントだけを申し上げますと、特に(1)の特許の審査の手続、これにつきましては、やはり私どもの出しております出版物というのは、こういった審査の過程においても利用されることを目的として出版しております。また一方で、特許あるいは権利を認めてもらうということにつきますと、当然そこに受益者という者が存在するわけで、確かに審査そのものは行政手続でありますが、一方で民間の受益者も、権利が認められるという方もいるわけですから、ここをすべて権利制限の対象とするということは、問題があるのではないかというふうに思います。
 先程の(2)の医療従事者の問題ですが、ここにつきましても、販売対象は、私どもで出版しておりますのが、医療従事者への情報提供、その中には当然、医薬品の情報も含まれているので、私どもの販売の市場を狭めるような権利制限規定については賛成はしかねるというのが、私どもの立場であります。
 あとは、最後の資料の2のところに、「複写の実態」というのが、説明資料が添付されておりますが、これは学術専門の、特に雑誌で、このような複製は90パーセント以上が雑誌の文献であるわけですが、非常に細分化された理工学系、医学系の専門雑誌というものは、やはり複製利用は避けられない、非常に多岐にわたった研究分野をすべてカバーするということになりますと、当然雑誌の数も多いわけで、複製利用というものも避けられない実態であるというふうに、私どもは考えております。
 しかし、先程の話で、このような公共目的における複製がすべて権利制限ということになりますと、もちろん有償で販売できる部分もゼロにはなりませんが、かなりの部分を複製利用されるということになる。そうなりますと、当然こういった雑誌の発行自体が困難になるであろうと。したがいまして、このような分野においては、単に公共目的利用だからということだけで権利制限を適用するということは、必ずしも適切ではないのではないかと。
 既にこのような分野においては、いわゆるドキュメント・サプライヤーという業者、これは31条の政令指定も含めましてありますが、このようなサービスが既に機能しているわけで、それがさらに広がるということになりますと、雑誌の発行そのものが困難になって、ひいては日本の学術研究・理工学研究・医学研究というものに影響が少なからず出てくるのではないかという危惧を持っております。
 以上、いただいた時間が5分ですので、要点だけ申し上げましたが、私どもの考えていることは、この資料の2に詳細に記載しておりますので、ぜひそれをお読みいただいて、御理解を頂戴したいというふうに考えております。以上でございます。

(中山主査) それでは、次に、中西常務理事にお願いいたします。時間は5分でございますので、よろしくお願いします。

(中西学術著作権協会常務理事) 私の「資料の3」を御覧いただきたいと思いますが、1番の現在私どもがやっています管理事業の概要と、それから2番の今回の権利制限に対する見解に、大きく分かれております。
 1番の私どもの管理事業の概要について、概略を申し上げますと、(1)が複写権の管理を受託している著作物に何があるかというと、国内の学術団体が発行する著作物。もう一つの大きいのは、米国の著作権管理団体であるCopyright Clearance Center、CCCで、それが管理する著作物の大部分を管理しています。
 次に、受入使用料はどのようになっているかといいますと、私どもは、これはそこに書いてありますが、国内著作物については年間7,300万、CCC著作物については4億9,300万で、合わせて5億3,600万と書いてありますが、この5億3,600万の3が5億6,600万のミスプリでございますので、御訂正いただきたいと思います。
 このような数字は、この私の資料の一番最後に付表がございますので、それを御覧いただけたらいいかと思います。
 これらの使用料は、私どもの使用料規程に基づいて徴収しておりますが、そこに書いてありますように、国内著作物、CCC著作物の使用料ともに、権利者の要請と利用者の負担を考慮して、妥当な額に設定しているというふうなことでございます。
 権利者への分配は、3ですが受入使用料から手数料10パーセントを引いて、残りを全部、権利者に分配しております。これは非常に効率のいい、手数料が10パーセントというのは、管理団体としては比較的低い料率ではないかなというふうに思っています。
 次に、「今回の権利制限に対する見解」ということがありますが、「(1)全般について」。これについてはやはり、私どもは特に、「特許審査手続」、「薬事行政」及び「図書館」に関する項目については、全般的に権利者の利益が大きく損なわれる事項が多いというふうに考えております。
 学術団体にとっては、この複写使用料収入というのは、少額ではあるのですが、学術研究の高度化、それから再生産のためには、非常に重要な原資であります。御承知のように、現今、学会の運営はかなり厳しくなりつつあります。その中で、この収入というのが、非常に重要なものになっております。
 それで3に、今回提案されている権利制限規定枠の拡大ということは、私どもが権利者・利用者の間で築き上げた信頼関係を根本から覆す結果になり、その結果、現在権利者が受けている利益を大きく損なうということで、ベルヌ条約に反することは明らかでございます。
 米国の管理団体であるCCCも、4にありますように、非常に大きな懸念を示しております。
  5は、これはこの項目の結論に当たりますが、学著協の管理事業は現在円滑に運営されていると感じております。権利者、利用者双方から受け入れられており、現状において権利制限の必要性はないというふうに考えます。権利制限が必要として利用者から提案されている幾つかの課題は、権利制限によらずに、現行システムを改善して解決すべきであるというふうに考えております。
 では、個別な項目に対する意見でございますが、1番が、特許審査手続に関してのところでございます。そこに123というふうに書いてございますが、私どもは特に、先行技術文献の提出というふうなことについて、利害関係人が複製するということについては、その当事者は、特許審査に影響を与えることにより何らかの利益を得る、そういうふうなことからは、妥当な対価を支払うべきではないかというふうに考えております。
 それから2は許諾手続で、これは先程金原さんが言われたように、非常に簡単な問題で、そんなに大きな問題ではございません。
 それから3の、権利者が不明の場合はどうするか。これが権利制限の一つの理由になっているのですが、海外の管理団体の例に見られるように、その領域の大多数の権利者を代表する機関が、代表していない権利者の権利も処理できるようにするというような、これは幾つかの方法があるかと思いますが、そういうふうな法律を制定することにより、権利制限を認める必要がなくなる。今回提案されている権利制限の拡大よりはいいのではないかなというふうに思っております。
 その次の2番で、2ページ目の一番下でございますが、薬事行政に関する権利制限。これは現在、1番に状況が書いてございますが、薬事法による複写許諾について、学著協は現在、80社の製薬企業と契約して、使用料は平成16年度で、国内、CCCを合わせて3億4,000万にのぼります。これは学著協の平成16年度の全受入使用料の60パーセントに相当するということでございます。なぜ、そういうふうに大きいかというと、CCCもそうなのですが、一番始めにやはり、複写量の多い製薬業界といろいろ協定といいますか、話し合いをするということに重点を置きましたので、こういうふうになっております。今後はこれを基盤に、他の産業にもどんどん広げていく感じでございます。
 それから薬事法関連の複写では、製薬団体との協議により、利用の実情を考慮した使用料規程の改定を行い、簡単な包括許諾によっています。これがまさに明らかです。このことについて、こういうふうな方策を執ることについては、国内、CCCともに了解しております。

(中山主査) 時間の関係がありますので、なるべく簡略にお願いいたします。

(中西学術著作権協会常務理事) 失礼しました。
 そうしましたら、その次の、そこの最後の方は抜かしまして、4番は、ここのところはカバー率の問題でございまして、先程山地委員の方からも指摘されたところでございますが、どうやってカバー率を改善するかということについて、そこに学著協としての見解を書いております。そういうふうな方法で、徐々にでも改善されていくのではないかというふうに考えております。その辺が45のカバー率を高くするということです。
 それから6は、これは権利者と利用者との間の話し合いが非常に重要であるということでございます。
 それから最後に、3番の図書館に係る権利制限。これは、ファクシミリ、インターネットによる複製物の送信については、一昨年、学著協と大学図書館との間で、それを可能とする合意書を交わしております。そのようなことで、一応私どもは利用者の御意見も入れながら、管理事業を円滑に進めるというふうにやってきているわけでございます。

(中山主査) ありがとうございました。
 それでは引き続きまして、三田常務理事からお願いいたします、5分でお願いいたします。

(三田日本文藝家協会常務理事・知的所有権委員会委員長) 論点が三つあります。なるべく三つを報告させていただきたいと思います。
 第1点は、福祉施設による録音図書のネット配信であります。これは全く問題ないというふうに考えております。福祉施設が録音図書を作るというのは、既に37条で権利制限になっております。そこで作られたコンテンツを今まで郵便で送っていたのをネットで配信するということであります。
 ただ、ファイルのコピーだとかが起こると問題でありますけれども、現在、日本点字図書館及び日本ライトハウスがやっておりますシステムではスクランブルがかかっておりますので、コピー流出のおそれはありませんが、法律を改正するとすれば、「著作権者の利益を不当に害することがないように」というぐらいの文言が付いていれば、問題ないというふうに考えております。
 第2点は、公共図書館における録音図書の作成であります。公共図書館の場合は、視覚障害者だけではなくて、識字障害で、脳梗塞で、文字が読めなくなった人、それから学習障害児童という者が、本を読めないのだけれども、耳で聞けば勉強ができるという児童がおります。こういう人たちのために録音図書を作っております。
 ただ、その線引きが難しいのです。例えば、寝たきり老人は本が読めないのですけれども、本当に寝たきりの方なのか、ずぼらで寝転がっている人なのかの線引きが難しいということであります。ですから、現在、日本文藝家協会の著作権管理部では、公共図書館との間に協定を結んで、登録した人に限っては、一括許諾を出しておりますけれども、そこではガイドラインを作っております。
 そういうガイドラインを設定できればいいのですけれども、これについても法律を改正する場合に、「著作権者の利益を不当に害することがないように」という文言を付けて、どういう場合が不当に害することになるのかということは、図書館協会と権利者とかが話し合ってガイドラインを作っていくというようなことにすれば、法律改正の方向に進むということもよいのではないかなと。障害者の立場から考えると、我々自身もそのうちに脳梗塞で本が読めなくなるわけですね。そういうことを考えれば、この法律の改正は進めるべきであろうというふうに考えます。
 第3点の教育機関でありますけれども、これについては問題があります。我々は4年前ぐらいから、この法制問題小委員会においても、35条の権利制限そのものに対して、問題があるということを提案してきました。
 再度繰り返しますと、まず5年前ぐらいですけれども、谷川俊太郎さんはじめ何人かの著作者の方が、学校で教材として使われております教科書準拠のドリルについて、これは不当に権利を害しているという裁判を起こされまして、裁判の結果、これは著作物使用料を払わなければならないということになりました。それで、訴えた人だけではなくて、すべての著作者に対して、過去10年にさかのぼって、著作物使用料が現に払われております。今後とも、そういうドリル、それから問題集、そういう物については、著作者に使用料が払われることになっております。
 これに対して、今学校で担任の先生が作っている教材は、これは市販の教材、あるいは学校に納入されております教材と全く同じ品質の物を、パソコンとプリンターを使えば作れるわけですね。つまり、こういうドリルを購入していただければ、著作権者に使用料が入る、同じ物を担任の先生が作ったら、ただで使われてしまうということが、既にこの35条の中にも「著作権者の利益を不当に害することがないように」というふうに書かれているのですけれども、現行の担任の先生の複製の作成についても、著作者の権利を不当に害しているのではないかなという問題提起をさせていただいております。
 今回の権利制限の拡大というのは、さらに別の先生が作った物を使うとか、学校の校内LANのサーバの中にすべてのデータを入れてしまって、いつでも使えるようにするということでありますから、こういう蓄積がサーバにたまっていきますと、最終的にはドリルを購入する必要もないし、問題集を購入する必要もないと、すべてのデータが、もう学校のコンピュータの中に入っているという状態になってしまっております。
 ただ実際問題、教育現場の先生方にとっては、やはりそういう使い方というのをやりたいという御要望は大変よく理解できます。現在私どもは、特に私立の中学・高校の先生方と、学校の現場の先生が「これは著作権フリーである、これはだめである」というようなことを、いちいち考えるのは、現実的に無理なのです、ですから、先生方が自由に著作物を利用できるようなシステムができないかということで、私立中・高の学校に、略称で「教育NPO」というふうに呼んでおりますけれども、そういうものを作っていただいて、現在250以上の学校が既に加盟をしております。私立の中・高全部で1,000ちょっとあるのですが、4分の1ぐらいが入っているということであります。
 その学校に、1高当たり5万円を払っていただいて、大体1,000人ぐらい生徒を抱えておりますので、生徒1人当たり50円ということなのですけれども、補償金を支払っていただくと。現在、経費に60パーセントぐらいかかるということで、我々著作者には、その内40パーセントしか支払われないのですけれども、昨年度は既に支払われております。今年度からは、これを分配する必要がありますので、どういう著作物を利用したかということを、データとして提供をしていただくということになっております。これは大変な手間がかかることでありますので、何年間か、データを集めましたら、およその傾向が分かると思いますので、こういうデータの提出というのは、もう少し簡略化できると思いますけれども、しばらくの間は、実際にどんなふうに学校で使われているかを調べるために、このデータを出していただくということをやっております。
 こういうシステムが現実にスタートしておりまして、これに加わっている学校では、もちろん今までの35条で認められているものだけではなくて、サーバに蓄積するとか、それから父兄の参観日に生徒さんに配られている教材を、父兄の方に配布すると、「授業が終わったらあとで回収してください」ということを、これもガイドラインの中に書いているのですけれども、そういう形で、学校現場における複製の大部分をカバーできるような「補償金システム」というものを現実に作って、実験的ではありますけれども、やっております。
 こういう状況でありますから、これをいきなり、「全部、著作権フリーにしてくれ」というような要求に対しては、我々としては応じることはできないと同時に、むしろ補償金制度を導入するということを踏まえた上で、公立学校にも適応できるように、新しい権利制限の在り方というものを考えていくという方向で検討していただければというふうに考えております。
 最後に一言だけ、付け加えさせていただきますと、ここで出ている要求というのは、「公共性がある」ということなのですけれども、著作権というのは私権であります。公共性のために私権が剥奪されるということは、民主主義国家ではあり得ないことです。例えば、飛行場を造るとか、道路を造るということで、土地が強制収容されることがありますけれども、その額も必ず、土地の代金や補償金は支払われるわけですね。ですから、現在教育機関が要求しているような形で、無償で、どこまでも権利制限を広げていくというような要望に対しては、これは我々としては、お応えできないというふうに主張したいと思います。以上であります。

(中山主査) ありがとうございました。
 それでは、意見交換に移りたいと思います。
 「権利制限の見直し」につきましては、扱うべき項目が非常に多く、効率的な議論を行うために、各論点ごとに区切って議論したいと思います。
 論点というのは、特許審査、薬事行政、図書館、障害者、学校教育、それから政令等への委任という問題ですけれども、これらの区分に従って議論をしていきたいと思います。
 また、先程の関係者からの説明に対する質問につきましても、随時、していただければと思います。
 最初に、「特許審査手続に係る権利制限」につきまして、10分程度、時間を取ってございますので、この点につきまして、御意見のある方はお願いをいたします。3ページからだと思います。はい、どうぞ苗村委員。

(苗村委員) 今、御指摘のあった特許審査関係でいえば7ページと、それから2ページに関係する表現の問題です。
 7ページが先に分かりやすいので申しますと、下から2番目の段落の下から2行目に、「「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作物の正当な利益を不当に害」しない」というベルヌ条約の条文を一部引用していますが、ここで、「害」の所でコーテーションマークが切れて、「しない」が抜けているので、少し理解しにくい。これは、手元の法令集では、「しない」まで全部入っているので、入れていただいたほうがいいと思います。つまり、「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しない」とした方がいいと思います。
 それを前提として2ページに戻りますと、ここでベルヌ条約の適用に関する一般的な表現が上から3行目にあるのですが、本文の3行目です。ここは、実は私が直前に表現が分かりにくいということを御連絡したのが、かえって混乱をさせてしまって恐縮ですが、「著作者が正当な利益を不当に害される場合又は著作物の通常の利用を妨げない場合」となって、これは後ろに、「別として」とありますから、多分「妨げる場合」とすべき表現だろうと思います。あるいは、先程7ページのベルヌ条約の条文をそのまま書くかのどちらかにしていただかないと、論理が逆転しています。しかもこれがちょっと分かりにくいのは、主語が「著作者が」になっているためでもあります。本来のベルヌ条約の表現を使えば、「著作者の正当な利益を不当に害しないこと」とか、「著作物の通常の利用を妨げないことを条件として」とか、何か別の表現を用いられた方がいいのかなという感じがしました、以上です。

(中山主査) ありがとうございます。
 他に御意見は。

(村上委員) それでは私は、6ページの方の審議の状況のところなのですが、123とは、やはりかなり大きな違いがあると思っていまして、12は非常に対象主体というか、これが限定されていますし、どういうものが対象になるかというのも、これは明確なわけです。
 ただ3の場合に、先行文献の場合に、どこまでが許されるのかなというと、これがはっきりしないというのを、私は感じています。かなり広くなる可能性もあります。先行文献として特許庁に申請しようと思う者は、すべて自由に関係文献を複製してもいいのか、それとも現実に特許庁に先行文献として提出する者が出す文献については、無償でコピーしていいというのか、その辺が、多少限定せざるを得ないのではないかという意見です。そうしないと、何人もというか、誰もが自由に特許を申請されている技術に関すると思う場合には、関連文献をコピーできることになり、広すぎる感じになるのです。限定の仕方をちょっと工夫してもらいたい。
 その関係で、ここに書いてある文型で説明すると、3についても、最後に持ってくるので、「1及び2と同等の取扱いをすべきという意見が多かった」は、これは本当に全く12と同等ということでいいのか、ある程度、主体の限定みたいなものを付けていくべきなのか、そこのところはもう少し分かるように書いたらいいのではないかという気がします。

(中山主査) これは特許庁に提出するものだけでしょうね。

(村上委員) ええ、そうだと思います。

(中山主査) 出そうと思っていただけだったら不正にコピーしてしまうことになる。

(村上委員) 「特許庁に提出するものに限って」という意見ならそれで結構です。

(中山主査) 分かりました。

(山地委員) 私も「特許庁に提出する者だけ」というふうに理解しております。出すつもりだったのに、実は出さなかったケースは、当然含まれないと思っております。
 それから3の「1および2と同様の扱いとすべき」ですが、私もそうだと思います。いろいろ議論があったと思いますけど、私が重要だと思っていることは、瑕疵ある特許の登録を防ぐためということは極めて重要なことであるということで、そういう意見が多数あった。私もそれを強く考えていますので、123の重要度は同等だと思っております。

(中山主査) ありがとうございます。

(森田委員) 具体的な議論に入る前に、今日の議論の対象となっているのは何かを明確にしていただきたいと思います。今日の大きな目的は、「審議の経過」を取りまとめるということですが、これは、前回までの審議の経過を事実として報告するという内容のものですから、そうしますと、今日は新たに各人の意見を述べるということではないのだと思いますが、そのように理解してよろしいでしょうか。
 先程、3人の利害関係の方から意見陳述をいただきましたけれども、仮に、今日新たにまたそれぞれの問題について議論をして、今日出された意見も含めて、「審議の経過」に反映させるということになりますと、もう1回取りまとめをしなくてはいけなくなるのではないかというふうに考えられます。今日はそういうことではなくて、つまり、新たな意見を述べるのではなくて、今まで出された意見が「審議の経過」に適切に反映されているかについて絞って審議を行うのか、それとも先程意見陳述をいただいたことも含めて、新たに質問をしたり、各人の意見を述べたりするということなのでしょうか。そして、その場合には、今日ここで出された意見というのも、「審議の経過」に反映させるということが予定されているのか、いないのかということを明確にしていただく必要があろうと思います。今日は何を議論してよいのかがちょっと分からなくなってきましたので、よろしくお願いいたします。

(甲野著作権課長) それでは、説明をさせていただきます。ここに本日お示しをしましたものは、前回までの議論を集約したものとお考えいただければよろしいかと思います。したがいまして、「前回までの議論では、こうではなかったのではないか」という御意見がありましたときには、それについて、御意見を述べていただくということになるかと思います。
 しかしながら、今回、新たに意見があるときに、それは何も言えなくて、ここに反映できないというのも、やはりおかしいかと思いますし、また趣旨につきましては、いろいろありましたけれども、権利を制限される側の方からの意見を頂戴して、それに対する反論ですとか、いろいろな御意見も出るかと思います。そうしたことにつきましても意見を出していただきまして、最終的にはそういうものを、新たに出たものにつきましては、これに付け加える形にいたしまして、中身につきましては、主査に御一任といいますか、もちろん、それぞれの先生方にも御了解といいますか、その辺の確認は追々しますけれども、そういう形にして、まとめてはどうかというふうに思っております。

(中山主査) 一応、案につきましては、皆様全員にお配りして、かつペーパーを頂戴しておりますので、こういうことが抜けているとか、こんな趣旨ではなかったということを中心にお願いできればと思います。これは「審議の経過(案)」でして、最終的なものではありませんので、あとから申し上げるつもりでおりましたけれども、9月末にももう1回、会議を開く予定でいますし、最終的な報告書までには、まだ時間がございますので。今日はいろんな意見が仮に出たとしましても、それも最終的には、考慮できるのではないかと思います。
 それでは、この特許の問題につきまして、御意見が他にございましたら。よろしいでしょうか。
 それでは次に、「薬事行政に係る権利制限」について、10分程度、議論をしたいと思います。これについて御意見がございましたら、お願いいたします。どうぞ、山地委員。

(山地委員) 本件の問題は、大きくくくって二つあって、許諾権を制限するかどうかということが一つと、もう一つは報酬請求権化するかとか、無償にするか、有償にするかという、そういう二つの問題だと思っています。前者の方が、重要だと思っているので、関連して1点、質問をさせていただきます。
 資料3の3ページの4の2行目に、「日本で複写利用度の高い著作物の約70パーセントを管理している」というふうに、「70パーセント」という数字が出ております。でも、私がいろいろと聞いているところによりますと、委託率が非常に低くて困っているということです。例えば、独立行政法人科学技術振興機構が持っているメディカルデータベースでは、全体で9,168件の内、JAACCさんが委託を受けているものは656件、JCLSさんが委託を受けたものは、305件。合計で11パーセント程度です。同様に書籍関係ですが、トータル3,415件に対して、JAACCさんが473件、JCLSさんが367件の委託を受けている、合計で25パーセントになります。
 このように数字が非常に大きく違っている事実問題があります。数字が大きく違っているのは、いろいろ理由があると思います。例えば、母集団が異なる等です。その辺について、概略がもしお分かりなら、御回答いただきたいということと、無理ならば後日でもけっこうですから、書面でいただきたいと思います。
 なお、関連して、理由の中の一つに、こういうのが多分あると思っています。それは委託をしている人が真の権利者かどうかが極めて曖昧なケースが、少なくとも日本では多いのではないかと思っています。例えば、一つは学会の問題なのですが、学会に論文を投稿しますと、多くの学会では、著作権を学会に委譲させるようにしております。それを、契約書で紙の形で残している学会もあります。私もコンピュータ関係をやっていたので、情報処理学会等のケースを、よく知っております。しかしながら、そのような処理をしていないところもたくさんあります。権利処理をしているところについても、そういうことを始めたのが平成12年とか13年から始めたというところがけっこう多くて、いわば比較的最近なのです。知的財産権に目覚めていろいろやり始めた。したがって、それより前に発表されている論文については、そういう処理が行われてないので、権利の所在が極めて曖昧だと理解しています。
 日本の学会では、契約も何もないけれども、慣習的に学会に著作権は譲渡されているものと考えている学会もあるように聞いております。それと同様のことが、学会ではなくて、出版会社にもあると聞いております。ある出版社に頼んで印刷、出版をすると、著作権はその出版会社に移転すると一方的に宣言をしている出版社もあり、それに対して、真の著作者が非常に反発をしている状況にあると聞いております。
 しかしながら、出版会社にしろ、学会にしろ、自分は権利者であると考え、権利管理団体に権利を委託しているという実態があるようです。そうだとすると、本当に正しく権利が委託されているのかどうかは、極めて曖昧なのではないかと思っていて、そういうことの重なりで、事実問題について、非常に食い違った数字が出てきているのではないかと思います。
 しかしながら許諾権の制限をに関連する、極めて重要な事実問題だと理解しておりますので、ぜひもう少し近い数字になるような努力をしていただきたいと思っています。

(中山主査) この点について何か、御意見ございませんか。

(中西学術著作権協会常務理事) 今の御質問に、学会の立場からお話いたしますと、まずカバー率が低いというふうなことについては、私はここに70パーセントという数字を書いたのですが、これは、ある実態調査をやりまして、その中から我々が、実態調査というのは、複写した物を全部提出していただいて、それで、そこから私どもの管理しているものをより分けると、そういう中で70パーセントという数字が出てきたということが一つです。
 ただ、そのあと、利用者の方から、「70パーセントはとてもないのではないか、50パーセントぐらいだよ」というふうなこともお聞きしております。今日20パーセントという数字が出たのは、私から言うと、非常に低い感じがいたしますが、これが何によるものか、これはまた調べる必要があるかと思います。
 それから、もう一つ大きいのは、例えば外国の著作物についてはCCCが、私どもが契約をしているところですが、CCC以外に英国、フランス、ドイツ、その辺から、英語の著作物が出ております。これは我々の管理著作物にはなっておりません、もちろん。
 それで、それについて、どのようにすべきかということで、現在米国に次いで大きい英国、あるいは他の国と協定を結ぶということを、協議を進めております。そのようなことをすることによって、英語の著作物については増えるだろうというふうに考えております。
 それから、問題なのは国内の著作物で、非常にマイナーな物ですね。それについては、件数は多いのですが、それのカバーがなかなか難しいところがあります。それをどのようにしていくかというのは非常に大きな問題でございますが、私は、ここに一つの方法も提案しておりますが、現在既に皆さんが、利用者の方が、使用料を払っているところの著作物以外の物について、何らかの方策を考えていかないといけないと思っています。
 それから、世界で一番大きいCCCは、委託されていない著作物について、どのようにしているかというと、これは合法なのかどうかは分かりませんが、利用者の方からある金額を受け取ると、許諾するのではないけれども、それを権利者の方に問い合わせて、受けるのであれば受けてもらうと、そのときに、できたら委託をしてもらうというような方法も執っているようでございます。
 それから2番目の御質問は。

(山地委員) 真の権利者から、権利が正しく譲渡されているかどうか。

(中西学術著作権協会常務理事) 私どもが学会から権利を、複写権の委託を受けるときの条件としては、学会の著作者が権利をすべて学会に譲渡するというところが条件でございます。ですから、その分においては、それは既に我々に譲渡されている、権利は委託されていると考えております。
 ただ、それ以前の、そのようなシステムができあがる前のものについては、これははっきりしておりません。我々としては、それを今後確認していく必要があるなというふうに思っております。例えば、昔の物について、権利者が学会に譲渡することに合意するかどうかというふうなことの問題は、未解決のものであります。

(中山主査) カバー率というのがよく分からないのですけれども、おそらくこの問題で一番大事なのは、医者や医療機関がこの文献が欲しいと思ったときに、その文献が管理されているかどうかという、その率だと思うのですけれども。それはどうでしょうか。

(中西学術著作権協会常務理事) ですから私どもは、利用者の方から複写した物の実態を全部出していただいて、それでそれが管理著作物であるかどうかを見る、そういう範囲外では、さっき言ったような数字が、65から70ぐらいの数字が出ていたと思います。
 ただ、利用者の言われる御言葉の中で、「複写量は少ないけれども、複写するタイトルの数としてはもっと大きい」と。それについてはどうなっているかというと、それはマイナーな物が含まれております。それについては、実際に委託を受けるということが割に難しいですね。もう既に存在していなくなったり、所在が動いたりというようなことがあります。

(中山主査) あとは、医・薬はドイツやスイスやイギリスも盛んだと思うのですけれども、それらの文献は管理されてないということですか。

(中西学術著作権協会常務理事) それは現在、管理されておりません。アメリカのCCCに委託されている物は、ドイツやスイスでも、それは管理しております。ただ、これについては現在、スイスも含めてですけれども、外国のRROと現在、契約交渉を続けておりますというふうなことでございます。

(中山主査) 他に御質問は。どうぞ潮見委員。

(潮見委員) 質問というのではないので、先程の森田さんがおっしゃったことと、多分全く同じようなことではないかと思うのですが、今日やっている中で、実際にこれまでの審議の経過ということが、「審議の経過」に反映しているかどうかというのをチェックする作業と、それから今日来ていただきました3人の方々からの意見を聞いての、まさに権利者のヒアリングというものをやるという、この二つをずっと一緒にやっているような感じがしまして、何か両方を同時にやるというのは、なかなか議論も拡散するし、効率性というところからも、どうなのかなという感じがしまして、むしろ3人の方々にせっかく来ていただいているということであれば、そしたらそれは、権利者のヒアリングという質疑応答という形で一度まとめてやっていただいて、その後、あるいは先でもいいのですけれども、みんな「審議の経過(案)」のところに、これまでの議論というものが反映しているかというのを見た方がいいのかと思います。と言いますのは、あとで第8回目辺りにも、各論点についての再整理という場がございますし、そこで、例えば先程最初に山地委員がおっしゃられた反対者側の意見とかもおそらく聞いて、そこでまた論点整理をおそらくすることになるのでしょうし、そちらに委ねるというのもまた一つの方法ではないかという印象で、差し出がましいことで申し訳ありません。

(中山主査) これは事務局の方からお答えすることかもしれませんけれども、潮見委員のおっしゃるとおりなのです。
 ただ、急遽、今日はこういう説明をしていただくことが入ったものですから、おっしゃるとおり、二つのものが併行して、ある意味ではちょっとごちゃごちゃしているかもしれません。
 先程言いましたように、この「審議の経過(案)」が最終的なものではなく、そのあとの議論に続けるという意味もありますので、二つの性質のものを同日の会議でやることを御容赦願えればと思うのですけれども。なるべく整理をしていくようにしたいとは思います。
 事務局もそれでよろしいですか。では、とりあえず今の問題で、何か他に御意見は。

(石井委員) 単純な質問なのですが、中西参考人にお伺いしたいのです。
 CCCが委託をしていない少数の例外として、Elsevierの名前がここに挙がっておりますが、この会社が出しているものについては具体的に、コピーについてはどういう扱いになっていますか。Elsevierが独自の一つの方針を宣言してやっているわけですか。

(中西学術著作権協会常務理事) この問題については、金原さんの方からお答えするのが、よいかと思います。

(金原医学書院代表取締役社長)  Elsevierにつきましては、CCCがアメリカの国内では管理をしておりますが、外国での権利の委託を受けておりませんので、日本著作出版権管理システムがElsevierと直接の契約をしております。日本著作出版権管理システムがElsevierの出版物全点を、雑誌だけですけれども、定期刊行物は全点、日本国内において、管理を行っております。

(石井委員) なぜ、そういうふうになっているのですか。CCCに委託して、一括して日本もそのCCCとの契約の中に含まれるよりもいい条件を、Elsevierが自分にとって都合のいい条件を課しているという、そういうことですか。

(金原医学書院代表取締役社長) これは、もしかすると中西さんから御説明いただいた方がいいのかもしれませんが、学著協におきましては、海外出版物、つまりCCCの物につきましては、1ページ50円という単価を設定しております。ところがElsevierは1ページ50円の単価というもので許諾することは適切ではないという考え方を持っております。学著協では50円以外の単価というものを現在管理しておりませんので、したがいまして、日本著作出版権管理システムにおいて、Elsevierが指定する指し値を受けて、管理業務を行っています、そういう形でございます。

(茶園委員) 御報告いただいたことについて、少しお伺いしたいのですけれども、金原様からいただいた資料に載っている2ページにおいて、複写管理団体によって行われていることについて書かれているのですけれども、ここで許諾と利用料の支払いについて、事前の包括契約、あるいは事後処理によって可能となる制度が取り入れられているということですけれども、まず、その事後処理というのがよく分からないのですが、これはどういう意味なのかということと、それと、利用料支払いについて、利用者から金銭が支払われて、そこから権利者にどのように分配されていくことになっているのかを、お教えいただきたいと思います。

(金原医学書院代表取締役社長) 若干、管理団体によって方式は異なるわけですが、日本著作出版権管理システムにおいては、事後処理という方式を執っております。具体的には、それぞれの利用者に、個別企業であれ、あるいは教育機関であれ、権利制限にならない部分について、具体的にどの出版物を何ページ複製したと、複写したという報告書をいただきます。個別の、いわゆる一定期間に、例えば3カ月であれば3カ月の間に複製利用した出版物名をリストアップしていただくと。管理団体が、そのリストに基づいて請求書を、個別の単価をそれぞれ計算して、請求をそれぞれの利用者にお送りすると。それに基づいて、利用者にお支払いいただくという形を執っています。

(苗村委員) 本文の11ページのところで、先程金原社長が説明された時も、一言おっしゃったところですが、11ページの表のすぐ上で、かぎ括弧付きで、「「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」でないことを条件として」と書いてありまして、ここはベルヌ条約の表現とちょっと違うわけですね。それで、その左の10ページにある「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害することにはならない」という表現を入れた方がいいと思います。「ベルヌ条約に反しないことを条件として」という意味だと理解しているわけです。
 そこで先程の金原さんと中西さんの御説明と関係するのですが、著作物の通常の利用というのが、この文脈でいうと、例えばそういった権利管理団体を通して、有償でライセンス、複写を許諾する、場合によっては事後許諾も事後処理も含めてという意味と理解をして、だからそれを妨げない。言うなら、この新しいシステム、新しい権利制限を導入すると、その結果、例えば今お話があったような現行の管理システムが実質的に崩壊してしまうということはないようにするというのが条件だというふうに理解しているのですが、そういう意味で、これは単に確認で、多分11ページの表現はそう変えていただきたいというのが一つです。
 もう一つ、中西さんの御説明の中で、一つ多分書き間違いだと思われるところがありまして、薬事で言いますと、3ページの5のところで、「前記(4)‐1.‐3」とありますが、(4)はないので、多分、「(2)‐1.‐3」だろうと思います。同じことがこの上の方にもあります。
 間違いだとして、その(2)‐1.‐3を読むと、「権利者が不明の場合に、その領域の大多数の権利者を代表する機関が、代表していない権利者の権利も処理できるようにする等の法律を制定することにより、権利制限を回避することができる。」というお話がありますが、これと、あとで御説明いただく裁定制度との関係はどのようにお考えでしょうか。つまり、裁定制度の一環で、実はこのあとで御説明いただく中で、裁定制度を、例えば民間団体に実施を任せるようなことも考えられるけれども、制度設計は難しいというような話が、あとの報告書の中に出てくるので、そのときに議論した方がいいのかと思いますが、裁定制度の一環と考えられるのか、全く新しい制度を作るべきだと言っておられるのかで、ちょっとニュアンスが違うような気がします。

(中西学術著作権協会常務理事) まず、誤植がありましたことの、御指摘がありましたのですが、おっしゃるとおりでございまして、3ページの5の(4)と書いてあるところは(2)でございます。その他にも同じところが、同じような間違いが1箇所ございました。それは訂正させていただきます。
 それから、今の苗村委員の2番目の御質問に対しては、私は、これはどういうふうにやるべきかというのは、ヨーロッパの各国でもいろんな方策が、ことでやっておりますので、その辺もある程度、検討しないと分からないというところがあると思います。
 それから裁定制度そのものについて、これをどういうふうに関連付けるかというのも、私はまだちょっとよく分かりません。

(中山主査) あとは、よろしいでしょうか。
以前、この審議会で、複写権センターは製薬会社が医師等に配布する分については、権利処理をしていないのではないかという意見が出ましたけど、これは権利処理をしているわけですね。

(中西学術著作権協会常務理事) 複写権センターですか。委託出版物であれば、もちろんやっております。ただ、量的な問題がどれだけあるかというところがあると思いますが。学著協の物については、複写権センターに国内著作物は全部委託してあります。そうしますと、包括許諾の中で使われております。

(中山主査) その契約は、企業内で複製して使うものと、企業が外部に出すのものとの両方を、一括して契約しているわけですか。

(中西学術著作権協会常務理事) 外部に出す物については、例えば薬事法関連で出すという物については、学著協の方でそれはやっております。複写権センターに頒布目的の複写の権利は委託しておりません。

(中山主査) この件に関しては、複写権センターは関与していないということですね。

(中西学術著作権協会常務理事)そうですね。

(金原医学書院代表取締役社長) ちょっとよろしいですか。複写権センターにおいては、複写権センターが権利委託を受けている物については、製薬企業が外部頒布するという物についても許諾できるという体制にはなっております。ただ、実際に利用される出版物そのものが、どの程度複写権センターに委託されているかということは、かなりその程度は低いと、要するにそういう種類の出版物の委託は、複写権センターにおいては、極端に低いだろうというふうに考えています。

(中山主査) 他に。だいぶ時間も押しておりますが、この問題について、何かございましたら。よろしゅうございますか。
 だいぶ時間が詰まっておりますので、引き続きまして、「図書館関係の権利制限」につきまして、15分程度、時間を取りたいと思います。この点につきまして、御意見がございましたら、お願いいたします。
 この点はよろしゅうございましょうか。一応ペーパーは読んでおいていただけると思いますけれども。よろしゅうございますね。もし仮に、最後に時間が余ったらまた、意見を伺うかもしれませんけど、この点は一応飛ばしまして。
 引き続きまして、「障害者福祉関係の権利制限」につきまして、議論をしていただきたいと思います。この点につきまして、御意見はございますか。よろしゅうございますか。
 それでは引き続きまして、「学校教育関係の権利制限」につきまして、御議論を頂戴したいと思います。こちらにつきましては、三田参考人からも御意見がございましたとおり、いろいろ意見があるところですので、議論をお願いいたします。

(茶園委員) 資料4のペーパーのことでお伺いしたいのですけれども、最後の「教育機関における教材の作成について」というところで、現在、「著作権利用等に係る教育NPO」という組織を作られて、そこで著作権料配分を今後されるという予定だということなのですけれども、教育現場では、様々な著作物が利用されて、ここでおそらく要望が出されている著作物についても、文芸作品のみならず、様々な作品があると思うのですけれども、今この組織で取り扱割れている作品としては、文藝家協会さんですから、文芸作品を対象にされているとは思うのですけれども、それ以外の作品については取り扱われていないということでよろしいでしょうか。

(三田日本文藝家協会常務理事・知的所有権委員会委員長) 今、御指摘のNPOというのは、学校が入っているのです。私立学校が入っている教育NPOと文藝家協会とが協定を結んでいるということなのですけれども、文藝家協会に著作権管理部というものがありまして、これは文藝家協会の会員だけを対象としているものではありません。我々がこの著作権管理部を作った出発点は、教科書準拠ドリルからの著作物使用料をいただくということでありますので、小学校・中学校の国語の教科書に作品を出している人というのは、ほとんど網羅しているというふうに考えております。それから、大学入試問題集という物を出版社が出しております。大学入試問題にも様々なジャンルの作品が出ておりますので、これについては、出版社から、まだ文藝家協会の著作権管理部に登録していない人がいた場合には、リストをいただくということで、「登録のお願い」というものを出しております。ですから、現在我々が扱っている登録者というのは文芸関係者だけではなくて、教科書や入試問題に作品というか、著作物が掲載されている人たちを、かなりの部分でカバーしているというふうに考えておりますし、今後とも、登録のお願いを出し続けるということで、カバー率は上がっていくものと思っております。
 それから、この報告には入っておりませんけれども、現在、大手予備校とも同様の補償金の協定を結んでおりますので、予備校で使った教材からも、登録外の人はこれだけいたというリストをいただけることになっておりますので、そういう人についても、「登録のお願い」というものを出していくということで、文芸関係者だけではなくて、教材として利用されている多くの著作者に登録のお願いをしていくということで、カバー率が上がっていくであろうというふうに考えております。

(中山主査) よろしいですか、他に何か。

(村上委員) 30ページ、31ページの審議の状況の1の問題。いずれも、最後の結びが、「教育行政及び学校教育関係者からの具体的提案を待って、改めて検討する」と、これが結びになっているわけです。現実に、具体的提案というものは、割と速やかに出てくる見通しなのか、かなり時間がかかるのか、これからの審議の予定になっておりますが、それはどのような見通しなのかなということでございます。

(甲野著作権課長) 現時点では、既に準備をされていつでも出せるという状態ではないようではございますけれども。こちらの審議に、まだいささか時間はかかるのではないかと思っております。ただ、こちらの審議にもし間に合うようでしたら、それを踏まえまして、ここで御審議をいただくということになるのではないかと思います。

(森田委員) やはり私も同じ箇所が気になったのですが、この表現では「具体的な提案を待って」ということですので、具体的な提案が出てこなければここで取り上げることにはならないという趣旨であり、さらに、その上の箇所ではいろいろな問題が指摘されているわけですから、それらをクリアするような内容の具体的提案を持ってこなければ、その先は進みませんよというふうに書いてあるように読めます。そして、この部分は、委員の意見を記述したものではなく、事務局の取りまとめの文章だと思いますので、今後の審議の方式としては、まずは具体的な提案を出してきていただいて、それを待って改めて取り上げるという方針であることを示すという意味内容で理解するのが素直だと思います。そうしますと、今の説明とここに書いてあることとは、少し齟齬があるのではないかと思いますが。

(甲野著作権課長) 具体的な提案が出なければ、ここでも御審議できないかと思われますので、それが出ない以上は、これは先に進まないということではないかなというふうに思っております。そういう意味では、理解はそれほど違っていないのかなと思っておりますけれども。

(苗村委員) 私は、個人的には、ここの中の学校教育関係者として、eラーニングを推進している立場なものですから、前にもこの問題が緊急に検討すべきであるということを申し上げたのですが。ただ、ここに書いてありますように、大多数の委員の方々が「もう少し待つべきだ」という御意見でしたので、結論はやむをえないと思いますが。
 ただ、大変困りますのは、先程の特許あるいは薬事等の場合は、実績が70パーセントかどうかは別として、管理団体が管理をし、さらにライセンスをし、有償で複写が行われているのに対して、この分野は大多数の場合が、実質は無償で使われてしまっていることです。このままほっといていいかという大問題なわけです。
 そういう意味で、先程の三田さんの御説明を、私は個人的には大変いい試みだと思いますので、少なくとも「そういうこともある」と書いていただいた方がいいのではないか。つまり、権利者側と学校教育関係者が協議をして、補償金という形でやっていることもあると。それも選択肢の一つで、無償で広く使う場合がいいのか、いちいちライセンスをするのがいいのか、補償金制度にするのがいいのか、そういったことを、これはやはり、至急検討すべきだと思うのです。
 残念ながら、現時点では、この小委員会としては、多数の委員の方が「まだ、時期尚早だ」という御意見だったことは、私は承知していますが、これは緊急に解決をしないと、事実だけができてしまって、あとで大変なことになるというのが個人的な意見です。

(石井委員) 私は素人ですので、細かいことは申し上げられませんが、今の御発言は私も基本的に賛成なのです。
 全体としてちょっとこれは、今日は一つ一つの項目について議論するという形をお採りになったので、2ページ目の基本的な考え方というところについては、議論の対象にならなかったようですが、実は私は、ここの書き方に若干、注文を付けたいなという感じがしないではない。つまり、「著作権は私的なものであり、それに対して公共性というものがあって、いろんな要請に従って制限を受けても仕方がないな、そうでないと著作権法が理解されない」という書き方というのは、私はちょっと気になるところがあるわけです。
 先程もちょっとお話がございまして、権利の制限を仮にするとしたときに、できる限り合理的な補償のシステムというものが考えられるというのが、資本主義国における一つの大原則でありますし、普通の所有権と違って、人間の精神の生産物である著作権はなおさらその問題が、真剣に考えられてしかるべきではないだろうかという感じを持っております。何か、要するに、時代とともに権利を制限されることは、いわば仕方がないというか、当然だというようなトーンだけですと、ちょっと私は気になるということでございます。
 しかも著作権というのは、確かに書いた途端に成立するものではありますけれども、それはやはりパブリッシュするということによって社会に広がり、社会的な意味を持つわけでありまして、パブリッシュする主体がどんどんやせ細っていくようなことになりますと、著作権そのものが脅かされるということでもあるわけですから、著作権そのものの中にも公共性というのがあるのだということを、やっぱり少なくとも理念的には押さえておく必要があるのではないのだろうかという、素人考えでありますけれども、基本的考え方というのを、もうちょっと工夫していただければありがたいなというお願いを申し上げる次第です。

(中山主査) 基本的考え方を議論しないというわけではないのですけれども、ペーパーを出してくださいと言った時に、そのような意見がなかったということですので。
 ただ、今先生がおっしゃったことは非常に難しく、著作権とは何か、知的財産権とは何かという根本論にさかのぼるわけです。通常言われていることですが、、知的財産はアーティフィシャルな権利で、もともと完全な権利が観念され、そこからあるものを削るというものではなく、もともと削ったものとして権利が構成されていると思います。ただ、具体的にある制限を加えるとしても、一体どこまでかという問題になりますが、歴史ある伝統的な所有権に比べれば、公共性という観点からは容易であるというのは、おそらくこれは学会では、かなり一致しているというか、共通の認識ではないかと思います。そこら辺のことをこれに書き込んだら、かなり大きな改変になりますので、ちょっとどうかと思うのですけれども。なかなか今、大議論をして直せるかどうかというところなのですけれども。よろしいですか。

(石井委員) こんなところで論争してもしょうがないですから。権利とは何かという議論をするというなら、してもいいですけど。

(前田委員) 私は、基本的な考え方のところの、最初の3行目のところで、「著作物の通常の利用を害する場合は別として」というのを追加すべきではないかということを申し上げたのですが、先程御指摘がありましたように、「害する」ではなくて、「妨げる」が条約上、正しい表現だという御指摘をいただきまして、そのとおりだなと思いました。
 この基本的な考え方で書かれていることは、著作権者の正当な利益を不当に害する場合でもなく、かつ著作物の通常の利用を妨げる場合でもないということを大前提として、その要件を、さらにいえば、特別な場合という要件もかぶってくると思うのですが、その三つの要件を満たしている範囲において、著作権が社会的必要性に応じて一定の制約を受けることが、妥当な場合もあるのではないかという議論だと思います。
 したがって、ここで議論していることのすべての大前提として、著作権者の正当な利益を不当に害する場合であるとか、あるいは著作物の通常の利用を妨げるような場合に該当するのであれば、制限規定は認知されるべきではないという共通認識がまずあって、そのスリー・ステップ・テストを満たすということを前提とした上で、社会的認知を受けるために必要な場合を議論しているのだと、私は理解できると思いますので、基本的な考え方は、そういう趣旨において正当な表現のものではないかと思います。

(中山主査) 権利制限に限らず、すべてのものについて、これは「ベルヌ条約の枠内で」という、こういう前提は当然あるわけで、今おっしゃったのもベルヌ条約の枠内でということだと思うのです。これは共通認識というよりは、もう条約ですから、もう拘束されているということをここで書くかどうかは別として、当然ベルヌ条約の枠内でということにはなろうかと思うのです。文章についてはまた、どう書くかは任せていただきたいと思うのですけれども。
 他に何か御意見がございましたら。よろしゅうございましょうか。
 それでは、最後の「政令等の委任」の問題につきまして、議論をしていただきたいと思います。ページでいうと、34ページです。これは短い記載でございますけれども、この点について何か、御意見がございましたら。確かに、今の条文は細かすぎて、普通の人が読んだのでは何だか分からないところも随分あるので、すっきりさせて、整理をさせてほしいという意見もあることは事実なので、その点について、何か御意見あるいは追加してほしいことがございましたら、お願いいたします。これでよろしゅうございますか。
 それでは、長丁場ですので、ここで少し休憩を入れたいと思います。10分休憩を入れて、11時30分に再開をしたいと思います。

〔休憩〕

(中山主査) では、そろそろ時間ですので、着席をお願いします。
 それでは、次の項目であります「私的録音録画補償金の見直し」について、議論をしたいと思います。まず、「私的録音録画補償金の見直し」につきまして、「審議の経過(案)」に沿って、事務局から説明をお願いいたします。

(甲野著作権課長) それでは御説明をさせていただきます。審議の経過の冊子の35ページ以降に、書かせていただいております。現行制度につきましては、説明の省略をさせていただきます。論点としては3点がございました。
 1点目が、ハードディスク内蔵型録音機器等の追加指定についてでございます。それにつきましては、37ページにございますように、現時点では、特定の結論に意見を集約するには至らなかったということかと思います。したがいまして、この問題については、引き続き検討する必要があるということでございまして、それぞれ、以下に、補償金の対象に追加すべきものであるとする意見、それからそれについては不適当であるという意見、これをまとめさせていただいております。
 追加すべきものであるという意見は、ここを御覧になっていただければと思いますが、デジタル録音等を主たる用途として販売されているからというような意見が、また出たわけでございます。
 また、不適当であるとの意見は、ここにありますように、私的複製の権限の根拠である「市場の失敗」がないことで、補償金制度の正当性もない等々の意見がまた出されたところでございました。
 そして、次の38ページを御覧いただきたいのですけれども、そうした賛成、反対というような意見とはまた別途、法技術的な問題として、ハードディスク内蔵型の録音機器につきましては、機器と記録媒体の分離を前提としている現行法の改正も必要なのではないかという意見、あるいはなかなか結論が出ないということで先送りをすべきではないという意見、あるいは制度の運用、あるいは実態につきまして、著作権者や消費者に周知を図るべきとの意見があったところでございました。
 2番目の論点は、汎用機器・記録媒体の取扱いでございますが、これにつきましては、39ページにありますように、一律に強制的に課金することになり不適切ということで、すべきではないという意見が多数であったところでございました。
 また、政令によって個別指定ということではなくて、政令によって指定するという方式はどうかということにつきましても論点としてあったわけでございますが、これにつきましては、40ページにありますように、法的安定性、明確性の観点から、現行の方式を変更すべきではないという意見が多数でございました。
 また、この問題に関しましては、そもそも私的録音録画補償金制度、これにつきまして、基本的な問題があるという御指摘があったわけでございました。その制度の課題につきまして、(5)という形で示させていただいていることでございますけれども、録音録画技術の発展、コンテンツのオンライン普及という中で、この制度につきましては、縮小・廃止の是非も含めて根本的な見直しをしたらどうかと、しかも期限を設定した上でというような意見も多かったところでございますし、また、安穏としているから速やかに廃止すべきという意見もあったところでございました。
 またその際、参考に供するため、そもそも補償金制度の立法はどういう事実の下でそれが出てきたのかというような状況、デジタル録音・録画がどういう実態で行われているのか、権利者の利益にどのように影響を与えているのか、そうしたような事柄も継続して調査を行うということが重要であって、そうしたことを踏まえて、廃止も含めて、縮小の是非、骨組みの見直しなどをやる必要があるということでございました。
 また、運用に関しましては、(1)から(4)にありますように、補助金の配分についての情報公開、製造業者の協力を得て消費者が負担する補償金の額の明確な表示、返還制度の簡素化、実際に利用可能なものになるような工夫、それから2割に当たる共通目的事業についての御意見、こうしたものが、なされたところでございます。以上でございます。

(中山主査) ありがとうございました。
 それでは早速、意見交換に移りたいと思います。この問題につきましても論点がたくさんございますので、効率的な議論を行うために、分けて議論をしたいと思います。
 1番目は、ハードディスク内蔵型録音録画機器の追加指定、2番目が汎用機器と記録媒体の取扱いについて、3番目が政令による個別指定という方式について、4番目が私的録音録画補償金制度の課題と、各論点についてを分けて、議論をしたいと思います。
 まず最初は「ハードディスク内蔵型録音録画機器の追加指定」の問題について、意見を伺いたいと思います。
 なお、今日は別に参考人も呼んでおりませんので、先程申し上げましたように、従来の審議の経過をまとめるというものでございますので、自分はこんなことを言ってないとか、こういうことを言ったとか、そういう点を中心に、御意見を頂戴できればと思います。何かございましたら。どうぞ、村上委員。

(村上委員) 私は、これは非常によくまとまっていると思います。むしろ私が夏休み明けで戻ってきたばかりなものなので、2度目の意見を言う機会を外しましたもので、多少述べます。
 ここで、「不適当であるという意見の概要は」ということころで、「市場の失敗」という言葉を使っています、「私的複製に対する権利制限の根拠である市場の失敗がない」と。それから、その次のページの(6)には、「この場合にはそもそも市場の失敗によって、存在しないのであるから」とこういう使い方を。経済法の中では、「市場の失敗」ということになると、非常に独特な意味も持っていまして、外部不経済とか、外部経済とか、自然独占というような議論を扱うときに、いわゆる物の価格の市場を通しての調整機能がうまく働かないで、こういう場合に規制するという、その論拠として、「市場の失敗」という用語が用いられる。それで、私は、ここでの「市場の失敗」というのは、かなりの委員の方が意味しているのは、ちょっとそれと違う形で、最初の「私的複製に対する市場の失敗」というのは、多分、密室で行われたことなので、やったかどうかが探知できないとか、認定できないとか、そういう意味での市場の失敗だとおっしゃっていると思います。
 それからもう一つが、著作権が、権利が与えられているとしましても、価格が安いとか何とかで、結局権利行使というのは単独の著作権者としてはできないから、事実上機能しないから、市場がうまく働かないと、そういう意味で「市場の失敗」が、ここの議論及びこの報告書では使っている。そしてそういう言い回しというのは、用語としては非常に曖昧になるので、むしろ「市場の失敗」ではなくて、今私が申し上げた、もっと具体的な用語で書き直せるなら、具体的な用語で書いてもらった方が、法律用語の使い方としては、よりよくなるかなという、その程度の意見であります。

(中山主査) これを中心的におっしゃった山本委員が、大阪での法廷のため中座されましたので、またちょっと彼と話をしてみますが。彼の真意がちょっと分かりませんけれども、多分、非常にマイナーな家庭内での複製についての権利を及ぼすと、トランザクション・コストが異常に増すということで実際的ではないという意味で、「市場の失敗」という言葉を使ったのではないかと思うのですけれども。この点につきましては、またちょっとあとで、修正するかどうかも含めて、検討させてもらいます。よろしいでしょうか、この「市場の失敗」という言葉につきましては。
 他に何か御意見がございましたら。ペーパーを頂戴しておりますので、大体御意見は織り込んでであろうかと思いますけれども。よろしいですね。
 それでは次に、「汎用機器・記録媒体の取扱いについて」の御審議をお願いしたいと思います。これは、38ページです。これもよろしゅうございますか。前半に、時間がなくなると思って随分せかしてしまって、申し訳なかったのですけれども、だいぶ時間もありますので、何かございましたら。よろしいでしょうか。では、もし何かありましたら、最後に伺いたいと思います。
 引き続きまして、「政令による個別指定という方式について」の議論をお願いしたいと思います、39ページでございます。この問題も、政令指定について、いろいろ御意見があろうかと思いますけれども、この文章でよろしいでしょうか。よろしいですか、分かりました。
 それでは、この問題の最後の問題の「私的録音録画補償金制度の課題」につきまして、御議論をお願いしたいと思います、40ページです。どうぞ、小泉委員。

(小泉委員) 本日、配布していただきました参考資料の2というところを拝見しますと、今、検討しております審議の経過というのは、あくまでも経過であって、これから9月、10月、11月と、各論点について再整理をして年度内にはその報告書を出すということ、要するにこれは第1段階なのだという前提でお話をします。
 まず、経過の報告としては、非常に多彩な議論状況を客観的に整理されており、全く異存はありません。
 私的録音録画補償金の問題の、今後の取扱いとして議論していただきたい点を申し上げます。もともとの検討課題は、「審議の経過(案)」の60ページのところにありますけれども、三点だけです。ハードディスク型と汎用機器を追加するかどうかというのが、我々が与えられたもともとの検討課題だったわけですね。ところが、検討してみたところ、40ページの「その他」が非常にある種、クローズアップされてきて、もともとこの制度に問題があるのではないかという疑問がどんどん広がってきたというのが、おそらく客観的な状況認識だと思うのです。委員の間で温度差はあると思いますけれども、40ページの第1段落に書かれているように、直ちにこの廃止も含めた見直しを、時期を限ってすべきだという非常に強い意見が列挙されているわけです。
 現段階の「審議の経過(案)」の議論のまとめとしてはこれでいいと思うのですけれども、報告書を最終的にまとめる段階で、「その他」事項という形にしておいていいものかどうか。厳しくいえば、もともとの委員会の検討課題から外れるわけですから、あくまでも「その他」なのだという書き方はあると思うのです。以下は私の意見ですけれども、この問題を報告書の段階では、もうちょっと詰めていただき、アジェンダに格上げしていただかないと、ハードディスクの問題についても最終的な結論は出ないのではないかという感じを持っております、以上です。

(中山主査) この審議会の最初に、確か前課長から、「この最初にお示しした問題だけに限定するのではない」ということのお話がありましたので、この問題も、次第にクローズアップされてくれば当然、「その他」ではなくて、一つの章といいますか、項目になる可能性はもちろん、これはあると思います。それで、この「審議の経過(案)」は、これでよろしいわけですね。

(小泉委員) はい。

(中山主査) 分かりました。御意見として承っておきます、ありがとうございました。
 他に御意見がございましたら。よろしいでしょうか。これは本格的に議論を始めると、また、それだけまた時間もかかりますけど、これは文章としては、一応これでよろしゅうございますね。ありがとうございます。
 それでは、引き続きまして、「各ワーキングチームからの検討結果」について、に入りたいと思います。
 それではまず、「審議の経過(案)」に沿いまして、事務局から、各ワーキングチームの検討結果についての説明をお願いいたします。

(甲野著作権課長) 前回、各デジタル対応、契約・利用、司法救済の観点につきまして、各座長から御報告があったわけでございますが、それについての意見の概要というものをまとめさせていただいております。
 それぞれの報告の内容の概要につきましては、それぞれのところで、例えばデジタル対応ですと、42ページ以下に、四角で囲った形で、その概要を示させていただいておりますので、それは御参照いただければと思います。
 こちらからは、それについてどういう意見があったかということにつきまして、御説明をさせていただきます。まず、デジタル対応でございますが、41ページをお開けいただきたいと思いますが、これにつきましては、デジタル機器の保守・修理における一時的固定や複製につきましては、現行法の解釈でも認められないのかという意見もありましたけれども、やはり権利制限を認めるべきとするワーキングチームの検討結果の趣旨に賛成する意見というものが、複数の委員より出されたところでございます。
 しかしながらやはり、権利制限が認められる場合の具体的な条件ですとか、義務ですとか、そうしたことにつきましても十分検討すべきだという意見、あるいはまた、デジタル機器の買い換えによる更新についても、「やむをえない場合」というものがあるのではないかというような御議論もなされたところでございます。
 また、アクセスコントロールにつきましては、不正競争防止法についても規定がございますけれども、著作権法において刑事罰を科すことについて検討を行うべきという意見、あるいはデジタル対応で現在最も深刻なのは、インターネットを通じた侵害なので、そうしたことについても問題提起を行っていくべきではないかという意見も出されたところでございます。
 二つ目の契約・利用については、44ページをお開けいただければと思います。これにつきましても、報告が四角の括弧の枠の中にあったようなことでございましたけれども、意見の概要といたしましては、まず、「ライセンス契約違反を理由にした契約の解除」の効果というのを明確化させていくという意見がありましたのと、それから、法案については留意されるという点につきましては、必要性について検討すべきという意見のほか、弱者保護としても意味がないので廃止すべきであるというようなことで、それにつきましては速やかになされるべきという意見がございました。
 書面化や未知の利用方法につきましては、実務的には重要な問題であるということでありますので、引き続き検討すべきという案件があったところでございます。
 それから、司法救済につきましては、48ページ以下でございます。司法救済のワーキングチームは、いわゆる「間接侵害」の規定の創設の必要性について御議論をいただいたところでございますけれども、理論的な整合性をもって法律構成がしにくい状況なので、十分かつ迅速に検討していただきたいという意見、それから物理的に利用する行為の主体以外の際について差止めを行う範囲につきましては、これにつきましても慎重に行われるべきで、検討を行うべきであるという意見、それからその際の損害賠償請求が可能かということについても検討していくという意見がございました。
 それから、ネット上で侵害行為を行う者にサービスを提供する者については、教唆、幇助ではなくて、「まさしく侵害している者」というふうに考えるべきだという意見も、追加的に出されたところでございます。以上でございます。

(中山主査) ありがとうございました。
 それでは、デジタル対応、契約・利用、それに司法救済に区切りまして、各々の議論をしていきたいと思います。
 はじめに、デジタル対応につきまして、御意見のある方はお願いいたします。

(茶園委員) 41ページですけれども、ワーキングチームの検討結果に対する本小委員会の意見が書かれておりますけれども、趣旨が分からないところが2箇所あるので、もう少し分かりやすく書いた方がよろしいかなと思って、申し上げたいと思うのですけれども。
 「権利処理を行うべきであるのは、修理を行う者であるか、修理を依頼する者であるかというのが、必ずしも明らかではない」という意見があったということなのですけれども、これは、現状においてどう考えるべきかということなのか、あるいは法改正を行うとした場合での問題なのかというのが、文脈においてちょっと分かりにくいなというふうに思っております。
 次に、一番最後の段落なのですけれども、最後から3行目の、「デジタル対応で最も深刻な問題と考えられるインターネットを通じた侵害についても、今後、問題提起等を行っていくべきではないかという意見が出された」ということなのですけれども、これは、アクセスコントロールに関して何か考えるべきという御意見なのか、あるいはコピーコントロールに関して考えるべきということなのか、ちょっとよく分からないものです。さらにもう少し書き加えた方が、よろしいのではないかというように思っております。以上です。

(中山主査) 最初の、誰が権利処理をするか。そもそもは侵害とした場合、誰が侵害なのかということをまず認定し、それは修理業者であるということを前提にして、こういう議論が始まっているわけですね。本当に修理業者だけか、依頼した方はどうかということを議論しなくていいのですか。そういう意味です。だから、単なる修理業者は手足として使っていて、修理をしているのは、依頼した方であると考えるのかという、そこの整理をしてほしいということです。

(茶園委員) 分かりました。

(中山主査) 一番最後は、これは私が書いたのですけれども、要するに、このアクセスコントロールがどうのこうのというのではなくて、一般的にもうこれは非常に重大な問題であるというので、これを議論する時間は本当はないのだけれども、頭出しというか、そういう点では打ち出していったらどうかというような、そういう趣旨です。アクセスコントロールに限る話ではない。文章としてこう書きますと、どうかなという意見が出ると思いますので、ちょっと文章は考えさせてください。
 他に何か御意見がございましたら。これはよろしいですか。
 それでは、次に「契約・利用」につきまして御意見を頂戴したいと思います。これも大体、ペーパーに、御意見をお伺いしていることを織り込んでいると思いますけれども。よろしいでしょうか。
 それでは引き続きまして、「司法救済」について、御意見を頂戴したいと思います。これも問題は大きいのですけれども、審議の中間的な物としてはこれで、何か文章的に問題がございましたら。よろしいでしょうか。

(前田委員) ちょっと意味がよく理解できない部分について、教えていただければと思うのですが、この本小委員会での意見の概要の下から4行目のところなのですが、「差止請求が可能とする場合については、当然に損害賠償請求も可能かという点についても検討すべきという意見があった」ということなのですが、差止請求の問題と損害賠償の問題とは別の問題で、損害賠償請求ができるかどうかは、故意過失を要件とする不法行為の問題ですので、この差止請求が可能とする場合については、当然損害賠償請求も可能とするかという点についても検討すべきという点の問題認識がちょっと私は理解しにくいなと思いましたので、御教示いただければと思いました。

(中山主査) この点について、土肥委員。

(土肥委員) この点は、私の意見としてお願いしたところなのですけれども、もちろん最初の損害賠償請求は、それぞれ要件がありますので、その要件を充足すればという話が一つあるのだろうと思うのですが、例えば、ある侵害状態が、そういう侵害と認められるような状況があるときに、その侵害を回復する際に、例えば差止めは認めるけれども損害賠償は認めないとか、つまり例えばネット上の権利侵害のコンテンツを得ているような場合について、結局その損害賠償の方は制限する。だけどもその侵害状態に関しては、そういう状態は解消するように、そういう工夫がありますね。そういうことを、ここではイメージしていたのです。つまり、ネット上で侵害状態が生じた場合について、場合によって、その損害賠償の方は制限をすると。だけども、侵害状態をすぐに解消すべく、そういう意味での差止請求は認めると。その逆の組み合わせとか、そういうことは考えられないのかどうかという、そういうイメージでお願いをしたのですけれども。

(大渕委員) 今言われた点は、いみじくも先程前田委員が御指摘になった点に直接に関連する問題のように見受けられますが、故意過失がないから損害賠償を否定するという御趣旨なのでしょうか、それとも、故意過失があっても何かしら別の理由で損害賠償を否定するという御趣旨なのでしょうか。つまり、通常の損害賠償の理論の枠内の議論なのか、それを超えたような範囲の議論なのかという辺りの問題意識についてお聞きできれば、おのずから、この文章の意味も分かるようになってくるのではないかと思うのですが。

(土肥委員) その具体的な、どういう侵害というか、侵害状態があって、それに対してどういう救済が可能かという、個別具体的な状況がはっきりした上での話ということではなくて、いわゆるこういう過失があれば損害賠償請求、それから、侵害状態になれば、差止請求という、そういう基本的な考え方がありますが、ネット上の場合には、いろんな侵害状態を解消する工夫がいるのではないかなという意味なのですね。だから、そこを、特定のケースをとらまえて、ここをこういうふうに考えてくれという、そういう要望ではなくて、基本的なスタンスの問題として、ここでは意見として挙げたものなのですけれども。

(中山主査) ある特殊な状況というか、要件の下には、故意過失関係なく、損害賠償を認めない、差止めだけ認めるという、そういう条文を作るという意見もあったと、こういうことでしょうか。

(土肥委員) いや、条文を考えるというわけでもなくて、そういう問題状況があるのではないかという検討なのですね。

(中山主査) 条文がなければ、やっぱり損害賠償は、故意過失がないと認められないと思いますが。

(土肥委員) だからそういうことを考えなければならないようなことはありませんかと、こういうことなのです。

(大渕委員) まさしく、そのような場合に、故意過失はないというようなことで損害賠償を否定するという話であれば、普通に考えて分かるのですが、今の御意見は、故意過失が肯定される場合であっても、やはり何かしらの別の理由で損害賠償は適当でないから否定するという、そういうお話なのでしょうか。要するに、故意過失のような通常の議論の枠内で説明できる範囲なのかできない範囲なのかということですが、そこが重要なポイントだと思いますので、できましたらその点を明らかにしていただければ、理解がしやすいのではないかと思いますが。

(土肥委員) これを書いた時のイメージとしては、要するにプロバイダーが権利侵害、例えば著作権侵害にかかるコンテンツを載せていて、それについてノーティスを受ける。こういうケースが起きたときに、いわゆるノーティス・アンド・テイクダウンの話になるわけですけれども、その場合、プロバイダの損害賠償責任は制限されるわけですが、そのコンテンツが誰かの著作権を侵害している状態については、テイクダウンをさせて、損害賠償責任を制限しつつ、その侵害状態が解消されるという意味で、いわば間接侵害というような議論になるときに、直接に権利侵害した者と、間接侵害にかかわるかもしれない、そういう関与者との関係というのは出てくるのではないかと、そういうイメージです。

(中山主査) プロバイダの場合は、それなりの法律があるので、そうなっているのですけれども、それなりの法律がないところでは。

(土肥委員) ないか否か、そういうような必要性を考えて欲しいという、そういう意味です。

(中山主査) そうですね。

(土肥委員) ええ。だからそういう状況があれば。なければ、それはそれでいいのですけれども。

(小泉委員) だいぶ議論はしていただいて、明確化されたと思うのですけれども、ここに書かれている、この当然に損害賠償請求も可能かという点を検討するという御趣旨は、故意とか重過失がある場合だけ損害賠償を認めるように立法しろということではなくて、過失の内容がいろいろ分からないところがあるから明確化していくべきだということでしょうか。そういうことで、もし正しければ、御趣旨をもう少し明らかにする形で、書き直していただければいいのではないかと思います。

(大渕委員) 今お聞きしているところでは、故意過失の内容といった話というよりは、先程のプロバイダー責任法のような、何か別の次元の議論で損害賠償の制限を行うという御趣旨のようでもあるので、いずれにせよ、どのような御趣旨で考えておられるかを、もう少し明らかにしていただいた方がよろしいのではないかと思いますが。

(潮見委員) おそらく、これから議論すべきではないかということだと思いますので。要するに、土肥先生の御趣旨というのは、その救済手段として、差止請求権と、それから損害賠償請求権の在り方、関係について、どういうふうに捉えたらいいのかというのを、その要件効果も含めて、そもそも立法論と、法改正の可能性も含めて検討していただきたいと、こういう御趣旨で、非常にあえて言えば抽象的な部分を含めて、ではなかろうかというように推察はするのですね。
 だから、もしそういう抽象的な部分も含めた形で、こちらのワーキングチームに検討を依頼するという形で、ここの委員会で、あるいは評議会で、あるいは委員会の委員の御一人である土肥先生の御意見として、この審議の経過のところに盛り込むのがいいかどうかを、ここで結論を出せばいいのではないでしょうか。

(中山主査) ここで結論を出す必要はないので、今までの皆さんの御意見を踏まえて、土肥教授とも相談して、文章はまた別途修正させていただきたいと思います。いずれまた、もう1回、ありますね、今度分科会に出す前に皆さんにお渡しするわけですね。その時にまた見ていただければと思います。
 他に何か、この司法救済につきまして、御意見がございましたら。

(森田委員) 司法救済に限ってのことではなく、この3つの部分にわたることですが、いずれについても、ワーキングチームから報告がなされて、その報告について、この小委員会で委員から意見が出されたということであり、かつ、この小委員会での意見交換の時間というのは、前回は極めて短かったかと思います。
 そうしますと、この書き方だと、ワーキングチームの検討報告が参考資料のように付いているわけですが、むしろ順番としては、検討報告の概要が先に来て、それに対する意見が付されているという方が、読む人にとっても分かりやすいのではないかと思います。つまり、報告に対する意見のあとに報告が付いているということですが、その逆にした方が、全体が分かりやすいのではないかということです。これは、構成上の問題ですので、個々の内容に関するものではありません。
 このことは、ワーキングチームの位置付けの問題にもかかわるのですけれども、通常、ワーキングチームから報告がなされた場合には、それをたたき台として、この小委員会の場で議論がなされ、一定の結論を得たうえで、その結論をパブコメに問うというのが通常の在り方だと思います。しかし、今回は「審議の経過」ということですので、その「審議の経過」というのは、このワーキングチームの検討状況の経過報告も本体に含まれているのか、それとも、これは参考資料にすぎないのかという、その辺りの位置付けの問題にもかかわってきます。しかし、この小委員会の意見の概要そのものではあまり結論的なことは書いてなくて、検討報告の概要の方に、今後の検討の方針も含めて書いてあるわけですから、むしろそれを本体に据えた方がいいのではないでしょうか。このように枠で囲むかどうかは、エステティックな問題ですが、構成については、そのように私は思います。

(中山主査) それも検討させていただきます。その方向でよろしいですか。では、その方向で検討させていただきます。ありがとうございました。
 他に何か、司法救済につきまして、問題はございましたか。よろしいでしょうか。
 それでは、「裁定制度の在り方」についてに移りたいと思います。
 この問題につきましては、7月25日の契約・流通小委員会におきまして、「裁定制度に関する検討報告」を取りまとめていただいておりますので、契約・流通小委員会の主査であります土肥委員より、内容についての御説明をお願いいたします。

(土肥委員) それでは、御報告を申し上げます。資料5がお手元にあろうと存じますので、それを御覧いただきたいと思います。
 まず、この検討の経緯でございますけれども、本年1月に文化審議会著作権分科会が取りまとめました「著作権法に関する今後の検討課題」におきまして、裁定制度の在り方について、これは法制問題小委員会での検討に先立ち、契約・流通小委において、著作物の利用促進、権利者保護の観点から検討を行うよう、要請をいただいたわけでございます。
 これを受けまして、契約・流通小委員会におきまして検討を行い、このお手元にある小冊子にまとめたということでございます。これを御提出するということになるわけでございます。
 この基本的な考え方といたしましては、表紙を含め、2枚めくっていただいて、1ページになるわけでございますけれども、我が国の「裁定制度」は、特定の場合に権利者に代わって文化庁長官が利用の許諾を与えるという制度になっております。これは著作権に関係する国際条約におきましては、「強制許諾(Compulsory License)」というものとして位置付けられているようでございまして、本小委員会でも、私どもの委員会でも、この強制許諾制度との関係で検討いたしたわけでございます。
 めくっていただきまして、2ページ、3ページ、4ページにございますけれども、現行の制度としては、これだけあるわけでございますが、具体的な検討といたしましては、五つの検討をいたしました。一つは、2ページ目の67条にある著作者不明等の場合の裁定制度、それから3ページの68条、著作物を放送する場合の裁定制度、それから、そのページの下の方にある69条ですけれども、商業用レコードの録音等に関する裁定制度、それから4ページ目にある翻訳権の7年強制許諾でございます。この四つと、それからさらにもう一つは、新たな裁定制度の創設の必要性があるかないかという観点から、実演家の権利に関する裁定制度でございます。
 これらの現行制度の内容につきましては、今の1から4につきましては、2ページから5ページまでのところに概要を説明してございますので、その点を御参照いただければと思っております。
 それで、恐縮ですけれども、検討の結果に移らせていただきます。これは8ページということでございます。
 まず第1点の、67条の裁定制度でございます。この制度につきましては、貴重な著作物を死蔵化しないで、世の中に提供し、活用していただくために有効であるということから、存続すべきではないかという検討の結果でございます。
 ただ、委員会の議論におきましては、この制度を有効に活用するために、制度面や手続面での改善を行う必要があるのではないかと、こういう意見が幾つかございました。
 主なところを御紹介いたしますと、まず手続の簡便化を図るために、頻繁かつ小規模な事業分野について、特定の機関に裁定の権限を委ねる仕組みを求める意見がございました。ただ、裁定のように、他人の私権というものを制限して、他人に代わって利用者に許諾を与えるという業務について、民間の指定機関に運用を任せる制度設計というものは難しいのではないかなということがあるわけでございます。
 それから、21世紀といいましょうか、インターネット時代の著作物の利用促進という観点から、いったん許諾を受けて利用した物の限定的な再利用、例えばデータベース化のような特別な場合については、裁定制度というものではなくて、権利制限規定は考えられないかという意見もあったわけでありますけれども、これも様々な観点から、慎重に検討をしていかなければならないというようなことでございました。
 というのは、著作物についても様々な物がございまして、著作権者がどこにおいでになるかの相当な努力をするということが求められるわけでありますけれども、物によりましては、きちんとその著作権者と考えられる、あるいは著作権者をたどっていける、そういう著作者名称等が、著作物に用意されている物から、そうでない物まで、様々ございますので、そういう、例えば写真のような物とか、なかなか難しいというような物まで、様々ありますので、そういう著作物の種類・性質に応じて、また考えてみる必要があるのではないか、そういうような意見が、この67条に関しては、あったところでございます。
 それから二つ目の68条でございますけれども、これは著作物を放送する場合の裁定制度でございますけれども、これは利用実績もございません。ただ、公共性の強い放送において、著作物を公衆に伝える最後の手段として、制度それ自体は置いておくという意見はございましたので、委員会としましては、あえてこの制度を廃止する必要はないのではないかというふうに考えているところでございます。
 それから、三つ目の商業用レコードの録音等に関する裁定制度でございますけれども、この制度につきましても、同様に利用実績がないわけでございます。さりながら、この制度があることによりまして、レコード会社と作詞家、作曲家の専属契約の慣行、そういったものが、あるいは見直され、音楽の利用が促進されるということなら、そういう間接的な効果が認められたわけであります。この制度は、この分野の一定の利用秩序の形成に、そういう意味では貢献しているのではないかということもあり、同様に、あえて廃止する必要はないのではないかというのが意見でございます。
 それから、現行制度の最後のものでございますけれども、翻訳権の7年強制許諾制度でありますが、これは我が国が万国著作権条約に基づき保護義務を負っておる著作物の利用についてのみ、適用があるわけでございますが、現在、少ない、ごくわずかとはいえ、万国著作権条約が適用される国があるわけでございますので、その対象国がある限り、適用される可能性というものは、理屈の上では皆無ではないということでございますので、今直ちに廃止する必要はないのではないかということでございます。
 それから最後に、10ページの(5)のところにある、「新たな裁定制度の創設について、(実演家の権利に関する裁定制度)」というのがございます。このところは、新たな裁定制度として、実演家の権利に関する裁定制度というものを求められる、そういう意見も、委員会には出たわけでございます。
 ここにありますように、近年、二次利用の要望が強い。ところが、実演家の方の許諾を得ることができない、こういうようなところがあり、二次利用という点で、困る状況があるというわけであります。もちろん、そういう番組に出られた実演家という方は、分かるわけでありますから、探すことになるわけでございますけれども、なかなか困難だということで、実演家の権利に関して、裁定制度の創設は考えられないかと、こういう意見があったわけです。
 これは、6ページ、7ページのところに出ている、これは6ページ、7ページというのは、条約との関係になりますね、10ページ、11ページという方がいいのだろうと思います。結論から申しますと、ローマ条約、そういった国際条約との関係で、条約との整合性を考えなければならない、こういったことがございまして、こういう制度については、条約との整合性をより慎重に検討する必要があるのではないかというのが、委員会における、この法制小委に申し上げる報告事項でございます。以上でございます。

(中山主査) ありがとうございました。
 この問題については、従来、議論をしておりませんので、ただいまの土肥教授からの説明を踏まえまして、議論を行いたいと思います。御自由に御意見をお願いいたします。

(土肥委員) 申し訳なかったのですけれども、9ページのところに、「その他(著作物を裁定で利用した旨の表示)」というところがございまして、昨今では、著作物のデータベース化を行いたいという観点からの裁定の申請が、けっこう出ているようでございます。その場合、67条の2項の問題がありまして、この裁定を受けた物については、そのことを周知させる、そういう表示を求めているわけですね。
 これが、物によってはなかなか難しい物もあるのではないかと。従来の媒体のような、紙媒体のような物であれば、それはもちろん簡単に行くわけでしょうけれども、様々なコンテンツなどについて考えてみます場合に、こういうところは難しいのではないかというような指摘もございました。これは、ここで申し上げませんでしたので、入れさせていただきます。

(中山主査) ありがとうございます。

(前田委員) 今の最後に御説明をいただきました、この実演家の権利に関する裁定制度についての条約との関係を御説明いただいているのですが、そこについて、ちょっとローマ条約等に関する知識がなくて、教えていただきたいのですけれども、ローマ条約の15条にただし書で、「条約に根拠がある、ごく限られた特別な場合にのみ、強制許諾が認められている」ということなのですが、ここで検討されている、実演家と連絡が取れないような場合に、強制許諾といいますか、裁定による利用を認めることは、このローマ条約で認められた強制許諾の場合には当たらないということになるのでしょうか。

(土肥委員) ローマ条約の7条の1項ということになるわけですね。このローマ条約では、実演家の最低限の権利の保護として、「実演家の承諾なしで、実演の固定物を複製する行為を防止できるものでなければならない」としているわけですけれども。また、それは最初の固定自体が実演家の承諾を得ていない場合、それから実演家が承諾した目的と異なる目的のために複製が行われる場合ということですけれども、そこはそれでよろしいでしょうか。

(前田委員) 7条で、実演家の権利が定められていることは理解できるのですが、私がちょっと疑問に思う、教えていただきたいなと思いましたのは、15条2項のただし書には強制許諾の余地があると書いてあるわけですね。「この条約に抵触しない限りにおいてのみ、定めることができる」ということは、強制許諾の余地はあって、強制許諾を定めることは可能であるが、ただ、条約に抵触しない限りにおいてのみ、定めることはできるということなのですが、このローマ条約15条2項のただし書が想定している可能な強制許諾って、どういうものなのかというのが、よく分からなくて。

(土肥委員) それは、著作権者に代わって許諾を与える仕組みで、それを我々は検討の対象にしたわけですけれども、著作権者に代わって許諾を与える仕組みですね、Compulsory Licenseですけれども。
 今おっしゃった15条2項の、「ただし強制許諾はこの条約に抵触しない限りにおいてのみ、定めることができる」という、条約に抵触しないかどうかの話なのですけれども、7条1項というのがありますね。そもそも、ローマ条約で実演家の権利について認められる点は、「承諾なしに実演の複製物を複製する行為を防止できる」ということになっていますので、このそもそもの権利として認められているのは、そのC‐I‐1と2ですか、最初の固定自体が実演家の承諾を得ないで行われたときと、それから、実演家が承諾した目的と異なる目的のために複製が行われるとき、その場合に、その実演家の承諾を得ないで、その実演の固定物を複製することについて、防止をできるものでなければならない。これを損なうことが、条約に抵触することになる、これでよろしいですか。今のは川瀬さん、説明としては。

(川瀬著作物流通推進室長) 今の主査のお話は、この問題提起の前提がございまして、新しい裁定については、放送事業者の委員から御意見が出たのですが、特に過去の放送番組を二次利用する場合に、これは映画の場合ですと、出演契約のときに実演家が録音録画の許諾を出しておりますので、その二次利用については改めて実演家の権利が働きませんので、これはもう裁定とは関係なしで、利用できますが、放送番組の場合には、これは当初の出演契約のときに、実演家は録音録画の許諾を出しておりませんので、過去の放送番組を二次利用する場合には、実演家に改めて許諾を得なければならないことになります。その場合に、過去の番組ですと、もう実演家の方が、例えば引退をされていたり、亡くなったり、居所がよく分からないというようなことで許諾が得にくいので、そういった場合の裁定制度を検討していただけないかというような御意見がございました。
 それから今の議論に入るのですけれども、つまり承諾を得ないで固定された実演の複製をする場合に、裁定制度が導入できるのかどうかという問題に絞って検討したわけですが、先程からの主査の御説明にもございましたように、ローマ条約の15条の2項で、その保護の例外として、「強制許諾制度はこの条約に抵触しない限りにおいてのみ定めることができる」ということで、非常に限定的に規定しています。一方、ローマ条約7条では、今、主査がおっしゃったように、実演家の権利については非常に複雑でして、例えばベルヌ条約のように一般的に複製権を規定しているわけではなく、様々な条件が付された複製権ですので、先程言いましたような条文に照らし合わせると、やはりローマ条約上問題があるのではないかということでございます。
 それからもう一つは、条約はローマ条約だけではなくて、例えばWTOのTRIPS協定とか、それからWIPOの新条約がございますが、WTOのTRIPS協定では、ローマ条約に準拠するということになっていますし、一応、新条約の方では、著作物の複製権と同じように、スリー・ステップ・テストによって実演家の権利も制限できますが、ただし、「ローマ条約の締約国については、ローマ条約の義務を免れるものではない」という条項が特別にございます。我が国はもちろんTRIPSにも入っていますし、ローマ条約にも入っていますし、WIPOの新条約にも入っていますけれども、基本的にはローマ条約締約国として、ローマ条約の義務が、そういうものが課されていますので、その点から見ると、先程言いましたように、過去の放送番組の二次利用、つまり実演家の承諾を得ないで作成された番組の二次利用に関しての強制許諾制度というのは、条約上、難しいのではないのかというような結論だったということでございます。

(苗村委員) それに関連したような、確認のための質問なのですが、この報告書の1ページで裁定制度というのが、国際条約では、強制許諾に該当するという御説明があって、国際条約についての説明が6ページ、7ページにあります。その中で、ローマ条約の場合には、第15条の1項が権利制限に該当する条件を定め、2項で強制許諾を定めていて若干違うということが明確なのですが、ベルヌ条約、それからTRIPS、WIPOの条約、いずれも同じ条文でスリー・ステップ・テストに基づいて権利制限、あるいは強制許諾という言葉が使われてないかと思いますが、それも含めて、同じ条件で各国語で決めるようにというふうに書いてあるというのが、私の、多分この書き物の呼び方なのですが、それで正しいかということです。
 そうしたときに、日本の裁定制度を見直すときに、確かに隣接権については、ローマ条約に縛られることはよく分かるのですが、著作権については、どういう概念で仕切りを作るのか、先程例えばたまたま権利制限の中で、薬事法関連、特許法関連の議論がありましたが、ああいったものを裁定制度にしないで権利制限にするということの理念は何かということは、ちょっと分からなくなったのです。それとも、強制許諾制度が国際条約の関連で、どう位置付けられているかについて、私の理解が正しいかどうかということを、ぜひ教えていただきたいのです。

(池原国際課長) 先生が今おっしゃった理解のとおりだと思います。今、お話がありましたように、ベルヌ条約とWCT、WPPT、TRIPSのそれぞれにスリー・ステップ・テストというのがございまして、この大原則の枠内でその複製権についての特別な例外が認められるということでございますが、先程川瀬室長の方からありましたように、実演家の関係につきましては、これはローマ条約の中で、別に規定がございますので、この条約の求めるものを担保しなければ、その強制許諾の制度を作ることは難しいという全体の構成になっているということでございます。そういうことが、今の先生の本当におっしゃったということでしょうか。

(土肥委員) 少し違うのだろうと思うのですけれども、苗村委員がおっしゃっておられるのは、ベルヌ条約の下でも、スリー・ステップ・テストに合致する、そういう仕組みというのによって、権利制限規定ができる、権利制限をすることはできるのだろうと思うのですけれども、裁定を設けるということは、それから比べれば、一般的に制限しないわけですから、より細かい手当ができるわけで、場合によっては、もちろん対価についてはそこで見ることもできるわけですし、その著作物の通常の利用とか、著作権者の利益を不当に侵害しないとか、そういう観点からすれば、スリー・ステップ・テストに裁定制度というのは、より整合的ではないかという、そういうことですね。

(苗村委員) 今、土肥先生がおっしゃったことに、私の頭の中は近いのですが、ただ、申し上げたのは、そこまで断定したわけではなくて、この書き物を読んだ時に、前の方で、「裁定制度は国際条約では強制許諾制度に位置付けられる」と書いてあって、国際条約の6ページ、7ページを見ると、ローマ条約のところにしか、強制許諾が出てないわけですね。
 そうすると、まず解釈として、ベルヌ条約、TRIPS、WIPOの条約では、権利制限と強制許諾が同じように、この権利の制限又は例外ということでカバーされているという解釈で正しいかというのが一つです。
 もしそうであるとすれば、次は、国内法の立法論として、どうやって区切るのか。スリー・ステップ・テストを満たす場合には、たまたま先程来、議論のあった薬事法などは分かりやすいのですが、権利制限にすべきか、裁定制度にすべきかということは、実に立法の問題で、小委員会がどちらであるかは別として、著作権分科会が決めればいいことなのか、あるいは、これとは別の条約がありますと、ここには書いてありませんけど条約の規定がありますというのかが、私は理解できなかったのです。

(池原国際課長) 今、苗村委員がおっしゃったようなことで、強制許諾とそれから権利制限という書き方がございますけれども、条約上の関係は、報告書の6ページ、7ページにあるものが全てでございますので、著作権に関しましては、ベルヌ条約、WCT、TRIPSのスリー・ステップ・テストの枠内で権利制限をするか、あるいは裁定制度を執るかということは、その各国の判断ということにゆだねられていると、理解をしています。

(小泉委員) 戻ってしまって、大変恐縮なのですけれども、報告書の10ページの最後の、先程の15条と7条の問題について、疑問が氷解しませんので、もう一度お伺いしたいのですが。10ページの最後の行に書かれている「条約に根拠のあるごく限られた特別な場合」という記述についてです。

(土肥委員) 委員がおっしゃっておられるような疑問も、もちろん持ったのですけれども、そこの15条の2項のただし書の理解については、先程来、事務局から説明があるような理解が国際的に承認され、合意されていると、そういうことですね。それで、我々の委員会としましても、その説明を前提に、今議論をしたということになるのですけれども。

(中山主査) 「条約に抵触しない限り」というのは、どういう場合が抵触するのですか。という質問です。

(小泉委員) 条件が見当たらないようですが、どう考えてらっしゃるのでしょうか。

(川瀬著作物流通推進室長) 私どもは、ローマ条約の解釈につきましては、逐条解説がWIPOから出ておりますので、それベースで検討していますが、その逐条解説を見ますと、ローマ条約の7条に抵触するような強制許諾は導入できませんと書いております。そうしますと、ローマ条約の7条というのは、例えば先程私が言いましたように、ベルヌ条約のように、一般的な複製権を与えなければならないということではなくて、もともとローマ条約は、見ていただいたら分かるように、非常にその権利自体が複雑な権利でして、承諾を得て固定されていないとか、承諾を得て何々されてないとかということで、そういう意味で、条約で保護すべき権利の範囲というのは、非常に限定的なものですので、先程私が言いましたような、放送番組の二次利用の場合については、その7条に抵触するということだと思っています。
 ただ、先生の御指摘のように、今から考えると、「条約に根拠がある限られた特別の場合」という表記は、適当であったかどうかという問題もあると思いますので、もう少し、書き方については検討したいと思います。

(中山主査) 7条をこの場で議論しても、結論が得られませんので、もう一度研究をして、もし改めるなら、改めるということで、よろしゅうございましょうか。だいぶ時間も過ぎましたけれども、何か他に御意見はございますか。よろしゅうございましょうか。
 それでは、他に意見がございませんので、この案につきまして、全体的に大まかには、基本的に了承していただいたものとして、本日の御発言をいろいろ再考して、修正をする必要があると思いますけれども、ここの修正については、主査の私に御一任いただいてよろしゅうございましょうか。

〔異議なしの声あり〕

 その修正につきましては、場合によっては今日御発言をいただいた、あるいはその他の先生に御相談をしながら、文章の修正をいたしまして、また取りまとめましたら、それを皆様に「案」としてお送りをして、各委員にもう一度見ていただくという機会を作りたいと思います。そういうことでよろしゅうございますか。ありがとうございました。
 なお、この「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会審議の経過(案)」につきましては、9月8日の著作権分科会において、私から報告をし、分科会において審議をしていただいた上で意見募集にかけるということになっているようでございます。
 なお、今後の予定でございますけれども、次回は10月に開催する予定でありましたけれども、先程から話を討議、まだ議論はし尽くされていない論点がございますので、9月末、または10月上旬に本委員会の開催をいたしまして、論点を再び整理したいというふうに考えております。
 事務局から何か、事務説明がございましたら、お願いいたします。

(白鳥著作権調査官) 本日は、長時間ありがとうございました、第8回目となります次回の法制問題小委員会の日程ですが、各委員の先生方の日程等を調整させていただいた上で、改めてお知らせいたしますので、よろしく御承知おきのほど、お願いします。
 なお、本日は昼食の御用意がございますので、お時間のある委員におかれましては、そのままお待ちいただきますよう、お願いします。以上でございます。

(中山主査) どうも長時間、ありがとうございました。


(文化庁長官官房著作権課)

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