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第2章 心のケア 各論

5 総合的な心のケア活動体制

1. 総合的な心のケア活動体制

   広域な地域で被害者が多数いる場合、「総合的な心のケア体制」を構築することが、多くの人達の心身の障害やPTSDの発症を予防する重要な作業となる。図10に「総合的な心のケア活動体制」を示す。
 「総合的な心のケア活動体制」では、
1 不安や緊張などの症状が強い被災者に対して、早期に専門的ケアを受けることができる体制を整える。
2 被災者全員に対しストレスマネジメントやPTSDに対する正しい知識と予防方法などを伝え、被災者自身がセルフケアを行う。
3 教員、保護者、地域のリーダーなどが専門家との連携した日常的ケア活動、心理的サポートを実施する。
4 アウトリーチによる活動に重点をおく。被害者は、生活の建て直しに精一杯であることが多く、心のケアに関心が向いていない場合が多い。初期救援では、アウトリーチにより、被害者のいる現場に出向いて心のケアの必要性について説明し、相談を受け、現場のニーズを把握し、必要な援助体制を構築する。

図10 総合的な心のケア活動体制

図10 総合的な心のケア活動体制
【セルフケア】
   日常生活の中でセルフケアができるよう、ストレスマネジメント教育やリラクセーション法などセルフケアの指導を行う。外傷後ストレスによる心理・行動・生理的変化を被災者に説明し、こうした反応が誰もが経験する自然な反応であることを知らせる。

【教員・保護者などによる長期的なケア活動】
   教員、保護者、地域のリーダーが協力して総合的なケア活動を行う。対象となる個人をよく知り、信頼関係があり、悩みに対して共感を持ち適切な助言ができる人がサポートする。このサポートする人達が心のケア活動についてよく理解し、長期的な心のケア活動の中心的活動を行う。必要がある場合は、専門家と連携する。

【専門家による診断・カウンセリング】
   アウトリーチなどを行い、被災者や援助者に対し、心のケアについての指導を行う。ストレス症状が強い者に対しては、専門的な診断とケアを実施する。

【精神科医などによる専門的治療】
   ストレス障害の症状が重い場合、精神科医、臨床心理士による専門的治療が必要である。精神療法や薬物療法が行われる。

 これらの総合的体制は、それぞれに、状況やリソースに応じて構築するものであり、緊急事態において、どのような連携や協力体制を構築するのかを事前に検討、モデル化しておくことが望まれる。また、緊急事態では、援助活動を行うことができる人や資源が限られていることが多く、ネットワーキングや後方支援活動の構築が重要となる。

2. 危機的事態における心のケア活動

   危機的事態が起きた場合の基本的対応について、時系列にまとめたものを表2に示す。各校における対応方針や実行計画は、地域の実状を踏まえ、実態に応じて策定されるべきものである。

表2 危機的事態における心のケア活動
時期 在外教育施設における対応について
平常時 1.心のケアを含めた危機管理体制の確立

(1) 災害時や緊急時の対応(避難場所、避難経路、集合場所、連絡方法、非常用物品など)について事前に準備が必要である。
(2) 「安全と安心の確保」の視点から、心のケアについて十分検討する必要がある。

2.ストレスマネジメント教育の実施

 心のケア活動は、本人のセルフケア及び教師や保護者などの身近な援助者、専門家との連携による総合的なケア活動を行うことが望ましいが、これらのケアが十分に行われるためには、事前に「ストレスや外傷体験とその対処方法」についての正確な知識や技法を教育しておくことが重要である。

3.現地機関や支援者とのネットワークの構築

(1) 現地の医療機関、精神保健機関、相談所、カウンセラー、弁護士、ケースワーカーなどとネットワークを構築しておくことが必要である。特に緊急時は現地機関の支援も有効である。

(2) 日頃から現地の人との付き合い・交流を大切にしておくこと

(3) インターネットなどを利用し、内外の機関・専門家とのネットワークを構築しておくこと

4.教育相談体制の整備・心身の健康管理

 平常時から生活環境ストレスや心理的ストレスを低減することは大切な予防活動である。

 日常から構築した信頼関係が、危機場面での子供達の安心の基盤となる。

 教員のカウンセリング能力の向上や子供達のストレス耐性の向上を図る。

5.心のケアに関する資料の作成・配付

 心のケアに関し、緊急時に配付する資料や予防的教育資料を作成し、準備・配付する。

緊急時から授業再開までの対応について 1.緊急事態の対応と連動して、「安全と安心の保障」の観点から迅速な対応をとる

避難活動、負傷者の救出、二次被害の防止、保護者・関係機関との連絡、情報の入手と伝達など

2.緊急事態では、冷静沈着な行動と対応をとる

(1) 被害の程度にもよるが、緊急事態に落着いて冷静に対応することは、家族や子供達の不安と緊張を軽減し、精神的ダメージを少なくする。

(2) リーダーは被災者や職員全体の指揮を心がける。

3.被災直後から避難場所に「総合対策本部」などの活動拠点を設置する

 震災などで、学校施設が使用不能になったり、避難生活を行う場合には、生活に密着した場所に総合対策本部を設営し、全ての必要な情報を収集、利用できるようにする。それらの情報をもとに総合的な判断と対策が迅速に行われる必要がある。

4.総合対策本部では、おおよそ次のような活動を行う

(1) 安否確認と連絡(児童生徒・保護者・教職員の安否確認、関係機関への連絡)

(2) 対外機関との連絡・連携・交渉・折衝

(3) 関連する情報の入手と発信

(4) 生活の場の確保に係る援助

(5) 配給物資や必要物資に関する情報の入手と配給・配信

(6) 医療的ケア活動(情報の入手と発信、医療、医療相談の実施)

(7) 心のケア活動(情報の入手と発信、カウンセリング・心理療法の実施)

(8) チームによる総合的なケア活動の計画と実施

 被災直後の混乱した状況において、緊急事態に関する情報を全て入手、発信する総合対策本部を設置することは、保護者や子供達、教職員の不安と精神的混乱を軽減する効果がある。
 救援者も被災者であり、限られたリソースを提供し、協力しあわなければ、有効な救援活動を行うことが難しい。

5.現場の状況に応じた適切な判断と関連機関との綿密な連携活動

 危機的事態では、現場主義で、その時、その場で本当に何が必要かを見極め、必要ならば従来の制度や枠にとらわれることなく問題解決に向けて柔軟に対応する必要がある。

 そのためには、緊急事態の対処について、校長のリーダーシップが重要となる。より良い対応を実施するために、文部科学省や在外公館、学校運営委員会、専門機関などと綿密な連携が必要である。

 各部署や人々の働きを連携・コーディネイトすることがうまくいかない場合、善意の努力が報われない結果や成員間の相互不信・精神的疲労に陥る危険性がある。

6.できるだけ早期に心のケア活動を開始すること

 被災直後からの心のケア活動は、その後の様々な問題の発生を低減するため、できることから積極的に行うことが重要である。

7.スクリーニングや観察を実施し、個に応じた対応を行う

 できるだけ早い時期に、カウンセラー・臨床心理士・精神科医などと連携し、ケア活動を行う。被害の範囲や程度が甚大である場合は、専門家の派遣が必要である。

8.避難生活における精神的ストレスへのケアが必要

 また、安心できる日常生活を早期に確保することは、精神的な安定を取り戻す重要な作業である。

 危機的状況や避難生活が長期化する場合、ストレスに対する抵抗力が低下する。

 復興・救援作業は、在外教育施設教職員の任務であるが、作業の安全や健康状態、精神的疲労などへの配慮も十分に行う必要がある。

9.授業再開への積極的活動

 できるだけ早期に日常生活の安定を取り戻すことは、子供だけでなく、保護者・教職員の心のケアにとっても重要であり、避難場所での青空教室のような授業であっても、教育活動として積極的に実施することが大切と思われる。

授業再開後 1.授業再開に必要な資源の確保と工夫

 早期に、落着いた環境で授業を再開することは、教職員や児童生徒・保護者の精神的安定を取り戻すことになるが、教室や遊び場、運動場など一定の教育環境水準を確保することが望ましい。

 限られた環境条件や資源を創意工夫して授業することが求められるが、被災の程度により、教材や備品の支援も必要である。

2.継続的な心のケア活動の実施

(1) 経過観察、継続的な健康・ストレス調査の実施

   症状の現われ方は様々であり、時間が経過してから新たに症状を訴える場合もある。子供ひとり一人のわずかな変化を見逃さないよう観察し、定期的な健康調査を実施する。

 避難所や仮設校舎などの生活環境の中では、ストレスが溜まりやすく、トラブルが発生しやすい。

(2) ストレスマネジメント訓練の実施と予防活動

   ストレスマネジメント訓練の継続は、身体機能の回復と自己コントロール力を高め、ストレス耐性を向上させる。

(3) 教育相談活動による個別フォロー

   生活環境ストレスへの対処を含め、症状に応じた個別のケアを実施する。

 外傷体験の影響が残るケースにおいても、本人の性格的要因や生活環境の要因などが複合的に関係しているケースがあり、このような要因をじっくり解決していくことが必要となる。PTSDの問題に限らず、精神的なフォローが必要な子供や家族も多く、教育相談によるフォローが必要である。

3.職場のチームワークや職場のメンタルヘルスに配慮すること

 被災した困難な状況を乗り越え、復興作業を進めるには、教職員相互の支えやチームワークが重要である。教職員が被害者である場合もあり、自らが困難な状況からの回復の方法を学び実践する機会でもある。管理者は、教職員の気持ちを支え、ともに困難を乗り切ろうとする姿勢が必要である。また、長期間に渡る復興作業やケア活動が必要とされるため、適切な休養や労苦をねぎらうなどの配慮が必要である。

4.長期的なケア活動体制の構築

 震災のストレスケアは、早急に対応することと、そのケア活動を長期に継続することが求められる。
 教職員研修、情報交換会を適宜開催し、専門家と教職員間の情報の共有化を図る。また、チェックリストや面談結果などの情報に基づき、子供の継続的な変化がフォローできるようにシステムづくりを行う。

5.被災地以外へ転出した子供の支援

 被災地以外へ転出した子供に対し、受け入れ校や支援機関と連携をとり、心のケアについて支援する。
6.被災後の活動を総括し、危機管理体制の見直しを行う

 関係した様々な立場の人々の被災体験や行動を振り返るとともに、活動全体を反省し、危機管理体制の見直しを行う。新たな危機管理体制の整備は、学校システムへの信頼感を回復する作業である。

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